鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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After31話 許せなくても

 

 

 

 さて……どこから話せばいいのでしょうか?

 

 

 

 正直な話、私も鉄血の捕虜として指揮官様のお世話となっていた時期の記憶は今でも思い出せますが、不思議な事にそれ以後の記憶は朧気ではっきりと思い出せません。

 

 

 

 先日グラーフ様とお話をしてからは少しずつ記憶は回復しては来ていますが、それでもまだ完全には戻ってはいないのが現状です。

 

 

 

 何と言いますか……自分自身の記憶というよりも、他人の記憶を第三者目線で見ているような……そんな不思議な感覚でしょうか?

 

 

 

 ……ご心配ありがとうございます。大丈夫です、指揮官様。お話を続けさせてください。

 

 

 

 それでもいくつかハッキリと覚えている事はあって、ロイヤルに戻った際。港に集まっていた市民の方々から罵詈雑言を浴びせられた事は明確に覚えています。

 

 

 

 どんな事を、ですか……ごめんなさい指揮官様。少し思い返すだけでも身震いしてしまう程に色々とありました。

 

 

 

 まぁ……一番覚えているのは、港で私を出迎える為に待機していたネルソン様に対して一斉に投石が浴びせられた事でしょうか。

 

 

 ネルソン様は気にしなくてもいいと仰ってくれましたが頭に石の一つが当たってしまい、それがきっかけになってしまったのかもう制御が利かなくなった私は市民の皆様に申し訳ございませんでしたと、悪いのは全部私です。だから彼女を傷つけないでと泣きじゃくってました。

 

 

 

 ……それが火に油を注ぎ、市民の方々は更にヒートアップ。投石はネルソン様だけにとどまらず、私に対しても行われて……。

 

 

 

 ……結局、武装した騎士隊の皆が来てくれなければきっと酷い事になっていたと思います。ですが、今から冷静になると

私はあの時、まだ理解していませんでした。

 

 

 

 

 私はロイヤルから、全世界から疎まれている罪人であると。

 

 

 

 

 鉄血の皆様は気を遣ってくれたのか情報媒体から遮断して保護してくれましたが、捕虜となった私の評判がここまで酷いだなんて思いもしませんでした。

 

 

 

 

 ……ヴェネト様やビスマルク様への恨みはございません。きっと、ロイヤルが同じ立場ならばもっと相手を悪虐非道な敵だとみなして非難の声を投げていたと断言できます。

 

 

 

 

 ですからどうか……そんな顔をなさらないでください指揮官様。私は大丈夫です。今、全部話さなければきっと、一生後悔すると思いますから。

 

 

 

 

 ……そこからでしょうか?徐々に自身の記憶が曖昧になったのは。朝ベッドから起きたかと思えば、何故か次の瞬間夜の月を見上げていたり。昼の食堂で食事をとっていたかと思えば妹達に「姉さん!?」と全裸で廊下を出歩こうとしていたと心配されたり。

 

 

 

 

 ですが当時の私はその事に違和感を感じる精神的な余裕すらなく、ある日限界を迎えて壊れてしまったというよりは狂気に徐々に蝕まれていった、と言った感じでしょうか。

 

 

 

 徐々に奇行も酷くなり、縄で自身の身体を縛って性的な興奮を一方的に覚えるようになったり。媚薬を作るのだと備品室から無断で材料を……幸い、いや不幸な事に時間だけは幾らでもありましたので隠れて作る事は容易でした。

 

 

 

 ……ロイヤルの皆は軍医に何故知らせなかったのか?ですか。

 

 

 

 ……理由はいくらでもあります。ユニオンや重桜と違いロイヤルネイビーでは軍医となる王家の戦士が不在であり、外部から人を招く必要がありましたが当時は利用しづらい空気であったという事。

 

 

 

 イーグル様の様にストレスで体調を崩して施設で治療をしていた方は数名いましたが、それに比べて私の行動は表向きはちょっとした奇行程度であったと言うこと。

 

 

 

 何よりも、私がおかしくなってしまったのは全て鉄血のせいだと家族や周りも含めて決め付けていたという事でしょうか?

 

 

 

 

 当時、いえ。現在もですがロイヤルはレッドアクシズ……とりわけ鉄血への憎悪は言葉にすれば簡単ではありますが、その実非常に根深いものがありました。そんな彼等は私が狂人になった理由は全て鉄血のせいだと。私の奇行は全て鉄血のせいである糾弾に繋がったのかもしれません。

 

 

 

 ……フォーミダブルとヴィクトリアスの件は本当に申し訳ございませんでした。あの子達は普段は仲間想いで優しい子達なのですが私の事を見て我慢の限界だったのでしょう。

 

 

 

 姉妹やユニコーンちゃん。陛…エリザベス様には散々迷惑をおかけしました。勿論指揮官様やビスマルクさんにもあの様な酷い初夜を迎えてしまい……これ以上、謝らなくても良いと言われましても、やはり謝罪をしなければ私自身が納得できません。

 

 

 

 ……ですが、そうですね。もし許されるのならば直接ビスマルクさんにも謝罪する機会を頂けたら幸いです。

 

 

 

 

 最もあのお方は私を許そうとはしないでしょうが……。それでも、です。

 

 

 

 ……申し訳ございません。何度も説明の最中に謝罪や言い訳で話の腰を折ってしまい。

 

 

 

 

 もしも、指揮官様やグレンツェンちゃんがいなければ今すぐにでも自分の命で償いたい。そう思える程には私は自身の行動に後悔と自責の念を抱いています。

……ですが、出来ません。

 

 

 

 私が自分勝手に命を粗末にしてしまえば、きっと鉄血海軍とロイヤルネイビーの関係は修復不可能なまでに瓦解する。それだけは回避しなければならない、と自身の命も大切にしなければと思い留まりましたから。

 

 

 

 最も、ただ自分の命が可愛くて言い訳を羅列している卑怯な女と思われても仕方ないのですが。

 

 

 

 ……指揮官様、そんな顔をしないでください。私は大丈夫です。もう、大丈夫ですから。

 

 

 

 だから、お願いですからその様に悲しい顔をしないで下さい。私は大丈夫です……本当に大丈夫なのですから……! ……っ!す、すいません指揮官様!私ったらなんて失礼な事を!!ど、どうすれば!?また貴方様に…!? い、今お水をお持ちしますね!?少々お待ちくださいませ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 醜態をまた晒してしまいましたね。

 

 

 確か明石さんの資料によれば「PTSD」となった方は感情の制御が出来ずパニック症状を起こす……と記載されてありましたので、今後は極力気を付けて……いえ、お薬なども明石様に処方して頂きましょう。

 

 

 もう、嫌になります。私は自分が嫌いです。大嫌いです。グラーフ様のお陰で恐らく……正気に戻ったはず、です……それでもまた……あの様な不埒な行動をとってしまうのではないかと不安で仕方なくて……。

 

 自分が自分でなくなるあの感覚は胸が締め付けられるような不安と恐怖があって。今から思えば指揮官様はグレンツェンちゃんと私を決して二人きりにさせないように心掛けて頂いていましたね。ご配慮、感謝致します。

 

 

 

 

 ……本当に、私は指揮官様の優しさに甘えてばかりであ……あぁ……!わ、私ったらなんて事を!!また!またやってしまいました!やってしまった!やってしまった!!やってしまった!!! 話に戻らずに謝罪と言い訳を繰り返して…!!もう嫌です!こんな自分が大嫌いです!消えてください!いなくなって欲しいです!!私の存在自体が罪なのですから!! ああ、あぁ…!

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着き、ました。指揮官様。

 

 貴方様に抱きしめながら頭を撫でられて、お話を聞いて貰えただけで。先程まで感じていた不安や恐怖が嘘のように消えていって……。

 

 ふぅ…お話を、戻します。

 

 どんどん歯車が狂っていき、記憶も薄れていく中。エリザベス様から指揮官様とビスマルク様が滞在していると。自分はこのままで命は危ないので妾として、指揮官様との政略結婚をしてもらうと。

 

 

 エリザベス様はこれ以上の手段はなかったと頭をおさげになられていましたが、その時私の胸中ではどのような感情が渦巻いていたのか私自身今でもハッキリとは分かりません。

 

 

 

 

 ただ一つ分かる事。それは私が幸福感に包まれていた事でしょうか?

 

 

 

 

 指揮官様の妾として卑しい自分がご奉仕する。朝も昼も夜も貴方様に恥辱の限り陵辱され雌犬と成り下がり媚び続ける生活……あぁ。なんて淫猥で……なんて幸福なのでしょうと。

 

 

 有り合わせの残されたドレスを改造して妾に相応しい衣装を作り、御寵愛なさるその日に備えようと。

 

 

 

 ……恐らく私は、誰かに罰して欲しかったんだと思います。

 

 

 

 

 こんな状況を作り出してしまい姉妹やエリザベス様達にご迷惑をお掛けしましたし。自殺を考えると同時に死んでしまった時とリスクを天秤にかけて思いとどまってしまう悪辣な自分に嫌気がさし。

 

 

 

 

 私のような穢れた命はこの世界のどこにも居場所などなく……罰して欲しかったのです。誰かに叱られて、お前は不出来で駄目な存在だと罵られたかったのでしょう。妾となれば性奴隷のように指揮官様に調教され、己は卑しい存在であると断言して頂きたいという愚かな思想を抱いていたのでしょう。

 

 

 

それが……あんな大惨事を生み出し、グレンツェンちゃんの様な良い子を罪人の娘として生み出してしまった。

 

 

 

 

 罰して欲しい。今の自分が正気か狂気かどうかも分からないのが怖い。そして何よりも、グレンツェンちゃんの事を思うと……私は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルタ島。侵略者により本来の住民が全員追放されたこの土地の港付近に位置する公園は本来はロイヤル出身の子供達が遊び場として利用していた。

 

 

 しかし、今。この公園にはイラストリアスと指揮官の二人だけ。管理者すら追放された寂しい公園のベンチで勝利者の夫の手を握りしめ、敗北者の妾は静かに語る。

 

 

 人の気配もほとんどない夕闇に染まった公園のベンチでイラストリアスは己の想いを全て絞り出そうとしていた。ぎゅっと指揮官の手を握り、震えた声で彼の名を呼び……涙ながらに語る。

 

 

 

「それが、私の結論です」

 

 

 

 指先は白く、表情も寒さによってではなく。指揮官の暖かな手によって身体の芯から温まっていくような感覚を覚えた彼女はそっと手汗で汚れているであろう自身の手に重ねられた指揮官の手を愛おしく見つめ……そして不安な眼差しで彼の瞳を見つめる。

 

 

 

「ごめんなさい。申し訳ありません指揮官様……!私のせいです!私が全て悪いのです!だからどうか罰して下さい!!私は貴方様に相応しくありません!こんな女など……!」

 

 

 

 

 

それは懺悔か、あるいは自暴自棄か?それともPTSDによる情緒不安定な症状なのか?イラストリアスは側から見ても精神的に脆く、儚く、触れてしまえば壊れてしまいそうな存在。

 

 

 

 そんな彼女が指揮官に縋りつくかのように抱き着き、嗚咽を漏らしながら懇願している様は傍から見れば精神崩壊を疑ったに違いない。

 

 

 そんな彼女が。所々要領も得ず、パニックに陥りながらも こんなに会話を重ねるのはどれほどの勇気を振り絞っての行為か?それは指揮官自身もなんとなくではあるが察してしまう。

 

 

 彼女はただ罰して欲しかったんだろう。自身がタラント港の夜襲に失敗したことで、このマルタ島を失い。ロイヤルが敗北するターニングポイントになってしまった。

 

 

 彼女の身内である家族やロイヤルのKAMSEN達は優しく。同時にそれ以外のロイヤルの国民からは唾棄すべき存在として見られてしまう。

 

 

 前者からはイラストリアスは悪くないと庇われ、後者からは責任取れ売国奴と罵られる。そんな二つの対応を同時に受けてしまう彼女は誰にも弱音を吐く事もできず、溜め込み、そして心が壊れてしまったのだ。

 

 

 一度壊れ。そして『娘』などの影響で少しずつ回復したイラストリアスの心に残るものは後悔と懺悔。誰も自信を罰してくれない上に半ば無理矢理凌辱した指揮官は自分を救う為に禁忌にまで手を出していた。

 

 

 

 指揮官への謝罪、家族への謝罪、指揮官の妻達への謝罪、ロイヤルへの謝罪。何よりも自分の娘という呪いを受けて産まれてしまった娘への謝罪。こんな自分が何故まだ生きているのかという罪の意識が彼女の心を押しつぶそうとしていた。

 

 

 

 

「……イラストリアス」

 

 

 

 

 そっと。イラストリアスの手を指揮官は握り返す。

 

 

 

 

「確かに君はもう表舞台には出れない。立場的にもグラーフやヴェネトと比べてどうしても……不利な状況になってしまっている。それを側室や妾と言うのならそうだろうし、それを否定する事は立場的に俺には許されない」

 

 

 

 当然だとイラストリアスは静かに頷く。指揮官の性格上全ての妻を裏では平等に愛するだろうが対外的な正妻を決める未来もそう遠くはなく、嫁間の序列も作らざる得ない。そしてイラストリアスは最もその序列が下の妾のような待遇にならざる得ないだろう。

 

 

 

 そもそもPTSDの治療を指揮官のポケットマネーで行っている事自体が異常なのだ。物理的にも、精神的にも、外交的にも面倒な彼女は何処かに幽閉して忘れさせるのも手ではあるというのに。

 

 

 お人好しだとイラストリアスは過去に彼に指摘したが側から見ると彼は異常者かイラストリアスの身体目当てに必死になっているかの二択に見えるだろう。

 

 

 

 

「だけど……これだけは言わせてほしい。俺は君を一人の女性として愛している。無論責任感だとか罪悪感だとかそういう感情がない訳じゃないが……それでも、この想いに偽りはない」

 

 

 

 そう言って指揮官はイラストリアスの手を握りしめる。壊れた彼女の精神を修復しようと、曇った心の空を晴らそうとするように。

 

 

 

 

「そしてこれは君が納得のいく答えかは分からないが……それでも言わせてほしい。例え他の誰かが君を否定しようとも俺は君の全てを受け入れるし愛し続けると誓うよ」

 

 

 

 それは気障な台詞だったかもしれない。むしろ狂人の戯言だと周囲は指揮官を嘲り笑うかもしれない。だが自罰を望むイラストリアスの瞳には。彼が嘘を言っているようには見えなかった。

 

 

 

「なんで…」

 

 

 

 指先は震えていて。涙で顔はぐしょぐしょになったイラストリアスは彼を見つめて震える声と唇を動かす。

 

 

 

「なんで……どうして、そこまで……貴方は……」

 

 

 

 熱暴走を起こしたように彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまうが指揮官はそんな彼女の顎にそっと手を添えて顔を上げさせる。

 

 

 

「いやまぁ……なんでいって言われてもね。そりゃ初夜は酷かったよ?それに俺だってロイヤルの全てを肯定出来るくらい人間が出来るわけじゃないよ?他にも色々言いたい事は色々あるけどまぁ…」

 

 

 

 どこか気恥ずかしそうに。少し躊躇いつつも喉元を中指でカリカリと搔きながら指揮官は言葉を濁す。

 

 

 

「めちゃくちゃ美人で、スタイル抜群で、優しくて、知的で、男の欲望全部叶えてくれるようなエロくて……そんな女の子に迫られて我慢できる男なんていないだろ?」

 

 

「は、はい……?」

 

 

「そんな子が政略結婚とはいえ嫁入りしてくれて……しかも毎晩の様に抱いて下さいだの、えっちな事いっぱいしましょうだの言われて……いやもう俺本当よく耐え切れたなって思うよ!!今だからぶっちゃけるけどさぁ!」

 

 

 

 困惑しつつ、徐々に頬を赤くしていくイラストリアスに指揮官もまた「俺何言ってんだ」と頬を赤らめて少しだけ視線を外して彼女の耳元へとそっと唇を近付ける。

 

 

 

 

「そんな女の子とようやく本当の意味でやり直して……相思相愛になれると思ったら嬉しくないわけ……ないだろ」

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

 

 イラストリアスの顔が瞬時にさらに真っ赤に染まり……それでも彼女は指揮官の手を離しはしない。それは恥ずかしさからくる仕草なのかそれとも……。

 

 

 

 もう結論は出ていたのかもしれない。

 

「結局男って単純なんだよね。グラーフ達に指輪を渡す前にリットリオに相談したんだけどさ。アイツなんて言ったと思う?」

 

 

 

『自分が抱きたいと思った女こそ、君が本当の意味で好きな女性なんだ……後は君なりの言葉で伝えれば問題ない』

 

 

 

 余りにも直球な言葉に流石のイラストリアスも面食らってしまったがリットリオらしい言葉だと指揮官は苦笑い。そして今まで伝えたくても伝えられなかった想いを今こそ伝えようと口を開く。

 

 

 

「イラストリアス」

 

 

 

 ビクッと。耳元で囁かれたイラストリアスの身体が震えて、鼓動がドクンドクンと高鳴っていく。

 

 

 

「俺は君を抱きたいと思った。精神を病んだ君ではなく、元に戻った君を。そんな子を罰するなんて俺には出来ないし、相応しくないなんて言われたら困るよを。抱きたいと思った女の子に拒絶されるなんて考えたくはない」

 

 

「あ……え、その……」

 

 

 

 イラストリアスは目の前の指揮官の顔を見ることが出来なくて俯いてしまう。だが、それでも……彼の声は耳に届いていた。そして同時に自分の鼓動も。

 

 

 

 

「指揮官様……」

 

 

 

 気づけばイラストリアスの両眼からポロポロと涙が零れていた。一度決壊した堤防はあっという間に崩壊し、イラストリアスの心の中に溜まった淀んだヘドロを流しだすように彼女の両頬を濡らしていく。

 

 

 

「……わた、私で本当によろしいのですか……?」

 

 

「当然。というかここでイラストリアスを拒絶したらグレンツェンに嫌われちゃう。本当可愛いよなぁ……きっと美人になるよ。だって君の…俺達の子供なんだから」

 

 

 

 

 マルタ島から見える夕焼けは変わらない。あの運命の夜は多くの人々の人生を変えた分岐点であってもこの島は何も変わるなく存在し続ける。そして人々の営みもまた、変わることなく続いていく。

 

 

 

「時間はいくらでもあるんだ。反省したり、後悔したり、不安になったり……今は自分を許せなくていい。ただ……君の存在を許して、愛してくれる人達の為に。少しずつでもいいから自分に優しくしてあげてくれ」

 

 

「う、うぅ……!」

 

 

 

 その言葉を皮切りにイラストリアスの涙腺は決壊し、わんわんと声をあげて泣き出してしまう。今までの泣き方とは違いどこか安堵したような涙を流しながら嗚咽を漏らす姿に指揮官は少しだけ安堵しつつ彼女をそっと抱きしめて背中をさすり始める。

 

 

 

 イラストリアスはまだ自分を許せないだろう。まだ自分を責め続けるだろう。産まれた事が罪であり、生き続ける事は

罰だと。PTSDの治療はまだまだ続き、なまじ正気を取り戻したからこその苦労も間違いなくあるだろう。

 

 

 

 だが、それでも……少しでも自分に優しくしてあげてほしい。この夕焼けが沈んでいくように闇夜がまた訪れても、その闇の中に小さな光がある事を忘れないでと。指揮官はそう願いながら泣き続けるイラストリアスをただ優しく抱き留める。

 

 

 

 

(流石にこの流れで君を抱きたい……なんて言えば空気ぶち壊しだからな……イラストリアスの治療とマルタ基地と運営が落ち着いたら、その時はまた告白して。ちゃんと夫婦になったらその時は……)

 

 

 

 

 

 鉄血軍人特有の同胞意識と本人の甘さ。そして抱き止めたイラストリアスの極上の柔らかさに最低だと思いつつも逃れられない性的興奮という男のサガを感じつつも指揮官は空気を読み、彼女の背中を優しく撫で続けていたのだが。

 

 

 

 その夜、元ロイヤルレディとしての覚悟を決めたイラストリアスが夜這いを仕掛けて本当の意味で結ばれあったのはまた別の話であった。





 ある意味過去最高に難産でした…PTSDの人の言動の再現って難しいですね。


・イラストリアスの精神

 今回のお話で指揮官と会話を交わしましたが、だからといって精神が落ち着いたり安定した訳でもなくまだPTSDの症状が続くそうな。自分で自分を許すことが出来ずに責任感が強かったせいで壊れてしまった精神はある程度修復されたとはいえまだ自分を許す、笑い話にすることは難しい。ですが今後は少しずつグレンツェンや指揮官との交流を中心としたリハビリのメニューから本格的な精神面の治療にうつるでしょうね。完治するかどうかは本人次第です。

・正妻問題

 実は指揮官の対外的な正妻はまだ決まっていません。なまじ指揮官の地位や名声が高まった事も、家庭間では平等であったとしても外交的な意味でも何れ決める必要があるでしょう。候補としてはシュペー、ヒッパー、リットリオは間違いなく自分から辞退するでしょうしイラストリアスの立場は微妙であるので除外。


 『英雄』となる彼を選び最前線で戦い続けた副官であり、イオニアの海戦で世界初の空母対決(実際はイーグルvsグラーフの方が最初)でその名を轟かせたグラーフ

 物語のように情熱的な恋を得てサディアを救い。遠距離恋愛である手紙とのやり取りを得て戦後結ばれたサディアとの関係を重視する為に選ぶべき存在であるヴェネト

 特別計画艦である以上に国家元首に匹敵する新旧枢機卿の妹という血筋的には最高クラスである、新政アイリス教国を重視する上で選ぶべき存在であるガスコーニュ

 そして、レッドアクシズの盟主である鉄血陣営の陣営代表であり、この戦争を勝利に導いた才媛ビスマルク(既に妊娠しているので公式的には初の子は恐らく彼女の子となる)

 恐らくこの4人から1人を将来的に選ぶ事になるでしょう。どの女性を選んでも納得されますし、どの女性を選んでも波紋を呼びかねない。面倒な事ですが彼等はそう言う問題とも向き合う事になるでしょうね。


 次回はいよいよIFではありますがロンドンアフター。そして、それが終わればエピローグに。数年単位の物語となりましたが最後までお付き合いしていただけると幸いです。

 コメント、感想、評価をお待ちしております。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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