鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

17 / 144
第十四話 初デートの味はほろ苦く

 キール軍港。

 

 第一次セイレーン大戦にて人類種の敵であるセイレーンに対抗する為に鉄血が総力を上げて開発したこの街は、今では首都ベルリンや大都市フランクフルトに匹敵するのではないかと思える程に発展していた。

 

 大規模な軍事施設に、kansenの艤装研究や生産やセイレーン大戦以降人的被害を抑える為に作られた無人艦の生産を行うクラップ社。防衛に従事する軍人の為の各種施設など官民問わずに多くの人々が生活を送るこの都市がここまで発展したのは、公共事業を積極的に行いつつ、故郷を追われた鉄血国民に新たなる職場を提供する為に身を粉にして働いた公王陛下やビスマルクさん達のお陰とも言えるだろう。

 

 

 自分が所属するキール第三基地ではマンジュウに全ての作業を任せているので人の存在は忘れがちになるとはいえ、この街は鉄血海軍の関連施設が雇用を生み出しており、セイレーン大戦が落ち着いた頃にビスマルクさんが軍の強化と待遇改善目当ての施設拡充と職を失った人々を集めて斡旋。結果的にキールは軍事都市ではあるが民間人も多数存在する一大都市に発展していた。

 

 キールの街並みを改めて見渡せば、潮の香りが鼻腔をくすぐり、近場には漁港で漁師が新鮮な魚を毎日港に揚げており、レンガ作りの街には様々な商店が並んでいる。人の流れを見てみると民間人だけではなく鉄血の軍服に身を包んだ軍人も多く、中には休暇中のkansenらしき女性も見かけてこの基地が軍事都市である事を表しているかのようだ。今まではヒッパーと周りも気にせずに大講堂に向かっていた為、改めて人の多さに圧倒される。

 

「今までは気にしなかったけどさ、人間ってこんなにいたんだなー、最近マンジュウとグラーフ達としか会ってなかったからちょっと新鮮だね」

 

「……卿よ、少しは引き篭もる事を辞めて視野を広げろ。本当に今の今まで街を散策したことが無かったのか? 」

 

 思わず本音を言えばグラーフは呆れるようにため息を吐く。大講堂にはよく向かっているので引きこもってはないとはいえ、発展した街の中心部に向かうのは俺にとっては初めてであり、何もかもが珍しく感じてしまう。

 

 生活用品や食料品の販売施設だけではなく、実弾を使った射撃訓練場にサディア人らしき人が経営する食堂。中には元ロイヤル人、元重桜人が経営する店……流石にアズールレーン勢力圏の店は『バルト海海戦』以後は軍による抜き打ち調査が行われているそうだが、彼らの商魂の逞しさに感心する。

 

 

「わかってるよ。でも改めて街をこの目でみると、沢山の人々が住んでいて、この人たちを守るのが俺の仕事なんだなって、ね? 」

 

 

「その理念は敬意を表するが……仮にも今は男女間のデート中に感心出来んな。業務の話題を愚痴る事に関しては女性に好まれないと卿に伝えておこう」

 

「……気をつけます……」

 

 そう言いながらも俺にとっては幸いな事に、グラーフは口元に笑みを浮かべてマントを翻しながら街を見渡している。その姿は普段見慣れている軍服であり、話を聞くと「どうせスパイに身バレしているのなら、下手に変装するよりもプライベートな軍服でいい」との事。正直な話グラーフの私服には興味があったので少し残念だ。

 

 デートのエスコートと言いながらもグラーフは俺の恋人ではない。かといって親しい友人でもなければ上司でもあり、部下でもある複雑な関係で敢えて言うなら彼女との関係は戦友という言葉が一番近いだろう。

 

 戦友相手の距離感は何処まで詰めるべきなのだろうか?キスや手を繋ぐ事は論外ではあるし、かといってあまり距離感を詰めないのも問題だろう。グラーフに楽しんで欲しいと思う気持ちもあれば、俺だって初デートなんだから成功してめいっぱい楽しみたいと思う気持ちはある。だが、何をすればいいのか分からないんだ。

 

 一瞬だけ、目に写ったラブホテルらしき施設から全力で目を逸らしながら今後の予定を考える。やはりぶらぶらと探索しているだけではグラーフも楽しめないわけで……何処かの店内に入って物色する事がデートらしい行動なのだろうか?

 

 

 

 なら、失態を挽回する為に何処に向かおうか?こう言う時に妹に女性が喜ぶ店について聞いておけば良かったと思うが今更どうしようも無い。そもそも妹とクールビューティーの体現した様な産まれもっての軍人であるグラーフとの趣味が同じとは考えられず、いずれにせよ頼れるのは自分の頭のみ。

 

 比較的楽な選択肢とも言えるランチまでにはまだ時間は少し早い。いっそグラーフに何処に行きたいか?と聞いてみるのも手だが、エスコート役としてはそれは最終手段だ。

 

(さてさてどうしようか……)

 

 そう思いながら粉屋、肉屋、靴屋とアレでもないこれでもないと街中を見渡せば、ふと目に付いたのは窓越しから女性客が複数人確認出来る小物店だった。店の外はレッドアクシズカラーである赤と黒を基調にしたものとなっており、窓越しからでもネックレスやイヤリングと言ったものが販売されていることが分かる。

 

 

「ほう、中々面白そうな店じゃないか」

 

 

 迷いながら「あの店なんかどうかな?」なんてグラーフに話しかけようとすると、その前に彼女はそう言い出す。先を越されてしまった事に関しては申し訳なく思うが、グラーフにもアクセサリー関連に興味があるのだろうか?彼女は窓から商品を眺めながらじっと店内をうかがっていた。

 

「じゃあこの店にしようか……デート記念に何かグラーフにプレゼントでもいいかな? 」

 

「すまないな卿。遠慮なく受け取らせて貰おう」

 

 何気なくデート記念にと口にするも、あっさりと否定もせずに了承してくれるグラーフ。これでランチまでの間楽しめる店を見つけ出す事に成功したが……改めて、恋人の様なやり取りに少しだけ頬が熱くなる。緊張で手に伝う汗をコートで拭いながら俺達二人は並んで店内に入っていく。

 

 

 店内に入るとアロマの香りが鼻腔をくすぐり、見渡す限り若い女性、妙齢の女性、年老いた女性と正に女性ばかりの店内だ。この様な店に慣れていない事もあり、まるで異世界に入り込んだかの様な錯覚に襲われてしまう。恐らくグラーフと二人でなければ、俺はこの様な店に入ることは一生なかったはずだ。

 

 グラーフと二人きりであるのとは別の緊張に襲われつつも中を見渡せば、清潔感のある店内では小物だけではなく日用品なども売っており、チラリと女性客の手提げカゴに視線を移すとシャンプーや化粧品を購入していた。

 

 小物店と言うよりは女性向けの雑貨店か。こういう店は妹のローネであればよく行ってたかも知れないけど、自分は初めてで少し新鮮に思えてくる。同時に女性客や店員からの生暖かな視線をどうしても感じてしまい、もし自惚れで無ければ俺とグラーフを恋人同士か何かだと勘違いされているはずだ。軍人とその従者か何かだと思われてる可能性は頭からあえて除外する。

 

 

 

 さて、やはりデートである以上男としては彼女に何かプレゼントを送らなければ。男女の関係で無くても普段から世話になっているグラーフ個人への(ピュリファイヤーは除外するとして)人生初の家族以外で男女間で贈るべきプレゼントは何にするべきだろうか?家族以外の女性にプレゼントを渡した事はプライベートでは皆無。センスがない、ダサいとグラーフに思われない様に脳をフル回転。とりあえず目に写るものを把握しよう。

 

 

 

 

 

・エッチな下着

 

 

・重桜風うさ耳

 

 

・バナナの様な形のアレ

 

 

・ローション

 

 

・アフターピル

 

 

 

 

 うん!場所悪いわ!移動しようか!!!

 

 

 

 これらを一つでも送れば間違いなく、グラーフからの評価はゴミクズ同然になるだろう。急いで視線を外して、グラーフの横顔を見つめながら、二人で見回るとグラーフも中々興味深いなと呟いている。

 

 

「こう言う店、グラーフは初めてなのかな? 」

 

「この店ではないが無理やりヒッパーの妹に連れてこられた事ならある。あの時は着せ替え人形の如く様々な服を着せられてな……」

 

 何かトラウマでも刺激したのかグラーフは苦々しい顔になる。その目線の先には童話、不思議の国のアリスの主人公のコスプレ服があって……

 

「いっておくが卿が我へのプレゼントにあの様な代物を用意すれば……我の軍事、政治全ての権限を使って卿の基地司令の地位を解任させよう」

 

「……何があったんだ? 」

 

「聞くな。聞かないでくれ……頼む卿」

 

 

 何があったのかは謎とはいえ余り良い思い出では無い事だけは確かだ。一瞬だけアリスの服を睨みつけて別の品物に目をやるグラーフ。彼女はいわゆるクールビューティだが、結構感情は表にだすので分かりやすい。

 

 寝不足であれば髪はボサボサになり、戦闘では交戦的になる。楽しい時は微笑を浮かべて、海戦時には獰猛な猛禽類の様な凄惨な笑みを浮かべて敵を追い詰める。そして今の様に苦々しい顔を見せる時もあり、内面は感情豊かな女性である事が理解できる。

 

「ネズミ除けマットか……出るとは思わないが、一応後で購入して置こう」

 

「そう言えば来客用のストローは……砂糖とミルクも……」

 

「コーヒー豆は饅頭に用意させるので良いとして、他には……」

 

 とはいえ少なくても今彼女は微笑を浮かべながら、ポケットから取り出したメモ帳にペンを走らせており、偶然入った店とはいえ楽しんでいる様で何よりだ。とは言えこのままではグラーフがひたすら日用品を取り寄せるだけで終わってしまう。

 

 

 日用品に夢中なグラーフを放置しつつアクセサリーのコーナーに目をやると、イヤリング、ネックレス、指輪が綺麗に陳列しており、値札を見てもリーズナブルな値段となっており、手持ち無沙汰にアクセサリーを眺めてみる。

 

 やはりプレゼントであればアクセサリーが無難だろうか?そう言えば妹も旦那さんにプレゼントを貰って喜んでいたなと遠い記憶に浸りながら、何気なく一つのネックレスを手に取って見る。

 

 

 色合いはシルバーとなっており中央には鷹の刻印が刻まれた真珠。恐らくグラーフが身に付けても違和感もなく似合うはずだ、可愛い系のアクセサリーであれば彼女も良い顔はしないだろうが、これなら悪くないかも知れないな……もう少し選んでみるべきかも知れないが、自分の直感を信じて見るか。

 

 

「グラーフさん、グラーフさんや? 」

 

「?」

 

「このネックレスとか似合うんじゃないかなーって思うんだけど、ちょっと付けてくれないかな?サプライズで購入してから渡してガッカリされるよりは、グラーフの評価が欲しくてね」

 

 

 日用品から視線を逸らして俺が手に取るネックレスを見つめるグラーフ、個人的には悪くない選択肢だとは思うがグラーフの好みに合うのだろうか?鉄血公国では勇猛な鳥扱いされている鷹の意匠といい、空母である彼女にはピッタリだとは思うが。

 

 緊張の一瞬、果たして人生初の女性向けのプレゼントは受け取ってもらえるのやら。

 

「むっ……確かに悪くはない、悪くはないが……その、これを卿から受け取るのは少々時が早過ぎるかもしれないな? 」

 

「ダメ……ダメかぁ」

 

「いや、卿のセンスは認めよう。だがな……」

 

 ダメだったか。渋い顔と言うよりは複雑そうな表情を見せるグラーフ。ある程度親しくはなったとは言え、そういう代物を渡すのはまだ少し距離が縮められていないというか……

 

 

 いや冷静に考えれば家族や恋人でもない仕事の同僚から、指輪程ではないとは言えネックレス渡されるって色々な意味で反応に困るか。仮に彼女がこのネックレスを身につけて同僚の幹部からこれの入手経路を聞かれれば、恋人からのプレゼントか何かだと勘違いされかねない為に、答えにくいはずだ。

 

 

 とはいえ、じゃあ代わりのいい感じのものをと見渡すも、一度違うと言われると、こう……何を選べばいいのかわからなくなるわけで。いっそグラーフが婚約者や馬鹿な事を話し合える同性の友人であればここまで迷う事は……俺達の上司であり部下とも言える複雑な関係の難しさにもどかしさを感じてしまう。

 

 

 結局悩んだ挙句、暫くすると二人で店を出たのだが俺は何も選ぶ事は出来なかった。グラーフは色々と日用品を取り寄せたようだが、申し訳なさに罪悪感を感じてしまう。

 

 男は女性とのデートで毎回こうやって悩みながら胃痛に耐えているのだろうか?世間一般ではデートは楽しいものだとなっているが、改めて自分の恋愛関係の知識の無さにため息を吐きたくなる。

 

 

「……やっぱプレゼントを選ぶのは難しいな……時間だけ使わせてごめんな」

 

「何、こういう事もある。気にはせんよ。それに卿が適当ではなく、真面目に我の為に商品を見た上で悩んで選択しようとしてくれた。その気持ちは伝わって来たのだから」

 

……気を遣わせてるな。女性にフォローされるのはやはり情けなく思えて来てしまう。というかグラーフは気にしないと言ってくれてるとはいえ、心なしか少しだけしょんぼりしてるようで。

 

「次までには、次の機会はもう少し良いものを選べるように考えておくよ」

 

「ほう……ならば期待はさせて貰っておくぞ」

 

 次こそはと覚悟を決めて謝罪をすると、一瞬だけ惚けた様な表情になりながら、次の瞬間面白そうに、ニヤリとグラーフは笑みを浮かべていた。

 

 ……あっこれ自然に2回目のデートに誘ったことになるのかな?でもまぁグラーフも嫌でなければ……再戦の時は妹に手紙を出して色々と準備だけは怠るまいと心に誓ってみせる。デートは始まる前から兵站と準備と知識によって左右される、恋は戦争ともいうがデートでそれが当てはまるのなら、準備を今度こそ整えて次こそはグラーフに満足してもらえる様にしなければ。

 

 ふと、腕時計を見ると時刻は丁度12時辺りか。直接的なプレゼントはできなかったがランチくらいはせめてグラーフに喜んで貰える様にしなければ。

 

「じゃあ何か食べに行こうか?せめて飯くらいは奢ーー」

 

 その瞬間ピピッとグラーフのポケットから小さな音が鳴り響く。少し待ってくれと言われ、急いで路地裏にグラーフは移動して何かの通信を行なっていた。あれは俺も持っている軍の小型通信機……海上では使用不可能ではあるが数キロ程度で有れば本部にも連絡が可能な代物だ。彼女に何かあったんだろうか?

 

 時間としては3分くらいだ。路地裏から戻ってきたグラーフは厳しい表情……いや寧ろ気怠げかつ、不機嫌そうに通信機をポケットに乱暴に押し込むと腕を組んで近くの壁に寄りかかる。

 

「グラーフ? 」

 

「……悪いがデートはここまでだ。少々クラップの馬鹿が騒いでいてな……」

 

 

 ……めちゃくちゃ嫌そうな顔で民間人に聞こえない様に声を潜めて彼女は話し出す。何でも『バルト海海戦』で捕虜になったイーグルが装備していたユニオン製の艦載機F4Uコルセア。鹵獲したそれを鉄血のkansenの装備を研究、製造しているクラップ社がコピー生産に成功したらしく、今すぐテストしてくれと言わんばかりに血走った目で役員や技術者が押しかけているそうな。

 

「我は今から本部に向かう。恐らく何事も無ければ夕方までには帰宅出来るとは思うが……全く、デートの途中で個人的都合から抜け出す羽目になるとは……ユニオンのオモチャを与えられて休日と平日の概念を忘れたのかあの馬鹿共が……本当にすまないな卿」

 

 

 クラップ社の技術者達に呪詛の言葉を吐きながら、頭を下げるグラーフ。ある程度ビスマルクさんは皆の休日の時間を確保しようとしてくれてるらしいとは言え、鉄血の幹部は多忙を極めている。こればかりは彼女の責任ではないのだから慌てて謝罪しなくても良いと慰めるが……結局このまま現地解散となってしまった。

 

 ……人生初のデートは失敗か。結局プレゼントは贈れず、一緒にランチを取ることも出来ず、本人にとっても初デートらしいグラーフに記憶に苦い思い出を刻みつけただけじゃねぇか、はっはっ……はぁ。

 

「卿」

 

 気分が嫌でも沈んでしまい、せめてランチで挽回できればな……と残念に思っているとグラーフは俺の肩に手をやり、まっすぐとその赤い瞳で見つめてくる。

 

「今日は楽しかった。これは我の本心だ……少なくても、卿とこれからも個人的な親交を深めたいと思ったのは真実。我は卿を個人としてもっと詳しく知りたくなってしまった」

 

「えっいや…その…」

 

「卿の食の好みは?卿の趣味は?卿に関する事をもっと知りたい……短い時間ではあったが我は……楽しかった」

 

 思わずしどろもどろになる俺に再びニヤリと笑うと、マントを翻して彼女は背を向けて歩き出す。その表情は本心から楽しそうで……見間違えでなければ少しだけ、頬を桃色に染めていて。

 

「また、デートしよう。そしてもっと卿について教えてくれ……ふふふっ、ネックレス。中々良いセンスだったぞ」

 

 そう言いながら俺が返答する間もなく、彼女は人混みの波に向かい、やがて俺の視界から消えていった。

 

 

 

 グラーフなりに合格点を与えてくれたのかな?なら……彼女が楽しんでくれていたのなら、よかった。そして俺と更に仲を深めたいと言ってくれたのはあくまでラブではなく、ライクな意味だと分かっていても、顔が熱くなり、少しだけニヤニヤが止まらないのは仕方ない事なんだろう。

 

 女の子って難しいな、でも……今度こそグラーフに喜んで貰えるようにしよう。そう心に決めると残りの休日はせめて、楽しもう。そして次回のデートの糧にしようとゆっくりと歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて……どうしようか。グラーフと別れて一人になってしまった。まぁ元から一人で出かけようとしてたとはいえ、改めてなにか無いかと街の探索を再開する。仕方ない取り敢えず何か食べようかな?と暫くぶらついて見ると

 

 

「げっ」

 

 まるでカエルが踏み潰れたかの様な声が自然と喉から漏れてしまった。

 

 正面から歩いてくるのは銀髪の美人な女性が二人。鷹の勲章を軍帽に輝き、親しそうに和気藹々と話しながらゆっくりとこちらに向かってくる。

 

 その服装はどう見ても……少し前に一悶着があったケルンさんとほぼ同じデザインであって、恐らくあの二人はケルンさんの姉妹達なんだろう。

 

 

 

 休日だからそりゃねぇ!

 

 

 思わず頭を抱えて仕舞いたくなる。そもそも正直に言えば、今日一人で出歩こうとしたのも、大講堂で学ぶ時に胸を揉みしだいてしまったケルンさんと出会う気まずかったせいなので、今はケルンさんとばったり出会う事は避けておきたいからだ。

 

 

 

 そして、ケルンさんは間違いなく姉妹に俺の事を愚痴っているはずなので……目の前の二人からの俺の評価も最悪に近いだろう。私服とはいえ気づかれれば、お互いの精神衛生的に損しか無いはずだ。

 

 そう思うと彼女達に気が付かれない様、隠れる様に裏道へと歩を進める。流石に裏道に入ってくる事はないだろうと判断したが、案の定あの姉妹は俺に気がつかないで去っていく。

 

 なんとかやり過ごした事に安堵の息を吐きながら、なんで俺は休日なのに犯罪者のようなムーブを……と情け無くなってしまうが、またあの二人と顔を合わせない為に少し遠くに向かうべきだろうか?と悩んでいると。

 

 

「あれ……どこでしょうか? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りもない裏道の少し先、そこで銀色の髪に眼鏡をかけた女性が目を凝らして地面を見つめて何かを探している様だった。何か困ったように時折唸りながら少しだけ泣きそうな目で道路を見て回る女性。流石にこれを見て無視して放置するのも忍びないと思い、親切心から声をかける。

 

 

「どうかしましたか? 」

 

 

「えっあはははははい!?な、なんでしょうか!? 」

 

 

 

 後ろから唐突に話しかけたせいなのか慌てる女性。いや少し慌てすぎじゃないだろうか?冷や汗をダラダラと流して焦る様に片手を手にやり呼吸を整えている……あれもしやこの人、他人に見られてはいけないなにかやばいブツでも探してるんじゃないか?と一瞬だけ頭によぎるも決めつけは良くないと、落ち着かせる様に今度はゆっくりと話してみせる。

 

 

「あーいや、なんだか探し物をしてるようなので少しお手伝いでも」

 

「い、いえ!大丈夫です!多分すぐに見つかると思いますし連れも探してくれてますから! 」

 

 ……ちょっと尋常じゃない焦りっぷりだな。まるで探し物を俺に見られるのが困るかのようで眼鏡をかけた女性は首を高速でブンブンと振りながら拒否する。

 

 とは言えこれ以上しゃしゃり出るのも迷惑だろうが……しかし、なんだか少し怪しい程度で放置するのも可哀想だ。様子を見る限り本当に困ってるようなので……それに万が一禁止薬物か何かで有れば直ぐに軍に通信を入れなければならないと思い、更に問い詰める。

 

 

「お連れさんもいるのなら尚更早く探したほうがいいですし、俺も手伝えば早く終わりますよ? 」

 

「いえ!お気持ちだけで結構です!その……女の子の私物なので男性に見られるのは少し……」

 

……まぁそこまで言われるとあまり追求もできそうもないか。怪しいとはいえ、ここで追及し続けて万が一落としたものが女性の下着であった日には……見た限りでは薬物に手を出しそうな見た目や言動でもなく、困ってはいるがそこまで拒否されれば流石にそれ以上深く関わるのは不可能だろう。

 

 仕方ないと大人しく引き下がり、せめて警察に声をかけるべきだと指摘して立ち去ろうとすれば。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーその瞬間、背後に殺気を感じ、冷たい何かが背中に押し付けられた。

 

 

 

 

「……動くな」

 

 

 

 

 気づけば、これ……銃口かな?背後にピッタリとくっつかれながらも押し付けられており、耳元には冷徹な女性の声。人間、本当に死にかけて仕舞えば客観的に物事を捉えられる様になるというか、本来パニックになっても仕方ない絶体絶命の事態だというのに思考はクリアになっていた。

 

 ……恐らく、裏通りとはいえ他人からはまず見えない角度だ。助けを呼ぶのも不可能であり、あっこれは、してやられたかな?と自分の不運を呪いたくなる。襲撃者が指を少し動かせば俺の20年の人生が直ぐに終わりを迎えるのだと思えば一気に背筋が寒くなる。

 

 落ち着け……落ち着くんだ。恐らく最初から銃を突きつけてくる以上、余程のカードがなければもはや交渉は不可能だろう。今は生き残る事だけを考えなければ。

 

 あぁクソっ、今俺に何か有れば同胞想いの優しいグラーフの事だ、我の責任がどうとか死ぬ程気にするだろうな。シュペーもヒッパーも迷惑をかける事を思えば最悪の未来を考えると気が重くなる。

 

 取り敢えず今は反撃か、投降か、いっそ覚悟を決めて今から撃たれる覚悟叫んで人を呼ぼうか?と恐らく人生で最も長く思える数秒間に身を委ねていると。

 

「ああー待って待って、『シーフ』!その人は助けようと声をかけてきてくれただけだからー! 」

 

 

……目の前の慌てた女性の一言で、なんとか難を逃れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロだ。絶対クロだこいつら。

 

 

 少しして、俺達は小さな喫茶店でお茶を飲んでいた。眼鏡をかけた銀髪の女性「エラ」、先程銃を突きつけた小柄な金髪の女性「シーフ」と名乗り、お詫びの印にと二人に誘われて現在三人でお茶を飲んでいる。

 

 それと同時に俺は確信した、この二人は間違いなく真っ当な姉妹ではないという事を。

 

「……申し訳ございません、お姉様に不適を齎す輩かと、つい」

 

 

 紅茶を口に含んで再び頭を下げるシーフさん。つい、で銃殺されかけたのか俺?と思うが……まあ、声の掛け方が怪しすぎたのは否定できない。

 

 

「もう、ホントに危なっかしいんだから……ミュラーさん本当にごめんなさいね? 」

 

 

 同じく謝罪するエラさん。どうやら二人は完全に俺を民間人として勘違いしており、俺も鉄血では一般的な苗字を咄嗟に名乗って、「粉屋の一人息子ミュラー」として現在の状況に。

 

 まぁ普通は考えられないよなぁ!休暇中の鉄血の指揮官が二人の……恐らくロイヤルの関係者の前に現れるだなんて。

 

 

「結果的に美人なお二人とこうしてお茶が出来たわけですから役得ですよ。あっ支払いは私が持ちますよ、お二人とお茶出来ること自体が私にとっては嬉しいんですのでね! 」

 

「あらやだお上手ですね」

 

 

 はっはっはと笑いながらも牽制のジャブをしかけて二人をゆっくりと観察する。本気半分冗談半分で何処となく牽制し合うようなお茶会、相手はまだ俺が鉄血軍人と気が付いていないようだが怪しんでいる以上踏み込めない。

 

 相手がロイヤルのスパイであることに関する確証はない。しかし、店につくなり牽制として全員に紅茶をと店員に頼むと一瞬硬直しており、嗜好や動作から何処となく優雅さ?といったものが隠しきれなくて……俺の目が節穴でなければロイヤルのスパイの可能性が7割、残り3割で密売に手を出すマフィアの関係者か何かだろう。

 

 

 エラさんは最近物騒なので妹が銃を習って護身用に持ち込んでたんですよーと言ってはいるが、猟銃ならともかく鉄血でそう簡単に小型拳銃の持ち込みの許可を民間人が得られる訳ないだろう。恐らく無くしたものはロイヤル関係のものか何かで、しつこく食い下がっていた俺を怪しんでシーフさんは脅したのだろう。

 

 とは言えあんなに直前まで俺の背中に気配を消して接近した挙句、いくら軍事国家とはいえ法律で制限されてる拳銃を常に身につけて所有してる時点でロイヤル関係者でなくてもカタギではないと言ってるようなものだ。一般人なら誤魔化せても軍人としてみっちり教育をうけてる身としては見逃せない。

 

 

 その後は尋問にならない程度にメガネのエラさんに話しかけるも、即座にシーフさんがフォローする。それとなく自分達がロイヤルであると、鉄血の国民なら知っていて当然の事柄も含めて話題に出すも、どうやってもシーフさんはエラさんをフォローしており、完璧な鉄血人として振舞っている……そう、不自然なほどに完璧な鉄血出身者として。

 

 ……半分くらいは尻尾を掴めた気がするとはいえ確証はないか。このまま俺がトイレにでも向かって通信機で連絡してる最中にこの二人は間違いなく逃げると確証ができる。カメラの一つでも持ち込んでいればと後悔しつつも、なんとなく顔は覚えた。

 

 推定でロイヤル関係者らしいというのは理解したが、何を求めており、何が目的なのか?そしてスパイだとすればクラップ社を狙う産業スパイ?まさか軍施設まで調査しているんじゃないか?と和やかに二人と会話を楽しみ、笑いながらも、心の底では尻尾を掴んでやろうかと諦めずに警戒を緩めない。

 

 

 

 

 結局お互いに尻尾を出さないまま夕暮れとなり、辺りはオレンジ色に包まれてしまう。ギリギリまで粘ったがここいらが潮時だろう。全く気の休まらないお茶会を終えるとどうも二人はバスで帰るそうで……追跡は難しいか。このまま二人についていくのも不自然なので悔しいが今回は見逃すしかない。このまま捕まえてもいいが、ほぼクロとはいえ確定でクロではない上に、相手は銃をもっているのだから。

 

「ええ、今日はありがとうございました。嬢さん方みたいな子達と飲めたのは幸運でしたよ」

 

「本当に申し訳ありませんでした……次からはこんな事がない様に言っておきますからね!ほら、シーフも反省して! 」

 

「……申し訳ございませんでした」

 

 ペコリ、と頭を下げる二人と別れると。もはや尾行をしても怪しまれるだけだと再び裏通りに戻る。そして誰もいないことを確認してから本部に基地司令して通信を送ろうと、ポケットから小型の通信機を取り出すと。

 

『こちらキール第三基地司令。先程ロイヤルのスパイと思わしき二人と接触。銃を突きつけられるなど色々と面倒な事に巻き込まれかけましたが、どうにか平和裏に切り抜けました。今から本部に向かいモンタージュ写真を……』

 

 

 何故か通信越しからゴン!!と何かが投げつけられた音が聞こえるが、余りのショックにビスマルクさんが何か本でも落としたんだろう。

 

 結局今日は夕方どころか夜まで帰らずに休日出勤を行わなければいけない事に、ため息をつきつつ、せめて皆のお土産のために喫茶店でマフィンを複数注文しようと決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……はー……皆聞いてちょうだい、今日は間違いなく徹夜コースよ」

 

「「「りょーかい……」」」

 

「……すまない」

 




・シーフ、エラ
その正体はロイヤルメイド隊に所属するシェフィールドとエディンバラ、アニメと同じく彼女達は鉄血に潜入しており秘密裏に情報をロイヤルに送っていました。彼女達にはピュリファイヤーが指揮官達に語っていたロイヤルのスパイの一員であり、グラーフの情報は勿論知ってはいるのですが、指揮官の事を名前や顔まで徹底的に秘匿されている為に、喫茶店では民間人の「粉屋のミュラー」と思っており、最終的には怪しいと思う反面気がつきませんでした。まさか休暇中にロイヤルに泥を塗りつけた基地司令が自分達の前に現れるなんて漫画みたいな事を想像できるはずもありませんから…


シェフィの銃
メタ的に言えばダイスのファンブルの結果シェフィが銃を突きつけて脅す結果となったのですが、この世界の鉄血では市民の銃の携帯は自由、ないし史実よりも規制は緩い可能性があります。
と言うのも史実ドイツにおける本格的な銃規制はWW1敗北におけるベルサイユ条約後に作られたものであり、アズールレーン世界においてはWW1の時代は人類同士ではなく世界はセイレーンと戦い第一次セイレーン大戦が勃発しており、本来の歴史であれば崩壊している君主制が維持されている事から様々な面で史実と歴史や風俗やイデオロギーにも差があるでしょう。
とはいえ軍事国家となっている鉄血で市民の銃の形態がフリーというのも余りに(鉄血は公式設定でコミュニストである北方連合との関係は危ういとされており)危険と言うこともあり、本小説では厳しいルールはあるもの一般市民に於いても拳銃は携帯可能と言うことに。なのでシェフィールドが銃を持っているからといって銃刀法違反でしょっぴく事は不可能でした。
とはいえ銃を突きつけるのは鉄血に於いてもアウトなのは確実ですし、結果的に指揮官はシェフィールドの事をマフィア関係者かロイヤルのスパイのどちらかであると気がついてしまいましたが。



・「ふー……はー……皆聞いてちょうだい、今日は間違いなく徹夜コースよ」
結局指揮官はモンタージュ写真と軽い尋問を終えてすぐに帰れたとですが、グラーフ達が帰宅したのは深夜3時。その日鉄血の幹部のkansen達に改めてヘルブストの名前は知れ渡る事になるのでした。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。