夜の海に次々と響き渡る空気と共に脳を揺さぶる轟音の数々。爆薬を満載にした飛翔体は上空より疾風のように飛来しており、こちらの港を焼き払わんと編隊を組んでいるが、待ち構えているBF-109Tの機銃や必死に迎撃するヒッパー達の対空砲によって次々と破壊されていく。
爆ぜるような爆発と共に煙を吐いて海に墜落する敵艦載機。炎に包まれたそれはまるで流星や隕石のようだが、綺麗だなんて思う心の余裕は俺には一切なかった。シールドで覆われた指揮艦内ではマンジュウたちがピヨピヨと忙しなく動き回りそれぞれの仕事を果たす中、俺は息苦しさと共に左胸を押さえて椅子にドカリと座り込む。
「危なかった……!」
背筋は凍りつき、手汗どころか全身が汗でびっしょりと濡れている。あと少し、あと少しでも発見が遅れていれば……そう、あと5分でも遅ければ確実にタラント港は火の海と化していただろう。
敵は本気だ。飛来する敵攻撃機、爆撃機の数はそれまでグラーフの戦闘を何度も見てきたというのに明らかにグラーフと比べれば数倍以上の数だと思えてしまう。捕虜となったイーグルのデータを見たことがあるが、ペイロードの余裕がロイヤルと鉄血にそれ程違いがあるとは思えず、恐らくあの空母は限界ギリギリまで、戦闘機を装備する余裕すら捨て去りタラントを焼くだけのためにあれ程の数の爆弾と魚雷を詰め込んでいたんだろう。
最初の奇襲攻撃を防いだ事実に安堵することもできない。敵も上手なのか数の暴力によって無理矢理こちらの防空網を切り抜ける。クソッ!と悪態を吐きながらも、少数でもタラント港に向かっていく敵艦載機を見るたびに直接、心臓を手で握り潰されるかのような感覚に襲われる。
グラーフがまた敵爆撃機を叩き潰す。ヒッパー達が放つ対空砲によって敵攻撃機が海に墜落していく。同時にタラント港では、既にこの位置からでも狂ったような戦闘音に負けることなく、海にまで轟くサイレン音が鳴り響いており、現地の住民は避難の用意を、そしてサディア海軍は次々と迎撃体制に。
サディア海軍も負けじと祖国を守るために対空迎撃を行なっており、タラント港に配属されていた無人艦や対空砲台だけではなく、複数のkansen達も空を見上げて対空砲を放っている。空を覆う弾幕によって少しずつ上空に火の玉を作り出すことには成功しているようだが、しかし、シュペーやヒッパーと比べるとかなり命中率は低く思えてしまう。
それはサディアが軟弱ということではなく、空母との戦いを想定した訓練が乏しいからだろう。
なまじ空母を保有していないからこそ、実戦形式における対空砲の性能が優れていないこともあるかもしれない。しかも現在は夜間だ。空は既に暗闇に染まっており、こんな状態で対空迎撃を行うなんて、本来は想定されていないはずなのだから。
そもそも本来は夜間に艦載機を飛ばすなんて無茶にも程があり、教本にも夜間の航空戦闘に関しての記述は存在しなかった。艦載機を放つのは太陽が空を照らして、雨も降らない穏やかな天候の時でなければならず、各国での空母の地位は戦艦と比べるとどうしても低くなってしまう。
だからこそ夜間の空母戦闘は想定はされていても推奨はされておらず、ましてや夜間の対空迎撃なんて本来であれば想定外のはずだ。きっとタラント港は今頃蜂の巣を突いたような騒ぎになっているだろう。
俺達が迎撃に成功しているのはグラーフという戦闘機を満載にした空母の存在に、セイレーン技術をフル活用した生体艤装に早期発見用、及び射撃制御用の対空レーダーが備わっているのも大きいが……この戦闘が終わればサディア海軍もセイレーン技術の導入に積極的になるかもしれない。
グラーフやヒッパー達は本当によくやってくれている。夜間にkansenが何人も存在するタラント港に、確認する限りではたった一隻の空母で空爆を仕掛けるだなんてロイヤルは正気じゃないとしか思えない。だからこそ、俺達は夜間の作戦だと決まった時点で戦艦ではなく、ロイヤルの空母による空襲の危険性を捨てており、完全に裏をかかれてしまった。
クソッっ!もっと早く気がつけば良かった!!そもそもバルト海海戦で降伏したイーグル達は、グラーフを暗殺するために基地ごと空母で攻撃しようとしたじゃないか!!
不幸中の幸いとはとても言えずに罪悪感とプレッシャーと後悔によって吐きたくなるが、吐くのは全てが終わった後にトイレで好きなだけ吐くことにしよう。基地を空母だけで攻撃するのも、更に夜間空襲を防ぐのも世界初。同時にイーグルは連戦で弱ってはいたが、敵空母は間違いなく万全の状態。まさにグラーフとの戦いはベストコンディションの空母同士による世界初の空母対決といえるだろう。
グラーフが討ち漏らした艦載機をヒッパーとシュペーが迎撃し、それでも落としきれなかった艦載機は後方のマインツが撃ち落とす。敵空母は当初こそ編隊を組んで固まって飛行していたが、こちらに迎撃されてからというもの、少しでも撃墜されないように複数に散開しながら飛行を行い、そのためにこちらの防空網を突破する敵機体が少しずつ増えていく。
妹の命は無事なんだろうか?脳裏には先日再会したローネの顔が頭によぎり、拳をぎゅっと握りしめる。ローネだけじゃない、あの国には俺達が守らなければいけない大切なものがいくつもあるのだから。
「グラーフ、無理はするな!基地を狙う爆撃機を優先して攻撃機は最悪サディア海軍に任せるんだ」
「了…解!」
グラーフは短く返答する。無駄口を叩く暇もないんだろう。少しでもグラーフの負担を減らすために、こちらでもグラーフの死角を狙おうとする敵機の情報を伝えながら、一分間が何倍も長く感じるヒリヒリとした感覚に襲われる。何度戦闘を行っても一歩間違えば自分のせいで大切な者を失いかねないこの空気に慣れる事はできない。
『こちら、リットリオ……助かった。まさか艦載機が来るとは想定もしていなかったからな』
しばらくしてリットリオからの通信が艦内に響き渡る。軽口の余裕もないんだろう。向こうの通信越しからも時折主砲の発射音と共にノイズが走っており、リットリオ達も必死にロイヤル最強の戦艦と交戦しているのが嫌でも分かってしまう。
「……偶然だ。本当に運が良かった。大丈夫かリットリオ? 」
『大丈夫、ではないが……既に逃げ出そうとするウォースパイトの補足に成功した。敵艦載機が落ち着き次第、サディア海軍の本隊は全てマルタに向けるが、私たちはこのままウォースパイトを抑える。そちらは……』
「あぁ、空母を抑える。援軍の可能性があるとはいえ、今のところ相手は孤立して護衛艦の姿は見えない。タラントを焼かれないように、爆撃機は優先して落とすように伝えたが攻撃機は何機かは突破する、悪いけど皆に気をつけろと伝えてくれ。幸運を」
『あぉ、幸運を。死ぬなよ』
「そっちこそ」
通信を切り現在の状況を皆に伝えようとマイクを手を取るも、次の瞬間、マンジュウが前方より通信が届いていますと前を指差してピヨピヨと伝えている。まさか……と思いマイクを離しつつマンジュウに通信を繋げろと命令をすれば、温厚そうな女性の声が通信越しから静かに届く。
『……まさか、鉄血の空母が……そう、あなた達が例の艦隊なのですね?』
国際チャンネルを通じて敵空母から通信。既にレーダーには補足されており、遠目とはいえ純白の空母の目視は可能だ。少しでも艦載機を確実に当てるために接近したのだろう。もうグラーフに発見された以上身を隠す必要がないとはいえ、躊躇わずに近づいてきたことから、彼女が声に似合わず武闘派であり、実戦慣れをしていることが伺える。
「例の?というのがどんな意味で捉えられているのかどうかは知りませんけどね。こんな夜中に貴女に会えるなんて思いませんでしたよ……ロイヤルネイビー、空母イラストリアスさん? 」
『私の名前を……? 』
名前を当てられてしまい、少しだけ困惑している様子が前方の敵空母、イラストリアスから伝わってくる。
ロイヤルネイビーの空母、イラストリアス級一番艦イラストリアス。
個人的にロイヤルに関してはバルト海海戦を経験してからは、少しでも情報で優位に立とうと戦前の資料を暇さえあれば俺は漁っていたが、あの純白の空母は間違いでなければクイーン・エリザベスを支える幹部であり、その美貌から国内向けのプロパガンダにも複数回登場したことのあるロイヤルの重鎮だ。
見た目だけでプロパガンダに参加しているとは思えず、その地位がグラーフと同じと想定すれば間違いなく優秀であり、王家に忠誠を誓った戦士の一人。こうして夜間のタラントを焼こうと空襲を仕掛けたのも前代未聞の作戦を考えたのも彼女なのかもしれないと、様々な感情が一気に自身の胸中に渦巻いてしまう。
それに例の艦隊……?ピュリファイヤーの情報を信じるなら、ロイヤルでは既にグラーフの名前はクイーン・エリザベス達が名指しで暗殺を指示する程には知られている筈だ。
バルト海海戦の情報は潜入していた部隊を全員捕虜にした以上、どれ程相手に伝わっているかは不明とはいえ、少なくともレス島での戦いから生還した戦艦達には情報を握られており、俺達はそれはもう、ロイヤルの中では有名な部隊なんだろう……勿論悪い意味で。
「今、貴女が降伏すればハーグ条約に則って命と安全の保障をしましょう。既にそちらは数的不利でマルタ島の援軍が来るとしてもその前に俺達の部隊は確実に君を……どうする?」
念のためにマイクを手に取り国際チャンネルを通じて降伏するように伝えるが恐らくは……彼女はこの降伏勧告を受諾することはないだろう。
事実、彼女はなにも言わなかった。表情はこちらからでは遠過ぎて伺うことはできないが、多分俺の見間違えでなければ……微笑んでいたんだと思う。
何も言わずにただ微笑むだけの王家の戦士、イラストリアス。その意思は固く彼女は死ぬまで抵抗を続けるだろう。話は終わりだと言わんばかりに返答代わりの艦載機を発艦させ、それらはグラーフ達に殺到する
「皆、気をつけろ!!相手はこっちに集中する!!お互い位置に気をつけてフォローしあって対空迎撃を!!」
最早、イラストリアスは基地を襲うことをやめ、その艦載機を全てこちらに向けてきた。刺し違える覚悟でこちらの戦力を削ごうとする。が俺の搭乗するシールドに覆われた指揮艦は狙わずに、特に同じ空母であるグラーフに爆撃機や攻撃機は殺到する。
タラント基地はこれでもう安心だろう。後は目の前の空母を誰の命も失わずに撃破して、急いでウォースパイトを捕虜にするための援護に向かうか、マルタ基地攻略の援護に向かうかサディアの本部に通信を入れればいい……降伏しないと暗に伝えたイラストリアスを、撃沈してから。
「そう、か」
通信を切ると同時にまた吐きそうになる。幾らサディアを焼こうとしたとはいえ、俺は今から目の前を女性を殺せとグラーフ達に指示を出す。覚悟は決めていた、それでも心臓は早鐘を打ち、思わず手で口元を抑えてしまう。マンジュウがそれを見て袋を差し出すも、無言で首を横に振って拒否する。
彼女は絶対に降伏しないだろう。最後まで王家の戦士として戦い抜くと嫌でも確信できた。大破まで追い込んで無理矢理鹵獲と考えてもその前に自沈を選びかねない。
それはウォースパイトも恐らく同じだ。バルト海海戦ではイーグルは艦隊の皆を守るために苦渋の決断の上で降伏をしたが、今、彼女達には失うものは自分の命しかない。最後のその瞬間まで目の前の女性のように刺し違えようとする筈だ。
『卿も撃つことを躊躇うな。これは殺人ではなく戦争なのだから』
出撃前にグラーフが何を言っていたのかを思い出す。今躊躇えばイラストリアスは撤退して確実に禍根を残すことになる。躊躇えば必死で防衛を行なっているグラーフ達やサディア海軍の皆の命が次の瞬間消し飛ぶかもしれない。
「はぁ……はぁ……!」
こんなことならイラストリアスと通信なんてしなければよかった。ロイヤルの覚悟なんて気がつかなければよかった。今まで気楽でいれたのはバルト海海戦のように相手は降伏してくれると無意識に思っていたからだ。でもイラストリアスは……そしてウォースパイトは最後まで抵抗するだろう。
興奮状態で切り抜けたバルト海海戦と違い、戦場に慣れてしまったことを恨みがましく思ってしまう。セイレーンと同じように躊躇わずに倒せる存在であればどれくらい良かったか……大切な鉄血の皆に相手を殺せと命令することに、殺人という業を彼女達に背負わせる自身の罪深さに遂に俺は耐えきれず、マンジュウから袋を受け取ると中に盛大にぶちまけてしまった。
それでも……最早迷う時間も惜しく、是非も無い。己のやりたいことを貫き通すために、立ち塞がる『敵』は倒すしかないのだから。相手は生きている『人』ではなく、国益とこちらのサディアの人々を傷つけようとした『敵』なのだから。
「……全艦、対艦戦闘用意!相手は空母だ!グラーフを主軸に他三人は彼女の援護に!敵空母イラストリアスを……『敵』を確実に沈めろ!我が同胞のために鉄血の力とならんことを!絶対に死ぬなよ!」
「「「「了解!!」」」」
「「「ピヨ!」」」
その叫びと共にシュペー達は武器を構えて純白の空母に殺到する。同時に俺はマンジュウに指示を出して音量を最大にして、覚悟を決めてマイクを手に取る。
『この海域に存在する全てのサディア海軍に告げる!こちら鉄血艦隊!これより戦闘に参戦する!!!』
パフォーマンスではあるがこうしてこちらの存在を示すことが、戦後のカバーストーリーに繋がるだろう。あくまで『悪』はこちらは何もしてないのに奇襲を仕掛けたロイヤルであり、サディアは被害者であると。いくつかの本音も混ざっているが過去に聞いたビスマルクさんの演説のやり方に習って、罪の意識を払拭せんとやけくそ気味にマイクに叫ぶ。
『友邦サディアを襲うロイヤルの『卑劣な騙し討ちによる奇襲攻撃』を防ぐための迎撃行動を行う!繰り返す!こちら鉄血艦隊!これより戦闘に参戦する!!』
通信を終える。慣れないことをしたせいで全身が倦怠感に襲われ、マンジュウに差し出された水をグイと飲む。本来であればサディアからの奇襲のはずが結果的にはロイヤルが奇襲を行い、阻止することに成功した。ならこの状況を最大限に利用させてもらおう。
『ヴァイス』
演説を終えて再びレーダーを見ながら戦況を皆に伝えようとすれば、ヒッパーからの個別通信だ。指揮官としてではなく、こうして自身の名前で呼ばれたのはこれで二度目。大音量で叫んだことに文句の一つでも言われるのかなと思いながら回線を繋げる。
「どうした?」
『……連帯責任よ。罪の意識を背負い込むのはやめなさい。余計なこと、考えて死んだら許さないから。いいわね? 』
そういうと、返答する間もなくヒッパーはイラストリアスが放つ爆撃機を撃ち落とす。生体艤装が唸り、荒々しい咆哮が海に轟く。他の生体艤装も同時に叫び出し始め、パートナーである彼女達と共に苦難を乗り越えようと奮戦する。
(ありがとう)
少しだけ……気が楽になった。内心、いや後で直接ヒッパーと、皆と話さなくては。そう思いながらも俺は彼女達に殺到する敵艦載機についての情報を伝えていく。未熟な指揮の自分では全てを補うことはできない、だからこそこんな情けない形でも彼女達のサポートを行う。それが彼女達の命を救うことに繋がるのだから。
上空では熾烈な航空戦が行われており、敵は艦載機だらけだが明らかに戦闘機は少ない。とはいえ、そのほとんどが本来基地を爆撃するための攻撃的な艦載機だ。それら全てがグラーフ達に襲いかかる。凄まじい数の艦載機を撃ち落とすことにはどうにか成功しているが、ヒッパー達は防空に必死で近づくことはできない。
やはりこの戦いはグラーフとイラストリアスの夜間航空戦が命運を握っている。この航空戦を制したものがこの戦いのイニシアチブを握ることになる。戦闘機の数ではグラーフが上であり、攻撃機・爆撃機の数ではイラストリアスが有利。お互い所属も、技術も、艦載機の編成も違っており、あまりにもイレギュラーな夜間戦闘である以上どちらが勝利するかの予想は不可能。
頼んだぞ……グラーフ!!
『サディア帝国の皆様。私はヴィットリオ・ヴェネト。偉大なる皇帝陛下より、サディア海軍の全権を委任された総旗艦です』
上空で熾烈な航空戦が始まり、各戦線で交戦が開始され、鉄血の指揮官『ヴァイスクレー・ヘルブスト』の広域通信が地中海に響き渡って数分後、サディア帝国国民にとっては慣れ親しんだ総旗艦の声が主要軍港だけではなく、公共施設やラジオを通じてサディア全域に拡散する。
『我々サディア海軍は現在敵勢力と交戦を開始しております。その勢力の名前はロイヤルネイビー。クイーン・エリザベスが海軍を率いるアズールレーンに所属する国家の一つであり……まず国民の皆様に私の不徳がこの戦闘を招いたことを謝罪させていただきましょう』
なんだなんだ?とサディア国民はラジオから、スピーカーからの声に耳を傾ける。
『我々サディア海軍はロイヤルネイビーと共に、人類種の敵であるセイレーンと戦うための共同作戦を予定していました。その後、待機していた彼ら鉄血海軍の皆様方と会談を行い、この戦争を終わらせるために三国で話し合い、武力ではなく対話によって平和を……元の争いのない世界を取り戻すために、我々は努力を重ねていました。だというのに……!! 』
落ち着いた口調はどんどんとヒートアップしていき、感情的になっていく。何も知らないサディア国民は固唾を呑んで総旗艦の次の言葉を待つ。ラジオを持つものは家族や友人と一つのラジオを囲い、現在必死に迎撃を行なっている軍人達もその声に耳を傾ける。
『我らサディアは!!平和を望んでいたのです!!だというのに!!卑劣なロイヤルは!!それを利用して!!タラント港に待機するサディア海軍を襲い、空襲によって火の海にしようと目論んだのだ!!なんたる卑劣!!なんという外道!!ロイヤルはこの和平への道筋を踏み躙り、私たちの想いを奇襲攻撃のための踏み台にしか思っていなかったのです!!!これを許すべきか?否!!断じて否です!! 』
ガツンと!!と何かが叩きつけられる音が大音量で流れ、サディア国民は驚きを隠せない。総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトは極めて温厚な人物であると知られており、ここまで怒りを表すのは初めてなのだから。
『ロイヤルは!!青き航路を守るためにアズールレーンに所属していながら、優雅や栄光と口にしながらもセイレーンではなく自国の国益を重視し、平和を願うサディア国民を傷つけようとしたのだ!!あのヴィシア海軍を襲ったメルセルケビールと同じように!!だから我々は許せない!!だから我々は抵抗する!!そしてあと一歩でサディア軍港が火の海にされようとする中、鉄血海軍は……私達を守ろうとその力を示してくれました!! 』
「奇襲を仕掛けようとしたのはそっちじゃない!好き勝手言って……! 」
「おっと、よそ見は禁物だシニョリーナ!! 」
放送に怒りを露わにするウォースパイトに、姉の演説を聞きながらリットリオ、ジュリオ・チェーザレ、コンテ・ディ・カブールは砲撃を敢行する。同時にこの戦場の誰よりも、ヴェネトの意図をはっきりと理解する。
「ヴェネト……」
『だからこそ我々サディア帝国は鉄血とも歩みましょう!我々はこれより一蓮托生!!皆様は忘れないでください!!今!必死にサディアを守ろうとする鉄血の皆様を!!そして祖国を卑劣な侵略者より守ろうとする気高きサディア軍人、サディアkansenを!!我らは二度とロイヤルの暴挙に犯されないために!!レッドアクシズの旗の下に!!これより地中海のロイヤルの重要拠点マルタ島の攻略作戦を急遽宣言します!!』
「もしかして……あの艦隊にヴァイス兄さんが…?」
夫と手を繋いで避難場所に向かおうとする一人の女性の呟きは喧騒と共に消えていく。
『錨をあげよ、サディアの戦士達よ!!侵略者から祖国を守るためにその力を貸して欲しい!!臆するな!!躊躇うな!!そして後ろを振り向く必要はない!!!我らの後ろには鉄血の同胞が……フローテ・ディ・サルヴェッツァ(救国の艦隊)がついているのだから!!国民の皆様にはあと少しだけ耐えていただきたい!!次の朝には朝刊に華々しい記事を大々的に載せることを総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトは誓いましょう!!サディア帝国に栄光あれ!!!サディア海軍!!全力を以て……進軍せよ!!」
演説が終わると次の瞬間、サディア帝国内では凄まじいばかりの歓声が響き渡る。拳を握りしめ、海を眺めて叫ぶ帝国臣民は勝利を信じて応援の言葉を口にし、サディアの国旗を振り上げる。
それは市民だけではない。国家憲兵も。軍人も。kansenも。貴族も。比較的アズールレーン派に近いと言われていた貴族すらも、一種の熱に当てられて歓声をあげる。アズールレーン復帰という道を自ら塞ぎ、レッドアクシズと共に戦うことを宣言したヴェネトの演説は、正にサディアの心を一つにしたといえるだろう。
いつかの歴史では秘密裏にアズールレーンに復帰することにより、鷲と獅子二つの勢力に蝙蝠として外交を行ったサディア帝国。しかし、この崩壊した歴史においてはサディアは鷲と共に戦うことを選び、その身朽ちるまで獅子に立ち向かうだろう。
後の世に『全力を以て進軍せよ』の言葉と共に語り継がれることになる総旗艦の宣言。様々な意図が隠されたこの宣言によってマルタ島にサディア海軍は進撃を開始する。
しかしサディア海軍のkansen達に恐れはなかった。彼らの後ろにはフローテ・ディ・サルヴェッツァ……祖国の危機を救うために駆けつけた『救国の艦隊』が存在しているのだから。
・なまじ空母を保有していないからこそ、実戦形式における対空砲の性能が優れていない事もあるかもしれない。しかも現在は夜間だ。空は既に暗闇に染まっており、こんな状態で対空迎撃を行うなんて、本来は想定されていないはずなのだから。
史実においてもイタリア海軍がタラント空襲で敗北した理由の一つがレーダー技術や対空砲の能力がそれほど優れていない、研究が進んでいなかったのが要因の一つと言われており、この敗北をもって対空と早期発見のためのレーダーの研究が開始されており、ゲーム内でもサディア帝国のレーダーや対空砲は他国と比べて劣っているとフォーミダブル達は口にしており、世界に空母だけではなくレーダーの重要性を示す戦いがこのタラント空襲なのでした。
・「奇襲を仕掛けようとしたのはそっちじゃない!好き勝手言って……!」
ウォースパイトからすればマルタ島攻略の為に騙し討ちを行おうとしたサディア帝国にジャッジメントを与える為の作戦が無効化された挙句、自分たちの事は無視して正義面してロイヤルだけを貶すヴェネトに殺意すら覚えるでしょう。そもそもマルタ島攻略の為の準備は一朝一夜で行えるはずもなく、こうして急遽卑劣なロイヤルに襲われたからと言って即座にマルタ島を攻略するなんて事は困難であるのですが、ヴェネトの演説で国民達はそれを疑問に思いません。完全にタラント空襲の『再現』を利用される形となってしまいました。
次回はグラーフ視点による航空戦。公式記録として刻まれる事になる世界初の空母対決の行く末は……
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄