鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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番外編二十七話 破滅か存続か 後編

 

 

 苦痛や恨みすら超越した生を諦めた者の発言に、私は何も言うことができなくなる。私はモナークを睨みつけつつ、計画艦の本音を聞いてショックを受けていた

 

 確かに戦争中は計画艦は隔離され、行動も制限されていたが……まさか死すら受け入れようとする程に追い詰められていたとは思わなかった。

 

 

 あの和平交渉が終わった夜。エリザベス様は地下で過ごしていた二人を呼び出し、『再現』について全てを語って頭を下げたが当時幽閉されていたモナークとネプチューンは私達の前では全てを納得して、受け入れた様に思えていた。

 

 だがそれは怠慢だったのだろう。考えてみれば分かる事だと言うのに。訳も分からず幽閉され、己の存在意義を全て奪われた挙句、新たな地位を与えられた所で果たして納得出来るのだろうか?

 

 ……こんなの、小学生ですら分かるじゃないか。答えは否だ。だけど分からなかったのだ。この瞬間、モナークがはっきりと本音を口にするまで私は彼女達の待遇の悪さに目を背けていたのではなく、忠誠心を失うという考えすら湧かなかったのだ。

 

 陛下に尽くす事は当たり前。ロイヤルの皆の為に自分を殺す事は当たり前。だって他ならぬエリザベス陛下は付き従うべき絶対的な存在なのだから。忠誠を捧げる事は呼吸をするのと同じくらい当たり前の事であり、例え私がモナークと同じ立場であっても100%こう思う筈だ。

 

『エリザベス様にはきっと何かお考えがある。私達は今地下で隔離されているがきっとそれは私達が出るまでもない戦況であり、寧ろレッドアクシズから徹底的に秘匿されて地下生活を送っているのは決戦兵器として信頼されているからに決まっているじゃないか』と。

 

 恐らく私だけではなく、多くのロイヤルネイビー出身のkansen達も同じ様に思う筈だ。不満の一つもなくご飯は豪華だとか、頼めばどんな本も暇つぶしに支給されるのだから見捨てられて居ないだとか、良い所やエリザベス様に見捨てられてないと思う箇所を探し出して納得する筈だ。

 

 ……成る程、モナークだけではなくサディアやヴィシア。鉄血の面々がロイヤルを嫌う理由の一つにそこがあるのかも知らない。エリザベス様の考えこそ正義だと妄信すら私達の行動は側から見れば気味が悪いのかもしれない。

 

つまり『エリザベス様には何か深い考えがあるはず!』で思考停止していた私達は「なぜロイヤルネイビーが嫌われているのか?」と言う事を考える機会すら奪われていたんだ。戦争であり相手の言ってる事は全て中身の無いプロパガンダだと決めつけて。

 

 

 モナークにとっては地獄だったのだろう。そんな空気が『正気』と思われる軍隊でただ1人『普通』の感性で産まれてしまったのだから。後天的にロイヤルを客観視出来るようになったハーミーズの様な古参の面子と比べてもモナークは産まれたばかりであり、それを学ぶ機会すら私達に奪われた中で私の騎士団長に命じられてやる気を出せるはずもない。

 

 

「………悪かったわね、話を続けてくれるかしら?」

 

「それは『女王命令』か?」

 

「いいえ……私個人のお願いよ。」

 

 

 そんな、モナークからすれば反吐が出るであろう『女王命令』を口にした事に後悔しながらそう口にする。嫌われて当然、見捨てられて当然の私に淡々と続きを口にしてくれるモナークはある意味どうしようもなくお人好しなのか……或いは全てに絶望してどうでも良くなっているのかもしれない。

 

 

 

「今回は鉄血側が譲歩してくれたがkansenの地位は低下したとはいえ、我々は今後他国のkansenと協力する事もあるだろう。身内に優しいのはどこも同じだ。しかし現在のロイヤルの情勢においてまた今回のような事が起きればどうなる?」

 

 世界から嫌われている国の軍隊が他国の人間を精神的に追い詰めた挙句倒れるまで追い詰めた。それだけではなく、その事を反省する空気もなく上から目線で全て相手が悪いのだから謝罪して当然だろうと皆が思っていると他国の面々に知られれば……間違いなくレッドアクシズだけではなく、ユニオンや北桜同盟であってもふざけるなと同胞の為に立ち上がるだろう。その先に見えるのは我々の破滅だけではなく、この国が地図から消える羽目になる可能性すらある。

 

 

「国内においてもだ。現在の国民は我々を見て失望や敵意を見せているが、それにkansen達が反省しているうちは良い。しかし身内贔屓が過ぎるとどうなる?あの戦いは卑怯なレッドアクシズのせいだとkansen達は反骨心が湧き、だと言うのに自分たちに厳しい国民はどの面を晒しているんだ?誰がこの国を守って居たのか無能達には分からないのか?エリザベス様の苦悩も知らずにこの愚民達がと反感を覚える様になればどうなる?」

 

 

「そんな事…」

 

「ないと言えるのか?今でさえ国民からの非難やこの基地に隔離されている事に徐々に不満を覚えつつある面々を見て、そんな事はないとはっきり言えるのか?1人の他国の英雄を追い詰めておいて『アイツが悪い』と大部分が思っている我々が国民に傲慢にならないとハッキリと断言できるのか?ヴァリアント」

 

 

 出来ない。そんな筈はない。そう答えなければいけないのだがそんな自信はどこにもなかった。一度でもロイヤルの現状を客観視して『正気』で居られなくなった私にそんな事が言いきれる筈がなかった。

 

 外敵によって武力制圧される未来。国民や政府が完全に私達を危険視して排除どころか撲滅しようとする未来。こんなにも国を思う私達を嫌う政府や国民は間違っていると不満が溜まった私達kansen達がクーデターを引き起こす未来。

 

 走馬灯の様にそれらが頭をよぎり、『普通』の感覚を身につけた私には目を背けたくなる未来しか予想できなかったのだ。

 

 

 

「戦争に勝っていれば問題なかった。負けたとしても圧倒的な完膚なきまでにねじ伏せられた敗北であれば、すんなりkansen達は受け入れたはずだ。だが今回の戦争は多くの余力を残した状態で我々は外交的に追い詰められ、敗北した。だからこそ卑怯なレッドアクシズに本来は負けなかったと無意識に思っている可能性はあるのだろう」

 

「……理解したわ。つまり中途半端な敗戦に女王の権威の低下、そして身内贔屓が過ぎて無意識レベルで身内以外には私たちは不満を抱え、傲慢になりつつありそれを放置すると…それが貴女の意見なのね」

 

 

 

 私は改めて今のロイヤルネイビー……いや、私達kansen達の状況を整理する。

 

 国内では私達は国民から嫌われた。

 

 国外からは卑劣なロイヤルと外交的に孤立してる。

 

 そして貴族社会の身内贔屓の結果無意識レベルで私たちは傲慢になりつつあり、いずれ取り返しのつかない事に…。

 

 

 

「モナーク…貴女はどうすればいいと思う?」

 

「それは貴女が決める事だ。」

 

「嘘よ、貴女の事だから対案だって用意してるでしょう。」

 

 

 

 私の言葉にモナークは苦い顔をする。

 

 

 

「……私としては言いたくない、それでも無理に言わせるのであれもう一度」

 

「……モナーク『女王命令』よ、私はこの後どうすればいいのか答えなさい…ずるいわよ。こんなの誘導尋問じゃない…」

 

 

 実際は本気で嫌なのだろう、モナークは拒絶の表情を見せサーベルに手をやり。取手をぎゅっと強く握りしめる。私個人や勢力への嫌悪感や怨恨などを必死で抑えて。彼女はやがて二つの考えを示してみせた。

 

 

「一つ目は、この国本来の主が誰であるのかハッキリと皆が認知する事だ。私は産まれてから何度も女王陛下万歳、王家に栄光をと口にするお前達を見ていた。だが一度として、たった一度として、この国本来の主であるジョージ6世陛下を。多くの国民から慕われているアルバート・フレデリック・アーサー・ジョージの事を話題にしたのを一度も見た事がないのだから」

 

 

 ……何だかもう、改めて客観視すればどれ程までに私達は国民から嫌われて当然なのだと痛感してしまう。私達にとっての王家とはエリザベス様が収めるkansen達の集いであり、現ロイヤル国王であるジョージ6世の名前すら興味のないkansenばかりだ。

 

 私達は戦前から一部のロイヤルネイビーの軍人達から白い目で見られて居たが、もしかすると彼らは私達が『王家』と呼んでいる枠組みに『偉大なる国王陛下』が存在しない所に気がついて居たのかも知れない。

 

 戦勝国となっていればそんな歪みに気づく事は無かった。しかし、国民からの非難やエリザベス様への罵倒に不満を抱きつつあるkansen達が一言言葉を間違えれば国民の激怒は今の様なレベルじゃないだろう。あくまでエリザベス様や私は『王家』と名乗っているが、国民の大部分にとっての『王家』は精神的支柱として数百年にわたり存続してきた『人間』の『王家』なのだから。

 

 

「変えるべきはkansen達の心情であり、それを変える事ができるのは失脚してこのような状況を作り出したエリザベスではなくヴァリアント、貴女だけだ。そして…現在のロイヤルkansenは間違いなく貴女ではなくエリザベスの命令を重視している」

 

 

 モナークの意見はどうしようもなく辛辣で、慰めの言葉の一つすらない。わかっていた、皆私ではなくエリザベス様の方が女王に相応しいだなんて私でさえ同じ事を考えているのだから。

 

 だからこそモナークはこう言いたいのだろう。もっとしっかりしろ。女王としての自覚を持て。エリザベス様に頼るなと。お前はエリザベス様の傀儡か?彼女から想いと地位を託された以上、真にロイヤルネイビーを率いるべき陣営代表として情けない姿を見せるなと。

 

 だが次に言い放ったモナークの言葉はそれらの予想を大きく裏切るものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ、言わせてもらう。本気でこのどうしようもない現状を打破したいのであれば……まずはエリザベス、そしてウォースパイト達王位継承権の持ち主を永久に国内から追放しろ、物理的にだ」

 

「……はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず耳を疑った。本気で何を言ってるんだ私の騎士団長は?と思わず思考が停止しかけていると彼女は言葉を続ける。怒りや困惑を感じさせず、どこまでも彼女は冷静なままに私を睨みつけながら確かなる決意の元こう続けてきたのだ。

 

 

「お前が権力を握る為にあの二人を物理的に追放するんだ、それは他国でもいい、ロイヤルの植民地でもいい。秘密裏に粛清しても構わない。二度と表舞台に立たない様に追い詰めろ。それは始まりに過ぎない。他のエリザベス型も、継承権を持っているキングジョージ達も、その事に反対する狂信的な幹部達も二度と本国の土を踏めないようにしろ」

 

 

 困惑ではなく、動揺し思考が飛びかけてる私にモナークは信じられない事を言ってくる。いや……何か反論しなければならないのは分かるのだが。待って欲しい、何を言ってるの?冗談よね?エイプリルフールのネタよね?ロイヤルジョークで済ませられるのよね?

 

 あまりの衝撃に口をぱくぱくさせている私に業を煮やしたのかモナークがハァッと心底嫌そうなため息を吐きながら静かにはっきりと告げた。

 

 

「最早多少の治療でどうにかなる状況だと本気で思っているのか?応急処置ではなく旧体制という名の肉ごと剥ぎ取る大手術が必要だろう?全てを忘れて安寧という名の惰眠を貪り腐っていくか、それとも泥水を啜り這いつくばり、怨嗟の声を聴きながら地獄の改革を行うか。選ぶのはお前だ」

 

 

 

 つまり、だ。彼女は私に手を汚せと遠回しに言っているのだ。尊敬するエリザベス様達をどうにかしろ。逆らうものは場合によっては始末しても構わないと。戦友や友人達を僻地に押し込み、絶対的な権力者として降臨しろと。

 

 

 

 どんな苦境であったとしても決して挫けず、諦めず、己の勇気を捨てるな。

 

 弱気を助け強きを挫き、仲間達のために命を捧げろ。

 

 いついかなる時もロイヤルの優雅と栄光を忘れる事なく、そよ主機は正義の為に。その剣先の閃きは栄光の為に。碧き航路の安寧を守り、沈まぬ太陽の輝きを体現せよ。

 

 ロイヤル出身のkansenであれば誰もが知っているこの誓いを踏み躙り、改革の為に、未来の為に仲間達から恨まれながら残りの人生全てを捧げろと。

 

 

 

「まるで…奸臣の讒言ね」

 

「人であれ、kansenであれ……私が王家という存在以外に忠誠を尽くしていないのは事実なのだから奸臣と言われるのも本望だ。その上で絶対的女王になった貴女がkansenの心情を変えていく、しかし二人を慕う者には反発されるだろう、他国相手には土下座外交だと非難されるだろう、姉妹艦を捨てて誇りを失ったのか?と言われ続けるだろう。上部だけではなく本当に意識改革を成し遂げる必要があるのなら、腐った部分は切り捨て、新たに産まれるkansen達に新たな常識を植え付ける。最早これしか道はないと私は提案しよう」

 

 

 

 モナークは間違いなく私達に恨みがある。エリザベス様を追放し、幹部達を追い詰めた時。最も得をするのは誰かと言えばモナークだろう。改革に失敗しても、成功しても、自身に屈辱を与えた者達を社会的に抹殺する事になるのだから。

 

 しかし…権力を一つにまとめる為に旧体制の人員を粛清するというのは歴史的にも繰り返されてきたモノであり、逆らう者を全て潰す事が最も好きに権力を振るう為に手っ取り早い手法。それを見越して脅しでも何でもなく、この手段でしか前に進む事ができない現実なのだと彼女は主張しているのだ。

 

 ……私はどうすれば良いのだろうか?モナークはハッキリ言って奸臣だ。讒言によって私に身内を粛清させ最後は自身が権力を!だなんて良くある歴史的な君主の滅亡のレールに私を乗せようとしているのだと疑ってしまうほどに。

 

 

 しかし、彼女の意見は論理的だ。感情で碌に何も考えられない私とは大違いに、彼女が悪に徹してでも言っていた事は私達ロイヤルネイビーを纏め上げるには必要な事なのだと理解できてしまう。

 

 

 

 だが、しかし……そんな非道な事ができるわけがないと理性が訴えかけるのだ。恩義はある、友情もある、それまで道を共に歩んできた皆への愛情もある。確かにkansen達の不満は爆発しかけていて、その大本を断つのは必要な事だと思う。だがそれでもそれは最後の手段であり、もっと別の何かを。全員がハッピーエンドを迎える為のルート開拓に尽力するべきではと思うのだ。

 

 

 私がそんな事を考えている間もモナークは黙って私を見つめ続けたままだった。その瞳に映る私は情けないほど動揺している様しており、まるで泣きわめく子供の様な雰囲気があっただろう。

 

 緩やかな滅亡か、皆の信頼を裏切って茨の道を突き進む事か。あるいは……ふと、私の瞳からボロッと大粒の涙が零れ落ちた。一度零れ出した涙は止めどなく流れていき、嗚咽がこぼれようやく自分が泣き始めていたのだと気が付いたのだ。

悲しいわけではない、苦しいわけでもない。だが胸が切なくて痛くてどうしようもなく泣いている事に気が付かされたのだった。

 

 モナークは何も言わない、慰めるわけでもなく励ますわけでもなく肩を貸してくれる訳でもない。彼女はただ黙って私の選択をじっと待ち続けてくれた。だからこそ私も心を落ち着けて決断しようと思った。

 

 永遠とも思える時間が一瞬過ぎていく。そして私の脳裏に過ぎったのはエリザベス様でも、友人でもなく。何度も夢に見たあの男の言葉だった。

 

 

 

 

 

『押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ、覚えておくといい』

 

 

 

 

 

 あぁ……そうだ。

 

 

 私は馬鹿なんだ。

 

 

 余裕ぶって相手の口車にのって反撃され皆の前で恐怖の余り逃げ出し、女王になった後もエリザベス様に頼りきり。サディアのヴェネトの前で動揺のあまり泣き出し、激怒するビスマルクに圧倒され、しまいには鉄血のゲストへのヘイトスピーチを止められずに昏倒騒ぎだ。

 

 

 

「貴方は本当に覚悟はあるのか?この修羅の道を、一歩間違えば滅ぶ道を。選択肢は二択だこのまま緩やかに衰退して死ぬか。大鉈を振り、仲間達のからの反発を受けて、内外問わず頭を下げ、蔑まれ、罵倒され、誰にも認められずに未来の為の意識改革を行────」

 

「後者よ」

 

 

 

 モナークが最後の言葉を言い切る前に私は断言した。だが、と口を開こうとする彼女に対して首を横に振る。不思議な事に自身を馬鹿だと自覚してしまえば後は簡単だった。

 

 そうだ、結局どちらを選んでも絶望しかないならば自分で決めてやるしかないのだから。愚か者として仲間達を失望させてしまうなんてそんな事はどうだって良い。私がすべき事はエリザベス様が守ろうとした『仲間達』を守るのではなく、王家という名の『システム』を守る事。

 

 

 それを失ってしまえば私達は生きる意味を失う。名誉、栄光、王家。魚が水の中でしか生きれないように私達ロイヤル出身のkansen達はそれらがないと生きる事が出来ない。国民を守るだとか、碧き航路を取り戻すだとか高尚な事は考えなくても良い。優れた統治やリーダーシップを発揮できなくても良い。馬鹿は馬鹿なりにこのシステムを強固なものにする事で次の世代に受け継がせる事が私の役目なのだから。

 

 

 この選択は絶対に間違ってないなんて胸を張って言う事はできない、所詮は世間から背反者のレッテルを張られるだけの間違った行為かもしれない。だが、私はそれでも選んでみせよう。この修羅の道を。

 

 

 奸臣、モナークと共に。

 

 

「だからモナーク。私は命じるわ。これは『女王命令(クイーンズ・オーダー)』。貴方に拒否権はないわ」

 

 

 私の言葉に相変わらず仏頂面で私を見つめながら、皮肉も一つも言わず、賢臣ではなく奸臣は静かに答えを待ってくれた。

 

「ここまでの提案を私にした以上。貴女も私と一緒に地獄に堕ちるのよ……私の下僕になりなさい。私に歯向かう味方を粛清し、私と共に地べたに頭を擦り付け、名誉も、栄誉、栄光も存在しない闇の底の底へ、私と共に沈みなさい。私の手を振り払うのであれば、この剣を貴方の心臓に突き刺して粛清する」

 

 レイピアを取り出してモナークの心臓部へと突き刺す素振りを見せる。私の言葉にもモナークは一切の動揺をせずにこちらを見つめ続けていた。数秒経った後、私は何も言わずに剣を鞘に戻すと深呼吸を繰り返しながら自分の高ぶった感情を落ち着かせると同時にゆっくりと立ち上がりモナークを見下ろす形となった。

 

 

「そして……私の手を取るのであれば、生涯私に付き合いなさい。私は貴方を『必要』としているのだから」

 

 

 

「必要…か…」

 

 

 

 どこか懐かしい目をするモナーク、それは過去に。ロイヤルという祖国に裏切られる前に、自身は必要されて、望まれて産まれてきたんだと期待に胸を膨らませた頃を思い出しているのかもしれない。

 

 

 その時、モナークはただ目をつぶって私の言葉を反復しており、何を考えているのかは分からなかった。ただ…一筋の涙が頬によぎっていたのは気のせいだろうか?

 

 

「……誓います、女王クイーン・ヴァリアント『陛下』、たとえ我が盾砕け、鎧朽ちようとも、汝を護り続けん。ただ貴女のために」

 

 

 初めて私の事を『陛下』と呼び、モナークは私の目の前に跪き、頭を垂れる。

 

 

「モナーク貴女は」

 

 

 

 謙虚ではなく強欲になれ。

 誠実ではなく不実になれ。

 礼儀ではなく実をとれ。

 決して私を裏切ることなく、欺くことなく。

 時に強者に頭を下げ、時に弱者を虐げろ。

 己の品位を捨て、時に卑怯に振る舞い。

 時として民を斬るため剣となれ。

 ただ主の敵を敵を討つ剣となれ。

 

 

 叙任の宣言を行いながら、剣の平でモナークの肩に触れる、しかしその言葉は騎士とは正反対。だけど私達にはお似合いだ。

 

 

「そして貴女は畜生以下の存在である事を忘れてはいけないわ……貴女は私と一緒に地獄に堕ちるのよ」

 

「………仰せのままに。」

 

 

 

 こうして私達の地獄の日々は始まった…エリザベス様を追放しないで済み、皆の意識が改革できるのならそれが一番良いとは理解している

 

 

 

 それでも……私はあの海で、ヴァイスクレー・ヘルブストに敗北した時から誇りはすでに捨てた。

 

 

 

 私と一人の騎士は今日。

 

 

 

 ロイヤルの為に全てを捨てると誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ IFルート

 もし、指揮官の嫁が今回のロイヤル訪問に同行していたら。withガスコーニュ。

 

 

 

 

 どうしてこんな事……

 

 窓の外を見渡せば大量のkansen、無人艦が目視出来る程に大量に列を成し海の上を進んで行く。掲げられた側は赤色に染まったレッドアクシズの軍旗。鉄血、サディア、ヴィシアの三カ国からなる大艦隊が波を立てながら進む様子は威圧的で凄まじいの一言だった。

 

 

 陣営の規模、その数、どれを取っても現在のロイヤルの比では無い。それ程の大艦隊が波を立てながら進む光景は圧巻だとロイヤルの陣営代表ヴァリアントは吐き気すら催し、メイドの一人にそっと背中を撫でられた。

 

 

「私は…どこで間違えたのかな……」

 

 

 

 それは独白だ。この会議室に集った全ての者に投げかけた問いかけ……いや、懺悔だった。その答えは既に彼女の中で出ていた、最初から全て間違っていたのだろう。国民の支持を失い、他国から白い目で見られる様になり、権威も栄光も名誉も全て失墜した状態からなんとか足掻こうとした結果がこれだ。

 

 

 彼女の言葉を聞き、返す者は誰も居ない。

 

 

 ただ皆の目に宿るのは諦めの色だけだった……

 

 

 

「私の名はエリザベス。元々はクイーン・エリザベスだったけれど最近『色々あって』女王を引退して今はヴァリアントのサポートを行っているわけね。えぇ……色々とね?」

 

 

 

 一見友好的に見える態度で手を差し伸べて来る彼女だが、一瞬見せた底冷えするような視線と威圧感に鉄血の指揮官、ヴァイスクレー・ヘルブストはゾクッとした寒気を背後から感じ、それでも差し出された手を握り返す。

 

 

「あなたがレッドアクシズの『英雄』ヴァイスクレー・ヘルブストね。あなたのお陰で本当に苦労したわ……その結果、全世界からの悪評で私は死ぬまで愚かな女王だと歴史に名を残す事になったんだから」

 

 

 そう言いながら手を握る力が強くなっていく。痛みすら感じ、反射的に引き離そうとするが、彼女の碧眼を見た瞬間に身体が硬直し、指一本動かせなくなる。魔術師でも無ければ瞳に何か特殊能力がある訳でもないと思わず錯覚してしまう程だ。

 

 

 ただ小学生にも満たない見た目の少女の手が巨人の様に巨大に思え、笑顔の仮面に隠れたプレッシャーがプレス機の様にそれが指揮官を押しつぶそうとしている。

 

 

「それに、よ…私個人としてもあなたとは話しては見たかったのよね…ねえ、鉄血の指揮官?」

 

 

 

 エリザベスにとってはそれまでの鬱憤を晴らす為に行った威圧。ジョークと流せるギリギリの範囲で行った鉄血の英雄に対する些細なイタズラ程度の認識だった。

 

 

 無論その行動は下手をするとヴァリアントが行ってきた決死の外交を全て水泡に帰しかねない危険なモノであり褒められたものではないだろう。彼女の行動は新たな女王となったヴァリアントの権力基盤を揺るがしかねないモノであり、事実ビスマルクは激怒して互いに一触即発となったのは事実である。

 

 

 エリザベスは思わず一線を超えていたのだ。しかし、ヴァリアントの騎士であるモナーク。そして当事者である指揮官は事態の拡大を望んでおらず、結果的に多少の騒動こそあれど軟着陸出来たと全員胸を撫で下ろした。

 

 

 エリザベスは反省した。ビスマルクもやり過ぎたか?と思いつつもこの手打ちに満足しており、指揮官に至っては特に気にしてすらいなかった。あの場にいる全員が外交が何であるかを理解し、やり過ぎてしまったエリザベスに屈辱を与える事で全てを水に流す事が出来たのだ。

 

 

 たった1人のイレギュラーを除いて。

 

 

 ガスコーニュ。陣営代表ジャン・バールの妹であり、失脚した元自由アイリス(を自称する勢力)であるリシュリュー枢機卿の妹でもある特別計画艦のkansen。そしてレッドアクシズの英雄であるヴァイスクレー・ヘルブストの妻の1人。

 

彼女はジャン・バールの枢機卿叙任式が政情の問題で一時延期となってしまい、運命の悪戯か、本人の希望によって彼女もまた指揮官とビスマルクの護衛としてこのロイヤルの地に降り立っていたのだ。

 

 

 彼女は無垢であった。

 

 

 彼女は余りにも「良い子」であり、戦争を知る世代でありながら幼い彼女の情緒を汚してはなるまいと姉も、夫も、同じ男を愛した妻仲間の皆にさえ「憎悪」や「悪意」といった感情から遠ざけられていたのだ。

 

 ガスコーニュは困惑した。国家規模の戦争は既に終わり、今回の式典は平和と友好の証。名誉ある式典を盛り上げる為に自分達は参列しているはずだと言うのに、何故主(メートル)は悪意ある言葉で脅迫されたのだろうか?

 

 

 怖かった。エリザベスも、普段は自身に気を使ってくれるビスマルクも。ジョークや駆け引きというものを理解出来ないガスコーニュは混乱してしまった。

 

 

 真っ先に質問に答えてくれた主(メートル)は「気にしなくても良いよ。大丈夫。」と、少しだけ申し訳なさそうにガスコーニュを抱きしめてくれたが疑問に答えてはくれない。

 

 だからこそ、ガスコーニュがその夜部屋を抜け出し、指揮艦に万が一の為に持ち込んだ長距離通信機で姉であるジャン・バールに疑問をぶつけたのはある意味当然の帰結だったのだろう。

 

 

 指揮官も、ビスマルクもまた疲れからか仲の良いシュペー達にロイヤルに辿り着いた事を連絡するのだろうと、ガスコーニュの行動を放置してしまった事も、ある意味では運命の悪戯と言えるのかもしれない。

 

 

 

 その結果がこの騒動だ。

 

 

 ジャン・バールはエリザベスのふざけた対応に激怒し、即座に鉄血とサディアに緊急通信。ヴェネトも即座に大艦隊を送りレッドアクシズの『英雄』を救出すべきと全ての権限を使い準備を進め、ビスマルクの留守を任されていたティルピッツもまたヴィシアとサディアの動き同調せざる得なかった。

 

 最早式典どころの騒ぎではない。レッドアクシズの英雄があの悪名高いクイーン・エリザベスに恐喝された。噂は多少の誇張を含みながらもその重要性だけは何一つ変わろうとしない。ユニオンや北桜同盟だけではなく、ロイヤル本国ですら即座に彼女達を切り捨てたのも当然の事だろう。

 

 渦中であるビスマルク達は唖然としていたが、最早誤解を解く時間も無い。

 

 

 ロイヤル本国ではなくレッドアクシズによる裁判を受ける法的根拠は微塵も存在していなかったが、エリザベスは拘束され、レッドアクシズに引き渡された。

 

 

 それでもなおレッドアクシズの怒りは止まらない。鉄血本国にエリザベスが移送された後も三国艦隊はロイヤルの領海に駐留し、その射程をヴァリアント達に常に向けており、一触即発の状況が続く事となった。ロイヤル国民は彼女達に失望し、最早権威もへったくれも無かった。

 

 

ヴァリアントの最後の足掻きは完全に無駄になったのだ。

 

 

 

 

「……私は……私達は……」

 

 

 

 決して弱音を吐いてはいけない。決して屈してはならない。決して前を見続けなければならない。そう心に決め、彼女は、ヴァリアントは何とかここまで歩いてきたつもりだった。

 

 

「生きてちゃ、いけないのかな…」

 

 

 思わず漏れてしまった彼の声がまるでひび割れたグラスの様に彼女の心を震わせる。今にも砕け散ってしまいそうになるその心を必死に保とうとするがもう限界だった。

 

 

 もし、この場に彼女が崇拝する部下が居たならば間違いなく泣き崩れていただろう。泣いて弱音を吐く姿を最愛の人に見せてしまうという不敬な行為を心から懺悔したくもなるほどに。

 

 だが、ヴァリアントは勘付いていた。この部屋にいる面々は皆自身に忠誠を誓っている。しかし、それは自身が女王だからなのではなく、前エリザベスの言葉故にだと。結局彼女に心からの忠誠を尽くしていたkansenは一人もいない。あえて言うのならセントー辺りはエリザベスと変わらずヴァリアントを慕ってくれてはいるがそれは本人の気質によるものだ。

 

 

 

『押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ。覚えておくといい』

 

 

 全ての始まりであったあの言葉が耳にこびり付く中、ヴァリアントは机の下に隠した拳銃を手に取りたくなるのを震えそうな右手で押さえ込むのであった。

 

 

 





・ジョージ6世

 史実の第二次世界大戦にて英国の国王として枢軸国の脅威が迫る中で国民を励まし続けた方。その生涯は数奇なものではあるがイギリスという国家がWW2を戦い抜いたのは間違いなく彼の存在も大きかった。彼について詳しく知りたい方は『英国王のスピーチ』という映画をご覧になってほしい。



・現ロイヤル国王であるジョージ6世の名前すら興味のないkansenばかりだ。

 ゲーム内でも今作でもロイヤルのkansen達は王家を信奉し、エリザベス陛下に忠誠を誓っているが本来のロイヤルの国王に関して言及した事は一度としてなかったりする。メタ的には現実世界の王家などを巻き込むとシナリオがややこしくなるという点が大きいだろうが、今作ではロイヤルネイビーのkansen達はエリザベスという絶大なカリスマ的君主が存在していたのも要因なのか、人間の国王や王族ではなくkansen内の『王家』というものを優先して信奉しているという設定に。そのお陰でロイヤル国民とkansen内では元より小さな溝が産まれていたのだが、敗戦とネプチューンの暗躍によってそれらが拡大してしまった。

 実は第二十六話 ヴァイスクレー・ヘルブストにてリスター少将が『なによりもロイヤルのkansen達は……!』と不満を露わにしているシーンのアンサーがこれであり、数年越しに伏線を回収できてホッとしている所である。

・モナークの立て直しプラン
①まずエリザベスとウォースパイトといった「王家」のなかでも王位継承権が存在する面子を全員ロイヤル本国から追放。現在本国から左遷している面々は二度と本国に帰る事が出来ず、そう言う意味でもロイヤルのkansen達が分散している今が唯一にして最大のチャンスであった。

②その事に不満を持つ者達は間違いなく声を上げるので、彼らを投獄や左遷させる事でロイヤル本国でのヴァリアントの権力をひとまとめにする。ロイヤルは世界中に植民地や港があり、左遷先も分散しているので一纏めになって本国のヴァリアントにクーデターを起こす事は困難。

③その合間にヴァリアントの真意を読み取った者や新しい世代であるセントーやチェシャーといった面々に意識改革を行う事で、国内外へのトラブルの防止や旧エリザベス派の面々が武力行使を行った際に反撃する為の戦力ををまとめ上げ、王家というなの『システム』を再構築する。同時にプライドを捨てた外交で他国への心象を少しでもマシにする為に積極的に行動を行う。

これがモナークが纏めた提案ですが、無論モナークとしてもこんな事を提案すれば自分は逆恨みでヴァリアントを傀儡にしつつ、讒言で旧エリザベス派に復讐しようとしているのではないか?と思われるので本当は言いたくはなかったそうな。元々もうどうでもいいやと、ハングリーなネプチューンと違い色々と諦めていたのも大きいでしょう。

 外に居場所を求めて復讐を誓うネプチューンと、修羅となり改革の道を歩むモナーク。

 2人の友人はそれぞれ別の道を歩みますが、モナークはネプチューンの危険性を口にしなかったのは彼女なりの友情なのかもしれません。

・ガスコーニュIF

 実は最も苛烈な展開になっていたガスコーニュルート。グラーフやシュペーといった反発する面々ではなく、素直で良い子で何処までも純粋なガスコーニュだからこそ、外に答えを求め、破滅への道筋を作り上げてしまうのは何とも皮肉と言えるでしょうね。


・次回予告
 これが今年最後の投稿となります。今年も一年お疲れ様でした。次回はビスマルクと指揮官の会話から。そして、いよいよあの人物が。それまで一度も出てこなかったイラストリアスが指揮官の前に現れて……


 最後に毎度お馴染みとなっていますが、作者として評価や感想を頂けるのは最高のモチベーションアップに繋がりますので今年最後のお願いとしてまた言わせて頂きましょう。

 コメント、感想、評価をお待ちしております。

 そして読者の皆様。良いお年を!

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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