ここ数日のロイヤル勢の動きはほぼ引き篭もっている俺から見ても慌ただしいものだった。
ヴァリアントはそれだけ期待しているのだろう。国民の支持や信頼は底に落ち、国外からの目は厳しい今、新たなロイヤルネイビー(と言っても正確にはkansen達の事だが)を国内外に示すのは私達は変わったと宣言するに他ならない。
体制は既にリセットされ、変革は既に始まっているのだと。その第一歩を歩む為に彼女達は乾坤一擲の賭けに出た。そこで問題となってくるのが国内である。ただでさえ外部からの視線は厳しい現状だ。本人達は必死に抗おうとしているのだが冷静に彼女達を観察する国民はいったい何人いるのだろうか?そして失望を通り越して憎悪の視線を浴びせる国民は何人いるのだろうか?
……まぁ少なくとも20万人は最低でもいるだろう。レッドアクシズに所属している自分が言うのもなんなんだがマルタ島出身者は故郷を奪われた上にそれを取り戻す算段も失っている。その不満がヴァリアント達に向かうのは当然であり、戴冠式が延期されたのも主にマルタ島出身者を中心とした過激な反kansenのデモが要因なのだから。
国民とkansenはレッドアクシズの策略によって分断されつつある。その一片に関わった俺としては非常に複雑な気分ではあるが、余計な事を考えるのは全て鉄血に帰ってからだと軍服の袖に腕を通す。黒を基調ににした軍服の胸元にはヴィシア、サディア、鉄血から叙勲された勲章がズラリと並び、そして左胸には鉄血のライヒスアドラーが刻まれている。
久々の軍服の着心地は最高だ。こちらの方がやはり落ち着くし、気も引き締まるというものだろう。鏡の前で服装に乱れがないか確認しつつ、帽子を被り終えると準備は完了。着任当初は軍服の着方にすら四苦八苦だったが今は慣れたものだ。
「さて……行くか」
そう呟き、最後にもう一度自身の姿を確認し部屋を出る。自室を出ると相変わらず薄暗い廊下が続いており、外は晴天だと言うのに未だに明るい部屋は無いようだ。恐らく本国も同じ様なものなんだろうな……なんて思いながら階段を降りてロビーへと向かうのであった。
戴冠式当日。イラストリアスとの接触はアレで最後になってしまったが残り数日はビスマルクに慰められ、肯定され、ベッドの上で甘い夜を過ごした結果、かなり本調子に戻る事が出来た。
陣営代表である彼女にあんな事やこんな事をする背徳感は溜まりきっていたストレスを発散するのと同時に俺が抱く罪悪感を薄める効果があり、つい数時間前にベッドの上で乱れていたビスマルクを想像するだけで、下半身に熱が溜まり始めてしまう程だ。
いや本当最高だったな……特に最後のあの乱れっぷりは……散々挟んで、しゃぶって、揉みしだいてきたがまさか胸のプレイにあそこまでハマるとは……いや、俺も胸は好きだと自覚してたが何時間も胸で奉仕させるなんて……。
いかん、思い出したらまたムラムラしてきた。あの胸の感触を味わいたいし、今度はもっと凄い事をしたい。でも流石にこれ以上は不味いだろうなぁ……いやでもビスマルクの事だ。俺がお願いしたらなんだかんだ言いながらも受け入れてくれる気がする。しかしそれをすると本当に歯止めが効かなくなりそ……。
「どうかしましたか?義兄様」
「……うん。何でもないよ」
そんな不埒な事を考えていたのを悟られぬよう俺は平静を装ってそう答える。背中まで届く黒髪とオッドアイが特徴的な美女、ローマはそんな俺の様子が気になったのか顔を覗き込んできた。
彼女は今回の戴冠式にサディアから派遣された使者であり、同時に俺の義妹ともいえる存在だ。義妹といってもヴェネトとリットリオから話は聞いていたが、会うのは初めてであり、控え室で待機してる最中にサディア帝国の軍人達を侍らせながら堂々とやってきた彼女にすこし萎縮したのは内緒である。
戴冠式前に待機していて欲しいとロイヤル側からこの部屋に案内されて小一時間。いきなりずらりとサディア帝国の護衛を大量に連れてきたローマに唖然としているものの、それでも当たり障りのない会話を続けつつ、彼女から出来る限りの情報を引き出す事には成功した。
まず俺と同じ控え室にローマが待機する事になった理由は俺の護衛の為らしい。戴冠式は外の会場で行われる事になるが陣営代表のビスマルクは俺と違って最終調整に忙しい。そんな状態で問題を起こした俺を放置する訳もなく、ロイヤル側はわざわざ親衛隊出身であるヴァリアント直属の護衛。特別計画艦のモナークが行うはずであったが。
「全く…ありえません。鉄血の『英雄殿』の護衛をロイヤルだけが行う?そんな事、このローマが許しません。義兄様は常勝不敗で勇猛果敢。敵に一切の容赦はせず、しかし味方には親愛を持って接する武人。そんな義兄様をお守り出来るのは敗軍であるロイヤルだけではなく、このローマでなければならないのです」
なんて言葉を我が物顔で口にしているのだが正直胃が痛い。だってそこにメイド隊の…確かマンチェスター?とかいう子がこっちを見てるんだから。
俺と目が合うとニッコリと笑みを浮かべ返すが目が笑ってない。よく見ると頬が微かにピクピクと動いているし。
ちなみに他の護衛の方々も同じ認識らしく頷いている。仲には熱意のこもった尊敬に満ち溢れた目で絶対に貴方を守り抜きます!と言わんばかりの視線を俺に浴びせる人もいる。
「そう言うわけで……ご安心ください義兄様。このローマ達にお任せあれ」
そう言葉にして手を差し出すと彼女も素直に手を握り返してくる。その手の柔らかさに、何度か抱いたリットリオとヴェネトの身体の感触を思い出してしまった。いかんいかん、今はちゃんと仕事に集中しなくては。
「ところでローマさん?」
「ローマで構いません。義兄様にはこのローマを呼び捨てにする権利があるのですから」
ドヤ顔というか、当然と言わんばかりに彼女は語る。うん、悪い人ではないし信頼出来るんだけど、上から目線というか高圧的に見えてしまうし彼女の部下は大変だろうな…
「そうかい。じゃあローマ……質問なんだけどさ」
「なんでしょう?」
「なんで護衛の皆の装備が全部ロイヤル製なの…?」
真っ先に気になったの護衛の皆が誇る装備群。そのどれもがロイヤル製の装備である事だった。確かサディアとロイヤルの歩兵用装備は規格や口径、弾薬も含めて全く別物であった筈である。
弾薬不足になった時にロイヤルから補給を受けられるようにするため?そんな筈はない。ローマ達が乗ってきた軍艦であればこの人数ならば大量の弾薬が輸送可能な筈、なんならロイヤルから武器を借りれば良いだろうにわざわざ鹵獲品で装備を固めるのは挑発目的にしか思えなかった。
「先の大戦で大量に鹵獲した兵器。倉庫でホコリをかぶって朽ちて行くのも勿体無いとは思いませんか?サディアにだって常に潤沢な軍事費があるわけ無いのですから鹵獲品だろうと使えるものは使わないと」
なるほど、そう言われると納得し……出来るか!!
何というか、これ以上は踏み込んではいけない領域なんだろう。あっ俺たちの会話を聴いて「これロイヤル製の武器じゃん」って気がついたマンチェスターの顔が真っ青になってるもん。
友好の祭典に参加しながら捕獲武器を見せびらかすのはヴェネトかリットリオの提案か、それともローマの独断か……。
「それにしても……ヴィシア側が不参加なのは仕方ない、なかな?」
これ以上この話題について触れない方がいいと判断した俺は無理やり別方向に会話をシフトする。会話の突破口は……やっぱりあの事だ。
「それはそうでしょう。なんせヴィシアはロイヤルのことをPerfide Albion(ぶち殺すぞ、嘘つきライミー野郎)と蛇蝎の如く嫌っ───」
「ローマ。それ表立ってあまり言わないでくださいね?君がロイヤル嫌いって伝わると色々とややこしい事になるから」
「おっとこれは失礼。別に私はロイヤル嫌いという訳でもないのですが…」
訂正。話題をミスした。耳元で素早く忠告すればローマは特に機嫌を悪くする事なく素直に従ってくれる。本当に、本当に悪い人ではないって事は雰囲気や言動からいくらでも伝わってくるというのに、一言余計というか天然と計算が絶妙にミスマッチしているというか……。
「んー、とね。話題を変えよっか。じゃあ質問なんだけど……ローマ。サディアって過去に……」
と、俺が本題に入ろうとした直後。控え室のドアがコンコンッとノックされたのだった。その突然の音にローマは即座に俺との距離を詰めつつ、手練れである護衛達もまた俺たちを囲う形で陣形を組んでいた。うん、やっぱり素晴らしい練度だ。だからこそ胃が痛い訳だけど。
「どうぞ」
入室を促せばゆっくりと扉が開かれ、そこから姿を見せたのは。ビスマルクだった。警戒の色は即座に解かれ護衛の人達は即座に敬礼。熱のこもった視線を受けても全く気にして居ないのは彼女が陣営代表として慣れているからだろうか?
「あら?随分早かったですね。もう少しヴァリアントとの打ち合わせが長引くと思ってましたが」
「……少し、ね…緊急事態よ。これから詳しく説明するわ」
はぁ、と深くため息を吐きながら部屋に入ってくるビスマルクだが俺には察する事が出来た。あぁ……これはあまりよろしくない事態なんだと。
ビスマルクの表情は何とも形容し難い。セイレーンが急遽侵攻してきたのであればもっと険しいをするだろうが、その表情はどうにも疲れ切っている。つまり緊急ながら朗報ではなく、喜ばしい内容では無いのだろう。
ビスマルクはそのままローマとは少し離れた椅子に。というか俺の隣へと座ると。気力を振り絞って声を発する。
「暴徒が式典会場でデモを開始したわ。同時に軍やマスコミに複数の犯行声明が先程届いたのよ。差出人はマルタ帰還同盟だの反エリザベス組合だの……まぁ色々よ」
「……ヤバくないですか?」
「ヤバいわ。それもかなり……ね」
公私を分けて敬語でそう尋ねれば、心の底からの感想なのかビスマルクは深いため息を吐き出すと天井を見上げる。そんなビスマルクの様子にローマが心配そうに声を掛けた。
「成る程……規模はどの程度なのですか?」
「大人数が動員されてると想定しても構わない。声明の内容や動きから見ても警備を強行突破する気満々でしょうね。今は警官隊が食い止めてるけど……恐らく長くは持たないわ。今すぐにでも向かわないと式典開始までに鎮圧するのは……」
「絶対無理って事ですか?」
「私の見立てだと不可能ね。今日の式典はまず間違いなく不可能。数千、下手すると数万人が式典会場に流れ込むことになるわ。そうなれば大混乱……確実に政治の汚点になるわよ」
「もう既になっているのでは?デモに屈して式典を中止にした時点で各国から失笑されるでしょうし、その時点で今回の式典で国内外での名誉回復を目指したヴァリアントの目論見はほぼ潰えますね。皮肉な事に国民からも大きな反感を買うことになりますが……」
ローマの言葉にビスマルクは頭を抱える。
それはそうだ、大々的にレッドアクシズとの仲の良さをアピールする重要なイベントでこんな事が起きればロイヤルの名は地に落ちる。
「まぁ…もう既に地に落ちるような名誉は地面にめり込んでいますし。今更何をやっても焼け石に水だと思いますが」
ピシャリとローマは正論を叩きつける。事実は事実であるが、ここまでハッキリ言われるとビスマルクも言い返せないのだろう。「そう……ね……」なんて力無い声しか出せていない。
メイドのマンチェスターは言葉を耳にしたのかぎゅっと拳を握りしめており、流石に見ていられない。取り敢えず彼女に「少しレッドアクシズとして話し合いたいから部屋を…」と頼めば複雑ながらもほっとした表情で彼女は部屋を後にする。
……ここでローマにマンチェスターの気持ちを考えなよ。と口にするのが正しい選択なのだろうが、ヴィシア程ではないがサディア出身者のロイヤルへの悪感情はかなりのものだと知る身からするともどかしい。いや、ローマは恐らくロイヤル嫌いというか単純に客観的な正論を述べているだけだろうが。
「まぁ……それに関しては置いておきましょう。ここで我々が悩んでいても仕方ありませんから」
しばらく沈黙が流れ、重苦しい空気が部屋を支配したタイミングでローマはそう切り出す。それとなくビスマルクの肩に触れれて抱き寄せればローマは一瞬驚く様な視線をこちらに向けるが直ぐに成る程と納得したようだ。
多分ジャン・バールさんなら俺を殴ってたろうに。ごめんなローマ。ヴェネトとリットリオには鉄血に帰り次第詳しく話すから。
「私達…何の為にロイヤルに来たんでしょうね…」
ビスマルクがそう愚痴るのも仕方ないだろう。一ヶ月近く滞在した挙げ句式典の直前にこの騒ぎ。少なくともレッドアクシズ所属の俺達は最早人前に姿を表す事は不可能だ。
ビスマルクの肩を更に強く抱き寄せ、彼女の頭を自身の胸元に押し付ける。公私混同だろうが幸いにも部屋はレッドアクシズ所属の人員ばかり、それなら多少羽目を外して彼女を慰める方を優先すべきかと判断しつつ、俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「……随分仲良くなりましたね、義兄様とビスマルク」
「まぁ……色々あったから」
「そう……ね。本当に色々あったわ」
ローマは俺とビスマルクを見比べると、何かを察したように頷く。そしてそのまま立ち上がると、俺達に背を向けた状態で口を開いた。
「……私はこれから大使館に連絡を。護衛はこのローマが選んだ口の固い人員ばかりです。多少ハメを外されても誰かに漏れる事はないかと」
「気の回し方が長けているね。ありがと、ローマ」
「当然です。私を誰だと思っているのですか?」
ドヤァと、そんな擬音が背後に浮かんでいそうなほどのドヤ顔。しかしそれは彼女の自信と余裕から来るものであり、その笑顔に俺は思わず見惚れてしまうのだった。
「では、私は行きますね。義兄様もビスマルクも、どうかご武運を」
そう言い残しローマ達は部屋を後にした。残されたのは俺とビスマルクの二人だけだ。
「さて……これからどうする?」
「……そうね……」
俺の胸の中で小さく呟くビスマルクの頭を撫でる。彼女はそれを拒絶する事もなく受け入れ───
「慰めてちょうだい。汚さない程度なら何をしても構わな…んっ…」
そういう事言われると理性が蒸発しそうになるからやめて欲しいな。とはいえ、ビスマルクが迷う事なく俺に甘えたいと言ってくれた事は非常に嬉しい限りで……本当に理性が蒸発してしまっても仕方ないだろう。
指揮官達がそんな時間を過ごす中、式典会場の周辺では怒号や爆竹の音が響き渡っていた。やれ「エリザベスを許すな」だのやれ「俺たちの故郷を返せ」だの異様な熱気が周囲に蔓延していたのだ。2〜3年程前の国民達は元女王エリザベスの演説をこの会場で尊敬の目を持って聴いていたのだが、今では憎悪や怒りの視線に変わっている。
しかし、そんな暴徒達に対して警官隊も負けじと応戦する。暴徒の鎮圧は警官隊の仕事であり、その仕事を果たす為に彼らは訓練を重ねてきた。暴徒が多少武装したところで、その程度では警官隊は止められない。それを暴徒達も理解しているのか罵声と怒号を警官隊目掛けて浴びせる。
警官隊達はそれぞれの役目を果たしているが、明らかにその目はやる気を失っているものや、護衛対象に苛立ちを浮かべるものの占めている。暴徒達もそれを悟ってまるで言い聞かせるように職務中の警官隊を罵倒するのだ。本当はこんな事はしたくないだろう。道を開けろ。あの売女共を共にぶん殴ろうと。
「……モナーク。こうなるって予想はしてたの?」
「ある程度は。だからいったはずだ。周辺限定の小規模な戒厳令を早々に発令するべきだと」
護衛ではなく共犯者としてモナークがそう口にすれば次期女王であるヴァリアントは頬を膨らます。
「でも、それは……」
「分かっている。どのみち時間は無かった。それに陸海軍も議会も根回しもなしに戒厳令を希望した所で言うことを聴くはずがない。お前達のポケットマネーで行う事は黙認してやる。だからこそ必要以上に関わるなというスタンスなのだから」
モナークがそう口にすればヴァリアントは押し黙る。もう少し早くモナークと共犯者になっていれば、根回しで軍を動かす事や、あの鉄血の指揮官との騒動も阻止できた可能性が高い。もっと早く彼女と話をするべきだったとヴァリアントは悔やむが最早止まることは出来ない。
式典会場を囲うように何千、何万もの人々が怒りと憎しみの声を上げる。マスコミはさぞ喜んでいるだろう。再出発の筈の式典がここまで国民に支持されていない事を嬉々として報道している事だろう。
もう状況は手遅れに近い。警官隊だけは味方につけたのはヴァリアントの功績ではあるが末端の警官達はさぞ不満に思っているだろう。最悪のシナリオは警官隊が暴走して民衆と共に式典会場を襲うという事。そしてレッドアクシズのゲスト達が暴徒によって襲われるという事。
心底予め式典会場で打ち合わせをしていたビスマルクを帰らせておいてよかった。とはいえこの様子ではゲスト達を暴徒達に見せつけるのは自殺行為だろう。
「モナーク。本当に、これで良かったの?」
「良い悪いで語れる問題じゃない。既に賽は投げられたのだ。後はもう、なるようにしかならん」
「そう……」
ヴァリアントはモナークの言葉に頷くが、その胸中は不安と後悔で埋めつくされているのだろう。モナークもそれを理解しているのか珍しい事に皮肉や正論によるダメ出しではなく、多少の気遣いを見せる。
「……セントー、アルビオン、ドレイクはこちら側につくと表明。グロリアスとその婚約者もノブレス・オブリージュの精神を捨てないのであればと参加した。重鎮のハーミーズもエクシーズなどシンクロだの何か訳の分からない事を言っていたが約束してくれた」
「あぁ…あの人ならいつもあんなのだから気にしなくてもいいわ……チェシャー、ハウ、ネプチューンは?」
「チェシャーは数日後にアズールレーン本部への移籍が決まっているがあまり派閥がどうこうと気にする性質じゃないのでスルーでも構わない。ハウも同様だ。困った時に声をかければいつでも味方になると口にしている。ネプチューンは……」
一瞬モナークが口ごもる。数少ない友人が正直に打ち明けた計画を共犯者である彼女に密告しても良いものなんだろうか?だがモナークはあの誰よりもロイヤルと王家に失望を胸に秘めている彼女を嫌う事も売ることも出来ず、曖昧な表現で誤魔化すことしか出来なかった。
「……アイツはやめておけ。性格的に誰かの元で忠義を尽くすよりも好きにやらせた方がマシだ。つまらん事で横槍を入れる女じゃない事は私が証明する」
「そう……分かったわ」
モナークの言葉にヴァリアントは素直に頷く。奥歯に何かが引っかかったような感覚を感じたようだが、今は些事な事は考えるべきではないと思考を打ち切る。
派閥をまず作るべきだと述べるモナークの言う通りヴァリアントはこの短期間に積極的に式典準備の合間にシンパを増やそうとしてきた。その成果が今実り、少しずつではあるが彼女の政治基盤はエリザベスから受け継いだだけのものではなく、新たに形成されつつある。
今日の式典は延期となるだろう。レッドアクシズ側への対応も含めてゲストへの対応はどうするべきか。自身の選択がロイヤルを……いや、ロイヤルネイビー(kansen達)の未来を決めるのだから、ここからの選択は慎重に成らざるを得ない。
進むべきか、退くべきか。いっそ暴徒の前に姿を表し土下座でもすれば彼らは満足するだろうか?と、とうに捨てた自身のプライドを更に捨てるような提案を考えようとした所で、彼女の通信機が着信音を鳴らす。
「……はぁ……セントー?一体どうし…は?諦めてないデモ隊の行動で被害が出たの…?」
それは警備と担当として警官隊に協力していたセントーからの通信であった。一瞬死者が出るという最悪の事態を想像したが、幸いにして死者は出ていないらしい。しかしそれでもデモ隊に包囲された警官隊への被害も出ており、その対応に追われているとのことだ。
どんどん過激になっていく。もはや警官隊に被害が出て逮捕者まで出てしまった以上今日の式典の開催は不可能だ。嘆息混ざじりにセントーにそう命令しようとするヴァリアントであったが……
────瞬間。突如爆破音が彼女の鼓膜を揺さぶった。
「な……何事なの!?」
セントーとの通信は切れており、代わりにモナークが彼女の肩を強く掴む。その顔は驚愕に染まり、視線は窓越しからでも見える程の巨大な煙を捉えていた。
「火炎瓶…それに手製の爆弾か?いやそれどころか…」
突如アラートが鳴り響く。同時に響き渡るのは銃火器の発砲音。悲鳴と共に混乱する会場はやがて悲鳴すら聞こえなくなる程に銃声が響き渡る。
「式典スタッフ!中にいる者は直ちに地下に避難させろ!!」
モナークの声にスタッフの一人が急いで部屋から飛び出し、不快な銃火器の発砲音は更に増していく。
「……モナーク……今のは……?」
「武装蜂起……いや、テロだろうな」
アラートは未だ鳴り響く中、モナークは小さく舌打ちすると部屋に置かれた電話を手に取ると内線の番号を入力し何処かへ連絡をする。
怒鳴るようにモナークが何かを言う中、ヴァリアントは背中に走る悪寒が止まらなくなっていた。
「……セントー達に暴徒の制圧を指示……あぁ、分かっている。爆破物が使用された以上いつ火災や二次被害が生じるか分からんからな。待機しているkansen達は全員市民の避難に回せ。犯人の特定や拘束?そんな悠長な事は言ってられん。市民の避難を最優先だ」
受話器を置き、モナークは溜息を一つつくとこちらを振り向いた。その顔は普段と同じように見えるが口元は大きく歪んでいる。その表情の歪み方は怒りだけではなく、何か別の感情も混ざっているようにも見えた。
「やられた……ヴィットリオ・ヴェネトめ…よくもまぁこんな真似を……!!」
「モナーク……?」
震えるモナークにヴァリアントは怪訝な表情を浮かべる。現在進行形で事は進行中であるが、今のモナークの態度から察するに何か決定的なモノを見たのだろうか
「おかしいとは思わないか?何故式典会場が燃える程の火炎瓶だけでは無く、手榴弾に銃火器まで暴徒が所持している?火炎瓶だけならまだ分かるが、そんな物まで暴徒達が用意できると?」
当然市民が手榴弾や銃火器なんて物をそう簡単に用意できるとは考えられない。黒幕が、誰かこの混乱と式典の混乱を望んだ者が用意でもしなければあり得ない話だ。
それがヴェネトだと……自身がレッドアクシズの三国に向かった際。唯一邪険に扱う事も皮肉も言わずに優しく接してくれたヴェネトが用意したモノだとモナークは言っているのだ。
「そんな…!ヴェネトはわざわざ自分の妹までロイヤルに送り出してるのよ!?そんな事をすれば妹が犠牲になるって分からないの!?」
「そうだ、今の融和を望むヴィットリオ・ヴェネトならばそんな馬鹿な事はしないだろう。だが……戦時中のヴィットリオ・ヴェネトならどうだ?」
あいも変わらずアラートが鳴り響く中で、モナークは淡々とそう口にする。
「戦時中、サディアはマルタ島から30万人の人間をロイヤルに追放した。だがサディアがただそれだけの毒で自らを滅ぼしたと思うか?……奴らは追放した連中に同時に兵器を持たせ、今回の追放に不満を持つ連中をロイヤル国内で暴れさせ、治安を低下。そうする中で混乱誘発し、疲弊した所を一気に攻め滅ぼす算段だったと私は推測している」
「…!?まさか……」
「そうだ…本来ならば戦争はまだまだ続き、反kansenやマルタ島出身者をテロ組織として煽り、育て上げる計画があった。お前も覚えているだろう。ヴィシアとサディアで捕虜の扱いが全く違い、kansen達は優遇されていたと捕虜出身者は口を揃えて不満に思っていたのを。だが戦争が早期講和となった今サディアの分断工作は白紙に戻った。だがサディアがマルタ島の武器庫から送った銃火器はどうなる?サディアのスパイが教えたであろう、火炎瓶や手製手榴弾の作り方を理解してる不穏分子たちはどうなる?」
サディアはイラストリアス達により、港をあと一歩で燃やされかけただけではなく、暗殺未遂事件によってロイヤルに憎悪の感情を向けていた。
戦時中の彼らの怒りは凄まじいものだったはずだ。それこそロイヤルという国家をズタズタにしかねない程に。だがサディアの混乱誘発計画は既に終戦によって破棄された。
しかし、不穏分子や残された兵器がそのままである筈もなく……そんな中、不満の矛先となったヴァリアント達が戴冠式を行うと聞けばまず間違いなく彼らはこの式典会場に襲撃を企てるだろう。
よりにもよってヴァリアントは国内外からあらゆるメディアを誘致に動いており、彼らが自身の主義主張を暴力によって伝える事や、自分達の憎悪を訴える場としておあつらえ向きだ。
「ヴェネトが戦時中に放った毒は遅効性だった。彼女自体が融和の道を歩んだとしてもその毒は消える事はなく…」
「暴発して当たり前のタイミングで…こうなったと…あは…あはは…」
崩れ落ちるようにヴァリアントは床に膝をついた。式典会場に投げ込まれた火炎瓶は今日の為に整えられた花々やセットされた機材が炎に焼かれていく。カメラの前に顔をバラクラバ帽で顔を隠し、銃火器を構えた物たちが警官隊を威圧しながら興奮気味にデモを煽り、それぞれの正義とエリザベス達への憎悪を叫び続ける。
最早誰にも止めることは出来ないだろう。この混乱の渦中、彼女の足掻きなど百分の一にも満たぬ矮小なものだ。そんな彼女をあざ笑うかのように窓の外から聞こえる銃声と悲鳴は更に激しさを増していく
「……部屋に篭ってろ。市民からの支持を考えれば彼らは銃を使うのはパフォーマンスや威圧目的だが…興奮して武器を持った連中が何をするか分からん」
モナークはそう言い残すと部屋から出ていく。ガチャリと鍵のかかる音を聞き、一人残されたヴァリアントはその場で膝から崩れ落ちた。
もう、何もかもが手遅れだ……そう悟った瞬間、彼女は自身の喉から嗚咽の声が漏れ出すのを感じた。
「う……うぅ……」
涙が止まらない。だがそれは悲しみや恐怖からではない。この現実を直視した事による絶望感からだ。
自分は一体何をしていたのだろう。何が出来るのだろう?モナークやセントー達は自分を支えると約束してくれた。汚く、惨めで、時に元エリザベス派の同僚達を粛清せねばならないといのに、彼女達は文句一つ言わずに自分の傍にいてくれる。
だが、それもいつまで続くだろうか?モナークが語った通りならサディアの残党や不穏分子はまだまだ残っている。その者達が今か今かと蜂起の時を待っている。
「う……あっ…あぁ……!」
再び嗚咽が漏れる。もうどうしようもないのだ。この混乱と式典の中止は決定的であり、世界に恥を晒してしまった。皮肉な事に戦時中はクイーン・エリザベスにより未来を観測し『再現』によって理想的な道を歩もうとしていた彼女が、今は未来の見えない真っ暗な闇を直視したに過ぎない。
もう何が何だか分からない。それでも悔しくて、悲しくて、ただ心が壊れそうな程に痛いだけ。しかし、彼女は逃げる訳には行かないのだ。この憎悪を、悪意を、全て受け止めなければならない。
もし神がいるのなら、何故こんなにも残酷な現実を彼女に押し付けるのだろうか?これ以上私にに何をしろと言うのだ?あの日、あの時、あの場所でヴァイスクレー・ヘルブストを抹殺出来なかった自分への裁きなのだろうか?
「わ……私は……!」
もう何も分からない。誰か助けて欲しい。どうかこの暗闇から救い出して欲しい。だがそれは誰もしてくれない事は分かっている。自分自身が女王となり皆を導かなければエリザベス陛下が残した微かな希望を踏み躙ることに。
ロイヤルの仲間達の未来を救うにはヴァリアントが理不尽な選択を目隠し状態で続けなければならないのだから。
嗚咽が止まらない。だが、それでも彼女は立ち上がるしかない。
「私は……女王だ……」
この混乱と式典の中止は決定的だ。しかしまだ終わってはいない。この現実を受け入れ、前に進まなければ。例えそれが血に塗れた茨の道だとしても。
もう、後戻りは出来ないのだ。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ""あ""あ""!!!!」
ヴァリアントは泣き叫ぶ。その悲痛な慟哭が会場の外まで響く事はなく、怒号と銃声によって掻き消えたのは言うまでもないだろう。
翌日、戴冠式の延期と安全のための規模の縮小が発表。
同時にレッドアクシズの『英雄』が祖国に帰還する事が決まるのであった。
・戴冠式の失敗
はいお察しの方もいるでしょうがファンブルです。本来であればこの戴冠式でレッドアクシズ側がスピーチを行い、ロイヤルと手を取り合って希望に満ちた終わりとなる筈でしたが最後の最後でダイスの女神様は大暴れ。
dice1d10=5 (5)
1.ロイヤルの警察は優秀です
2~5.時期に鎮圧、もしくは解散で開催もできるだろう←デモ隊をどうにか鎮圧できそうに
6~7.解散させるまで少し時間がかかりそうだ…
8~9.ぅゎデモ隊っょぃ
10.警察に裏切り者がいたらしい…
dice1d11=11 (11)
1~8.無事に戴冠式は進行している…
9~10.まだ、嫌な予感は消えていない気がする
11.*おおっと*←ファンブル!
*おおっと*
dice1d10=6 (6)
1~3.この音…アラート…!?
4~6.デモ隊の反撃で一部被害が…←被害確定被害ダイス
7~9.デモ隊が大物を持ってきた…!?
10.は?KAN-SENがデモに加担した!?
dice1d10=6 (6)
1~3.…警察側が複数名重軽傷でなんとか済ませたらしい…
4~6.式典会場に火炎瓶とかまで使ってくるとか…←警察に死者は出ないが多数の武器は使用される
7~9.警察側に死傷者まで…!?
10.……強い反撃に思わずやり返した警察側の行動で、市民側に被害が?
さらに被害判定
dice1d10=10 (10)
1~4.そりゃ流石にマズすぎるので即座に消化制圧で被害はほぼ無し
5~7.壁の一部が焦げた程度で誤魔化せるレベルです
8~9.一部が燃えて危うく大きく燃え広がりかける所だった…
10.会場の一部が…←式典会場は燃え尽きた
これにより、とてもではありませんが延期せざる得なくなり、結果的にヴァリアントは最悪の形で式典を台無しにしてしまいました。
なお追加判定によると暴徒が指揮官たちを襲う判定や無政府状態になる最悪の判定までありましたので死傷者がでず、デモ隊があくまで目的が現在の難民たちの状況を世界に知らしめ、同時にエリザベス達への不満をぶつけること「だけ」が目的なのが幸いだったでしょうね。死者がでればもうおしまいです
・何故デモ隊が武器を?
ローマが軽く触れてましたがサディアは戦時中ロイヤルにマルタ島で鹵獲した多数の武器をロイヤル本土や難民達にばら撒き、更に火炎瓶や簡単な爆弾の作り方などを教えたり、メモにまとめてあえて船内に隠すなどの謀略を行っておりました。本来ならば更に諜報組織によってロイヤル国内で不安分子を煽り、その先に本土進行をとヴェネトは考えていましたが指揮官たちの活躍によって早期終戦。
しかし不満や憎悪、そして戦時中に送った火炎瓶や爆弾の製法や多数の武器をサディアは回収などしなかったが為に最悪のタイミングで爆発したのがこの式典。式典なんておあつらえ向きの場を用意した結果自発的に彼等が暴走するのも当たり前でしょう。
・ローマさんに悪意は?
ありません。全くありません。ロイヤルへの悪意や憎悪ならヴェネトの方が10倍は高いです。ただしその性格が誤解を生みやすいという描写がゲーム内にも存在しており……彼女の元で働くサディア指揮官も大変です。
次回はそんな指揮官がいよいよロイヤルから鉄血に帰国するお話。ロイヤルで過ごした日々、そしてロンドンとの結末は(なおIFルートではなく本編ではあくまでダイス原作にそって描かかせて頂きます。IF展開はまた後日)
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄