見栄や煌びやかさを重視しているロイヤルの海軍基地と比べれば鉄血の海軍基地は実用性を重視した作りであり、無骨で飾り気がないもののその分だけ機能美というものを感じさせられる。
時折黒と赤を基調とした十字架と剣を組み合わせたような鉄血の紋章が掲げられており、その威圧的な雰囲気はまるでこの基地に乗り込んだ私が歓迎されていないかのような錯覚すら覚えさせた。
孤立無援。今の私が置かれている状況を表現するならばまさにその言葉が相応しいだろう。情勢がピリピリしているが故にお忍びで私は親衛隊長であるモナークだけを護衛に付けてこの地に訪れている。
だがモナークは決して何も述べない、話さない、私に助言する事もなくただ静かに付き従っているだけ。友好のかけらもない対応に心が折れかけるが、それでも弱音を吐くわけにはいかない、何故なら今回の訪問の目的はあくまで会談。相手はあの鉄血の海軍のビスマルクなのだから。
彼女との交渉次第では私達ロイヤルの未来が決まると言っても過言ではない、最早地に堕ちたロイヤルの栄光を取り戻せるか否かはこの一戦にかかっているのだ。
「……」
「……」
鉄血のキール海軍本部に到着した時も、応接室に通された今も、お互いに一言も言葉を発していない。ただ黙って視線を向け合うだけで会話らしいものは一切発生しない。
モナークは優秀だ。本来数人がかりで動かさなければならない小型船をたった一人操船し、今回の外遊中に小規模なセイレーン艦隊が現れた時は『そこでおとなしくしていろ』と無愛想に私に声をかけて艤装を展開させたかと思えばあっという間に敵艦隊を殲滅してしまった。
モナークは私の護衛であると同時に有事の際の切り札でもある。しかし、彼女は私の指示を仰ぐ事なく、勝手に動いた。つまり、私の命令など必要ないという事なのだろうか。
彼女の行動を思い出しながら私は苦々しい気持ちを抱く。確かに、彼女の判断力は優秀ではあるが明らかに彼女は私に忠誠心を抱いていない。それもそうだろう、大戦中は『再現』の為の不確定要素を排除する為に彼女のもう一人の特別計画艦であったネプチューンは独房の様な部屋で軟禁されていた。
そんな扱いをされていれば恨みの一つや二つ抱いてもおかしくはない、『再現』の真実を話し、エリザベス陛下が頭を下げた時だってネプチューンは事情は理解しましたわと微笑んでくれたがモナークは何も述べなかった。
恐らく、彼女はもうロイヤルには興味がないのかもしれない。
そう考えると胸が締め付けられるような痛みを覚えるが、今はそんな事を考えている場合ではない。多くの仲間達が粛正され、辺境の地に左遷された今、ロイヤルの中枢は私が担うしかないのだ。
(大丈夫……大丈夫……!)
不安を振り払うかのように首を振ると深呼吸をして気分を落ち着ける。エリザベス様だって今回の計画に賛同していろいと協力してくれると言ってくれた。少数ではあるが戦後に生み出されたkansenは私の事を『陛下』と呼んで慕ってくれている。頑張らなければ。例え相手の靴を舐めようとも、どんな手を使ってでもロイヤルの復権を成し遂げるんだ。
ただ……一つだけ不安があった。
それは私にとっての最悪のトラウマであり、私の一生の恥とも言える汚点。あの『彼』は今もレッドアクシズの英雄として間違いなくこの基地に在籍しているだろう。
『最後に一つ、忠告と言うか……まあ警告だよ、次からは俺みたいなのとは話さない方がいいぜ? 』
やめて。
『押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ。覚えておくといい』
やめて…!
あの時の彼の言葉が耳元から離れない。忘れたいのに、記憶の奥底に封じ込めたはずなのに、思い出す度に身体の震えが止まらない。あの時彼らを捕縛か殺していれば今もロイヤルは世界に尊敬され、レッドアクシズの各国は私達に屈服していたのではと後悔ばかりが募る。
だが、私はもう女王になった。だから弱音は吐けない。例え今でもあの言葉がフラッシュバックして怯える情け無い女王だと罵られようが、私は女王であらねばならない。
震える手でコーヒーカップを手に取り、口に運ぶ。甘ったるいはずのコーヒーが何故かとても苦く感じられた。
初めて出会ったビスマルクへの第一印象は冷静と真面目を同じ鍋に入れて煮詰めてそこに軍人としての冷徹さを加えたような印象を受けた。サディアの総旗艦は私にある程度友好的に手を忍べながら話を聞いてくれたが、ビスマルクは終始無表情で淡々とした口調で事務的な内容しか語らず、それが余計にプレッシャーを与えてくる。敵意という名の牙は隠しつつ、こちらの出方を伺っているといった所だろう。
私の提案やロイヤルの立場、そういう事も含めて全てを話したがビスマルクは嘲笑もせず微笑も浮かべず、ただじっと黙って聞き続けるだけだった。
「以上が我々の提案です」
「……」
「そ、その…ビスマルク…様?何かご質問はありますか?」
無言のビスマルクのせいで背中に嫌な汗が流れる。彼女が一体何を考えているのかがわからない。そもそも私達と彼女達は国や思想が真逆なのだから価値観や考え方が違うのは当然の事だ。それでも、少しでも歩み寄れるように言葉を重ねてきたが反応は無し。
質問すらしないという事は交渉の余地は無いということなのだろうか? だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「無論ただ派遣して頂くだけではありませんし少ないながらも対価は用意しています。まずは……」
その後も私はロイヤルの現状と今後の展望、そしてビスマルクの望みなどをできる限り説明していく。しかし、やはり彼女は何も言わずにただ黙って私の話を聞いていた。
「以上になります。いかがでしょうかビスマルク様、我が国の要請をお受けいただけませんか?」
ビスマルクは少しだけ考える素振りを見せると、静かに口を開いた。
「……国?ロイヤルという国家としては人の戴冠式ではなく貴方たちkansen達の戴冠式を立案するなんてメリットが果たしてあるのかしら?どちらかと言えば国という立場ではなく組織、もしくは団体として捉えるべきだと思うのだけれど」
「えっ……!? い、いえ、我々ロイヤルネイビー……のkansen達の提案を議会も承認してくれましたし……」
彼女の指摘に思わず動揺してしまう。確かに、ビスマルクが言う通り組織として考えた方が自然かもしれない。予想外の返答に思わず声を上擦らせてしまい、それを見たビスマルクは私の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「それに貴方達が立案する対価はどれもこれも余り我々にとってのデメリットを上回るとは言えないわね。ただでさえ鉄血国民は貴方達ロイヤルへの悪感情が強いというのに果たして鉄血国民は納得してくれるのかしら?」
(何を、今更……!!)
喉元から溢れそうになる罵倒をぐっと堪える。彼女の言っていることは正しい。確かに私達が提示してきたものはビスマルクにとっては魅力的とは言い難いものかもしれない。それでも鉄血国民にロイヤルへの憎悪を煽ったのは目の前の貴女じゃないのと言いたかったが、それを言った所で何の意味もない。
耐えろ。耐えるのよヴァリアント。今ここで怒りに任せて行動してしまえば私達は終わってしまう。必死で激情を抑え込むと私はゆっくりと息を吐き出す。
「……仰るとおりかもしれません。先の戦争の傷はまだ言えませんし、互いの国民感情を鑑みれば、我々にとっての利益こそあれど鉄血の皆様にとってはマイナスになるでしょう」
「あら、意外と物分かりが良いのね。それで、どうするつもりなのかしら?まさかとは思うけどロイヤルの威光を振りかざして武力を盾に高圧的に説得するとでもいうつもりかしら?リットリオに貴方の姉妹艦であるウォースパイトがした時の様に」
ビスマルクは私の反応を見てどこか満足げな笑みを浮かべる。挑発的に微笑むその姿は妖艶さと美しさを感じさせるが同時に恐ろしさも感じる。裏からアズールレーンへの復帰を打診してきたサディアの使者であるリットリオ相手にウォースパイト様はかなり挑発的に。まるで属国扱いで主導権を握ろうとしたのは記憶に新しい。
あの時は私たちは『再現』の為にタイムスケジュールを狂わせないが為、敢えてサディアを怒らせる必要があったのだが、それが今になって仇になるとは思わなかった。あの屈辱のマルタ島を失陥した戦いはサディアと鉄血の結びつきを極めて強くしており王族間の婚姻ですら裏では進んでいるらしい。
鉄血は身内と認定したものに対しての愛情は深いが敵に対しては苛烈だ。サディアとの蜜月が進むごとに鉄血へのロイヤルへの悪感情は加速していく。ビスマルクが対立を煽ったという事もあって確かにただビスマルクが黙って私達の戴冠式に参加すれば国民からの反発は避けられないだろう。
レッドアクシズの同胞達を傷つけたロイヤルの手を今更握るのか?と下手をすればビスマルクの政治生命や公国中枢からの信頼すらも吹き飛び兼ねないほどに。
今までの私であればウォースパイト様を馬鹿にされた事で激昂してビスマルクに激昂していただろう。だけど今の私はロイヤルネイビーの『女王』だ。例え泥水を啜りビスマルクに土下座をして靴を舐めてでもエリザベス陛下の守ろうとした王家の栄光を取り戻さねばならないのだから。
とは言え戴冠式の最中にこちらが下手にでて振る舞えば今度は国民からの支持を更に失いかねない。息が詰まりそうなプレッシャーの中、必死に思考を巡らせて打開策を模索する。ビスマルクはそんな私の様子を感情を読めない表情で見つめていた。
「……ウォースパイトさ…ウォースパイトの様な振る舞いをするモノは今のロイヤルには居ませんよ。その様な言動をしたモノは全員左遷されましたから。貴方方がご懸念なのは自国民からの反発。それなら───」
陛下は流石ね。ビスマルクがこうやって揚げ足を取って反発する事を予想していたようでいくつかの対処法を私に伝授してくれていた。それがビスマルクが納得するかどうかは別として交渉はいよいよ本番だ。
そう思いつつ複数の代案を頭に浮かべどの手札を切ろうかと考えていると、コンコンと控えめなノック音が部屋に響いた。
「失礼します」
恐縮しながら入ってきた一人の男性を見た途端。私はビスマルクが何処までも私の事を試しているのだという事を理解してしまった。温厚な声音、優しげな雰囲気、人の良さそうな笑顔。黒を基調とした軍服に身を包んだ茶髪の青年は私とビスマルクを見比べると、困ったような顔を浮かべて軽く会釈をしてくる。
(っ!?……ビス、マルク…!)
忘れた事はない。忘れられる訳がない。
喉元どころか内臓を全て引き摺り出してそのまま燃やしてしまいたい程に憎い男の声。この場で怒りに任せて声を荒げるわけにもいかない。冷静になれと自分に言い聞かせながら呼吸を整えようとするがトラウマが蘇ってくる。
私達の名誉を、故郷を、誇りを、そして未来を奪った男の顔を。
コイツのせいで私の人生は滅茶苦茶になった。
全てを失った、何もかも失った。
目の前の男の顔を見るだけで心の奥底からどす黒い憎悪と殺意が湧き上がってくる。
殺せ、殺せ、コロセ!!!
私の身体を支配しようと囁いてくる怨念に抗うように歯を食いしばり拳を握りしめる。爪が掌に突き刺さるが気にしない。痛みなど憎悪と復讐心に塗りつぶされて感じなくなっていた。だがそれを上回るのは恐怖と不安。そして何よりも彼をみすみす取り逃した事で起きた惨劇に対する後悔だった。
「ああ、来てくれたのね?そこに座ってちょうだい」
「…それで、この…こちらの人が、例の指揮官でしょうか?」
「ええ、そうよ」
言葉を選びながら様々な感情で脳が焼き切れそうな私に向かいビスマルクは短く肯定する。指揮官と呼ばれた男は私の姿を見ると少しだけ驚いた様に目を大きくしたがすぐに元の柔和な笑みを浮かべて小さく一礼をしてきた。
「初めまして。キール第三基地所属の司令官を勤務しております。ヴァイスクレー・ヘルブストと申します。ロイヤルからの客人の方ですね?以後お見知りおきを」
なんか聞き覚えのあるような無い様な……ヴィシアからの任務を終えて家族の皆と束の間の休暇を楽しんでいたのだが、唐突にビスマルクさんに今すぐに服を整えてきて欲しいと言われて慌てて着替えて来てみれば。ビスマルクさんは見知らぬ白髪の少女とコーヒーを片手に雑談をしている所だった。
装飾を見る限り彼女はロイヤル出身なのは確定だろう。燃える様な赤髪をした護衛らしい人物の服装もロイヤルの騎士団に所属してる人の物と似ている。何よりもグラーフに散々搾り取られた夜、そろそろロイヤルから使者がやってくるだろうから覚悟しておけと胸の中で言われていたので彼女がそのロイヤルからの使いだと推測するのは容易かった。
しばしの無言の雰囲気が部屋中に漂う。少女はこちらへの敵意を必死に隠そうとしているがまぁ俺がロイヤルに恨まれるのは当然だし、それは仕方ないだろう。というかビスマルクさんなんで俺を呼んだの?なんかこの子表情は取り繕ってるけど凄い力で手を握りしめて殺してやるぞヘルブスト…!と言わんばかりに睨んできて怖いんだけど……。
「お話の続きをどうぞ。私が口を挟む事もアレでしょうしなんでしたら別室で待機しておきましょうか?」
「大丈夫よ。それに取り繕わなくても結構。今回は貴方にも関係がある事だから……ヴァリアント。改めて話の続きを彼にして貰えないかしら?やってきた理由も含めてね」
「……分かりました」
口を挟むべきじゃないかな?と取り敢えず話の続きを促してみるが一瞬でロイヤルの少女。ヴァリアントの表情から感情が消え失せる。あ、これ絶対面倒臭い話になるやつだと思いつつコホンと咳払いをして彼女の次の言葉を待った。
「…では、新しい人も来たので改めての説明になる…なります、が今回の件はロイヤルからの提案であります」
なんとか口調の修正をしている感じをしながらも、ヴァリアントは淡々と説明を始めた。
「…例の件の締結以降、エリザベス陛下に対する責任の追求や糾弾などが多々あり…その、責任を以って解任される運びとなりまして」
………なんでそんな事に……なんて本人の前では口が裂けても言えないが思わず目を背けざるを得ない。ロンドンやイラストリアス達の祖国を徹底的に追い詰める為に自らも加担していたのだからそりゃ目の前の彼女に恨まれても仕方ない。
だが、どこかヴァリアントが俺に向ける感情は何かを訴えかけているような気がする。陛下を貶めたクソ野郎という感情だけではなく、硬く握りしめた手からはもっと別の感情があるように思えた。
「…そのような訳で、私が…ヴァリアントが挨拶も兼ねて会いに来ていたのと……同時に、陛下だけではなくエリザベス様を支持した上層部の方もどうやら刷新されてしまい…これ以上は鉄血とは仲を悪くし続けるよりは適度な距離感に戻して対セイレーンに集中しつつ…我々も失った信頼を取り戻そうと……」
「つまり、関係が修復したアピールとして…その就任式に、鉄血から人を派遣して貰うために貴女が使者としてやって来た、と」
これ以上俺と出来る限り話したく無いのかヴァリアントは目を逸らして俯きながらこくりと頷く。同時にグラーフからもしかすれば俺がロイヤルに派遣される事になるかもしれないと忠告していた事を思い出す。
最初は流石に嫌われてる俺が呼ばれる訳……と思ったが少なくともこの部屋に呼び出した以上ビスマルクさんは俺を派遣する気満々なんだろう。案の定ビスマルクさんは咳払いと共に俺に視線を向けていた。
「ええ、当然陣営代表として私は行く事になるけれども…あなたにも来てもらうわよ?」
……これ連絡で告げたら断られるから言わなかった奴じゃねぇか!ヴェネトとグラーフから予め覚悟しろと言って貰わなかったら思い切り吹き出してましたねぇ!はははー畜生!!!
気まずいってレベルじゃないが俺もビスマルクさんに忠誠を誓った以上何でもすると以前言ってしまっているし、彼女も俺からの露骨に嫌ですよと言う目のアピールをガン無視している。
「因みにヴェネト…さんは?」
「当日に姉妹艦のローマが派遣されるみたいね。そんな訳で了承するわ。勿論こちらの国民も色々と反対するでしょうし、予めロイヤル側の要請だと就任式前に声明を出して貰う事を前提条件として他にもヴァリアントには色々と『お願い』する事になるかもしれないけれど…」
思わずヴェネトを呼び捨てにしかけたのを訂正しながら聞いてみれば、ビスマルクさんはヴァリアントを横目に見ながら小さく笑みを浮かべてそう言った。
「…ありがとうございますビスマルク様。本日は挨拶も兼ねてですので…詳しいお話はまた後日告げる事になりそうです。それと…そちらの指揮官…様、ロイヤルに来られた際に一つ、お話がありますので…お時間をいただくことはできますでしょうか?」
時間?と少し驚きながらもビスマルクさんを見るがそちらの判断に任せる、と目線だけで返される。ビスマルクさんも同行する以上ロイヤルが強硬手段を取るはずもないし、ここで断るのも色々と問題だろう。ヴァリアントさんは今も俺の目を見ていない様子だが構いませんよと伝えれば一瞬硬直した後に苦々しい表情を隠さずに小さく頭を下げてきた。
「…では、以上が本日の要件となります…お時間をいただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらとしても意義はあったわ。送りは…」
「…いえ、不要です…それでは、ありがとうございました。本国に仕事も残っていますので。モナーク、行くわよ」
ビスマルクさんの言葉に被せる様にヴァリアントは立ち上が?と一礼をしてから護衛を伴い足早に部屋を出ていく。最後まで俯いた様子で表情を伺えなかった事と同時に僅かな違和感を感じつつドアが閉まった途端はぁ…と大きくため息を吐いてソファに背中を預けた。
「……仕方ないとはいえめっちゃ嫌われてますねあの人に。と言うかあそこまで露骨な対応されるとロイヤル行きに不安を感じますよ……」
「面倒な事に巻き込まれたって思っているわね?でも貴方がこれまで引き起こした騒動に比べれば可愛いものよ」
「それを言われると辛いですね……」
確かに俺のやってきたことを考えるとあからさまな敵意を向けられても仕方ないだろう。とは言え本人は隠そうと努力していたようだが、あそこまで露骨に嫌悪感を剥き出しにされるのは中々心にくるものがある。
「安心なさい。名目上は護衛で式典の時も私が一言話すけど貴方は何もしないで良いから。置物のように大人しく座っていてくれればいいわ……終わったら長期休暇で貴方の家族全員でヴェネト達に会いに行ける様に取り計らうから今回ばかりは我慢して頂戴」
「……ま、家族の為に頑張りましょうかね」
「悪いわね。本当は……貴方を政治的に利用するなんて事はしたくはないのだけれども」
「気にしてませんよ。それに、ビスマルクさんには返しきれない程の恩がありますから」
俺の返答にビスマルクさんは一瞬驚いたような顔を見せた後、何かを思い出したかの様な沈痛な面持ちで目を伏せる。詳しい事情は調べては無いが彼女は以前一人の指揮官を政治的に利用した結果廃人にしてしまったと懺悔するかのように語っていた。その事を思い出してしまったのかと察して話題を変える。
「さて、これから忙しくなりそうですし、俺は一度戻ろうと思いますが……」
「……えぇ、明日から使いを送るまで業務は休んで構わないわ。シュペー達と一週間くらい会えなくなるでしょうし家族サービスをしてあげて……私も今回の件で暫くは缶詰になるから」
「分かりました……っとそうだ、ちょっと気になってたんですが」
最後に一つ、ふと疑問に思ったことをビスマルクさんに尋ねてみる。それは先程から感じていた事だった。
「俺じゃなくてティルピッツさん辺りを派遣する訳にはいかなかったんですか?他にもグローセさんやローンさんだっているでしょうし、わざわざ俺とビスマルクさんが二人で行かなくても……」
事実、サディアではヴェネトの妹のローマさんだけを派遣するみたいでヴィシアだってダンケルクさんかアルジェリーさん辺りを送る事になるだろう。
ロイヤルはレッドアクシズからの使者派遣を望んでいたとしても一人派遣すれば済んだはずだ。だと言うのにわざわざ俺を指定した上でビスマルクさん本人もロイヤルに向かうという事がどうしても引っかかった。
「……そういえばなんででしょうね?」
「えっ」
しかし、当のビスマルクさんは首を傾げている。いや、待ってそんなハッとした表情されてもこっちが困りますって。
「……ほら、ティルピッツには私がいない場合の後を任せておく必要もあるわ。それに私はほら、レッドアクシズの盟主みたいな立ち位置だから鉄血だけではなくレッドアクシズを代表して向かう必要が……いや、その場合でもわざわざ貴方を連れていく理由にはならないわね」
「えー……」
「うーん……なんでかしらね?」
本当に分かって無いんかい!と言いかけた言葉を慌てて飲み込む。はっきり言って護衛としては俺はシュペーに10回やって10回とも白兵戦訓練では投げ飛ばされて、射撃の腕もイマイチだ。もっと言えばわざわざ俺が派遣されても先方を煽るだけの結果になるのでは?なんて生意気にも考えてしまう。
「……今更やっぱり貴方を連れて行かないなんて言うのも伝えにくいし、社会と外交の勉強だと思って頑張って頂戴。ロイヤルはバカな事はしないと思うけど……貴方の事は私が命にかけても守って見せるわ」
ポンと肩を叩かれつつ、毎回思うが女の子に護ると言われる男って構図は普通逆じゃないかなぁ……と思いながら、決まってしまった以上、ビスマルクさんのサポートに徹しつつ社会勉強をしに行こうと決意する。
「それにしても……何故ヴァリアントは貴方の事をあんな目でみてたのかしら?」
そんな呟きを耳にしつつも、こうして俺とビスマルクさんのロイヤルを舞台にした騒動劇が幕を開けるのであった。
「私は…アイツの眼中に……あぁ…ああぁ…!!」
そして、そんな指揮官達と時を同じくして、別室にて慟哭の叫びをあげるヴァリアントにモナークは無言でただ見つめているだけであった。
ポイント①
指揮官はヴァリアントの名前も知らない上にそれまでの密度の濃い出来事によってレス島で言葉を交わした女性の声を覚えてはいない。またビスマルクも知らない状態で指揮官を交渉の場に呼んだことで悪夢に今もうなされているヴァリアントは酷い状態になった。
ポイント②
ネプチューンとモナークはエリザベス陛下に戦後全ての事を話された上で謝罪を受けた。ネプチューンは笑顔で応じたがモナークは無言だったらしくその後ヴァリアントの騎士団長になったのだが会話は殆どない。
ポイント③
世間一般では対等な講和であるが事実上ロイヤルの一人負けな戦争によってロイヤル国民からの支持はレッドアクシズ側の情報流出や戦後kansenは豪華な扱いを受けたが他の捕虜は労働に重視させられた事による分断工作などによって最早ほとんど無くなっている。その為ヴァリアント陛下の体制はガタガタであって旧エリザベス派のkansen達は左遷やアズールレーン本部勤務など本国から多くが離れている。
次回はいよいよビスマルクと指揮官がロイヤルに。とは言え面倒ごとに巻き込まれることに定評のある指揮官を伴った船旅は一筋縄では行かないようで……ダイスの女神様の暴走が始まるでしょう。
なお今回のダイスにてヴァリアントがやってきた理由も全てダイスによって決められており。
dice1d10=10 (10)
1~3.政略的なあれこれ
4~6.賠償艦扱いかぁ…
7~9.保護の希望
10.*おおっと*←ファンブル
dice1d10=4 (4)
1~3.と言うか、イラストリアス様からの希望というか…その…
4~6.トップの代替わりかぁ…←確定
7~9.どうか、エリザベス陛下をお助け願えないでしょうか
10.*おおっと*
dice1d10=6 (6)
1~3.…まあその、KAN-SEN自体がもうね…
4~6.と言う訳で、私が挨拶も兼ねて来ていたのと…←新陛下ヴァリアント
7~9.ジョージ辺りが着くらしいよ
10.*おおっと*
本来であればエリザベス陛下がまだ陛下をやっていたのですが、ファンブルによって代替わりしなければいけない事態に。また後継者もダイスによってヴァリアントが陛下になるのでした。
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄