鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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After26話 ロイヤルから来たる痴女

 

 

 ロイヤルから本国に帰還して一月程の時間がたった。

 

 

 多くの逮捕者を出した暴動は幸いにも死者は1人も出なかったが数百人にも及ぶ逮捕者と治安の悪化を招き、さらに同時期にジャン・バール枢機卿の叙任式が狙ったかのようなタイミングで行われた事もあってロイヤルの国威の失態と反kansen支持者の増加という踏んだり蹴ったりな結果に終わってしまった。

 

 結局戴冠式は規模をかなり縮小し、軍事基地内で多数のkansenが護衛する中行われる予定だそうだが、ここまで来ると中止にした方が良いのでは?と感じてしまう。

 

 しかし、ヴァリアントとしては意地でも、形だけでも成功させようと躍起になっており、その動きは内外問わず賛否両論の様子だが俺としては早くビスマルクが帰ってきてくれる事を祈るまでだ。

 

 

 

「はい、ヴァイス。これにもサインして」

 

 

 

 

 そんな国外の動きはさて置き、俺は相変わらず執務室で仕事に追われている。秘書であるヒッパーが差し出す書類を舐めるように目を通して俺はペンを走らせる。我ながら着任当初と比べると段違いに思える程にすらすらとペンは淀みなく動いていく。ヒッパーのサポートのお陰だな。

 

 

 

「はい、ヒッパー。これでOKだ」

 

 

「それがラストよ。後は機材の発注とマンジュウ達の動作テスト。それに重桜から明石がアンタに面会希望らしいから3時になったら面会室に行ってきて」

 

 

 

 トントンとファイルを揃えるとヒッパーを横目に、ハチミツと生クリームがたっぷりのミルクティーを一口飲みながら俺は机の上に置かれた書類の束を見やる。

 

 

 

「……今月だけで何枚書類書いたんだろうね」

 

 

 

「はぁ?不要な書類を片っ端から焼き捨ててこれでも減らした方よ。全く、ウチの旦那に会いたいならまず軍を通せって言ってるのになんで直接……ったく」

 

 

 

 

 呆れた様子で彼女専用のマグカップに入ったアイスコーヒーをガブガブとアルコール感覚で飲みながらイライラと菓子を頬張るヒッパー。チョコレートには苛立ちを抑える効果がはずだが、彼女がいつも以上にイライラしているのは気のせいじゃない。

 

 

 

「大体っ!アンタにインタビューしたいって直接手紙を送り込んで『はい!いいですよー♪』なんて答えられる訳ないっての!ヴァイスの事を軍人じゃなくてアイドルか何かと勘違いしてるんじゃないの!?」

 

 

「いや、まぁ……うん…」

 

 

「うん…じゃないっての!それにアンタと結婚したいって女どもが我先にとお見合いの席を設けたいってふざけんじゃないわよ!!アンタももっと既婚者だってアピールしなさい!まったく!」

 

 

 

 

 ふん!と鼻息を鳴らしながらコーヒーを飲み干すと彼女はアイスのお盆の上に空になったマグカップをガン!と叩き置く。その表情には珍しく怒りの感情がみてとれた。

 

 

 

「あー、妬いてる?」

 

 

「……海外に向かうたびに女を増やして、ビスマルクにすら手を出したアンタに?」

 

 

「いやごめん、本当にごめん、それに関しては言い訳の余地なく俺が悪いからなぁ…!」

 

 

 

 

 椅子から急いで地面に正座して頭を下げると、ヒッパーは冷ややかな目線を俺に浴びせながら盛大にため息を吐く。

 

 

 

「まぁ……もう済んだことはグチグチ言わないわよ。結局アンタと結婚したのはアタシだし…と言うか土下座はやめなさい。男の価値が下がるわよ」

 

 

 

「面目ない…」

 

 

 

 

 イラストリアスの事は皆「仕方ない」と納得してくれたが、ビスマルクに関しては皆の視線が痛かった。グラーフに搾り取られ、ヒッパーからは無言でゲシゲシと脛を蹴られた。

 

 

 

 ガスコーニュは「主。もっと早く報告して欲しかった」とプイッとそっぽを向かれてショックの余り嘔吐してしまい、シュペーに至っては「ごめんね…辛い時に守ってあげられなくてごめんね…」と泣きながら抱きしめられ罪悪感で再び吐いた。

 

 

 

 そんなこんなでこの基地内での俺のヒエラルキーは最下層に転落してしまったのだ……いや、よく考えたら元々か?今はまだ混乱を招くからとグラーフが判断し、本部への報告はされてないが……取り敢えず幹部の方々全員に一発殴られる用意はしておくか。特にティルピッツさんには。

 

 

 

 

「ほらっ!さっさと準備するわよ。明石だって一応重桜の関係者なんだからさっさとシャワー浴びて着替えてきなさい!馬鹿ヴァイス!」

 

 

 

 

 そう急かすように背中を叩く彼女に促されながら俺は部屋を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……本当にいい嫁さんだよ。全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官久しぶりだにゃ。全く、明石だって忙しいのに人使いの荒い男にゃ」

 

「悪いね。その分報酬は弾むからさ」

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月ぶりに再会した明石は不機嫌な様子でチョコを摘んでおり、マンジュウ達がピヨピヨと接待をしている。一応マンジュウ達は軍機扱いだが既に国外においても少しずつ認知されているようだ。これは金になるにゃという小声が聞こえた気がするが今は無視しておこう。うん。

 

 

 

「にゃー!美味しいにゃ……これは凄い高級チョコだにゃ……疲れた身体に染み渡るのにゃ……」

 

 

 

 

 恍惚とした表情でチョコレートを舐める明石。喜んでくれたようで何よりだ。俺は賄賂などは大嫌いだが、ヴェネト仕込みの結果、接待に多少の金をかける事には肯定的だ。安物のコーヒーや菓子で接待するのはこちらの品位を疑われるからな。

 

 と言うか本来の猫はチョコは食べちゃダメな筈なんだけども。本人曰く別に平気らしい。その割にマタタビで酩酊状態になるらしく東洋の神秘やらミズホやらの凄さを感じるが問題ないのなら別にいいか。

 

 

「ムフフ……それで、明石を呼び出した理由は何かにゃ?指輪を追加で欲しいのなら直ぐにでも用意はするにゃ」

 

 

 

 

 チョコレートのお陰か少しだけ上機嫌になったらしい彼女は持ち込んだ茶菓子を食べながら俺にそう尋ねてくる。俺はそんな彼女の前に何枚か書類を差し出すと最後にサインをしてそのまま明石に渡す。

 

 

 

「一週間後。この基地にあるkansenが配属される事になるんだが……その子を診断、もし何か問題があるのなら治療してほしいんだ」

 

 

 

 俺が彼女に求める事は一つだけだ。

 

 

 

 明石は商人として活躍するkansenだが、同時に彼女は工作艦としてこの世に生を受けている。例えば駆逐艦のkansenならば魚雷や対空砲火に長けていたり、空母kansenならば艦載機を縦横無尽に扱えるが、工作艦は戦闘中の応急処置や技術方面として長けている子が多いらしい。

 

 らしい、と言うのも実際には相当貴重な存在らしく俺も会った事がない。だがそれが確かならkansen治療のスペシャリストであり、俺の知る限り最も国外に足を運んでいるkansenである彼女ならばと期待を胸にこうしてここに呼び出したのだが……

 

 

 

 

「……明石に治療を?そんな物好きな依頼は……にゃっ!?」

 

 

 

 訝しむように書類をパラパラとめくっていた明石だが一枚の書類を手に取った瞬間、彼女は驚いた様子でその書類と俺の顔を交互にみる。

 

 

 

「……イラストリアス……」

 

 

 

「まぁその、なんだ。色々あってね」

 

 

 

 

 驚きを隠せない明石に俺は静かにそう告げると彼女は目を大きく見開いて何度も何度もその書類を読み返す。

 

 

 

「指揮官……これは本気かにゃ?確かに明石は商人だし、金さえ貰えるなら医療でも何でもやるkansenにゃ。でもこれは流石に……」

 

 

「……覚悟の上だよ」

 

 

 

 

 そりゃ明石は驚くだろうな。なんでロイヤルのイラストリアスが鉄血に亡命するの?だの、なんでよりにもよって彼女にとって怨敵であるはずの俺の妻になっているんだ?だの、そんな女を治療する為に決して安くはないポケットマネーを明石に渡すのかだの。

 

 

 

 

「詳しく聞きたいかい?」

 

 

「……やめておくにゃ。好奇心は猫をも殺すにゃ」

 

 

「賢明な判断だ。まぁこの書類を見た以上、君も共犯者になってしまった訳で」

 

 

 

 

 公式発表前にこの情報を無闇に吹聴すると分かってるな?と精一杯悪い顔をしてみせると明石は呆れたようにチョコに齧り付く。

 

 

 

 

「改めて依頼するよ。一週間後、ロイヤルからイラストリアスが秘密裏に護送されてくる。彼女は今後鉄血陣営の一員として、そして俺の妻として過ごす事になる訳だが……ロイヤルで顔合わせした時に明らかに様子がおかしかった」

 

 

「だから明石にどうにかしろとにゃ?鉄血にも工作艦はいたはずだにゃ」

 

 

「自分なりにコンタクトは取ろうとしたけど国外に配属されていてね。何より俺の知る限り一番信頼できて、はっきりと診断を下せるのが明石、お前しかいないんだ」

 

 

 

 

 できる限り俺も資料を探したが余り役に立たない。というか人間と比べてkansenの治療の記録は殆ど存在しない上に、ビスマルクが常に鉄血軍人のメンタルに不調を起こさないようにと頑張ってくれていた為に精神面に及ぼす治療の記録はほぼ皆無だ。

 

 俺が知りたいのは予防ではなく、治療法。イラストリアスの様子がただ……マゾヒズムに目覚めただけならまだ良いが、念の為に明石には徹底的に治療をお願いしたい。

 

 

 

 

 

「……まだこの資料だけじゃ診断は難しいにゃ……全く面倒にゃ。報酬は高くつくにゃ」

 

 

 

「交渉成立。じゃあ、取り敢えずこれが前金。追加で必要なら出来る限りは用意するからな」

 

 

 

 パチンと指を鳴らすと扉からアタッシュケースを片手にピヨピヨとマンジュウが入ってくる。どうぞと言わんばかりに明石にアタッシュケースを明け渡すと明石はうわぁ……という驚愕の表情を俺に向けてくる。

 

 

 

「指揮官!流石にこれは貰いすぎにゃ!」

 

 

 

 

 中にあったのは光り輝く金のインゴットがぎっちり詰められている。目を輝かせるどころかドン引きした様子で手元から何かの測定器を取り出す明石。

 

 

 

「しかも……純金にゃ!しかもこんな量のインゴット……指揮官は一体いくら稼いでるのにゃ!?」

 

 

「……ノーコメントで」

 

 

 

 

 正直引くほど稼げてるだなんて言えない。現在世界中でテスト運用されているマンジュウの多くは俺の性格の影響を受けたらしく、その運用データや謝礼金も含め懐は常に暖かい。

 

 とはいえ衣食住は軍が保証してくれるし、両親も金銭感覚が狂うからと余り受け取ってくれない。ならばイラストリアスの治療に使おうと思い切って差し出そうとする訳だ。

 

 

 

「明石には指輪の件や、ヴィシアとの交渉で世話になってるからね。治療費に加えて今までの感謝と手間賃や機材費用。後は口止め用の報酬とでも思って欲しいな」

 

 

 

 余談だがこんなバカみたいな金のインゴットの量だろうがケッコン指輪の購入にはまだ足りない。改めて鉄血とのコネクションを形成する為に指輪を無料で差し出した明石の覚悟と資金力には脱帽だ。

 

 

 

「……言っておくけど後で返せってのは無しにゃ。ただイラストリアスがマゾヒズムに目覚めただけってなっても文句は受けつけないにゃ」

 

 

「助かるよ。よろしくね、明石」

 

 

「……これじゃ殆ど依頼というか脅迫と変わらないにゃ」

 

 

 

 そう不貞腐れたように呟くと彼女はアタッシュケースを自分の横に移動させ、再びチョコレートに齧り付く。俺はそんな彼女に苦笑しながらも一先ずこれで治療に関しては問題無いだろうと胸をなで下ろしながら席を立つ。

 

 

 

 

「さて、じゃあ俺は仕事に戻るから何かあったら連絡を頼む。一週間ここで過ごすもヨシ。ウチの軍の宿舎で過ごしたいなら掛け合うし、ホテル生活が希望なら手配するけど」

 

 

「ホテルにゃ。その方が楽だからそうして欲しいにゃ。全く……色々用意しないといけないのに、よく考えたらこれじゃ換金するのも一苦労にゃ」

 

 

 

「了解。それじゃ一週間後……互いにとって良い一週間になることを祈ってるよ」

 

 

 

 そう告げて俺は応接間を後にする。扉を開いた際にヒラヒラと手を降ってくれる彼女の姿が見えたのでこちらも手を振り返しながらその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ『アレ』は?

 

 

 

 

「お久しぶりです鉄血の皆様方♡そして、ご主人様♡」

 

 

 

 

 卑猥な服を通り越して最早布切れ一枚で身体を隠しただけの、まるで痴女同然の格好をした白髪の女。その女は我の顔を見るなり嬉しそうに微笑むとスカー……ト?の端を掴みながら恭しくお辞儀をする。

 

 

 

 

 ……なんだこの狂った女は。

 

 

 

 

 

 それが我の率直な感想だった。

 

 

 

「ちょっとヴァイス!」

 

 

 

 真っ先に硬直から立ち直ったヒッパーが卿を連れて物陰で密談を行っている。変態だの趣味だのと言う言葉に卿もまた頬を引き攣らせながら説明しているようだが目と耳を同時に疑うような状況としか言いようがない。

 

 

 うっとりと陶酔感に浸ったような表情でその女が纏う布切れの端を摘まむと、まるで見せつけるかのようにそれをゆっくりと持ち上げていく……嫌な予感がして卿がガスコーニュには待機を命じていてよかった。今ここにガスコーニュがいれば確実にトラウマになっていたであろう。

 

 

 

「…!?」

 

 

 

 

 慌ててシュペーが自身のマフラーで彼女の下半身を覆い隠す。あのマフラーはシュペーにとって大切なものと聞いていたが、それを咄嗟に使わざる得ない程にイラストリアスの下半身は狂ったものだ。

 

 

 なんせ下着の素材が透ける程薄い上に、太ももには『ご主人様専用♡』とデカデカと文字が刻まれ、更には『ご奉仕中』という文字まで刻まれている。

 

 

 

 

 

「それでは改めてご紹介を……この度ロイヤルより亡命しに参りましたイラストリアスと申します♡皆様方には大変ご迷惑をお掛けしますが何卒よろしくお願いいたしますね♡」

 

 

 

 

 夢遊病患者のようにフラフラとした足取りで我の前へと来たイラストリアスを名乗る女は再度ペコリとお辞儀をする。しかも、それだけではなく片足を上げてその淫らな格好を見せつけながらウィンクまでし出す始末だ……これは夢か?

 

 

 我の記憶ではイラストリアスはこの様な痴女でも変態でもなく高潔さとロイヤルネイビーとしての誇りを持ち合わせているまさに淑女と呼ぶに相応しい人物であったと記憶している。

 

 

 

 決して捕虜として情報を漏らさず、それでいても他の多くの捕虜のように侮蔑的な言葉を延べず、むしろ捕虜の尊厳と誇りを穢すなという様に毅然とした態度でいた。

 

 

 我はそんなイラストリアスに対して苛立ちを抱くと同時にほんの少しだけ尊敬すら抱いていた。

 

 

 

 ……断じて目の前の痴女などにではない!

 

 

 

 

「……鉄血の皆様方?どうかなさいましたか?」

 

 

 

 そんな彼女は今、まるで小首を傾げるように我に尋ねてくるがその目は我を見ていない。いや、その瞳は空虚で何も写してはいない。

 

 

 

「ふふっ♡うふふ……指揮官様♡」

 

 

 

 それはどこか壊れた笑みだった。正気と狂気の狭間を彷徨う、我々の理解の及ばない存在が今我の前に立っているのだ。正気な人物が狂気的に振る舞っているのではなく、完全に狂気に犯された女が自身が正気だと思っているような違和感。

 

 

 そんな例えようもない程に悍ましい何かを前にして我は吐き気を堪えるので精一杯だった。

 

 

 

「私、指揮官様に会えると聞いてこのお洋服を作ったんですよ♡どうしてもご主人様に喜んで貰いたくて♡」

 

 

 

 

 我の気も知らず尚もその狂人は笑みを絶やさない。それはあまりにも虚ろで深淵から覗いているかのような不気味な笑みを浮かべているせいで彼女の華やかさを完全に殺していた。

 

 

 

 確かに卿はイラストリアスの様子がおかしかったと。一度多額の報酬を元に明石に診察をと数日前に述べていたが、その卿すらも頬を引き攣らせる程の異常性……それは彼女が本当に正気ではないことを如実に表している。

 

 

 

 

「悪化してるな……」

 

 

 

 

 ボソリと卿はそう呟くと頭を抱える。そしてそんな卿の様子に気が付いたのかイラストリアスはそちらに顔を向けたと思うと狂気に満ちた笑みが満面の笑みに変わる。

 

 

 

 

「指揮官様♡それでは早速ベッドに向かいましょう♡この性奴隷のおまん○にお慈悲とご寵愛をお願いいたします♡」

 

 

 

 その瞬間の卿の顔が歪んだのを我は見逃さない。まるでこの世の終わりのような表情で彼は首を横に振るとそのままヒッパーとシュペーに向き直る。その目には疲労の色が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「……悪いね……本当は案内とか親睦をと思ってたけど、先に明石に診断して貰うよ」

 

 

 

「その…指揮官?ロイヤルにいた時より酷くなってるの?」

 

 

 

 

 シュペーの疑問に卿は頷く。

 

 

 

「前は人前で取り繕える程度には余裕はあったんだけどね……でも今のイラストリアスはもうその余裕すらない」

 

 

 イラストリアスは罪人だ。戦争犯罪人としては和平条約によって互いに追求しないとニ国間の間に締結されたものの、いまだにレッドアクシズ内ではイラストリアスはサディアを焼き払おうとした外道として見られている。

 

 

 そんな彼女がこの様な醜態を晒しつつ人前に出てしまえば……碌な事にはならないはずだ。

 

 

 

 

「俺はイラストリアスをもう抱かない」

 

 

 イラストリアスを連れたマンジュウ達が(電撃銃を片手に)明石の元に向かう中、卿は我ら三人に宣言した。その目には一切の迷いはなく、そこには決意の篭った強い意志が感じ取れた。

 

 

 

「勿論妻扱いもせず、ましてや妾や奴隷扱いなんかもしない。全てはイラストリアスが元に戻ってからだ」

 

 

「戻るのかな…?」

 

 

 

 シュペーは卿の言葉に怪訝な顔を浮かべる。卿は首を横に振ると静かに口を開いた。

 

 

 

「断言できないけど、きっとな。何にせよあの状態で放置して良いわけがない。明石が何としても治療してくれることを祈るさ」

 

 

 だから。と前置きして卿は頭を下げる。

 

 

 

「本当にごめんな……。彼女の治療の間皆に迷惑をかけるはずだ。せっかくケッコンして一年も経ってないってのに……本当に、ごめん」

 

 

 

 

 

 卿の謝罪に我々三人は顔を見合わせると互いに頷き合う。そして……我、シュペーはそっと卿の肩に手を添える。ヒッパーもそれに習うように彼の肩に手を置いた。

 

 

 

 嫌と言う程卿の罪悪感は伝わってくる。自分が彼女を追い詰めたからこそイラストリアスの精神に支障をきたした。そして何より責任感の強い卿はそう考えてしまっているのだろう。そしてその負担を我らに負わせまいとする考えは卿らしいと言えるが……

 

 

 

「全ては政略結婚であの様な状態のイラストリアスを押し付けたロイヤルが元凶だ。卿が自身の命を蔑ろにしない限りは我らは卿を支えると覚悟は決めている」

 

 

 その言葉にシュペーとヒッパーも頷くと我の言葉に賛同を示すように頷く。そう、卿の重荷を我らが背負うのは当然のことだ。

 

 

「だから苦しむな。迷うな。板挟みになるな。1人で背負い混むな。イラストリアスの治療に付き合う事を卿が望むのなら止めはしないが、代わりに我らにも背負わせろ。卿に頼られたことを我らが迷惑だなんて思うと思ってか?」

 

 

「……すまない」

 

 

 

 卿は我の言葉に対して小さく感謝の言葉を述べると顔を上げる。目に浮かんでいた涙は隠そうとしているのか決してこちらに見せるような真似はしない。

 

 

 全く……卿の悪癖はいつになったら治るのやら。だがそんな男を我らは支えていくと決めたのだ。

 

 

 

「指揮官、謝る事は無いよ?」

 

 

「ただし!イラストリアスの行動は全部ヴァイスが注視しなさいよね!媚薬盛られてアンタに襲われるのはゴメンだっての!」

 

 

「……フッ」

 

 

 

 そんな卿をまるで包む様にシュペーとヒッパーがその肩を抱く。そして我もまた……そんな三人の輪にそっと加わるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後。1人待機していたガスコーニュが『ガスコーニュも主(メートル)の奥さんなのに…』とヘソを曲げ。夕食にバニラジェラートを大量に用意しながら平謝りする卿の姿があったそうな。

 

 

 確かに痴女をガスコーニュに見せないという配慮には賛成ではあるが、そんな様子の2人を我らは見ないふりをしながらジェラートに舌鼓をうつのであった。

 

 






 出来れば治療パートに今回までに参りたかったのですが少し長くなり今回は冒頭まで。次回の治療パートをお待ち下さいませ。


・ジャン・バール枢機卿

 完全に狙ったタイミングで枢機卿の叙任式を行ったジャン・バール。おかげでロイヤルの簡易の失態にある意味トドメをさせてしまい、今後ヴァリアントが戴冠式を行ったとしても100%ヴィシア、いえ正統アイリスと比べられてしまうでしょう。ガスコーニュはやっと帰還。褒めて褒めてと主(メートル)に甘えようとしたらまた女を増やした挙句1人は妊娠したかもしれないという事もあって少し嫉妬しています。ガスコーニュも感情豊かになりました。とはいえ痴女を見せる訳にはと指揮官達には気を遣われていますが。


・指揮官の金塊

 番外編二十一話でちらっと話題になっていた指揮官の報酬再び。今回のイラストリアス治療と口止めもかねた資金に明石も少しドン引きな模様。番外編の頃は札束でしたが今回は指揮官が重桜出身の明石の為に予め金塊に交換しており、インパクトを与えつつ引き受けてくれるよね?と頼み込むのでした。なお、現在の金と比べると値段は下がっているとはいえ文字通り引く程の額ですがそれでも指輪は個人購入出来ないの出来ません。それを初手で指揮官に寄付した明石や今までの報酬にと複数個用意したビスマルクは実は凄いことをしていたり。



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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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