鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第二話 同胞

 すっかり日も陰り、午後の光がいくらか薄れ、辺りに夕暮れの気配が混じり始めた頃、スタンドガラスな窓からの漏れるオレンジ色の木漏れ日を身に受けながらも、俺は黒い軍服に身を包み、自身に与えられた部屋を眺めていた。

 

 白い大理石で作られた壁に、鮮血の様に赤いカーテンや絨毯。大量の書籍に空のファイルが詰まった巨大な本棚の横には、大きなノッポの古時計がカチカチと時を刻み、備え付けられたバルコニーからは光が差し込む。

 

 竜殺しの英雄ジーク・フリートが邪竜ファフニールに立ち向かい、勇士ベーオウルフが巨人の腕を切り裂く場面。他にも公王陛下の海賊と呼ばれたルックナー伯爵といった、煌びやかな物語の英雄や、第一次セイレーン大戦にて活躍した鉄血の英雄達の雄々しい戦いの場面を書き残した絵画が夕暮れの光で照らされているのは何処か幻想的だ。

 

 備え付けられたベルを鳴らせば、無料の軽食が数分で提供されており、つい先程も砂糖とミルクたっぷりなココアと、ローストされた鶏肉とトマトのサンドイッチに舌鼓を打ち、乗せていた食器類がテーブルの上に放置されている。

 

 満たし至れり尽くせりな環境。

 

 鉄血の高級ホテルのような内装の部屋が自身に与えられた私室である事を再確認し、昨日まで過ごしていた安宿の硬いベッドとは比べ物にならない、ふわふわのベッドに腰掛ける。

 

 正に自分の待遇は20歳とは思えない破格のものだろう、それもそのはず自分の地位はこの基地の責任者であり、今の俺はエリート街道まっしぐら。

 このままいけばきっと鉄血海軍の幹部になって数万人の部下や、多くのkansenを率いて大艦隊を指揮する事になるかも知らないかもな!なんーて、わっはっはっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いける……いける!やれる!やれる!大丈夫、大丈夫だ……絶対絶対絶対失敗しない、してはいけない、いけないんだ、俺は出来る、俺は出来る、俺は出来るそうだやれる……! 」

 

 

 そんな恵まれた、恵まれ過ぎている部屋を優越感や達成感を感じる間も無く、俺は着替えもせずにベッドの上でゴロゴロと転がり新品のシーツをぐちゃぐちゃにしつつ、ただひたすら、ひたすら自分を鼓舞し自己暗示をかけていた。

 

 遊ぶ事を放棄して教本を見つめ、友人も作らずに訓練を行い、色恋をする事もなく部屋に篭って徹夜で勉強、勉強、また勉強。全てを犠牲にして我ながら灰色の青春を送る事になっていた事に関しては後悔はしていない。

 

 祖国のため、人類の敵であるセイレーンからこの海を守るため。鉄血の国民全員に行われた検査で15歳の頃にキューブ適正があると軍に宣言されてからと言うものの、青春全てを軍に捧げてきた日々。

 

 数百万人の内の一人とも言えるキューブ適正を持っていると言われた時は、自分が選ばれた特別な人間だと思ったものの、何度も打ちのめされ、何度も挫折する。自身より優れた指揮官は国外問わず何人もいると知った今はそんな思惑は粉微塵に粉砕され、寧ろ自分は本当に指揮官としてやっていけるのか?と訓練を終える直前になるにつれて、何度も、何度も自問自答を繰り返す日々。

 

 それでも……今ここで自分を否定すれば、5年間の訓練はなんだったのか?あの辛くて厳しい日々を耐え抜いたのは全てこの海と、家族を、鉄血の未来を守りたいと思った覚悟。今の自分を否定するのは、高い税金を掛けて自身を育ててくれた教官や祖国の想いを否定する事に繋がってしまう。 

 

 なら自分のやるべき事をやろう。

 

 補給基地に配属が決まり駆逐艦のkansenの指揮を取る事も決まっていた。そこから軍属としての一歩を歩み、経験を得て最終的には艦隊を率いるくらい出世してやる!!と覚悟を決めたのがつい一週間程前だった……のだが。

 

 

 

(唐突だけど、貴方に新たな基地の代表になって欲しいの)

 

(これは幹部である空母グラーフ・ツェッペリン直々の指名よ。貴方は補給部隊ではなく、基地の司令に選ばれたのよ)

 

(一応、辞退は許されるけど……逃げ道を塞ぐ様だけどこれだけはハッキリとしておくわ。これがどんなにすごい事なのか、そしてグラーフ・ツェッペリンがそこまで貴方に期待している事だけは理解して頂戴)

 

(部隊に関してはグラーフ・ツェッペリンも含めた三人のkansenを指揮して貰うことになる。書類はまとめておいたわ、場合によっては更に部隊を送る事になるのだから、今の内に覚悟を決めなさい)

 

(では……コホン。鉄血海軍kansen代表ビスマルクが告げる!ヴァイスクレー・ヘルブスト!貴官はこれよりキール軍港に新設されたキール第三基地にて、司令として着任する事を命ずる!)

 

(鉄血公国に忠誠を!守るべき祖国と民に忠誠を!支えるべき軍と同胞に忠誠を!偉大なる公王陛下に忠誠を捧げよ!そして、我が同胞のために鉄血の力とならん事を!)

 

(ふぅ……貴方にとっては不安かも知れないし20歳って年齢が若いとは理解してる。何か困った事が有るのなら私に連絡しなさい、命じた責任もあるのだから出来る限り私もサポートをさせて貰うわ)

 

 

 

 ……こうして、頑張りなさいとビスマルクさんに肩を叩かれ、あれよあれよと話が進み、気がつけば自分はこうして、基地の代表になっていた。

 

 喜びよりも困惑。

 

 期待よりも不安。

 

 

 喉は石を無理やり詰め込んだかの様に息が詰まりそうになり、思考回路はマイナスに振り切り、不安感で夕暮れに染まるバルコニーから身を投げたくなる衝動に襲われる。吐き気は流石に治ったが緊張で今も冷や汗が止まらない。いっそ殺してくれという言葉を吐かない様に枕を口に含みながら、言語にすらならない叫び出したい衝動を必死に抑えている。

 

 

「ただまぁ……やるしかないよなぁ……」

 

 

 辞退が出来るのであればあそこで無理です!と言えばよかったが、我ながらこの海を護りたいと思う気持ちも祖国の為に尽す思いも本物であると自負している。

 

 自分より凄い指揮官は何人もいる中なぜ、グラーフ・ツェッペリンさんが指揮も下手で、取り分け優秀でもない自分を推薦してくれたのかは理解出来ない。

 

 それでも、グラーフ・ツェッペリンさんが俺を選んでくれた事を後悔して貰わないように、恥を欠かせないようにと、よろよろとベッドから跳ね起きる。

 

 どうしてこうなった!!なんてもう言うのは辞めた、今更もう悔やんで後悔しても意味がない。それでも吐き気に襲われるがもう前を向くしかないのだから今やるべき事をしよう。

 

 ……もうどうにでもなーれ!!と自暴自棄になった訳では無いとはずだ。大丈夫、でも一応自己暗示を後2回くらい掛けておこう。

 

 

 大きなのっぽの古時計を見ると現在時刻は17時、19時になればこの基地に所属するkansenと執務室で顔合わせになる予定だ。

 

 ふぅーーと深呼吸をして服を整え、このまま部屋でゴロゴロするよりは執務室を先に見ておくかと、早めに執務室に向かおうとドアに手をかけると。

 

 

「ピヨ! 」

 

「ピヨヨ! 」

 

 

 

 ドアを開けた瞬間、ぬいぐるみサイズのヒヨコ型の奇妙なデフォルメ化された謎の生物が数匹ドアの前に現れ、箒を片手にこちらに小さな手で敬礼をしてきた。

 

「あぁ、ご苦労様。サンドイッチ美味かったよ、皿の片付けとシーツの掃除だけお願いね」

 

「ピヨッ! 」

 

 

 代表なのだろうか?鉄血の黒い帽子を被ったヒヨコが敬礼をすると、トテトテと部屋の中に入ると手際良く掃除を開始する。

 

 

 セイレーンによる技術まで流用する事により、鉄血が誇る科学力で作り上げた、高性能ヒヨコ型ロボット『マンジュウ』。

 たしか名前の由来は東煌だか、重桜出身の菓子にシルエットが似てるからだったはずだ。

 

 その可愛らしい風貌に似合わず掃除、料理、洗濯といった機能だけではなく、電気銃をもってこの基地を警備するマンジュウや、演習における仮想敵に、整備や通信室の設定、なんなら俺が搭乗する事になる指揮艦の操縦と正に何でもありなロボであり、今もアップデートによってその性能は日々向上している。

 

 生産性に難があるのか今はまだ数は少ないものの、鉄血の官民問わず人材不足を補う事を期待されている『マンジュウ』、そんなロボが百匹近く動員された初めての基地がこのキール軍港第三基地だ。

 運営や防衛ではなく基地を維持なら無人でも可能で可能となっており、俺の仕事の一つがこのマンジュウの管理……なのだが。

 

「ピヨ! 」と言いながら飲料を備え付けられた冷蔵庫に補充をし、「ピヨヨ! 」と言いながらシーツを整え、「ピヨッ!」と頭の上に皿を乗せながらキッチンに向かい、それらのマンジュウを「ピヨ!ピヨ!ピヨヨ! 」と命令を出す現場監督の帽子を被ったマンジュウの姿。

 

 

 

 ……逆にこの1日はあらゆる面でマンジュウに世話をやかれ、どっちが管理されているのか分からなくなったと思いつつ、俺は部屋の掃除を任せ、未だに緊張で吐き気を少し堪えながらも執務室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室の前に立つとふぅ…と深呼吸をしたうえで心臓に手を当てる。バクバクとした鼓動が手から感じ、気持ちだけではなく身体までもが緊張をしていると再確認。

 

 正式な基地の司令としての着任は明日、あくまで今日は自身の引っ越し、そして自分が指揮する事になる面々との顔合わせの為の時間だ。

 

 

 なので、出来る限り失敗はしないように配備される事になるkansenの名前と記録は昨夜の内に徹夜で一言一句覚えてきた。

 自分ははっきり言ってバカだ、だからこそ失敗を最小限にする為の補完する事を惜しんではいけないのだから。

 

 それに自分が指揮をする事になるkansenの中には、自分を推薦してくれた鉄血の幹部グラーフ・ツェッペリンさんも存在している。第一印象は大切だ、せめて嫌われないように完璧な挨拶をしよう。

 幸い彼女達と会うまでの時間はまだ2時間もある、執務室で練習を行い、自己紹介の失敗がない様にしなければと誰もいないはずのドアに手をかけると。

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 赤いマフラー、そしてその身に似合わない凶悪な腕型艤装を身にまとった銀髪の少女、アドミラル・グラーフ・シュペーが意外そうな声を出し,

 

「……はぁ? 」

 

椅子に座る小さな、小学生くらいの身長の金髪少女、アドミラル・ヒッパーが勝ち気そうな瞳をこちらに向けて胡散臭そうに見つめてきて。

 

「ほう、早かったな卿。予定では19時なのだから30分前に来るだろうと思っていたが」

 

 美女が……腰元まで届く長い銀髪を持つ、腕を組んで壁に寄り掛かる爆乳の美女、グラーフ・ツェッペリンが赤い瞳をこちらに向ける

 

 

 

 

 

えっ…えっ…!?

 

 

 

 

 

 なんで、こんなに早くkansenの皆が集まっているんだ!?と一瞬パニック状態に陥り、慌てて腕時計を確認すると時刻は17時10分、ポケットの中に折り畳んだ予定表を見ても時間は間違ってはいなかった。

 

 そうだ……執務室に既に相手が集まる可能性を考慮する事を忘れていた……!?

 

 心臓が早鐘は最早最高潮、体に沁みる様な緊張に襲われて息苦しさが止まらない。

 慌ててドアを閉めて退散や、顔色を変えてなんでぇ!?と絶叫しなかったのは、少なからず指揮官としての訓練の賜物だったんだなと今更ながら感謝する。

 

 落ち着け、落ち着け俺、顔合わせの最後の練習がしたかったもののそれは既に何日も前から練習したじゃないか。

 口内の舌を軽く噛んで気持ちを落ち着かせながら先ずは挨拶を!

 

 

 

 

「はじぇめまちっ!? 」

 

 

 噛んだ。

 

 

 第一声で噛んだ。

 

 

 もう、これ以上にないってくらいに、100人が見れば100人がそう認定する程に見事に噛んでしまった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「卿……」

 

「えっ、と……指揮官、大丈夫?緊張してるの?ごめんね、皆で先に集まって話がしたかったから」

 

 

 

 

 

 

 

 そっかー、精神を落ち着かせても身体は落ち着いてなかったのかー、おかしいな練習だと上手くいったんだけどなー、威厳も何もあったもんじゃないなーはっはっはっ、あぁもう……死にてぇ!!

 

 相変わらず無言のアドミラル・ヒッパーさんの視線が痛い、哀れそうにこちらに目を向けるグラーフ・ツェッペリンさんの視線も痛い。

 グラーフ・シュペーさんは心配してくれるも逆に心が痛くなる。

 

「す、すいません……その腕はアドミラル・グラーフ・シュペーさんですね?ありがとうございます。改めて、はじめまして、明日からこの基地の指揮官として着任する事になるヴァイスクレー・ヘルブストと言います、まだ若輩な身ですがよろしくお願いします」

 

 最早口調は丁寧語になっていた、当初の予定と違って威厳のある雰囲気を出す事は最早不可能。

 というか今の一瞬で徹夜で覚えた挨拶の方法全てが吹き飛び心が今も折れそうだ……

 

「その、名前も長いから私の事はシュペーでいいからね?顔色悪いけど大丈夫?医務室、行ってみる? 」

 

 そんな事を知ってか知らずか、目の前のシュペーさんは心配そうに声をかけてくれる、なんだこの子は天使か?シュペーさんの優しさに癒されつつも、シュペーさんの目が明らかに小さな子供を心配する保母さんのような目になっている事で余計に心の痛みが増幅されていくのだが。

 

「というかあんた、何でシュペーの腕と名前を知ってるのよ。司令書には名前は書いているけど写真は載ってなかったはずよ」

 

 なんて、俺と同じくどこからか司令書を取り出したアドミラル・ヒッパーさんは、片手でヒラヒラと該当ページをこちらに向けながら胡散臭そうに話しかけてくる。見た目は小学生と勘違いしそうになるが彼女も鉄血の海を守る立派なkansenだ。

 

 考えてみれば顔写真もなく名前だけしか記されていない司令書だけで即座に誰が誰なのかを把握するのは少し気味が悪いはず、そう言う所も含めてまだまだ自分が未熟な事を再確認しながらもその問いに答えてみせる

 

「それに関しては先日戦史研究室で資料片手に出来る限りあなた方の資料を調べさせて頂きました。あっちには写真もありますからね」

 

 完璧な第一印象を与えるために一日かけて本人のプロフィールだけではなく姉妹艦についてまで、相手の事を調べ尽くそうとしたが、考えてみれば、これはストーカーの手口ではないか?と今更ながら後悔する。

 なんなら一度遠目から見てみるかと思って彼女達に会いに行こうともしたが、本当にそれは辞めておいて正解だった……

 

「なら、私の調べた事について今すぐ話しなさい!何処まであってるかどうか確かめてあげるわ! 」

 

 売り言葉に買い言葉でこちらを指さすアドミラル・ヒッパーさん。これは彼女なりの試験なんだろうか?最早威厳もへったくれもない状況だが、ここで不信感を持たれてしまうのは堪忍願いたい……既にただでさえマイナスポイントが溜まっているからもうこれ以上下がりようが無いと、少し楽になっている自分がなんだかダメ人間に見えてくるが。

 

 

 

「それでは……重巡アドミラル・ヒッパー級1番艦アドミラル・ヒッパー。

適正は近距離戦闘、セイレーンとの交戦経験は14回、MVP経験7回、小破経験は5回、大破経験が1回。

 

大破経験は9回目の戦闘にて突出した駆逐艦Z23をセイレーン重巡洋艦Bishopの攻撃から身を挺して守ったのが要因。

 

戦闘に関しては自身の周辺にシールドを浮かべて防衛しつつ、確実に仕留められるキルレンジまで近づき、仕留める戦法を多用している」

 

 

 

「ふーん、出来る限りあなた方の資料を調べさせて頂きましたなんて言い出すし、粗があるなら追及してやろうかと思ってたけどよく調べてるじゃない。じゃあ7回目の戦闘で私が魚雷で戦艦を仕留めた時の事も知ってるわけ? 」

 

「7回目は敵戦艦Rookの砲塔をシールドで塞いで暴発させたうえで、姉妹艦プリンツ・オイゲンさんが撃破だったような……」

 

「なるほどね、試しにカマにかけてみたけどちゃんと調べてきたって事は認めてあげる。あと、私は丁寧語とか抜きでヒッパーでいいから。ヒッパーさんなんて呼ばれて調子が狂うっての」

 

 7回目の戦闘で魚雷……!?と言われた時は間違っていたのか?と不安になったものの、どうにか正解を導き出す事に成功した様だ。

 ふふんっと言いながら少し機嫌の良さそうにもう一度座るヒッパーさ……ヒッパーを見ながら。

 

 (性格面はやや苛烈で敵を撃破する為に突出してしまい、小破判定の内4回もその為……苛烈だから正直初対面でキツい事を言われる覚悟をしていたけど意外だ)

 

 なんて言わなかった自分を褒めてあげたい。正直な話苛烈な性格と記述されていた時は心が折れるのでは無いか?と割とヒッパーを警戒していたのは秘密だ。

 

「じゃあ、私も呼び捨てにしてね指揮官。

それに私も知りたいな。ヒッパーちゃんみたいに、全部の戦闘を暗記してるわけじゃ無いけど折角だから」

 

 ヒッパーが座ると今度はシュペーが興味深そうに俺を見つめてくる、これは……もしかして全員分言わないとダメな流れになるのか?と思いつつ記憶を呼び起こす為に頭の中をフル回転させる。

 

 

「シュペーさ……シュペーだね?重巡ドイッチュラント級3番艦アドミラル・グラーフシュペー

適正は援護と中距離戦闘。

セイレーンとの交戦経験は9回、MVP経験0回、小破経験は2回でそれ以上のダメージの経験はなし。

戦闘に関しては、援護や共同撃墜を積極的に行なっており、フォローしながら戦う事を優先している」

 

 

「MVP経験は、そういえばなかったな……ちょっと悔しいけど大体そんな感じかな?姉のドイッチュラントが、派手に暴れるからそのフォローをしてる内に身体に染み込んじゃった」

 

(性格は温厚ながらも常に艤装を装備しており、コミュニケーション能力にやや難があり…とまでは言えないよなぁ)

 

 

 ありがとう指揮官と言いながら恥ずかしそうにしているシュペーを見ていると、この子は口数が少なくて、大人しい性格ながらも基本的に良い子である事がよく分かる。

 それにしても流石に主砲は装備してないものの、なんで凶悪な見た目をした手の艤装は常に付けているのだろうか?

 

「卿?我にはないのか? 」

 

 なんて考えていると案の定グラーフ・ツェッペリンさんが物足りなさそうに話しかけてくる。この人が俺を基地の司令に推薦してくれた人であり、鉄血海軍における唯一の航空母艦。

 そして代表であるビスマルクさんの右腕とも言える地位である最高幹部の一員で、彼女が威圧してない事は分かってはいても、どうしても背筋が寒くなる感覚に襲われる。

 

「申し訳ございま……」

 

「先程から気になっていたが、卿はこの基地の司令であり、代表なのだからもっと胸を張れ。

 我の事は、シュペーやヒッパーと同じ呼び方や待遇でいい。もっともツェッペリンとは呼び慣れていないのだから、グラーフの方が望ましいが」

 

 謝罪をしようとした所、無表情ながらも励ましてくれているのだろうか?グラーフ・ツェッペリン……グラーフは、いや、やっぱり難しいなこの人を呼び捨てで呼ぶのは。

 とはいえここで丁寧語を続けていても相手の心情を害するのであれば、相手がそう望むのなら自分はそうするだけだ。

 

 この基地では、実質的に俺が代表ではあるものの、鉄血海軍の代表として人やkansenも含めた海軍の中で最上位の地位にいるのが目の前の女性。そんな複雑な立場を自覚しつつ、コホンと咳払いをして口を開く。

 

 

 

「航空母艦グラーフ・ツェッペリン級1番艦グラーフ・ツェッペリン。

現在は、敵対しているもの重桜の空母赤城の設計を元に生み出された鉄血唯一の空母。

適正は爆撃による面制圧。

セイレーンとの戦闘回数は4回、その二つの戦いを全て無傷で乗り越え、MVPを4回とも会得した。

演習に置いては、巡洋艦シャルンホルストとグナイゼナウの二人を相手にしてシャルンホルストの武装を無力化し、判定勝利の経験あり

戦闘に於いては、雷撃よりも爆撃を好み、集中運用をした場合の命中率は70%を超える」

 

 

 

「命中率に関しては、正確には73%だ、最も……重桜の空母は85%を超えているのだからまだ我も未熟と言える」

 

(そして、性格面は……不明というか個人的な趣向に関しては全て非公開なんだよなぁこの人)

 

 唯一ヒッパー、シュペーに関しては嗜好や交友関係に至るまでの資料があったもののグラーフに関しては微塵も資料が見つからなかった。

 鉄血が誇る最新鋭空母であり、理解出来るのは余程優秀な人材であると言う事のみ。

 

 以上の三名がこのキール第三基地を防衛するkansenであり、三人共どの戦史記録においても優秀だと太鼓判が押されているエリートなkansen。

 ひとたび戦場にでれば単独で小規模なセイレーン艦隊であれば撲滅しかねない程に優秀な面々。

 

(なのにそれを指揮するのが20歳の若造……しかも戦闘経験は無し、それでもやるしかない、やるしかないんだ)

 

むすっとした表情のヒッパー。

 

じっと、こちらの目を見つめてくるシュペー。

 

そして、その表情からは感情を読み取れないグラーフ

 

彼らの期待を裏切らない、そして

 

 

 

 

「ヴァイスクレー・ヘルブスト、年齢は20歳。出身はフランクフルトで15歳の時にキューブ適正があると診断されて指揮官となる為に今まで教育を受けていました。

戦闘経験は無し、演習においては攻勢が苦手であると教官から指摘を受けています。

そして……この海の平和を、セイレーンから守る為に自分は指揮官を志しました」

 

 

 

 この海の平和をセイレーンから守りたい、セイレーンによって死にゆく軍人に焼かれてしまった街。幼い頃からラジオで連日流れてくるその理不尽に憤っていた日々、そして自分に適正があると認められた時は涙が出るほど嬉しかった。

 

 家族と別れ、軍による教育を受け、挫折も無力を痛感して泣く事も何度も経験している。自分は才能の塊ではないと既に理解はしてる。

 でも守るべきものを守れる力が、この身に宿っているのなら……

 

 

 

「まだまだ非才ではあると思いますし、自分……俺には経験が足りない、そして頼りないと思われても仕方ない事は理解しています。

それでも、俺を信じて下さい。絶対皆さんを裏切りません、絶対皆さんを死なせません、絶対皆さんを守ります。その為に、俺に力を貸してください! 」

 

 

 

 

 深々と、本心から三人の女性に頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり夜の闇が部屋を包み込む時間、服を乱雑に脱ぎ下着姿でベッドに倒れ込んだ俺はまるでマラソン大会に出場したかの様な疲労に襲われていて、口を開く事すら面倒になっていた。

 

 その後は三人にこれからよろしくお願いしますと声をかけ、握手を……シュペーの場合は指を掴むことになってしまったが、終えて明日の正式着任に合わせて解散したのだが、正直あれで良かったのかどうか。

 

 正式着任前の疲労で今日は良く眠れそうだ、明日からは正式にこの基地の司令として働く羽目になる。出撃命令をうければ出撃を行い、数多くの書類と悪戦苦闘しながらあの三人に認めてもらう事を急がなければならなくなる。

 

「失敗したなぁ……あそこで噛まなければもっと威厳のある指揮官として見られたのかな? 」

 

 取り分け、シュペーに医務室に行ったほうが良いと言われるほどに露骨に顔色が悪くなった事がショックだった……もっとポーカーフェイスを学ぶべきだった、あの三人にかっこよく、威厳に満ちた自分をアピールする事は不可能だろう。

 夜の月明かりが照らす鉄血の英雄達の絵画を眺めながら自分は彼らの様な英雄にはなれないんだとため息を吐く。

 

 まぁ、やるべき事をやるだけだ。セイレーン戦はあの三人がいる限り自分の指揮さえ間違いなければ生き残る事は出来るはず、ネームドと呼ばれる人間と意思疎通が可能なセイレーンや、敵対関係にあるアズールレーンに関しては……まぁその時がくれば考えよう。

 

「もう口に出してしまったんだ……だれも死なせないと、なら約束は守らないとな」

 

ーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を。

 

 鉄血海軍に所属する様になった初日に、教官から真っ先に教えられた言葉であり、ロイヤルの様な王家の為ではなく、ユニオンの様な自由と正義でもなく、ただ公王陛下も軍人も民も含めた鉄血に所属する全ての同胞の為に力を尽くす護るべき目標。

 

 自分もいつかはあの三人から同胞だと思われるような指揮官にならないと……なんて想いながら毛布に包まり、バルコニーからの月明かりを見ながら俺の意識は暗転していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不確定要素ね、確実に私たちの目的を成す為には邪魔な存在。なら……答えは一つよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本小説は一週間に最低一度は投稿できると思います

そして今回からは不定期に用語解説も行います

kansen
正式名称Kinetic Artifactual Navy - Self-regulative En-lore Node
「動力学的人工海上作戦機構・自律行動型伝承接続端子」
人類種を襲う謎の敵セイレーン。世界各国が国際組織アズールレーンを結成し、対抗する第一次セイレーン大戦中に技術研究により産まれた(と劇中では信じられている)メンタルキューブにより産み出される「人の姿をした艦船」であり、セイレーンに対抗する為に生み出された生体兵器の女性達。基本的には老けずに寿命は不明であり、産み出された時からその姿であり、体型の変化もほぼ無い為に爆乳であってもクーパー靭帯は傷つけられずに胸が垂れるといった変化がしないという公式設定も


戦後は各国によりセイレーンによる脅威が残る中、それぞれの国によって独自の対応が取られ

・政治的・軍事的に人類の王家とほぼ同じ待遇となり、議会に於いても無視出来ない権力をkansenの代表である女王クイーン・エリザベスに与えられたロイヤル王国(イギリス)

・宗教的な側面と融合することにより軍でありながら宗教指導者の地位である枢機卿を与えられたアイリス教国(フランス)

・ロイヤル程ではないものの元老院からの信頼を得て議会に発言力を持つサディア帝国(イタリア)

・公王、宰相を中心とした軍事独裁政権であり、独自の技術研究を認められ世界一の科学力を持つ国家となり、陣営代表であるビスマルクが実質国の命運を握る事になる鉄血公国(ドイツ)

など国によっては軍事だけではなく宗教や政治においてもkansenはその役割を担うことになっていく……


さて次回はいよいよ正式着任となった指揮官の姿が…ご期待ください!

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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