鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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 アンケートの結果指揮官の呼び名は名前呼びとなりましたが、申し訳ございませんが今しばらくお待ち下さいませ。シチュエーション的にも最高のタイミングを目指します

 そして暫くは戦闘はない日常回となります。ただし戦闘がないだけであって「平和」であるとは限りませんが


第十二話 指揮官の過去

 着任当日に行われた鉄血初のkansen同士の本格的な衝突である『バルト海海戦』に始まり、『レス島防衛戦』や『人型セイレーン、ピュリファイヤーとの遭遇』と嵐の様に慌ただしい日々であった一ヶ月間が終わり、ようやく俺達キール第三基地の面々は今の所は平和な日々を送っていた。

 

 いや、正確にはこの一ヶ月が終了し、その後一週間の間、特に問題もなかったと言うだけだ。小規模なセイレーンの出現の結果出撃したことはあったものの、最早それくらいでは何事もないと言い切れる程感覚が狂ってしまっている事に気がつき、ため息を吐きたくなる。

 

 ちなみにその戦闘では特に何事もなく終わり、他者の援護ばかりを行っていてそれまで縁が無かったシュペーが産まれて初めてMVPを獲得。よくやったなと褒めた所。嬉しそうに照れて頬を少しだけ染めながら。

 

「嬉しいな……指揮官安心してね、何があっても私が指揮官を守るから」

 

 と言われてしまい何だこの子天使か?やっぱりシュペーは天使なのか?と優しいシュペーの為にも頑張ろうと決意したのはちょっとした思い出だ。グラーフもシュペーに嫌われると人として終わると言っていた分シュペーの期待に今後も応えていかなければ。

 

「あんた……ちゃんと集中しなさい。さっきからよそ見ばっかりで、心ここに在らずって感じよ」

 

 ヒッパーの呆れた声が耳に届きぼんやりしていた意識が覚醒する。慌てて謝罪しながら参考書を開きつつ、再び本来の目的を成すために集中、集中と。

 

 それはともかく、現在俺が何をしているのかといえば鉄血が誇る巨大な大講堂。軍事基地に設置され、多くのkansenや兵士達が勉学の為に本を片手に日夜学ぶ学術の場にてヒッパーと二人きりで教室の一室を貸し切り勉学に励んでいた。

 

 鉄血らしく赤と黒を基調にした調度品や横断幕で飾り付けされた巨大な学術の聖地。多くの教室は自由に使用可能であり、教室内にはホワイトボードやコーヒーメーカーも設置されており24時間自由に解放されている。

 

 軍事だけではなくkansenが人としての生き方を学ぶ為の心理書や果ては料理や恋愛に関する本を借りる事が可能な巨大な図書館や、ちょっとした軽食がとれる喫茶店。果てには肉体を鍛える為のトレーニング施設に温水プールなど至れり尽せりなこの施設はキール周辺の地域の雇用を生み出してるそうな。

 

 

 俺は業務が終了後や休日になれば、時折ヒッパーと少し時間をかけて本部に向かい、この大講堂で定期的に勉強会を行っている。

 

 鉄血では勤勉は美徳とされており、ビスマルクさんも含めた上層部も推奨はしているものの、ヒッパーは指揮官としては未熟な俺に根気強く様々な事を教えてくれた。

 

 過去にあったセイレーンとの戦いの記録、kansen自身から見た敵の対処法、各国の軍の戦術や思想の違いに、実際に図上演習を行うなどなど……

 

 恐らく一人であれば俺はここまで勉強する事は不可能だったろう。一応個人でも学ぶ事は怠ってはいない……というか、悲しい事に趣味らしい趣味がほとんど無い俺には未熟な指揮をどうにかする為の勉学が一種のライフワークになっているが、それでも限界があったろう。

 

 

 特に俺は演習や実戦での指揮が苦手だ。頭の中では、座学の内容を理解していると言うのに、いざ実戦方式の演習や全て自分で指揮するようになるとどうしても粗が出てくる事が悩みの種。

 

 最初のうちは何がわからないのかが分からん!勉強しているのに、テストの点数は悪く無いのになんで俺の指揮はダメなんだ!?となり、大講堂で学ぶ初日はヒッパーに説教されたのは秘密だ。

 

 ヒッパーは間違える事に関しては。特に図上演習で誰かが命を落とす事になりかねない選択をしてしまったケースに関しては特に厳しいが、同時に何が間違っているのか教えてくれて、そして次にどうするべきなのか、どうすれば改善するのかを一緒に考えて教えてくれる。

 

『親切心?はぁ!?何言ってんのよ!?これは私があんたの指揮で殺されたくないから自分のための行ってるだけだっての!あんたの知能は……まぁ否定はしないけど実戦方式になるとバカでマヌケでドジとしか言いようがないっての!そう言われるのが嫌ならさっさと学んで私の手を煩わせないようにしなさいっての! 』

 

 

 ある日、いつもありがとうなと口にすると顔を真っ赤にして機関銃の如く囃し立てていたヒッパー。口は悪いが律儀に嫌な顔一つせず俺の勉強を手伝ってくれる。お陰で今もまだ指揮は未熟ではあるものの少しずつ自分でも……いやまだ未熟なのは相変わらずか。それでも最低限ではあるが致命的な判断ミスをする事は目に見えて減っていった。

 

 わざわざ俺の為に秘書としての業務だけでなく、時間を割いてテスト方式で問題まで作ってくれる事も。そして、俺が正解すればぶっきらぼうに今の事忘れないでよと褒めてくれるヒッパーには感謝しても仕切れない。

 

 いつかお礼でもとは思うが、真っ先に思い浮かぶ菓子類のお礼に関しては料理上手なマンジュウが多数存在する基地では果たして喜ばれるものだろうか?

 

「んっ……そろそろ時間ね。そんじゃ帰るわよ指揮官。ほらっ、さっさと片付けなさいっての」

 

 やはり花か?それとも香水やネックレス?髪留めなんかも……と教本を見つめてノートにカリカリと書き込みながら思案にくれていると腕時計を見つめながらヒッパーは呟く。業務が終わり次第大講堂に二人で向かった為か、既に教室越しから窓の外は夕闇に染まっており。あと少しもすれば静かな夜が舞い降りてしまうだろう。

 

「じゃあ私は終わったって伝えてくるから。飲み物でもいる? 」

 

「ありがとうヒッパー。あっ、出来れば甘いものだと嬉しいな」

 

 書類を片手に教室を使い終えたと申請する為にヒッパーは教室を後にする。最早暗黙の了解となっているが、勉強会終わりに彼女が飲み物を取ってきてくれると言う事は、「悪くはなかった」と暗にヒッパーは伝えてくれている。

 

 一度図上演習で全滅判定を喰らった時は……あの時は飲み物どころかコーヒーを無理やり深夜まで喉に流し込みつつ二人で徹夜して改善点を話し合う事になり、後日二人で倒れそうになりながら業務を行ったのもいい思い出だ。できることなら繰り返したくもないが。

 

 

 とは言え心地よい疲労に包まれつつも脳をフル回転させた為なのか、思考回路はもうぐちゃぐちゃだ。プシュウ、と詰め込まれた知識が出て行かないように思わず机に突っ伏してしまう。何度も自信を無くしそうになるが、それでもヒッパーとの勉強で得たものは大きいと信じたい。

 

 

 椅子から立ち上がり、硬くなった身体をほぐす為にぐっと背伸びをすると身体中からコキコキと音が鳴る。さてようやく業務も勉強会も終了した!基地に帰って風呂に入り、マンジュウにケーキと蜂蜜たっぷりなホットミルクでも用意してもらい、ふかふかのベッドで安眠するかぁ!

 

 

 なんて思いつつ、更に身体をほぐす為に思い切りぐっと背伸びをしようとすると。

 

 

「うっ、おう!? 」

 

 頬に後ろから冷たいモノが当てられてしまい、余りに唐突な出来事により、思わず身体のバランスを崩してしまう。今思えばそれはヒッパーなりの軽い悪戯心だったんだろう。しかし身体は制御が効かずに椅子を巻き込んですっ転んでしまい……

 

「えっ、ちょっまっ……」

 

「って……きゃっ!? 」

 

 

 ……痛みはなかった。というか柔らかな感触が顔どころか身体全体を包み込み。倒れた先で、何やら両手の先には異なる湿った二つの感触が。

 

 片や小さいながらも微かに柔らかさを感じ、ふよんっとした柔らかさの代物。もう片方は……それより大きく、手のひらの先からハリと柔らかさを感じ取れる。

 

 ………思わずなんだこれ?と混乱しながら手を動かすと。

 

「んっ……」

 

「ひゃっ……!? 」

 

 と二種類の声が上がるのだった。

 

 うん……冷静になってきた。これって……不味くない?といっそ思考が自分でも怖いくらいにクリアになりつつ、顔を上げると。

 

 右手側にはヒッパーが、左手側には講師であり主に大講堂の管理を担当する軽巡ケルンさんがこぼれてしまったジュースまみれになっており、そんな二人のお山を俺は押し倒した挙句、両手で揉みしだいていて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ、これ死んだかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このバカ!アホ!手を動かす前に起き上がりなさいよ!?なんで先に動かしてるのよバカァ!」

 

 ジュースをタオルで拭きながら羞恥で顔を真っ赤にして、怒声と共に正論を叩きつけてくるヒッパー。

 

「ええ、全くその通りですよ?指揮官たるものもっと真摯であるべきです、部下に手を出すなどとは鬼畜の所業ですよ?わかっているのですか?」

 

 ゴミを見るような目で同じく正論を叩きつけつつ、わざとでは無いと分かってはいるが憲兵に伝えると貴方はどうなるかわかっているのか?と蔑むケルンさん。

 

 

「はい……はい……でもわざとじゃ、いえ何でもございません、本当に申し訳ありません……! 」

 

 事故なのにどうして…どうして…!

 

 

 とは言えやらかしたのも事実なので反論も出来ず、結果三十分近く教室の床に重桜式正座をしつつ、二人の気が済むまでお説教を受けてしまう羽目になるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな下手をすると性犯罪者として憲兵さんのお世話になりかねない事態に巻き込まれてしまったのが3日前。そして今日は業務から解放されて自由に過ごせる休日だ。

 

 とはいえ青春の全てを指揮官となる為に捧げてきた俺には趣味がなく、少しでも指揮をマシにする為にも、休暇になると毎回の様に大講堂に向かい、自主勉強を行うくらいしかやる事がなかったのだが……一応あの後ヒッパーには謝り倒して許してもらったが、万が一ケルンさんと顔を合わせるかも知れないと思うともう少しだけ時間を空けるべきだろう。

 

 ではロイヤルの捕虜の尋問でもしようか?そういえば黙秘をしていて望み薄なデュークオブヨークは除外しても、あの眼鏡をかけている重巡ロンドンには尋問はまだだなと思うが、休日にやる事がないからといって捕虜の尋問に向かうというのも余りにも虚し過ぎる。

 

「……休暇の過ごし方ってどうすりゃいいんだ」

 

 折角の休日と言うのに、ベッドから起きた後は寝巻きの状態で机に突っ伏して何もせずに数時間以上堕落的に過ごしている自らの境遇にため息を吐く。そう、今までの休暇はほぼ全て大講堂で時間を潰していた為になにもやるべき事が思いつかないのだ。ワーカーホリックと言えば美談のように聞こえるが実際の所は虚しいだけでしかない。

 

 大講堂で学ばないとなるとパッと思いつくのはこのまま惰眠を貪り体力を回復させる事だが、悲しいかな軍人として規則正しい生活を身体に叩き込まれた結果眠気は一切感じずに体力もみなぎっており夜まで眠れないだろう。

 

 じゃあマンジュウに何か美味いものでも作って貰うか?なんて思うも、いくら好物の甘いものばかりを選択しようが胃袋には限界がある。

 

 

 何故20歳にもなって俺はそんな虚しい事を考えているんだろう?身体を鍛えるべきか?小説でも読んでみるべきか?

 

 過去を振り返ってみると故郷のフランクフルトでは5年間の指揮官教育で過去の友人達とも疎遠になっており、なによりこのキールからは余りにも遠い。指揮官としての教育を受けていた時は恩師こそ存在するが、結果として休日に遊べる様な友人は今の俺には一人も存在しなかった。

 

 彼女?言うまでもないだろう。指揮官として学んでいる最中に健気に待ち続けて文通を続けてくれる幼馴染の女の子なんて都合のいい存在は俺には縁があるはずも無く。

 

 

 

 ……これ以上考えると虚しくなるので辞めよう。仕方ない、散歩でもして見ようか?

 実の所この基地では衣食住が完全に提供されている為、俺自身母港周辺のキールの街に関しては一度も散策した事が無い。

 

 暇つぶしにもなるだろうし無趣味ならいっそ見て回るかと私服に手をかけ、ついでに昼食も今日は外で取ろうかとカバンの底で使う機会もなかった財布を探そうとしていると。

 

「えっと、指揮官、今いる…かな?」

 

 突然コンコンとノック音と共に、控えめな様子の女の子の声がドア越しから聞こえてくる。

この声はシュペーか……何か相談事でもあるんだろうか?少なくてもアラートが鳴り響かない以上悪い報告ではないと……信じたい。

 

「あー、うん、悪いなシュペーちょっとだけ待ってくれ。今から着替えるからね」

 

「その、休暇なのに突然やってきた私も悪いし、もしダメなら今日は……」

 

「いや大丈夫!大丈夫だから!数分待ってくれ!」

 

 申し訳なさそうな声に罪悪感が湧きつつも、シュペーを出迎える為に慌てて寝巻きをクローゼットの中にぶち込んで私服に着替え出す。幸いなことに部屋はマンジュウによる定期的な掃除で清潔感が保たれている。もしマンジュウがいなければ……考えたくもないな。

 

 数分後、慌てて私服に着替えると部屋の隅々まで最終チェック。見られて困るものは無し、お湯を沸かしてインスタントであるが飲み物の用意も良し、来客用に予めストックしていたクッキーも良し…全て万事問題無し、と。

 

 準備が終わり恐る恐るドアを開くといつも通りの服装とその小柄な見た目と比べればアンバランスとも言える巨大な義手を身につけたシュペーがちょこんとドアの前に立っていた。休暇中でもその腕を身につけてるのか?と少し疑問に思いつつもシュペーに用意が出来たと出迎える。

 

 

「その……お邪魔します」

 

「気にしなくてもいいよ。あっ飲み物は何がいい?コーヒー、ココア、ミルク、ジュース。後は紅茶に重桜のリョクチャなんかもあるけど? 」

 

 遠慮がちに用意された椅子に座ったシュペーの前のテーブルにクッキーを取り出しながらそう伝えると首を横に振りながら慌てるシュペー。

 

 

「い、いや悪いよ指揮官…」

 

「いや客人に飲み物の一つでも出さない方が悪いだろ?なんなら俺のわがままだと思って…ね?」

 

「……じゃあコーヒーで」

 

 

 やっぱりかぁ、個人としてはコーヒーは好きではないけど一応常備しておいてよかったとコーヒーの準備に取り掛かる。

 

 鉄血国民は毎日のように砂糖もミルクも入れないブラックなコーヒーを飲んでいるが、俺はどうも昔からアレが好きになれない。苦い汁なんて誰が好き好んで飲むんだ?と子供の頃に親に伝えると、いつかこの味がわかる日が来ると教えられたが今もその良さは分からない。

 

 おかげでプライベートではミルクココアばかり飲んでいるが、仕事付き合いではそんな訳にもいかず……俺の味覚がお子様なのだろうか?と考えてしまうも、10歳ほどの子供であってもコーヒーを喜んで飲んでいる姿を見ると分からない……文化が違う!となってしまう。いや文化的には鉄血ではこれが普通なんだろうけどね。

 

 カップにインスタントコーヒー粉をいれてお湯を……少しだけ悪戯心が芽生えて手を加えつつ自分の分も含めて二つ用意。満足して貰えれば幸いとは言え果たしてどうなるやら。

 

 

 シュペーにコーヒーを持てなすと、彼女はありがとうと呟き、器用に大きな義腕を使って爪部分でコーヒーを掴み、大したものだと関心しながら内心ニヤニヤを抑え込みつつシュペーの反応を予想しつつ口元を見つめると。

 

 

「ありがとう指揮官……っ…甘……!?」

 

 

 無警戒に口に含んだ瞬間、味蕾から脳を刺激する余りの甘さに目を開いて驚くシュペー。それ程砂糖は入れてないつもりだったが、ブラックコーヒーだと思って飲んだのだから予想外だったはずだ。そんなシュペーにイタズラ成功と微笑みながら種明かし。

 

「サディア風のエスプレッソだよ。まぁ実際には色々と工程が必要だからあくまでサディア「風」だけどね。好きなんだこれ」

 

「そ、そうなんだ……えっと、指揮官、砂糖多過ぎない?」

 

「そうか?サディアではこれくらい珍しくないよ?」

 

 そう言いながら自分のエスプレッソには砂糖をドバドバ投入しつつ一気に口に含む。コーヒーの風味なんて台無しで人によっては怒られそうだが、これはこれで美味しいもんだ。

 

 

「でも、ごめんな。一応ブラックも用意してあるけど飲んでみるかい? 」

 

「いや、ちょっとびっくりしただけだから……美味しいよ指揮官」

 

 そう言いながら微笑んでくれるシュペーはやっぱり優しいな……なんて思いつつそろそろ本題に移るためにもう一口コーヒーを口に含む。

 

 

「でも珍しいな。シュペーが来てくれるなんん……て……」

 

「……?どうしたの指揮官?」

 

「い、いやなんでもない!気にしないでくれ!」

 

 本題に入ろうと口を開こうとした途端にある事実に気が付いてしまい、一瞬言葉が途切れた事を言い訳しながら俺は気がついてしまった。

 

 

 ……あれ?これ人生初の家族以外の女の子を部屋に連れ込んだ状況なのでは?と。

 

 

 そう気が付いた瞬間思わず自分でも分かる程に頬が自然に熱くなる。思えばkansenは女性ばかりだが、基本的に自分が出会った鉄血の皆は美少女、美女ばかり。シュペーもそれは例外ではなく、そんな女の子が部屋に来るなんて……その……意識してしまい。

 

 仮にも優しいシュペーにそんな不埒な真似を考えてはいけないと軽く深呼吸して心を落ち着かせる。そうだイーグルの尋問だって同じような状況だったじゃないか。だから気にしないで良いんだうん……うん!

 

「ま、まぁそれはさておき珍しいねシュペー?何か相談事でも悩みでもあるのかい? 」

 

 必死で感情を表に出さずにシュペーにそう伝えてみせる。マンジュウが用意してくれるとは言えコーヒーくらいならいつでも出せるし、何か相談事があるのなら仕事上だろうがプライベートだろうがシュペーの力になりたいのは事実。そう思いながらシュペーの返答を待っていると。

 

 

「……えっ?俺のことが知りたい? 」

 

 

「うん……その、そう言えば私たちも指揮官の事はよく知らないってヒッパーちゃんと話題になって」

 

 まさかの返答に少しだけ困惑しつつも詳しく聞くと、ある日ヒッパーと会話中にそう言えば指揮官の性格は知っていても指揮官自身の事は詳しくは知らない。なんて話題になったそうだ。

 

 グラーフに聞いても指揮官の個人情報ならある程度であれば知っているが、機密として教えて貰えずにいっそ指揮官に直接聞いてみろ、なんて言われたそうな。

 

「えっと、親睦を深める為なんだけど迷惑かな?」

 

「いや別に?ただ面白くも何とも無いと思うぞ。別に貴族でもなければ貧乏でもないごく一般的な家庭なんだから」

 

 別に隠している訳でもないのだから同じ艦隊のシュペーならある程度話しても許されるはず。とは言え指揮官として選ばれた事以上に波瀾万丈な人生だったのはつい最近のこの一ヶ月くらいで後は誰かに聞かれて面白いと思えるような人生は歩んでいないと断言出来る。

 

 本当に良くあるごく一般的な家庭で生まれであり、セイレーンに襲われる事もなく、家族との仲もごく普通に良好。貧乏でもなければ金待ちでもない家庭で15歳まで育った後は指揮官として家を離れた後も特に珍しいイベントに遭遇した事も俺の知る限りでは微塵もなかった。

 

「構わないよ。私が、指揮官の事を知りたいんだもの」

 

 

 ただ……女の子にここまで言われて流石に何も話さない訳にはいかない。わかった何でも聞いてくれ、でも本当につまらないと思うぞと答えるとシュペーは構わないと言ってくれたので、コーヒーを口に含みつつも、ポツポツと少しずつ話してみる。

 

 ーー故郷のフランクフルトの事を。夕方はマイン川に夕日が写って綺麗なんだ。

 

 ーー巨大なフランクフルトの聖堂の事も。しかし俺はアイリス人と違ってそこまで信心深く無いからあまり行ったことは無かったかな。

 

 ーー料理のことを。好きな料理は甘いもの、特に故郷ではクリスマスになると町中色鮮やかに彩られて甘いものが沢山買えるんだ。嫌いなものは辛かったり、苦い物だ。お子様舌だって良く言われるよ。

 

 

 シュペーは時折質問をしながらも真剣な顔で話を聞いてくれるが、同時に故郷が懐かしくなる。15歳で家を離れるまではごく一般的な家庭ではあったがフランクフルトはセイレーンの襲撃を受けておらず、後々知った凄惨なセイレーンに襲われた村や町の惨状を見ると本当に自分は恵まれていたんだなと感じてしまう。

 

 2人でエスプレッソを飲み、時折クッキーを摘んで過ごす穏やかな時間。こんなに優しい時間を過ごせたのは久々で……心地よいと感じる自分がそこに居た。

 

 シュペーと俺がほぼ同時にエスプレッソを飲み終え、再び温度計を片手に追加の準備をしていると後ろから彼女がまた話しかけてくる。

 

 

 

「そういえば指揮官って一般的な家庭って言ってるけど……例えばお姉ちゃんはいたりするの?」

 

「あぁ……いた、よ。妹のほうだけどね」

 

 エスプレッソに砂糖を入れながら用意しながら本当に色々あったなと懐かしく思えてくる。故郷を思って思わず望郷の想いに包まれてながら振り返るとシュペーは何故か不安そうな顔で俺を見つめていて……

 

「その、指揮官……いたっていうのは」

 

 あっやばい、言い方的にこれは勘違いを招いたなと反省して急いで訂正する。

 

「あぁ、ごめんな。そう言う意味じゃ無いんだ。両親は2人とも生きているし妹だって生きてはいるんだけど……」

 

「けど?」

 

「ちょっとな……俺が指揮官に選抜された頃に熱烈なサディアの人と恋に落ちてなぁ。今は向こうに住んでるんだ」

 

 

 

 完成したエスプレッソをシュペーに渡しつつ、椅子にすわって自身のエスプレッソをじっと見つめる。

 

「このエスプレッソもそのサディアの人、まぁ妹の旦那さんから教えてもらったんだ。一度くらい妹に会いにサディアに行きたいけどこのご時世だし、俺も指揮官だからね。」

 

 そう言いながら再び立ち上がり、机にしまった封筒から写真を取り出してシュペーに見せつける。そこにはサディアの風景写真が何枚かあって猫が眠たそうにしてる可愛いものから、サディアの観光名所に、夕日の港など……

 

 これは数少ない俺の私物だ。指揮官の卵として教育を受けている時も、半年に一度程こうやって妹から手紙と写真が送られてくる。時期的にはそろそろ手紙がまた届くだろうか?なんて思いつつシュペーはじっと写真を眺めて一言。

 

 

「その、寂しくないの?」

 

「んー、そりゃ少しは寂しかったりするよ?」

 

 ずっと俺にとって妹は可愛い存在だった。小さな頃から後ろにトテトテと付いてきて、兄さん兄さんと若干ウザくなるくらいには構ってくる妹。

 

 時には喧嘩こそしたが基本的に仲は良好で、キューブ適正があると判明した時は自分の事のように祝い、応援してくれて。結婚の時だって親よりも先に真っ先に俺に伝えてくれた。我ながらシスコンだなと思う反面、そんな妹が海外にいって寂しいはずがない。

 

 でも……

 

「あいつが……ローネが選択した事なんだ。好きな人を追いかけて未成年なのに覚悟を決めて単身サディアに行くんだぞ?俺なんかより本当に勇気ある奴だよ」

 

「んっ未成年って……年齢は?」

 

「今は16。旦那さんが18で向こうにいったのは2年前だから14歳だな」

 

 

 シュペーは驚いた様子だが、そりゃそうだろう。結婚可能年齢は鉄血やサディアでは16歳とはいえ、政略結婚でもなければそんなに若く結婚する事は珍しい。ましてや妹は14歳で海外にいったんだ。普通はその若さに驚いても仕方ない。

 

「その、怒られなかったの?」

 

「そりゃもう父親は怒ったさ。母親は旦那さんには優しかったけど、それでもセイレーンも海に跋扈してるこのご時世。そう簡単に14歳の可愛い娘を外国に送れないよ」

 

 それが、親として普通だ。父親は当然騙されているんじゃないか?そうでなくてもなんでこんなに早く結婚するんだと妹を責め、母親も年齢やサディアに行くことに強く反対する。幸いどちらも妹の旦那さんを殴るような事は無かったが、それでも顔を合わせる毎に辛そうにしていた2人の姿は忘れられない。

 

「指揮官は……」

 

「俺か?もう全面的に認めたよ。当時は留学生だった旦那さんとじっくり話をすると本当に情熱的に妹を愛してくれていてな……もう可愛い妹の為に一肌脱いでやる!ってなって、軍で休暇をまとめて取らせてもらって俺も家族を説得して……」

 

 大変だったなぁ……あの時は父親に妹の結婚相手くらい自分で選ばせろだの、もし反対しても俺が2人にサディア行きの金出すんだからと数日間の怒鳴り合い。

 

 それでも、毎日辛くて泣きそうな妹と、そんな状態でも最後までずっと誠実でいてくれた旦那さんを見ると俺も頑張らなくてはと、全部俺に任せろと2人をホテルに詰め込んで、久々の故郷でずっと家で説得を行い、最後は家族会議でようやく両親2人の説得に成功した。

 

 とはいえ今も完全にわだかまりは解消しておらず、セイレーンの事を抜きにしても妹は気不味くて鉄血に帰る事も難しいだろう。それでもやっと妹は幸せを掴み、今はサディアで静かに主婦として暮らしている。

 

「寂しい。サディアに行って2人の様子を確認したい。写真だけじゃ満足できないのも嘘じゃない。でもね……」

 

 ゆっくりと、エスプレッソを口の中に含み、その甘さを堪能する。サディア生まれの旦那さんに教えてもらったエスプレッソ。今頃妹も旦那さんもこのエスプレッソを飲んでいるのだろうか?と少し微笑みつつ。

 

 

「結婚したのも、向こうに行くのも、あいつが。ツィトローネが決めた彼女の道だから……少なくとも俺は応援したいし……それに、兄妹って繋がりってのは消えた訳じゃないからね」

 

 サディアに行くと最初に聞いた時は驚いた。

 

 後悔はしないか?学んだセイレーンの脅威を語り、何かあった時に家族はお前を助けられないんだぞと言った。

 

 それでも妹の意思は固く、旦那さんも彼女を愛してくれるなら俺がやるべき事は一つだって思ったわけで。

 

 こうして半年に一度送られてくる手紙と写真を見ると、あぁ疎遠にならず兄妹としての繋がりは今も残っているんだなと感じられて。

 

 だから俺はサディアが好きなんだ。妹が選んだ国が。そして妹の第二の故郷になってくれたあの国が。

 

 ……なんか青臭いな?と我ながら思いシュペーを見るとシュペーはふふっと笑っていて。その笑顔は今までみたシュペーの表情の中でも特にドキッとしてしまう程魅力的に思ってしまう。

 

「ちょっと羨ましいな……良いお兄ちゃんだね」

 

「ははっ、可愛い妹のためなら一肌脱ぐよ。それが兄貴の役目なんだから」

 

 

 優しい時間が過ぎていく。エスプレッソが余計に甘く感じる。同時に微笑むシュペーが更に魅力的に……いかんな、空気を変えなくてはとコホンと咳払い。

 

「まぁ、ぶっちゃけると妹が先に結婚したのは別の意味でショックだったけどね。あのバカ、ヴァイス兄さんより先に結婚したんだもんねー!って今じゃ煽ってくるんだよ」

 

 全く、ローネの結婚が早過ぎるのは事実だし俺だって20何だからまだ若いんだ。きっと出会いの一つや……一つくらいあるはずと信じたい。

 

 

 

「結婚か……」

 

 シュペーは羨ましそうに呟く。kansenであっても彼女は女の子であり結婚願望だってあるのだろう。事実kansenと人間が結婚した事例も極小数ではあるが存在している。とはいえ個人情報の観点からそれ以上の事は詳しくは知らないが、この長い戦乱の最中兵器ではなく人として幸せを掴んだkansenもいるのだ。

 

「指揮官は結婚したいとは思わないの?

 

「んー?こういうのは縁が大事っていうけどね、まぁ青春時代全て軍に捧げたんだ。そういう出会いも無かったし、出来ればしたいなーとは思うけど今は自分の事で精一杯だよ」

 

 結婚願望が無いわけじゃないし、下世話な話だが俺だって人並みの性欲はある。好きな人と『そういう事』だってしてみたい。妹の幸せそうな様子を見てると結婚も悪くないとは思うが……こういう事は気長に考えれば良いと今は思っておこう。決して出会いがない事も積極的に恋愛しようとしていなかった事を誤魔化している訳ではない、ないんだ。

 

 

「それでもきっと、指揮官ならいい人見つかるよ。例えば……私とか?」

 

 ぶほぉ!!

 

 シュペーの爆弾発言にエスプレッソを思い切り吹き出す。咄嗟の判断でシュペーは幸い無事だったとはいえ、それでも床は汚れてしまった。

 

「ふふっ、冗談だよ指揮官」

 

 心臓を左手で押さえつけながらむせているとマフラー越しからイタズラ成功と言わんばかりに笑顔になるシュペー、な、なんだ冗談か。

 

「し、心臓に悪いから辞めてくれ! 」

 

「えっ、そんなに私が嫌なの? 」

 

「い、いや!決してシュペーが嫌って訳では誓って……おいシュペーまた揶揄ってるな? 」

 

「あっバレた? 」

 

 舌をペロリと出してころころと笑うシュペー。出会った頃は物静かな女の子であり、しばらく経つと天使の様な優しい女の子だと思ってはいたが、思わぬ側面を意外に感じる。

 

 そ、そうだ冗談。冗談なんだ……それでも頬は今も暑くなってしまい誤魔化そうとポーカーフェイスになろうとしても難しい。こんな童貞感丸出しの滑稽な自分を見て、ただでさえ少ない威厳が最早地の底まで落ちてしまっただろう。

 

「ふふっ、でも……きっと見つかるよ。指揮官の事を好きになってくれる女性も、指揮官が好きになる女性も」

 

「それはからかってるのか?」

 

「ご想像に……じゃなくてこればっかりは本気だよ。指揮官」

 

シュペーはエスプレッソに口をつける。

 

「妹さんの為にそんなに頑張ってたんだもん。指揮官だってきっと理解ある女性が傍らにできるって私は思うな」

 

「……うん、嬉しいけどこれ以上その話は辞めてくれ。他なら答えるがちょっと刺激が強い」

 

「分かった。じゃあお礼に今度は私の事も話すね。例えば姉のドイッチュラントが……」

 

 

 

 その後はシュペーの姉であるシスコン気味なドイッチュラントの話題や、再び自身の故郷の事。教えてもらったサディアの事などについて話し合い、エスプレッソを三杯も飲んだ頃にはいつのまにか窓はオレンジ色に染まっており、また話そうとシュペーと解散した。

 

「またね指揮官。今度はじゃあこの基地で指揮官がお嫁さんにするなら誰が一番とか……」

 

「やめてシュペー、本当にやめてくれ。俺泣くぞ?そんな話しろってなると俺みっともなくシュペーの目の前で泣くぞ?」

 

「冗談、冗談。ただ……楽しかったのは本当だから、また一緒に話そうね。バイバイ指揮官」

 

 こうして、軽く巨大な義手を振りながら廊下越しにシュペーは消えていく。少なくても今回の一件でシュペーとの距離は縮まった事は嬉しい限りだ。

 

 

 しかし結婚……結婚かぁ。

 

 

 正直想像もできない。でももし良い出会いに恵まれて、俺が結婚出来るのであれば。

 

 

「妹みたいな相思相愛で愛し合えて………支えあえるような関係がいいな……あとおっぱいもそこそこあるといいが」

 

 なんて思いつつ、今日は久々に妹に手紙でも書くかと便箋を取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




・右手側にはヒッパーが、左手側には講師であり主に大講堂の管理を担当する軽巡ケルンさんがこぼれてしまったジュースまみれになっており、そんな二人のお山を俺は押し倒した挙句、両手で揉みしだいていて……

裏話にて今回のエピソードについて軽く触れていきます、もしよろしければご覧下さいませ。

・エスプレッソ風
インスタントコーヒーを60度のお湯を少しずつ入れて撹拌、砂糖を多めに底がジャリジャリする程入れれば完成です。とはいえ砂糖をかなり入れてしまうので某特別計画艦などは恐らく許せないものになるでしょうが。

・「ちょっとな……俺が指揮官に選抜された頃に熱烈なサディアの人と恋に落ちてなぁ。今は向こうに住んでるんだ」

第一話にて指揮官がビスマルクより親サディアな一面がありと称された理由はこれです。ダイスによって妹の設定が肉付けされて行きましたが、妹が選んだ国であり、妹の旦那さんから色々と聞いた結果指揮官は親サディアとなりましたが指揮官として忙しい為にサディアには一度も行ってないそうな。


・ツィトローネ
指揮官の妹。愛称はローネ
その意味はレモンであり花言葉は情熱、誠実な愛。
当初は2歳年上のサディア人留学生に猛烈なアタックをされて困惑したものの、直ぐに恋に落ち。兄であるヴァイス兄さんの後押しもあってどうにか両親を説得。今はサディアで主婦として2人仲良く暮らしています。ちなみに子供こそ居ないものの「そういう事」は当たり前のようで兄はその事でも時折煽られてしまっているそうな。

・この長い戦乱の最中兵器ではなく人として幸せを掴んだkansenもいるのだ。

kansenと人間は結ばれた例は世界中にありますが、その数はやはり少数であり詳しい事は軍事的、個人的な意味でも色々と情報は秘匿されているそうな。とはいえナニカサレタヨウダとはならず軍にデータを提供しつつも幸せに暮らしています。陣営代表であるビスマルクがそんなkansenの幸せも願っているのですから。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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