「君の瞳はどんな宝石よりも美しいね…私が奪い取ってしまいたいくらいに、ね? 」
暖かな日差しが辺りを包み込む休日、タラント近くのカフェテラスにて小柄な女性店員相手に軍服姿のリットリオは薔薇を一輪差し出しながらキザな台詞を口にする。
「困りますリットリオ様。今は勤務中ですし、何より私は既婚者で……」
「おやおや残念。先を越されてしまったかな?しかし、この運命の出会いに変わりはない。どうだ?勤務が終わった後にこのリットリオと夜空の星を眺めながらワインを片手に食事でも如何かな?美しいシニョーラ?」
相手も既婚者と口にしつつも満更では無いようだ。リットリオはその胸元の膨らみはヴェネトさんにも匹敵するのだが、いわゆる男装の麗人と言える整った顔つきのせいだろうか?店内の他の客はまたやってるよ……と言わんばかりに完全無視を決め込んでおり、案外この店では見慣れた光景なのかも知れない。
リットリオがキュッと女性店員の手を握れば、彼女は表情が朱色に染まっていく。ナンパなんて営業妨害もいい所だが最早リットリオはそういう存在だと周知されているのだろう。何人の女性を今までナンパしたのだろうか?何してんだアイツその内刺されても知らないぞ。
さて……アレのせいでこちらは色々と、それはもう色々と悶々とする日々を送ったというのに、流石にちょっとイラッとしてきたので、そろそろ邪魔をするか。
「あー、店員さん。申し訳ございません。この人今から仕事の予定がございますのでお勘定をお願いします!あっ、お釣りは結構!迷惑料としてチップ代わりに受け取って下さいな」
「お、おい!ま…! 」
少々多めの紙幣をテーブルに置きながら引きずるようにリットリオの手を強引に掴むと、俺はグイグイと引っ張っていく。多少の抵抗はあれど、女性店員もこちらを待ち合わせをしていた部下か何かだと思ったらしくスッと…そのまま業務を再開。リットリオの残念そうな顔を見てザマァと少しだけ溜飲を下げながらも、人気のない裏通りに着くと辺りを見渡し、ようやく彼女の腕を放して笑顔でリットリオに話しかける。
「こっちを放置して既婚者相手にナンパに精を出してるなんて、随分といいご身分だな?このナンパ野郎がよぉ……! 」
こんな口調、優しいシュペー辺りには死んでも使わないだろうが、リットリオならまぁいいかと自分を納得させる。軍人としても鉄血からの使者という立場的にも明らかに不味いだろうが、一応総旗艦のお墨付きは貰っているのだから問題ないだろう。これは仲良くなる為のフレンドリーな楽しい会話だ。
「ふむ、逃げられてしまったな……君も、もう少し空気読める方だと思ったんだがな?それに君は以前は私に関しては敬語だったような気がするのだが」
やれやれと呆れながらもリットリオは、こちらを睨みつけて恨みがましくそう口にする。はっはっ、その目を見るだけで、今日はリットリオと会った意味があった。
「二つの質問に答えるよ。敬語に関してはヴェネトさんと2人きりで話した時に仲良くと言われたんだから遠慮は不要と判断したから。それと君がナンパの真っ最中なことも理解してたさ」
「なら、何故?」
2人きりという単語を強調しつつも説明を始め、一旦息を軽く吐くとニッコリとわざとらしく、心の底から最高の笑顔を浮かべつつも俺はリットリオにこう言い放つ。
「分かってるからこそ……空気を読んで邪魔をしたんだよ? 」
「……君は性格が悪いな」
ありがとう、最高の褒め言葉だと受け取っておくよ。
ジト目となるリットリオの視線を心地よく受けながらも見てるだけで気が滅入るような暗い路地裏を見渡すと、辺りには人の気配はない。近くの廃材を足で軽く蹴ると、チュッとネズミの鳴き声が聞こえ、ネズミは素早く姿を隠す。
「ヴェネトさんから聞いたが本当にいいのか?アイツは……例の二番目は居ないのか? 」
「今は首都で大人しく休んでるよ。いや、訓練場で砲撃訓練でもしてるんじゃないか?私の知る限りでは彼女は休むことなく毎日鍛錬を忘れないのだから本当に関心するよ、敵ながらね? 」
それとなく周囲を警戒しながらボソッと呟くと、未だに恨みがましい口調ではあるのだがキチンとリットリオはそう答えてくれた。二番目とは言うまでもなく、現在首都滞在中のロイヤルネイビーのNo.2、ウォースパイトについてだ。
万が一鉢合わせをしてしまえば取り返しの付かない事になるのだからそれは何より。私服の上から羽織ったコートのポケットから袋詰めされたチョコレートを二つ取り出すと、一つを口に含んでもう一つをリットリオに無言で差し出す。
濃厚な甘さが口内に広がり精神が落ち着いていく。はぁ……とため息を吐きながらも諦めたように、リットリオはチョコレートを受け取ると、壁に寄りかかりながらチョコを口に放り込む。
さてと……準備は整った。
「なら話そうか……俺が何を言いたいのかわかるか? 」
「はて?ナンパの極意を聞きたいのか?生憎だが門外不出な上に君にナンパは向いてないよ。だから今すぐ回れ右して帰って貰えるとーー」
「ちげえよ!この前のテルマエの事だよ!なんなんだよ!?アレはよぉ!! 」
完全に分かった上でリットリオはとぼけているので、声を荒らげて抗議を行う。そう、この広いタラント周辺を捜索を行い、ザラさんに出現ポイントに至るまで聞いた上でリットリオを探しだしたのは……いよいよマルタ基地攻略までのXデーが迫るなか、一度彼女と話し合う為だ。
真面目な軍務に関わる事で話し合う機会を伺っていたのも事実だが、何よりも……未だに記憶に残る、ヴェネトさんとのテルマエ外交についての黒幕に一言言っておく必要があったのだから。
ふぅー落ち着けと精神安定の為にもう一つチョコレートを一口。イーグルにポーカーフェイスを身に付けろと口にした日が大昔に思えてくる。仕事の必要があればいくらでも表情は偽ってやるが、今は感情を生でぶつける方がいいだろう。このバカに関しては。
「一週間前、総旗艦殿と話したよ」
「ほう裸でか?」
「あぁ、お前のせいでなぁ! 」
あのテルマエ外交は間違いなく鉄血とサディアの今後の命運を左右する重要なやり取りとなったはずだ。役得といえば本当に役得だったとはいえ、ひたすら煩悩に耐えてヴェネトさんにこんもりと盛り上がった下半身を見られたあの日はとても忘れる事は出来ない。
なによりも、妹を持つ身としても自分の姉を裸にして男と風呂に入るように誘導したリットリオに文句の一つでも言わなければ気が済まなかった。一体この教唆犯は何を思って自分の姉と俺を混浴……は良いとしてもヴェネトさんに全裸になるように誘導したのだろうか?
「だが、あれくらいはやらないとインパクトに欠けるとは思ってね。少なくてもヴェネトが君を警戒してない事は伝わったろ?」
「……いやまあ、あんなもんされたら確かに分かるけどさぁ……でもせめてタオルで隠すくらいはさぁ……!」
ふむ、と少しだけ考え込んだような素振りを見せて口にするリットリオ。またしてもあの日の出来事を思い出しそうになり、股間が軽く反応するがぶんぶんと頭を振って煩悩を退散させる。そんな俺を知ってか知らずか飄々とリットリオは薔薇を見つめながら笑みを絶やさない。
常に相手を出し抜く為の冷静さが問われる外交において、初撃のインパクトは相手から冷静さを奪い、以降のペースを握る為の重要なファクターだ。
確かに、ヴェネトさんの言動からは警戒心が感じられずに、誠実に彼女は全てを語ってくれた。それを言葉だけで無く、身体で証明する事で信頼を示したと言う事なのか……?
「それにヴェネトはな……割と騙されやすいんだ。そして可愛い嘘に騙された時のヴェネトの反応を見るのが、私は好きなんでね」
「お前、本当に最低だなぁ!? 」
「はっはっはっ。あの夜ヴェネトは顔真っ赤にして『いや冷静に考えて裸になる必要はありませんよね!?』と足をバタバタさせていたが、中々良いものが見れたよ。感謝しよう! 」
前言撤回、このバカ完全に姉で遊んでやがる……!
「うら若き乙女である我が姉と、鉄血の指揮官が風呂に入るなんて最高のスキャンダルだと思わないか?ふふっ、これは鉄血の弱みになるかもしれないね? 」
あっはっはと笑うリットリオの顔にそぉい!と市場で見かけたトマトを投げつけたくなる。もう俺の中ではリットリオの評価は女性というカテゴリから既に除外されていた。
「あと、ついでに言えばヴェネトは私の知る限りでは恋愛をした事もなく、間違いなく処女だ。そして、元老院のご老体の中には孫の様な目でヴェネトを見て可愛がっている貴族もいてだな……我が姉が君と風呂に入ったと知ると、元老院は君の首を柱に吊るす可能性も」
「………」
もうやだ!こいつ本当もうやだ!俺こいつ嫌い!!!
流石にヴェネトさんは今後は鉄血とサディア、それにヴィシアを巻き込んでアズールレーンに対抗すると言っていたので、本気で両国の関係が最悪になりかねないこんなスキャンダルを公開するつもりはないだろうと冷静に考えれば理解できる。
それでもどこまで本気かおふざけなのか最早分からん!!ビスマルクさんと同じくらい尊敬すると誓ったヴェネトさんとは違い、リットリオの評価は地面どころか地の底までめり込んでしまった。
俺……生きてサディアから帰れるかなぁ……。
「安心したまえ」
一応ヒッパー達や家族に渡す為の遺書を作戦前に書いておくかと、その草案を考えながら三つ目のチョコをポケットから取りだそうとするが、ヒョイとリットリオに奪われてしまう。抗議の声を上げる間もなく、それを口に含みながら先ほどと違い少しだけ真面目なトーンでリットリオは口を開く。
「私には君達を五体満足で鉄血に返す義務と責務がある。作戦当日には君達は大人しくタラント港で待機して貰いたい。元々サディアが単独で行おうと思っていた作戦だ。さながら私達は猟犬。マルタ基地が敵の巣穴なら、追い詰めるべきウォースパイトはキツネといった所かな? 」
「……そのキツネって本当に大丈夫か?テウメッサのキツネって知ってるか?」
「勿論。サディアはギリシア神話とも縁がある。相手がテウメッサのキツネなら私達は猟犬ライラプスになれば良い。まぁ、私達は石になるつもりは無いよ」
あまりにも自分の勝利を疑わないリットリオに心配半分、皮肉半分にそう告げると、不敵に笑みを浮かべながら返答するリットリオ。
テウメッサのキツネとはギリシア神話に登場する凶暴な人喰いキツネだ。そのキツネは『決して捕まえる事が出来ない』という絶対的な運命が定められており、人々はどの様な罠を張り、どれだけ腕の立つ猟師を派遣しても決して仕留める事は出来なかった。
そんなキツネを仕留める為にやってきたのが猟犬ライラプス。こちらは『狙った獲物を決して逃さない』という絶対的な運命を約束された猟犬だ。
そして『決して捕まえる事が出来ないキツネ』と『狙った獲物は決して逃がさない猟犬』が争った結果、千日手状態に陥ってしまい、最後は第三者である神、ゼウスの介入によって両者は石になってしまい共倒れになってしまった。
「正直な話、私はその神話が好きじゃないけどね。自らの力を否定されてしまい、最後は第三者の手で破滅するだなんて、悲しいとは思わないか?」
リットリオはそう言いながら手元で見つめていた薔薇をクシャリと握りしめる。潰れたバラの花弁が地面に落ちていき、リットリオは苦笑しながらその花弁を一枚拾い上げる。
「運命に定められた道を歩むよりも、このリットリオが歩んだ道こそが未来となる。私とヴェネトが作った脚本はすでに完成し、最終演目の日は近い。ライラプスは石になったが私達は違う。必ずウォースパイトを捕虜に、もしくは撃破してマルタ島を占領し、私たちの未来を切り開こう」
「……クイーン・エリザベスは間違いなく黙ってはないぞ。ウォースパイトに何かが有れば」
「どちらにせよサディア帝国がレッドアクシズに所属して道を違えた。いつかはこの偽りの平和は終わっていたさ。なら、私は先手を打つ。その上で君達を利用してでもロイヤルに立ち向かう。単純明快。ただそれだけのことだ」
リットリオは花弁から再び手を離す。薔薇は既にグシャリと潰れており、最早修復不可能だろう。その薔薇はまるで俺たちの未来を暗示するように思えてきてしまう。
薔薇を元に戻す事が出来ないように、マルタ島を占領し、クイーン・エリザベスの姉妹艦である王族の一人、ウォースパイトを撃破して仕舞えば最早サディアは後戻り出来ないだろう。
文字通りの一蓮托生。ヴェネトさんの言葉が頭の中で反響する。サディアはもう、その先の未来と栄光を掴む為に覚悟を全て決めている。そしてヴェネトさんだけでなく、飄々としているリットリオも戦い抜く為の覚悟は既にあるはずだ。
定められた運命に抗う事が出来なかったキツネと猟犬と違い、自らの手で未来と明日を掴み取る為に。
「ヴェネトさんが言ってたんだ。サディアは決して鉄血を裏切らないって」
そんなリットリオを見て、気がつけば思わず口から言葉が漏れていた。
「あぁ、ヴェネトから聞いたよ」
「リットリオ。あんたに聞きたい。あんたはサディアとヴェネトさんならどちらを選ぶ?」
「サディア」
彼女は一切、迷うそぶりすら見せずにそう言い切る。
「迷わないんだな……姉だぞ? 」
「あぁ、ヴェネトの事は大切に思っている。友人として、姉として、そして一人の人間として、彼女は眩しいくらいに真っ直ぐで……お人好しだ」
だからこそ、とリットリオは拳を握りしめながら迷わずに次の言葉を紡ぐ。
「私達はそんなお人好しの彼女に命を預けている。例えどれだけ謀略を重ねても、内面は馬鹿みたいにお人好しで、繊細で、責任感の塊のヴェネトだ。この戦争でどれだけ傷付く事があっても弱さを見せる事はない。それが彼女の美徳でもあり、欠点でもあるのだがな」
妹が俺にもいるからだろうか?何となくだが、リットリオの言葉に嘘偽りはなく、間違いなく彼女が姉であるヴェネトさんを大切に思っている事が伝わってくる。
「私はヴェネトの為なら躊躇も躊躇いも捨てて笑顔で死地に赴こう。どれだけの血を流して地獄の業火に焼かれようが悔いはない。だから……だからこそだ。私にとって何よりも大切なのは……サディアだ」
だからこそ、軍人として、貴族としての責務を背負う彼女は躊躇いなく姉ではなくサディアを選んだ。そしてヴェネトさんが逆の立場であってもきっとサディアと即答したと何となく理解できてしまう。それは彼女達がお互い信頼し合っている姉妹なのだから。
「この宝石のように青い海を。幾千年もかけて築き上げた文化を。そして何よりもサディア国民を守る為に、このリットリオ。必要なら全てを利用して全てを切り捨ててでもサディアを守り抜くと決めている。それがヴェネトと祖国の為に誓った約束なのだから」
「……すまない。ちょっと言い過ぎた」
「許すよ。私も出来るのならばそうはなりたくない。それに妹としては姉を助けるのも一つの義務なのだから。既にパーティの準備も発注した。次に貴方と会った時はその会場でヴェネトも交えて共にグラスを傾けられる事を祈ろう」
未だにテルマエの事に関して思うところはあるが、姉と祖国のどちらを選ぶ?だなんて難問をぶつけた事に頭を下げて謝罪すると、気にするなと言わんばかりに手を振ってリットリオはそれを止める。
個人としては色々な意味でリットリオの事はあまり好ましく思わないが……少なくても彼女は俺と同じく姉妹を大切にしている事も、そして全てを利用しようがサディア国民を守ると誓った愛国者である事は理解できた。
例えそれが鉄血を利用すると公言していてもだ。寧ろ黙ってこちらを利用しようと模索する相手よりは利害関係が一致する限りは行動を共に出来るのだから信頼できると言えるだろう。
サディアを敵に回す覚悟はあるか?
マインツから最悪のパターンを指摘されていたが、俺はヴェネトさんを。ザラさんを。リットリオを。そして妹の祖国を敵に回す羽目にならない事に安堵を覚える。
そして……戦争だというのに、共に肩を並べて戦えるなんて現在の状況を、嬉しく思っている自分がそこにいた。
「それに、貴方の質問は二択なのだからそう答えたが、常に選択肢が二つだけとは限らないよ。サディアとヴェネト、私はその二つを救いより良い未来を求める為に力を尽くすよ。このリットリオは贅沢なのでね。二つの果実から一つを選ぶのではなく、両方を掴み取る選択肢を最後まで模索し続ける。その第三の選択肢を作り出すのが私の役目だ」
その言葉を最後にカツンと靴を鳴らして、あの時の様に立ち去ろうとするリットリオ。しかし、今度は正面からじっと俺の目を見ているのが前回との違いと言えるだろう。
「それではヴェネトと話し合う事もあるので私はこれで……期待してるよ、鉄血の指揮官」
「あぁ……我が同胞の為に鉄血。そしてサディアの力とならん事を」
「ふふっ、幸運を。またこの件についてはもう少し後で話をしようじゃないか。その時がくれば……わかるはずさ」
「卿、そろそろ時間だ」
夕暮れに染まる海を眺めながら物思いに沈んでいると背後からグラーフの声が届く。
ヴェネトさんとの混浴から二週間が過ぎ、いよいよ今日が作戦当日。
しばらくの間出撃する機会もなく、整備もサディア任せだった為なのか、ヒッパーとシュペーはそれぞれ犬の様に戯れてくる自身の生体艤装の頭を撫でている。
こうしてみれば微笑ましい光景だが、生体艤装は鉄血のkansenからすればペットのような存在であると同時に自身と共に戦う兵器であり、相棒でもある存在。あと、数時間もすれば鋼鉄の咆哮が海に鳴り響き、その主砲がアズールレーンに向けられる可能性があると思えば複雑な気分だ。
思えば鉄血を派遣されてから1ヶ月近くが立つのか。この作戦さえ終わればやっと皆鉄血に帰る事が出来るんだ。何事もなく、サディアがマルタ基地をスムーズに占領し、ウォースパイトの捕縛に成功すれば俺達に出番はないはずだ。
この戦いで間違いなくロイヤルとの抗争は激化していく。今日の作戦だってすれ違ったサディアのkansenも、アズールレーンの人員も、なんなら俺も含めた鉄血艦隊の皆まで命を落とす可能性は等しくあるんだ。
……セイレーンとだけ戦っていられるのならどれだけ楽だったか。なんで俺達は国同士、人類同士で争っているんだろう?
でも……その事を口にしてしまえば、俺の中の何かが壊れてしまう様に思えてきてしまい。同時に必死で未来を掴もうとするヴェネトさん達を否定する事に繋がるのだから絶対に口にする訳にはいかなかった。
「……生き残ろうなグラーフ。全員、絶対に揃って鉄血に帰ろう」
「あぁ、卿も撃つ事を躊躇うな。これは殺人ではなく戦争なのだから。そして自らの命を粗末にするな。自身の言ったその言葉の重み、決して忘れるなよ。戦友」
今は、生き残る事だけを考えよう。指揮能力の低さに懸念はあるが今まで通りに戦えば最悪の事態は起きないと信じたい。そしてヴェネトさんの意図を上層部に伝え、鉄血とサディアを結ぶ礎となる為に何としても祖国に帰る事だけを考えよう。
結局妹と会ったのが、あの一回だけなのが心残りではあるが……ヴェネトさんは妹の身の安全は保証してくれた。
我が同胞のために鉄血の力とならん事を。後顧の憂いは無くなった。あとは軍人としての責務を果たすべく俺はグラーフと共に指揮艦へと向かうのだった。
「以上のポイントで鉄血艦隊は待機、必要に応じてこちらの指示に従ってもらうわ。仮にウォースパイトがそちらのポイントに逃げ出せばできれば捕縛を。無理なら……責任は全てサディアが持つから、容赦なく撃破して頂戴」
指揮艦内のミーティングルームで俺はザラさんと今後のついての最終確認を行なっていた。マインツやグラーフは整備の必要がある為に場所を離れ、鉄血艦隊のメンバーは俺だけだ。
燃える様な赤髪であり、サーベルを携えたスタイル抜群の美女であるザラさん。滞在先のホテルに常駐しており何度も顔を合わせており、プライベートでもサディアを何度も案内して貰っている。
もう少しすればザラさんもマルタから合流するロイヤルの部隊と共にセイレーンの前哨基地に向かうそうで、今回の作戦に於いては重要なポジションを任されている。流石帝国の懐刀と言うべきか……本人はその名称を恥ずかしがっている様だが。
「了解です。それに作戦は少し遅れる事は確定なんですね?」
「ええっ、ロイヤルから合流予定の部隊がちょっと遅れているみたいよ。お陰で作戦は夜に決行。全く……下手に作戦が伸びれば翌朝が大変そうね……」
はぁ、とため息を吐くザラさん。女性にとっては寝不足は美容の敵と言えるだろうし、鉄血でグラーフが寝不足気味にアイスコーヒーを飲んでいる姿を見ていると余り他人事とは思えなかったが……そこにコンコンとドアをノックする音が。
ドアが開くと目の前にはザラさんと瓜二つの青髪の女性が……姉妹なのだろうか?それにしても。
(でっかいなぁ……)
一瞬で胸元から目を離したのだが、ザラさんと勝るとも劣らない爆乳だ。ミチミチに詰まった胸に服は悲鳴をあげている様に思えてしまい、不意に下半身が反応しそうになるがそれを鋼の意思で制御する。
「ザラ、そろそろ時間よ……っとあなたが例の?」
「ああ、ごめんなさい指揮官。そういえば紹介がまだだったわね。こっちは妹のポーラって言うの」
「ポーラよ、あなたが噂の鉄血の指揮官ね?よろしくお願いするわ」
差し出されたポーラさんの握手を受け入れるも、彼女の口から漏れた何気ない一言に内心背筋が凍りつき、心臓はバクバクと音を立ててしまい、思わずぎこちない握手をしてしまう。
う、噂ってまさか……テルマエか…!?
「ええっ、こちらこそ宜しくお願いします。それと……因みに噂とは?もし良ければ教えていただけると嬉しいのですが」
「貴方ってサディアのkansenの中ではそこそこ噂になってるのよ?一番有名な噂なら……幹部のグラーフ・ツェッペリンと深い仲」
「あっ、それはないです」
即座にグラーフとの関係を否定をすると同時に安心する。よかった……テルマエは広まっていないんだ……!
「冗談……というかあくまでそれは噂に尾ひれがついた感じね。鉄血からやってきたのは若い指揮官。ビスマルク閣下から信任を得てるはずなんだから優秀な期待のホープに違いないって所かしら?少しだけサディアのkansen内の話題になっているのよ?知らなかったかしら」
全く知らなかった……内心驚きを隠せないが客観的にみれば20歳の自分がここに派遣されたのは、よほど優秀な人物だと勘違いされてもおかしくないだろう。
だけどその噂は間違いだ。たしかにビスマルクさんの指示によって派遣されたが、どちらかといえば今回の派遣で重視されたのはグラーフという空母の存在であり、あくまで俺が派遣されたのはグラーフの指揮官だからに過ぎない。
同時に今回の訪問はマインツ曰く、今までの功績を以てサディアの妹に会うための時間を作ってくれたから。そして妹がサディアに嫁いだ指揮官という、美談になり得る俺の家庭事情が政治的なメッセージになると判断された事が決定打となっており、決して俺の力ではない。なにより俺自身が指揮能力の低さに今も悩んでいるのだから。
「そのですね。こんな作戦の前に言うのもダメとは思いますけど噂は噂です。皆さん買い被り過ぎですよ」
「あら、随分謙虚なのね?でも、謙遜のしすぎは良くないわよ?」
あくまで謙遜と考えたのかポーラさんはそう指摘するがそうじゃない。そうじゃないんだ。
「自分の実力は自分が一番知ってますし、自分は至らない事だらけですよ。それでも今まで成果を上げられたのは自分ではなく、艦隊の皆……鉄血艦隊の同胞のお陰です」
それこそが俺の本心だ。もしグラーフ達と出会う事が無ければ間違いなく、ここまでの活躍は出来なかったはずだ。俺の指揮能力の低さだけではなく、様々な面でフォローをしてくれるグラーフ達には感謝しても仕切れないし、それが俺の実力だとは口が裂けても言えるはずが無かった。
今まで生き延びられたのも彼女達のお陰だ。だからこそ俺に出来る事なら何をしてでも、彼女達から、失望されずに認められる指揮官になりたい。そして……勿論簡単には死ぬつもりはないが、例えグラーフとの約束を破る事になるとしても、最悪は自分の命に替えてでも、指揮艦で肉壁となってでも彼女達を生き延びさせて、鉄血に帰還させると決意しているのだから。
「そこまで信用も信頼もできてるなんて…仲が良くて羨ましいわね」
「信頼関係……そうね、私は本部直属で動いているから経験はないけど、誰かの麾下に着くなら貴方みたいな人の所につきたいわ」
「きっと、貴方達二人にもいい人がいますよ」
ふふっと笑いながら姉妹は優しく微笑んでいる。貴方みたいな人なんて言うが、努力こそしているとはいえ実際の俺の指揮をみればきっと絶句するんだろうな……なんて苦笑しながらも目を細めて。最後に告げる。
「そうね。サディアにも何人か指揮官がいるけどそう願いたいわ……じゃあそろそろ時間だから向かうわね。チャオ、それではまた会いましょう」
その言葉を最後に彼女達は連れ立って立ち去り、パタンとドアが閉まると静寂が部屋を支配する。
「……信用と信頼……裏切らないようにしないとな」
この作戦は間違いなく歴史を変える。アズールレーンとレッドアクシズの対立は表面化して、ジッツ・クリーク。座り込みだけの戦争の時間は終わり、本格的な戦争の渦に巻き込まれていくだろう。
このサディア滞在で守らないといけないものは自覚できた。
守らなければいけないものも増えてしまった。
失いたくないものは幾らでも増えていき、それを失う恐怖で胸を掻きむしりたくなる。
それでも……やらなければならないんだ。この戦争を少しでも早く終わらせる為に力を尽くそう。そして今はそんな難しい事を考えずに、明日を迎える事だけを考えよう。
ポケットに残った最後のサディア製チョコレートを口に含む。少し溶けてしまった小さなチョコレートは、そんな俺に少しだけ勇気を与えてくれる。また生きて帰れば大量に購入してお土産として鉄血に持って帰るとするか。
---鉄血、及び◆◆◆、◆◆◆◆の介入を確認。
第◆◆◆◆◆◆◆◆◆世界
事象名 ◆ラン◆空◆
未知の変化を多数確認、未観測の展開を予測。
観測優先度 C→B+に修正。
観測の許可ーーー了承。
介入行動の許可ーーー拒否。
個体名◆◆◆◆◆◆◆◆観測を開始する。
「さぁ始めようか!闘争を!オマエ達は定められた運命を乗り越えられるのか!?その先にあるのは希望か!?絶望か!?こんなに珍しい観測は久しぶりなんだ、楽しませてくれよぉ!」
全ては世界と人類のより良きの未来のために。
この観測がその礎になる事を私達は願おう。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄