鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

101 / 144
アフターストーリー
番外編二十一話 北桜同盟最大の危機


 鉄血の英雄、ヴァイスクレー・ヘルブストは頭を抱えていた。彼が指揮官となって以来様々な苦難が自業自得な要因も含めて幾度となく暴風の様に襲い掛かってきた訳だが、今回も例外ではなく。彼の前に立ち塞がった問題は彼にとって非常に厳しい物であった。

 

「その話って本当なんですか…?」

 

 

 震えるように自身の上司である女傑、ビスマルクに話しかけるが彼女は首を縦にふる。現実を受け入れろ、逃げるな、受け入れた上で立ち向かえ、そんな彼女の無言の言葉が指揮官の言葉を抉っていく。

 

 

「事実よ……貴方は間違いなく歴史に名が残るでしょう。だからそれを受け取りなさい。軍上層部から貴方へのボーナスだと思ってね?」

 

 ビスマルクは嘆息を漏らしながら指揮官の目の前のアタッシュケースを見つめると、その中にはぎっしりと札束が詰められていた。恐らく総額を数えれば彼が後四十年近く、任期満了まで軍に勤務してなお届かない額だろう。

 

 

 指揮官という職種は数百万人に一人とされるキューブ適正者でありつつ、更に訓練を受けた人物でしかなれない職種であるが為に少なくはない特別手当が支給されているとはいえ、そうだとしても数十年は遊んで暮らせる札束が目の間に存在しているというのはあまりにも異常で、現実感が無い光景だった。

 

「貴方もあの子達とケッコンしたのだからお金は必要でしょう?寄付や譲渡は認めないわ、黙って貰っておきなさい」

 

 ビスマルクにしては珍しく有無を言わさない口調でそう言い放つと彼は項垂れてため息をつくと肩を落としながらアタッシュケースを受け取る。ずしりと重いそれは指揮官にとって責務と言う鎖のように重かった。

 

 

「戦後、マンジュウは世界中で活躍しているわ。ロイヤルは例外として今はコストの問題もあって少数の試験運用が精一杯だけど……その内量産体制に移行する筈よ」

 

 ビスマルクはそう語りながら、未だにポーカーフェイスが得意な指揮官とは思えない程に複雑な表情である彼にそう語りかける。一度説明した事項を改めて口にするのは、まるで生徒に念入りに説明を行う教師のようだ。

 

「各国からのマンジュウの使用感についてレポートが送られてきてるけど、概ね高評価と言っていいわ。貴方はその責務を果たしたといえるでしょう。今、この世界に存在する全てのマンジュウは貴方の基地で働いていたマンジュウ達と同じ思考回路になっているのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界中を飛び回っていたが為に忘れがちになるが、そもそも、俺が基地司令を務めるキール第三基地の主要任務はヒヨコ型労働用ロボットであるマンジュウの育成や観察だ。セイレーンの技術を解析した結果産まれた学習型AIを保有している彼らマンジュウは、俺がこの基地に着任してから今に至るまで、この瞬間も日夜成長していると言えるだろう。

 

 だが、ある意味ではそれが問題だったのだ。学習型AIを持つマンジュウは忠実な労働力であると同時に、無垢な赤子と同義と言えるだろう。例えば殺人のみをマンジュウ達に強要していれば、その行動は洗練され最悪の殺人ヒヨコが完成しただろうし、逆に今に至るまで料理だけを学ばせ続けてきたマンジュウは一流の料理人として育った事であろう。

 

 そう、マンジュウは環境に染まりやすいのだ。ではこのキール第三基地で勤務をしていたマンジュウ達が最も自身の行動の規範として誰を見続けていたのかと言えば……。

 

「まさか、私も予想外だったわ……貴方を上司として慕い過ぎたマンジュウ達は全ての個体が貴方を主として認め、そして貴方に染まっていった結果……」

 

 

 

 ────マンジュウ達の人格は全て、貴方をモデルにした物になるだなんて。

 

 

 沈黙が室内を支配する。ヒッパーはかつてマンジュウ達は俺に懐いている。物やロボ扱いせずに部下としてアンタが接したからこそ、忠誠を誓ってくれていると言っていた事があるが……彼らの忠誠心は俺達の予想を超えていた。

 

 確かに俺はマンジュウ達に出来る限り優しく接する様に心がけてきた。彼らは確かにロボではあるが学習型AIを持っているのだから人格だって存在するし、心だって存在するはず。そんな彼らを物扱いするなんて出来るはずもなく、出来る限り彼らとのコミュニケーションを取るようにはしてきた。

 

 その努力はある意味報われたと言えるだろう。あの基地に所属する全てのマンジュウは俺に忠誠を誓ってくれたのだが、同時に俺を理想の上司として行動の規範に定めた結果。どんどん性格や行動が俺に染まっていき……ビスマルクさんが気がついた頃には全ての饅頭がいわば俺の性格、人格をコピーしたものになっていた。

 

 

 最初は謝罪した。それはもう謝罪した。土下座する勢いで謝罪を行った。というか土下座をしながら謝った。

 

 

 知らなかったとは言え国家の最高機密と言えるマンジュウ達が全部俺のコピーになっていたなんて悪夢以外の何者でも無い。正直やっと始まった新婚生活が早々に幕を閉じるのでは無いか?とビクビクしながらも、責任を取る為にビスマルクさんからの呼び出しに応じた結果が現在だ。

 

 

 だが、ビスマルクさんは怒らなかった。それどころかアタッシュケースにぎっちりと収めた莫大な大金を無造作に手渡すと、これからも鉄血の為に尽くしなさいと言ってくれた。吊るされる覚悟で向かった先で寛大や甘々を通り越した対応を受けてしまうだなんて混乱以外の何物でもない。

 

 

「今回程では無いけれど、今後も貴方にはこうして特別手当を支給するわ。その代わり貴方は鉄血軍人として生涯マンジュウ達の観察・調査だけではなく、今後は指導役としての責務を果たす事になると思うけど、大丈夫かしら?」

 

「りょ、了解です!」

 

 有無を言わせない上司からの問いに俺は頷くしかない。こうして俺は本当に大丈夫なのか?と思いつつ、生涯をかけてマンジュウの指導役という仕事を今後も続けていく事になり。

 

 

 同時に……今後、マンジュウ達の性格に変化を与えないようにと結婚したシュペー達と生涯に渡り、共に鉄血軍人として働き続ける方が出来るという確約を得たのであった。

 

 

 

 ……いや本当大丈夫なのかな?あと、この金どうしようか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ヘルブストモデル

 

 現在ロイヤルなどの一部の国家を除いて世界中で労働力として重宝されているヒヨコ型自立労働用ロボットマンジュウ。彼らは現在我々の生活になくてはならない程に人類社会のパートナーとして生活に貢献しており。彼らを国営で集団機械化農場で働かせようと述べた北方連合の陣営代表であるkansen、ソビエツキー・ソユーズがまとめたマンジュウ運用レポートなどもあって、マンジュウの存在と黎明期による第一次産業による集中運用は一説によると世界から40%以上の餓死者を減らせたとも言われている(諸説あり)。

 

 我ら人類のパートナーであるマンジュウ達は非常に従順でありかつ人間的思考も備えている為様々な分野で活躍するようになった。農業はもちろんのこと畜産や林業にも従事し、また教育によりあらゆる知識を身につけた彼らはやがて人類の文明を更に発展させる大きな存在へとなっていくだろう。とはいえ一部国家や宗教団体などを中心に将来的なマンジュウによる人類に対するクーデターの恐れなども述べられており、今後も従順な奉仕者である彼らと我々は互いに理解を深める必要があると言わざる得ない。

 

 そして、マンジュウを述べるに辺り最も欠かせない事項と言えば、現在世界中で活躍するマンジュウ達はとある人物の人格を参考にした物になっているということだろう。その人物の名はヴァイスクレー・ヘルブスト。第一次世界大戦を終結に導いたレッドアクシズの英雄である彼はマンジュウ達と共にセイレーンやロイヤルネイビーと激闘を繰り広げた事実は有名ではあるが、彼の搭乗する指揮艦には常にマンジュウが乗り込み、共に彼の偉業を手助けしていたと言われている。

 

 

 そして、そんな彼を主と仰ぎ、共に基地で生活を続けていたマンジュウ達は不思議といつしか彼を模倣したかのような性格や行動理念を持つ事となり、その性格を受け継いだマンジュウ達が量産された結果、彼の人格を模倣したマンジュウ達はヘルブストモデルとまで呼ばれるようになる。

 

 

 いや、それは必然だったのかもしれない。ヴァイスクレー・ヘルブストという人物は常にマンジュウを奴隷や消耗品ではなく一匹一匹を同胞として扱っていたとされており、そんな彼を見てマンジュウ達も彼を尊敬し、敬っていたのだからその行動規範を見習うのも当然なのだろう。

 

 それでは、ヘルブストモデルのマンジュウ達が何故高く評価されているのか?それは彼らが最も『労働力』としては好ましい性格をしている事に他ならない。黎明期のマンジュウ達は仕事を嫌がりサボる個体や、仕事のミスを怒られる事を恐れて報告しない個体なども存在しており、一説によると砂糖と媚薬を倉庫整理の際に間違えて振る舞ったなんてジョークの様な事例も存在していた。

 

 しかし、ヴァイスクレー・ヘルブストの影響を受け、人格を徐々に彼に近づけていったマンジュウ達はそれ以外のマンジュウ達と比べても明らかに勤勉な性格をしており、どんな状況においても文句ひとつ言うこと無く与えられた任務を全うしようとする傾向があった。

 

 機転が効き、常に情報収集を怠らなかった『英雄』の性格を受け継いだ結果。マンジュウ達は常時人の心を読み取り、周りの人間達の機嫌を伺うようになり、その変化に敏感になった事で何か不測の事態が起こった時にいち早く対応出来るようにもなっていったのだ。

 

 滅私奉公の精神だけではなく『空気』を読む為に慎重な行動を心がけようとする様は、彼らを労働力として最高の人材へと昇華させたと言えるだろう。

 

 ちなみに余談であるが、そんな忠実なヘルブストモデルのマンジュウ達は常に忠誠を美徳とし、空気を読んでの行動を心がけている様子ではあるが、とある海難事故の際には、上司への報告なども無視して真っ先に人命救助の為に全てのマンジュウが海に投げ出された人を救う為に、その身を海へ投げ出したといった逸話が存在しており。

 

 そんな素早い勇気ある行動によって、多くの人命を救う事に繋がった事を明記しておこう。労働者として、そして人として模範的であると断言できる彼の人格データを元に生成されたマンジュウ達は、今日も日夜、人類社会を支える為に労働に従事し続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北方連合と重桜。この本来交わることのない二つの大国は近年世界中から注目されつつある関係と言えるだろう。

 

 共産主義国家である北方連合と宗教国家である重桜は歴史的にもソリが合わず、三十年以上にも渡りその今回は断絶状態に近かった。革命によって王族を追放し、共産主義という一つのイデオロギーの名の下に国家をまとめあげる。その為に国内の宗教勢力の弾圧と粛清を行った北方連合に彼らの信仰とは異なる神を崇めてたとは言え重桜は激怒し、その関係は冬の寒さよりも冷たくなっていた。

 

 しかし、その状況はある日突然国際社会からの大きな驚きと共にひっくり返ってしまった。それまで敵対関係にあった両国であったが、ある日突然同盟を結ぶこととなったのだ。

 

 

 後に極東情勢は複雑怪奇とエウロパ大陸中の国家からイデオロギーの違いにより早急に破綻すると思われていたこの二カ国は、その後も極東クルジス・エルサレム共和国の建国支援宣言や、サディア帝国からのエリトリアの買取りからのエチオピア帝国への譲渡。オスマン帝国との技術支援と同盟、更にレッドアクシズとの単独和平など常に世界中を驚かせるような出来事を起こし続けた。

 

 

 言うまでもなくその中心人物であったkansen、それぞれの陣営代表たる長門とソビエツキー・ソユーズの発言力が日に日に強くなっていくことは当然の帰結であった。敗戦の結果その責任を取る為に、あらゆる制限を受け入れざる得なかったロイヤル陣営kansen達と比べ、北方連合と重桜のkansen達は更なる尊敬と地位を得る事になったのだが、地位と権力には責任を伴う事も常々。今日も両国のkansen達は胃を痛めながら激務に励むのであった。

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

「ソユーズよ……お主も大変であるな……」

 

 

 ここは重桜の古都たるキョウト。一年中鮮やかな桜の花が咲くと言われる場所であり、古き時代から重桜文化の発信地でもある街は今も尚伝統文化が脈々と受け継がれており、その街並みもどこか古風で落ち着いた雰囲気を持っている。

 

 そんな街の郊外に位置する大きな武家屋敷。かつては維新を遂げた重鎮達の会合の場となっていたその建物は今は外交上の話し合いを行う際にも使用され、また様々な会議も行われる為に使われる建物となっている。

 

 その屋敷にある客間にて、巫女服のような衣服を纏った美しい黒髪を持つ幼い少女の見た目をした重桜の陣営代表である長門は、白を基調とした軍服に身を包んだ白髪の美女たる北方連合の陣営代表、ソビエツキー・ソユーズにその疲れを労う言葉を投げかける。

 

 言葉を受けたソユーズもまた苦笑を行おうとするがストレスや疲れからかその表情が強張るばかりで上手く笑う事が出来ないようで、そんな様子の彼女に気が付いた彼女は慌てて口を開く。

 

 

「無理をするでないぞ、その様な作り笑いなぞ見せはくても良い」

 

「いえ、そういうわけでは……はぁ。申し訳ございません。少し、母国の現状に思う所がありまして」

 

 

 

 そう言って深呼吸を繰り返す彼女だったが、それでも彼女の心の内にある疲労は癒えることは無い様だった。対外的には冷徹なクールビューティーと評価されている事が多いソビエツキー・ソユーズであるが、その内面は極めて真面目かつ実直、それでいて抱え込みやすい苦労性な性格をしていた事を知る人間は意外と少なく、恐らく彼女の姉妹にすら中々見せない弱々しい姿を見せている事に長門は眉根を寄せてしまう。

 

 それだけソユーズが自身に信頼を寄せ、内面を曝け出しても良いと心を開いている事実に胸が熱くなる反面、それだけ彼女が……いや、ソユーズだけではなく恐らく全ての陣営代表が直面している悩ましい問題に対して長門も頭を悩ませざるを得ない。

 

 

「私は……同志たるkansenや指揮官達を信頼していました」

 

 

 ポツリ、ポツリとソユーズは温かな緑茶の入った湯飲みを手に持ちつつ話し始める。

 

 

 

 合間合間に喉を潤すが苦味が強いのか顔を歪めている姿は何処か小動物的な愛らしさがあるが、今はそれを微笑ましく見る事は出来ず、長門はその真剣な眼差しから目を離す事は無かった。

 

 

「祖国と民を守る為に……同志達が命懸けで戦ってくれた事も理解しています。今でこそ同盟国である貴方達重桜が積極的に援軍を出してくれていますが、それまで彼等は常にギリギリのラインを保って戦線を支え続けてくれました。その献身に応えるべく、我が国はより一層軍備の拡張と生産の強化を行ってきました。それこそが祖国と同胞の幸せの為に必要な行為だと今でも信じて疑いません……」

 

 共産主義という世界から異物と認識されたイデオロギーを辛抱するソユーズは、正にkansenのしてこの世に生を受けてからと言うものの、同志たる共産主義を辛抱する仲間達を想いその精神と誇りを胸に生き続けてきた。

 

 冷徹な言動は全て同志達の為に。冷たい眼差しは全て祖国の未来を見据えるが故に。そして厳しい訓練の日々はいつ如何なる時に祖国と民の窮状が訪れようと対応できるように、全ては祖国と人民、同胞、友人、そして何よりも蒼き航路をセイレーンから人類の手から取り戻すと言うアズールレーンの根底たる思想を胸に彼女は戦い続けてきた。

 

 

 それはまるで信仰を形にしたような人生であり、そんな彼女だからこそ同志たるコミュニストの面々は彼女の期待に応え続け、共に祖国を守り続けるために戦い続けた。だからこそ彼女は終戦の日を迎えた瞬間、静かに涙を流して喜んでいたのだ。

 

 

 これで陣営同士で争うことも無ければ、同胞同士が争い合うこともないと。誰よりも人民を愛し、また人民から愛されたソユーズが見せた涙を長門は生涯忘れる事はなく、だからこそ異なったイデオロギーや宗教を信奉しつつも個人としてはソユーズを一人の友人として全幅の信頼を寄せるに至っている。

 

 

「ですが……」

 

 

 しかし、その言葉と共に彼女の瞳が曇り始める。

 

 

 

 

「幸せになる事事態は否定はしませんが、もう少しだけ自重して欲しかったですね。なぜ彼らは一斉に、示し合わせたかの様に……」

 

 

 

「子作りを、してしまったのだろうな……」

 

 

 

 言葉を引き継ぐ長門にソユーズは深いため息をつかざる得ない。kansenと指揮官が部隊となって戦うにつれて男女として深い関係となる事は決して珍しくはない。戦いという極限状態の中で生まれる恋心。その事を二人は否定する事なく、寧ろソユーズ個人としてもパーミャチ・メルクーリヤと指揮官との関係も含め、kansenと人間という垣根を越えて結ばれた同志を祝福してきた。

 

 

 

「確かに、私達は恋愛や婚姻を推奨しました。その気持ちを否定する気は一切ありません。でも……限度があるでしょう!?」

 

 

 ソユーズが頭を抱えるように声を荒げる。だが、その数が問題だったのだ。全陣営間との戦争が終結し、数ヶ月後。長門やソユーズの元には申し訳なさそうなカップル達が次々に謝罪に訪れてこう口にしたのだ。

 

 

────赤ちゃん、デキちゃいましたと。

 

 

「この一週間で3件……いや昨日も含めると4件となりますね。たった一週間で主力艦クラスも含めたkansen達が妊娠検査薬を片手に駆け込んでくるなど異常すぎます……!」

 

 

 緑茶をヤケ酒の様に煽るソビエツキー・ソユーズの姿はもうどうにでもなーれと言わんばかりに自棄になっているようだったが、無理もないと長門も内心では同情していた。

 

 

 kansenは人間との間に子供を作る事が出来る。キューブから生み出された擬似生命体である長門達kansenは人の姿をしていながら、兵器として最適化された身体構造や性能を持ち合わせており、さまざまな面で常人とはかけ離れた特徴をその身体に宿している。

 

 

 そんな兵器としての側面を持つ彼女達kansenが妊娠という機能を持っている事実はある意味では奇跡と呼べるのではないか?と長門は苦笑する。愛する人の子を孕み、母親として生きる道が我々にも存在する事に自身の信仰する『カミ』に感謝の祈りを捧げつつも、陣営代表としてはソユーズ程ではないが長門もため息を吐かざる得なかった。

 

 

 成程、妊娠をするのは結構だ。最早人類間で争わなくてもいいという安心感と、気の緩みが愛する者と過ごす情熱的な夜に発展するという事実も長門は認めよう。だが、どいつもこいつもゴムを使おうという考えは無かったのだろうか?そう考えるだけで頭が痛くなってくる。

 

 

 揃いも揃ってハメを外して生でやった結果、身籠ったとの報告を何度も受けるたびに、最初は祝福をしていた長門とソユーズの雲行きも変わっていった。妊娠してしまったkansenは当然だが最前線から離脱し、後方で療養に入る事になるのだが、それは言い方を変えれば貴重な……愛する指揮官と深い絆で結ばれる程に激戦を共に潜り抜けてきたベテランのkansenが戦線を離脱する事に他ならない。

 

 後に第一次ベビーブームと呼ばれる事になったこの終戦直後の妊娠報告は冗談など抜きに各国の軍で深刻な社会問題として扱われ、ゴタゴタの続くロイヤル以外の陣営代表が揃いも揃って大問題だと口々に呟いていたのだから、それはもう深刻な問題として受け入れられていたのだ。

 

 

「我が重桜では7件、妊娠したとの報告があった……その内龍鳳、大鳳、比叡といった軍の要たる主力艦であり、特別計画艦の伊吹と北風まで妊娠したというのが……」

 

「私の艦隊では先日、貴方達の技術支援もありようやく訓練を終えた空母ヴォルガが訓練期間中に配属予定の指揮官と甘い夜を過ごしていたと暴露……いや、惚気ながら教えてくれましたよ…配属される前に妊娠して後方に下がった空母だなんて前代未聞です…」

 

 

 二人は深い深い溜め息をつき、同時に机へと突っ伏す。彼らの陣営にはまだまだ仲睦まじい指揮官とkansenが多数存在しており、恐らく妊娠報告も今後増えていく事であろう。そんな状況下において、彼女達の悩みが尽きる事は決してないだろう。

 

 そんな絶望に打ちひしがれる二人の元へノック音が響き渡る。一体誰なのかと、重い腰を上げて部屋のドアを開けた二人の視界に飛び込んできたのは、長門が最も信頼するkansenの一人である従者江風だ。いつもは冷徹で鋭利な刀を思わせる瞳で周囲を警戒し、長門を護衛する姿に隙など一切ない。

 

 

 その筈なのに、彼女は今や顔を赤らめつつ、どこかモジモジとした様子で立っていた。まるで恋する乙女の様なその姿に、二人は嫌な予感を感じざる得ない。

 

 

「あ、あの……」

 

 何かあったのかと二人が尋ねようとした瞬間、江風は覚悟を決めた表情で、長門に土下座をしながら震える声で自身の主に報告する。

 

 

「も、申し訳ございません長門様……その、恥ずかしながら……」

 

 

 

 ────赤子を、身籠もってしまいました。

 

 

 

 

 そう言いながら陽性反応となっている妊娠検査薬を取り出した江風が、自身がどの様にして指揮官候補生の青年との間に赤子を身籠もったのか?と乙女の恥らいと共に語り始める。その言葉に思わず二人は頭を抱えざる得なかった。

 

 

「……はぁ」

 

「……はっ」

 

 

 江風の話を一通り聞いた後、長門とソユーズは互いに目配せをしてアイコンタクトを取り合いながら深く溜め息を吐く。

 

 

 

 その後、両陣営の陣営代表が最近風紀が乱れている、頼むから少しはコンドームを使ってくれと疲れた様子で多くの部下達の前で演説をする羽目になったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

・第一次kansenベビーブーム

 

 第一次世界大戦が終結し、ひとまずは恨みや憎悪という名の矛を収めて人類種の敵であるセイレーンとの戦いに集中する為に手を取り合う事を望んだ各国であったが、鉄血とロイヤルの講話が成立して1ヶ月もすれば一つの問題に直面する。それは世界各国の指揮官やkansen達が次々と同時多発的に終戦記念だからと性行為を楽しみまくり、結果その多くは身籠もってしまったという報告であった。

 

 現在でこそジョークの類いであると語られるこのベビーブームであるが、当時の陣営代表達の手記には愚痴や嘆きが刻まれており、それらの問題に立ち向かう為に多くの陣営代表が一度顔を合わせて対策会議を行なっていたのだから冗談では済まされない問題であったと言えるだろう。

 

 このベビーブームの結果、各国の指揮官の実に70%以上が一斉に恋愛関係であるkansen達を孕ませたというデータが出てしまい、身籠もったkansen達は全員戦線から離れてしまうという事が頻発化してしまったのだ。

 

 特に問題であった国は重桜と北方連合であり、かの国では人間との婚姻を結んだ指揮官を除くほぼ全ての指揮官がkansenを孕ませ、その多くが戦線の要であった主力艦や特別計画艦であったのだから、一説によるとこのベビーブームによって、謹慎中のロイヤルを除く全てのkansenを保有する国家の防衛力は平均20%、北桜同盟に至っては海上戦力は一年近くの間、最高40%以上もダウンしたという記録が残されており、北桜同盟最大の危機として現在でも語り継がれている程だ。

 

 

 現在でもソビエツキー・ソユーズと長門がコンドームを片手に指揮官達に避妊をしろと憔悴した様子で語っている映像がアーカイブに残されており、皮肉な事に、それらの出来事が後に、重桜が世界的なコンドーム製造シェアに争いに躍り出る事に繋がるきっかけとなるのだが、それはまた別の話である。





・ヘルブストモデル

 戦後、ヒヨコ型労働用ロボットであるマンジュウがロイヤル以外の世界で次々と活躍する事になるのですが、その後調査の結果全てのマンジュウがあのヘルブスト指揮官を見習って似たような性格になっていたと判明する事に。ある意味では100話近くかけた作品内での彼の努力が報われた形となるのですが、その結果指揮官が自分の人格をコピーしたマンジュウが世界で活躍する事を知って頭を抱えたのは言うまでもないでしょう。

 とはいえ指揮官は度々軍人としては失格ではないか?という一面を見せていたのですが、労働用のロボットに植え付ける為の人格としてはかなり理想的な性格だったようで……結果、鉄血上層部は彼に莫大なボーナスを与えると同時に終了する筈であったマンジュウ達の調査、観察だけではなく教育と言う新たな任務を与える事に繋がるのでした。

 なおヘルブストモデルのマンジュウ達は、人命の危機にはかなり敏感なようで、半ば命令を無視した素早い人命救助によって海難事故の際に多くの人々の命が救われる事に繋がり、素晴らしい人格の持ち主であると指揮官は称賛を受ける事になったのですが、指揮官とその周囲の面々はそれはもう微妙な顔をしていたそうな。


・第一次ベビーブーム

 示し合わせた様に戦後、指揮官達がkansen達と肉体関係となり、その結果終戦を迎えて数ヶ月もすると陣営代表が緊急会議を開かざる得なくなる程の深刻な問題となった出来事。特に北方連合と重桜は深刻だったそうで……ちなみにメルクーリヤも愛する指揮官との間に二人目の赤ちゃんを身籠ったとソユーズに告げており、サディア滞在は実質新婚旅行のプレゼントであったとはいえハメを外して中出しし過ぎだとソユーズがゲンナリした顔になってしまうのでした。

 余談ですが、何気に北方連合の陣営代表が当たり前の様にキョウトに滞在しているという事実は何気に凄い出来事だったり。今後もソユーズと長門は互いの国を行き来しながら愚痴を溢しつつ、同じ目線となれる友人としての付き合いを継続していくでしょう。


 次回はグラーフ・ツェッペリンと指揮官の初夜の後に、いよいよ指揮官が戦後のサディアに。果たしてヴェネトと指揮官の関係は……


 コメント、感想、評価をお待ちしております。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。