鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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番外編二十六話 破滅か存続か 前編

 

 

 

 私は勝利を確信していた

 

 

『あら、鉄血のヒトにしてはお上手ね?…何、話は単純よ…このまま沈められたく無ければ、降伏を勧めるわそちらだって、戦局の流れが読めないほど馬鹿ではないでしょう?』

 

 敵の数は少数でこちらは私も含めた主力部隊。数的優位を確保した上で不意打ちも成功し、後は降伏させるだけ。向こうが降伏を断るのであれば、この海域の漁獲量が来年増える羽目になるだろう。

 

『なら、要するにアンタを捕まえて…そのアンタの基地にまで案内させればいい訳ね』

 

 相手が従わない、ならロイヤルの栄光の為に痛い目にあってもらおう。そして捕虜を取り戻し私は皆に認められる、尊敬される、そして戦争終結が早まるのだから。それが愚かな鉄血の為にもなるはずだと私は信じていた。

 

 相手がどう足掻いてもこちらの勝利は揺るがない状況であり、私の脳裏に浮かび上がるのは栄光への片道切符だった。

だが、次の瞬間、私の目に映ったのは想定と異なる光景であった。

 

 

 

 砲撃。そして轟音。

 

『ッ…!アンタは…!』

 

 あり得ない光景だった。突如飛来した大量の砲弾が鉄血の援軍である事を理解するまもなく、次々と鉄の暴風が襲ってきた。

 

 あまりにも圧倒的、蹂躙という言葉すら生温い。圧倒的な暴力による一方的な破壊が目の前に広がり、その暴力が振るわれているのは……海を駆ける私達だった。

 

 それまで一方的に相手を追い詰めていた猟犬が、今度は一転して狩られる側に立たされていた。こちらが砲撃で反撃を試みようにも、正確な照準はおろか回避行動を取ることすら困難な程の苛烈な砲撃を浴びせかけられ、次々と仲間達が被弾していくをシグニット、レナウン、レパルス。彼女達が苦悶の表情を浮かべ、思わず鉄血の艦隊に非難の声を上げる。

 

 

 

「最後に一つ、忠告と言うか…まあ警告だよ、次からは俺みたいなのとは話さない方がいいぜ?」

 

 こちらを馬鹿にする様なその声と共に、鉄の暴風が頬を凪ぐ。次々と飛来する砲弾と爆撃による轟音が鼓膜を揺るがし、私に死の予感を与える。

 

 逃げた。必死に逃げた。ノブリス・オブリージュなど忘れ、本来であれば殿を務めなければならないと言うのに、無様に逃げる事しかできなかった。

 

『死ぬのは嫌……死にたくない……死にたくない……!』

 

 その言葉を呪文のように唱え続けながら私は必死に逃げ続けた。中立港に真っ先に自分だけが辿り着き、他の皆が帰ってきてないと知った時は恐怖と罪悪感から何度も吐いた。

 

 

 幸いにも3人は無事ではあったが、味方を捨てて逃げ出したという事実は私の心を深く抉り、気にしなくても大丈夫だとレナウン達に慰められるたびに、そしてあの艦隊の怨敵が活躍するニュースを聞くたびに自分を責めずにはいられなかった。

 

 

「押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ、覚えておくといい」

 

 

 この言葉を悪夢として見る度に私は思ったのだ。次は、次こそは間違えてはいけないんだと。油断と甘えを捨てて、慎重に物事に取り組まければ取り返しのつかない事に繋がるんだと。

 

だけど、そんな努力の甲斐もなく……私は再び過ちを繰り返してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 淀んだ空気で会議室は満たされており、円卓を囲んだ面々は皆一様に重苦しい表情を浮かべていた。

 

 

「……以上が現在の指揮官の状況よ。」

 

 

 あの戦場から数ヶ月後、私はロイヤルの「クイーン」となり、鉄血の陣営代表であるビスマルク。メイドのハーマイオニー、騎士モナークを交えた4人では非公式的な会議を開いていた。

 

 内容は私の就任式に参加予定だった鉄血のゲストである指揮官。レッドアクシズにとっては英雄であり、ロイヤルにとっては怨敵とも言える彼は現在、心労が祟り倒れてしまった事だ。

 

 その報告を聞いた途端、エリザベス様はビスマルクと密室で何らかのやり取りをしていたらしいが、今は火消しに動いているのか部屋には来てなかった。エリザベス様の事が気になる反面、醜態を敬愛する彼女に見せつける事なく安堵している自分がそこにはいた。

 

 

 

 ざまぁないわ。

 

 

 なんて戦争中であれば吐き捨てる事が出来ただろう。だが戦争が終わった今は真逆であり、とんでもないやらかしをしてしまった事実に今でも現実を直視することが出来なかった。

 

 

 

「私は彼をここに連れてくるべきじゃなかった…陣営代表として改めて指揮官がそちらのユニコーンを傷つける発言をした事は私が謝罪するわ。でも、今だけは指揮官を休ませて上げて欲しいの。」

 

 

 

 一気に老けたような表情で語るビスマルク、しかし彼女は一度もロイヤルを非難する事は無かった。

 

 

 指揮官が滞在中に元捕虜の親族との会話で消耗した事。個室ではなく、自分と2人きりの部屋だからこそより抱え込んでしまった事。ロンドンだけが心身の癒しになっていた事。ビスマルクがその状況を知らずに放置した事。そして……自分は恨まれるべきだと、最後まで一人で抱え込み倒れてしまった事。

 

 

 ビスマルクは鉄血として痛烈に罵倒をする権利もあったはず。だというのに自分自身への責任故に私達を非難する言葉はなにも言わず、ただ状況だけを説明して…そして。

 

 

 

「そして…指揮官も指揮官なりに追い詰められて、考え抜いた結果である事を。彼は全てを抱え込んで自分がいなくなればいいと言っていた事を理解して貰えると幸いだわ。」

 

 

 

 

 耐えきれなかった。

 

 

 

 吐き気と罪悪感、そして叫びだしたくなる衝動。吐き気で片手を口で塞いでいたが、ハーマイオニーが心配して背中を撫でてくれなければ叫び出してしまう所だっただろう。

 

 一人の人間を苦しませて、追い込んで、メンタルを削り、最終的にこんな事態を招いたのは間違いなく自分のせいだ。もっと早く部屋を用意していれば、もっと早く式典を強行してでも早めていれば。

 

 どうしようもなかった、私に介入するチャンスは無かったとハーマイオニーは後ろで言ってくれていたけれど、それは慰めにしかならない。ビスマルクがこの場で落とし前をどう着ける?と脅してくれば全面的に頭を下げて謝罪する他ないが、そうせずにビスマルクが隠蔽を提案してくれているのが奇跡であると言えるだろう。

 

 私は無能だ。エリザベス様から与えられた後継者としての役目を果たせず、数々の交渉では相手にもされず、部下達の尊敬も勝ち得ず、結果として他国の重鎮の心を曇らせ、追い込んでしまっている。

 

 

 敗戦において国外から見捨てられ、国内ではkansen不要論や処刑が叫ばれる現在のロイヤル。上層部は人もkansenも問わず一掃され、私はエリザベス様の跡を継いで女王陛下の地位についた。上層部からは犯罪者のように扱われ、守るべき多くの国民から罵声や白い目、挙げ句の果てに殺意を浴びせられる毎日。

 

 

 それでも不眠不休で私達にkansenの地位を最低限維持してくれたエリザベス様の為に私は女王の地位につき、その初仕事が就任式に鉄血からゲストを呼ぶための交渉だ。

 

 

 結果的には言えば陣営代表と英雄が来たのだから国内外にロイヤルと鉄血の融和をアピールする為に成功したと言えるけど…どう控えめに言っても大失敗ね。もう泣くのを通り越して笑い出してしまいたい。いや、もし銃があれば即座に私はこめかみに引き金を引きたい気分だった。

 

 

「それと…」

 

 

 いよいよか?とまるで絞首台上の死刑囚のような表情でビスマルクの続く言葉を待つ。

 

 

 

「貴女にも改めて謝罪させて頂戴、さっきエリザベスから聞いたわ。貴女は捕虜を奪還する為にあの指揮官と交戦したと」

 

 

 

 予想に反するビスマルクの言葉に私は思わず呆けた声を出してしまう。私の心情を察したのか、申し訳なさそうに視線を逸らしながら彼女は続けた。

 

 

 

「それは…」

 

「決して嫌味や挑発目的で指揮官を連れてきた訳じゃないの。それでも貴女の立場を思えば、どれだけ私は失礼な事をしたのか。改めて…ごめんなさい…」

 

 

 

 敗者のはずのロイヤルに頭を下げる鉄血の代表、そんな光景を見た私の心には高揚感は微塵もなく、ただ自分自身を惨めに思えるだけだった。

 

 あの時、鉄血の指揮官を連れていくと言われた日。正直今すぐ死にたいと思ったのも事実だった、あの時の事を蒸し返されてなにを要求されるのか?皮肉混じりにお元気ですね?と挑発されるのか?それともいないものとして扱われるのか、いずれにしても私はあの時よく逃げ出さなかった事を褒めたい反面…いっそ逃げ出したほうが良かった。

 

 

 私の自意識は過剰だった。

 

 

 指揮官は私のことを覚えていなかったのだ。

 

 

 歯牙にも掛けないとはこのことだろう。

 

 

「押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ、覚えておくといい」

 

 

「押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ、覚えておくといい」

 

 

「押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ、覚えておくといい」

 

 

 

 

 何度も夢でうなされ、起きている時でも耳にこびりつくあの時の言葉。

 

 

 だと言うのに多くの戦場を経験した英雄にとっては私との出会いなんて覚える価値もない記憶なのだろう。

 

 

 悔しかった、虚しくなった、なんで覚えてないの!?あの時のことを!!と叫びたかった。

 

 

 そして……あの時殺していればと殺意まで感じる自分が穢れた存在に思えてきて、その夜、私は声を押し殺して何度もみっともなく泣いた。

 

 

 もう、決めたのだ…もう自分は穢れている、あの時の海戦で私の誇りとヴァリアントという個人は死んだ。なら自分はどこまでも『王家』存続の為なら頭を下げて、媚びを売り、自分が後世でどんな評価になろうとも構わない。ただ『王家』の為に尽くす奴隷になろうと

 

 

 

 

「ビスマルク様。頭をお上げください、むしろ鉄血の指揮官様をここまでおいつめてしまったのは私の落ち度…です…申し訳ございません…!!」

 

「陛下!?」

 

 

 

 

 今まで複雑そうな顔で黙っていたものの、跪く勢いで頭を下げる私を止めようとするハーマイオニー、悪いわね……こんなみっともない姿をみせて。モナークは何も言わない。ただビスマルクと私を無言で見つめているだけだ。

 

 あの日の夜を思い出した。惨めに泣いた夜のことを。宿敵だと思っていた相手は自分を歯牙にもかけていなかったという事実を。それを思い出せばプライドなんて……自分の誇りなんて全て消え失せる。

 

 やるべき事はただ一つ。ビスマルクと指揮官に『納得』してもらうという事。ロイヤルとして、その椅子に相応しくないとはいえ女王として、醜態を隠蔽するだけではなく。彼女達に満足させるだけの『答え』を用意しなければならない。

 

 

 

「…そしてビスマルク様。誓います、数日かかるかもしれませんが私が!ロイヤルのkansen全員にこの事を伝えると!!」

 

「あ、えっと…」

 

 

 

 大声の宣言でビスマルクは唖然とする。

 

 

 

「今はユニコーンやイラストリアスの事で激怒しているフォーミダブルや、本人は生きて『は』居ますが色々と都合の悪いシェフィールドの家族など伝える事が難しい人もいます…ですが私が!全員にこの事を伝えさせて頂きます!」

 

 

 

 これが今の自分にできる最低限の事だ、数日もあればロイヤルの皆に今回の真相を話す事ができる。直接私が説明すれば彼らへの敵意を少しは緩めてくれるだろうし、再発防止の為にもなる。

 

 

 今回の醜態は私が中途半端に指揮官がこの軍港に滞在している事を公言せず、結果として捕虜当事者の家族であるフォーミダブルの暴走を招き、ユニコーンの説明やケアを怠ってしまったのが要因の一つだ。

 

 すべての事を直接私が説明し、噂になってるあの指揮官は狂っても仕方がないほどのストレスで追い詰められた結果ユニコーンにあんな言動をしてしまったのだと。

 

 

 全てはロイヤルの女王である自分の管理不足が原因であり、彼は被害者であると説明さえすれば行動の抑制に繋がり、ビスマルク達の溜飲も少しは下がるだろう。

 

 これで少しでもあの指揮官とビスマルクへの贖罪になればと更に頭を下げる。後々指揮官個人に賠償として色々と動く事になるだろうが今私が出来ることはこれしか思い浮かばなかった。

 

 

 

「……今回の事は鉄血上層部に報告する事は私が断固として阻止するわ。そして…ありがとう。あの人の事を信じてくれて。」

 

 

 

 ……違う。違う……!頭を下げないで!私はあの指揮官を信じても居ないし殺意すら持っているのよ!?この贖罪も自己満足とロイヤルの立場をすこしでもマシにするための物なのよ!?

 

 恐らくビスマルクは私の真意を理解しているのだろう。あのエリザベス様と渡り合った女性なのだから私の考えも筒抜けのはず。それでも……

 

「ユニコーンさんへの謝罪はどうにか私が説得…しなくても彼なら自分からすると思うわ。そして、これからも、ロイヤルと鉄血の友好の為に、貴女を信頼します。クイーン・ヴァリアント」

 

 

 ビスマルクの目はどこまでも暖かかった。

 

 

 それが演技なのか、本気なのか分からないが……信頼するというビスマルクの言葉が頭でリフレインし、彼女が会議室を抜けた途端。私は胃の中のものを全てぶちまける羽目になった。

 

 

 ハーマイオニーが心配そうに背中を撫でてくれる中、相変わらずモナークは何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 

 私は時間かけて業務の合間に少しずつユニコーンと、鉄血の指揮官の合間になにがあったのかをロイヤルのkansenに直接赴いては、ビスマルクの言葉を一句逃さずに伝えていた

 

 まだ、怒り狂ったフォーミダブルや、姉妹艦が戦争によって酷い目にあったグラスゴーなど、一部にはとてもではないが伝えられる状況でもない。それでも、これで就任式までに指揮官の見る目は柔らかくなるはずだ。

 

 ……正直私の言葉ではなく、陛下辺りに協力して貰いたかったが、陛下の姿はここ数日見ていない。恐らく今回の件を受けて色々と裏で働いてくれているのかも知れないが、こういう時に相談させてくれる相手がいないという事実に心が痛い。

 

 いや、ベルファストやハーマイオニーなどメイド辺りなら幾らでも相談に乗ってくれるだろう。だが、今回の件は全て自分の不義や失敗が原因で招いた事だ、ベルファスト達に余計な労力を割いて欲しくはない。

 

 

 

「ごめんなさい、モナーク…付き合わせてしまって。」

 

 

 

 仕事の合間に数名に話し終え、デスクに突っ伏しながらも私は自身の騎士であるモナークに話しかける。出来る限り私一人で皆に説明を行なっていたが、数少ない例外が護衛である彼女だ。相変わらず私の後ろに着いて周り、最低限の言葉以外は口を開かないが。

 

 

 計画艦モナーク。

 

 

 

 本来産まれるはずではなかった設計図だけの存在である特別計画艦と呼ばれるkansen。通常とは違い、対セイレーン戦に特化する為に遺伝子一つに至るまで科学的に研究する事で具現化させた特別な存在。

 

 彼女はその特殊な出自故に、エリザベス様の時代においてはロイヤルの幹部になれず、敗戦後の上層部の一掃によって引退したキングジョージ5世の代わりに騎士団の団長となった人物だ。

 

 

 

 他にもこの敗戦の結果、最新鋭のセントーが空母の重鎮になっていたり、戦艦の幹部が軒並み追放されたためノーフォークやドーセットシャーといった重巡が幹部を務め、ハーミーズのような半ば引退をして教官を務めていた人物が再び表舞台に立つなど現在のロイヤルネイビーの内情は大混乱だった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 モナークは仏頂面で無言のままだ、彼女は騎士団の代表でありながら公的な場面を除いて私には敬語を使わずに言葉も少なめで、私から話しかけない限り滅多な事では口を出さない。前任者であるキング・ジョージ5世が積極的にエリザベス様に話しかけていた事を考えると真逆の人物であると言えるだろう。

 

 勿論、そんな彼女に騎士としてどうなの?と言う声も少なからず聞こえてくる。しかし、最早対等な目線で話せる相手が殆ど存在しない私にとっては、モナークとの会話はむしろ気楽だ。一方的にこちらが話しかけてるだけで会話というのも怪しいものではあるが…。

 

 

 

 

「どうにか穏便に事が済みそうで良かったわ、フォーミダブル達にはもう少し落ち着いてから話しつつ指揮官に手を出さないようにしないとダメだけど……ねぇ、モナーク…これからロイヤルはどうなっていくのかしら?」

 

 

 

 ボソッと呟く私の言葉をモナークは恐らく無視するだろう。今までも勤務中は私語を微塵も話さず、勤務が終われば無言で退散するモナークが答えてくれるとは思わなかった。

 

 穏便……と言うよりは全面的に鉄血側が譲歩して波風立たないようにしてくれて、ロイヤル側が便乗しているだけの状態ではあるが、少なくとも私が一人一人皆に話した結果、ユニコーンを傷つけた指揮官への報復を叫ぶkansenは1人もいなかった。

 

 勿論、今も鉄血やレッドアクシズに不信感や嫌悪感を抱いているのは何人もいるし……他ならぬ私だってその感情を否定しきれない以上そう考える子達が何人もいるのは当たり前ではあるが、それでも過激な行動は絶対に取らないと皆約束してくれたのは幸いだ。

 

 

 

 

「本気で穏便に済むとおもっているのか?」

 

「えっ…」

 

 

 

 

 それでも。フォーミダブル達などにはどう話そうか?と頭を悩ませていると……モナークは珍しく、本当に珍しく、私の私語に応じてくれたのだ。

 

 

 

「えっえっ…モナーク話して…」

 

「人を珍獣を見る目でみるのはやめてほしい」

 

「そ、それはごめんなさい!でも…穏便に済まないって?」

 

「……」

 

「お願いだから!ここならだれも見てないから!だから続けて!」

 

 

 

 

 一瞬慌てつつ、念入りに部屋の鍵を閉めて私はモナークに再び尋ねる、モナークが私とコミュニケーションをとってくれた事実に感動した訳ではなく、深刻な顔のモナークの会話の内容が気になったからだ。

 

 

 

 

「…本来であるならこちらの要請でゲストとして来てもらっている英雄を、こちらが心身共に追い詰めた挙げ句心労で倒れてしまった。これは鉄血の上層部に知られれば、また戦争が再開され、他国においても例えユニオンであろうが敵に回りかねない最悪の事態に繋がる可能性がある」

 

「……そうね」

 

 

 

 

 現在、こうして私が女王の椅子に座っているのも、鉄血の使者達が穏便かつ秘密裏に今回の事を水に流してくれたからという事実は流石の私にも理解している。

 

 

 一歩間違えれば大惨事だった。エリザベス様に激怒したビスマルクの顔を見る限り彼女は必要であれば報復も辞さないだろう。その選択肢を常に頭の中にいれつつ、それでも彼女達は友好関係の維持を選択してくれたのだ。

 

 

 これで鉄血に借りが出来てしまい、その事に色々と思う事もあってか私もモナークの言葉に胃が痛くなる。それでも最悪の事態を嫌な汗を流しながら想像してしまう私を尻目に、モナークは構わずに口を開く

 

 

 

「ヴァリアント、今回の事態で何が一番問題なのかわかるか?」

 

「よ、呼び捨て……まぁいいわ。それは私が早い段階でユニコーンやロイヤルのkansenに指揮官の来訪を告げなかった事かしら?」

 

 

 

 あのビスマルクとの会話以降何度も考えた結果、導き出した答えがこれだ。本来であるのなら、この式典は数日以内に終了していたはずだと言うのに、ロイヤルの国内の問題で何日も鉄血の二人にはロイヤルに滞在……いや拘束・軟禁してしまった。今から思えば式典が延長すると決まった時点で私は皆に言うべきだったのだ。

 

 

 あの鉄血の指揮官が今来訪していると。思う所はあるだろうが、彼らはゲスト。王家の戦士の名にかけて絶対に失礼のないように振る舞うべきだと

 

 

 そうしておけば、冷却期間の間にユニコーンやフォーミダブルも落ち着いて会話が出来たのかもしれないし、こんな事は起きなかったと私は改めて過去の自分を殴りたく思ってくる

が……モナークは静かに首を横に振る

 

 

 

 

「違う…一番の問題点は、今回の事件でロイヤルkansenは自分の知る限りロンドンやジャージーなど一部を除き、指揮官からのユニコーンへの謝罪を最優先に行う様に願い、話を聞いた上でそれでも指揮官を警戒している事だ」

 

「それは……警戒に付いては戦争が終わって間もないし、ある程度は仕方ないんじゃないかしら?それにあの指揮官もユニコーンについては悔やんでいる様だから二人が和解すれば指揮官を見る目も柔らかくなって……」

 

「ヴァリアント」

 

 

 

 

 私の台詞を途中でモナークは遮る。まだコイツは分からないのか?という一種の失望の様な、若干の侮蔑めいた含みさえあった……その言葉に思わず萎縮してしまう。モナークは本当に表情を変えなかった、しかし、その言葉の濁りが彼女の底知れない苛立ちを現すモノだと言うのだけは読み取れた。

 

 

 そして、モナークは決定的な一言を口にする。

 

 

 

 

 

「貴女が話してきたロイヤルのkansenの中で……あの指揮官について心配をしたkansenは何人いるんだ?」

 

「っ…!?」

 

 

 

 

 一瞬で頭が真っ白になった。

 

 

 ユニコーンちゃんは大丈夫なんですか!?と心配する者。

 

 

 ユニコーンが納得するのならと頷く者。

 

 

 それでもあの指揮官を私は怪しいと思いますと口をする者。

 

 

 そう…。

 

 

 

 

「あの指揮官に捕虜にされた連中。ごく一部の幼い駆逐艦達。世代が違うセントーやチェシャー。完全に自身の感情をコントロールできるハーミーズのような極小数の人員。そして、真実を知ったエリザベスと貴女くらいじゃないか?」

 

 

 

 

 

 ほとんどいなかったのだ。

 

 

 

 

 どれ程優しいと言われてる人物も、どれ程王家の為に尽くす戦士であろうとも。人格者や聖人と称される存在すら……精神的に追い詰められた指揮官を気遣う台詞を口にした者は本当に極小数だ。

 

 

 たしかに、ユニコーンに指揮官は酷いことを言ったのは事実だ。

 

 

 

「安心しろ、今回の件で外交関係に影響を与えるとまで考える連中は少ないだろう。なにせ2人は穏便に済ませようしているのだから」

 

 

 しかし、指揮官が心身共に傷ついたと言う言葉に鎮痛な表情は浮かべつつも、私が話し終えた後は決まってユニコーンに関する話題ばかり。

 

 

 一気に力が入らなくなり震えそうになるが、モナークの語った事実だけでまるで雷撃を受けたようなショックを覚える中、彼女は淡々とした口調で彼女は語る事を止めない。

 

 

 

「私たちロイヤルネイビーは王家といいつつ…kansen内で完結している。そこに複雑で泥沼な謀略、政略なども存在せずそれはクイーンを中心とした皆仲良しな貴族ごっこの遊戯」

 

 

 突然の王家のそのものへの批判に、一瞬むっ…となったものの続けなさいと口にする。考えてみればその一言だけでモナークは処罰されてもおかしくないだろう。

 

 

 たしかにkansenの皆は仲良いが……私や陛下達が!!どれだけ戦争前にお偉いさんや貴族と楽しくもない社交会に参加していたのかモナークは知らないのかしら?予算会議においては苦労して、議会に出席する時なんてもう…!!

 

 

 kansen同士の仲良しな貴族ごっこではなく人間も含めた貴族や王族が多数存在するロイヤル国内に置いては必要だったのだ、それがお遊戯会と言われるのなら私も一瞬モナークを睨みつけるがモナークは素知らぬ顔でスルーする。

 

 

 

「もちろんそちらも人間相手に色々と面倒な事をしているのは理解しているが…あくまでkansen内では別だろう。そんな孤立した貴族ごっこを続けている内にkansen内での身内贔屓が強くなり、『再現』というアドバンテージから勝つ事が当たり前だと断定し、無意識の内にエリザベス達は傲慢になっていた」

 

 

 

 あの戦争によってタラントの空襲をあの指揮官に防がれた時点で再現は崩壊した、どうにかデンマーク海峡にて行われようとした再現もあの指揮官がオブザーバーとして各国の面々を招待した事によりロイヤルは厳しい和平しか道は残されて居なかった。

 

 

 

 なのに……傲慢?。

 

 

 

「メルセルケビールの時のように戦争に勝つ内はいい、しかし敗北した今そのような心情のまま、貴族であり皆から可愛がられるユニコーンを『身内贔屓』している。気持ちは理解できる、私もハウに同じ様な事があれば黙っては居ないさ……ただ多くの者達にとっては怨敵である鉄血の指揮官の事は頭から抜け落ちている、それはエリザベスも変わらずに貴族階級とされる者は特にだ」

 

「でも!!エリザベス様は!!」

 

 

「なら元女王はならなぜフォーミダブルと指揮官の接触を許した?状況的に指揮官は拒否できる立場ではなく、イラストリアスは処刑すら望まれている存在。殺人事件の加害者と被害者を合わせるようなものだろう。拗らせるに決まっている。フォーミダブルは恐らく指揮官にとんでもない暴言を言ったんじゃないか?そして彼女は碌に処分されずに、現在はとても指揮官や貴女と会う事ができる状況ではなくなった」

 

 

 たしかに、後でエリザベス様に聞いたところ事実フォーミダブルは国際問題になってもおかしくない程の罵倒を行っている。そして…処罰は殆どされていない。全てエリザベス様に任せたがせいぜい数日の謹慎くらいだろう。

 

 

「元女王はあの時何としてでも、無理矢理でも会話を終わらせるべきだった。しかし『身内』であるフォーミダブルを信頼「してしまい」したてにでる鉄血指揮官が望むの「であれば」会話をしようとなって…結果が現在のフォーミダブルと追い詰められた指揮官だ。元女王は『身内贔屓』の結果失ぱ…」

 

 

 

 

 

ドン!!!

 

 

 

 

机に拳を振りかざしモナークの言葉を黙らせる。痛みで涙が出るが……それどころじゃない!! 我慢できなかった!

 

 これ以上敬愛するエリザベス様を非難されるのは。誰よりもロイヤルのkansenを思い、戦争中は常に苦しみ、戦後は私達のことを守る為に奮闘してくれた姉妹艦をバカにされるのは。

 

 戦後『再現』の事実を知らされたお前はエリザベス様の苦悩を理解しているのか?何もしなければ、多くの仲間が傷つく中で祖国が没落する未来が見えてしまった彼女の気持ちが。『再現』の為に実質死んでこいと部下を送り出す選択を考え、常に苦悩していた彼女の孤独が。

 

 

 

「貴方は!口先だけで!なんでエリザベス様にそこまで酷い事を言えるの!?どれだけエリザベス様が苦労為されたのか理解してるの!?貴方も王家の戦士の一員なのに!」

 

「論点をずらすな、私はあの時のフォーミダブルと指揮官との会話を身内贔屓で止めなかった事を失敗だと言って」

 

「貴女はただエリザベス様を嫌ってるのよね!?知ってるわよ!貴女が一度も私やエリザベス様を『陛下』と呼ばないのも!!本音を言いなさい!これは『女王命令』よ!!!」

 

 自分でも熱くなっているのはわかる、ロイヤルネイビーにといて『女王命令(クイーンズ・オーダー)』は最優先命令だ。

 

 

 

 

 例え現在kansenの立場が下落したとはいえ、kansen内で王家が存続してる今、これを拒否する事は最悪死すら意味をする絶対厳守の最優先命令。エリザベス様は個人ではこの命令を利用しなかった。皮肉な事に私の初めては、エリザベス様すら使わなかった私的利用は味方のモナークに対して発令されたのだ。

 

 

 

「…………望まれずにただ作れるからと産まれ、訳も分からないオカルトチックな『再現』の邪魔になるからと出撃を一度も許されずに部屋に隔離され、祖国が敗北する姿を黙って見る羽目になり。戦後は掌を返して人材不足で望みもしない地位を今度はあてがう……同じ立場としてそれでも貴女は『元』女王に忠誠を誓えるか?」

 

 

 

 そこで初めてモナークは自分の本心を口にする、女王命令に従わない選択肢もあっただろうに、モナークは律儀に従う

 

 その表情は怒りでも悲しみでもなく全てを諦めた諦観だった。

 

 

 

「私は王家そのもの、ロイヤルそのものに忠誠を誓っているが個人として誰かに忠誠を誓わない。決してだ……もしこれ以上私の顔を見るのも嫌だと言うのなら。私が私的感情で話したと思うのであれば、もう一度『女王命令』で私を処理すればいい、拷問でも銃殺でも私は受け入れよう。どうせこの命、望まれて生まれてこなかったのだから」

 

  

 





 少々長くなってしまったので後編は12月中に投稿予定となります。ロイヤルの更なる問題点とは?そして苦悩するヴァリアントに、自身の生死すら諦観したモナークは何を答えるのでしょうか?


 コメント、感想、評価をお待ちしております。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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