俺は政治についてはよく分からない。
だからこそ軍人である自分は政治には関わらない、関わるべきでもなければ関わる気もないと言うのが俺の心情の一つだ。
現在人類種の敵であるセイレーンだけではなく、イデオロギーの違いからアズールレーン勢力圏の国家と戦争状態の祖国。個人の考えとしては毒を持って毒を制する。例え敵の技術だろうがなんだろうが必要なら使うべきと言うレッドアクシズの思想に賛同こそしているが、ただそれだけだ。真逆の思想であるアズールレーン、引いてはロイヤルを憎んでいる訳でもない。
ただ、祖国と指導者である公王陛下やビスマルクさんを信じて、軍人としての責務を果たす。それが俺の政治的なスタンスだ。
無責任かもしれないが、そもそも政治的な都合に指揮官歴二ヶ月未満の自分がどうこうできるはずもない。餅は餅屋なんて重桜のことわざにあるそうだが、政治は全て信頼と忠誠を捧げているビスマルクさん達上に任せて、自分はこの蒼い海と航路を守る為に軍人として今日も司令としての仕事を行うだけだ。
「よし、二匹共そこで待っていてくれ。彼女に限って何もないとは思うけど、何かあれば頼んだよ 」
ピヨッ!と敬礼をしながら電気銃を掲げる小さな憲兵達。
現在、俺は捕虜の尋問を行う為にそれまで尋問を行なっていない、最後の一人であるロンドンの部屋の前にマンジュウと共に佇んでいた。
グラーフとのデート、そしてスパイらしき女性二人と仲良くお茶をした先日の休日後。鉄血本国では国内の防諜の見直しと、秘密裏にスパイ狩りを行う為に上層部は蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていたらしい。
その混乱はあくまで基地の司令である自分には関係なく、スパイ二人のモンタージュ写真を生成した後は1時間程で帰宅出来たが、幹部であるグラーフはそう言うわけにもいかなかった。
「何故卿はそこまで面倒な事に巻き込まれる?何故休暇を、素直に安寧を享受する事が出来ないんだ…… 」
徹夜明けだったんだろう。朝、俺の姿を見るなり愚痴っていたグラーフは、買ってきたお土産のマフィンを片手に眠気覚ましにアイスコーヒーをガブ飲みする。
……うん、それに関しては俺も本当に。本当に申し訳なく思うけど、悪いのはロイヤルじゃないかなぁ!!
今から思えば初日から呪われてるとしか思えないほどロイヤルとのいざこざが絶えない毎日。執務中ならまだしも休暇中にすらロイヤルと遭遇するハメになるのなら、その内ビスマルクさんにロイヤルに行ってこいなんて言われるかもしれないなー!あっはっはっ!
なんて笑えない冗談を心に秘めつつ、グラーフが言うには『ピュリファイヤー』の情報も含め、スパイの可能性が濃厚となってきた現在、その事も含めて捕虜の尋問を再度行なって欲しいと通達されたそうな。
捕虜から引き出せる情報は既にイーグル、そしてピュリファイヤーからあらかた引き出す事に成功した。しかし、もし捕虜の皆がスパイに関して何か手掛かりを知っているのなら……
それにしてもあの女性二人はどうなるんだろうか?もしスパイではなく、ごく普通の一般人であれば混乱を招いたと最悪俺の首が飛ぶ可能性があるとはいえ、拳銃をいつも携帯していると言うのは一般女性じゃないはず……はず。
ロンドンには悪いがイーグルの時と同じく事前通達はしていない。先に尋問したグラーフ曰く手強い相手らしいが、その事も含めてロンドンから情報を引き出さなければ。
ロンドンがスパイの事を本当に知らないならそれで良し。最悪な展開としてはスパイがこの基地に忍び込み、捕虜と密会をする事で情報が流出すると言う事だが……何にせよ聞いてみればわかる事だと、軽く息を吐いてからロンドンの部屋をノックする。
ノックして少しすると、ゆっくりと扉は開き、眼鏡をかけたロンドンは少し驚いた顔でこちらを見つめる。
「あら、どなたかと思ったら……鉄血の指揮官さんでしたか?それで、私に一体なんの御用でしょう? 」
ロンドンは一瞬だけ電気銃をもったマンジュウに目をやるも、尋問とはいえ彼女に手荒な真似をするつもりはない。彼女を安心させるために再び下がってくれとの命令に従い、敬礼と共に隠れるマンジュウ。
「いや何、基地に閉じ込めっぱなしだからね、ちょっと様子でも見とかないといけないかなってね? 」
まあ、冗談半分、事実半分。いくら捕虜としての待遇は保証し、ある程度の自由を保証はしていてもあくまで捕虜は捕虜。祖国に帰る事も出来ずに軟禁状態な彼女達にストレスがかかっていないかと心配する気持ちもある。
ジャージーに食事に芋が多すぎると言われて以降、彼女たちの食事を改善するなど自分に出来る範囲で実際に見直してはいる。今回は尋問も兼ねているんだ、せめて待遇面に不安を抱えて居るのなら対価として出来る範囲の希望には応じなければ。
「そうですか……立ち話もなんでしょうから、お部屋の中にどうぞ? 」
そう言うとロンドンは俺を招き入れるように扉を開く。
正直な話こちらとしては立ち話でも構わないとはいえ、誘われたのなら、まぁ拒否する必要もないだろう。我ながら女性の部屋にアポ無しで訪問するなんて失礼な話だが、少なくてもイーグルの時と同じく、部屋を抜き打ちテストの如く訪問して、問題ないと言われる以上スパイと彼女が交流しているという証拠はこの部屋には残っていないはず。
「それじゃ、少し失礼させて貰おうかな?ロンドンさん」
「ロンドンで結構ですよ。それではお茶の準備をしますので少々お待ちください」
それでは少し、お邪魔させてもらうか部屋に入ると早速ロンドンは部屋の片隅の簡易キッチンでお茶の準備をしているようだ。
部屋の様子はイーグルの部屋とそう変わりはない、変わりはないのだが……イーグルの時とは違い表向きは和やかな雰囲気に包まれて居る以上、こうして女性の部屋に入る事実に少しだけ緊張してしまう。
少なくても今は彼女の部屋を漁る必要がないとはいえ、話によっては少々強引にこの部屋を荒らす羽目になりかねない。そんな時に万が一男性が見てはいけないモノがあったのなら……もし、話の流れでそうなってしまえばシュペーかヒッパー辺りにお願いしようか。
「鉄血の指揮官さん。お飲み物は何を… 」
「あー、君と同じものをお願いします」
手慣れて居るのか、やがて椅子に座って5分も経たずにテキパキと紅茶の準備を終えたロンドンはティーカップ、砂糖を入れる容器、ビスケットを用意するとニコニコしながら紅茶を注ぎ、ゆっくりと座って口を開く。
「貴方の意図は何となくわかります。ただ、申し訳ございませんが、私にも話せない事ばかりです。それでもよろしければ話せる範囲であればご協力させて頂きますね」
直球の発言。ロンドンは今も微笑をこちらに向けて居るが内心警戒をして居るんだろう。少なくてもイーグルの時のように情報を簡単に引き出せる雰囲気でもなく、彼女自身俺の事は気をつけろと間違いなく、イーグルからも色々と聞いているだろう。
「これは手厳しい。しかし……部屋に入れてくれた時点で目的はある程度達成しましたよ。少なくても貴女は部屋に何も隠してない、家探しされても問題ないスタンスである事は理解出来ましたからね」
「そうですか……しかし私たちの待遇面や、指揮官さんがジャージーちゃんに関して良くしてくれた事もキュラソーさんから聞いています。機密に関して応えることは出来ませんが、出来る範囲であれば私も答えさせて頂きますから」
自らの紅茶に角砂糖を入れつつロンドンはそう答え、互いニコニコと笑いながら話し合いは進んでいくが、貴女から知りたい情報は9割くらいは機密情報に関してなんだけどなと内心ため息を吐く。
これは骨が折れそうだ……少なくても黙秘や敵意を剥き出しにされるよりは外面的には敵意なく友好的に振る舞ってくれる方が話しやすい。その事を幸運に思おうかと俺達の尋問は幕を開けるのであった。
「……なんか熱くないか? 」
尋問の最中ロンドンと世間話を話していると、何処となく身体の芯から暑くなっていく気がする。まるで風邪を引いてしまったのかの様に頭は熱に浮かされてしまい、まるで……何かを。彼女に毒でも盛られたんじゃないかと、脳にアラートが鳴り響く中、汗を拭ってロンドンに話しかければ。
「そう、ですね、なんだか少しだけ……暑い様な…… 」
肝心の彼女を見ると顔が少し赤くなっており、俺と同じ症状の様だ。多分狙ってではない……はず。なにか紅茶の茶葉が腐っていたんだろうか?
もしかして腐った茶葉を飲んで、お互い体調を崩してしまったのだろうか?俺だけならまだしもロンドンまで体調を崩して仕舞えば鉄血の責任問題になりかね無い。
それに……
(なんで……!こんな時に!! )
何より一番問題なのは……ロンドンが魅力的に見えてしまうという事だ。
これだけならキザな台詞に聞こえるので、もっとはっきりと言わせて貰えば……最低な事この上ないが今、俺は、ロンドンに情欲の全てをぶつけたくて仕方が無い。
身体の一部分は今も血が止まらず、真正面の座るロンドンが魅力的に思えてしまう。健康的な太ももを触りたい、瑞々しい唇にキスをしたい。なにより服越しからもその大きさを主張する胸に好きにしたい、触りたい、舐めたい、しゃぶりたい、埋めたい、挟みたい……!
(いやいや、何言ってんだよ!相手は捕虜だぞ!? )
明らかに、今の俺はどうにかしている。人間死ぬ間際やその直前であれば性欲が一気に肥大化するなんて事を聞いた事があるが、少なくても身体の痛みは感じずに、ただ熱にうなされて居るだけ。だと言うのに欲望は次々と肥大化していき、それを鉄血軍人としての理性で必死に押さえつける。
「悪い……少し水をとってくる」
そう言いロンドンから目線をずらし、簡易キッチンに向かう。今やるべき事はロンドンと共に医者に診てもらう事だろう。その前に体の火照りを落ち着かせようと頭を振るい立ち上がる。
「あ、それなら私が… 」
「君も少し、動きづらいだろう?ならこっちがやるから大人しく待っていてくれ」
そう言いながら水場に行き、コップに水を急いで入れて再びロンドンの所に戻れば……
「鉄血の指揮官…さん……ありがとう、ございます」
彼女は。どうやら暑さには耐えきれずに上着を脱いでしまった様で……少し野暮ったいとはいえ、明らかにウチの二人の重巡よりもスタイルが良い事が分かってしまう。
一瞬息を呑み。煩悩が、欲望が、情欲が一気に脳を支配する。アイツを押し倒せ、ベッドに押し倒して好き放題しろ。下劣な欲望でロンドンを染め上げたいと雄としての本能が嫌でも湧き上がる。
(いや何考えているんだ!俺は! )
落ち着け、落ち着くんだ。今、彼女に手を出してしまえば……ありとあらゆる意味で全てが終わり、多くの人に失望されるだけではなく、祖国の名誉を傷つけ、何よりロンドンに一生に残る傷を植え付けかねない。
「大丈夫か?飲めるかな? 」
これ以上は、もうダメだ。今すぐトイレに直行して「落ち着かせた」後、軍医を派遣してもらわなければ。本当、なんでこうなったんだよ!紅茶が腐ってるだけでこんな事になるのか!?と最早ロンドンを直視する事が出来ず、テーブルに水を置いて急いでトイレに向かおうとすると……
「……めん、なさい……! 」
「はっ?何……!? 」
俺は忘れていた。
自分自身がこうなって居るのなら。
今、彼女だって発情していてもおかしくないという事実に。
気がつけばコップから水はこぼれ落ち、俺は地面に押し倒されていた。
同時に椅子が俺が倒れた瞬間蹴飛ばされて大きな音を立てたんだろう。外で待機していたマンジュウ二匹がドアを蹴破る様に開け、混乱した様に電気銃を構えて居る。
取っ組み合いの様な態勢となり、マンジュウもあまりの事態に混乱している様だ。なにより今ロンドンを撃てば俺まで巻き込まれ兼ねない事を理解し、マンジュウ達は何も出来ない。
ロンドンの様子は明らかに正気を失っていた。目は虚ろになっており、はぁはぁと息も荒く、俺の上にのしかかるロンドンの下腹部は……もし、気のせいで無ければ、濡れていた。
「おち、落ち着けロンドン!!! 」
説得しながら彼女から脱出しようとするも、手が彼女の身体に触れるごとにこちらの煩悩も加速していき力が出せない。そもそも俺は体力的にはお情けで合格を貰った存在。物理的にも、精神的にも今のロンドンを引き剥がす事は出来なかった。
あぁ、クソっ!本当に可愛いなぁ!!
こんな時だというのにはぁはぁと吐息吐くロンドンを魅力的に感じてしまい、このまま快楽に身を委ねても良いのでは?と一瞬思ってしまい。
『まだまだ非才ではあると思いますし、自分……俺には経験が足りない、そして頼りないと思われても仕方ない事は理解しています。
それでも、俺を信じて下さい。絶対皆さんを裏切りません、絶対皆さんを死なせません、絶対皆さんを守ります。その為に、俺に力を貸してください! 』
そして同時に脳裏によぎるのはグラーフ、ヒッパー、シュペーに初日話した誓いの言葉。今、このまま快楽に身を任せて仕舞えば……彼女達の信頼を裏切ってしまうという事。
「はぁ……はぁ……!ロンドン、すいません!!後で謝罪はする!だからちょっとだけ、我慢してくれよ! 」
……こうなってしまえば仕方ないか。マンジュウに俺ごと電気銃を撃ってもらうしかない。相変わらずロンドンは身体を押し付けてくる。時折嫌でも見えてしまう下着にこっちの理性も崩壊寸前。ロンドンに謝罪をしつつ、あぁどう説明すればいいのかなぁ!と嘆きながらマンジュウに命令しようとした直前。
救世主が現れた。
「ふむ、すまない…こちらに鉄血の指揮官が来てると聞い………な、何をやってるんだ貴官達は!? 」
黒いマントを身につけ、腰にサーベルを帯刀した知らない銀髪の女性がドアの前で絶句して叫んでいた。
なんでこんな所に?貴女は誰だ?なんて考える余地もない。今の俺にとって彼女は救世主だ。側から見れば鉄血の基地司令らしき男が、捕虜に犯される直前でマンジュウが右往左往して居るという状況だが、彼女に最早頼むしかない。
「そ、そのこれは…!? 」
「わ、悪いけど!この子を引き剥がしてくれ!何でもするからぁ! 」
あっこれもうやばい、ロンドンが息絶え絶えになりながら胸元のボタンに手をかけ始め……
「あ、あぁ!了解した! 」
とにかく、本気で必死に言うと。向こうにも気持ちは伝わった様だ。
すぐさまこちらに銀髪の女性は近寄ると、胸元のボタンに手をかけてるロンドンの首筋に。
「せいっ!!! 」
「!?!?!? 」
ドスっと音が鳴り響き……というかめちゃくちゃ良い音がなったけど大丈夫なんだろうか?とにかくロンドンは意識を失い、ダウンした様で体勢のせいで俺に向かって倒れかかってくる。
胸元にふよんとした感触。一気に性欲が暴走しそうになるが最後の力を振り絞り、気絶したロンドンを抱えてベッドの上に優しく置き、ふぅと地面に崩れ落ちる。
本当……どうしてこうなったんだ。銀髪の女性に謝罪する間もなく、思わず片手で目を隠して長く、深いため息をついてしまう。
「……本当に、助かったよ…… 」
「では何でもするという話だが」
「常識の、範囲内であれば。今は少しだけ休ませてくれ…… 」
「仕方あるまい、だが。忘れたと言うのは許さないぞ? 」
「分かってるよ、助けてくれた人の恩を忘れるってのは絶対にしないって」
もう、尋問どころの騒ぎじゃない。なんでこんな事に、どうして?何故?と疑問が次々と湧き出てしまい、同時にあと少し遅ければグラーフ達の信頼を裏切っていたと自己嫌悪に陥ってしまう。
あの時、一瞬ではあるがこのまま押し倒されて「そう言う事」を全て委ねてもしまっても悪くないと思ってしまった。男だから仕方ないなんて言い訳は通じない、そう、思ってしまった事実に申し訳なさが溢れてくる。
「あぁ……そう言う事か。全くビスマルクは本当に…… 」
なによりもロンドンも正気じゃなかった。次々と頭によぎるのは最悪の結末。思わず吐きそうになりながら、助けてくれた女性を見つめると、彼女は紅茶を調べながら苦い顔で窓を眺めて居る。幸いな事に彼女自身も美しい容姿と抜群のスタイルではあるものの、先程とは違い性欲が溢れてくる事は無かった。
「そう言えば君はいったい…… 」
「上から呼び出しがあるから迎えがある、と既に連絡が行っている筈だが……まあ、私はその迎えのようなもの、だ。あんな状況になっていたのは流石に予想外にも程があったがな」
あれ?そんな事は……あぁ、そう言えばそんな上からの手紙もあったか。朝ヒッパーに渡されたけど、とにかく尋問を終わらせてから読もうとしていたせいで読む事は出来なかったけど上からの手紙だったのか。
「私の名前は軽巡洋艦マインツ。特別計画艦の一員であり、ビスマルクの使者だ。出来る事なら今すぐ貴官に本部についてきて欲しいが……平気か? 」
少しだけ呆れた様子のマインツさん。正直今の状況で頭は未だに混乱してしまい、その……血の疼きも治らない。
疲れた、休みたいと言えばどれだけ簡単だろう?しかしマインツさんは特別計画艦。書類でしか存在は知らないが、遺伝子状態からセイレーンと戦う為に細胞一つ一つに手をかけ、本部直属の決戦兵器とさえ呼ばれる彼女がここに来た以上、世間話だけで済むとは思えない。
「大丈夫。今から行くよ……でもロンドンは」
「しばらく安静にしておけば平気だ。後で軍医を含めた人材も派遣する。グラーフには既に話はつけた、それでは今から」
「あぁ行こう」
正直あの様子だったロンドンを気絶したとは言え、ここに残す事に後ろ髪は引かれてしまうが、今俺がここにいても仕方ない。
「……ごめんな、ロンドン」
後は軍医の人に任せよう。そう決めて、申し訳なさそうに敬礼するマンジュウ二匹に彼女の護衛と監視を任せ、マインツさんと共に本部に向かうのだった。
……その前にマインツさんに頼んでトイレで一人、念のために10分ほど「処理」をさせて貰ったが。
正直最高に気持ちよかった。
「本当にごめんなさい……完全に私の責任よ」
マインツさんと共に執務室に通され、久々に見たビスマルクさんは明らかにやつれていたが、その威厳に思わず緊張で震えてしまう。
しかし、マインツさんが懐からいつの間にか持ち込んだハンカチに包んだ角砂糖。そしてマインツさんから話を聞いたビスマルクさんは開口一番に全てを説明してくれた。
事の真相はロンドンでも、俺でも、スパイでもなく全て自分たちの責任だと。
「これは角砂糖に見えるけど媚薬なのよ……私が取り寄せて、マウス相手に実験に使っていた媚薬。性欲を増強させて、飲んだ後に真っ先にみた個体に発情、そしてより効率的に実験用の個体を増やす為のね 」
深く、ため息を吐きながらビスマルクさんはそう語る。砂糖の代わりにマウスに使っていた媚薬が偶然紛れ込み、俺達は運悪く飲んでしまったんだと。
「そ、そんな事って……いくら何でも管理杜撰過ぎませんか?毒だったら最悪ロンドンが死んでましたよ!? 」
「返す、言葉もないわ…… 」
無礼な事この上ないが思わずそう口走ってしまう。俺だけならまだ良い。だが捕虜としての人権や生活を保障しているロンドンやイーグル達、そしてヒッパー達がそんな杜撰な管理で危うく死にかけたのだと思えば、口から出る言葉を止められなかった。
ビスマルクさん曰く、鉄血海軍では資材管理の多くは既にロボットであるマンジュウが行なっている。マンジュウは基本的に優秀とはいえまだまだ発展途上の代物。ビスマルクさんが取り寄せた媚薬と同じサイズの砂糖の缶を間違えたんじゃないかと。
「取り寄せたのはこの媚薬一つだけとは言え……再発防止のために人間の点検要員を増やしてみるわ。いくら何でも今回の失態は大き過ぎるのだから…… 」
そういうと何処かにビスマルクさんは通信を行い、ここ一週間ほどに軍に納品された角砂糖の多くを破棄する事を通達する。それと同時に資材に関して通達を繰り返すと再び疲れた様に通信機の電源を切る。
「万が一、媚薬がもっと強力な毒であれば……貴方や捕虜を殺していた可能性もあるわ。マンジュウの開発に私も関わった以上責任は全て私にある。本当に……ごめんなさい」
深く、頭を下げるビスマルクさんを見て思わず自身も慌ててしまう。尊敬する上司が沈痛な表情で自身に謝罪する姿を見てだれが愉快に思うんだろう。結局俺自身も無礼な事を口にしてしまい、尚且つマンジュウを任された司令として今回の事は防げたかもしれないとお互いの謝罪合戦、マインツさんの咳払いまで続いてしまうのだった。
「捕虜のロンドンの様子は? 」
「私が気絶させてベッドで寝てる。媚薬は既に抜けきっているとは思うが軍医の派遣を」
「いや、医学知識なら私だってある。この話が終われば包み隠さずに私が彼女に説明するわ」
捕虜にそんな事を言ってしまい、万が一外にバレたらと俺も止めるが、ビスマルクさんは下手に隠蔽してロイヤルにバレた方がもっと大変なことになると言う。
そして、今回は媚薬を取り寄せていた上に、労働力不足を補う為にマンジュウ製造に関わっていた私の責任でもあると話す。
「間違いは、間違いだと伝えなければ。鉄血は正しくなければ。そして鉄血の捕虜である以上、ロンドンも丁重に扱うべき客人よ。それに、私が直接全てを説明しなければ……突然発情して男を襲ったのよ?ロイヤルネイビーの一員である以上、精神的に病んでもおかしくないもの……責任。いや、尻拭いくらいは自分でする」
空気が一気に重くなる。ビスマルクさんの覚悟と罪悪感は嫌でも伝わってきてしまい、思わず敬愛する上司を責めてしまった自分を殴りたくなってしまう。
誰も幸せになれない。そして何も言えない、言わない、言えるはずもない空気の中マインツさんは通達する。
「ビスマルク。何故彼を呼んだのか忘れてないか? 」
「ええ……分かったわ」
目が据わり、罪悪感と焦燥感で疲れを隠せない。それでもビスマルクさんは帽子で一瞬目を隠し、咳払いしたのかと思えばゆっくりと、口を開いた。
「貴方に、少し頼みたいことがあるのよ」
その途端に嫌な予感のレーダーがビンビンとなってしまう。特別計画艦のマインツさんが使者となりわざわざ呼び寄せたんだ、きっと少しどころか大事で……正直勘弁して欲しいと思ってしまうが。
「……サディアに関しては、当然知っているわよね? 」
当然だ。妹が今嫁いでいる第二の祖国なのだから。
それに先日の新聞では大規模なセイレーン艦隊と交戦したと発表されていて、艦隊保全主義であり、今まで目立った行動がなかった盟友国の行動に個人としても驚きを隠せなかった。
ゆっくりと、静かに頷き返す。
「ええ、それなら話は早いわ。向こうでも、なにか動きがあるようでね……こちらへに支援の要請が届いていてね。だけれども、動かせる艦隊の数は少ない。こちらにも、色々な準備があるの」
「ロイヤルからの本土防衛の為、ですか? 」
コクリと頷くビスマルクさん。『バルト海海戦』に『レス島防衛戦』。そして先日のスパイ騒ぎといい現在鉄血は対ロイヤルへの備えを全力で行なっていた。
「つまり、動けるのであれば俺達が援軍として… 」
「というよりは、行ってもらうしかない、かしらね。こちらも居なくなるというのは辛いものはあるけれども……動かせる空母はグラーフしかいないわ。向こうの支援に出す、と言うのならサディアには空母がいない以上、外交的にも武力的にも彼女が必要でしょうし」
ーーもしかすれば、色々変わるかもしれない。
最後の一言はよく聞き取れなかったが、サディアがグラーフを必要としている以上、単独派遣ではなく護衛のためのシュペーとヒッパー、そしてグラーフを指揮する俺もサディアに行かなければならない。
正直な話、何故着任してから未だ二ヶ月も経っていない俺が派遣されるんだと頭を抱えたくなるが、グラーフだけではなく俺個人の情報が秘匿されているとは言え、サディアに妹が嫁いでいる事も外交的なアピールに、美談になるからだろうと嫌でも認識してしまった。
俺の指揮は未だに未熟、それでも政治的な事情が関わっている以上……断る事は不可能だろう。
「ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を。了解しました。任務、謹んでお受けさせて頂きます」
「時期的には最長1〜2ヶ月程掛かるかもしれないわ。長くなるかもしれないけど……それと、マインツとはもう話したかしら? 」
すると、マインツさんは俺とビスマルクさんに向き直り。無言で敬礼をしながら俺を見つめてくる。
「ええ、今回の派遣で、一時的にあなたの麾下へと入ってもらう事になっているわ、仲良くしてあげてちょうだいね? 」
……特別計画艦まで来るなんて。正直荷が重いってレベルじゃない。鉄血唯一の航空母艦に、精鋭である特別計画艦。精鋭の重巡二人も追加されてそれを指揮するのは着任二ヶ月程度の新人指揮官……派遣されるkansenの錚々たる面々と比べて明らかに見劣りするだろう。
それでも、とにかく出来る事はやるしかない。プレッシャーで押し潰れそうになるが、鉄血公国の一員として恥のない行動をしなければ、そして……妹を、妹の第二の祖国を守る事に繋がるのかもしれないのだから。
「……あなたの手腕、期待してるわよ? 」
「やれるだけは、やってみます」
とりあえず後日、正式な辞令が下されることとなりしばらくの間はその為の準備をしておきなさいと命じられるが……そう言えば。
「その、ロイヤルの捕虜はどうなりますか? 」
「捕虜は本部管理ね……ただ、帰ってくれば、またあなたの基地でマンジュウ達に世話してもらう事になりそうだわ。少し早い様だけど今日にでも、捕虜には目隠しの上でここまで移送する。貴方が行なってきた待遇を引き継ぐから安心してちょうだい」
やり過ぎとも言える俺が主導した捕虜の客人扱いとも言える待遇に関しては、暗にビスマルクさんは何も言わずに認めてくれた。
とはいえ当初とは違いロイヤルの本土攻撃の可能性もあり、その上でスパイがまだグラーフが着任している事は察知して居る可能性はあるが、捕虜がスパイの情報を掴んでいない可能性も高く、下手に移送させるよりも、サディアで任務を終え次第、キール第三基地に所属する数多くのマンジュウ達に、引き続き捕虜を任せる事が決定した。
「……移送は今日なんですよね?でしたらロンドンに 」
「やめておいた方が良いだろう」
謝罪を。そう口にしようとすると、マインツさんは苦虫を噛み締めた様な表情を見せる。
「流石にロンドンも今は貴官とあっても動揺する、もしくは泣き出すだけだろう。彼女はどんな理由であれ、自分から男を性的に襲おうとしたんだから……同じく媚薬を飲んだ貴官に記憶がある以上、都合よく記憶が消されているとは思えない」
今は少し距離をおくしかない。その上で改めて、サディアから帰った後にロンドンと話し合え。そう口にするマインツさんに俺は何も言えず……結局重い空気のまま、俺は逃げる様にビスマルクさんの執務室を抜け出すしか無かった。
サディア行きか……どうなるんだろう。
「ロンドンに謝罪か……本当にいいのか? 」
「鉄血は、正しくなければいけないのよ……嘘をついて仕舞えば、信頼を失って仕舞えば取り返しのつかない事に繋がるのだから。あの時、ロンドンを止めてくれてありがとう、マインツ」
「運が良かったと考えろ。仮にロンドンが処女を失っていたり、妊娠していればもっと取り返しのつかないことになっていた。そう考えれば不幸中の幸いだと思うしかない」
「……ごめんなさい」
「あまり、気に病むな。ただでさえ貴方は鉄血の全てを抱え込んでいるんだ。このうえ罪悪感とストレスを抱え込み、苦しんで倒れれば鉄血はより混乱に陥ってしまう。身内贔屓と言われそうだが……もう少し、貴方は楽に生きてみろ」
「ええっ、考えて……みるわ」
番外編に関してアンケートを追加させてもらいました、
真面目
陛下、ウォースパイトといったロイヤルの重鎮達の思惑
ギャグ
散々鉄血にやられてブチキレ寸前の陛下の一日
よろしければ是非投票を。
・気がつけばコップから水はこぼれ落ち、俺は地面に押し倒されていた。
お気づきの方もいるかも知れませんがダイスにおける完全なファンブル展開です。結果としてはマインツが登場する事により、どうにか事なきを得ましたが最悪の展開としてはロンドン相手に卒業しかねない事態になりかねませんでした。そしてマインツ以外では
dice1d10=8 (8)
1.ヒッパー
2.シュペー
3.グラーフ
4.ジャージー
5.キュラソー
6.イーグル
7.DOY
8.ウワーッ!誰なのぉ!?
9.アネキ
10.なんでお前いるんだピュリっち
と色々な意味でダイスがカオスに、混沌になりかねない選択肢も…ちなみに8ではシェフィやエディンバラ、偶然視察にきた他国の使者、オブザーバーといった最早収集不可能になりかねない面子が登場してもおかしくないので、こうしてマインツが登場したのは奇跡と言えるでしょう。
・マインツ
偶然登場したとは言えマインツはこうして一時的にとはいえ指揮官の艦隊に配属される事になりました、怪我の功名、塞翁が馬。ファンブルでロンドンに襲われてしまうも、こうして特別計画艦に出会えた指揮官は悪運90を発揮したと言えるでしょう
・「……サディアに関しては、当然知っているわよね?」
これも指揮官の妹がサディアに嫁いでいる為に、サディア行きの可能性が高かったとは言え。
dice1d5=1 (1)
1~3その詩は、誰がために
4.光と闇と
5.東の果てへ
確率的には60%残り40%でメルセルケビール海戦後のヴィシアに赴き、トーチ作戦によってマサチューセッツを中心したユニオン艦隊と殴り合う可能性や、アズールレーンに今は所属する重桜を説得する事により、真珠湾攻撃の運命が変わりかねない展開になってもおかしくありませんでした。
・ロンドン
彼女は改造されておらず、素のロンドンとなっています
また、ゲーム内では指揮官の事を「閣下」と呼びますが、今作では自身の指揮官でもなくある程度距離があると言う事もあり、「鉄血の指揮官」と呼んでいます。
指揮官の後世の評価はどうなる?
-
戦争を終わらせた立役者
-
サディアを救った救国の英雄
-
ロイヤル最大の敵
-
女の子に手を出しまくりの色を好む英雄