鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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 注意。今回のお話には特定の史実に登場する歴史的人物への中傷ともとれる表現が為されています。
 不愉快だと思う方は今回のエピソードはあくまで外伝であるが為に飛ばして頂いて構いません。また、作者本人もまた特定の思想や心情による作品内での押し付けを考えておらず、今回のお話による特定の人物、国家、歴史による感想欄での議論ではなく中傷もお控えして頂けると幸いです。



 それでは長々となりましたが本編をどうぞ。




番外編二十九話 戦後の各国のkansen達 後編

 

 

 

 レッドアクシズとアズールレーン。kansenを保有する二陣営にやって行われた大戦において東煌はどの勢力にも所属しない中立と言う道を選んだ数少ない国の一つと言えるだろう。

 

 

エウロパ大陸屈指の歴史を誇る超大国。他をも凌駕する圧倒的人口と豊かな資源。勿論旧体制にも程がある前時代的封建制や領土が広すぎる故の腐敗や地方軍閥の台頭による火種常に燻っているのが気がかりではあるが、それでもポテンシャルは世界屈指であり、ユニオンの投資家達が東煌をラストフロンティアと虎視眈々狙うのも無理はない。

 

 

 その海軍の特徴として圧倒的なまでの無人艦艇の保有数だ。kansenの数は少数であり、艤装の質もお世辞にも良いとは言えない。

 

 

 ただ暴力的なまでの人口により生み出される無人艦は既に四大陣営にも比例する程の量であり、数の暴力と圧倒的な物量作戦はセイレーンへの防衛戦だけではなく他国からも高く評価、そして警戒される程のものであった。

 

 

 更に隣国北方連合との水面下による技術支援や独自開発による技術力は決して低いものではなく、特に後の歴史に置いてはミサイル型駆逐艦などを中心とした極めて先進的な技術は各国の関心を集める事になるのであった。

 

 

 

 

 

 ────はずであった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、セイレーンすら異常事態と称したこの『枝』では話は変わる。

 

 

 世界が驚愕した北桜同盟の締結により、元々歴史的に関係が良好とは言い難い重桜と北方連合が包括的な同盟を結んだという事実に東煌と北方連合の関係は一触即発状態となってしまったのだ。

 

 

 その結果、本来であれば得るはずであった北方連合由来の技術はなく。更に重桜が多くの『枝』で行うはずであった真珠湾攻撃を発端とするレッドアクシズへの加入は中止。

 

 

 

 更に重桜がアズールレーンに残留し続けた結果。東煌はアズールレーンに加入する事もなく、本来行われずハズであってユニオンやロイヤルからの技術支援も立ち消えとなってしまったのだ。

 

 

 

 その結果、この『枝』における東煌の評価は。技術力に関しては無人艦は悪くはないが四大国には遠く及ばない。

 

 

 

 数だけは多いがただそれだけの烏合の衆。仮に領土的野心により東煌が暴走した所で重桜一国によって鎧袖一触に沿岸部を火の海にされるだけの眠れる獅子に過ぎないとまで評価される始末であった。

 

 

 

 

 

「秀吉のクソ野郎がよぉ…」

 

 

 

 

 

 東煌、上海基地の執務室で不貞腐れたように頬杖をつきつつ一人の男が軍服姿のまま、チャイナドレス姿の美女の膝上で愚痴を零す。

 

 

 

「また、ですか?ここの所同じ様な愚痴を何度も……しつこい、と周囲に嫌われますよ?」

 

 

「逸仙が嫌うなら控える。けどさぁ……あーもう秀吉さえいなけりゃなぁ…!」

 

 

 

 

 

 美女、逸仙が苦笑しながら男の愚痴に耳を傾ければ流石に男……指揮官は少しだけバツが悪そうに口を尖らせる。

 

 

 彼は東煌で数少ない指揮官の一人であり、無人艦の優れた運用技術によって頭角を表し、若くして副官の逸仙と共に東煌防衛の一角を担う存在であった。

 

 

 だからこそ彼は自国の海軍の現状を憂い、その改善の為に身を粉にして働いてきた。しかし、だからこそ……ある一人の重桜人を彼は許せなかった。

 

 

 

 その人物の名は豊臣秀吉。

 

 

 

 約350年ほど前に天下人となり、夢半ばにして倒れ現代に至るまで重桜の歴史に名を残す奇才。東煌という国家をこの『枝』で語る上で、その人物の名を出すなと言われる方が難しい程である。

 

 

 

 なんせ彼はこの世界において重桜と東煌の関係を一時的に破綻させ、現在に至るまでの緊張状態を作り出した元凶の一人なのだから。

 

 

「俺だって別に『今を生きる』重桜の事は嫌いではないさ。色々評価するべき事はあってできる事なら仲良くして技術を盗……いや交流を深めていきたいとは思ってる」

 

 

「ふふっ、そうですね。私個人でも何人か重桜のkansenの方々と話しましたけど皆良い人ばかりでした。というか彼らは思ってる以上に反東煌感情は薄いと言いますか……こちらに偏見や敵意を向けてくる人は少なかったですね?」

 

 

 

「だからこそ、だよ」

 

 

 

 

指揮官はため息を吐いて天井を仰ぎ見るもすぐに視線を逸仙へと向ける。

 

 

 

「だが東煌側は重桜には警戒や不信感。なんなら敵意すら持ってる奴らもいる。それも全部。ぜーーんぶ。アホの秀吉が過去にやらかしたからだ」

 

 

 

 

 もう嫌になってくると指揮官は逸仙の太ももに顔を埋めて愚痴る。やってらんねぇと。

 

 

 

 

 豊臣秀吉は朝鮮出兵。文禄、慶長の役においてそれはもうやらかした。詳しい歴史を羅列すればそれだけでゲンナリと成る程にはやらかした。

 

 

 

 たかが地方の反乱と侮るなかれ。その結果現在の東煌の前王朝が崩壊した要因の一つと挙げられる程度にはその影響は小さなものではなかったのである。

 

 

 

 とある世界においては現在秀吉の存在は東煌に位置する国家にとって、サブカルチャーの流入や歴史の経過による影響によりその悪感情は薄れているようだが、この世界にとっては重桜はつい数十年前まで鎖国をしていた謎の国家である。

 

 

 

 更にセイレーンというイレギュラーな存在のよるシーレーンの断絶など小さな積み重ねが重なった結果。今も東煌陣営にとって重桜は油断できない、隙あらば数百年越しの再戦という悪夢を生み出しかねない国家として警戒されていたのであった。

 

 

 

「せめて向こうからアプローチをかけてくれりゃよかったよ?だが重桜は共産主義者と歩むなんて夢物語を大真面目に実行しやがって」

 

 

「そして重桜と手を組んだ北方連合に私たちの上層部も警戒。結果として孤立してしまったと」

 

 

「孤立というか一人負けだな。あーもう、何もかんも上手くいかない。もうやだ、この仕事やめたい」

 

 

「指揮官が辞めたら私も辞めますよ?私は貴方の妻ですから」

 

 

「逸仙は俺について来ちゃうのか……そうかぁ……」

 

 

 なら仕方ないなと指揮官はため息を吐いてからまたも愚痴をこぼす。国家を憂う義士だなんて大層な志なんて物は抱いた事はない指揮官であるが数百年前の男一人のせいで結果としてこちらの負担が増大している事実に理不尽さに嘆きはとまらない。

 

 

 

「そろそろ休憩もおしまいですよ?さっ、お仕事お仕事♪」

 

 

「やーだー。アホのせいで傷ついた。もうちょい膝枕して」

 

 

「もぅ……あと5分ですからね」

 

 

 

 

 それはそれとして、せめてもの反抗として嫁とのイチャつきへのダシとして使ってやると不貞腐れて太ももに顔を擦りつける指揮官に、逸仙は仕方ないなと苦笑しながらその頭を優しく撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

────この『枝』において、東煌の未来が明るいものになるかは神のみぞ知る事となる。

 

 

 

 

 

「うーむ……まさかこれ程とは…」

 

 

「えぇ長門様。この身で直接現地に赴かないと信じられなかったですが……」

 

 

 

 東煌に駐在武官として派遣されていた軽巡洋艦kansen神通からの報告に陣営代表長門は思わず眉を潜める。予想とは違う結果に、彼女も困惑しているようであった。

 

 

 

「東煌との関係改善は重桜にとっては重要です。北方連合との関係を深めつつ我が国において挟んだ場所に位置するこの国と火花を散らすのは避けたい。だからこそ長門様の命により私が駐在武官として現地の調査や重桜へ送るための情報を収集していたのですが……」

 

 

「まさか東煌から悪感情の理由が北桜同盟やクルジス・エルサレムによる警戒ではなく、豊臣秀吉が過去に行った所業が要因だったとは……」

 

 

 

 人差し指で頭を軽く小突きながら長門は重くため息を吐く。重桜では高く評価されているとはいえ、戦国時代の英傑豊臣秀吉の晩年の醜態は有名なものであったがまさか数百年にも渡り関係を拗らせる理由となっていたとは長門も想像だにしていなかった。

 

 

「……一つ提案なのですが長門様」

 

 

 神通は呼吸一つ、その提案を口にする。

 

 

「我らと東煌が共同式典にて豊臣秀吉の過去の蛮行を非難するというのは如何でしょうか?重桜という国家が東煌に直接謝罪してしまえば大きな失点につながります。ですが、非難声明ならば。二カ国の友好を願い、過去の諍いを流すという名目で全ての責任を秀吉に擦り付ける事ができますから」

 

 

 噛み砕いて言えば秀吉はクソであると二カ国で口裏合わせを行おうと言うのだ。神通の提案に長門はふむと顎に手を当てる。

 

 

 

 神通からの報告によれば主に秀吉への嫌悪とそれに繋がる重桜への警戒感を持っているのは軍上層部や宮廷内の勢力であり、セイレーンとの戦いの最前線である軍人や高官は寧ろ重桜との強調は必要不可欠であると理解はしている者も多かった。

 

 

 調整は必要だろう。全て『過去の太閤秀吉一派』の責任であると理解させる必要性や、過去と現在の重桜のスタンスの説明などやるべき事は多々ある。

 

 

 しかし、神通は自身の目で東煌を見たからこそ和解は決して不可能ではない、全てを秀吉の責任だと押し付ける事で東煌との和解は成ると断言する。

 

 

「だが……いや、確かに。神通の言うように、過去の事とはいえ重桜の不手際で東煌の態度が硬直化しているのであればこちら側から動かなければ和解も難しい……とはいえ…余は……」

 

 

 それが正しいと為政者として長門も理解しているのだ。それまで傀儡同然であった長門であったが北方連合との同盟を推し進め、ソユーズとの交流なども得て彼女も成長しているのだ。だがそれでも、苦しむ様に長門は頭を抱えて耐え忍ぶように目を瞑り唸る。

 

 

「余、個人としては……やはり死者の尊厳に鞭を打ち、誇りを穢すのは心が痛む……」

 

 

 その言葉に神通は、あぁ成る程と理解を示す。

 

 

 ただの為政者や陣営代表ではなく。巫狐として、宗教的指導者の側面を持つ長門だからこそ今更過去の人間の墓を暴き、貶し、辱めるのは気が引けるのであろう。

 

 

「長門様。確かに重桜は過去に過ちを犯しました」

 

 

「あぁ……だがそれは……」

 

 

「えぇ、ですが。それは既に過去の話です。その過去の過ちを正し、未来へと歩むのが今の私達ではありませんか」

 

 

「……神通」

 

 

「それに、これは好機です。今ならば東煌も重桜に対して悪感情を持ちません。そして、その感情は『過去の秀吉一派』に向いています。この機を逃す手はありません」

 

 

 神通は長門の目を真っ直ぐに見据え、その言葉にも迷いや偽りなどなく。ただ国家の安寧と、過去より紡いだ関係性を取り戻すために断言する。

 

 

「私はこの機会を逃したくないです。東煌、北方連合、そして重桜が手を組めばアズールレーンやレッドアクシズも第三陣営として認めざる得ませんし、最前線の犠牲を最小限に抑え、セイレーンとの戦いを終わらせる為に必要な事です」

 

 

 神通の言葉は正論だ。為政者としてとるべき選択肢は分かっている。過去を切り捨て未来を選ぶのが正しい事も理解している。

 

 

 

 しかし、長門は苦虫を噛み潰したかの様に悩ましげな顔を浮かべて瞑目する。

 

 

 

「しばしの間、待って欲しい」

 

 

 

 それでも。長門は今この場で選択する事を放棄してしまう。問題の先送りだとわかっている。しかし、死者に全てを押し付けるという行動への忌避感に自身の在り方や立場が板挟みとなり、幼い風貌の巫狐は苦悩に頭を抱える。

 

 

 

「わかりました。では長門様の御心が決まるのをお待ちしておりますね」

 

 

 

 神通はそんな長門を責める事も、急かす事もせず。ただその決断を待つと告げる。

 

 

 

「……すまぬな」

 

 

「いえ、お気になさらず。それに、長門様なら正しい選択ができると信じておりますから」

 

 

 重桜と東煌。近くて遠い二つの国が手を取り合う道は険しく。そして、その選択を為す為には君主たる長門が決断しな

なければ成し得ない。

 

 

 神通はその肩の重圧を理解しながらも、長門なら正しい道を選択できると信じているからこそ、彼女の決断を待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長門達が東煌との関係に悩み、救国の艦隊の面々がマルタ島でそれぞれの想いを重ね合う中。サディア本国は何をしていたのかといえばとある案件を秘密裏に進めていた。

 

 

 

 その内容は一言で言えば政略結婚。それもお相手はあの重桜だ。貴族出身のサディア指揮官と長門の側近の一人であるkansen扶桑との婚約は本人達の希望もあって大々的に告知される訳ではないがこの政略結婚は両国にとって実りの多いものだと喜ばしいものであった。

 

 

 

 

 サディアは重桜の優れた航空戦力の技術を求め、重桜はレッドアクシズの一員であるサディアとのパイプを手に入れるなど水面下では両国とも関係が改善されていく中。この結婚に複雑な想いを寄せる女性が1人。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 もう何度溜め息を吐いたのだろうか?もう何度後悔と自責の念に駆られたのだろうか?普段の勇ましく、自信に満ち溢れた態度は何処へやら。

 

 

 サディアのkansen……総旗艦ヴェネトの妹であるローマは自身の部屋のベッドに腰掛け、その顔を曇らせていた。

 

 

 現在彼女は最も次期総旗艦の座に近い存在である。実の所ビスマルクの様に直接引退を表明した訳ではないのだが、ヴェネトはマルタ島での業務。

 

 

 主にレッドアクシズ加盟国との利害関係の調整や接待などという業務を優先せざる得なくなっているが為、本格的にマルタ基地が稼働して以降はヴェネトも引退せざる得ない状況に陥るだろう。

 

 

 

 そうなればヴェネトの後継者として誰が総旗艦の座に一番近い存在と成るかといえば、次女であるリットリオは既に、自分は総旗艦になるつもりはないと周囲に表明しており、三女であるインペロは興味なさげの様子。

 

 

 最近誕生した特別計画艦であるマルコ・ポーロは自分こそがと名乗りを挙げているが実績も後ろ盾もない以上、ヴァリアントの戴冠式への参加など地道に功績を積み重ね続けたローマが支持されるのもある意味当然だろう。

 

 功績、実力、実績。全てにおいてローマは総旗艦たるに相応しい能力の持ち主。しかし、その根底を覆す昨日の出来事がローマの心に影を落としたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 サディア出身のとある指揮官の話をしよう。

 

 

 

 彼はあの運命の夜。イオニアの海戦にて港で『英雄』の演説を耳にした若き指揮官である。貴族出身であり、その能力も15歳という若さにしては優秀な人材ではあったのだが彼の不幸はローマの指揮官に任命されてしまった事だろう。

 

 ロイヤルとの決戦に備えていた当時のサディアにおいて優秀な人材は年齢の有無を問わずに召集されており、グラーフ・ツェッペリンが自身の指揮官にヴァイスクレー・ヘルブストを推薦した様に。ローマは彼を自身の指揮官となる様に任命したのだ。

 

 だがローマのハードルは高かったのだ。鉄血のヘルブスト指揮官が次々と功績を上がる中、ローマは期待する自身の指揮官に『英雄』と同じレベルを求めてしまった。

 

 

 

 曰く『英雄』ならばもっと早くセイレーンを殲滅できた。

 

 

 

 曰く『英雄』ならば書類仕事も完璧にこなせた。

 

 

 

 曰く『英雄』ならば指揮官としての手腕で自身を楽させる事ができた。

 

 

 

 ローマに悪意はなかった。

 

 

 繰り返すがローマに悪意なんて微塵もなかった。

 

 

 寧ろ『英雄』に匹敵する功績をきっとローマが選んだ指揮官ならば上げてくれるはずだと。彼ならばきっと世界に名を轟かせ、歴史に名を刻む事すらできるだろうとローマは信じてやまなかった。

 

 

 ───それがどれ程までに彼を追い詰めていたのかをローマはこの時、全く理解してはいなかった。

 

 

 

 指揮官からすれば手が届かない太陽に無理やり手を届かせるような、そんな無理難問を押し付けられたのと何も変わりはしない。反論しようにも新人指揮官は例え貴族出身者であってもその軍事的地位はローマに遠く及ばない。

 

 

 反論すら出来ない上司を指揮する事となり、事あるごとにもっと上手くやれ、もっと結果を出せ。こうしろとあぁしろと無理難題を押し付けられ続ける日々に彼の心は擦り切れていく。

 

 

 リットリオやヴェネトが詳しくその現状を知れば間違いなく強く叱責しただろうが、指揮官は全てを抱え込んでしまい、ローマはやんわりと姉達から忠告を受けようが。

 

 

 

 

「私は彼を期待しているのですよ?だと言うのに何故2人はローマが選んだ指揮官を期待するな、などと口にするのでしょうか…?」

 

 

 

 

 と疑問符を浮かべて暖簾に腕押しであった。

 

 

 

 このままでは指揮官の心が限界を迎えるか、もしくは気が付いたヴェネトかリットリオによりローマと彼が引き離される結末を迎えただろうが、自体は急転を迎える事となる。

 

 

 

 

 

 

 戦後、ローマがヴァリアントの戴冠式に参加する為に一次艦隊を離脱した直後。彼はヴェネトによってある密命を下される事となったのだ。

 

 

 内容は極東の国家重桜に直接向かい、親書や割譲するエリトリア植民地についての計画案についての書類を渡し、重桜の要人と接触を取れという物。

 

 

 そんな任務を若き指揮官は見事達成したのだが……後はお分かりだろう。そこで彼は重桜の要人であり、案内役でもあった扶桑と男女の仲に成ってしまったのだ。

 

 

 それはある意味必然だったかもしれない。ローマのプレッシャーを受け続けて疲れ果て、それをひたすら溜め込み続けた指揮官が国外の地で顔色が悪いと親身になってくれた扶桑に気を許し、相談に乗ってもらう内にいつのまにか惹かれていたのも。

 

 

 泣きながら扶桑の胸に顔を埋めて安心感を求めてしまったのも。そんな彼を慰めるという名目で一夜の関係を持ち、それが何度も続いてしまったのも。

 

 

 

 相思相愛となり、一度は扶桑の方から貴方はまだ若いのだからと精神的に不安定な彼に付け込み肉体関係となってしまった罪悪感から、別れを切り出そうとするも、指揮官は嫌だと拒絶。

 

 

 婚約して国に来て欲しい欲しいと扶桑に婚姻を迫り、長門とヴェネトの祝福もあって彼らが夫婦となったのもある意味当たり前の出来事だ。

 

 

 

 しかし、本来であれば誰もが幸せになるはずのラブストーリーにてサディアに帰還した彼にローマは珍しく困惑した様子で問いかけた。

 

 

 

 

 

「指揮官は何故ローマに告白しないのでしょうか?何か事情があるのですか?」

 

 

 

 

 

 ……何を言っているんだ?と指揮官は間違いなく混乱したはずだ。

 

 

 

 

 ローマは困惑していたのだ。別段ローマは指揮官を異性として愛していた訳ではなかった。

 

 

 

 しかし、ローマは自身が期待する指揮官を。ローマが選んだ指揮官が自ら告白してきたのであれば、応えるのもやぶさかではないと考える程には彼に期待していたと言うのに。

 

 

 

 

 だが、指揮官がローマに告白する様子はなく、寧ろ距離を置く様な態度を取っており……その事に不安を覚えたローマは直接彼に問い質す。しかし、そこで帰ってきた返答は彼女にとっては余りにも予想外の一言だった。

 

 

 

 

 

 ───ローマさんって俺の事を嫌ってますよね?

 

 

 

 

 

 

 意味がわからなかった。

 

 

 

 

 何故、このローマが『英雄』に匹敵する程の功績をあげるはずだと期待していたはずの指揮官から、そんな言葉が吐き出されたのか。

 

 

 

 だがそこで優秀であったローマは気づいてしまったのだ。自分はただ彼にプレッシャーを与え続けていただけだと。彼という個人を無視して、ただただ理不尽な命令を押し付けていただけだったと。

 

 

 扶桑は彼の個人として、その心を支えていた。しかし、ローマは彼を指揮官という個人ではなく『英雄』に仕立て上げる為の部品としか見ていなかったのだ。

 

 

 

「あ……あぁ……私は……」

 

 

 

 そんな環境で彼がストレスを感じない訳がない。だが彼はそれを誰にも打ち明けず、1人で抱え込み続けた結果がこれだった。そして、そんな彼に自分は何を言ったのか。

 

 

 

 

「ち、違うのです!私は貴方を嫌ってなどいません!」

 

 

 

 

 

 慌てて弁解する様に叫ぶも、指揮官は困った様にローマから目を逸らす。

 

 

 

 

───えと……すみません。正直、ローマさんは……少し、怖いです。

 

 

 

 

 そこからの事は記憶が曖昧だった。きっとローマは泣いていたのだろう。泣きじゃくりながら指揮官に必死に謝罪を繰り返していた気はするが、気がつけばベッドの上で1人。朝を迎え呆然自失とした状態でベッドで横たわっていたのだ。

 

 

 

 

「ローマは……どうしてしまったのでしょう……」

 

 

 

 

 夜の帳も降り、誰もが寝静まる時間まで彼女はそうして呆然としたまま自らの行いを悔やみ続ける。仕事を無断で休むなんて産まれて初めてだ。

 

 

 ローマはようやく理解できた。リットリオとヴェネトが何故余り指揮官に期待し過ぎるなと忠告していたのかを。自身はサディア海軍を導く総旗艦に相応しいと自負していた。

 

 

 

 だが現実にはどうだ。たった一人の未成年の少年を支えるどころか押し潰そうとしてしまっていたのだから。

 

 

 

 

 だが……ローマはある意味幸運であっただろう。

 

 

 

 もしも、指揮官が重桜出張を命じられていなければ?

 

 

 

 もしも、指揮官が扶桑と出会わなければ。

 

 

 

 もしも、ローマがなぜ自分に告白しないんだ?と質問しなければ。

 

 

 

 

 きっと、指揮官の心は壊れるか。祖国を離れて重桜への亡命すら選択肢に入っていた事だろう。

 

 

 

 

 その日以降。ローマは他者の顔色を伺い、自己を省みる事を意識する様になっていく。

 

 

 

 

 皮肉な事にそれまでローマの欠点であった自己評価の高さと無意識な傲慢さが改善され、より良い方向へと進み始める事となる。

 

 

 

 後にヴェネトやリットリオからもその姿勢を評価される様になり、サディアの将来を担うに相応しい総旗艦へと成長するきっかけとなったのだ。

 

 

 

 しかし、ローマは以後……職務を除き指揮官と接触する事は殆ど無くなってしまった。彼は扶桑という自身の側で支えてくれる副官であり、一途な嫁を娶った事でこれまで以上に戦果をあげることになるのだが一番の要因はローマからのプレッシャーがなくなったからであるのは明らかであった。

 

 

 

 

 そんな未来が待ち受けている事など知らぬローマは薄暗い部屋で1人、顔を手で覆いながらこう呟く。

 

 

 

「……私は……ヴェネト姉にはなれない…」

 

 

 

 人生のターニングポイントを迎えた美女は今はただ、過去の自分の過ちを悔やみ続ける。

 

 

 その呟きに答える者などいなかった。

 

 







 今回の後書きは少し長めです


・豊臣秀吉について

 今作における東煌と重桜を語る上である意味最重要ともとれる史実にも登場する戦国大名。史実において朝鮮出兵を行い、その防衛の為に軍を派遣した明王朝は莫大な財政的負担を重ねたことから明王朝崩壊の要因の理由として挙げられる万暦の三征の一つとして現代でも朝鮮出兵は挙げられている。原作における東煌についての情報は少なく、資料集などにおいても重桜と敵対した事は描かれているが東煌が明王朝が存続した国家モチーフであるのか、それとも万暦の三征から始まる崩壊から生まれた清王朝がモチーフであるのかは不明である。

 今作ではセイレーンの出現が1890年代である事と黒船来航などのイベントもなくセイレーン出現によって重桜が開国をしたという世界観であるが為、史実と違い大陸での朝鮮半島、満州、台湾を巡る領土的な戦争が起きなかったものの、史実以上に交流が少なかった+重桜が謎のベールに包まれてるが故に東煌は重桜への不信感をもっており、その大部分が太閤秀吉によるものという設定に。

 故に全ての責任を秀吉に押し付ける事で互いに交友を深めるという選択肢があるものの、長門はどんな理由であれ死人に鞭を打つ、名誉を汚すという選択に迷っているのでした。ちなみに原作ダイス作品においても東煌主人公のダイススレにて東煌と重桜の関係改善のために全責任を秀吉に押し付けるというまさかの展開になった事もあり、ある意味そのダイスの要素も含めたのが今回のお話に繋がるのでした。


・東煌の現状
 ゲーム内ではミサイル駆逐艦の登場や特殊兵装によるセイレーンの撃破など無人艦隊がメインであるものの高い技術力を披露する東煌。しかし、今作ではアズールレーンにゲーム内で東煌が加わったのが重桜の脱退以後。ユニオンへの真珠湾攻撃によるレッドアクシズ加盟と東煌への攻撃(この辺りは中国版限定の最初期のイベントで描かれてるそうな)によりアズールレーンに加盟というイベントが起きなかったが故に、アズールレーン陣営との技術交流もなく。さらにゲーム内では北方連合領内で活躍する東煌勢が描かれる程には友好関係であったものの、今作では北桜同盟という極東情勢複雑怪奇なイベントのお陰で緊張状態に(この辺りは実は北桜同盟締結のお話にてさり気なく東煌の友好度が下がっていたり)
その結果技術交流がありとあらゆる『枝』以下になっており、最もゲーム内と比べても弱体化してしまった陣営となってしまったのでした。


・ローマ
 扶桑と指揮官のエピソードは別ダイススレにおけるサディア指揮官のエピソードからも抜粋。今作のローマはゲーム内でも見られたやや傲慢な部分や、無意識な言動が新人指揮官とのバッドコミュニケーションに繋がってしまいました。ゲーム内の指揮官はありとあらゆる陣営をまとめる事実上の母港のトップであり、ローマの期待や言動も受け入れることが出来る人物でしたが……今作のローマの担当の指揮官はまだ15歳の新人。そんな指揮官がレッドアクシズの「英雄」と常に比べ、期待され続けた結果追い詰める事に繋がってしまうのでした。ある意味今回のローマのお話はグラーフとヘルブスト指揮官の有り得たかもしれないIFであると言えるでしょうし、指揮官とkansenが必ずしも結ばれるとは、相性が良いとは限らないというエピソードの一例と言えるでしょうね。もし、扶桑とこのサディア指揮官のR-18な重桜での日々を見たいとおっしゃる方がいるのであれば執筆致します。


 次回はいよいよイラストリアス視点のお話。彼女のPTSDや現在の葛藤も含め果たして彼女はマルタ島で何を思うのか?


 コメント、感想、評価をお待ちしております!

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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