鉄血の旗の元に《本編完結》   作:kiakia

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番外編二十四話 ガラスの様な心に救いを

 

 

 アルコールの匂いが充満しディアンドルを着た店員達がビールのジャッキを片手に「いらっしゃーい! お一人様ぁ?」「ビールの注文一つ!」などと威勢の良い声を上げている酒場にて、一人の青年は頭を悩ませていた。

 

「シュペー…シュペぇぇ…なんであのバカの所に嫁いだのよぉ…!」

 

 銀髪と赤のメッシュ入りの黒髪ロングヘアーの美少女が明らかに酒に酔っている様子でテーブルの上に突っ伏しており、その顔は耳まで真っ赤に染まり、瞳は涙を浮かべてうるうると潤んでいる。普段の獣のような鋭い目つきと口角の上がった笑みは何処へやら、童顔な見た目相応の少女らしい弱々しい表情になっている。

 

 

「ほ、ほら!ドイッチュラントさん!酔い過ぎですからもうその辺にして帰りましょ?ね?」

 

「うっさいわよぉこの下等生物うぅ…!うぅ…妹が居ないアンタにはわたしの気持ちなんて分からないでしょうねぇ…!」

 

「い、いや!俺には妹が一人居て…」

 

「だったらわたしの気持ちも分かりなさいよぉ!この下等生物ぅぅ!!」

 

(うっわ面倒くせぇ…)

 

 

 

 店員や周囲の客はそれはもう厄介な酔い方をしながらやけ酒を繰り返す少女、ドイッチュラントに遠巻きに見ながら、そんな彼女の介抱を甲斐甲斐しくしている若い青年に同情の視線を向けている。

 

 

 彼女がここまで荒れている理由は単純に言ってしまえば、最愛の妹であるアドミラル・シュペーが恋愛結婚によってドイッチュラントの元から離れてしまったのが原因であった。

 

 シスコンであるドイッチュラントはシュペーの結婚を微塵も認めていなかった。彼女の結婚相手は戦争終結の立役者となった正に『英雄』としか言いようがない人物であり、その癖、性格的にも(表向きは)温厚で礼儀正しく、ドイッチュラントがいくら無礼な態度で挑発してもニコニコと笑顔で対応していた。

 

 少しでもシュペーの夫となる人物に否があるのなら重箱の隅を突くように責める事が出来るのだが、余りにも隙が無かったのである。仕事も、功績も、人間性も、何もかもがシュペーをこの男になら任せても良いと思わず思ってしまう程であり、理性ではそう判断してもドシスコンであるドイッチュラントの感情は納得出来ない。

 

 そして何よりも、シュペーは夫を愛していた。妹が洗脳や催眠や脅迫ではなく心の底から絆を育み、もはやドイッチュラントですら入る隙間が無いほどに夫婦としての愛を築き上げた事がドイッチュラントにとって致命的だったのだ。

 

 

「うっぐ……シュペーぃ……!なんでよぉぉ……!!なんであんな奴と結婚なんかしたのよぉぉ……!うわあああんん!!!」

 

 最早彼女の高慢とすら言えるプライドは完全に崩れ去り、完全に泣き上戸となっている彼女は子供のように大声で泣くばかり。シスコンを拗らせすぎた結果、妹離れが出来なくなってしまったドイッチュラントは今はこうして涙を流すしかないのだ。

 

 

「……あのさぁ」

 

「え?あ、はい……なんですか?」

 

 

 不意に声をかけられた青年はその声の主へと振り返ると、そこには不機嫌そうな表情の店主が耳元で小さく囁いた。

 

 

「いい加減迷惑だから、この子を連れて帰ってくれないかな?お代は結構。出禁にもしないけど、次飲みに来る時はヤケ酒で叫ぶのはやめてくれよ?」

 

「……分かりました」

 

 

 困ったような表情を浮かべた青年は涙を流すドイッチュラントを抱きかかえると、そのまま酒場を出て行く。その後ろ姿を見送った酒場の店主は呆れたように溜息をつくと、グラスを拭き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅ、頭痛い……ここは……?」

 

 

 ガンガンと痛む頭を押さえながらゆっくりと身体を起こしたドイッチュラントだったが、自分が今居る場所が全く見知らぬ場所である事に気が付く。

 

 

(あれ……わたし何をして……確か酒場に行って……あっ……)

 

 

 徐々に思い出していく記憶の中で自分の醜態を思い出した彼女は慌てて周囲を見回す。だが、アルコールが抜け切っていないのか視界がふらつき、頭痛もまだ治まらない。

 

 

「うー……もう最悪……」

 

「あぁ、起きたんですね。お水でもどうぞ」

 

 

 

 不意に横から差し出された水の注がれたコップを受け取ると、ドイッチュラントは無言のまま一気に中身を飲み干す。冷たく冷え切った水が熱を帯びた体内に入り込み、その心地よさに思わずほぅっと吐息を漏らす。

 

 

「……ここは何処なのよ」

 

「ホテルですよ。軍に車で迎えに行って貰おうとしましたけどこんな夜中ですし、そのまま引きずって帰るのも大変そうでしたから」

 

 不機嫌なドイッチュラントに睨まれながらも、青年は優しい声音で答える。彼が言う通り、今の時刻は既に午前一時を過ぎており、私的な要員で軍に迎えに来てもらうのも気が引けるのも事実だろう。

 

 同時にドイッチュラントはホテルという発言にしばしの間無言になるが、やがて飲み干したコップを思い切り青年に投げつけようとして慌てて青年は彼女の手を掴む。

 

「ほ、ホテルですってぇ!?アンタわたしが寝てる間に何か卑猥な事をしようとか考えてたんじゃないでしょうね!」

 

「いやいや!そんな事するわけないでしょ!?」

 

 

 怒り心頭のドイッチュラントに対して青年は必死に弁解を続けるが、それがかえって火に油を注いでいる事に彼は気が付いていない。顔を真っ赤にして怒るドイッチュラントに困惑しつつも、何とか誤解を解こうと必死になる。

 

 

「誓って!誓ってドイッチュラントさんには手を出してませんから!背負ってここまで運んだ後、起きるまで待ってましたけど起きたのなら今すぐ違う部屋に帰りますから!安心してください!」

 

「へぇ…このドイッチュラント様がそこまで魅力がないと?下等生物にとってわたしは路傍の石以下だとそう言いたいのねぇ?」

 

「い、いやそういう訳じゃなくてですね……」

 

 

 ギロリと青年を睨みつける彼女の瞳からははっきりとした殺意が感じられる。先程までの酔いはすっかり覚めた様子の彼女に冷や汗を流しつつも、青年は必死に弁明を繰り返す。

 

 

 はっきりいってドイッチュラントの態度は、面倒臭いを通り越してウザいと断言出来るレベルなのだが、青年はドイッチュラントを何度も説得し、それとなく彼女を褒めて自尊心を満たそうと言葉を繰り返し、やがてドイッチュラントは不機嫌ではあるがなんとか納得してくれたようだ。

 

 

「ふんっ……まぁいいわ。勝手にホテルに連れ込んだのは、本来海の底に沈めてやりたいくらいだけど、今回は特別に許してあげるわ。私の寛容さに感謝なさい下等生物」

 

「……それはありがとうございます」

 

 

 

 結局彼女のご機嫌取りにかなりの時間を費やしてしまったものの、それでもどうにかドイッチュラントの意識が覚醒しているうちに話を終わらせる事が出来た事に安堵しつつ、彼は約束通り別室に向かおうとするのだが、ドイッチュラントは彼の手を掴んで離さない。

 

 

「あの……どうかしました?」

 

「……さい」

 

「え?」

 

「しばらくこの高貴なるドイッチュラント様と一緒に居なさい!一人にするなって言ってんのよ、この下等生物!」

 

 

 

 未だフンっ!と鼻を鳴らし機嫌はナナメのドイッチュラントだったが、青年は仕方ないと諦めるとそのまま彼女とベッドに並んで腰かける。

 

 

 ドイッチュラントの手は小柄な少女らしくかなり小さめであり、指もほっそりとしている。だがその手はとても柔らかく、まるで白魚のような美しい肌をしていた。伝わってくる熱もとても温かく、青年は緊張しながらもドイッチュラントの横顔を見つめていた。

 

 

(綺麗だな……)

 

 

 端正な美貌を持つドイッチュラントの顔立ちは非常に整っており、男であれば誰しもが見惚れてしまう程の美しさを持っている。普段は高慢な態度と高圧的な言動が目立つ彼女ではあったが、こうして静かに座っている姿を見ると改めて彼女は美人であると実感してしまうのだ。

 

 

(惚れた弱みってやつなのかな……)

 

 

 普段のドイッチュラントは傲慢で我が強く、他人を見下すような発言が多い。だがこうして静かな表情を浮かべている彼女はいつもよりも大人びた雰囲気を感じさせ、思わずドキッとしてしまう。

 

 だからこそ、青年は彼女を見捨てる事が出来ないのだ。どれ程罵声を浴びせられ、どれ程下等生物と煽られても既に青年は彼女の虜になっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年は鉄血海軍の指揮官……ではなく指揮官候補生として日夜勉学に励んでいる半人前と呼べる存在だ。キューブ適正はあれど指揮官としての実務を経験するためには数年単位の研修が必要であり、今はその準備期間という事になる。彼自身の成績としては可もなく不可もないといったところだろうか。

 

 そんな指揮官としては半人前の彼が何故ドイッチュラントとの交流があるのかと言えば、全ては一目惚れが原因だ。ある日いつもの様に彼が勉学を終え、用意された宿舎に帰ろうとした時だった。人気のない夜の港で、ドイッチュラントはぼんやりと海面を眺めながら佇んでいた。

 

 

 

 月明かりに照らされたその姿は幻想的で美しく、それでいてどこか寂しげな雰囲気を感じさせる。まるで今にも海に溶け込み消えてしまいそうな程に頼りなげな様子に、思わず青年は声をかけずにはいられなかった。

 

 最初は邪険に扱われた。泣き跡が残った目元を見られた事もあってか、ドイッチュラントは青年に対して敵意を隠すことなく睨みつけてきた。失せなさい下等生物と暴言を吐かれ、しかし、青年も負けじと言い返す。貴方が何に苦しんでいるかは知らないけど、放っておけないと。

 

 

 するとドイッチュラントはますます怒りだし、ついには彼を罵倒し始めた。そして、そのまま感情に任せて殴りかかろうとしてきたところで、色々と溢れるものがあったのだろう。殴ろうとした手は震え、瞳からは大粒の涙が溢れ出し、やがてその場に崩れ落ちてしまった。

 

 そんなドイッチュラントを放っておく事は出来ず、結局彼女を部屋まで送り届け、それからというもの、青年は彼女に構うようになった。

 

 鬱陶しがられたり、怒鳴られたりと散々な目にあいながらもポツポツとドイッチュラントは青年に何故泣いていたのかという理由を口にする。

 

 

 

 

 あの鉄血公国ではもはや知らぬものは居ないであろう『英雄』が在籍する艦隊に所属をしていた自身の妹が、彼によってケッコン指輪を贈られたと。

 

 

 二人存在する妹の中一人は早く自立して植民地海軍に在籍した事もあり、残された妹であるアドミラル・シュペーを目に入れても可愛いほどに溺愛していたドイッチュラントにとって、その知らせは衝撃的であったようだ。

 

 ドイッチュラントは現在感情が極めて不安定であると言えるだろう。妹が嫁いだ事による孤独感に、非の打ち所がない『英雄』の元に嫁いだ事による別れさせる理由が見つからず、何よりもシュペーと『英雄』が愛し合えば愛し合う程に疎外感を覚え、日に日に精神が摩耗していく。

 

 もしもその事をシュペーや鉄血海軍に所属するkansen達に素直に伝えればまず間違いなく彼女達はドイッチュラントの相談相手となってくれたり、メンタルケア専門の軍医を紹介してくれた筈だ。だが、プライドの高いドイッチュラントはその悩みを誰にも相談する事が出来なかった。

 

 

 そしてついに限界を迎えたドイッチュラントの精神は崩壊を始め、自棄酒に溺れる日々が続いた。だがどれだけ酒を飲んでも酔いは一向に回らない。むしろ頭の中でぐるぐると嫌な考えばかり浮かんでしまい、眠れぬ夜が続く。

 

 そんな時、海を眺めればこのモヤモヤした感情も少しは収まるだろうと出歩いた際に出会ったのが指揮官候補生の青年である彼であり、いつのまにかドイッチュラントは本人は絶対に認めたがらないが、彼に自身の内面を吐き出すようになっていた。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 だがお互いに何も喋ることはなく、静かな時間が流れる。だが不思議とその沈黙は決して悪いものではなく、青年にとっては心地の良いものであった。

 

 

「ねぇ」

 

「はい?」

 

「どうしてアンタはわたしと一緒に居るわけ?」

 

 

 精神的に水を飲んで少しは安定したのか落ち着いた様子のドイッチュラントは、不意にそんな質問を投げかけてきた。

 

 

「面倒くさいでしょ?妹離れ出来ない姉とか、酒臭い女だって普通なら拘るメリットなんてないもの。関わるのは嫌って避けるはずじゃないの?」

 

 

 そう言って自嘲気味に笑うドイッチュラントは何処か儚げで、今にも消えてしまいそうなくらいに脆く見えた。だからだろうか、青年はつい彼女の手を掴んでしまった。

 

 

「ちょっ!?いきなり何を……」

 

 

 突然の事に驚くドイッチュラントだったが、青年はそのまま彼女を引き寄せると優しく抱きしめた。青年自身も、自分でもこんな行動に出るとは思っていなかったのだろう。心臓がバクバクと激しく鼓動を打ち鳴らしているのが分かる。

 

 

「な、なによ……離しなさい……!」

 

 

 抵抗しようとするドイッチュラントであったが、身体が強張っているのか上手く力が入らないのか、あるいは両方なのか。彼女は青年を引き剥がすことは出来ずされるがままになっている。

 

 

「惚れたからですよ」

 

 

「……はっ?」

 

「だから…!貴女の事が好きになったんです……!!」

 

 

 

 顔を真っ赤にしながら絞り出すように言った青年の言葉に、ドイッチュラントは一瞬呆気にとられる。

 

 

 しかし、すぐに言葉の意味を理解したようで、みるみると顔が赤く染まり始め、最終的には耳まで茹でダコのように紅潮してしまった。

 

 

「な、な、な、な、な、な、な、な、なぁああああっ!!?」

 

 

 今まで聞いたことのないような悲鳴を上げながらじたばたともがくドイッチュラント。しかし、青年の腕から抜け出す事ができず、ただひたすらに暴れまわる事しかできていなかった。

 

 

「なんでよ!?好きになる理由とか皆無じゃない!?あんたマゾヒストだったりする訳!?それともあれかしら、身体目的でヤリ捨てする気だったりしないでしょうね!!?」

 

「違います!いや確かに我ながら惚れた経緯的にマゾなのかも知れないですし貴方の体に欲情してるのも事実ですけど…ってあーもう!」

 

 

 

 青年は強く小柄なドイッチュラントの体を更に力強く抱き締める。その力強さに思わずドイッチュラントは息を呑んだ。

 

 

「最初は一目惚れですよ!初めて出会ったあの日ドイッチュラントさんに惚れてしまって!その後はシュペーさんについて誰にも相談出来ずに悩んでいる貴女を放っておけなくて!そうして貴女に下等生物って言われたり、偶に蹴られたりしても全く嫌いになれないんですよ!!むしろ、そんな風に構ってくれるのが嬉しくて仕方ないんですよ!!!」

 

 

 青年は恥ずかしさのあまり泣きそうになりながらも自分の気持ちをドイッチュラントにぶつける。

 

 

「嫌ならもう貴女の前には今後現れませんし、今夜の事を忘れてくれるなら貴女がシュペーさんと『あの指揮官』について悩んでるまでの間は俺が出来る限り貴女を支えます!でももう一度だけいいますね!!」

 

 

 ヤケ酒を喰らっていたドイッチュラントのケアをする為に彼はビールは殆ど飲んでいなかった。しかし、今だけはアルコールが体内に染み渡っていると思える程に頭が熱くなり、喉が焼け付くように痛む。それでも、青年は叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

「俺はドイッチュラントさんの事が好きです!!!愛しています!!!!」

 

 

 その叫びが、夜の闇に溶けていく。

 

 

 そして暫くの間静寂が訪れた後、ドイッチュラントはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 それは小さな声で、聞き逃してしまいそうなくらい弱々しい声ではあったが、青年の耳にはしっかりと届いていた。

 

 

 ドイッチュラントは小さく震えていた。

 

 

 まるで、何かを恐れるように。

 

 

 

「……アンタはわたしを見捨てないわよね?」

 

 

 ドイッチュラントの問いに、青年は何も言わずに強く彼女を抱き締める。

 

 

「アンタはわたしを離さないわよね!?アンタはわたしを一人ぼっちにはしないわよね!?」

 

 

「えぇ、絶対に」

 

 

「本当に!?約束してくれる!?」

 

 

「勿論」

 

 

「……そっか」

 

 

 ドイッチュラントはその言葉を聞いて安心したのか、静かに涙を流す。弱々しく青年の胸元に顔を埋め、服を強く握りしめながら嗚咽を上げる。

 

 その姿はいつもの高慢で不遜な態度からは想像も出来ない姿であり、同時にとても美しく見えた。

だからこそ、青年はより一層ドイッチュラントを愛しいと思った。

 

 この人を守ってあげたい。この人を幸せにしてあげたいと。

 

 そう思いながら、青年はドイッチュラントの頭を優しく撫で続けた。

 

 それから数分経った頃だろうか。ドイッチュラントはようやく落ち着きを取り戻し、青年から少し離れると、目尻に浮かんでいた雫を指先で拭う。

 

 ドイッチュラントは傲慢な態度や高圧的な言動によって誤解を与えかねないが、その本質はガラスの様に繊細だ。特にメンタル面ではそれが如実に現れやすい。

 

 青年はそんなドイッチュラントの性格を理解した上で、彼女が落ち着くまでずっと寄り添い続けていた。そんな彼の優しさが伝わったのか、ドイッチュラントは頬を赤く染めながら視線を逸らす。

 

 

「……ねぇ、下等生物」

 

 

 ドイッチュラントはポツリと呟くように言う。

 

 

「はい」

 

「……アンタ、さっき言ってたわよね?わたしに惚れたって」

 

「言いましたね」

 

「それってつまり、アンタはわたしの事が好きって事で良いのよね?じゃあ……」

 

 そこまで言った所でドイッチュラントは言葉を詰まらせる。青年の顔を見て、何かを言おうとして躊躇っている様子だった。しかし、やがて意を決すると、彼を強引にベッドに押し倒す。

 

 

「ちょっ!?ドイッチュラントさん!?」

 

 

 突然の出来事に驚く青年だったが、ドイッチュラントは構わずそのまま覆い被さる。

 

 

「ドイッチュラントよ」

 

「えっと、ド、ドイッチュラント」

 

 

 好きな女に押し倒されているという状況に緊張しているのか、青年の声は上擦っていた。しかしドイッチュラントはニヤリと笑みを浮かばせる。

 

 

「アンタがわたしの事を好きなら命令をひとつ聞きなさい……今日はわたしを慰める為に一緒に寝る事……拒否権はないわ……分かった?」

 

 青年が答えようとすれば口もとに柔らかな感触が伝わる。ドイッチュラントが青年の唇を奪ったのだ。その柔らかい唇を舌先で割り開くように動かし、口腔内に侵入させる。青年の口内にドイッチュラントの唾液が流れ込み、彼女の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

 今まで味わったことのないような甘美な感覚に青年は頭がクラクラしていた。何も出来ない、舌を動かす事すらできない。ただドイッチュラントに蹂躙されるだけだった。

 

 

 長い時間をかけ、ドイッチュラントはゆっくりと顔を離す。二人の間を銀色の糸が繋ぎ、やがて切れた。ドイッチュラントはそのまま青年の耳元へ口を近づける。

 

 艶やかな吐息が青年の鼓膜を刺激し、背筋がゾクッとする。

 

 

「……今夜は寝かせないんだから」

 

 

 ドイッチュラントはそう囁いた後、再び舌を差し込み、青年はなすがままに小柄な彼女に貪られるのであった。

 

 

 

 

 R-18編がみたいって?オラ!これがファンサービスだ!

 

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 皆様長い期間休ませて頂き誠に申し訳ございません。骨折の影響はまだ治っていませんがリハビリの合間に今後も少しずつ作品を更新させて頂きますので気長にお待ち下さいませ。


・ドイッチュラント
本編では早い段階でシュペーの恋心に気がついていたドイッチュラント。実は指揮官暗殺未遂事件の時点で内心シュペーが好きになった男としてそんな彼を殺害しようとしたロイヤルの面々に真顔で報復を口にする程度には怒りを示していたものの、戦後にいざシュペーがケッコンしてしまえば精神的に参ってしまう事に。妹であるシェーア(原作ゲーム未登場だが手のかからない妹らしい)だけではなく、シュペーまでもが嫁いでしまった為にガラスの様に繊細な心を持つ彼女の精神は限界を迎えましたが……ある意味では変人ともいえる理解ある彼氏?のお陰で回復する事に。きっと数ヶ月後には新人指揮官の元に着任しながら罵声を浴びせつつ、彼を尻にしきながらも(夜の方面も含め)サポートする事になるでしょうね。

・指揮官候補生の青年
 いわゆる理解ある彼君という奴。とは言えドイッチュラントの性格が極めて面倒な事も含めて理解のある彼と言うよりは、面倒な女を献身的に支え続けた変人。罵倒を浴びせられてもニコニコとフォローするマゾといった方がいいかもしれません。だって惚れてしまったのが悪いのだもの。本人はマゾである事は否定してますが夜はドイッチュラント主体で責められて新たな扉が開きそうだとか。

・今回のお話

 元々はR-18リクエストに存在していたシュペーを取られたドイッチュラントに責められながらも慰めエッチという題材でしたが、本編が完結した事によりコチラにも取り入れる事に。またドイッチュラントや青年からは非の打ち所がない『英雄』扱いされる指揮官ですが実際には……シュペーとしては姉に恋人が出来たと知れば必ず大喜びで祝福するでしょう。シュペーは天使です。


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Q IFルートとしてロンドンの異なる未来を見てみたいか?

  • Aダイスで決められた史実を変えるな
  • Bダイスの女神に中指を立ててIFを

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