鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第九話 砲弾の雨と交渉と

 

 

 戦場をこの身で経験して理解した事の一つが、戦いは自身の思い通りにならず、乱暴で無規則であり、教本のような理想的な陣形や作戦なんて直ぐに吹き飛んでしまうと言う事実だ。

 

 チェスの様に駒が全てルールに則った動きをするはずもない。時には突っ込み、時には離れて、逃げて、砲撃と戦場はまるで生きているかのようにリアルタイムで変化していき、計画通りに策が決まるだなんてとんでもない。

 

 

 どれだけ教本で学ぼうが、実際の戦場では教本通りに上手くいくはずもない。ユニオンのジョーンズ提督にロイヤルのネルソン提督。重桜の東郷提督のような歴史を名を残す優秀な艦隊指揮官であれば寧ろ戦場を支配して自らが望むフィールドを作り出す事も可能かも知れないが……実戦経験の乏しい今の自分にはそんな都合のいい事は不可能であった。

 

 

 正面からは自身の命を惜しまずにただ目の前の敵を殺戮しようと突っ込んでくるセイレーンの量産機。そして後方からは敵である筈のセイレーンを無視して、こちらに次々と飛来する砲撃の嵐。穏やかな水面はその度に水飛沫を上げて戦場には必死に指示を出す自身の声がマイクを通じて響き渡る。

 

 

 「こちらキール第三基地司令!!現在レス島付近の海域にて、パトロール中に発見したセイレーンと交戦中!さらにロイヤルが介入してこちらに砲撃を…」

 

ロイヤル戦艦の砲撃を避けながら現在の状況を本部に伝えようとした瞬間、砲撃音と共に後方寄り真っ赤な榴弾が飛来する。自身の指揮艦が盾になる時間もなく通信機を放り捨て、マイクを片手に声を張る。

 

 

「クソッ!!まただ!!シュペー右に急いで回避を!!ビスマルクさん!応答お願いします!! 」

 

 一分どころか一秒すらも惜しい。本部と通信が中々繋がらない事に苛立ちが募り、シールドにロイヤルの砲撃が着弾し、耐久力を削っていく。全速力で避けようとするも此方に次々と集結する残存セイレーンにより動きが阻害される。

 

 グラーフ達はそれでも戦い続け、着実にセイレーンの数を減らしてはいるが、砲撃による妨害でその速度も鈍い。砲撃を避け、セイレーンの攻撃を避け、なおかつセイレーンを撃破していく。しかし彼女達にも疲労が蓄積していき油断をすればいつ怪我をしても仕方のない状況だ。

 

 バルト海海戦に於けるイーグル達と似たような状況ではあるが、まさか自分達がそんな状況に追い込まれるだなんて……最早絶望する余裕すらなく、俺達は戦場に必死で食らいつきながら本部からの連絡を待つ他なかった。

 

 

『こちら本部のビスマルク。こんな状態で落ち着いて居られないのは分かるけど、焦らずに、冷静に現在の状況を細かく説明しなさい』

 

 

 やっと繋がった……!手汗を服で拭いながら通信機を手に取るも安堵する余裕はない。今もヒッパー達は戦っているんだ、一刻も早く状況を打破する為に息を深く吐きながらレーダーを確認しながら一言一句漏らさずに注意深く口を開く。

 

 ガンガンと砲弾がシールドに着弾するたびに鈍い音を出し、饅頭の操舵によって船は嵐にでもあったかのように激しく揺れてしまい原始的な恐怖心が身を引き裂こうとするも、鉄血軍人の責務を果たそうと胸元の鷲章を手で握りしめて恐怖を振り払う。

 

『了解したわ、すぐに部隊を回すからあと少しだけ、少しだけ耐えて頂戴。また、ロイヤルなのね……ともあれ直ぐに派遣できる戦力は』

 

「なんです!?何を考えているんです!? 」

 

 焦りをのせいで少しだけ考え込むビスマルクさんに無礼な事この上ないが思わず叫んでしまう。

 

『少し離れてるけどパトロール中のシャルン達第二遊撃艦隊を今すぐ向かわせるわ』

 

「時間は!? 」

 

『30……いや彼女達なら20分も有ればレス島に向かえるはず。キツイかも知らないけどとにかく耐えて頂戴。私は、鉄血は貴方達を絶対に見捨てたりしないわ。ただし、無理だと判断した場合直ぐに撤退しなさい。責任は私が取るわ』

 

第二遊撃艦隊といえば前回の戦いで自分達を救ってくれた歴戦の部隊。彼らが到達すれば心強いとはいえタイムリミットは20分。それまでの選択によって勝利も、敗北も、そしてヒッパーやレス島の民間人の生死すらも自身に委ねられた事を理解してしまい、プレッシャーで心臓が早鐘を打つ。

 

 了解ですと言い切って通信を切りながらレーダーを確認すればセイレーンの反応が一つ、また一つと消えていく。自身が通信をしている最中も彼女達は戦い続けてくれたんだ。

 

 死なせるもんか……絶対に、誰も……!

 

「こちら指揮官!ヒッパー、シュペー、グラーフ喜べ!あと20分だ!20分すれば絶対に援軍は来る!それまで耐えてくれ……! 」

 

「そんなに怒鳴らなくても聞こえるっての!わかったからアンタは自分の指揮艦の心配をしなさい!的がデカイんだか…ら!! 」

 

 現状を伝えると目の前のビショップ級重巡を砲撃しながらヒッパーは叫び返す。普段の数倍はイライラしている事が分かるが、精細を欠く事もなく砲弾の雨を避けながら次々とセイレーンを海の底に沈めていく。

 

 

 しかし、追加でビショップ級近くの軽巡ナイト級を攻撃しようした瞬間、後方からの砲撃によってヒッパーは舌打ちをしながら砲戦の態勢を解いて回避に移る。

 

 ロイヤルは遠距離でバカスカ砲撃してくるのでこちらは避けるのに必死だ。攻撃に時間の掛かる空母グラーフに至っては発艦作業をしようにもその隙もない。その姿に必死でバルト海海戦で抵抗をしていたイーグルの姿が重なってしまうが、ロイヤルと鉄血の立場が真逆になってしまったのは何という皮肉。

 

 今は、まず数が減っているとはいえセイレーンを撃破しなければ。そして最悪の事態であるロイヤルに増援が来る前に目的を達成しなければ。ここで援軍登場!!……なんて所までイーグル達と行動がリンクしないでくれよと天に祈りつつ、ついでにロイヤルのバーカ!バーカ!!と内心子供の様に叫びながら再び戦場とレーダーを見つめながら20分というタイムリミットを待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「奇襲くらいで、こっちをやれると思ってんじゃないってえのぉ! 」

 

 この戦いで最も活躍したkansenは間違いなくヒッパーだ。攻め続けられてしまいグラーフの航空隊の援護が不調な状態でセイレーンとロイヤルによる二つの勢力からの砲撃を諸共せずに、敵セイレーンの攻撃をシールド頼りに防御しつつも接近戦によって敵を仕留めていく。

 

「ヒッパー後方より! 」

 

「読んでる、てのぉ! 」

 

 魚雷を敵重巡懐に捩じ込み、今まさに自身を狙っていた二隻の敵駆逐を振り返りもせずに左の生態艤装が後ろを向いた瞬間唸る様な声と共に主砲が連続で放たれ、ヒッパーの撃墜スコアの数を量産していく。敵セイレーンの数はあと七隻だ。

 

「こいつで堕ちなさいっての! 」

 

 追加で放たれた魚雷は敵セイレーンの命を刈り取り反撃も虚しく殺戮機械は傾斜していく。

 

 残った敵は五隻。残り時間14分。

 

「ふふっ、ヒッパーだけにやらせるものか。こちらも……後であの愚かな連中に様があるのでな」

 

 ロイヤルからの砲撃を避けつつ、一瞬の隙をを突いて放たれたスツーカが悪魔のサイレンが鳴り響がせながら爆弾を投下して敵セイレーンは沈黙する。

 

 三隻。残り時間12分

 

「負けられない。勝利のために、任務を遂行する為に」

 

 二隻。

 

 一隻。

 

「そして……皆で帰るんだから……!これで、ラスト! 」

 

 シュペーの叫びと共に魚雷が惜しげもなく放たれ、最後の一隻であった半壊状態の駆逐艦に命中し、傾斜の余裕すらなく大爆発と共に最後のセイレーンは轟音と共に吹き飛ぶ……が。

 

 その瞬間気を緩んでしまったのが要因なのだろうか?俺は安堵の吐息と共に一瞬だけレーダーから目を離してしまい。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 

 ーー遂にロイヤルからのドォン、と鈍い音が響いたのかと思えば、一発の砲撃が鋭く……アドミラル・グラーフ・シュペーに着弾する。

 

 

「シュペー!?」

 

 シュペーのくぐもった声が耳に届いたと同時に一瞬で呼吸が出来なくなり左手を心臓を掴むように胸元を押し付ける、吐き気がする。目眩がする。今のは気がつけたろう。なんで俺は指揮出来なかったと息が荒くなる。

 

 思わず吐瀉物が喉元まで届きそうになるが、それを無理やり飲み込むと、即座にレーダーを確認。轟沈判定……出ていない。最悪の事態は免れたが一歩間違えばシュペーを殺していたのは自分だと思い切り自身をぶん殴りたくなる欲求に駆られてしまう。

 

『だ、大丈夫。ケホッ…主砲も魚雷も壊れてないし、これくらいなら……まだやれる。指揮官、次の指示を……! 』

 

 敵戦艦の主砲攻撃を直撃では無いとはいえモロに受けたからだろう。レーダー上では小破判定を受け、少し顔を歪めながらもシュペーは俺に次の指示を仰いでくれる。

 

 今は、ネガティブになるな。最後のセイレーンを黙らせて援軍到着までの残り時間は10分。ロイヤルが戦場に介入する前にあらかた主力艦である戦艦ルーク級を撃破していた事幸いし、何よりも敵の弾幕を掻い潜り撃破する事に慣れているヒッパーのお陰でどうにか短期間までにセイレーンを撲滅することには成功した。

 

 とはいえ予想通りだがロイヤルからの砲撃は止む気配はない。セイレーンが既に撃破されたと言うことは既に相手も分かっている以上、少なくてもロイヤルは戦いを継続する気なのだろう。

 

 このままではジリ貧だ。撤退する……しかない。レス島の住民の命は守り切る事が出来た、悔しいがシュペーが小破してしまい此方の疲労も溜まっている中で戦艦三隻の砲撃の嵐に突っ込むのは自殺行為だろう。

 

(自分の船を盾にして皆を後方に下げてグラーフが距離を取ってその隙に発艦、爆撃で相手を攻撃している内に俺も含めて全員離脱……いやこの船が耐えられるか?)

 

 最悪最も硬い俺の船が皆の盾になれば確実に撤退できるだろう。怖い、でもガムシャラに撤退するよりも少なくても三人の命はこちらの方が生存確率は高くなるはずだ。

 

 第二遊撃艦隊には悪いが向こうの勢いが止まない以上、もう何度も攻撃を受けていられない。早速撤退の準備をしなければ……ユトランド政府がロイヤルではなくこちらの言い分を信じてくれる事を祈ろう。

 

「皆聞いてくれ、今からーー」

 

 こうして悔しさを胸に撤退の決断を皆に伝えようとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーあー、ねえ?これでいいのかしら?……えーあー……コホン、こちらロイヤル、そっちの指揮官?聞こえているかしら? 』

 

 

 砲撃の嵐が止み、唐突に幼い少女のような舌足らずな声が、後方から国際チャンネルを通じた音声通信がこの船に、グラーフ達の耳に直接届く。

 

 一瞬少女の声に面を食らい、相手が何を企んでいるんだと訝しんでグラーフに目を向けると、向こうもこちらを見返し……一時的に彼女に指揮権を渡し、こちらは通信に応じる事しかないか。マンジュウに指示を出して通信機を国際チャンネルに変更するとマイクの音量を上げながら深呼吸をする。

 

 思う所は、ある。それでも向こうが交渉を口にしたのだからこちらも要請に応じて、出来る限り情報を集めなければ。

 

 

『こちら鉄血の指揮官の……何用ですかな?可愛らしい声をしたお嬢さん』

 

 精一杯の皮肉混じりに小さな子供に話しかけるようにロイヤルの旗艦らしき少女に通信越しより話しかける。後方を見ると煙幕で覆われており相手を特定する事は不可能だが声の主が三隻の戦艦の内の一人、つまり旗艦の少女なのだろう。

 

『あら、鉄血のヒトにしてはお上手ね?』

 

 

『お褒めいただき光栄ですね。しかし、カテガット海峡はスカンジナビアにも隣接してる地域とはいえ領海はほぼユトランドのもの。そして、レス島周辺は明らかにアズールレーンの管理区画ではないのですが……どうしてあなた方はわざわざユトランドの領海を侵犯しているのでしょうか?あまつさえ「何発かの」攻撃がこちらに降り注いで被害も出ているのですが返答を願えますか?』

 

『全く……今更何を言っているのかしら? 』

 

 抗議をするも意味はなく、完全にこちらを小馬鹿にしたような声が耳に届く……ふー落ち着け、落ち着くんだ。これは交渉、交渉だ。激昂した方が負けだ。

 

(うるせぇよ!何発かどころか全部明らかにセイレーン無視した鉄血狙いの砲撃だったじゃねぇかロイヤルのバーーカ!!)

 

 と今叫んだ所で意味はない、そうめちゃくちゃやりたくなるが我慢、我慢。イーグルにポーカーフェイスを練習しろと言った手前必死で精神で心を沈めさせる。

 

 

『今更とは?もしよろしければ、無学な私に御教授を願えますかね?お嬢さん』

 

『もう、そんなの決まってるじゃない。アズールレーンの理念は蒼き航路を守ること。スカンジナビアの領海でなくても付近にセイレーンがいるのなら、いずれこちらに来る可能性もあるのだからその前に攻撃しただけよ。領海侵犯と言われても私達は何よりもまず人類種の敵であるセイレーンを撲滅するのが使命だもの』

 

「…っ…!? 」

 

 

『それに砲撃云々と言われてもこちらに国際救難チャンネルで通信して作戦行動中だと言わなかった貴方達も悪いわ。少なくても私達はセイレーンを狙っていたというのに、全く人聞きの悪い事は言わないで欲しいわ』

 

「何を、今更……!! 」

 

「シュペー大丈夫、全部俺に任せてくれ」

 

 

 傷を負った上でレス島の住民まで犠牲にする可能性が捨てきれない以上、優しいシュペーには余りにも許されない事だったんだろう。抗議の声をあげようとするも、彼女に頼んで今は少しだけ大人しくてもらう。

 

 ヒッパーとグラーフの姿は見なくてもいいだろう、今は大人しくしてくれているが、どうせどんな表情をしているのか分かりきっているのだから。

 

『成程国際チャンネルで伝えなかったのはこちらの落ち度でしょう……さてロイヤルの皆様単刀直入に申しましょうか?あなた方の目的は? 』

 

『ふふっ話が早くて助かるわ。何、話は単純よ……このまま沈められたく無ければ、降伏を勧めるわ。偶然セイレーン戦で「共闘」したとはいえ私達ロイヤルと鉄血は戦争中。いずれこちらの援軍も到着すると包囲されるのは鉄血艦隊。そちらだって、戦局の流れが読めないほど()鹿()ではないでしょう? 』

 

 

 ……まあ、確かにこのままであれば勢いも戦力も向こうにあり、押し切られてしまうだろうな……このままでは、だけどね。

 

 

『んーー?成る程、そちらの意図は読めましたが……降伏するか否か決める前に一つだけ聞きたい事があるのですが答えて頂きますかな?それを聞いた上で判断させて頂きますのでどう答えるのかはそちらのご自由に』

 

『…… いいわ、一つだけ、なら答えてあげる。でもいいわね?それを聞いたのならあなたも答えを出しなさい。答えない、と言うのであれば……相応の対応でやらせてもらうわよ? 」

 

 答える義理もないだろうにロイヤルの旗艦は一瞬だけ考えたかのように黙りこくると、こちらの誘いに乗ってくれた。敵対しているとはいえ根っこ部分は素直な少女だからなのか、それともそれだけロイヤルに余裕があるという別の意図があるのか。

 

 とはいえ何を話すべきか?ロイヤルに言いたい事はいくつもあるが……よしこれでいこう。

 

『あまり、こういうのは好きじゃないんですけどね?俺達が捕まったら……捕虜の子、どうなると思うかな? 』

 

 そう切り出した瞬間、通信の向こうの圧力があからさまに強くなるように感じる。いや、ほんとこういう話は使いたくないんだけどね?

 

 

『……アンタ』

 

『いやー実はね?そっちの子を捕まえる時に俺も捕虜の世話なんかを担当する一人になってねー!困っちゃうよねーその担当する一人である俺がいなくなっちゃったら、捕虜の子達どういう扱いになっちゃうだろうね?今のとこはまだ無事にはいるんだけどさー?君たち、捕虜の居場所とか分かってないんじゃないかなー?あはっはっは』

 

 

 最早敬語すら使わずに逆に相手を挑発するように捕虜について揺さぶりをかける。ロイヤルに録音されていても向こうは捕虜について録音を公開すれば自分たちが領海侵犯をした挙句、停戦勧告を無視して攻撃を仕掛けたと世界に鉄血は暴露するのだから別にいいだろう。

 

 

 

 その言葉に、あからさまに向こうの怒気が高まっているのがよく分かると同時にこちらのストレスが一気に発散されていく事を感じていく。性格が悪いのだろうか?まぁ捕虜に手を出す事は100%あり得ないんだけどね。

 

『………ふー………』

 

ひとつ、向こうは長く息を吐き……ああ、これはちょっと不味いかな?

 

『なら、要するにアンタを捕まえて……アンタに捕虜の元に案内させればいい訳ね。捕虜に何かあったらアンタも……覚悟する事ね?』

 

 

 ……失敗したか。激高なり何なりすると思っていたが向こうも割と冷静のようだ。

 

『……よくわかったわ、えぇよく分かったわ……とりあえず、アンタはまず私が直々に捕まえてあげる、覚悟しなさい』

 

 冷静にそして憎悪を隠さずに通信越しから殺意の感じる声が全員の耳に届く、だがまあ、こちらにとっても収穫はあった。

 

 

 

 

 ならアンタたちを捕獲して捕虜の場所まで案内してもらう……つまり、こちらにスパイが紛れ込んでいる疑惑があるものの少なくてもロイヤルは、少なくてもこの旗艦は捕虜の情報は何も掴んでいないのだろう。

 

 つまり向こうは捕虜の場所も情報も何も知らないのだから奪還作戦は不可能。これで彼女達が大規模艦隊の先鋒という可能性も消えてしまい、レス島周辺はロイヤル本国から離れているのだからイーグルと同じく援軍も難しいのだろう。幸いこちらが体を張った事で、ロイヤルに援軍が来てない時点でスカンジナビアがロイヤルに基地に提供していない事も確実。もしスカンジナビアに基地があると言うのなら……何故レーダーはまだ四隻のままなのだろうか?

 

 

 

 恐らく相手は捕虜を取り返すための威力偵察でこちらを狙ったと言う事もなく、偶発的にパトロール中に発見していたのであわよくばと攻撃しただけだろう、奪還作戦や再度本土攻撃を果たすための部隊であるのなら数が余りにも少なく、「あのロイヤルが」捕虜の居場所も知らずに稚拙な作戦行動を起こすはずないのだから。

 

「マンジュウ、パーティーの招待状を送りつけろ。盛大にと付けて、な」

 

 

 つまり……俺たちの勝利だ。 

 

 

 

『最後に一つ、忠告と言うか……まあ警告だよ、次からは俺みたいなのとは話さない方がいいぜ? 』

 

 

『はっ?』

 

 

 

 

 鋼鉄の裁きが傲慢な獅子に鉄槌を下す。

 

 ロイヤルの側面により無数の砲撃が降り注ぎ、煙幕ごと消し飛ばさんとばかりに大量の榴弾によって海が赤々と燃え広がる。

 

 レーダーより多数の戦艦を含めた新たなる反応が複数現れる。

 

 その識別コードはレッドアクシズ。

 

 その所属は鉄血公国。

 

 その所属部隊は第二遊撃艦隊。

 

 きっかりと20分。時間を稼がせてもらったよ。

 

 

 

 

『ッ……!アンタは……! 』

 

 

『押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは()鹿()ってことだよ。覚えておくといい』

 

 

 何か言いたげだったようだが、向こうも余裕はないらしく。捨て台詞すらなく通信が切られてしまう。

 

 さて……やるか。

 

「グラーフ!発艦準備はできているな!シュペーとヒッパーも砲撃準備!目標は逃亡中のロイヤル艦隊!スカンジナビアの領海には火薬一つ落とすなよ!ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を!全ての火力を集中させて攻撃開始! 」

 

 そう話し切るや否や横を見るとグラーフはそれはもう凄い勢いでJu-87Cスツーカ爆撃機を大量に上空に羽ばたかせ、次々と下がっていくロイヤル艦隊に爆撃機を向かわせる。

 

「……ふふっ……」

 

 その表情は余りにも清々しい笑顔であり、恐らく交渉中に全てを理解して発艦準備を進めていたのだろう。遠方より悪魔のサイレンが鳴り響いたかと思えば爆弾が爆ぜる音が砲撃音と同時に聴こえてくる。

 

「ふふっ……ふふふっ……! 」

 

 笑ってる。めっちゃいい笑顔だけどめっちゃ怖い。ずっとロイヤル相手では黙っていたとはいえ、よほど溜まっていたのだろう。ヒッパーとシュペーを見るとグラーフの余りの笑顔に先程までの怒りも吹き飛んだかのような困惑した表情。

 

 

「ふふっ……相手はどれが旗艦か不明だが白髪か銀髪の少女らしい相手を中心に輪形陣を組んでいるな。あれは駆逐か?それとも旗艦か?もうすぐ、スカンジナビア国境だがネズミの足は速い。どうにか全員小〜中破に追い込んだが……出来ればもっと……ふふっ……ふふふっ……! 」

 

 

 今の今までシュペー、ヒッパー、そして俺よりも最もロイヤルに怒りを溜め込んでいたののだろう。更に折角を艦載機を発艦させる邪魔をした挙句交渉のせいで……俺はその瞬間理解した。権力や幹部である事は関係なく、この人を怒らせたら最悪命にすら関わると。

 

 

 ふぅ……やっと終わった……

 

 緊張の糸が一気に切れ、ふぅとため息を吐きながら椅子にどかりと座る。なんだかこんな事前もあったな、そう言えばこの戦闘が二回目かよ、なんで俺の艦隊にはロイヤルにこうも縁があるんだよ……

 

「ピヨ、ピヨヨ」

 

 疲れたままいっそこのまま眠ってやろうかと言う誘惑に負けそうになるもマンジュウが通信機を指差すと、どうやら第二遊撃艦隊より通信が届いたようだ。

 

 そういえば、前は戦闘終了後に完全に彼らを無視してしまい迷惑をかけてしまったな……今度こそお礼を言わなければ。

 

 

『こちら第二遊撃艦隊指揮官、お疲れ様でした。本当に、災難でしたね……」

 

通信越しから聞こえる声はやや幼い少年の声、第二遊撃艦隊の指揮官は未成年だと以前の戦いの後グナイゼナウさんに聞いていたが、それでも自分とは比べ物にならない程戦い続けてきた先輩指揮官に少しだけ緊張してしまう。

 

「ええっ前もこんな事がありましたから、それとまた菓子の詰め合わせセット送らせて頂きますね」

 

『いえいえお気になさらずに。それとですね……通信、聞かせてもらいましたが、実質貴方は口だけでロイヤル足止めしてしていたのでは?』

 

「いえ、相手の方から通信が来ましたから結果的に時間稼ぎになっただけですよ。あと一歩遅ければ危なかったです、本当ありがとうございます」

 

『そうですか……それではお疲れ様でした。念には念を入れて基地まで護衛します、通信終了』

 

 

 通信を終えると再度椅子に座り込み、今回の戦いを振り返る。もし当たりどころが悪ければあの時シュペーは、今回は成功したがもし激昂の余りロイヤルの戦艦達が砲撃を怒りのまま再開していれば……反省点は幾らでもある。今回の勝利は俺の功績ではなくグラーフ達の練度と第二遊撃艦隊によるものだ。

 

 もっと学びもっと強くならなければ。

 

 そして今度こそ三人の練度任せではない勝利を掴み取らなければ。

 

 こうして後に「レス島防衛戦」と呼ばれた三つ巴の戦いは終結し、ピヨピヨとマンジュウは座っている俺に冷たいミルクココアを差し出してくれた。

 

 勝ったはずだと言うのに、甘いはずなのに。勝利の美酒は……少しだけ、苦く感じる味わいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アネキ!無茶だよ!もう19時間も寝てないでしょ!?仮眠取らないと!」

 

「大丈夫よティルピッツ、大丈夫だから……」

 

「あたしの名前はU-556だって!もう目に焦点が合ってないって!寝てよ!寝てよアネキー!!! 」

 

 

 

 

 

 

 




・唐突に幼い少女のような舌足らずな声が、後方から国際チャンネルを通じた音声通信がこの船に、グラーフ達の耳に直接届く。


煙幕が炊かれており指揮官は気が付きませんでしたがその正体はヴァリアント。クイーン・エリザベス級の四番艦であり、実はかなりの重要人物でした。
指揮官はレス島の住民をロイヤルは生贄に捧げるのでは?最悪の事態を危惧していましたが、少なくても彼女はロイヤルの幹部の中ではかなり甘い性格上、レス島の住民が犠牲になる事を了承するはずもなく
仮に鉄血が撤退するならそのまま普通にセイレーンを撃破。鉄血を翻弄し、民間人の命を救った自身のカリスマを世界に示そうとしていたでしょう。ただし鉄血から国際チャンネル経由で通信が実際に届いていても黙殺していた事でしょうが。


・ヴァリアント視点
パトロール中にセイレーンと交戦中鉄血を発見、しかも「あの」グラーフ・ツェッペリンまでいる部隊!
数的には四隻もいるこちらは不利ではなく、セイレーンと同士討ちさせて弱らせよう!最悪逃げてもあの数なら私達の部隊で余裕でセイレーンも撲滅できるからよし!
あれ?鉄血が逃げないわよ?それどころか余裕ないのか反撃してこない!もしかして足でもやられたのかしら?ラッキー!嘘ついて降伏勧告行うわよ!イーグル達が捕虜になってるのならきっと何か知ってるはずだし、情報知らなくても一人でも捕虜にすれば捕虜交換も出来るから!

ちなみに指揮官視点のヴァリアントは詰めが甘く根が素直?とはいえ、レス島の住民を犠牲にしようとした疑惑のある油断ならない策士な女
仮にヴァリアントにその事を指揮官が指摘していればはぁ!?王家の戦士が(敵対している鉄血艦隊を傷つけるのは兎も角)民間人にそんな事するわけないでしょ!?と交渉モードの顔を捨てて怒っていた事でしょう。

・『いえいえお気になさらずに、それとですね……通信、聞かせてもらいましたが実質貴方は口だけでロイヤル足止めしてしていたのでは?』

第二遊撃艦隊はレーダーに映るギリギリの範囲で待機をしていましたが、国際チャンネル経由からの通信を聞いた結果、口だけで足止めを行うあの指揮官を詐欺師か何かでは?とドン引きしていたそうな。

・裏話
何故ヴァリアントと交戦して交渉しているのかといえば、実の所最初のセイレーン戦さえ終わればこの戦闘は終了なのでした。
しかしダイススレの怖いところはたった一つのファンブルによって全てがカオスになってしまうと言う事。

10%の確率で新たなる反応→50%でそれはレッドアクシズの可能性もあったがアズールレーンに→60%ロイヤルと確定しランダムダイスの結果ヴァリアントと判明し、ヴァリアントの部隊が鉄血に攻撃を仕掛けていき、そして再び低確率ファンブルの結果交渉パートに移行しました
全てはダイス原作によるもの、そしてシャルン、グナイと行った第二遊撃艦隊の面々もビスマルクの援軍ダイスで確定しましたので少しでもダイスが違えば重桜と敵対したり、ヴィシアが鉄血の援軍にきたり、まさかの決戦兵器フリードリヒ・デア・グローセが援軍に駆けつける可能性もあったのです。


そして、日刊ランキング22位……本当に皆様ありがとうございます!

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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