鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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After28話 親バカ

 

 

 グレンツェンが誕生して数週間が過ぎた。その間にも国際情勢は色々と動いており、特に大きな動きと言えばロイヤルでは戴冠式がかなり略式な形となって執り行われてた事だろうか?

 

 徹底的な警備とモニター越しからの挨拶など当初の予定とは比べ物にならない程こじんまりとした戴冠式となってしまったが、それでもエリザベスは最後の仕事を果たす事に成功した。俺としてはようやくビスマルクが鉄血への帰路の目処が立ったと言う事でほっと一息付きたい所だ。

 

 

 他にもヴィシア聖座が国名を統一アイリスだの、新生アイリス教国だの、そのままヴィシア聖座と名乗り続けるべきかと国民投票が予定されたり。ティルピッツさんが戦後初めて鉄血海軍代表としてアズールレーン本部に足を運ぶなど、細かな事を述べれば幾らでも話題は出てくるのだが閑話休題。そんな事よりもグレンツェンについてだ。

 

 

 

 

 

 結論から述べよう。

 

 俺の娘超可愛い。

 

 もう可愛くて可愛くて仕方がない。

 

 

 

 

「お父様、ヒッパー母様!お手紙をお持ちしましたっ」

 

 

 

 パタパタと小さな羽を羽ばたかせながら、トテトテと小さな体を動かして駆け寄ってくる。その姿を見ているだけでもう守りたい、この笑顔。褒めて欲しいと言わんばかりに目をキラキラさせるこの子は天使に違いない。

 

 

 

「ありがとうグレンツェン、お疲れ様」

 

 

 

 手紙を受け取るとしゃがみ込んで、目線を合わせて頭を撫でてあげると嬉しそうにグレンツェンは満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

「えへへ……」

 

 

 

 この子はどうやら頭を撫でられるのが好きらしく、事あるごとに俺に頭を撫でてくれとねだる。それはもう周りを気にせずに。そんな事されたらお父様いくらでも頭撫でちゃう!あーもう可愛いなぁ!頬擦りしてやりたい!キスの嵐を浴びせたい!嫌われたら死ねるからやらないけど!!!

 

 

 

「アンタねぇ…あとグレンツェン。ドアはノックしなさい。今は仕事中なんだからそこら辺は忘れちゃだめだっての」

 

 

 

 

 呆れるようにヒッパーが注意すれば「はいっ!」とグレンツェンは元気よく返事する。その様子に思わずヒッパーも毒気抜かれたのか苦笑しつつも頭を掻いた。

 

 

 

「お父様!お手紙は誰からのお便りですか?」

 

 

「あー…まぁ色々とね」

 

 

「聞いてはいけない手紙なんですね。わかりました。何かお父様のお役にたてる事があるのからなんでもお悩み、お聞きしちゃいますねっ」

 

 

 えへんと無い胸を張り、どや顔でそう言うグレンツェンに俺の口元は思わず緩む。だがヒッパーは口を尖らせて、グレンツェンの背中をトントンと指でつついた。

 

 

「……グレンツェン、アンタはそろそろオヤツの時間でしょ?ほら、早く行った行った」

 

 

「あっ!そうでした!」

 

 

 ヒッパーに言われて思い出したのか、慌てて俺の服の裾を再びクイと引っ張る。そして上目遣いで俺を見つめるとこう告げたのだ。

 

 

 

「お父様、私ちゃんといい子にしてますから……後でお母様と一緒に遊びましょうね?」

 

 

「はいはい、じゃあ良い子にしてるんだよ?」

 

 

 

 俺が頷くと嬉しそうに笑ってからトテトテと小走りで去っていく。気のせいなのかパタパタと羽をはためかせる度に少し地面から浮いてるように見えるが、後で明石に相談してみるか。

 

「……それにしてもあの女からあんな子が産まれる何てねぇ…」

 

 

 

 惚けた様にヒッパーが呟く。

 

 

 

「正直、ちょっとだけ不安だったけどね。ほら、ヒッパーってさ……ロイヤル嫌いだから」

 

 

「はぁ?今でもロイヤルなんて反吐が出るくらい大嫌いよ。けど子供の前でヘイトスピーチするような腐った感性はしてないっての」

 

 

 

 心外だと言わんばかりに軽く脚で俺の膝裏を蹴ってくる。地味に痛いが、グレンツェンの前では決してそう言う事はしない辺りはヒッパーにも譲れない分別はあるみたいだ。

 

 

 

 失礼な話だがヒッパーでさえそうなのだからグレンツェンはあっという間にこの基地の面々に馴染んで見せた。ダメだと言ったことは我慢でき、それでいて好奇心は旺盛で素直な良い子。そして何より、この基地にいる誰もがグレンツェンを邪険に扱うような事はなかったのも大きいのだろう。

 

 

 

「あの子、私の事をヒッパーお母様って呼んでくれるのよ?正直悪い気はしなかったわ」

 

 

 

 ヒッパーはそう言って俺の肩を叩く。それでも内面は複雑らしく、じっとグレンツェンが出て行ったドアを見つめながらこう呟いた。

 

 

 

「……私にも子供が出来たら、あんな風に……」

 

 

 

 頬を軽く染めながらそう呟くヒッパーの横顔は、未来への期待とほんの少しの不安。何よりも母性に彩られていて。思わず俺は言葉に詰まると、気がつけば彼女の腰に手を

回して抱き寄せ…

 

 

 

「……っ…!このバカ!そういうのは仕事が終わって夜になってからだっての!!!」

 

 

 

 思いっきり脛を蹴られて激痛に悶え苦しむハメになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく激痛に悶えつつ、何とか仕事を終えた俺は嬉しそうに駆け寄ってきたグレンツェンの手を取り廊下を歩く。嬉しそうにパタパタと羽をはためかせ、俺の手を握る小さな手の温もりを感じながら。

 

 

 

 

「さっきグラーフ母様とお外で飛行機の飛ばし方を学びました!凄いんですよグラーフ母様。びゅー!って空でクルクルと回転してて、私もやってみたいですっ!」

 

 

 

「そっか、良かったね」

 

 

 

「はいっ!それでね、グラーフ母様ったら私も飛ばしたいです!って言ったら『まだお前では早い』って怒るんですよ?酷いと思いませんか?」

 

 

「まぁ……うん。確かにグラーフの言う通りだね。グレンツェンはまだ小さいんだからもっと大きくなってからじゃないとダメだぞ?」

 

 

「えー……」

 

 

 

 不満そうに頬を膨らませるグレンツェンの頭を撫でながら俺は苦笑する。基本的にkansenは老ける事はないが、明石は動物実験では全ての被験体オリジナルと同程度には成長したと教えてくれた。この子もずっと子供のままではなくイラストリアスと同程度には成長するはずだ。

 

 ならそれまではグラーフ同伴でしっかり勉強させなければならない。父親としてはこの子に戦場に出て欲しくないが自衛手段として戦い方をグラーフに教えて貰うのは悪くないと思い始めていた。

 

 

 

「……将来、か」

 

 

 

「え?お父様なんか言いました?」

 

 

 

「いいや……なんでもないよ」

 

 

 

 とりとめない未来の話をしながら俺はグレンツェンの瞳をじっと見つめる。母親そっくりの青色の綺麗な瞳だ。まだ幼くて無垢で穢れを知らないその瞳は何処までも純真で、その輝きは宝石の様で。俺はこの輝きがいつまでも続くようにと願わずにいられなかったのだ。

 

 

 

「グレンツェン」

 

 

「わっ、お父様?」

 

 

 

 思わず彼女の腰を掴んで肩車する。理由?娘が超可愛いからだよ!すこしだけびっくりしていたグレンツェンだが普段と違う高さから見る光景に歓声をあげた。

 

 

「わー!高いです!」

 

 

「こら、暴れたら危ないぞ?」

 

 

 

 だが俺の心配は杞憂のようで、彼女は俺に肩車されたまま楽しげに笑う。見た目は確かにイラストリアスを子供にしたような6〜7歳の幼女だ。しかし、その性格は無邪気で人懐こく、活発で好奇心旺盛。そして何より……

 

 

 

 

「えへへ、お父様の髪の毛ふわふわしてて気持ちいいです」

 

 

 

 

 俺の頭に抱きついて頬擦りしながら彼女はそう呟くのだ。その仕草が愛らしくて思わず俺は彼女の頭を撫でてしまう。するとグレンツェンは嬉しそうに笑い、またも俺に頬擦りしてくるのだ。

 

 もう本当に可愛過ぎる。目をクリクリさせてきゃっきゃっとはしゃぐ一挙一動が可愛くて仕方ない。もういっそ頬にキスの雨をふらしてやろうかと思ったが流石に嫌われたくないから自重するけどなぁ!

 

「分からない事があったらママ達の言うことを聞くんだよ?そうしておけば何があっても大丈夫だからね」

 

 

 

「はいっ。お父様とお母様の言うことを聞いて良い子にしますっ!でもお父様には聞かなくて良いのでしょうか?」

 

 

 

 

 ぽんぽんと俺の頭を優しく撫でながら彼女は小首を傾げる。本当にこの娘は一体何を言い出すのだろうかと苦笑しながら俺は彼女の問いに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「出来る限り相談には乗るよ。でもパパの真似ばかりしてると正座で『ごめんなさい』と謝り続ける事になるから反面教師って事で、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イラストリアスに与えられた個室は以前捕虜の収監用に使われてた部屋。つまり、以前イラストリアスが滞在してた部屋と同じだ。

 

 

 新たに設置された扉は俺か副官扱いであるグラーフ。そしてビスマルクの内の誰かの静脈、網膜センサーをセキュリティを突破しなければ開ける事は出来ない。それはつまり本人は出入り不可の収容施設と変わらないだろう。

 

 

 グレンツェンは凄い、凄いと近未来的な扉に目をワクワクさせているがもう少し彼女が知識をつければ何故実母だけがこんな扱いなんだ?と問い詰めるかもしれない。網膜センサーがピピっと言う電子音と共に解除される様子を見ながら少し胃が痛くなる。

 

 

 これでもかなり譲歩しているんだ。ガスコーニュなんかは既にリシュリューの様に発信機搭載型のチョーカーもあるのだから普通の部屋でも?と言ってきたが、イラストリアスにはロイヤルでの前科がある。

 

 

 改めてビスマルクが調査の結果を教えてくれたんだが、なんとイラストリアスは媚薬を調達したのではなく配合で作り出していたんだ。

 

 

 一見すれば無害な材料。しかし配合すれば強力な媚薬。化粧品やロンドンの花壇、植物園から必要な物を集め、配合してアロマも含めて用意する。

 

 

 ただの色欲に塗れた狂人ではなく、そのロイヤルの幹部も勤め上げた頭脳は据え置きで計画的犯行を行える。彼女には出来る限り幸せになって欲しいがそんな状態で放置する事は基地司令として認める訳には行かなかった。

 

 

 24時間部屋に閉じ込められ、食事や催眠。トイレに至るまでずっとマンジュウに監視され続ける牢獄。それが元ロイヤルネイビーにおける貴族階級出身者である彼女の世界だった。

 

 

 

「指揮官さまでしょうか?少々お待ちください」

 

 

 

 コンコンとノックすれば部屋の中から声が聞こえた。そして少ししてガチャリと言う音と共に扉が開く。

 

 

 

「ごきげんよう指揮官さま……とグレンツェンちゃん?」

 

 

「お母様!」

 

 

 

 ぎゅっと勢いよくグレンツェンは自身と瓜二つのイラストリアスに抱きつくとその豊かな胸に頬擦りをし始める。何処か困惑しながら俺に助けを求める様に視線を向けるが俺は敢えて無視してにっこりと笑みを浮かべる。

 

 

 服装は……予め連絡していたのが功を奏したか、何時もの純白の衣類。胸元がたゆんと揺れるのが眩しいが正気を疑うような痴女と見間違う露出度の衣類でもなく、太ももに描かれていた卑猥な隠語も全て消されていた。

 

 

 だが、グレンツェンへの対応は何処か距離を感じてしまう。こんな子供を実の娘として愛せない!なんて反応ではなく何処か戸惑いが感じられるのだ。

 

 

 

「立ち話も何だから中に入っても?」

 

 

 

「えぇ、勿論です。さぁグレンツェンちゃん、こちらへいらっしゃい」

 

 

 

 

 促す様にイラストリアスが手を伸ばすと嬉しそうに顔を輝かせながらグレンツェンは彼女の手を取る。そのまま部屋に招かれた俺は軽く会釈してから入室した。

 

 

 

 部屋の中は綺麗に整頓されており、清潔感がある。護衛という名の監視担当のマンジュウが常に掃除を欠かせないのもあるだろうが逆に言えば少し殺風景にも感じてしまう。

 

 それはそうだろう。ロイヤルから彼女が持ち出せたものは数少ない。姉妹や同僚からの選別の品が幾つか戸棚に存在してるが娯楽の類は皆無。敢えて言うのならラジオくらいだろう。

 

 

 

「欲しいものがあれば遠慮せずに言ってくれよ。本やレコードなら幾らでも用意するから」

 

 

 とは言うがラジオや新聞なら許されるもののテレビだけは控えて欲しいと上から要請を受けており、それに従わざる得ない。

 

 

 なんでもブラウン管のテレビは多数の機材によって構成されており、少し弄れば外部への外部とコンタクトが可能な通信機を作り上げる事は可能らしく、実際あのシェフィールドのアジトには分解済みの部品を抜き取られたテレビが多数存在していたからだとか。

 

 

「有難うございます指揮官さま……ですが、本当に大丈夫ですから」

 

 

 

 ティーカップに紅茶を注いでイラストリアスは困ったように微笑む。グレンツェンはと言えばテーブルで何かお絵描きをしてるようで楽しそうにペンを走らせていた。

 

 

 

「困った事があれば言ってくれよ?俺は君の夫で、グレンツェンの父親なんだからさ」

 

 

「……そうですね。では一つだけ」

 

 

 

 少し間を置いてから彼女は耳元まで口を寄せて小さく囁く。

 

 

 

「今夜久々にご寵愛を…」

 

 

「却下」

 

 

 

 

 紅茶に砂糖とハチミツとシナモンをドバドバ入れて、更にホイップクリームを浮かべてから一口啜る。まろやかでマイルドな味わいが疲労した体に染み渡ってまさに至福の時間だ。

 

 

 

「酷いですわ。他の方とは毎日の様に甘くとろけるような夜を過ごしてらっしゃるのに…ですがこれも放置プレイ?でしょうか?あぁ、イジワルされると背中がぞくぞくしてきちゃいますね…♡」

 

 

 

 イラストリアスは口元に手を当てながら頬を染めてホゥっと熱っぽい吐息を吐く。わざと胸元から見える感じで純白の下着に隠されたピンク色の頂をチラチラと俺に見せ付けながら。

 

 

「私はいつでもウェルカムですのに……それとも指揮官さまは私のようなはしたない女には興味がございませんか?」

 

 

 

 色仕掛けが効かないと見るや今度は上目遣いで瞳をうるうるとさせながら詰め寄ってきた。

 

 

 

「はぁ……そう言うのはやめなさいって言ってるでしょ?」

 

 

 

 溜め息を吐きながら彼女の額を指で軽く弾く。彼女は不満げに唇を尖らせるもののその瞳には淫欲が宿っており、俺の一挙手一投足すら見逃すまいとしているように感じた。

 

 

 

「……指揮官さまは意地悪です」

 

 

 

 そう言ってイラストリアスは俺の隣に腰掛けるなりしなだれかかってきてその豊満なすりすりと腕に胸を押し付ける。はっはっやめてくれないかな?理性を総動員させてるが正直もう愚息がビンビンになってらぁ!

 

 

 これがチャパエフさん辺りの色仕掛けなら一周回ってそういうの嫁に悪いですからとさっさと立ち去る事も可能だが、イラストリアスは名目的には俺の妻だ。そんな彼女が何をしても良い、何をしても拒まない、この身体を好きにして欲しい、と言ってる。

 

 

 

 据え膳どころかフルコース料理が目の前で出来上がってる状態。だが、俺はそれを拒む。ここでイラストリアスを抱いて仕舞えば全てが水の泡になってしまうのだから。どれだけ明石や皆が協力してくれているのかと考えれば身体は兎も角精神は自然とクールダウンしていた。

 

 

「……お母様?お父様?」

 

 

 

 その声に振り返るとグレンツェンがきょとんとした表情で俺たちを見ていた。どうやら彼女はお絵描きに夢中で俺たちの会話は耳に届いていなかったようだ。

 

 

 

 

「何でもないよ。おっ、それスツーカかい?」

 

「はいっ!グラーフ母様に見せてもらいました!」

 

 

 

 ドヤ顔でグレンツェンは紙に描かれた鉄血製の爆撃機を俺とイラストリアスに見せてくれる。戦争の結果世界に名機おしてその名を轟かせたJu-87C。通称スツーカ爆撃機が子供ながらも中々精巧に描かれていた。

 

 

 

「凄く上手いな!グレンツェンは将来、画家になれるかもね」

 

 

「えへへっ……お父様にそう言って貰えると嬉しいです!」

 

 

 

 

 そんなやり取りをしつつ俺は少しだけ焦っていたのは内緒だ。なんせスツーカが世界にその名を轟かせたのは間違いなくイオニアの海戦、つまりイラストリアスが俺達に敗れた戦いが要因であり。イラストリアスにとってはトラウマを刺激しかねないモノなのだから。

 

 

「えっ…と…?」

 

 

 

 だがイラストリアスはそんな事は気にしてない様で混乱した様子で紙とグレンツェン。時折俺を見つめてどう答えるべきなのかを悩んでいるようだ。その瞳には先程までの淫欲な様子は感じられず、キョロキョロと困った様子。

 

 

 

「あの……指揮官さま」

 

 

「正直に褒めてあげるといいんじゃないかな?なっ、グレンツェンもお母様に褒めて欲しいよな?」

 

 

 

「はいっ!私、お母様に褒められたいですっ!」

 

 

 

 ギュッと服の裾を掴んでグレンツェンは嬉しそうに笑う。その屈託のない笑みに彼女は相変わらず困った様子だが、ぎこちなくも優しく微笑みを浮かべていた。

 

 

 

「えぇ……そうです、ね。とても上手ですよ。グレンツェンちゃん」

 

 

 

 そのまま、イラストリアスが頭を撫でると嬉しそうに目を細めるグレンツェンはパタパタと羽を羽ばたかせ、全身で喜びを表現していた。

 

 

 

 

 効果はある、のかな?

 

 

 

 

 最初の頃はマンジュウに自分を縛ってくれと頼んだり、痴女の様な格好で面会する度に夜の誘いを行っていたイラストリアスだがグレンツェンが産まれてからはその機会もかなり落ち着いている。

 

 

 子供の前で痴女の様な真似は控えて欲しいと懇願したことも無く、命令した事もない。グレンツェンが一緒に向かうとだけ言えばこうしてちゃんとした衣類に着替えてくれているしな。

 

 まだ、早いと思うが……いい機会だ。イラストリアスは恐らくだがグレンツェンを傷つけない。この数週間で彼女と過ごす事でそれは確信を得るには十分だった。

 

 

 だからこそ、この場で伝えよう。俺は改めて姿勢を正してグレンツェンを見ると恥ずかしそうに見返して来ていて小さく拳をぎゅっと握る様子があまりにも微笑ましい。

 

 

「グレンツェン」

 

 

 俺の呼びかけに彼女はビクリと身体を跳ねさせる。その不安気な瞳を安心させる様に微笑みを返すと少しだけ安堵したように表情が柔らかくなった。

 

 

 

「サディア帝国、って国は知ってるね?」

 

 

「はいっ。ヴェネト母様とリットリオ母様の故郷ですね?」

 

 

 

 直接顔を合わせた事はないが既にヴェネトとリットリオには通信で会話を交わした経験がある。

 

 

 リットリオは小さなシニョリーナと丁寧に察していたが身内ではなくあくまでイラストリアスの子供だと線引きしているようだ。これはまぁ仕方ない、リットリオからすればほぼ他人どころか故郷を焼こうとした怨敵の娘なのだから、寧ろレディとして察してくれる分遥かに甘いくらいだ。

 

 反対にヴェネトはかなり友好的に接しており、我が子のごとく愛おしそうにグレンツェンと言葉を交わしていた。元々(仕事では別だが)かなり温厚で懐の深いヴェネトがあっという間にグレンツェンに懐かれたのも当然だろう。

 

 

「今もその準備はしてるが近々皆でサディアに引っ越す必要があってね。父さんも色々手続きはしてるがどうしてもサディアにいってやらなきゃダメなことも沢山あるんだ」

 

 

 レッドアクシズの総本部として今も建造中のマルタ島の基地は、ロイヤルの設備の大部分を流用してるとはいえ改宗しなければならない所は幾らでもある。

 

 そこで鉄血から追加で大量の労働用のマンジュウを送る事が決まったのだが、どうせなら基地司令となるお前も行って口出ししてこいと言わんばかりに俺はサディア行きを命じられたのだ。

 

 

「だからさ、一緒に行こうグレンツェン。イラストリアス」

 

 

「私も、ですか?」

 

 

 無言で話を聞いていたイラストリアスもまさか自分まで誘われると思って無かったのか目を丸くしていた。

 

 

「と言っても数日で帰る事になるし、色々忙しいヴィシアには行けないけどね。ただずっと基地の中で過ごすのも大変だろ?ちゃんと許可はもらったから家族デートって奴さ」

 

 

 実際にはそんな簡単なものでもない。元ロイヤル基地としてロイヤル側のkansenの記録を漁り治療の糧にしたいだとか、イラストリアスの治療は認めるが責任は俺にあるのだから絶対に彼女を放置できないという責任感だとか目的や理由も多岐にわたる。

 

 

 だが一番の理由はイラストリアスに刺激を与えたいという物だ。彼女はサディアでの海戦で敗北し、そのショックでPTSDになったと明石は推測している。なら、自分自身を見つめ直すキッカケとなればと彼女を誘おうと計画していた。

 

 

 

「行きたいっ、行きたいです!」

 

 

 

 グレンツェンは好奇心に目を輝かせながら嬉しそうに頷いていた。小さな手をはいっ!と挙げて元気一杯。その境遇故に彼女は産まれてから一度も外出が許されておらず、本人も初めての海外旅行に大喜びの様子だ。

 

 

 

「なら決まりだ。イラストリアスはどうする?」

 

 

「私、ですか?私は……その……」

 

 

 

 

 

 彼女は言葉を濁す。トラウマがあるから嫌だといってくれれば勿論彼女は連れて行かないつもりだが中々彼女は踏ん切りが付かない様子で、俺とグレンツェンを交互に見つめる。

 

 

 

「無理にとは言わないが……嫌なのかい?」

 

 

「いや、と言うわけではないのですが他の方を差し置いて私が向かうのも……私は外様で、妾という立場ですし、万が一指揮官さまのご迷惑になるのではないか?と」

 

 

 

 

 思慮深くて聡明な彼女らしい返答。ついさっきまで放置プレイがどうとかいってた人と同一人物とは思えない。あぁ、懐かしいな。本来の彼女はこんな性格だったなと思い出に浸りながら俺は彼女に微笑みかける。

 

 

 

「外様って言うのならガスコーニュだって外様だけど問題ないだろ?それに俺は君の事を妾だなんて思ったことは一度もない」

 

 

 

 めかけ?とグレンツェンがどんな意味なのか知りたそうな顔をしていたが、その意味を知るのはまだ早いね。いつの間にか膝の上に座ってきたグレンツェンの髪を軽く撫でる。

 

 

 

 

「決めるのは今でなくて良いし強制はしない。ただ息抜きには良いんじゃないか?」

 

 

 

「……少しだけ、考えさせて下さい」

 

 

 

 

 

 色欲に塗れた瞳ではなく、葛藤や不安が見て取れる複雑な瞳。とはいえその表情を見るには決して嫌がっているわけではなく、どちらかといえば迷っている様子だ。

 

 

 

 

「わかった。なら、この話は一旦保留にするか。グレンツェンもそれでいいかな?」

 

 

「はいっ!私、お母様とお父様と一緒にお出掛けできるなんて嬉しいですっ!」

 

 

 

 まだ決まった訳じゃないけどね。満面の笑みを浮かべるグレンツェンに俺も笑顔を浮かべる。その笑顔に嘘偽りは感じられず、どこまでも純粋に母親との家族旅行を楽しんでいるかのようで。

 

 

 

 

「……えぇ、そうですね」

 

 

 

 

 

 イラストリアスはそんな俺たちを眩しそうに見つめると静かに頷いたのだった。

 

 

 





・グレンツェン
 基本的に皆には小さな子供として可愛がられていますが元々戦争でロイヤル嫌いを隠さなくなったヒッパーや、イラストリアス相手にゲーム内と比べて色々と思う所のあるリットリオですら純真無垢な彼女に毒気を抜かれています。とはいえリットリオはあくまでレディとして現状は扱うと決めていますし、イラストリアスは特にどう反応すれば良いのか困っていて一番壁ができていると言えるでしょうね。

・戴冠式
さらっと流された戴冠式。というかさらっと流さざる得ないほど最初の火炎瓶混じりの暴動が過激過ぎて縮小せざるえませんでしたが、それでもこれでヴァリアント達は前に進めるでしょうね。

・サディア行き
レッドアクシズ総本部となるマルタ島。そこの基地司令となる事が決まった『英雄』である彼は一度マルタ島にマンジュウ達を大量に引き連れて、準備を進めろと命令されていますが、そこにイラストリアスとグレンツェンも連れて行きたいと本編の裏でティルピッツ相手に相談していたりします。表向きの理由は自分の庇護下ではない2人が危険だから、本音はイラストリアスがPTSDとなった要因であるサディアに向かうことで彼女の症状の緩和やふっきれさせる事を狙って。レッドアクシズとアズールレーンの戦争におけるターニングポイントになった案件の地マルタ、そこが最終章の舞台となるのです。

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  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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