日差しが降り注ぐ執務室にてグラーフは仕事用のデスクの前で書類に目を通していた。本来のこの机の主である指揮官は現在国外に渡ろうとしている移民船団の護衛任務と、グラーフと同じく指揮官の妻の一人であるガスコーニュとの結婚を正式に認めてもらう為に不在中。故にグラーフは久方ぶりの夫がいない時間を満喫していた。
「ふぅ……一通りの仕事は終わったか」
ペンを置き、椅子にもたれ掛かると大きく伸びをして凝り固まった肩をほぐしていく。それから窓の外を見つめながら小さく息を吐く。
彼女が所属するキール第三基地では通常業務の他に、緊急時におけるセイレーンへの迎撃や、世界各国で少しずつ数を伸ばしつつある自立型労働用ロボであるマンジュウの運用試験など色々と任されていることが多い。
その為、事実上の副官であるグラーフが同じく彼の妻であるシュペーやヒッパーの助けを得て、指揮官が不在の基地を運用しているのだが、妻達に仕事の負担をかけまいと指揮官は出立前に出来る限りの作業は終わらせており、1時間もしない内に代行を任されていた業務はグラーフ一人の手で完了してしまったのだ。
「これで暫くは暇になるか……全く。ここ最近卿は我らを抱かずに一人部屋に引き篭もっていた様だがこの様子を見る限り眠る暇も惜しんで引き継ぎ作業をしていたようだな」
グラーフは小さく苦笑しながら指揮官の机の上に置かれたファイルを数冊手に取る。そこにはこの数日で指揮官が行ったであろう、代理で行える業務を彼女が処理しやすいように分かりやすく纏められていた。
「これは助かるが無理をし過ぎだ。もう少し我らを頼ればいいものを……」
グラーフは指揮官が残していった資料に目を通しつつ愚痴る様に呟く。指揮官はとにかく自己評価の低さが常人の数倍はあり、何でも自分で解決しようとする節がある。それが今回の様な働き方に繋がっているとグラーフは考えていた。
しかし、彼は妻の皆が大事な存在であり、自分の勝手な判断で負担をかけたくはないと考えている。その気持ちを理解しているからこそグラーフ達は何も言わずに彼の善意に口を出さない。とはいえ……
パチンッ!と小気味の良い音が部屋に響く。
その音の正体はグラーフが手元にあったファイルを閉じた時に生じたものだ。彼女は小さく溜め息を漏らすと、眉間にシワを寄せながら不満げに口を開く。
それは愛する夫の悪癖に対する怒りだった、何故もっと我々を頼らない。何故もっと自分達を大事にしようとしない。そんな思いが胸の奥底から沸き上がり、彼女の心に痛みを生じさせる。
「やはり一度、灸を据えてやらねばならぬかもしれんな……」
ポツリとグラーフはそう呟く。彼の優しさは美徳でもあるが度が過ぎるのであれば矯正する必要がある。いつか無理が祟って倒れてしまう未来を嫌でも幻視してしまう。
最早鉄血どころかレッドアクシズの英雄となってしまった彼は死ぬまで軍を指揮せざるを得ないだろう。ならばせめて、その時が来るまでは少しでも指揮官の支えになりたいと彼女は願うのであった。
(ふむ……我ながら随分とらしくない考えになってしまったものだ)
そう思うと自然と頬が緩み、穏やかな表情を浮かべていく。今頃彼はヴィシアで何をしているのだろうか?ジャン・バールに殴られてくるとだけ言って出発した彼だったが、まさか本当に殴ってきたりはしていないだろうか?もしそうなら後で慰めてやらなければ……とグラーフはクスっと小さく微笑むと、そのままソファーに腰掛けてゆっくりと瞳を閉じる。
「ん…通信?」
微睡んでいた意識が急速に覚醒していき、グラーフは閉じていた瞼を開ける。穏やかな表情を浮かべていた彼女は即座に冷徹な軍人の顔つきになると素早く身を起こし、テーブルに置いてあった通信機に手を伸ばす。
それから通信の相手を確認するとその表情が凍り付く。アラートの優先順位は最高レベル。指揮官がこの場にいたのなら間違いなく出撃を命じる程の緊急事態。グラーフは険しい表情を浮かべると、すぐに通信の応答ボタンを押した。
「こちらキール第三基地、グラーフツェッペリン。何があった」
心臓がバクバクとうなりを上げる。冷や汗が止まらず、呼吸も荒くなる。それでも指揮官の妻としての責務を果たすべく、彼女は毅然とした態度で通信相手の言葉を待つ。そして……
『ごきげんよう。こちらサディア帝国の総旗艦ヴィットリオ・ヴェネト。お久しぶりですグラーフ・ツェッペリンさん。指揮官様は御在宅でしょうか?』
柔らかな口調で語りかけてきた女性の声を聞き、グラーフは大きく目を見開く。相手はいわば同盟国の海軍の重鎮とも言える存在であり、同時に……グラーフと同じく指揮官の妻となった女性なのだから。
『そうですか……指揮官様はヴィシアに……』
通信越しからは露骨なまでに落胆する声が聞こえてくる。グラーフは戦後知った事だが、歴史に名を刻んだ『イオニア海海戦』が行われる前からヴェネトは指揮官に一目惚れしていた。
彼女は後に妻となるグラーフ達とは違い物理的な距離や、他国の重鎮という事もありなかなか指揮官と接触する機会に恵まれなかった。それでもそのようなハンデをモノともせず忙しい合間に手紙で交流を続け、ついに指揮官と結ばれるに至ったのだ。
初めて指揮官がヴェネトとの関係を語った時。ヒッパーは頭を抱え、シュペーとガスコーニュは驚きながらも受け入れたが、グラーフとしては内心複雑であった。
自分達が指揮官を好きになる前からずっと思慕を募らせていた女性が存在していた事に心はざわつき、指揮官が才女でありながら圧倒的な美貌を持つヴェネトに夢中になり、鉄血に帰ってこないのでは?と不安になったからだ。
今から思えば馬鹿な考えだったとグラーフは自嘲するように嘲笑う。指揮官は問題行動こそ多いが人格としては彼女の知る限り誰よりも誠実であり、祖国に忠誠を誓い、どんなに辛い状況であっても自分を捨てたり見捨てるような真似は絶対にしない。
それは自分が一番よく理解している筈だったのに。ヴェネトに嫉妬と対抗意識を燃やすなどあまりにも愚かだったと彼女は通信越しからヴェネトの声を聞きながらも自己嫌悪に陥っていた。
「あぁ、ヴィシアに野暮用でな。要件があるなら我がビスマルクに繋げるが……その様子では軍事や外交といった話ではないようだな」
それでも自己嫌悪に陥るのは後にしようと切り替える。今は目の前の問題に集中しようと気持ちを切り替える。既に鉄血とサディアは蜜月関係でありビスマルクとヴェネトの間にホットラインは構築されている。だと言うのにビスマルクではなく直接この基地に連絡すると言う事は指揮官に関わる事柄だろうと察してグラーフは問いかける。
『軍事ではなく外交ですね。とはいえビスマルクより前に指揮官様に一言伝えておこう思っていたのですが』
「我らが陣営代表ではなく卿を優先するとは……面倒な話の前に彼に愛の言葉でも囁くつもりか?」
グラーフは冗談めいた口調でそう言うと通信の向こうからクスクスと笑い声が聞こえる。その反応にムッとした表情を浮かべるが、すぐに表情を引き締めて続きを促す。
『ふふっ、そうかも知れませんね。もう一週間近く指揮官様の声を聞いておりませんし、愛しの旦那様成分が枯渇してしまいましたので……』
「……」
『あら?どうしましたグラーフさん?』
「いや、何でもない。それで、一体何の用件なんだ?」
一瞬、グラーフは言い淀む。皮肉に対して余りにも自然に惚気られた為、つい聞き流してしまった。指揮官が褒められるのは嬉しいが、同時に複雑な気分になってしまう。そんな自分の器の小ささに辟易としながらもグラーフは先を促した。
『先日ロイヤルの新たな女王陛下が直接我が国に訪問されまして……どうも近々行われるロイヤルネイビーの戴冠式にレッドアクシズの重鎮をそれぞれ招待したいと……』
「なるほど、卿がわざわざこのキール第三基地に連絡してきた理由ができた」
グラーフは苦笑しながら納得したように呟いた。確かにこれはこの基地の指揮官が対応するべき案件だと彼女も頷く。
『話が早いようで助かります。ロイヤルネイビーのkansen達は最早敗戦によって国民の支持を完全に失い、政治的な主導権も没収され、国際社会からもそっぽを向かれています。国民からの支持もなく、軍部からも厄介者扱い。他国からは信頼出来ない国軍と白い目で見られた彼女達。つい先日のアズールレーンの軍事演習だってロイヤルを理由をつけて省いてユニオン、重桜、北方連合の三国だけで行われている辺り深刻さが伺えますね』
通信越しから聞こえるヴェネトの言葉にはどこか同情的な感情が含まれている。コミュニストであってこれまで式典には積極的に参加しなかった北方連合ですら大手を振って参加したと言うのにアズールレーン内部でどの様な動きがあったのかは想像に難くないだろう。
これはユニオン、重桜、北方連合からレッドアクシズに送られたメッセージ。我々はロイヤルとは距離を置きレッドアクシズとの関係を重視していると暗に伝えているのだ。
『故にヴァリアント新陛下は最早崖っぷちであり、このままでは前女王が必死になって守った最後の権益どころか人としての権利まで国に奪われかねないと恐れているそうで……その為のカンフル剤が戴冠式なのでしょう』
最早ロイヤルのkansen達は政治的な地位や権利を全て返上しているが、それでも王族という肩書きは変わらない。例え自称であっても、例え軍内部で勝手に名乗っている地位と笑われたととしても彼女達は『王家』を名乗り続けている。側から見れば彼女達は滑稽な道化に見えるかも知れない。しかし彼女達にとってはそれが存在意義であり誇りなのだ。
ヴァリアントは残った権威やコネ。なけなしの資金を使って戴冠式を大々的に行う事で国内外に自らの健在と威光を示そうとしていた。国民から失った信頼を取り戻す為の宣誓を行う為に。レッドアクシズとの敵対路線ではなく国際協調路線を改めて表明する為に。
「戴冠式と威勢は良いがやっている事は国内外への土下座外交だな。国民感情や他国との関係を改善すら出来ない現状から関係改善というスタートを切る為には下手に出るしかない。前女王のエリザベスであれば全戦力を無理やりかき集めて近場のセイレーン要塞の攻略でも始めそうだが……どうやら新たな女王は慎重に事を進めているようだ」
『そうですね。今更ですが……彼女は聡明な方ですよ。私達の国とレッドアクシズの関係が破綻寸前なのは理解しているでしょうし、それを改善する事がどれだけ難しいかも理解している筈です』
通信越しからヴェネトの声色が変わる。それはまるで慈しむような声音であるが、彼女のスタンスはレッドアクシズ屈指の反ロイヤル派だ。それでもなお個人としての評価は別なのだろう。
『彼女の目的はあくまでも自国と国民の安寧。その目的の為にはプライドを捨てる覚悟がある。名誉やプライドが重視されるロイヤルという国に生まれながら必死に各陣営に頭を下げて協力を要請する。並大抵の覚悟ではありませんし、少なくとも常に上から目線で傲慢だったエリザベスと比べれば天と地の差がありますよ。地べたに這いつくばって元敵国の人間の靴を舐めてでも必死になれる人間なんてそうそう居ませんから』
もしも、指揮官達がサディアに派遣されなければサディアは火の海となり屈辱的な協定を結ぶ事を強要され、彼女が守りたいと願ったものは全て失われていたかもしれない。あのタラントの長い夜を過ごしたヴェネトはヴァリアントと自分を重ねているのだろうとグラーフは察しつつも本題に入る。
「ロイヤルの要請を無視する事は簡単だが恐らくはビスマルクは受諾するだろうな。この戦争はロイヤルを追い詰めすぎた。このまま関係が断絶し続ければロイヤルはヤケになって報復すること可能性も0ではない」
サディア・鉄血はセイレーン技術や黒キューブの研究などを行い、ヴィシアもまた国内の統制を強めるなど軍拡を推し進めている。セイレーンへの脅威らアズールレーンとは表向きは友好関係を結んでいるものの水面下では緊張状態が続いており、何よりもレッドアクシズは戦力を温存しているロイヤルを恐れているのだ。
ロイヤルネイビーの戦力は侮れない。レッドアクシズではなく最低でも一国でロイヤルと対等に戦う事を目標としているが現状では最も技術大国である鉄血でさえもそれは厳しいだろう。
「戴冠式にレッドアクシズの人材を派遣する事でロイヤルネイビーは過去の自分達への訣別とレッドアクシズとの融和を国内外にアピールができる。レッドアクシズもまたロイヤルに貸しを作りながら軍拡への時間稼ぎも可能か……問題は」
『レッドアクシズの英雄『ヴァイスクレー・ヘルブスト』……私達の旦那様が恐らく派遣される事でしょうね……』
ため息交じりにグラーフとヴェネトは互いに通信越しから視線を合わせる。英雄の肩書きに恥じない戦果と活躍、そしてロイヤルで最も憎悪の視線に晒されている軍人である彼が戴冠式という名の融和への式典に参加する事は両陣営にとって大きな意味と利益になる。
とは言え妻であるヴェネトとしては全方位から憎悪や差別に憎しみの視線に夫が晒されるのを見過ごせるはずがない。ビスマルクに彼を派遣するなと忠告する事は可能ではあるが、彼以上に式典の参加の意義を持つ鉄血軍人も存在せず、煌びやかな経歴を持つ彼はサディアと鉄血での式典に何ら問題はなく参加しており、彼が参加する事は避けられないだろう。
『指揮官様は優し過ぎます。自身を殺そうとした相手すら救おうとした彼が全方位からロイヤルネイビーを没落させた元凶として恨まれ、睨まれ、嫌悪される……果たして彼が耐え切れるのでしょうか?』
在らん限りの憎悪を愛する夫に向けられる光景が脳裏に浮かびグラーフは嫌悪に顔を歪める。彼は暗殺未遂事件によって間接的にロイヤルを追い詰めただけではなく、ツェルベルス作戦(キングジョージ5世との一件)や和平交渉の際に各国からオブザーバーの派遣要請の提案を行うなど明確な意思を持った当事者としてロイヤルを追い詰る切っ掛けを作った。
ロイヤルのkansen達からの憎悪はかなりのものになるだろう。ロイヤルの栄光と名誉に泥を塗り、最も敬愛する女王クイーン・エリザベスを退任に追い込んだ元凶だ。一歩間違えば暴発したロイヤルによって彼が凶弾に倒れる可能性だってあるだろう。そうでなくてもストレスで胃痛に苦しむ彼の姿が容易に想像できる。
「……」
『……大丈夫ですか?グラーフさん』
「あぁ……すまない。少し考え事をしていただけだ」
止めることができない自分と夫を追い込めかねないロイヤル達に苛立ちを覚えつつ、ヴェネトの声を聞きながら思考を切り替える。
「……せめて我らに出来ることはビスマルクにその事を伝える事。そして卿に大人しくして貰う事だな」
『えぇ。そうですね。ヴァリアントさんなら対応を間違わないとは思いますが……グラーフさん。指揮官様に気をつけるようにと伝えておいて下さい。何かあればサディア海軍を動かしてロイヤルに威圧をかけるという事も私は構いません』
「了解だ。我が夫にはしっかりと伝えるさ」
さらっと一国の軍隊を私益の為に動かすと言ったヴェネトであったが短い付き合いからそれが本気だとグラーフは理解していた。ヴェネトは愛する夫の為ならば平然とその権力を振るうことだろう。
(本当に愛しているのだな。卿のことを……)
愛し愛されている夫婦の関係に羨望を感じてしまう。鉄血の恋の美徳が慎ましく献身的なものであるとすれば、サディアの恋情は情熱的で激しいものだ。
燃え上がる恋は例え愛を確かめあったとしても冷める事はない。その炎は不死鳥の如く永遠に燃え続ける。これでヴェネトがただの色ボケない俗物であればグラーフも頭を抱えながら暴走して再び戦争の火種を撒き散らさないよう注意するのだが、彼女は己の感情を制御し、自身の欲望を理性的に押さえ込み、その上で望む結果を掴み取ろうとするのだからある意味タチが悪いだろう。
通信越しから聞こえる声音は何処まで穏やか。だがその心の内には祖国とレッドアクシズ。そして夫を害しようとする者は誰であろうと許さず、徹底的に叩き潰そうとする強い意志を感じるグラーフであった。
ここで話が終わっていれば理知的な妻同士の会話で終わったのだろうが、残念なことに話はそこで終わらなかった。
『それと……グラーフさん。指揮官様の性癖を教えてください。どんな風に女を抱くのか、どうやって鉄血の皆様を喜ばせてくれるか……是非とも教えて欲しいです。参考までに』
「………」
グラーフは絶句する。つい先程まで国や夫に対する重要な話をしていたというのにこの女はなんと言い出したのだろうか? 余りにも唐突で予想外過ぎる質問に頭が真っ白になってしまう。
『どうしましたか?グラーフさん?』
「いや、ちょっと待ってくれ……一体何を言っているんだ?」
混乱した様子でグラーフが聞き返すとヴェネトはきょとんとした声で答えた。
『何をと申しましても、旦那様がどの様な方なのかを知る為に貴方達のセックス事情を聞く必要があるのですが……』
『……はっ?』
グラーフは知らなかった。ヴェネトは間違いなく優秀な総旗艦であるが基本的に指揮官に関しては暴走気味な色ボケであるという事を。
『あぁ……早く指揮官様とエッチしたい……指揮官様のアレはとってもご立派でしたから、もう一度姉妹揃ってお腹いっぱいになるまで注いで貰いたい……んっ♡』
通信越しから聞こえてくる艶めかしいヴェネトは聞き間違いで無ければくちゅりと秘所を指で弄りながら甘い吐息を漏らす。既に何度も指揮官に抱かれた事のある彼女の姿に嫉妬を覚えながらもグラーフは努めて冷静に返事をする。
「ヴェネトよ。一つだけ言わせてくれ」
『はい?どうかされましたか?』
「あまりはしたない真似はしてくれるなよ?我も卿も立場と言うものがある」
『えぇ勿論。私の本性を知っている方は旦那様とリットリオだけですから。そんな心配は無用ですよ?ですが同じ妻として隠し事なく情報を共有したいと思っていますので』
再度言うがグラーフはヴェネトが色ボケである事を知らなかった。彼女はビスマルクの右腕として手腕を振るっているがビスマルクはヴェネトと指揮官の恋愛模様に関しては当人同士で解決して欲しいと出来るだけ触れずにグラーフに何があったのかを伝えなかった上に、指揮官もまたヴェネトの積極性や情熱的なアプローチに対しては全てを口にした訳ではない。
(いやだってさぁ!結婚前からヴェネトと裸で風呂入ってましたとか、もう砂糖吐きたくなるくらい甘い手紙の内容とか、告白終わった瞬間俺を押し倒して妹巻き込んでダブルパイ○リやらおっぱ○タオルやら俺の頭が3歳児になるくらいズブズブに胸で抱っこして貰ったとか言えるわけねぇじゃん!!)
もし指揮官がこの場にいればそう心の中で叫びながら必死に弁明するだろう。だがその事実を知らないグラーフにとってはそれまで慈悲と冷徹を併せ持った総旗艦がここまで色ボケているとは想像もつかなかった。
『あぁ、申し訳ございません。まず恥ずかしい事を話すのなら私の方から話させなければなりませんね。私とのSEXであれば指揮官様は様々な一面を見せてくれます』
「はっ?」
『えぇ。例えば私が指揮官様のモノをお口で奉仕する際は最初はゆっくりと焦らすように舌先で舐めたり、亀頭を重点的に責めてあげたりします。その後は喉奥まで使って優しく包み込むよう…指揮官様はフェラチ○は汚いからとこちらを気遣って下さいますが何度かして彼に喜んで頂けたのなら、最後は頭を押さえつけて強引に腰を振ってくれるんです。あの時だけは私は彼の所有物になれた気がしてとても嬉しくて、私も興奮して濡れてきてしまうんですよ♡』
ヴェネトはうっとりとした表情を浮かべながら指揮官との情事を思い出したかのように話す。それはまるで恋人との初体験を語る少女のようにも思えた。
『喉の奥まで熱いのを出されるのはとても苦しいですけど、その分気持ち良くなってくれた証拠なので嬉しいですし♡全部飲み込んだ後は指揮官様によしよしと撫でられて♡キスをして下さった後にそのままベッドに連れて行ってくれるんです♡そこでお互い愛し合った後はそのままお休みになって……♡』
「………そうか」
そう言えばサディア出張から帰ってきてからの『行為』で指揮官は珍しくそれまで消極的であった下を舐めるという行為を自分からして欲しいと言ってきた時の事を思い出す。それ以外にも思い返せば彼がサディア出張から帰国後に行った『行為』は普段よりも積極的であったとグラーフは気がついてしまった。
『胸に甘えてくる時はヴェネトォ…なんて呼びながら赤ちゃんみたいに乳首を吸ったり噛んだりしてくれますよ♡おっぱいを揉む手つきもいつもより荒々しくて強く掴まれても痛くなくて、むしろもっと激しく求められてるんだと思うと子宮がキュンとしちゃいますが♡同時に名前を呼びながら音を立てて乳輪ごと吸い付く姿は可愛らしくてついつい頭を撫でてしまいました……♡添い寝で朝を迎える際は起きた時に指揮官様が隣にいて胸に顔埋めているのが本当に幸せで……♡あぁ、思い出しただけで身体が熱くなります……♡』
「……」
あぁそう言えば最近夜に彼が胸を吸い付いてきた時は妙に積極的だったなぁ……とグラーフはふと思い返してしまう。いいつも以上に荒々しく噛み跡をつけながらも胸に溺れている彼を満足するまで甘えさせたが、ヴェネトの影響であったのかと理解する。
『他にも指揮官様は私のお尻が大好きで、バックで突かれるとパンッ♡パンッ♡と肉同士がぶつかり合う音が響いてきて♡後ろから獣の様に求められる度に自分が女として求めてくれているという実感があって……♡』
『お風呂で洗われている時などは胸をスポンジ代わりにして背中を擦り付けてあげれば喜ばれました♡それに泡まみれになった指揮官様のおちん○んが硬くなっていくのを感じられたのは最高に良かったですね。そのまま浴室でも致しましたが、湯船に浸かりながらの対面座位も悪くありませんでした♡お互いに見つめ合いながらキスをしながらの行為は胸が満たされましたね…♡」
『指揮官様は甘いものが大好きなのはグラーフさんも知っていると思いますが♡生クリームを胸に塗りたくって『おいで♡』と言ってあげるとお顔を蕩けさせて胸に飛び込んできてくれるんですよ♡必死に母乳がまだ出ないのにちゅう♡ちゅう♡と吸い付いている姿は可愛くて♡……あぁ♡……早くまた指揮官様のアレを味わいたいです……♡』
ヴェネトの暴露話は止まらない。既にグラーフは通信越しに聞こえてくるヴェネトの声を聞いているだけで脳内が沸騰してしまいそうな程、彼女の声色は甘くて艶めかしくて官能的で、聞いているだけでも体が火照ってしまう。
(……あぁ、そうか……これが嫉妬という感情なのか)
また、今迄感じた事のない未知の感覚にグラーフの心が掻き乱される。イラついているような落ち着かない気持ちが心の中で渦巻きヴェネトが嬉々として彼との行為を話す度に心の中に黒い炎が燃え上がっていく。
指揮官はサディアから帰国した後は妻達の身体を求める回数が一気に増えていた。それまではこちらから誘わなければ応じないほど淡白な性格であったが、帰還後は毎日のようにグラーフ達を求めてくる。だがそれは決して嫌ではなく、むしろグラーフ自身も積極的に受け入れた。
積極的かつ激しく求められ、自分の身体に溺れていく指揮官を見るのは優越感に浸れると同時に、彼の全てを受け入れる事が出来るのはこの夜は自身だけなのだと思えば思う程愛しさが増していった。
だがヴェネトの話を聞く限り、ここまで彼が夜の行為にノリ気になった理由はヴェネトが滞在中にひたすら彼に尽くし、甘えさせ、そして愛を囁やき続けた結果だと理解してしまう。男としてヴェネトとの行為は彼が一皮剥けたきっかけになったのは間違いなかった。
(卿が決して我をヴェネトの代用品として見ている訳でもない。そう理解はしているのだが……)
好きな男がSEXに積極的になった理由や自身を更に気持ち良く出来た理由が他の女と何度も交わり経験を積んだからだと思うとグラーフとしても面白くはなかった。
全ての彼女の行為の暴露が煽り文句であったのならまだしも、彼女はあくまで自身の体験談を語っただけであり、そこに悪意も他意もない。しかしそれが分かっていてもヴェネトの口から語られる言葉はグラーフにとってはお前の旦那を変えたのは私だと煽ってる様にしか思えなかった。
『それでですね?おっぱいをポヨン♡ポヨン♡と振りながらおっぱいダンスを踊った後の彼の目は興奮して完全に雌を狙う雄の目になっているんですよ♡私もリットリオと二人並んで乳振りダンスをしたんですけど♡胸が揺れるごとに指揮官様のおちん○んがビクビク動いていて可愛いかったですよ♡他には──」
もうこれ以上聞く必要はない。
そう判断したグラーフは通信を切る。その表情は今まで見たことが無い程不機嫌なものであり、もしここに誰かいたらグラーフの放つ殺気に恐怖していただろう。
「……くくっ……」
誰もいない執務室でグラーフは笑みを浮かべる。
凶悪な肉食獣の様なその瞳はただ真っ直ぐと前を見据えており、その瞳の先は遥か数千キロ先に存在するサディア帝国に向けられ、無意識に口角を上げてしまう。
「一度……ヴェネトと直接話し合わなければなるまいな?」
指揮官の妻の一人としてグラーフ・ツェッペリンは好き放題の限りを尽くす色欲の悪魔に静かに闘志を燃やすのであった。
「ガスコーニュ……そいつからさっさと身体を離せ」
「……イヤっ」
ジャン・バールさんがバツの悪そうな表情でそう言うが、ガスコーニュは決して俺に抱きつく力を緩めようとはしなかった。
「…………」
後ろの方で無言で眺めているリシュリューさんの視線が痛い。数日後、いよいよ俺は引き継ぎ作業を終えて鉄血に帰還する事になったのだが、その帰路にガスコーニュが参加する事は許されなかった。
『すまんな……一週間後に行われるオレの枢機卿の就任式にガスコーニュも参加して欲しい』
きっかけは再びジャン・バールさんとの対話(殴られに行くとも言う)の為に彼女の執務室を訪れた時だ。対面した彼女は前日までの怒りを霧散させており、真剣な面持ちでそう答える。
枢機卿という地位は世襲制ではなく国家の代表である宗教的指導者、教皇からの推薦や国民の支持によって任命されるもの。故に枢機卿の親族という地位であっても特別扱いされる事はなく仮にジャン・バールさんが引退したとしても自動的にガスコーニュが任命される事はまず無いだろう。
だがリシュリュー枢機卿は余りにも影響力が強すぎた。売国奴として罵られてもおかしくはない行動である支持者を巻き込んでの亡命騒ぎという事態を引き越したと言うのに彼女はいまだに多くの国民から支持されるという異常事態に陥っており、戦争中もヴィシアは決してリシュリューさんや亡命者を罵る事はなくあくまでロイヤルのみにターゲットを絞らざる得なかった程だ。
そんなリシュリュー枢機卿の妹であるジャン・バールさんは仇敵ロイヤルに一矢報い、幾度となく行われたセイレーンの襲撃を全て防ぎ切って国民を守ると言う護教騎士としての勤めを果たす。
そんな絶対的なカリスマ的指導者であるリシュリューさんと戦争を勝利に導いた英雄であるジャン・バールさん。その二人の妹でもあり特別計画艦。更にはレッドアクシズの英雄となった俺の妻となったガスコーニュが注目の的になるのは必然的とも言えるわけで……
結果として既にガスコーニュの存在を国内で公表していたのが仇となり、最早ガスコーニュの就任式参加を断る事が出来ない状況になってしまった。ジャン・バールさんとしても出来る限り純粋なガスコーニュを政治劇に巻き込みたくなかった様だが、水面下でロイヤルが動いているらしく、ロイヤルを牽制する為にもガスコーニュの名が必要になってしまったのだ。
「主(メートル)……?」
「大丈夫だよ。ほら、おいで」
不安そうに俺を見上げるガスコーニュを安心させる為に優しく頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細める。ジャン・バールさんが一瞬でも睨みつけたが無理やりガスコーニュを巻き込んでしまった手前見逃してくれた。
「ジャンお姉ちゃんの式典まで一週間…そこから鉄血に帰るまでどれだけかかるの…?」
涙目になりながらガスコーニュは俺に問いかける。式典以外の諸々のやり取りを考えれば下手をするとガスコーニュとは一ヶ月近く会えなくなる。
最初にジャン・バールさんから滞在を伸ばしてくれと言われた時、ガスコーニュは我慢しようと寂しそうに頷いてくれたが、その日以降明らかに元気がなくなっており、最近はずっとこんな調子だった。
ぎゅっと抱きしめてくる力が強く、俺と離れたくないと思ってくれているのは嬉しいが彼女の立場を考えると引き離すしかないのが辛い所だ。
ガスコーニュを抱きしめながら考え込む。彼女の願いを叶えてあげたいし、俺だってずっと一緒に居たい。かと言って無理に引き離せばガスコーニュは絶対に悲しんでしまう。
「主(メートル)……お願い」
「ん?」
「ガスコーニュの事……嫌いにならないで」
俺の胸に顔を埋め、ガスコーニュは震えた声で呟く。
「嫌いなる訳ないだろ?俺がガスコーニュを嫌う事なんてあり得ない」
怯える様にして抱きついてきた彼女を俺は強く抱き締めてやる。
「本当……?本当にガスコーニュの事好き……?嘘じゃない……?」
「あぁ、ガスコーニュが大好きだし愛している。だから泣かないで」
顔を上げたガスコーニュの目には大粒の涙が溜まっており、俺は親指でそれを拭ってあげる。それでも内面がやや幼い彼女は小さな子供の様に泣きじゃくり始めた。
そしてガスコーニュはしばらく泣いていたがやがて落ち着いたのか、袖口で目元を擦り始める。しかし涙は止まらず必死に我慢しようとする姿は愛おしいと同時に余りにも痛ましい。
しかし、エルベ達は船の中で待っておりこれ以上彼女達を待たせる訳にはいかない。
「ほら、頑張って。今生の別れじゃないし、ジャン・バールさんだってこれが終わったらずっと鉄血にいて良いって言ってくれただろ?」
「……ちっ……」
不服そうなジャン・バールさんだが、それ以上は何も言わずに俺が抱きしめている姿を見ても文句を言う事はしなかった。それなら…少しくらい欲張ってもいいかぁ!
「主(メートル)…んっ…」
まだ落ち着いていないガスコーニュの顔を両手で掴むとそのままキスをする。最初は驚いていたガスコーニュだったが、すぐに受け入れてくれる。ベッドの上でする様な激しいキスではなくたっぷりと時間をかけて互いに密着する様な優しい接吻。
唇を離すとガスコーニュは真っ赤な顔のまま惚けた表情を浮かべていた。
「我慢、できるか?」
「……肯定。寂しいけど…主(メートル)が望むならガスコーニュは頑張れる」
「そっか……偉いな」
頭を撫でるとガスコーニュは嬉しそうに目を細める。これで少しでもガスコーニュの不安を取り除ければいいんだけど…なんて思いつつ後ろから漏れる殺意の波動を感じつつももう一度だけキスをすると急いで指揮艦に向かって走り出す。
「まて貴様ぁ!やっぱり腕の一本くらい置いていけぇ!!おい姉さん離せ!!この鉄血のアホに一発ぶちかまさないと気が済まねぇ…!」
背後から聞こえる怨念じみた声に立ち止まった瞬間今度こそ殺されるかもしれないと本能的に察した俺は振り返る事なく、全力疾走だ。最後に船に乗り込んだ瞬間マンジュウ達に指示を出しつつも大声で俺は手を振る。
「帰ってきたら沢山デートしようなガスコーニュ!お姉ちゃん二人と仲良くするんだよ?リシュリューさんもジャン・バールさんもまた会いましょう!我が同胞のために鉄血とアイリスの力とならん事を!ありがとうございました!」
「ぶち殺すぞ鉄血ぅぅぅ!!!!」
こうして、ジャン・バールさんの怨念を背に受けながらも、最後まで愛する妻に俺は手を振り続けつつ波乱に満ちたヴィシア……いや、アイリス教国への謝罪滞在は終わりを告げるのであった。
余談だがその後の演習にて、ヴィシアの指揮官が指揮するジャン・バールさんによって執拗に追い回され、最終的には砕けないはずのシールドが模擬弾によってぶち破られ俺の指揮艦が物理的に沈むと言う事件が起きたが、それはまた別の話である。
・総旗艦の心配
ロイヤルが戴冠式で国内外のアピールをするためにレッドアクシズの面々から使者を出して欲しいと頭を下げていますが、レッドアクシズの盟主である鉄血としても指揮官を送らざる得ない。ですが指揮官はロイヤルを追い詰める立役者となった訳でヴェネトは臆病で慎重なヴァリアントであれば問題を起こさずに穏便に物事進めると思いつつも外交の場になれていない旦那を心配している様です。
・色ボケ
実は指揮官やビスマルクはヴェネトの色ボケっぷりをプライベートに関わると言う事もあってグラーフ、ヒッパー、ガスコーニュは黙っていましたがそれが今回判明することに。その日の夜はヒッパーとシュペーはそれはもう機嫌の悪いグラーフを見る事になったでしょう。なおシュペーは同じくサディアに向かってヴェネトとも少し会話した様なのでグラーフと比べると恋のライバルと言うよりは互いに指揮官を支えよ?と天使の様な反応だったりします。
・エルベとヴェーザー
殺意満々のジャン・バールの叫びにエルベは怯えてヴェーザーは日記にその事を描きつつもウチの義兄は大丈夫なのか?とヒッパーの気持ちを理解したそうな。
今回でアイリス編は終了し、次回からはアフターストーリーの最後に当たる戦後のロイヤル編に。新女王として苦労を重ねるヴァリアントに名誉を失って帰還した捕虜達。本来であればあり得ない歴史を紡いだ『枝』にて嫌われ者の鉄血指揮官とビスマルクがやってきて……アフターの中でも最もボリュームがあり、少しシリアスな物語となりますがお待ちくださいませ。
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄