ヴィシアに到着し、移民船団の引き継ぎの準備の為にガスコーニュを伴い軍港へと足を運べば嫌でも以前以上にピリピリとした空気が漂っているのが分かってしまう。俺が以前この地に足を踏み入れた時はロイヤルへの不信感や恨みによる憎悪に満ちた雰囲気だったが、今回はそれとは全く違う。
これから先、どうなるか分からない不安。そんな漠然とした先の見えない未来への恐怖が軍人達の表情に陰を落としているのだ。軍人達は常に警戒を怠らず、同時に隣の同僚が果たして信頼できるのか?と不信感を募らせているような、そんな緊張感に満ち溢れている。
「……」
「大丈夫か?」
「うん、平気だよ」
そんな彼らを見てガスコーニュは心配そうに顔を曇らせるが俺は努めて明るく振る舞いながら彼女を安心させるよう頭を撫でてやる。
彼女にとっては久々の故郷への帰国であるが、純粋故に感受性の高い彼女にとってこの雰囲気はあまり良くないのかもしれない。
「枢機卿の一派が帰ってきた際、真っ先に俺達がした事はあの女に与した高官達の処分だった」
コツコツと靴音を立てながらサファイアのような瞳をした青年が無愛想な顔のまま俺達に話しかけてくる
「だが末端まで責任追及をしてしまえば恐らくこの国は今頃内戦状態に陥っていただろうな。だからこそ、処分は最小限に、末端の連中は命令に従っただけ。民間人達はリシュリューに煽動された哀れな被害者として責任は問わなかった。お陰で一部の処分を除けば多くの元自由アイリス所属の軍人達は元隊に復帰したが……元々ヴィシアに残る事を選択した連中は不満に思っているだろう。自分達が国を守っている間ロイヤルの庇護でぶくぶく超え太ってた裏切り者の屑共が、何故罪もなく許されるのかと、そう思ってる筈だ」
淡々と事実を告げるように告げる男の言葉にはどこか苛立ちが感じられた。歳は俺とそう変わらないように見えるが、恐らくは俺よりも遥かに長く戦い続けた歴戦の猛者であり、ヴィシアの中枢に近い人間である事が伺える。
「だからこそ、自由アイリスに所属してた連中は自分達の経歴を隠している。お前は大戦中に何処で働いていたんだ?と聞かれると植民地海軍やら後方の補給部隊にやら嘘の経歴を真の様に語り出す。それが真実かどうかをわざわざ相手の経歴を調べる物好きはいないだろうが……その結果がこの疑心暗鬼に繋がっているわけだ」
内戦の危機は回避された。血は流れずに済んだ。だがそれでも一度生まれた亀裂は容易く修復できるものではない。だからこそヴィシアは粛正を行っているんだろう。
もう二度と国を二つに割るような事態にならないために、例えどれだけ時間が掛かろうとも、改革を成し遂げそんな疑心暗鬼を乗り越えた先にある光を掴むために。目の前の青年にはそれをやり遂げる為の冷徹なまでの覚悟が宿っており、何故ジャン・バールさんが彼を信頼しているのかと言う理由が分かった気がする。
そのサファイアのような瞳はまるで暗闇の中で希望の灯りを見つけたように爛々と輝いており、その輝きこそが彼が『怪物』と呼ばれる所以なんだろう。
「だから俺が言うべきことは一つだけだ。これから先はヴィシアにとっては正念場。このまま大樹が腐る様に衰退していくのか、果実が熟すように豊かになるのか、その分水嶺となるだろう。だが……そんなクソ忙しい時にやってきたのがお前達って訳だ」
ビクリとガスコーニュが体を震わせ、俺も思わずもう少し情勢が落ち着いてから訪問するべきだったのでは?と後悔するが、そんな俺達の様子など知ったことかと言わんばかりに振り返った青年は俺を不機嫌そうに睨みつける。
「はっきりと言っておくがジャンの機嫌はお前がやってくると知った途端、不機嫌を通り越して常にイライラしていた。今朝も表情筋はずっとピクついてたからな。まぁ、何が言いたいかというと……さっさと用事を終わらせて帰れ。命が惜しけりゃな」
辛辣な言葉と共に俺に対して手を払うような仕草をする。だがそれは決して侮蔑するような態度ではなく、何処か同情すら感じられるようなそんな素振りで……やっぱり今日は俺の命日なるかも知れないとゴクリと生唾を飲み込む。
「俺は三度激怒したジャンを見たことがある。一度目はメルセルケビールでダンケルク達がロイヤルに殺されかけた時。二つ目が姉のリシュリューと戦後顔を合わせた途端、リシュリューを殴りながら罵声を浴びせた時。そして三度目はお前がここにガスコーニュを連れて挨拶に来ると報告を受けた時だ」
『……次にオレの目の前で妹に指一本触れてみろ。あのピュリファイアーへの仕打ち以上の地獄を神に誓って見せてやる。妹を泣かせたら殺すという言葉だけは決して忘れるなよクソ野郎……!』
思わずジャン・バールさんにガスコーニュを託された時に放たれた殺気を思い出すが、もう後戻りは不可能だ。あの時のジャン・バールさんは妹への過剰なまでの愛情の為に冷静さを欠いていたが、同時に彼女は俺を認め最愛の妹であるガスコーニュを頭を下げながら託してくれた。そんな彼女の断りもなく勝手に婚約し、何度も愛し合ったのだから何をされても文句は言えないだろう。
「今、ガスコーニュを置いて鉄血に帰れば、二度とお前がヴィシアの土を踏めなくはなるが命だけは助かるぞ?」
青い瞳をした青年の言葉に俺は苦笑しながら首を横に振る。確かに今ここで踵を返せば少なくとも命は助かり、平穏な生活が待っているだろう。
だが、それは俺が望む未来じゃない。
「お断りします。そもそも、俺がこうして此処に来たのは謝罪もありますけど、ガスコーニュとの結婚を正式に認めてもらうためでもありますからね」
「主(メートル)…」
むにゅりと胸を押し付けられる感触を感じながらも、俺達は無言のまま見つめ合う。青年はどこか呆れているようだったが、俺達の決意が固いことを察したのか小さく息を吐く。
「本来ガスコーニュは弱体化したヴィシアを守るための決戦兵器として生み出された存在だ。だが、同時にジャンにとっては大切な家族……ヴァイスクレー・ヘルブスト。少なくとも戦争中に同胞同士の殺し合いや血をコイツに見せないで済んだのは感謝すべきなのかもしれないな」
それまで厳しそうな表情を浮かべていた青年はほんの少しだけ穏やかな表情へと変わる。ゆっくりとガスコーニュに近づくとそのまま青年は彼女の頭を撫でる。
「出来れば、お前にはもっとマシな時代に生まれて欲しかった。殺し合いや謀略なんて面倒な事とは無縁の時代に育ってほしかった……悪かったなガスコーニュ。恨むなら俺を恨んでくれていい。」
その言葉はまるで自分自身にも言い聞かせるように感じられた。彼は一体どんな過去を過ごしてきたのだろうか?その瞳の奥には深い悲しみが宿っているように感じられる。
「こんなクソみたいな時代にお前を産み出したのは、何もかもガタガタなヴィシアの戦力増強の為に特別計画艦が欲しいとゴリ押ししたのは俺だ。だが忘れないでくれ。ジャン・バールは姉としてお前を愛していると、いつでもアイツはお前の幸せを願っている」
彼がガスコーニュの頭を優しく撫でれば、怯えて警戒心を露わにしていたガスコーニュもじっと彼の目を見据えながら、こくりとうなづく。
「ありがとう、ジャンお姉ちゃんの指揮官……でも、一つだけ言わせてね?」
「……なんだ?」
「私を産んでくれたことに感謝している。一度もヴィシアも、ジャンお姉ちゃんも、貴方にだって恨んだ事なんて無いよ?確かにこの世界は怖い事も、辛い事も、何で上手くいかないんだろう?って思う事だって沢山あるけど、それ以上に…良い事だって色々あったからっ…!」
子供の様に邪気のない笑顔で笑うガスコーニュを見て青年は一瞬だけ惚けた表情を見せたが、すぐに表情を引き締めると「そうか……」と呟きながら彼女の頭から手を離す。
「結果的にはお前に預けた事は彼女にとって良い成長に繋がったんだろう。俺の直属として戦い続ける遊撃隊として配属される可能性も存在していたが、もしそうならガスコーニュはここまで感情を表に出すことは無かっただろうしな」
彼女の頭から彼が手を離すと、ガスコーニュは少し名残惜しそうな視線を向けていたが、青年の言葉に嬉しそうに微笑みながら何度も首を縦に振る。
「報告。鉄血での日々はみんなが優しく接してくれて、凄く楽しくて…なにより主(メートル)が手を繋いでくれたり、キスしてくれたり……本当に幸せな毎日だったよ?」
恥ずかしげもなくそんな事を言ってのける純真なガスコーニュにもはや感情が抑制されているだなんて言葉は通用しないだろう。
どこか幼い子供が母親に甘えるようなそんな仕草を見せる彼女に俺も思わず可愛いなぁ!と抱きしめたくなってしまうが、状況が状況であるが為に手を押さえて自制する。いつのまにかこの国に来てから感じていた不安や恐怖は消え去り、心の中に暖かなモノで満たされながら。
「……分かった。もうお前達を止めることはしない。だが、これだけは覚えておいてくれ。ガスコーニュ、偶にはここに帰ってこい。お前が鉄血に嫁いだとしてもお前を愛する姉達がいることを忘れるな」
「うん……っ!!」
青年の言葉にガスコーニュは涙ぐみながらも何度もうなづき、そのまま彼女は俺の腕に抱き着いてくる。唯一ヴィシアに残留し「怪物」とまで言われたジャン・バールさんの懐刀である目の前の青年は、間違いなく俺よりも遥かに過酷な戦場を生き抜いてきた歴戦の戦士。だが今だけはそんな彼のサファイア色の瞳には優しさと偶に微かに哀愁の色が浮かんでいるように思えた。
「ありがとう…お義父さん…!」
「はっ?」
だが一瞬でその瞳は元の鋭さを取り戻し、彼は俺に鋭い視線を向ける。先ほどまでの優しいお兄さんのような雰囲気は一変し、彼はまるで俺を値踏みするような眼差しで見つめている。
「結論。特別計画艦であるガスコーニュが産まれたのはアナタが各種戦闘データの取得やプロトコルの解析を行った結果。遺伝子学的には血の繋がりは存在しないけど……私がこの世に産まれたのはアナタが配備を急いで欲しいとジャンお姉ちゃんにお願いしたから」
ガスコーニュは淡々とした口調であるがどこか褒めて欲しいと言わんばかりに、まるで犬ならしっぽをブンブンと振り回しているかのようなイメージを感じられた。
「つまり……貴方はガスコーニュのお父さん?」
彼女にとっては一切の悪気がないのかもしれないが、唐突すぎる爆弾発言のせいで俺の思考回路は完全にフリーズしてしまう。
いやまぁ確かに一般的なkansenと比べると特別計画艦には戦闘データを集める特別なデータの計測専用の部隊が必要になるって聞いたことがあるし、彼女の出自を考えるとあながち間違いじゃないかも知れないけどさぁ!!
「……おい鉄血の」
それまでの和やかな雰囲気は何処へやら、突然青年の雰囲気が豹変すると俺は無意識のうちにビクッと肩が震えてしまう。
この青年は今まで出会って来たどんな奴とも違う。それは例えばセイウチの様な屈強な体格をした軍人でもなければ、インテリな雰囲気を纏った研究者でもない。
彼の目を見た瞬間、本能的に理解できた。
この男はヤバいと。
そして同時に、この男を敵に回すのは絶対にダメだと直感で悟ってしまった。苛立ちという感情は一周回ればいっそ穏やかな表情に変わってしまうと言うが、彼のサファイア色の瞳には一切の光がなく、ただひたすらに冷徹で、どこまでも無機質な色だけが映っている。
「何でしょうか?」
それでもガスコーニュを怯えさせない理性はあったのかガスコーニュが横を向いた一瞬の隙に俺の肩を軽く小突き、小さな声で耳打ちをする。
「二度とソイツにその言葉を口にさせるな。ジャンの奴に面倒な誤解を生む可能性もあるとはいえ……ガスコーニュに訂正しておけよ?出なければレッドアクシズの合同演習の時にお前を事故に見せかけて海の底に沈めるぞ」
この人、友好的なのか敵対的なのかどっちなんだよ!?と叫びたくなる衝動を抑えつつ、必死になってコクコクと頷く。
動作や言動から彼のトラウマや地雷を踏んでしまったのではなく、単純に父親扱いされたくないから故の言動と読み取れたが、それでも改めてガスコーニュには後で訂正しておくべきだろう。本当に事故に見せかけて謀殺されかねない。
「何やってるの?主(メートル)?お義父さん?」
「……何でもない」
「あぁ、何でもないよガスコーニュ。あと余計な誤解を招く可能性があるから人前だと彼にお義父さんって言っちゃだめだよ?」
「うん……分かった」
ガスコーニュは少し残念そうにしながらも素直に首を縦に振る。
そんなやり取りが俺と長きに渡る彼との最初の出会いではあるのだが、結局この呼び方が気に入ったのかガスコーニュは彼の事を人前以外ではお義父さんと呼ぶ事は辞めず、憂さ晴らしと言わんばかりに合同軍事演習では何度も彼に叩き潰される未来が待っている事をこの時の俺は知る由もなかった。
「ふん、来たか…まあ逃げるとは思ってはなかったが、本当にやってくるとはな?」
……うわぁい、怒りのオーラがここまで漂ってきてよ。空気そのものがお前を殺すと言わんばかりの威圧感を放ち、こちらを見つめる紅い瞳には明確な殺意が込められている。
正直に言えば今すぐに逃げ出したい。だがここで逃げても俺に待ってるのは確実な死だ。だからと言ってこのまま何もせずに突っ立っていれば確実にあの世行きだ。助けを求めようにも既にヴィシアの指揮官は巻き込まれる事を嫌がり、俺たちを部屋に案内すると仕事があるから別れている。
「ジャンお姉ちゃん!」
だがそんな空気など梅雨知れずガスコーニュはジャン・バールさんに抱き着き、ジャン・バールさんはそんなガスコーニュの頭を優しく撫でている。破顔こそしていないがジャン・バールさんも久々の妹との再会に喜んでいるのが見て取れる。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「肯定!おかげさまで私はいつも通り。主(メートル)も鉄血の人達もすごく優しくて、色々な事も教えてくれて……お姉ちゃんは?」
「オレか?そうだな……」
ジャン・バールさんの視線がチラッとこちらに向けられると俺は反射的に背筋を伸ばしてしまう。ジャン・バールさんは俺の姿を見るとニヤリと笑みを浮かべ、ガスコーニュの頭に乗せていた手を離すとそのまま俺の胸ぐらを掴む。
「ちょっ……ジャン・バールさ…」
「黙れ」
ジャン・バールさんは底冷えするような冷たい声音で俺を睨むと、まるでゴミを見るような目で見下す。
「……まさかここまでふざけたことをしてくるとは思わなかったぞ…ガスコーニュだけではなく、他の同盟国までとはな?」
えっ、ちょっ、なんで知ってるの?
脳波に2人の女性が頭に浮かぶがあくまでアレは最高機密。俺がヴェネトとリットリオと深い関係である事は国を揺るがすスキャンダルであり、それを外部の人間が知る事は難しい筈だが……。
「サディアの馬鹿ども自身から色々とあってな…レッドアクシズの共同基地運営について先日連絡を受けた。確かに面白い提案であることは認めてやるが……そこでオレがヴェネトの奴に何を聞かされたと思う?ヴァイスクレー・ヘルブスト?」
ギリ、ギリ…と首元が締め付けられていく。息苦しさを感じながらも俺は必死に酸素を求めて呼吸をしようとするが、俺の肺は上手く機能してくれない。同時にヴェネトの性格を考えれば彼女がジャン・バールさんに何を伝えたのかは容易に想像が出来てしまう。
「本当に、本当に馬鹿のような発端だな……既にレッドアクシズの幹部連中の多くはお前とヴェネト達の関係は広まっている。最も、直接オレの様に痴態を延々と聞かされたわけじゃないからそこまで問題にはなってないがな?そう、オレとは違い他の奴らは痴態については知らないからなぁ…!!」
「ジャンお姉ちゃんダメ!主(メートル)の顔が真っ青になってるから!」
ガスコーニュの涙目の叫びと共にようやく俺の首が解放される。ジャン・バールさんは忌々しげに舌打ちをすると、改めて俺を睨みつける。正直にぶっちゃければ俺がサディアに滞在してる最中のヴェネトは基本的には暴走状態だった。
『よしよーし♡サディアに滞在中は私とリットリオが毎日、お相手を致しますからね♡指揮官様が望めばいつでもどこでも♡お風呂でも、トイレでも、寝室でも、何でしたらクイーン・エリザベスに通信しつつ情事を聞かせながら───』
あの時は、ヴェネトの言葉を冗談だと俺とリットリオは思っていた。だが仮に、仮に彼女が自身が初めて処女を失い俺と婚約関係になった事を誰かに話したくなったとするのなら?そして、レッドアクシズの共同基地運営についての報告をする際に思わず惚気で漏らしてしまったとしたのならば?
「……お前には分かるか?妹を預けた男とのSEXが最高だの、その男の性癖やら、いかにもお前が喜びそうなプレイやらを延々と駄弁りまくった女と通信する羽目になったオレの気持ちが…!そんな男の毒牙にガスコーニュが喰われ、お前色に染め上げられていると言うのに何も出来ない姉の気持ちが分かるのか…!?」
「すいませんでしたぁ!!」
土下座するしかない。
こんなの土下座するしかない。
土下座で絶対済まないけどさぁ!!仮に俺の妹が同じ扱い受けてたら俺だってキレるわ!ガスコーニュの手前情けない姿は見せたく無かったがそんな微かな男のプライドはジャン・バールさんの怒りの前には塵芥に等しい。
確かに俺が最初に彼女に殴られそうになった時の騒動は彼女に理不尽な所があったかもしれないが、今回な関しては徹頭徹尾ジャン・バールさんが姉としてキレるべき案件だ。頭を地面にこすりつけ、俺はひたすら謝罪を続ける。
結婚を認めてほしいだの、ガスコーニュを俺に下さいだの言わんとしていた言葉は頭から消し飛び俺は涙目で彼女を止めようとするガスコーニュの前で情けなくも頭を下げ続ける。
「お、お姉ちゃん!主(メートル)も反省しているから許してあげて!それに私も主(メートル)に気持ちよくしてもらったり、優しくしてもらえてすごく嬉しかったから……!」
「……」
「あぅ……お姉ちゃん…?」
ジャン・バールさんは俺の肩を掴むとそのまま無理やり立ち上がらせる。彼女の顔を見て、俺はゾッとしてしまう。
彼女は笑顔だった。人間怒りのボルテージが振り切れると笑みを浮かべるというが、今のジャン・バールさんの表情はまさにそれ。俺は反射的に後ずさるが、ジャン・バールさんはそのまま俺の襟首を掴んで引きずると、状況に全く似つかわしくない猫撫で声で彼女はガスコーニュに話しかける。
「あぁ、わかった。ガスコーニュ、神に誓ってお前の男を殺しはしない。ただ、少しの間2人きりにさせろ。今後の事について2人だけで話し合う必要があるからな」
「でも……」
「ジャン・バール、ガスコーニュはこちらで連れて行きます…そちらも、よろしいですね?」
「……マジかよ」
突如背後から聞こえた声に振り向いた瞬間、思わず俺は頬どころか全身がひきつる感覚に襲われる。その人物を見た途端ガスコーニュも思わず目を丸くするが、腫れ上がった左の頬を白いガーゼで覆っている金髪の美女は人を落ち着かせる様な慣れた声音で俺達を観察する様にじっと見つめている。
彼女こそ自由アイリス教国を名乗り、反レッドアクシズを叫びロイヤルの庇護の元に国家を分断した要因を作った人物。そして何よりもジャン・バールさんとガスコーニュの姉である戦前のアイリス教国の指導者である枢機卿───
「さっさとガスコーニュを連れて出ていけリシュリュー。良いか?何度も忠告したが純粋なガスコーニュの性格を良い事に機密情報をアズールレーンに流そうと言うのなら…」
「貴女に何度も忠告される度に答えましたが、今更私がスパイ行為をする意義もメリットも存在しません。それに私の行動が24時間体制で監視されているのは貴女も理解しているでしょうに」
「ふん、どうだかな」
ぶっきらぼうに鼻を鳴らすジャン・バールさんに首元のチョーカーに手を添えつつため息をつくリシュリュー枢機卿。そのチョーカーは以前書籍で見かけた事があるが罪人の位置や会話を常に把握し、無理に外そうとすれば気絶する程の激痛と共に電流が流れる代物であって、とても国家の代表である枢機卿が身につけるに相応しくない代物だ。
「えっと…リシュリュー…お姉ちゃん…?」
「無理に私を姉と呼ぶ必要はありませんよガスコーニュ。それではジャン・バール、そして鉄血の指揮官。30分ほど時間を頂きますので満足するまで話し合って下さいな」
「……私は主(メートル)の味方だからね?ジャンお姉ちゃんもお願いだから主(メートル)に酷いことしないで……」
会釈と共にガスコーニュの手を引いて部屋を出ていくリシュリュー枢機卿。ガスコーニュも困惑気味ではあるが抵抗する事無く姉に連れられて出ていく。そして扉が閉まった瞬間ジャン・バールさんが俺に向き直ると、ポツリと呟く。
「完全に、ガスコーニュから見るとオレは悪役みたいだな?さて……」
拳を強く握りしめ、俺の肩にポンとジャン・バールさんは手を置く。
「……で、だ鉄血の…手を出したら殺す、オレはそう言ったよな?」
目の前で触れたら殺す。若しくはガスコーニュを泣かせたら殺すと言う言葉だったような?と冷静な言葉が思わず頭の中に浮かぶが流石にそこまで空気の読めない言葉を口にする程の判断は出来る。それにガスコーニュを泣かせてないかと言えば初夜で……これ以上はやめよう。
「流石にここまで話が大きくなっている以上、癪だが…非常に癪だが、何発か殴るだけにしておいてやる。腹に力を込めろ、出なきゃ死ぬぞ」
「……覚悟はしてきました。殺されないだけ有情です。何発でもどうぞ。それと、ガスコーニュにこんな光景を見せない様にしてくれてありがとうございます」
頭を下げた俺の腹部に鈍い打撃音が響き、声にならない汚い悲鳴が口から漏れ出て、そのまま膝から崩れ落ちる。内臓が揺れる様な感覚に俺は悶絶しながら痛みに震えるが、ジャン・バールさんはそんな俺の首元を掴み、無理やり立たせる。
「礼を言うくらいなら最初からガスコーニュに手を出すんじゃねぇよ。このクソ野郎!せめて!ガスコーニュとケッコンするなら!!事後報告の前にオレに一声かけろ!!」
今度は横っ面に強烈な一撃が入り、意識が飛びかける。脳が揺すられ視界が歪むような感触を覚えながらふらつく足取りで壁に寄りかかる。
「ふぅ……それじゃあ…悪いが、こっちもむしゃくしゃはしてるんだ、何発でも、なんて言った自分を恨めよ?」
「はぁ……はぁ……恨めませんよ。自分の言葉の責任くらいは、自分で取るつもりですから」
「そうか」
一瞬、ジャン・バールさんの表情が和らいで見えた気がしたが、彼女は無表情のまま俺の襟首を掴んで引き寄せるとそのまま俺の腹部に膝蹴りを入れる。思わず体を折り曲げそうになるが、彼女の腕がそれを許さず、ジャン・バールさんの攻撃の手は一切緩まない。
「やはり……オレはお前が嫌いだ」
背後の時計に目をやるとガスコーニュ達が出ていって2分が経過している。後28分、このまま殴り続けられる事になるが、せめてこの打撃音がガスコーニュに聞こえない様に壁が分厚い事を祈ろうとした途端、部屋に打撃音がまたしても反響するのであった。
投稿が遅くなり申し訳ございません。腕の手術は終えましたので少しずつ投稿を再開させて頂きます。
・ヴェネトの惚気
ビスマルクにマルタ島をレッドアクシズの共同基地にすると報告した際には冷静さを取り戻していましたが、その前にどうやら好きな人と結ばれたままのテンションでヴィシアのジャン・バールに報告したらしく。
ガスコーニュの事をどれだけジャンお姉ちゃんは把握しているのか?
dice1d10=10 (10)
1~6メートルから指輪をもらった事まで
7~9.お手つきになったことまで
10.*おおっと*←ファンブルで殺意満々
dice1d10=10 (10)
1~3.ヴェネトから手紙がね?
4~6.リットリオが話通してるだろうとミスった
7~9.あなたが知らない間に色々全員で話してた…
10.*おおっと*←さらにファンブルで殺意ゲージアップ
*おおっと*
dice1d3=3 (3)
1.ヴェネト?ヴェネトさぁん!?
2.あっ見てるだけだった人からの圧が凄い事になってきてない?
3.例の件の話、あなた以外の人員に既に大体発端含めて通ってるとかさぁ…!?←終わりだ
と判定によってレッドアクシズの上層部は何故マルタ島にサディアが共同基地運営なんて言葉を口にしたのか?それはヴェネトとリットリオが沢山\(レッドアクシズ!!)/したのが発端であるとという事知れ渡ってしまい、ビスマルクは軽く流しましたがジャン・バールはヴェネトによって指揮官の性癖からどんな事を行ったのまで同時に知ってしまい……ジャンお姉ちゃんはそんな\(レッドアクシズ!!)/を確実にあの鉄血のアホは妹にもしていると理解したからこその行動に繋がるのでした。なお後々リットリオはこの事を知って倒れてしまったとさ。
・ヴィシアの指揮官
基本的にはセイレーンへの復讐と国民を守る事しか考えてませんが、ガスコーニュに関してはこの騒乱の時代に生み出してしまった事に罪悪感を覚えておりちょっとだけ優しかったりします。とはいえお義父さんと呼ばれる事は嫌がっており責任としてヘルブスト指揮官が演習のたびに狙われる羽目になったとか。
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄