第一七話 覚悟を決めろ
晴天から照りつける日差しが船内を照らし、鈍いエンジン音が断続的に響き渡る船内。その一室として与えられた部屋の中で、俺は戸棚からコーヒー豆を取り出し、お湯を沸かしながら飲む為の準備を進めていく。
何気なしにコーヒー豆をひとつまみ手に取ると口に含む。苦い、苦過ぎる。思わず顔を顰めながら無理やり飲み込み、急いで冷蔵庫のミルクで口直し。
飲みたくなくても鉄血はブラックなコーヒーばかりを飲むコーヒー大国だ。人を出迎える為に、家族の為に入れている内にコーヒーの淹れ方は身体で覚えてしまった。とはいえ、この苦味の良さを理解する事は一生俺には無いだろうなと思いつつもテキパキと手を動かす事は忘れない。
キール第三基地より出発して日付といえば一週間程度が経つ。サディアまでの道中は今の所はセイレーンや不審船、ましてやロイヤルと出会うこともなく平穏無事に俺たちは航海に従事する事が出来ていた。
これもピュリファイヤーが鉄血のサディアでの行動を妨害をしないという約束を律儀に守っているからなのか?それとも偶然の産物なのか?何れにせよ何事もないのはいい事だと思いながらも出来上がったコーヒーをゆっくりと注いでいく。
注いだコーヒーを机に持っていく為に部屋を見渡せば、大きさは基地の個室程の大きさでは無いが、一人で過ごすに当たっては不自由のない程度のスペースは確保されている。この指揮艦はクルーとしてマンジュウを使う前提の物らしい新型であり、居住スペースに余裕がある。その運用テストも兼ねての指揮艦とはいえ、そこに関してはビスマルクさんに感謝しなければ。
書類仕事もなく、パトロールもなく、マンジュウが操舵も行ってくれる為に率直に言えばサディアまでの船旅は長い休暇と変わらない。その為に皆が自由な時間を過ごしているようだが、腕時計を時折見ながらもじっと二つ用意したコーヒーのカップを見つめていた。
現在時刻は11時59分。約束の時間まではあと1分か。ふぅと深呼吸をしながら先にコーヒーを口に含む。うわやっぱり不味いなこれ…
残り時間あと10秒……5秒……1秒と。
ちょうど時刻が正午になった瞬間、コンコンと部屋を小さくノックする音がドア越しから聞こえ、きっかりと時間通りである事に感心しながら立ち上がってドアに手をかける。
「指揮官。何か緊急の案件か?」
怪訝そうな顔で敬礼をしながら俺に呼びかける銀髪の女性。その名は軽巡洋艦マインツ。鉄血が誇る特別計画艦の一員であり、本部直属の優秀なKAN-SENであり、今回サディアに向かう事になった俺たちの応援の為にビスマルクさんが付けてくれた人員の1人だ。
彼女はある意味では俺の命の恩人であり、同時に俺の弱みと醜態を握っている女性。彼女を見ているとあの時のロンドンを思い出してしまい、罪悪感で胃が痛くなるがその事を顔に出さずにマインツに返答する。
「そんなに肩肘を張らなくてもいいよ。ただ君と親睦を深めたいなと思って来てもらっただけだからね。コーヒーと菓子の準備もしてある、勿論マインツが嫌なら素直に引き下がるけど…」
「了解した。それではお邪魔させてもらう」
正直断られる事を覚悟していたが、短く返答すると躊躇わずに彼女は部屋に上がってくれる。同時に彼女は最低限の人付き合いは拒まない人格である事に内心安堵の息を吐く。俺は彼女の事を何も知らず、この一週間程度の航海で親睦を深める事も出来ずに、マインツの事を一つも理解していなかったのだから。
最初は彼女に避けられてるのか?と不安になり、少しだけ観察をさせて貰ったがマインツは誰と会話する事もなく、仕事に関する要件が無ければ常に部屋に引きこもっていた。皆を邪険に扱う事もなく、話しかければちゃんと返答はしてくれる。とはいえこのままではまともに彼女と話す事もなくサディア入りしてしまう。だからこそそれを危惧して俺は彼女と2人きりで話をする為に部屋に呼び寄せた。
「はい、コーヒーね。それと今更だけど媚薬の時は本当に助かったよ。ありがとうマインツ」
「気にしないで欲しい。あれは私も驚いたが不可抗力によるものだ。それにあの時貴官がロンドンに押し倒されてしまえば鉄血としても不利益を被る事になりかねなかった。私は仕事をしただけだ。とはいえお礼に何でもすると、言った事は忘れないが……」
「それも勿論忘れてないさ。常識の範囲内であれば君の助けになるからね。これで全部チャラにして欲しいとは言わない、今日はその事を忘れて親睦を深めよう」
彼女を知りたい。知らなければならない。余りプライベートに干渉し過ぎるのも問題とは言えマインツはヒッパーやシュペーとの会話もなくずっと部屋に引きこもっている。マインツが馴染んでないのか?と心配する気持ちもあるが、その上で個人としてもある程度の信頼関係を作りたい。
信頼関係は戦闘にも影響する。彼女が自発的に面倒だから、1人でいる事が好みだからとグラーフのように口数も少なく部屋から出ないのであればまだいいが、もし1人だけ本部直属であり遠慮や疎外感を感じているのなら少しでも力になってあげたい。お節介と言われるかも知れないが、出来る限りマインツが快適に過ごせるような環境を作り上げなければ。
そんなこちらの思惑を知る由も無く、マインツは差し出されたコーヒーを口に含む。シュペーの時と違いエスプレッソではなくブラックコーヒーだ。ちなみに砂糖と蜂蜜を用意していたが使う素振りは一切見せなかった。
「ふぅ……」
先程までとは違いマインツはうっとりと、リラックスした様子で余韻を楽しんでいる。一応マインツが来る前にコーヒーの淹れ方について再び本を読んで練習もしていてよかった。とはいえコーヒー嫌いの自分はこだわりなんて物はなく、ビスマルクさんが用意してくれたコーヒーを本を見ながら見様見真似で入れただけとは言えそれをわざわざ口に出す事もないだろう。
「ブラックが好きなのか? 」
「あぁ、むしろブラック以外考えられない。砂糖もミルクもコーヒーに対する冒涜だ。この苦味と酸味を楽しむ為に今の私は生きていると言っても過言ではないだろう」
その主張に関しては甘党の自分にとって相容れない為に無言でクッキーを口に含む。同時にサディア帝国は苦味の薄いエスプレッソに砂糖、ミルク、チョコレート、シロップを多めに入れて楽しむ飲み方がメジャーである事はあえて黙っておいた。
理由?ブラックコーヒーを人生の楽しみにしている彼女にそんな事を口にすれば、今から泳いででも鉄血に帰る!!と言い出しかねない雰囲気だからね!!
この人大丈夫なのか?まぁマインツなら自分で入れて自分で飲むからいいのか?人に入れられた甘いコーヒーに関しては頑張ってほしいと生暖かな視線をマインツに送るも、マインツはそんな事を知らずにコーヒーを飲み干し、おかわりを要求してくるのだった。
親睦を深める為の会話は自己紹介を終えた後は自然と世間話からサディア帝国に関しての話題となっていく。
サディアの名物は?サディア海軍のkansenは?先日行われたサディアの軍事行動についてなど話す話題は幾らでもあり最初こそ、ぎこちなかった会話もリラックスして話せるようになっていた。穏やかなマインツといいこれもコーヒーの効果かも知れないなとクッキーとコーヒーを同時に口に含む。
苦いが同時に口の中の糖分がコーヒーの苦味によって流され、次に口に含むクッキーの甘さを引き出している。まぁ本当はコーヒーもマインツさえいなければ砂糖を何杯もいれていたけどなと思いながら会話は静かに進んでいく。
「所で指揮官」
既に6杯目のコーヒーを飲み干し、7杯目のブラックコーヒーをカップにいれながらマインツは俺をじっと見つめていた。
「サディアには貴官の妹が嫁いでいると聞いたが、事実なのだろうか?」
クッキーを持つ手が一瞬止まってしまう。なんで妹の事を?と俺のプライベートの話題が彼女の口から出て来てしまい、一瞬焦ってしまうがビスマルクさんの直属の部下なのだからそれくらい知っていてもおかしくないかと思考を切り替える。
「そうだな……うん、二年くらい前にね。ビスマルクさんから聞いたのか?」
「あぁ、それもあるが自分を指揮する指揮官の情報を調べるのは当然の事だ。情報を吹聴するつもりはないが、悪いが勝手に貴官の経歴を調べさせてもらった」
別段隠す必要もないので肯定すれば、当然の事のようにマインツは俺を調べていたと暴露する。調べられた事に関しては悪感情は湧かないが、同時に彼女が俺をどう思っているのか少し心配にはなってしまう。
それでも「知っている」と教えてくれたのはそれなりに彼女から信頼されているとプラス方向に考えよう。「知っている」と口に出されてお前が何をやらかすのか見張っているぞなんて意味合いもあるかも知らないが。
「同時にこれはサディアについてから話そうと思っていたが丁度いい。ビスマルクより貴官に伝言を預かっている」
「ビスマルクさんから?」
「あぁ、内容は一つ。もし貴官が望むなら妹に直接会いに行き、旧交を深めればいいと」
マインツの一言に思わず一瞬耳を疑ってしまう。
今回のサディアへの派遣を決定し、俺も妹と久々に会いたいと思ったのも事実。とはいえ鉄血軍人である自分が、今やサディアの一般市民である妹と会うなんて許されるはずもないと内心諦めていたからだ。
指揮官は各国で情報が秘匿されていて、不用意な行動を起こすな。特に個人を特定されるような行動は尚更だと口酸っぱく指導されている。数百万分の一の割合である貴重なキューブ適正者の指揮官。万が一もし個人が特定されてしまい、暗殺やハニートラップや人質を取られるなどしてしまえば……それは取り返しのつかない損失に繋がりかねない。
だからこそ俺もサディアで妹に会う事は諦めており、ただ戦闘になっても妹の新しい祖国を守れれば、指揮官だけでは無く兄としての責務を果たせると思っていたのだが……そんな時にマインツの言葉は寝耳に水としか言いようがなかった。
「ただし、当然ではあるが絶対に軍の機密を妹に漏らしてはいけない。くれぐれも妹の口止めを忘れず、サディア海軍の一員にバレないようにする事だけは忘れてはならないぞ」
「……いいのか?」
「良いも悪いもない。私はビスマルクの言葉を貴官に伝えているだけだ。貴官が個人的に拒否したいと思っているか、不安に感じるのであればそもそも妹と会わないのもまた自由だ」
7杯目のコーヒーを飲み終え、内心動悸の止まらない俺を無視しながら、8杯目のコーヒーを再びカップに入れていく。それを口に含むと一瞬だけ部屋が沈黙で包まれる。
「あくまで個人的な予想だが……貴官もサディアに嫁いだ妹を気にはなってる。出来れば会いたいと願っているのではないか?それなら今ここでどうするのか聞かせて欲しい。勝手に貴官が会いに行くよりは予めこうして釘を刺した上での方がいい」
「言い方はアレだけど…飼い犬が野放しだと好き放題する可能性があるなら、リードを握った上の方がマシって事、かな?」
「別に貴官を犬扱いはしていないが概ねその通り。サディアに貴方の個人情報を公表する気は今はないが、妹がサディアに嫁いだ貴官がサディアに派遣されるのはそれ相応のメッセージでもある。場合によっては指揮官の情報も含めて公開する可能性があるがそこは了承してほしい」
最初からその気はなかったとは言え指揮官としての立場を無視して勝手に妹に会いに行ってやらかすよりは、本部直属であるお目付役のマインツに声をかけてから向かった方が遥かにマシ。
そして場合によっては俺のプロフィールをサディアに公開してサディアに鉄血は友好関係を望んでいるとアピールする。その事に関して俺は今マインツに答えなければいけないようで……あぁ、もう本当に……
「いくよ、せっかくだから妹に会いに。サディアへの情報開示も好きにしてくれ。ただ妹とその旦那さんの身に危険が及ばないようにフォローだけは忘れないでくれれば、俺は何も言わない」
「そうか、了解した。情報開示に関してはあくまで必要なら、だ。そして妹に会いに行くのならまず一言私に声をかけてほしい。貴方についていくとは言わないが、日付と時間だけは覚えておきたい」
「……面倒くさいな、政治って」
「仕方ない。貴官もそういうものだと理解して諦めろ」
政治は面倒くさい。政治は全て俺より頭のいい政治家や上司に任せ、俺はただ指揮官としての業務を果たしたい。といってもサディアでは頼れる上司は実質グラーフだけであり、ビスマルクさんの庇護も失い、名目的には俺が外交官のような仕事もする必要性が出てくる可能性がある。
妹に会いたいのは確かであり、その許可を貰ったのも正直に言えば嬉しい。とはいえ、細心の注意をもって妹の様子を確かめつつ、同時に鉄血と妹が不利益を被る行動は絶対にしてはいけない。
信じてくれるヒッパー達に、大切な妹。それはどちらも俺にとってはかけがえの無い存在になっていて……俺は、サディアで彼女達を守る為にあるべき情報と立場と言うカードを使いながら立ち回らなければいけない。
本当に……面倒臭い。しかし逃げる事も出来ずに間違えてしまえば全てを失う可能性だってある。グナイゼナウさんに指摘された言葉が頭の中で甦る。そのプレッシャーせいなのか再びコーヒーを口にしても苦味を感じる余裕すらなかった。
「本来であれば新人である貴官にとって荷が重い、プレッシャーになるとは分かるが耐えて欲しい。それにな、実の所これはビスマルクなりの褒美と言えるだろう」
「褒美?」
「勲章、金銭、休暇、祝賀パーティ。既に新人とは思えない程の活躍を見せた指揮官を労う方法は幾らでもある。しかし、そんなものよりずっと会ってない妹と指揮官も会いたいだろう?これはビスマルクなりの気遣いだ。軍人生活で他国に行ける機会なんて滅多にないのだから妹さんと楽しむといい」
グイッとコーヒーを飲み干すとおかわりはせず、マインツはじっとこちらを見つめている。その表情からは感情は読み取れない。それでもマインツなりに労ってくれている事は声音から理解する方が出来た。
「ついで言えば媚薬事件で貴官には迷惑をかけたとビスマルクは気にしている。注意をするのは忘れてはいけないが堂々と妹に会ってビスマルクの借りを受け取ってやれ」
「……ありがとう」
「礼なら任務が終わってからビスマルクに直接言えばいい。自分はあくまでメッセンジャー。そして感謝の気持ちを伝えるより、よりいっそう軍務に励んで鉄血のためにつくすのがビスマルクにとっての一番の恩返しだ」
感謝の気持ちを伝えるとマインツは一切照れもせずに初めてクッキーをポリポリと口にしていた。同時に俺は理解する、彼女はどこまでもストイックな性格であり、鉄血の事をなによりも大切にしている同胞である事を。
特別計画艦は全てマインツの様な性格なんだろうか?戦う為に生み出されたkansen、その中でも遺伝子の一つ一つを対セイレーンの為に弄られた特別計画艦は文字通り軍にとっては切り札ともいえる存在であり、それがマインツのストイックな性格に繋がっているのかもしれない。
本人の意思も大切なのだからマインツと上手くやれるかどうかは分からない。それでも、ストイックな彼女に最低限失望されないように付き合っていこうと決意する。
「それに……ビスマルクはただ褒美だけで選んだ訳じゃない。貴官の指揮はグラーフから聴いているが、ユニークな戦い方は余り褒められるものではないが、どんな形であれ貴官は活躍した。だからこそ、貴官であればこの大任を果たせるとビスマルクは期待したからだ」
同時にストイックな彼女の言葉が再び耳に届く。じっと、一言一句漏らさずに聞かなければと精神を統一させてじっとマインツの口元を見つめて次の言葉を待つ。
「サディア滞在中に戦闘になる可能性は高い。それは恐らくセイレーンであるが……場合によってはマルタ島のロイヤル、いやサディアと戦う可能性もある」
ーーーー貴官は撃てるか?万が一の時サディアを、妹の第二の祖国を。
彼女の最後の一言に思わず冷や水をぶっかけられたかのような感覚に襲われる。理解はしていた、いや理解しようとしている素振りはしていた。しかし改めてサディアを敵に回す可能性を口にされてしまえば、撃てると即答できず、言葉に詰まって無言になる他なかった。
ロイヤルの動きが不可解であり沈黙を保ってる事は理解してる。それがもし最悪のパターンであればロイヤルがサディアと秘密交渉でアズールレーン復帰を。その為に鉄血の自分達を捕らえて、捕虜交渉の為の取引にするのではないか?
一瞬よぎってしまった最悪の未来。何をバカなと首を横に振るも、疑念はいくらでも湧いてくる。ここ最近のロイヤルの沈黙にサディアは関わってる可能性はゼロではないと。
「そこで撃てるか?と聞いた時、貴官は迷っている。だからこそ必要以上にサディアに余計な情報は与えるな。妹の事さえバレなければ彼女に危害は加えられないはず」
そしてその場合……自分はサディアを。マインツが言うように、妹の第二の祖国を撃たなければいけないと。
「気をつけろ、貴官の行動一つ一つが鉄血の行動であり、サディアが仮にアズールレーンと繋がっているのなら貴官は私達を指揮して単独でサディア海軍全てを敵にしてでも鉄血に帰る必要がある」
これはあくまで最悪の想定。そう、普通に何事もなく平和的にサディアで観光を楽しんで帰る可能性だってあるんだ。
『つまり、君達は鉄血のサディアでの行動を黙認する。そして君は手を出すつもりはなく、オブザーバーも『遊び』に向かう事は禁止している……少なくとも、俺達が行けば何かはある、って事でいいんだな? 』
『おっ、やっぱり冴えてるねー?まぁ、そっちに何かしたって、やらかすって自覚は無いだろうけど確実にね?そこまで気がついたならサービスするけど、テスターだって動かないよ。今回私たちは動かない。君達鉄血が思うがままに行動すればいいさ』
先日のセイレーンとの会話がどうしても頭から離れない。ピュリファイヤーは何かが、確実に起こると。俺たちがやらかす自覚はないが、セイレーンが注目する程の何かが起こりかねないと言っている。
その最悪の想定がサディアと俺たちの戦いであれば、俺はサディアを撃てるのだろうか?そして妹を見捨て、本国に帰ってそのまま指揮官としての責務を果たせるのだろうか?
悪寒と吐き気に襲われる。俺はサディアを敵に回したくない、俺はサディアを信じたい。妹が信じた第二の祖国を。妹が選んだ旦那さんを産んだ国を。そしてレッドアクシズの、鉄血の盟友であるサディア帝国を敵に回した時、果たして本当に俺は……
「……すまない。私は本部直属の立場、だからこそ常に最悪の動きを想定しなければいけないんだ」
俺の顔色が明らかに悪かったからだろうか?彼女はため息を吐きながら冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと俺の手元にすっと差し出してくる。カップにも入れずに思わずそのまま口に含むとキンキンに冷えたミネラルウォーターが喉を刺激して、身体がゆっくりと冷めていく。
「何も、私もサディアが嫌いなわけでもなく、個人としてはレッドアクシズとして友好関係で何事もなく手を取り合って終われば良いと思っている。ただし万が一の時は……覚悟を決めろ。あなたの躊躇いがヒッパー達の命を奪う事になりかねないと」
「……忘れないよ。ごめんな、こんなみっともない姿を見せて」
「……私は慰めの言葉は言えない。貴官のプレッシャーは私の想像以上だろう。だからこそ、せめて私も貴官に自らの命を預ける。我が同胞の為に鉄血の力とならん事を。その言葉を忘れずに生き残る事を考えてほしい」
マインツとの付き合いは短い。それでも彼女は命を預けるといってくれた。
『ありがとうございます。お返しはまた次回に。それと……サディアに行くと聞きましたがお気をつけて下さい。嫌味に聞こえるかもしれませんが、あなたの行動一つ一つが鉄血そのものであると考えて頂いても構いません』
『まだ、着任二ヶ月程度でこの大任は貴方としても思う所はあるでしょう。政治に関わるのは面倒なのは確かでしょう。しかし、それだけ上層部は貴方を評価していると言う事です。その事を決して、忘れないで下さい』
そして脳内で鉄血から離れる前に話したグナイゼナウさんの言葉がリフレインする。あの時は自覚してなかったが、このサディア行きの船は地獄への片道切符な可能性があると今理解できた。
だから頑張ろう。月並みの言葉だが今はそう思うしかない。今はただ、悲観主義ではなく楽観主義でマイナスな事を考えるのは起きてからにしよう。
それにサディアで新しく楽しみもできた。二年ぶりに妹と会う事をビスマルクさんは許してくれたのだから。
「ありがとう、迷惑をかけない様にはするけど君の事を頼りにしてるよ……よし!気を取り直して、もっとコーヒーを飲もうか?それとなマインツ」
「どうした?」
「正直に言うとな俺……こういう飲み方の方が好きなんだ、コーヒーはね」
5分後、コーヒーに蜂蜜と砂糖とドバドバとぶち込んだ上に牛乳を流しこんだ俺特製のコーヒーを見て、マインツは貴官は何を考えているんだ!?!?とブチキレてしまった。
何事も隠すのではなく、せめて信頼してくれるマインツの前では普段通りのコーヒーを飲もうと包み隠さずに趣向を凝らしたのだがマインツはその後ご機嫌斜めになってしまった。
真実は時として正しい結果を生み出すとは限らない。そう改めて知識を得た上で頬を膨らませたマインツに蜂蜜砂糖コーヒーを勧めたが拒否されてしまい、今後は絶対貴官のコーヒーは飲まない!!!と怒られてしまう。なんだかマインツとの関係が親睦と深めようとする前より溝ができてしまったように感じてしまうが、それでもマインツにサディアは甘いコーヒーがメインであると言い出すことは出来なかった。
そしてマインツとの親睦会?を経て、夕方、指揮艦はいよいよサディアの領海に入り、セイレーンと交戦する事もなく同じレッドアクシズに所属する地中海の大国、サディア帝国に道を進めていく。
とはいえサディア帝国の近隣のマルタ島はロイヤル、アズールレーンの勢力圏。万が一も兼ねてヒッパー達は出撃する事もなく船内で夕闇に染まっていく星空を眺めている。
「合流ポイントはすぐそこね、本当にやっっと地面を踏めるわ……」
「うん……船の中で過ごすのってなんというか、疲れるからね…」
シュペーとヒッパーは肩を並べて星空を眺めている。元から知り合いだったらしいが、今ではプライベートでも仲良くなったらしく、色々と話しているそうな。シュペー曰く女の子同士の会話だから俺には話せないとの事だが、二人とも仲良さそうで何よりだ。
「だけど、まさかサディアまで行く羽目になるとは思わなかったわね…」
「まあ、向こうで救援すればいいんでしょう?頑張ろうねヒッパーちゃん。っとそろそろ、合流地点の筈だよ指揮官」
「…………」
ちなみにマインツはじっと恨みがましく睨んでいる。それはもう睨んでいる。一応あの後謝罪したが……ちょっと調子に乗りすぎた。そこまでマインツにとって甘いコーヒーは許されないんだろうか?色々な意味でマインツが心配になってきたが、その時グラーフがポンと俺の肩に手をやり話しかけてくる。
「卿、偵察機で調べたが前方に未確認のkansenが一隻。合流ポイントとも一致している。恐らく……」
「サディアの子、だね。時間的に遅れなくてよかったよ。じゃあ、総員気を引き締めていこう!」
了解という言葉にピヨッと答えるマンジュウ達。思う事はある、マインツが想定した最悪のケースは今も頭にこびりつき、自らの身に降りかかるプレッシャーは底知れない
だけど、今は目の前の仕事を一つ一つクリアしなければ。レーダーにも同じレッドアクシズ所属の反応が現れて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。指揮艦の速度を落とすように命令し、深呼吸と共に甲板にその姿を晒すと、やがてサディア帝国の使者が見えてきた。
「あら、貴方達が……鉄血からの支援、かしら?」
合流地点に居たのはサディア帝国の国旗を片手に見せつける、鉄血とは違うタイプの帽子を身につけたスタイル抜群の赤髪の美女。
……成る程ね。
「ええ、艦の上から失礼。今回の支援を担当させてもらう鉄血の艦隊です。よろしくお願いします……ザラさん?」
艦の上からこちらも帽子を取り、頭を下げて礼をすると赤髪の女性、サディア帝国の重巡洋艦ザラは驚いた顔で指揮艦を見つめていた。
「よろしく、と言いたい所だけど名前を名乗った覚えはないのだけれど……どこでその名前を?」
「ザラ級一番艦ザラ、総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトを支える幹部であり、通称帝国の懐刀。先日のサディア帝国のセイレーン戦で名前が公表されていたkansenを自分なりに調べさせて貰いました」
半分は嘘だ。本当は調べつつも過去に妹やその旦那さんとの会話で度々サディア帝国の海軍についての話題になり、こんなkansenが居るんですよと義弟が俺の為に国内向けのインタビュー写真を用意してくれた。
その時に赤髪の女性が忘れられなかっただけだ。理由?インタビューに挿入されていた写真の中で、やたら胸が大きかったから記憶に残っていたなんて理由ではない、断じてない。
「あの新聞に私の名前はともかく写真は乗って無かったと思うけど……まぁいいわ、なら私が偽物ではなく本当にサディア帝国所属だったと、貴方は理解してくれてるから証拠を用意する手間が省けたわね」
そういうとザラさんはニコリと笑みを浮かべて優雅に一礼する。その時、彼女の爆乳の谷間を思わず凝視してしまったが誰にもバレてないからセーフだ。というか写真で見た時より本当にデカイな……
「では改めて、ザラ級の1番艦ザラって言うわ。よろしくね?鉄血の指揮官さん。そして鉄血のkansenの皆さん。それじゃあ、着いてきてもらえるかしら?」
と先行する彼女に先導され……俺達は陰謀、策謀渦巻く地中海にその身を投じることになるのであった。
・同時にサディア帝国は苦味の薄いエスプレッソに砂糖、ミルク、チョコレート、シロップを多めに入れて楽しむ飲み方がメジャーである事はあえて黙っておいた。
サディアでは基本的に甘いコーヒーがメジャーであり砂糖を入れない方が珍しい、中にはシロップや蜂蜜などをドバドバいれるコーヒーも好まれており、マインツは絶句しかねません。
ちなみに元鉄血公国出身のタリン、元ユニオン出身のムルマンスク、元サディア帝国出身の駆逐艦タシュケントは北方連合に移籍してますが、北方連合のコーヒーの飲み方はミルクをいれるカフェオレタイプだけではなく卵黄とウォッカをいれる飲み方も。タシュケント達は間違いなく色々とカルチャーショックを受けたでしょう。そしてマインツは酒と!!!コーヒーを!!!分けろ!!と叫んだでしょう。
・「言い方はアレだけど…飼い犬が野放しだと好き放題する可能性があるなら、リードを握った上の方がマシって事、かな?」
ビスマルクは指揮官を信頼してると同時にまたサディアでもやらかすのではないか?と不安におもっており、マインツはサディア帝国へのアピールと新人の派遣艦隊の手助けだけではなく、いざとなれば指揮官を止めろと実は命令されていたりします。お目付役でありサディアの監視役。そして指揮官の監視役と何気にやることが多いのがマインツなのでした。
・半分は嘘だ。本当は調べつつも過去に妹やその旦那さんとの会話で度々サディア帝国の海軍についての話題になり、こんなkansenが居るんですよと義弟が俺の為に国内向けのインタビュー写真を用意してくれた。
実の所妹はキューブ適正者である指揮官であると話してますが、妹の旦那さんにはその事は家族ぐるみで隠しているヘルブスト指揮官。ただし海軍の軍人であると伝えているようで善意で義弟はこんな人もいますよとサディア国内向けの新聞をいくつか指揮官に渡し、それを指揮官は覚えているのでした。だいたいおっぱいのせいです
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄