鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第十話 束の間の平和と王家の少女

 違和感を感じる。

 

 グラーフ達が脇を固めて輪形陣を組み、夕焼けに染まる穏やかな海を指揮艦がエンジン音を立てながらゆったりゆっくりと進んでいく。しかし、そんな状況に自身は少しの疑問と違和感を感じていた。

 

 胸を締め付ける様な焦燥感に、肌で感じ取れる妙な涼しさに不気味な静けさ。そしてどことなく感じる微かな違和感。手は汗によって徐々に湿っていき緊張で心臓が早鐘を打つ。

 

 マンジュウ達も何かを感じているのだろう。周辺への警戒を念入りに行いつつコミカルな見た目に似合わない真面目な顔で、キリッと目を光らせて周りを見渡している。

 

 

「なぁシュペー、なんか……おかしいよな」

 

「うん、私も思うよ」

 

 思わず通信を集音モードにしながら船と並走するシュペーに話しかけると、シュペーも冷や汗をかきつつ巨大な艤装の手を軽く振りつつこちらに合図を送ってくれる。やはりマンジュウや俺だけではなくシュペーも何か感じていた事実に少しだけ安心感と……更に焦燥感が増していく。

 

 あり得ない、あり得ない、おかしい、おかしいんだ。

 

 頭の中で同じ台詞が、何度も何度も繰り返される。恐らくここまで自身が焦っているのは過去の二回の苛烈な戦闘の時かそれ以上だろう。

 

 

 

 心臓を直接掴まれたかの様な苦しい動悸。

 

 頭痛、吐き気、トラウマ、違和感。

 

 俺の精神は休まることは無かった、その理由は……

 

 

 

 

 

「なんで!なにも!無いんだよ!? 」

 

 

 

 

 

 信じられないように海を見渡せば平和なことこの上ない。海は穏やかでカモメ達も能天気に鳴いており、レーダーを見るとセイレーンの予兆もない。勿論ロイヤルどころか周囲に存在するのは自分たちの反応だけだ。

 

 ……何故だ!?何故なんだ!そんな不安そうなシュペーと頭を抱える俺やマンジュウをヒッパーは呆れた様子で見つめながらため息を吐き、グラーフは我関せずと無言で偵察機の運用中だ。

 

「おかしい平和だ……なんでこんなに平和なんだ?セイレーンは?ロイヤルは?なんなら他のアズールレーン勢力のユニオンとか自由アイリスに北方連合や重桜は……」

 

 これまでの流れではそろそろセイレーンが出現してその後ロイヤルがくるだろう!?なんでパトロールもそろそろ終わるというのに不審船の一つもないんだ!?正直今回パトロールの予定が決まった瞬間、今度こそロイヤルの大艦隊が現れるくらいの覚悟で遺書を書き、第二遊撃艦隊に救援された時の為に既に菓子の詰め合わせセットを購入してこの船に用意していたんだぞ!?

 

 

 

「はいはい、だからアンタもシュペーも警戒しすぎだっての」

 

「………あっ、またかな? 」

 

「まただね……」

 

「………くぉら!あんたらぁ!? 」

 

 

 

 シュペーと顔を見合わせてしめし合わせたように頷き合うと、ヒッパーは抗議の声をあげて怒りを示す。冗談半分本気半分、半ば本気で前回の様にフラグが立つ事を警戒している事は事実なのだが。

 

 

「今までがおかしかっただけだってえの!そうそうフラグになんかなりゃしないわよ!!ユニオンは否定できないけど、自由アイリスや北連なんて来るはずないってぇの!特に重桜なんてどれだけ遠いと思って」

 

「……成る程次は重桜か」

 

「グーラーーフ!! 」

 

 今まで無言であったグラーフにまで揶揄われてヒッパーはギャーギャーと文句を放つ。というかマフラー越しではあるがシュペーも少し笑っており、グラーフも分かりにくいが口元が少し笑いを堪えているような?ヒッパーを除けば和やかな雰囲気が周囲を包み込む。

 

 流石にアズールレーンに加入しながらも謎が多い極東に位置する島国重桜のkansenがこんな遠方の海域に出現して、あまつさえ撃ってくる訳……やめよう。こう思うだけで本当に重桜の艦載機に襲われそうだ。

 

 

「ったく、大体なんで私がこんな扱いなのよ……!」

 

 

 

 そう言う事言うと、余計にロイヤル辺りが現れるんじゃないかな?そう思うも発言した瞬間ヒッパーの怒りに油を注ぎそうなので口にはせずに、軽く謝罪をしつつも再び夕焼けに染まる海を見回す。

 

 

 その後セイレーンやkansenが出現することもなく、本当に、本当に何事もなくパトロールは終了。キールの、鉄血の海は今日「は」平和だった……そんな当たり前の事実に感動を覚えてしまった自分に少しだけ悲しくなる。今度教会にでも行こうかなとため息を吐きつつ、業務報告の為の書類を書く為に皆と共に基地に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レス島を巡る三つ巴の戦い、その後キール第三基地の業務の内容にパトロールの頻度が少し増加してしまったものの、今の所はセイレーンすら見かけない平和な日常になりつつある。

 

 しかし裏では色々と大変な様で最近は出撃時を除けばビスマルクさんの右腕であり幹部のグラーフも忙しいらしく、基地で見かけなくなってしまった。話を軽く聞くと中立国ユトランドが秘密裏にレッドアクシズ加盟を打診しており、本格的に基地や資材の提供を行おうとしているそうな。

 

 

 レス島の戦いが鉄血経由よりユトランドに伝わった結果、鉄血は他国の民間人の生命を守る為に責務を果たし、ロイヤルは必要なら我らを捨て駒にしようとするいう風潮がユトランド上層部に広まってしまったそうな。勿論こちらからの情報でありいくらか鉄血にとって都合のいい解釈を含めた情報のリークではあったが、結果的には僅かなアズールレーン派、親ロイヤルは一掃されてしまい、今後ユトランドはレッドアクシズと少しずつ歩調を合わせていく。

 

「親鉄血ではなく反ロイヤルでユトランド政府の方針はまとまった。メルセルケビール海戦後のヴィシア聖座と同じくな。とはいえ海上戦力がまともに存在しないユトランド防衛の為に鉄血も戦力を派遣する必要がな……」

 

 

 ある日の朝の事だ、顔を洗って執務室に向かおうとすると、目の隈が目立つグラーフと廊下でばったり出会う。少し会話をすると深夜どころか早朝まで延長された会議から帰宅したらしきグラーフは、全くロイヤルも面倒事を持ち込んだものだと恨めしげに愚痴りつつ、疲れた様子で水筒に入れたらしきミルクも砂糖も入れないアイスコーヒーを一気にがぶ飲みする。苦味で顔をしかめつつも、まだ飲み足りないのか再びマンジュウにアイスコーヒーを要求。

 

「グラーフも少し休んだ方がいいんじゃないか?その様子だと最近寝てないだろ?」

 

「しかし……」

 

「その、ね?基地司令として言わせてもらうけど、そんなコンディションで緊急事に戦闘を行っても満足した戦いは出来ないはず。だから今は休んでくれ、睡眠の重要性はグラーフだって理解してるだろ? 」

 

「……すまないが卿の言う通り、少し仮眠を取らせてもらう。こんな事ならコーヒーを飲むべきではなかったか」

 

 一瞬硬直し、少しだけ迷う様な表情を見せるも、このまま業務を続ければいざと言う時に身体が持たないと理解したのだろう。彼女は鉄の様に重くなった足を引き摺りながらもどうにか自室に向かう事を了承してくれた。

 

 

 基地司令とはいえ若手である自分には政治的な事に関しては理解できずに、関わる事も出来ない。餅は餅屋としてそれらは全て上に任せ、俺はただ軍人としての責務を果たすだけだ。とはいえ、あの責任感が強いグラーフがすんなりと仮眠を受け入れて寝室に向かう辺り、軍部は人間もkansenも問わずに上層部の人々は疲れ果てているのだろう。この一ヶ月足らずで対アズールレーン、対ロイヤルに関しては情勢が動きすぎた。

 

 

 そんなグラーフの後ろ姿を見送りながら、特に忙しいであろう陣営代表のkansenであるビスマルクさんは大丈夫なのだろうか?と心配しつつも、その後5分遅れたとヒッパーに少しだけ注意されるという、少しだけ騒がしい朝を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 午前の業務が終了すると、いよいよ待ち望んだ休憩時間……とは言うものの、青春の全てを指揮官になる為の教育に捧げてきた俺に休憩中だからといって楽しむ趣味も特にはない。

 

 軽く昼食を取った後は、いつも通りなら机にぐだっと突っ伏しながら仮眠を取るか、マンジュウに頼んで甘いものを作ってもらうか、未だに未熟な指揮をどうにかする為に教本を開くのみ。20歳だと言うのに余りにも無趣味な自分に少しだけ虚しくなるも、今日は気晴らしに基地の周辺の散歩を行っていた。

 

 執務室を抜け出して庭を見渡せばマンジュウ達が数匹花壇の手入れや、自身よりも大きな箒を片手にピヨピヨと掃除を行なっている。

 主に基地内部やその周辺はレッドアクシズのイメージカラーとも言える力強さと覚悟の象徴である、真紅と漆黒の装飾で彩られているが、そうではない緑豊かでカラフルな花が咲き乱れている。この庭は何処か心が落ち着くようだ。

 

 思わず背伸びをしながら深呼吸をしてみると、雲の合間から漏れる太陽光は花々を照らし、風は優しく頬を撫でて、木陰で思わず横になりたいなんて衝動に襲われそうだ。個人的には悪くない、寧ろ良い。それに船の上で過ごすよりもやっぱり人間は地に足をつけておいた方が安心できるなとしみじみ思い、今日からは定期的に庭でゆっくりと穏やかな過ごすのもっ、と……?

 

「んっ……?あれは……」

 

 一人庭を見渡して物思いに沈んでいると、少し離れたベンチに赤髪の小さな少女が座っており、うつらうつらと船を漕ぐ様に身体を揺らして睡魔に身を委ねている。

 

 あれは確か……ロイヤルの捕虜の駆逐艦ジャージーか?実際に彼女の姿を見たのは戦場以来だが、そういえばマンジュウが持ってきた申請書の一つに、捕虜の彼女が外の空気を浴びたいと要望を記述していたものが一つあったような……それが今日か。

 

 よく見るとベンチから少し離れた木の裏に隠れてはいるが鉄血の軍帽を被った小さなヒヨコ型ロボマンジュウが電気銃を片手にジャージーを見張っており、俺に目が合うと慌てた様子で電気銃を構えながらキリリと敬礼をしている。

 

 

 

 最近は慣れてきたのか、あいも変わらず戦艦デューク・オブ・ヨークだけは頑なに部屋から出ずに尋問も沈黙を保っているが、他のロイヤルの捕虜の皆は少しずつ嗜好品の申請や外の空気を吸うなど申請書を提出してくれている。

 

 

 その中でもイーグルは意外なことに度々、いやかなりの頻度で外に出たいと申請書を提出していた。その数平均として三日に一回から二日に一回と増えており、今やほぼ毎日の様子。当初はロイヤルに入り込んでいるスパイと接触でもしてるのか?と疑問に思いながらも、何故こんなにと直接部屋に向かい、前回の事があったので睨まれながら話しかけると。

 

『……その……太るんだ……部屋に引きこもってやる事もないと少しずつ体重が増加して……筋トレだけでは意味もなくて……鉄血の指揮官、銃をもった監視役を1ダース付けてもいいので、毎朝基地内でジョギングをする事を許可してくれ。頼む……!』

 

 なんて屈辱に耐えるかの様な深刻な表情で返答されると、流石の俺も許可するしかなかった。一応、ジョギングの際は監視役のマンジュウが付き添って見張ってはいるが、不審な行動は無い様子で今では毎朝この庭をぐるりと何度も走っているそうな。

 

 

 それは兎も角ジャージーに近づくと彼女はあいも変わらず無防備だ、流石にこんな所で寝てしまえば薄着の彼女は風邪の一つ引いてしまうかも知れない。起こすべきか、そのまま寝させるべきか。放っておいても良いが、流石にこんな姿を見ると放置する訳にはいかない。取り敢えず、上着の一つでも脱いで彼女に掛けようとしてみると。

 

 

「ううん……真っ二つ……真っ二つはいやぁ……!」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 どうやら彼女が見ている夢はあまり良いものでは無いらしい。うんうんとうなされて真っ二つと呟く彼女を心配をしつつ、覚悟を決めて肩を揺すって声をかけてみる。

 

 ……ちょっとだけ懐かしいな、この感覚。

 

 

「んっ……あぁ、うんえっと、そっか……ごめんなさいあたし寝ちゃっ……ひゃぁ!?鉄血の指揮官!?」

 

「初めまして、良い夢を見てたようだけど気分はどうだ?」

 

 中々いいリアクションを見せる彼女に軽口を叩きながらベンチの横に座ると、彼女は困惑気味にこちらを見つめてくる、そりゃそうだ。バルト海海戦が終了して一ヶ月近く彼女はあまり有益な情報も持ってないだろうと完全にノータッチだったので仕方ないかもしれないが。

 

「そういえば……君とは初対面のはずなのに、何故俺が指揮官だって知っているんだ?」

 

「えっと……イーグルさんからこの基地の男性は一人で、それが指揮官だって聞いていたからよ」

 

 ふと疑問に思って質問をしてみると少し……いや完全にこちらを警戒しながらも恐る恐るとその理由をジャージーは答えてくれた。

 

 あー……そう言えば少し前にイーグルが捕虜全員とそれぞれ話したいと申請書を出していたなと思い出す。なんでも捕虜の皆が本当に元気かどうか旗艦として確かめる為だとか、立ち合いにはグラーフが付き添ってくれていたようだがその時にイーグルから色々と聞いたのか。

 

 

「そっか……ジャージーちゃん」

 

「ジャージーでいいわ」

 

「オッケー了解。それでジャージーに聞きたいんだけどさ、イーグルって俺の事をなんて話していたんだ?」

 

「……聞きたい?」

 

「うーん……その顔でなんとなく理解したからやっぱりやめとくよ」

 

 

 その言葉を聞いた途端に少しだけ躊躇う様子を見せるジャージー、やっぱりやめておこう。どうせイーグルにとって俺は嫌われる言動と行動しかしてないんだ。どう好意的に解釈をしても、恐らくあの指揮官と話す時は油断をするな、心を許すなとでも言われているんだろう。

 

 沈黙が再び場を包む。別に今日は尋問の予定も無ければ彼女から情報を引き出すつもりもないが、流石にこちらから話しかけて気まずい雰囲気のまま話が終わるのも両者にとって損でしか無いだろうと頭を働かせて世間話の話題を振ってみる。

 

「しばらくここにいるけどさ、調子はどうだ?」

 

 

「えっと、ちょっと料理に芋が多いかな?って思うけど悪くはないかな……ロイヤルに返してくれるともっと良くなるんだけどね」

 

 ジャージーは完全に期待をしていない様子でため息を吐きながらこちらにそう答える。まぁ、うん。そりゃそうか。とはいえ折角の交渉カードでもある捕虜を向こうにほいと返すわけにもいかないし、グラーフ曰くロイヤルとは交渉の目処も立っていないと言う現状、その答えに応じるわけにはいかないんだ。

 

「芋は兎も角それは今は無理だ。悪いな……でも何かあれば言ってくれよ、捕まえた手前信用できないのは百も承知だけど出来る限り望みは叶えるよ。よかったら今からケーキでも食べるか?」

 

「うん……気持ちだけで遠慮しておく」

 

 

 せめてもの償いにケーキでもと優しく口にするも、ジャージーは首を振って拒否をしてしまい再び空気は沈黙する。敵意は感じない、しかし拒絶の意思ははっきりしており無理やりケーキを持ってきても意味はないだろう。

 

 その後は話す内容も無く、友情も愛情も敵意や憎悪も無く、俺達は改めて庭をただ無言で眺めていた。

 

 思えば着任してから忙しい毎日なのでこうやって静かに何もせず過ごした事なんて久々だ。故郷のフランクフルトを離れてひたすら帰省も殆どせずに指揮官となる為に勉学に打ち込んだ日々。

 

 着任してからはセイレーンやロイヤルと交戦をする羽目になり、その事後処理や基地の運営について学ぶ必要もあり、この庭の花々の美しさや、風や太陽の素晴らしさに気がつく事すら出来なかった。

 

 

「いい所よね、ここ」

 

 

 しばし無言でベンチに座っていると、ふと駆逐艦の少女はどこか遠くを見ながら口を開く

 

 その姿は何処か震えてる様にも感じてしまい……いい所だと言ってくれたのは鉄血の事なのか、それともこの庭の事なのか。

 

 そして彼女はきっと……横に俺がいるからこそ震えているのだと感じてしまい罪悪感が心を蝕む。

 

「あぁ……だからこそ、俺は。俺たちはここを守っているんだ」

 

 思わずジャージーの目を直接見れなくなってしまい、目を逸らしながらもジャージーに本心からの想いを伝えてみせる。もしかして、ジャージーはこの基地の襲撃に成功してしまえば、この光景も、この時間も無かったなんて考えているのだろうか?

 

 もし自分がロイヤルの基地を襲撃する任務を受けて捕虜になり、こんな待遇をうけてしまうとどうなるのだろうか?歓待を受けた困惑や、自分が焼くはずだった基地の人々が同じ人間だと知ってしまった後悔なのか。

 

 今、肩を震わせているジャージーが何を考えているのかは分からない。ただ一つだけ言える事は……流石にこんな女の子から情報は抜き取る事はできなかった。

 

 

「……ごめん、あたしからは何も教えられないわ」

 

 ……きっと聡い、良い子なんだろう。この子は。

 

 自分がここにいる事も、そして彼女に話しかけた理由もなんとなく理解しているようだ。

 

 

 それでも肩を震わせながらもジャージーは何も言うつもりはないと言い切った。それが王家の忠誠なのか、それとも責任感によるものなのか。

 

 いずれにせよ、今の震える彼女を放置してはおけずに手を差し伸べる。拒絶される事を予想しながらも今の彼女は放ってはおかなかった。

 

 それが例え自分のせいでも、故郷に帰る事ができない彼女の今の状況を生み出したのは自分が元凶だと理解しながら。

 

「……それならいいさ、無理に聞く気はないからね。ほら、震えているぞ。ここで寝てたら風邪をひくからね。部屋まで送ろうか?」

 

「……いいわ、自分で帰れるから」

 

 案の定その手を取らずにベンチから立ち上がると、ゆっくりと捕虜として与えられた部屋に向かおうとするジャージー。

 

「君が、君達が故郷に帰れないのは全て俺の命令のせいだ。いくらでも、俺を恨んでくれて構わない」

 

 立ち去ろうとするジャージーの背中に話しかけると彼女は立ち止まって話を聞いてくれた。しかし俺は彼女の目を見る事は出来ず、彼女もきっと俺を見ていないだろう。

 

「信用できないのは理解しているけどさっきも言った通り、捕虜の適切な待遇と人間らしい暮らしは約束するよ。俺から君に送れる言葉はそれだけだ」

 

「……ありがとう、鉄血の指揮官」

 

 そうして自分も立ち上がる。見た目は幼いが彼女もロイヤルの、王家の戦士なんだと理解しつつ、震えているであろう、小さな背中を見送るしか出来ない自分が少しだけもどかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、再び俺は船上で揺られながらパトロールに出ていた。

 

 

 

 このパトロールの少し前に、俺は捕虜の一人であるロイヤルメイドの軽巡キュラソーの部屋に行き、ジャージーが思い詰めているかも知れない、出来れば少し二人で話し合ってくれないかと依頼をしていた。

 

「ジャージーちゃんは……あの子は本当に優しく、良い子で、私達の仲間です。承知致しました、あの子の様子に気づいて頂き感謝致します」

 

 

 

 ロイヤルメイドであるキュラソーは最初こそ警戒し、次に俺が情報を抜き取る様子もなくいきなりジャージーの話題を出した所、困惑した様子ではあったが最後は快く了承してくれた。

 

 少なくても俺が話すよりは同じ祖国の仲間の方が話しやすいだろう。正直依頼するのは重巡ロンドンと迷ったが、メイドなら多分その手のケアの知識もあるはずだと勝手に思ってお願いした。

 

 人任せなのは理解しているが、これでジャージーが元気になれば……なんて思いながら船越しから海を眺める。平和だ、今日も特に異常はなし。

 

 

 

「今日のところは異常無し、っと…流石に連日は来ないわね」

 

「ヒッパーちゃん、そういうのフラグになるよ?」

 

「そうそう、そういうのやめてくれな……」

 

 

 軽口をそれを言い切る直前、艦内の緊急アラートが鳴り響き……何かが急速にこちらに接近していることを知らせる。

 

 

 ……ほら来た!

 

 そうだ、パトロールが平和に終わった前回が異常だったんだ。

 

 

「ちょっ、これは私のせいじゃないわよ!?」

 

 

 急速に接近してくる反応は猛スピードで接近していき……迎撃する余裕も、反応も出来ずに、そのまま勢いのままに、俺の指揮艦へと踊りかかってくる。

 

 シールドを展開しろ!!と大声でマンジュウ達に指示をするも間に合わないだろう。シュペーとヒッパーが砲撃で接近中の物体を近づけさせないように必死で迎撃してくれるがその砲撃の効果も薄い。

 

 あぁ……これやばいか。いっそ船から飛び出した方が生存率は高いか?と急いでドアを開いて甲板から海にダイブと決断する間際。

 

 

「通すと……思うか!」

 

 高速で接近する黒い物体をそのまま横からはっ倒すかのように、グラーフが指揮艦とぶつかる直前に前方に飛び出ると、巨大な艤装の尻尾を叩きつけ、吹き飛ばし、水飛沫で指揮艦だけではなくグラーフの前身もびしょ濡れだ。

 

 

「し、指揮官!?グラーフさん!?」

 

「だ、大丈夫だ……サンキューグラーフ、流石に死ぬかと思ったよ」

 

「気にするな卿。それにしてもまさか、な……」

 

「あいったたた……流石にいきなりは無理があったかなー?」

 

 ……しかし吹っ飛ばされたにも関わらず向こうは何事もなかったかのように立ち上がってきた。

 

 その姿は黄色と黒を基調としたシュモクザメのような艤装にまたがり、青白い肌に薄紫色の背丈を超える程の長い髪をポニーテールにした半袖のセーラー服姿の顔立ちの整った少女。

 

 

 

 ……マジかよ。

 

 

 その姿を見た瞬間、絶句するしかなかった。

 

 

 直接的には見たことはないが指揮官となる前にセイレーンについて学んだ知識、その中の一つにセイレーンには三つのタイプがあると描いていた。

 

 一つは軍艦タイプの量産型のセイレーン、これらはチェスの名前で例えられ世界的に見られるタイプはほとんどこのタイプだ。

 

 そしてもう一つは人語を話さない人型タイプ、エクセキューター級と呼ばれるkansenと同じく人型の姿を持つセイレーン。いくつかの種類はあるもののいずれも強力な力を有していてユニオンの太平洋方面や北方連合の海域では良く見かけるようで、鉄血においても何度も交戦した記録がある。

 

 最後の一つ……それは出現回数こそ少ないもののセイレーン大戦中でも確認された人型個体。エクセキューター級を超える力を持ち、人語を話す強力なセイレーン。

 

 

「それで、何の様かな……ピュリファイヤー」

 

 教本の写真通りの姿を見て、緊張でどうにかなってしまいそうだ。ヒッパーとシュペーは即座に主砲を構え、グラーフは艦載機の発艦準備に移る。

 

 

 最強のセイレーンの内の一体との遭遇戦が今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 




 
・「おかしい平和だ……なんでこんなに平和なんだ?セイレーンは?ロイヤルは?なんなら他のアズールレーン勢力のユニオンとか自由アイリスに北方連合や重桜は……」

ユニオン→参戦せずにアズールレーン参加国に物資を送りつつセイレーン戦のみを考えている頭モンロー主義
自由アイリス→ロイヤルの保護を受けておりそれどころではない
北方連合→鉄血とイデオロギーの違いなのか基本的に仲は悪いそうですが国内がセイレーン塗れ
重桜→アズールレーン構成国の一つではあるものの極東の名前は伊達では無くいくら何でも遠過ぎる

なのでこれら勢力がいきなりパトロール中に出くわす可能性は低いのですが、実の所ファンブルにはそんな選択肢も存在しており……

・親鉄血ではなく反ロイヤルでユトランド政府の方針はまとまった。メルセルケビール海戦後のヴィシア聖座と同じくな。

 メルセルケビール海戦以後ヴィシアはレッドアクシズとして行動を共にして居ますが、それはレッドアクシズの理念に共感したと言うよりも敵の敵は味方理論でロイヤルへの敵意の結果そうなってしまったと言う側面も大きく、とりわけ陣営代表のkansenであるジャン・バールはメルセルケ前に監視としてセイレーンの量産機を派遣して居た疑惑のある鉄血への不信感は消えてはいません。

・最後の一つ……それは出現回数こそ少ないもののセイレーン大戦中でも確認された人型個体。エクセキューター級を超える力を持ち、人語を話す強力なセイレーン。

この世界のセイレーン大戦においてこの世界では上位セイレーンともいえる人語を話す人型タイプな実の所「公式上」ではテスター、ピュリファイヤーの二人だけしか確認されておらず(メタ的には時系列がゲーム内と比べても最初期なので)その中の一体が今回指揮官の前に立ちはだかりました。勿論ダイス原作に於いてもファンブル扱いです。




また、サディアイベントが始まりますがこの物語は2020年12月辺りから始まった物語で大まかなプロットは全て完成しています。しかし、今回も含めた新イベントで衝撃の事実が判明してゲームの内容が根底からひっくり返る可能性もある訳で(例えばまずあり得ないでしょうが実はkansenは全員レズセクシャルである、kansenは基本的にふたなりである、鉄血は実は総統閣下が云々など)……なるべく原作ゲームとの間にストーリーに矛盾が生まれない様に努力はしますが、もしそうなってしまえば、きっと頭を抱えているのだろうと生暖かく思って頂ければ幸いです……

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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