鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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お待ちいたしました
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After32話 世界渡り 前編

 

 

 

 艶しく舞う幻夢の灯火。幻想と現実の狭間で、朧月は嫣然と微笑む。人外じみた美しさと妖しさを宿す彼女は幾度と無く繰り返した道を再び歩き始める。現世と常夜の境界を歩む彼女の意識は覚醒しているのか、それとも夢幻の幻想に身を委ねているのだろうか。

 

 

 

「嗚呼、定めとは斯様にも……」

 

 

 

 嘆きと諦観の入り交じる声を密やかに漏らし、彼女は暗く輝く光の道を歩んでいく。

 

 

 無数の可能性が行き着く先に破滅が待ち受けていたとしても彼女は……信濃の双眸は前だけを見据えて歩き続ける。幾千幾万をも絶望を数え上げよう。

 

 

 幾万幾億をも悲劇を乗り越えて進もう。そうして歩み続けた彼女の先に待ち受ける結末は如何なる物か、それを知ろうとしても意味の無い事なのだろう。

 

 数多の可能性と一握りの希望も満たせぬ破滅が紡ぎ出す奇妙な因果に囚われた信濃の背にはもう道は無い。彼女を歩ませ続ける道が導く先にあったものが幸福だったのか、それとも絶望だったのか……それは彼女自身にさえも分からないままだろう。

 

 

 

 それでも彼女は歩み続ける。百の絶望が身を包めば百一

の希望を抱いて歩み続ける。微かな光を見出せるなら何度絶望の底を覗き込もうが彼女は進み続ける。 

 

 

 

 それが彼女が見た幻想の果てであろうとも……信濃は唯ひたすらに前へ前へと進むのだろう。全ては祖国の為に、姉妹の為に、仲間の未来の為に。何処までも優しく、どこまでも他者を思える信濃はたった独り、願いの先へと進む。その身が全てを悟り終え、光無き絶望の底へ落ちてしまうまで。

 

 

 

「今宵の月は……空に座し、妾を見定めている……」

 

 

 

 

 淡く美しい光が降り注ぐ。どこか悲しげに見える星空を見上げ信濃は静かに目を閉じた。その姿は夢幻の光景を瞼の裏に描き出すかのようであったが、彼女は直ぐにその目を開けた。

 

 

 微かな微睡みを見せる事も無く視線を下ろした信濃の前に広がるのは光無き夜闇の道。ただ只管に前だけを見つめ歩み続けた彼女はやがて白き光の中へと埋もれて消えていく。

 

 

 

 淡く光放つ小さな光の粒だけが彼女の永い旅路を見送る中……静寂だけがそこに在り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 kansenには特殊な能力を保有する者が存在している。それは超能力だとか、ミズホの神秘だとか……そんな言葉で形容される人智を超えた特別な力。

 

 

 『ギフト』とでも呼ぶべきその能力の根源は彼女達を生み出したメンタルキューブが鍵を握っているとされているがkansenが登場した五十数年が経った今でも解明には程遠い状態にある。

 

 あるものはシールドと呼ばれる物体を生み出し敵の攻撃に対する防御壁として扱うことができ、またあるものは剣に切れ味を付与する事で特殊合金で出来たセイレーン量産艦を熱したバターの様に容易く両断する。

 

 

 ある者は遠く離れた場所を映し出す力を持ち、またある者は人として持ち得ない第六感や嗅覚を持ちえる事が出来た……とkansenによってその能力の種類は多種多様である。

 

 

 

 しかし、彼女達が保有する特殊な能力はメンタルキューブの恩恵による物では無く、この世界の『理』を外れた存在に成った事による副産物として得た力であるとも噂されているのだ。

 

 

 だが、その力の原理や根源は未だに解明されていない為、何が真実であるかどうかはこの研究を積極的に行っている鉄血公国による解明を待つ他ないだろう。

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 

 そんな中信濃に与えられた才能は余りにも特異なものであり、唯一無二の『ギフト』であった。

 

 

 

『世界渡り』

 

 

 

 彼女はセイレーンの様な特殊な出自である訳でもなく産まれた直後から並行世界を観測する能力を保有していたのだ。性格には幾千、幾万をも存在する並行世界に存在する信濃達は常人では考えられないような時間眠りについている。

 

 

 

 

 何時間も、何日も、何週間も、何年も。

 

 

 

 

 老ける事なく、餓死する事もなく彼女は眠り続け、その期間に信濃は別の並行世界を。『枝』とセイレーンは呼称してるそれを。既に起床している他の『枝』で起床中の信濃の目から得た情報を俯瞰的に。感覚的に。時として自分が追体験しているのだ。

 

 

 

 ただし、この特異体質の事も相まって彼女は『滅多な」事では起床しない。つまり彼女が『世界渡り』を得て見てしまう光景は最早その『枝』の自分が緊急事態である事と結びついており……『滅多な』事が起きているのと同義であった。

 

 

 

 その結果、多くの世界の信濃達は常人であれば確実に発狂するであろうさまざまな悲劇や惨劇を観測し続ける羽目となる。

 

 

 

 セイレーンによって滅びた世界。人類同士の争いにより滅びた世界。重桜の内乱に巻き込まれ味方によってその世界の信濃が最後を迎えた世界。自身が加害者である世界も被害者である世界も多く観測し続けてきた。

 

 

 

 そして『世界渡り』でそれらの光景を観測する信濃はそれらの惨劇に介入する事は出来ず、無力感に苛まれる事になるのは当然だろう。遠い世界で起きた惨劇をテレビの前の視聴者が介入出来ないのと原理は一緒だ。

 

 

 

 更にこれらの観測する『枝』はランダムであり、彼女自信も選ぶ事は出来ないのだ。絶望に染まった『枝』ばかりを観測する事も多く、その光景が瞳に焼き付けられた彼女達は夜毎行われる悪夢に魘される。

 

 

 そんな地獄の中を歩み続けた信濃の心が壊れてしまったとしても可笑しくは無いだろう。事実、冒頭のとある『枝』の信濃もまた、幾度も地獄を見続けて……起床後、嘔吐する事も珍しくはなく、その後再び眠りにつく日々を送っていた。

 

 

 

 しかし、それが続いても尚。多くの『枝』の信濃達と同じく彼女の心は完全に壊れる事は無かった。

 

 

 

 

 その理由は彼女が観測する光景の中に在った。

 

 

 

 

 

 セイレーン達の侵攻を防ぎ切った世界もあれば、人類同士で争い続け、自滅しつつも復興への道を歩む世界もあった。数少ないが戦争が早期に集結し、人類が手を取り合いセイレーン達と戦う世界も観測してきた。

 

 

 

 そうして様々な世界を見てきた信濃はそんな世界の彼女達と心の内に秘めた願いを感じ取り続けたのである。恐怖に怯え、絶望に竦みながらも助けを求める者達の願いを。

 

 

 

 そんな光景を繰り返し見続けていくうちに彼女は強く願うようになったのだ。何時か自身が起床しこの悲劇を終わらせたいと……その思いだけで彼女は幾千幾万もの絶望を見続けて来たのだろう。夢のカケラで得た知識によって、信濃という個体名をもつ彼女達は平和を使うための糧を掴もうともがいているのだ。

 

 

 

 だが、しかし……やがて、彼女は観測することになる。セイレーンすら匙を投げた異常な『枝』の一端を。

 

 

 

 

 重桜陣営代表長門と北方連合陣営代表ソビエツキー・ソユーズの2人が重桜風の居間にて紅茶を嗜んでいる。

 

 

 ……余りにも意味不明の光景であった。『世界渡り』により信濃はある意味幽霊の様な存在となってこの居間に存在している。時としてこの『枝』の信濃の目から観測を行う事もあれど、今回は俯瞰的に観測を行う事になりそうだと思った矢先これである。

 

 

 

 ソユーズと長門が同じ空間にいる事は……珍しくはあれどあり得なくはない。ただしその多くは敵対した上での開戦前の最終会議やセイレーンの侵攻が加速した上での渋々な不可侵協定の場面であったりととても友好的な物では無い。

 

 

 

 しかし、今現在2人が行っているのは和やかなティーパーティーだ。紅茶に舌鼓を打ちながら談笑している光景は実に平和的であり、『枝』を見てきた信濃には理解し難い光景である。

 

 

(……これは?)

 

 その上で側のカレンダーを眺めれば更に彼女は絶句する。時は1943年。他の『枝』の知識がある信濃にとってその年代の重桜と北方連合は間違いなく険悪な関係なのだ。

 

 

 八百万の神々を信仰しその身にミズホの神秘を受け精霊を身に宿した重桜と神を否定し宗教を弾圧した過去がある北方連合。この二カ国は例外的な緊急事態な例こそあれど手を取り合うなど最早不可能と言い切れる。

 

 

 世界情勢が荒れ、鉄血公国とロイヤル王国との戦闘が過激になり。重桜が1941年に行われるユニオンへの真珠湾攻撃を持ってアズールレーンに宣戦布告を果たすであろう緊迫の時代。

 

 

 

 しかし、目の前の光景はそんな歴史を嘲笑うかのように平和その物だ……まるで『世界渡り』で見続けた地獄が嘘であるかのように。

 

 

 

(余りにも…面妖な…?)

 

 

 

 信濃が困惑しきったその時であった。紅茶を飲み終え一息ついた長門とソビエツカヤ・ソユーズはティーカップをテーブルに置いてからゆっくりと口を開く。

 

 

「そういえば……エチオピア海軍に移籍した同志霧島の様子は如何でしょうか?慣れない土地への生活に苦労はしてませんか?」

 

 

「あぁ心配には及ばない。霧島は新天地でもその才覚を発揮している……いや、もう霧島ではなくハイレ・セラシエと言うべきか」

 

 

 

 少々複雑そうな表情で長門はそう返答する。対するソビエツカヤ・ソユーズはその表情の意味を察しながらも微笑んだまま口を開いた。

 

 

 

「現国王と同じ名前を与えられるとは、余程の期待をエチオピア海軍は抱いているのでしょう。存命中の国王の名を与えられるのはロイヤルでもありましたが……」

 

 

「我らには分からぬよ。何故他国ではヒトの名をkansenの名として流用する?その多くは男性名であるという事は一旦保留にするが、人名を名付けられた我らが沈めば縁起でもないと思うのだが……」

 

 

「こればかりは感性の問題でしょう。ヒトの名をつけられたからこそ自分はその人の名を受け継いでいるのだから簡単には沈まないと奮起する子も多いと聞きます。

 

 

「なるほど……その内我ら重桜海軍でも人名が採用されるようになるかも知れぬな。戦艦織田信長や空母足利尊氏など」

 

 

「……似合いませんね?」

 

 

 

 クスリと笑みを浮かべるソユーズに長門も全くだと頷く。

 

 

 

「さてと……そろそろ私は失礼させて頂きましょう」

 

 

 

 

 

 紅茶を飲み終えたソユーズはそう口にし席を立つ。長門も同じく席を立ち、2人は玄関まで足を進める。そして靴を履いた所でソユーズが口を開いた。

 

 

 

「エチオピア海軍も軍事支援によって多数のkansenが誕生したと聞きました。なかなかの性能だと」

 

 

「ゴンダール、アビシニア、オガデン、ダナキル……ゴンダール、アビシニアは重桜式の装備。オガデンとダナキルは鉄血の生体艤装と聞いた」

 

 

「コンペ、なのでしょうか?」

 

 

 ソユーズの問いに長門は頷く。エチオピア海軍は他国の支援によってようやくkansen主体の海軍を生み出そうとしているが黎明期だからこそ色々と試そうとしているはずだと。

 

 

 

「お主はどちらを選ぶと思う?」

 

「間違いなく鉄血でしょう。現時点では」

 

「……少しは余に遠慮というものを見せようとは思ぬのか?」

 

 

 

 呆れた様子の長門にソユーズは真顔でこう告げる。

 

 

 

「重桜には重桜の良さがあるとはいえ我々から見ても独自の技術が多過ぎて扱いにくいのですよ。当たり前の如く式神が艦載機となり、扱いの難しい刀での接近戦や、砲撃戦よりも雷撃戦を重視した駆逐艦……多くの国と比べて異質な重桜のドクトリン(戦術思想)は癖が強すぎます」

 

 

 

 

 うぐぅ…と長門は反論が出来ないと降参せざる得なかった。重桜にとっての当たり前は他国にとって異質だという事は重々承知しているからこそだ。

 

 

「だからこそ鉄血の生態擬装は受け入れられるでしょう。照準や弾薬装填を生態擬装が補助。ドクトリンもオーソドックス。何より黒衣の狩人であるグラーフ・ツェッペリンが懇切丁寧にまとめた戦術教本は近代戦を語る上で欠かせない。間違いなくエチオピアは鉄血を選ぶでしょうね。だからと言って経済的には我ら北桜同盟を選ぶはずですが……」

 

 

「我らと結びつきを強くしつつ、軍事方面は任せきりとせず鉄血の力を借りる事でバランスを取る。中々やり手だなエチオピアも」

 

 

「ただ場合によってはイソップの蝙蝠の様にどちらからも嫌われる存在になりかねませんが。そのリスクを背負った上で必死なのでしょう。アフリカの多くの国々が植民地になっていくのをエチオピアはずっと眺めていましたから」

 

 

 

 イソップ童話に登場する蝙蝠は二つの陣営にいい顔をした挙げ句最後は追放された愚か者。しかし、エチオピアの孤立は北桜同盟の戦略の破綻を示す。

 

 

 

 レッドアクシズ、アズールレーンと違い北桜同盟はオスマン帝国やクルジス・エルサレム共和国の様なkansen技術を保有しない国家に提供を行い。自分達第三陣営に加入させる事で他陣営も手出しできないチームを目指しているのだ。

 

 

 

 その様な意味でも親レッドアクシズになりかねないエチオピアをこちらに引き込むのは2人の目下課題と言えるだろう。

 

 

 

「……鉄血ではなく我々北方連合の生態擬装を採用する様、人を派遣してみましょう。もっとも鉄血より好条件を示せるかどうかは交渉次第ですが」

 

 

 

「すまぬな……余らも他国に技術導入できる様、赤城や金剛辺りに相談しておこう」

 

 

 

 そんな会話を交わし、2人は玄関の扉を開く。少し話し過ぎてしまったかと思いつつ外へ一歩出た所で長門は眩しそうに空を見上げた。

 

 

 

 青空に舞う薄雲の白いカーテンはまるで一羽の蝶が空を飛び回る様子を思わせた。穏やかな風が優しく吹き、暖かな日差しが大地を包み込む。

 

 

 

「いい天気だ……」

 

 

 

 そんな光景を見てそう呟いた長門は……『世界渡り』で信濃が見た事もない様な優しい笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 長門とソユーズの仲睦まじい光景とそれ以上に意味不明な会話。エチオピア?オスマン帝国?なによりクルジス・エルサレム共和国?特に最後は信濃も聞いた事がない国であり思わず意味がないと理解していても2人に話しかけようとしてしまった程だ。

 

 

 

 しかし、『世界渡り』は融通が効かぬもの。次の瞬間には光景が暗転してぐるりと視界が動く。光に包まれそして段々と光が晴れていく……。信濃の視界に映るのは、先程とはまた違う光景であった。

 

 

「……天城…?」

 

 

 

 

 思わず信濃はそう呟いたがそれも無理からぬ話だろう。先程までいた長門とソユーズの姿はもう無く、今現在彼女の視界に映し出されているのは幼い少女とそれを後ろから抱き抱える幸運の絶頂にいるかの様な女。そして……その二人の視線の先にあるのは、巨大な桜の木であった。

 

 

 

「赤城姉様はずっとこの桜を眺めてますね」

 

「ふふっ、私にとっては思い出の桜だからですわ〜」

 

 

 二人……幼い天城と上機嫌の赤城がそう会話を交わす。

 

 

「この木は、姉様にとってどんな存在なのですか?」

 

 

「……天城ちゃんは知ってるわね?貴方には母親となる女性がいるって」

 

 

「はい。天城と同じ名を持つ母がいたと」

 

 

 

 重桜屈指の策謀家であり、若くしてその命を散らせた悲劇の女性天城。『世界渡り』の度に信濃はそのせいで妹である赤城が狂っていく事を知っている。

 

 

 

 いくつかの『枝』の信濃は当然止めようとしたようだが、その度に自暴自棄となった赤城がその『枝』を壊しかねない暴挙を行ったり、セイレーンに保護され天城復活の為に強引な実験を行う様になるなど赤城は多くの悲劇を生み出す要員の1人だ。

 

 

 

 故に信濃は『世界渡り』にて赤城を観測する事は最優先で行っている。しかし……多くの枝で姉を求めて暴走を繰り返した赤城。冷徹な仮面の裏で燃え上がる様な姉への執着や狂気じみた愛情には思わず震え上がる事も少なくない。

 

 

 

 だが、眼の前にいる赤城とその妹?である天城の表情はそんな不安を感じさせぬ穏やかな物である事に信濃は驚きを隠しきれなかった。

 

 

 

「この桜はね……私と加賀が辛い時にずっと眺めていた桜なの。天城姉様に会いたい、天城姉様に謝りたい、天城姉様なら重桜を導いてくれる。天城姉様、天城姉様と……何度も、何度も。天城姉様が最後に眺めていたこの桜を見る度に、私はそう願い続けてた」

 

 

 

 そっと桜の木に赤城は触れ、撫でる。まるで散る桜の花を一陣の風の如く風に舞うその姿は信濃が今まで見た事も無い慈愛に満ちた女性の姿だ。

 

 

 

「もしも、貴女がいなければきっと私は酷い事を沢山していたでしょうね。そう、口では言い表わせない程に悍ましい事を」

 

 

「赤城姉様?」

 

 

 急に暗くなった声色に天城は首を傾げると不安そうにぎゅっと赤城の服の袖を握る。小さな妹の不安を払拭する様に赤城は笑った。

 

 

「でも。貴女を見て、貴女を抱きしめて、貴女と過ごして……天城ちゃん?貴女は私が悪い事をするのは嫌?」

 

 

「嫌です。赤城姉様が皆さんに嫌われてしまうじゃ無いですか」

 

 

 

 善悪の有無を未だ幼い天城は理解出来ない。聡明だからこそ何が正しく、何が間違っているのか。善と悪は何を基準に考えれば良いのか?を熟考した上で決めねばならないと思っているのだ。

 

 

 そんな幼い天城から見ても、自分の家族である赤城が人々に嫌われるという未来は思わず顔を顰めてしまう程に不愉快かものであった。赤城の愛情や優しさを天城は誰よりも知っているから尚更に。

 

 

「ふふっ。そうよね……愛の為なら。重桜の為なら、天城姉様の為なら外道に堕ち、地獄で焼かれる覚悟があったのに。幼い貴女を依代に……っ…」

 

 

「赤城、姉様?」

 

 

 

 ぽろぽろと。突然に大粒の涙が溢れ赤城の頰を濡らす。しかし、その涙の意味を幼い天城は理解できない。だが、傍観者である信濃は何となくではあるが察してしまった。

 

 

 赤城は、何らかの手段で幼い天城を産み出したのだろう。それを依代に実の姉を復活させようとするも、自分を慕う。姉と同じ目をした幼い少女を犠牲にするという大罪に耐えきれなかったのだと。

 

 

「ごめんなさい、天城ちゃん……私は、貴女を……」

 

 

 

「赤城姉様?どうなされたのですか?」

 

 

 そんな姉の涙に動揺する幼い天城。しかし、その小さな手が優しく頰に触れる事で赤城は落ち着きを取り戻す事ができた様だ。涙を拭いながら赤城はそっと妹を抱きしめる。

 

 

 

「大丈夫……大丈夫よ」

 

 

 

 そう言い聞かせながら、幼い天城を強く強く抱きしめる赤城。その抱擁は愛に溢れており。赤城は一線を超える事なく、幼い姉の生き写しである少女と共に生きる道を選べた事に信濃は胸をなでおろすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 世界は暗転し、ぐるりと視界は反転する。光に包まれる中、信濃は一つの確信を得た。

 

 

 

 

「重桜は刃を交えず。北方連合と歩む道を選ぶ……何らかの導きの果てにたどり着く。夢郷と言える不可思議な『枝』なり…」

 

 

 この『枝』の重桜は北方連合と手を結んだのだ。判断材料が足りず、結論を得たとしてもそこに辿り着くまでの過程が曖昧な為、『世界渡り』によりさらなる情報を集める必要があるだろう。

 

 

 

無論、この情報を得たとしても自身の『枝』の長門に北方連合と手を結ぶべきだと進言した所で正気失っているのか?と怪訝な目で見られるのが席の山。最悪、共産主義者に汚染された神を否定する者として断罪されかねない。

 

 

 

「その為にも……『世界渡り』を安定させなければ」

 

 

 

 信濃はそう呟くと再び意識を集中させる。『世界渡り』の度に信濃は重桜や北連の情勢に詳しくなっていくが、それでもまだ足りないのだ。もっと、より多くを知りたいと彼女は強く願い。

 

 

 

 やがて彼女が次に目覚めるのは……サディア帝国首都。チッタ エテナールであった。

 





 何とか2月に間に合わそうとするも間に合わず……申し訳ございません。


・世界渡り

 ゲーム本編にも出てくるある意味屈指のチート技能。今作の陛下が女王号令のバグを利用して世界の歴史を知ったというのに信濃は初めから世界大戦が大筋を知っていたとなってしまい最早シナリオブレイカーです。ですが信濃が本編にてその選択をしなかったのは恐らく信濃が目覚める事が異常事態である程には基本寝ているという事。そして、そんな大筋を伝えた程度で自分たちの『枝』が救われるはずもないと試行回数を重ねて知っていたからなのかも知れませんし、今作ではこの二つの説を採用させて頂いています。また、ゲーム内本編では雲仙もまた信濃のこの能力に関わっていますが今作では採用されず。ゲーム内のイベント時空とされる世界線βが相当特別な『枝』である事は強調されていますし、雲仙は後に産まれる新造艦か、信濃の様に別にオカルトな事象に関わっているおっぱいさんになるでしょうね。

・赤城
 今作では最高にいい空気を吸ってる赤城ですが、大体の『枝』では重桜を破滅に導く厄介な存在。アニメの様にセイレーンに利用されてオロチを作って騒動を起こしたり、ゲームない本編でも味方を巻き込んだ実験を行っていますが。実は指揮官がいなくてもCWと呼ばれるゲームでは特に悪さはせず長門の部下として活躍する姿も。

 恐らく赤城の暴走は天城が死ぬ寸前に封印されるといった中途半端に希望が残されているのが要因らしく、CWの様にちゃんと天城が遺言を残した上で普通に亡くなりさえすれば本人は納得するのでしょうか?今作では天城ちゃんが天使過ぎて浄化という。覚悟を決めたというのに一線を超える事への躊躇いによって、幼い天城の姉として生きる選択を彼女は選んだのでした。

 ラストまで恐らくあと2話。もう少しで完結致しますのであと少しとなりますがよろしくお願いいたします。

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  • ロイヤル最大の敵
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