鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第一話 雛鳥の孵化

 壁は一面書籍に囲まれ、エアコンによって常温に保たれた、殺風景な執務室。安眠用のベッドが併設された私室でもあるこの部屋で、私は折り畳まれたファイルのページを眺めている。

 

「にゃぁぁ〜〜♪ 」

 

 どこからか迷い込んできたネズミ捕り用の黒猫が、ゴロゴロと声を鳴らしながら私のベッドの上で丸くなっているが気にしてはいけない。

 

 ……本音を言えば膝の上に乗せて、頭を撫でたい欲求に襲われるが今は勤務中だ。誘惑に負けずにファイルのページを一枚一枚めくりつつチェックする。

 

「さて……誰にしようかしら? 」

 

 最有力候補は14歳の指揮官。若干10歳の頃から、高いキューブ適正と指揮能力を持ち、現在は遊撃艦隊の指揮を務めているが彼は余りにも若過ぎる……せめて、あと4歳程歳が上ならば迷う事なく彼に一任したのだが残念だ。どちらにしろ遊撃艦隊を一度解散する羽目になるのであの指揮官は首を縦には振らないとは思うが。

 

 次の候補は36歳の指揮官、セイレーン大戦にも参加したベテランではあるが彼は現在潜水艦部隊の指揮を担当している。というか、彼は潜水艦部隊「のみ」を担当していた為に水上艦の指揮は皆無なのだろう。これでは折角の潜水艦指揮能力の宝の持ち腐れになるので次。

 

 28歳の……あぁこの指揮官はダメね。

現在ローンが在籍する部隊を指揮しているけどローンと出会った瞬間意気投合、性格面がローンの影響を受けてしまい、今日も仲良く二人で

 

「「こちらが、セイレーンを沈めたい時に限ってアラートがならないなんて……許せない!!!! 」」

 

 と言いながらグチャグチャと手でトマトを粉砕しているだろう……能力は悪くは無いが彼に任せると嫌な予感にしかならないので次。

 

 私の手元のファイルに閉じられているのは、鉄血に所属するメンタルキューブ適正を持つ指揮官のデータだ。

 

 私達kansenの建造、指揮に関してはこのメンタルキューブ適正が無ければ満足に行う事も出来ない。中には10歳で鉄血の部隊を率いる程の才能と適性を持つ指揮官もいるが、しかし指揮官として合格ラインとも言えるキューブ適正の持ち主の確率は数百万分の一。

 

 その上で本人の希望や軍人としての適正まで関わっており、指揮官になる為には才能がスタートライン。やる気や思想や軍人としての才覚まで関わってくる訳で、つまり私が何が言いたいのかと言えば……常にカツカツの人材不足なのだ。

 

「もう、全員所属が決まっているから新しい部署に移って欲しい……なんて気軽に言えないのよね」

 

 もっと多くの選択肢があれば……と悔やむがこれに関しては何処の国も苦労しているのだろう。いっそ、鉄血は科学の国なのだから人工的に適正のある指揮官を作り出せないかと恐ろしい事を一瞬でも考えついた自分が嫌になるが、その瞬間、部屋の扉越しからコンコンとノック音が。

 

「あぁ、好きに入って頂戴」

 

 私が声をかけるとガチャリと音が響き、扉は開く。不用心かもしれないが、私の執務室には網膜センサーと静脈センサーを設置しており、どちらも突破しなければ部屋に入ることすら不可能。この二つの仕掛けを突破出来るのは上層部の人員か鉄血kansenの幹部くらいなのだから。

 

 (ふふっ♪ ビスマルクさん? 網膜センサーは対象者の目をくり抜けば突破できますし、静脈センサーもその人の指を持ってくれば扉も開くので油断は禁物ですよ♡ )

 

 ……一瞬ローンから放たれた過去の物騒な発言が、記憶の海からサルベージされたのだが即座に沈めて、ため息を吐いてしまう。

 

「にゃ〜? 」

 

 そう言えば、この欠伸をしている黒ネコは、ここまでセキュリティを強化している私の勤務室にどうやって入ってきたのだろう?

 

 検査の結果盗聴器の類は付いておらず、ロイヤルやセイレーンの差金という訳では無いのは既に把握はしているが、今度セキュリティの再点検を行おうと心に決めながら来訪者に視線を移す。

 

「探したぞビスマルク、例の基地について報告がある」

 

 背中まで届く銀髪を無造作に伸ばし、こぼれ落ちそうな胸元を見せつけながらマントを羽織った女性。鉄血海軍の幹部であり、唯一の航空母艦kansenであるグラーフ・ツェッペリンは近くの椅子に座ると気怠げに口を開く。

 

「基地の稼働については問題ない、理論上はそれこそ我一人だろうがあの基地を運営出来るだろう……それで配属される指揮官は決まったのか?」

 

「それが難しいわね……優秀な指揮官は全て今の地位から外したくない、かといって無n……ごめんなさい。あまりにも基地の運営に向いてない人材を任せるのも最悪の事態を招くことになる」

 

「ふむ、ローンの所属する艦隊の指揮官なんてどうだ?我も一度彼と評議を行ったが、能力面では優秀で今の地位以上を与えてもいいと思うが? 」

 

「あの指揮官はダメ、絶対にダメ。前回の出撃でローンが、人型セイレーンの首を引っこ抜いて二人でガッツポーズしてたせいで、Z26がトラウマになってしばらく大変だったのよ……」

 

 あの時は大変だった

 高笑いしながら、人型セイレーンの首をトロフィー代わりにする二人に恐怖したZ26が泣いて部屋に引き篭もり、立ち直るまでに一週間近くかけてしまい……マスコミやアズールレーンのスパイの事を考えれば、能力がなまじ優秀とはいえ暴走する危険性や、鉄血のブランドに傷がつくことは避けたいのよ……

 

「そうか、我にもリストを見せてくれないか? 」

 

 無言でファイルを手渡すと再び椅子に座ってファイルのページを一枚一枚捲るグラーフ

 対セイレーン、対アズールレーンの為に新たに作られた鉄血の海軍基地に彼女は配属される事が既に確定している。

 私としては幹部として常に支え続けて欲しかったのだけど、彼女は自身で志願をして新基地に配属される事を望んだのだ。先程のローンの指揮官は論外としても、果たしてグラーフが気になる指揮官はいるのかしら……? 

 

「ふむ、ビスマルク。では……この指揮官なんてどうだ? 」

 

 10分程ファイルを覗いていたグラーフはとあるページを開くと、指揮官の顔写真とプロフィールについて私に問いただす。

 

 

 

 

 指揮官名

 ヴァイスクレー・ヘルブスト(20歳)

 

 キューブ適正の検査に合格し、指揮官訓練を卒業した新人。座学に置いては優秀で、教官受けも悪くはなく勤務態度は極めて真面目。

 

 思想としては取り分け親サディア帝国な一面があるものの、軍、公王陛下に対する忠誠心に置いては特に問題もなし。

 

 ただし、やや小心的な一面あり、指揮に於いては味方kansenの命を重視し過ぎて積極的な攻勢には向いておらず、体力的にもギリギリお情けで合格。

 

 補給部隊への着任を予定している。

 

 

 

 

「ヘルブスト……あの指揮官、か」

 

「何か不満があるのか? 年齢は若いが、この成績ならば補給部隊ではなく、基地運営を担っても問題はあるまい……まさか出自や性癖か何か問題があるのか? 」

 

 私が苦い顔をするとグラーフは不思議そうにファイルの写真を指差す、そこに映る茶髪の青年は私も直接面談を行なったことがあるけれど……あと性癖なんて口に出すのは辞めなさいグラーフ。

 

 

「出自はごく普通の一般家庭よ……ええ、その……いい子ではあるのよ……基本しっかり聞いて動いてくれるし、上層部受けも悪くなかったわ……でも、その」

 

 歯切れの悪い言葉しか出てこない……私が面接をした時はやや緊張はしていたが頭脳面や勤務態度に問題はなく、話を聞く限り上層部の受けも良かった人材なのよ、でも。

 

「その?」

 

「……その、ぶっちゃけてしまうと、たまに動きがまとめきれてないだけで……」

 

 そう……肝心の戦闘指揮が残念なのだ。

 

 演習を見るとその戦闘は慎重を通り越して臆病。敵セイレーンを確実に撃破したか複数回射撃命令を行なったり、遠距離からの砲撃でチマチマ削り過ぎて戦艦の弾薬が底をつきてしまったり、確実に仕留められる部隊を追撃せずに放置して帰還してしまうなど……

 

「全く指揮が出来ない訳じゃないし、味方kansenの命だけは確実に生還させるような指揮は取れる、けど……」

 

「攻勢に関しては慎重になり過ぎて時間が長引き敵増援を結果的に呼び込む結果になる、追撃を逃して結果的に後の部隊の負担になる、確実に当てる距離か、敵を近づけないような飽和攻撃の二択ばかり……つまり」

 

 『微妙』

 

 グラーフの顔を見る限り、恐らく私たちの脳裏には全く同じ言葉が頭によぎる。

 

 体力面は泳げると記述されているのだから最低限どうにかなる。

 しかし、指揮官失格と言える程悪くはないが微妙な指揮に関しては擁護が難しい。

 

 新基地に就任するという事は相当広い担当海域に出現したセイレーン、あるいはアズールレーンの部隊と交戦する可能性も有る。

 そんな状況にこの微妙な戦闘を行うであろう指揮官を果たして配属しても良いものなのだろうか?少しの油断やミスがグラーフも含めた部隊の全滅に繋がる……そう考えると、私から見たヘルブストは候補の一人ではあるものの評価は

 

・基地の運営は年齢的にやや不安ではあるものの、問題なくこなせるはず

 

・直接面接した所、性格面に問題も無さそうなのだから軋轢もなく、艦隊の運営やコミュニケーションも問題ないだろう

 

・戦闘は……微妙

 

 総合評価としては悪くはないが、今回の基地の運営に関しては中の下、いや下の上と言った所か?

 

 まだ若く、磨けば輝きそうなのだから、最後の戦闘さえどうにか出来ればと惜しみつつ今回は見送り、彼には小規模な補給部隊や護衛任務で戦闘経験を積んでもらい、将来的には、もっと重要なポジションを担当させたいと思ってはいるものの、現在は時期早尚と言った所かしら?

 

 さて、グラーフはどう思うのかしら?別の指揮官を選ぶのか或いは……と額をトントンと指で叩きながら思案するグラーフを見つめていると。

 

「決めた、ビスマルク。我はこの卿に基地と自らの命を託してみたいと思う」

 

 グラーフが決心したようにスッと目を開き、パタリとファイルを閉じて、私に手渡してくる。何が彼女の琴線に触れたのだろうか?その目はいつも通りで無表情、しかし目は覚悟を決めており、それ以外の選択肢は全て消しとばしているようで。

 

「貴方がそう決めたのなら私は止めないわ…でも指揮に関しては」

 

「指揮以外に問題がないのであれば、我が彼を補佐すればいい。彼が攻勢や追撃が苦手であればサポートを行い、人員に関しては最悪混乱してしまっても、現場判断の出来るkansenを2名程艦隊入りさせればいい」

 

「本気なのね? 」

 

「当たり前だ、我は冗談が言える程ユーモアのセンスは存在しない。それに……」

 

 珍しく、本当に珍しくグラーフはニヤリと口元に笑みを口角に浮かべ、晴れ晴れとした様子で楽しそうに私の肩を小突く。

 

「それに?」

 

「磨けば光る存在を、そのまま風化させるのは我も納得せんよ。この雛鳥は果たしてそのまま朽ちるか、大空に羽ばたくか……少し我も戯れで賭けをしたくなっただけだ」

 

 

 滑稽なのか、嘲笑なのか。

 

 笑いなのか、嗤うのか。

 

 破滅的か、楽天的か。

 

 クック……と獰猛に含み笑いをするグラーフ・ツェッペリン。性格上、彼女は艦隊や基地を私物化するような俗物ではなく、本気でこの指揮官に賭けているのだろう。

 

 磨けば光る、その問いに関しては私もYESと答えよう。それでも、彼女がなぜここまでこの指揮官に入れ込み、琴線に触れたのかは理解出来なかった。

 

 

 直感?運命?第六感?それとも、本当に暇潰し? 

 

 

 理解出来ない、意図もわからないグラーフの決断。それを私は陣営代表として、そして何よりも最も信頼する幹部の一人であるグラーフ・ツェッペリンへの決断として尊重する事を決意した。

 

 この決断が鉄血の未来にとって、輝かしい決断になる事を祈りながら。

 

「それでは我は艦隊に加えるメンバーをスカウトしに行くとするか……ここにいても、ビスマルクはコーヒーの一つも入れてくれない不親切な女なのだからな」

 

「冗談言えるじゃない……まぁ、もしその指揮官が本当に大空に翔ける逸材であれば、その時は私が一杯奢るわ」

 

「楽しみにしておこう、それではビスマルク」

 

 

 ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を。

 

 

「ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を……あっグラーフ、その指揮官に決めたのなら書類を」

 

 

 パタンっ

 

 

「グラーフ……面倒くさい事は私に押し付けて逃げたのね?全く……」

 

「なーーうーー?にゃ〜♪ 」

 

 ふぅ……と何度目も分からないため息を吐きながら私は立ち上がるとベッドの横に座り、黒猫の背中をやさしく撫でながらふと今日までの出来事を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類自らが生み出した科学技術と天然自然の力による自然進化的な発展を良しとする《アズールレーン》

 

 人類種の敵である《セイレーン》との戦いで戦利品による技術や力を積極的に導入、人類のさらなる発展と革新を目指す《レッドアクシズ》

 

 鉄血がアズールレーンを離脱して人類を巻き込んだ戦争を引き起こした理由、それは毒を持って毒を制するセイレーン装備の有無である事は確かではあるがそれだけではない。

 

 ………私は見たのだ、よりにもよって此方に接触してきたセイレーンの手によって触れたキューブによって見せつけられた絶望の未来を。

 

 蹂躙された鉄血の姿を

 

 肉塊になる同胞達の姿を

 

 飢える民に破滅的な首都の攻防戦

 

 廃墟、残骸、煙、炎、悲鳴、赤い血、殺戮に満ちた黒い海

 

 そして

 

 

 

 

 

 ーーーー()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人型セイレーンの一体である、テスターは言った、私は『再現』の戦いの海で沈むと。

 

 彼女の『再現』がどう言うものなのかは分からないが恐らく、並行世界で行われた私達の戦い……そして、敗れたのだ。鉄血はロイヤルに国土を蹂躙され、全てを破壊され、そしてキューブの記憶はそこで途切れた。

 

 私は死ぬ、鉄血の同胞達も悲劇的な末路を迎える、そして終焉の鎮魂歌が流れて私たちは全てを失う。

 

 あれは、セイレーンが見せた欺瞞の可能性、セイレーンは私達を利用しているのではないか?と考えた事もあり、何度も何度も考え抜き、そして決断した。

 

「だからこそ私は決断した……例え利用されようが、自分が地獄に堕ちようが、他国が犠牲になろうが関係ない。愛する祖国と同胞のためならなんだって、そう、なんだってすると……」

 

 セイレーンから提供された技術によって鉄血の化学力は世界を凌駕するものとなり、それと同時にエウロパ大陸の覇権国ロイヤルとの関係は悪化、最終的にはセイレーン装備の有無についての戦争が勃発し、現在に至る。

 

 このままでは私が原因で多くの同胞や他国の人々が死ぬだろう、小競り合い程度で済んでいる現状が奇跡と言っていい、事実他国では……私が起こした戦争が要因で既に……

 

 私はセイレーンに諭されてこの大戦争を引き起こした罪人なのだからどこまで汚れてもいい、暗闇の海の底で溺れ、もがいている様な感覚に陥る事もある。

 

 絶望の未来を変える……ロイヤルを滅ぼすのではなく、ロイヤルも含めたすべての国に鉄血の力を見せつけて、破滅の未来を回避する

 

 もしグラーフが選んだ彼が本当に全てを変えるきっかけになるのなら……

 

「いや、考え過ぎね。たった一人の力で戦争が終わるわけもない……ちょっとグラーフに揶揄われてナイーブになってるのかも、ね? 」

 

「にゃー♪」

 

 無邪気に頬擦りしてくる猫の頭を撫でながら、マイナスになりがちな感情を落ち着かせる。もう、最後に笑ったのはいつの事なのか分からない…この戦争が終わってまた私が笑える日が来るのだろうか?

 

 さて、仕事に戻ろう。新基地の書類の準備も含めてやるべき事はいくらでもある。

 

 

「ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を、そして鉄血の未来に幸あれ」

 

 

 

 

 近い将来、私はこの時のグラーフの決断を感謝する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あの指揮官がまたやらかしたの!?)

 

 

 

(彼は鉄血の希望よ。まぁ私達の胃と睡眠時間も奪う存在なのだけどね……)

 

 

 

(最近……固形物が食べられないの……喉に……通らなくて……)

 

 

 

(ごめん……なさい……ティルピッツ……556……少し……休ま……)

(アネキーーー!?)

 

 

 

(バーカ!バーカ!もう知らない!私、知らない!!!!!)

 

 

 

(……ごめんなさい、それは、やめておくわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何度も……ロイヤルやセイレーン以上に、あの指揮官に徹底的に胃を痛めつけられ、私はこの日の事を何度も思い出すのであった。

 




次回は指揮官がいよいよ登場

そして新基地がどう言ったものなのか?グラーフ・ツェッペリンが選んだkansenとは?そしてビスマルクの胃はいつ破壊されるのか?
次回をお楽しみください

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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