北方連合。
革命によって帝政を打破して産まれた、共産主義を信奉するこの国は人類の最前線とも言える国家であり、激戦を絶え間なく続ける地獄に最も近い国と例えられていた。
アズールレーンに所属しながらもレッドアクシズが成立し、自国の防衛を優先するユニオン、重桜、ロイヤルは支援物資の供給をしつつも戦力の派遣は決してせず、他者の協力を得られない彼らは国土をセイレーンによってズタボロになるまで犯されつつも、北方連合は決して諦めず、必死に戦い続けた。
時にはレッドアクシズのように秘密裏にセイレーンの技術を応用した生体艤装を実装させる。時には中央計画経済を推し進め、国民たちを大規模な国営農場、国営工場に連行する事で国民総出でセイレーンに立ち向かわんとする。
彼らはただ生き残る事に必死だった。皇族はあてにならなかった。神はどれだけ祈っても自分達に救いを与えてくれなかった。アズールレーンの他の勢力はイデオロギーの差から北方連合を白眼視して、自国の国益を優先した。
だからこそだろうか?共通の敵であるセイレーンを相手に団結したこの国は皮肉にも粛清や腐敗する余裕もなく、常に安定した戦時体制を継続させて国土を犯したセイレーンの多数の要塞を駆逐する為に全力を尽くしていた。信じられるのは信仰、忠誠、名誉でもなく、同志の人々と地獄のような大地が産んだ新たなる希望、共産主義という希望のみ。全ては元の平和な国を取り戻す為に。全ては生まれてくる我が子が笑って暮らせる未来を掴み取る為に。
「同志タリン、シベリア戦線の戦況は? 」
北方連合のとある母港にて青年は目の前の赤いメッシュ混じりの銀髪の少女に話しかける。正直な話聞かなくても分かっていた。それでも
同志の手前ため息を堪えながら問いかける。
「厳しいわね……無人艦はどんどんやられるけど生産は追いつかず、kansenも負傷するけど応急処置で次の交代まで戦うしかない。セイレーンは潰しても潰しても湧いてくる。一応間引きにはなってるけどこんな状況だと大元の要塞攻略は現状不可能……」
「なんだ、いつもの事か」
「ええっ、いつもの事ね」
青年は最早このやりとりにも慣れてしまった。努力や根性といった精神論ではどうにもならず、北方連合は現状を維持するだけで精一杯。アズールレーンの理念である蒼き航路を奪還するなんて夢のまた夢だろう。今日もまた、最前線では死ぬか生きるかの瀬戸際の戦いが繰り広げられるが、最早それは北方連合にとっては絶望ではなく日常と変わりはない。
目の前の少女のタリンは本来は鉄血産まれであり、当初はレッドアクシズの結成によって鉄血からの支援が途絶えた事で元祖国に責任と憤りを感じていたが、結局レッドアクシズが結成されようがされまいが、ビスマルクは自国を最優先するだろうし、共産主義国家である北方連合に戦力の派遣なんてするはずも無いと既に諦めの境地になっている。
「きっと次の交代はウチの部隊になるから覚悟したほうがいいわね。指揮官は大丈夫なの? 」
「何がだ? 」
「メルクーリヤさんの事よ」
書類を眺めていた指揮官の手が、とある女性の名前を聞いて、ピクリと動いた事をタリンは見逃さなかった。
「貴方達は新婚なのに最前線だなんて……同志ソユーズに頼んでせめて彼女だけでも後方で待機するように、陳情した方が良いんじゃないかしら?貴方の頼みならきっと聞いてくれると思うし、何よりあの人はーー」
「いや、それは出来ない」
きっぱりと指揮官がタリンの言葉を否定すれば、タリンは複雑な表情で彼の目を見つめる。実の所既に指揮官と彼の妻であるパーミャチ・メルクーリヤとの関係はこの基地どころか北方連合全体にて広く知られている。
この若き指揮官はセイレーン大戦中に起きたとされる北方革命において、真っ先に反乱軍である赤軍についたとされる祖父をルーツに持ち、父親もキューブ適正のある指揮官。親子三代に渡って北方連合建国から共産党とコミュニズムを信奉し、模範的なコミュニストとして注目を集め、その戦果によって若年ながらも赤い英雄としてプロパガンダにも参加している存在。
加えてパーミャチ・メルクーリヤはセイレーン大戦を初期から戦い抜き、陣営代表のソビエツキー・ソユーズですら敬語で接している数少ない最古参のkansenだ。
氷絶の世界を照らすコミュニストの若き赤い英雄と、皆に慕われる最古参のkansenとの婚約は軍部によって大いに宣伝され、党を挙げた盛大な結婚式が行われており。セイレーンの出撃情報だらけの新聞にも記載されて、絶望の大地で必死に生きる国民に微かな希望を与えていた。
そんな新婚の二人が悲劇的な末路を迎える事は、善意ではなく宣伝的な側面から軍部も避けたいはず。だからこそ、既に改造によって近代化改修こそしているが老朽艦である彼女を後方勤務に回し、最前線であるシベリア戦線には自分達だけがとタリンは主張したのだが、指揮官は即座に断るしかなかった。
「あいつと結婚する前に俺だって相談はしたさ。後方に回ってくれってな……その時メルクーリヤの奴なんて言ったと思う? 」
「えっと……『ダーリンだけを最前線に送るなんて出来るわけないでしょ!?』って怒ったとか? 」
メルクーリヤとの付き合いもあるタリンはそう答えると、指揮官は首を横に振りつつ、諦めたように、そして疲れたように呟いた。
「あいつな……笑いながら『この国に、そんな余裕なんてある訳ないでしょ?』って答えたんだよ……」
指揮官の呟きにタリンはショックを受けた様子。しかし、指揮官は苦笑しながらも言葉を紡いでいく。
「なにも、言えなかったよ。アイツって俺の親父が新人の時からずっっっと戦い続けてるからさ……俺も経験したことのないような地獄や絶望も同志アヴローラと見てきてるし……きっと何があっても、最前線で出来ることを探して、後方に下がる事は党の強制的な命令でもなければ、絶対に無いはずなんだ」
北方連合は間違いなく、全ての勢力の中で最も余裕がなく、いつ崩壊してもおかしくない薄氷の上を歩き続けるような陣営だ。
レッドアクシズやアズールレーンがイデオロギーによって小競り合いをするこの世界で、北方連合はただ明日への生存の道だけを模索し続ける。最前線は実の所、今もなお増え続けるセイレーン要塞によって穴だらけであり、いつ崩壊してもおかしくはないのだが、北方連合が崩壊すれば全世界にセイレーンが雪崩れ込む可能性は高く、いわば北方連合は望む、望まないを別として門番の仕事をせざるを得ない国家となっている。
「だから、俺はメルクーリヤと一緒に最前線で戦い続けるよ。タリンの気持ちは嬉しいけど、これは俺達が相談した上で決めた事なんだ」
産まれた瞬間から祖国に命を捧げて戦い続けた最古参の戦士と、産まれた瞬間から指揮官となる運命であり、将来のレールが敷かれていた青年。彼らの硬い決意にタリンも何も言うことは出来なかった。
同時にタリンの胸中では自らの元祖国について複雑な思いが駆け巡る。なにがレッドアクシズだ。何がセイレーン技術だ。人類の為に蒼き航路を守るのが私達の役目だというのに、鉄血は何をやってるのよ!!ロイヤルもユニオンも重桜も、物資だけではなく、その戦力を少しでもこの地獄の北方連合に送ってくれればと悔やんでも悔やみきれずにキツく拳を握りしめる。
「……まだまだ、交代まで時間はあるわ。それまでメルクーリヤさんと……貴方達の子供と、思う存分夫婦生活を楽しみなさい」
悲痛な声を堪えながらタリンに指揮官は感謝しつつも苦笑する。指揮官とメルークリヤは新婚であると同時に先日子供が産まれたばかりの夫婦。恐らく子供は指揮官達に連れられて最前線の基地で育てられる事になるが、その事をタリンはずっと気にしているようだ。
「言われなくても新婚生活は満喫してるよ。あんなに最高のお嫁さんを貰ったんだ。最前線だろうが気にせずイチャついて、親父に成長した孫を見せるまでは生き延びてみるさ」
微笑を浮かべる指揮官にそれ以上の事は言えずにタリンは部屋を去っていく。元鉄血産まれである彼女を指揮官達は祖国を守る同志として受け入れてくれて、別の部隊ではあるが他にもサディア帝国出身のタシュケントやユニオン産まれのムルマンスクも同じように北方連合は受け入れた。
それは差別する余裕すら失う厳しい大地が要因だろう。極限状態で戦う彼らにそんな余裕はなく、何よりも凍てついた大地であっても人の心の寛容さ、優しさ、強固な結束を凍らせる事は出来なかった。
彼女は既に北方連合という国を新たなる祖国として受け入れていた。何よりも自らを受け入れてくれた共産主義という概念と祖国に忠誠と奉仕を誓い、自らを気にかけてくれた艦隊の一員である、同志指揮官と同志メルクーリヤの幸せを願っているのだ。
「見てなさいセイレーン……!あの二人の未来をアンタ達なんかに絶対奪わせないわよ……! 」
彼女はそう決意を新たに訓練場へ向かいながら自らの研鑽を行おうとする。こんな時自らの姉達であればどんな選択をしたのだろうか?と少しだけ考えつつも、彼女はただ平和を求め、同志である三人の家族のささやかな幸せの為に戦い抜く事を誓うのだった。
『もしもし、どちら様でしょうか? 』
「僕だよ、メルクーリヤ」
『あっ、ダーリン❤️どうしたの、急に電話なんてかけて……残業?それとも忘れ物でもしたの?届けるわよ? 』
タリンが立ち去った後の休憩時間、指揮官は電話を手に取り自宅に電話をかけると、数刻もしない内に何度も聞いた愛おしい声の主が返答する。その瞬間他人行儀な声だった彼の妻であるパーミャチ・メルクーリヤは、電話越しからもわかる弾んだ声となり、その声が耳元に届くたびに指揮官の幸福中枢は刺激されていく。一人称が変わった事もその一つ、愛する妻の前ではリラックスして指揮官ではなく個人としての自分を曝け出しているのだ。
出産して間もないメルクーリヤは軍から休暇を得て、現在は自宅で子育て中だ。プロパガンダの仲睦まじい夫婦像は決して虚像ではなく、子供が生まれてからも指揮官への愛情は年々増していく。同志であり艦隊のメンバーであるソビエツカヤ・ベラルーシアからは毎日が付き合いたてのカップルの状態とまで称される程に。
「いや、ちょっとね。休憩時間なんだから可愛いお嫁さんの声でも聞きたくなって」
『もう、しょうがないダーリンねぇ❤️毎日クーちゃんの声を朝も夜もベッドの上でも聞いてるのに、まだ足りないなんて本当っ❤️ダーリンってば甘えん坊なんだから〜❤️』
苦笑しながらそう話せば彼女は揶揄うように指揮官にそう答える。この年上のお嫁さんと出会って当初は何度もからかわれて、もしかして嫌われているのでは?と指揮官はタリンに相談した事もあったが、実際は若くて顔立ちの整った年下の青年に一目惚れしたメルクーリヤが自分なりにアピールをしていた結果であり、今では笑い話だと二人は語っている。
「甘えるのはまた帰ってからね。それよりあの子は? 」
『さっきまでおっぱいあげてたけどもう寝ちゃったわ。赤ちゃんって凄いわね〜何十時間も寝られるからちょっと羨ましいかも』
kansenと人間のハーフはkansenが軍で常に戦場に身を投じているというその性質上、世界的には少ないが十数人ほど確実に存在しており、メルクーリヤと指揮官の間に産まれた男の子もその一人。世界的にも珍しいハーフに対する研究は殆ど進んでおらず、北方連合においては初のハーフである二人の息子は研究対象と捉えられており、指揮官達は絶対に命を危険に晒さないという条件で採血などによる検査を行っている。
指揮官程ではないが彼らの子供もキューブ適正にkansen特有の遺伝子情報も受け継いでおり、技術研究が進めば彼もkansenのように艤装を背負って戦える可能性すら存在している。
そんな特別なハーフの息子を研究すればkansenの力を通常の人間に宿す事ができる可能性もあり、もし実現すれば万年戦力不足に喘ぐ北方連合にとってどれ程の余裕が出来るのか計り知れない。まさに二人の息子は北方連合にとっては希望であり、生まれながらにして『特別な』存在である事は間違い無いだろう。
但し、共産主義国家の軍人家系の三世であり、父親からキューブ適性を受け継ぎ、軍人になる道しか残されていなかった指揮官としては、例え北方連合が生活や子育ての支援をしてくれた所で、息子に普通の人間としての生活を送らせてあげられない現実に複雑な想いを持っているのだが。
「うん、家族の声も聞けたから午後も頑張れそうかな?じゃあまた仕事が終わってからね」
『えっ!?本当に私の声聞きたかっただけなの? 」
「んっ?そうだよ? 」
少し驚くメルクーリヤの声が電話越しに届き、苦笑しながら指揮官は優しく微笑む。タリンとの会話で思う所が色々とあったが、少なくても愛する女性の声を聞いて少しだけ勇気が湧いてくる。新人の頃から何かあれば相談に乗ってくれ、癒してくれる小柄で年上の妻の存在は指揮官にとってはあまりにも大きなものだった。
もし、メルクーリヤがいなければ恐らく同志ソユーズや党や軍部からの期待とプレッシャーで指揮官は押し潰されていただろう。kansenはその名の通り船の名前を受け継いでいるが、指揮官にとっては妻は船というよりも帰るべき場所であり、どこまでも安心できる母港に近い存在なのだから。
「じゃあそろそろ切るよ、ちょっと今日も家に帰るのが遅れるかも知れないから先に夕食は食べてくれよ」
『はーい、りょーかい♪お仕事頑張ってねダーリン❤️あっ、悩みとかあるなら家で相談してよね?胸くらいならいつでも貸してあげるから❤️』
「その時になったらね。じゃあねメルクーリヤ、愛してるよ」
まるで戦地に向かう兵士が死亡フラグ満載の台詞を吐いてるようだと少し思いながらも電話を切る指揮官。とはいえ悩みと彼女が口に出している辺り、色々とメルクーリヤは僕が悩んでる事をある程度は察しているのかも知れないと指揮官は自嘲する。
「まぁ……悩んでもどうしようもないからね、この状況は」
北方連合の戦力に余裕はなく、貴重なベテランkansenであるメルクーリヤにも仕事をして貰わなければ戦線は崩壊しかねない事を指揮官は理解している。下手をすれば息子が孤児になりかねない危険性があっても最前線勤務になる以外の道は『赤い英雄』には存在せず、息子を母親に預けることも難しかった。
指揮官とメルクーリヤの愛の結晶は北方連合にとっての希望であるがそこに息子の人格を挟む余地は存在しない。息子を母親に預けて最前線に向かえば、下手をすると無理やり拉致されて実験動物にされかねない危険性すら存在しているからだ。
指揮官は同志ソビエツキー・ソユーズを信頼しているが、他の赤軍関係者や赤軍の技術者なら国家の為に、化学のために息子を差し出せと言いかねない事に気がついていた。だからこそ『赤い英雄』である自分や同志ソユーズの妹であり、自艦隊のメンバーである同志ソビエツカヤ・ベラルーシアの目が届く最前線で守り切る以外の道はない。
『北方戦線異常ナシ』それは、いつの日から広まった冗談のような言葉。他の陣営から見れば異常としか言いようのない事柄が北方連合では当たり前であり。国民総動員の戦時体制であり、常にセイレーンの危険性が他国よりも高過ぎる北方連合を示す言葉に他ならなかった。
「同志指揮官、少し話がある」
とはいえこんな事口が裂けても言えない、盗聴でもされれば家族全員を危険に晒すとため息を吐きつつも廊下を歩いていると雪のように白い軍服を見に纏った青髪の美女が指揮官を呼び止める。
彼女の名はソビエツカヤ・ベラルーシア。陣営代表であり、党でも高い影響力を持つソビエツキー・ソユーズの姉妹艦であり、指揮官を『赤い英雄』としてサポート、プロデュース、そして監視する為にソユーズが送り出した艦隊メンバーの一人だった。
「どうしたんだい?同志ベラルーシア、そんなに慌てて?」
「すまない、だが慌てたくもなるさ。先程入った情報だが……」
次に放たれたベラルーシアの一言の結果、指揮官は直ぐに表情を切り替えて艦隊メンバーに緊急招集をかける。その日、指揮官が愛する家族が待つ家へ帰路につけたのは辺りが暗闇に包まれる夜も遅い時間であったという。
窓の外はすっかり暗くなり、雪が降りしきる中、自宅にてkansenパーミャチ・メルクーリヤは、つまらなそうにソファーに座り、空色のクッションに抱きつきながらぼんやりとした時間を過ごしていた。
「ダーリン……遅いなー……」
沈んだ声で一人呟きながら子供用ベッドに目を向けると、彼女の子供が小さな寝息を立てている。いつもならこの部屋には既に愛する夫とそんな可愛い我が子を見守りつつ、夫に抱きついて子猫のように甘えている彼女だが、夫はまだ仕事中な様子でその願いは叶わない。アヴローラに教えてもらった特製ボルシチもすっかり冷めてしまい、寂しさを紛らわす為に彼女はクッションをさらに強く抱きしめる。
兵器として生を受けたkansenとして最初期に生まれたメルクーリヤは、どちらかといえば辛い思い出ばかりの人生を歩んでいた。戦友のアヴローラや三笠と共に戦った、一歩間違えば確実に全滅していた重桜海海戦。革命に参加をしてサンクトペテルブルクの宮殿に銃口を向けた北方革命。そして尽きることのないセイレーンとの戦いの日々。
何人も戦友が命を失い、鮮血が白い大地を赤く染め上げていく。目の前で人が爆ぜ、腕の中で命が消えかけている仲間を介錯した過去もあり、その度に彼女は裏で一人泣きつつも皆の前では辛気臭い空気を雲散させる為に明るく振る舞っていた。それでも戦いは終わりが見えずにムードメーカーとして明るく振る舞う裏で、その心は着実に蝕まれていく。そんな中出会った彼女のパートナーである指揮官は、精神を擦り減らし、消耗していた彼女にいくつもの幸せを与えてくれた。
だからだろうか?メルクーリヤは自らが夫である指揮官に依存している事に嫌でも気がついてしまい、こうして息子と二人きりになると不安に感じてしまう。本当なら後方勤務になってほしいし、家族三人で大人しく暮らしたいと願うようになっても、北方連合の現在の状況では彼女の願いは叶わない。
あと少しもすれば彼女も最前線で再び武器を手に手に取る事になるだろう。陣営同士で争いをする余裕は北方連合には存在せず、敵対するレッドアクシズの魔の手が北方連合に伸びない事を、アズールレーンが参戦の圧力を掛けない事を彼女は祈るしかなかった。
「……よし!やめやめ!こんなの、可愛くて明るいクーちゃんらしくないわ! 」
マイナスな思考の海に溺れつつある自分に喝を入れる為に、メルクーリヤはクッションを手に取ると壁に投げつけて軽くストレスを発散する。諦観かも知れないが人一人の力ではこの北方連合の状況は変わらない。それでも自分のできる範囲の力なら愛する息子と夫を守る事は出来ると彼女は笑いながらコップにウォッカを注ぎ入れると、グイッと喉に流し込む。
喉が焼けるように痛いがこの熱が癖になり、そして自分に活力を与えてくれた。難しい事を考えるのは自分の専門外!今はダーリンが帰ってきた時にキスしてご飯をあ〜んしてあげる事が最優先目標なんだから考えるのはやめようと、再びウォッカをコップに注ぎ込もうとすると。インターホンの音と、玄関からガチャリとドアを開く音が二重に鳴り響く。
「ダーリン♪おかえりなさい〜❤️」
「あぁ、ただいっ!? 」
その瞬間コップとウォッカを放置してメルクーリヤはバタバタと音を立てて玄関に走り出し、ドアの前で靴を脱いでいた愛する指揮官に思い切り抱きつくと、不意打ち気味にその唇を奪ってしまう。
昼の連絡と夫の残業も重なり今のメルクーリヤにはダーリン成分が不足していた。ダーリン成分が無ければメルクーリヤは最悪死に至る。そしてメルクーリヤはダーリン成分を回復する為に更に指揮官の口内に舌を伸ばす。
ぴちゃ……ちゅっ……と微かな音が鳴り、指揮官の口内はメルクーリヤに蹂躙されるも、負けずに指揮官も舌を絡めて反撃の構え。愛する人の暖かさを少しでも感じる為に、二人はお互いの背中に手を回す。
舌を絡めあい、舌の裏まで舐めあい、唾液を送り込んでは甘美な感触に酔いしれる。数分間続いたねっとりと甘い時間を終え、お互いの唾液で口内を満たし合うと名残惜しげに唇は離れていき、唾液によるアーチが二人にかかり、そして途絶えた。
「ふぅ……帰るの遅かったわね……ってダーリン?お仕事で何かあったの? 」
キスを終えて微笑みながら満足気に自らの唇を手で撫でつけていたメルクーリヤであったが、愛する指揮官の様子がいつもと違う事に気がついてしまう。
いつもの指揮官であればこの後テンションが高い時などはそのまま玄関で『そういう事』をする事もあれば、続きはご飯を食べてからと言いながらさり気なく夜の誘いを行うはずなのだが、今の指揮官はキスの後だというのに少しだけ困ったような顔で微笑んでいる。
「まぁ……その、ね。ちょっと二、三日帰れなくなるかも知れなくて……」
「真面目な話? 」
「うん、とってもね」
作り笑いをするも、メルクーリヤの真っ直ぐな視線に耐えられなくなった指揮官はため息混じりに白状する。
ーーレッドアクシズの手で、ロイヤルのマルタ基地が落ちた。
指揮官はソファーで彼女と手を繋いで並んで座ると、ポツポツと今日メルクーリヤと電話を終えてからあった出来事を話し出す。
昨夜、地中海のアズールレーンの要衝マルタ島が落ちた事が判明して今日緊急会議が行われた事。
サディア帝国とロイヤル王国がそれぞれお互いに騙し討ちだと非難しているが、どっちを信じていいのかは分からない。一つだけ分かる事はロイヤルが敗北して幹部や将兵に至るまで多くの兵士が捕虜になり、マルタ島の住民はサディアの手の中にあると。
スエズもジブラルタルを繋ぐ要衝の陥落でロイヤルとアジア植民地を繋ぐパイプは事実上破壊され、国民の多くが捕虜になっている以上強引な奪還作戦もしばらくは難しい。つまり、アジアと欧州を繋ぐ中継地点であるマルタ島が使えない以上、ロイヤルの国力の低下や物資の行き来が難しくなってしまう。
それはロイヤルが北方連合に行う物資支援にも恐らく影響が出てしまい、最悪自国優先になり、余裕のなくなったロイヤルからの支援は途絶え、その結果支援に頼らざるを得ない北方連合にまで影響を与えかねない。
サディアはマルタ島を中継地として解放することを約束しているが、同時にロイヤル国籍の船の強制臨検や、民生品は兎も角戦略物資の輸送は禁止すると発表しており、最早ロイヤルからの支援は途絶えたと考えてもよく、レッドアクシズとアズールレーンの緊張が続けば今後は重桜とユニオンの支援もどうなるかは分からない。
「戦いは激化するかも知れない。明日から今後の事をソユーズさんにロシアさん、父さんも含めて緊急で更に話し合うから、ちょっとしばらくは家に帰れないだろうし、メルクーリヤとじっくり話しておけってベラルーシアから言われてねぇ……」
ポツポツと話しつつ、なんでもないように苦笑する指揮官であったが、同時にメルクーリヤの小さな手をぎゅっと握りしめる。
「ーーごめんな、迷惑をかけて」
最後にボソリと呟いた指揮官の表情は疲れ、老け込んでいるようにメルクーリヤは感じてしまった。共産主義を信奉して声高に叫び、模範的な人民の希望の星を演じてプロパガンダに出る事も少なくない指揮官だが、プライベートでは物静かで優しい人物であり、妻と息子を愛する穏やかな気質の人物だ。長きに渡る戦争の結果、重婚も珍しくなくなったこの世界において、ただメルクーリヤだけを一人一途に愛し続けていた。
最前線勤務も近づく中、家族との時間を大切にしようと決意した矢先の出来事。その短い言葉の裏にどれほどの感情が秘められているか、妻であるメルクーリヤには理解できてしまう。
妻と息子に迷惑をかけるという罪悪感。
セイレーン塗れの地獄のような北方連合より遥かに余裕があるというのに、陣営同士で争い合うレッドアクシズとアズールレーンの両勢力に対する不満。
ロイヤルの支援が途絶えると自分達が最前線に向かう頃には今以上に厳しい戦場になるという不安。
何よりも、残り少ない穏やかに貴重な家族で過ごす時間が失われてしまうという悲しみ。
「ねぇ、ダーリン」
「んっ……」
メルクーリヤは起き上がるとゆっくりと指揮官の頭を胸に抱きしめる。夫婦になった経験上、言葉だけなら幾らで慰められるが、それよりも効果的に想いを伝えることができる事。それは黙って抱きしめる事だとメルクーリヤは知っていた。
少しだけ気恥ずかしくなるが、同時に服越しから伝わる妻の胸の柔らかさに癒しを感じ、彼女の温もりが冷え切った身体と心を温もりで満たしていき、同時に彼の股間は少しずつ膨らんでいく。
「ふふっ♪身体は正直ね〜♪じゃあダーリンに選ばせてあげるわ!今からお風呂に入る?それともちょっと遅いけど夕飯を食べる?それとも……んっ…」
続く言葉は不要だった。指揮官は妻の胸から抜け出すと彼女を黙らせる為に再び軽く口付けを行う。
「悪いけど、今夜は疲れていてね。もし、メルクーリヤが許してくれるなら、今夜はたくさん、甘えさせてくれないかな? 」
「りょーかい❤️クーちゃんの甘々フルコースを楽しんでね、ダーリン❤️」
どうやらボルシチは明日の朝食になりそうね。そうメルクーリヤは思いつつ、スヤスヤと眠る赤ちゃんが目覚めない事を願いつつ、それぞれの服に手をやると、二つの影はゆっくりと一つに重なるのであった。
「やっちゃったなー」
「やっちゃったわねー」
ベッドの上で小柄ながらも手のひらに収まりきれないボリュームを持つ、唾液塗れになったメルクーリヤの胸に指揮官は顔を埋めると、クスクスと笑いながらメルクーリヤは優しく指揮官の頭を撫でつける。
その日、サディア帝国は戦勝に喜びを隠さず、ロイヤル王国は追求への対応に徹夜で取り組む中、そんな事は知らない二人の夫婦はただひたすらにお互いを貪り、ただ欲望の赴くままに愛し合う。
辺りは精液の匂いに包まれ、床には二人の衣類が無造作に散らばっている。ベッドの片隅に置かれたゴミ箱にはいくつかの使用済みコンドームが捨てられており、このカップルが先程まで何をしていたのか嫌でも想像がつくだろう。
ソファーで一度愛し合った後も二人は満足できずにそのままベッドで何度も交わり、体液で汚れた身体をシャワーで洗い流しながら二人で湯船に浸かれば、浮かぶメルクーリヤの乳房に指揮官は夢中になりまた交わり合う。
最終的には最初の言葉通りに指揮官は思う存分、メルクーリヤの事をママと呼びながらふやける程に今だけは妻の胸を独占し、自らが孕ませたからこそ出る事になった甘い母性を堪能し甘え続けるのだった。
「ふぅ…ママぁ〜❤️」
「あっ、こらぁ…❤️もうっ、ダーリンったら❤️」
しかし、まだ甘え足りないのか指揮官は胸に抱きつくと添い寝状態でメルクーリヤを堪能し続けるようだ。少し困ったような表情を浮かべながらも愛おしげに、どこまでも愛おしい青年の願いを聞いて、母性全開なママとなり、メルクーリヤは夢中で甘える指揮官をあやしつけながら自らの胸で抱きしめる。
マシュマロのような柔乳に包まれた青年は更に脳みそが幼児化したらしく、口元から唾液をこぼしながらも、更に彼女の母性を求め続ける。
「ママぁ❤️もっとほちぃよぉ〜❤️」
「んっ…❤️そういってずっとねちっこく甘えて……本当ダーリンは甘えんぼ赤ちゃんなんだから❤️」
「こんなのメルクーリヤにしか頼めないもん……ママぁ❤️ぎゅっと❤️ぎゅっとしてよぉ❤️」
「はいはい、ほーら❤️クーちゃんママにいっーぱい甘々しちゃいまちょうね〜❤️どうしようもない頭おっぱい、おっぱいな赤ちゃんになっちゃった甘えん坊ダーリン❤️」
ぎゅ〜〜❤️
「あんっ❤️」
青年は返答代わりに思い切りメルクーリヤに抱きつく事で自らの意思を示す。返答は言葉ではなく甘える事で示す事は出来るのだ。最早完全に頭赤ちゃんになった青年は言葉も忘れて原始的な欲求を求め続ける。
そして……
「……死にてぇ……」
「ねぇ、ダーリン?毎回甘えてから、そうやって落ち込むのいい加減やめない? 」
散々甘え続けた現在、賢者モードになった指揮官は睡眠欲求に襲われつつも、あーうーと頭を抱えて唸り声をあげており、そんな指揮官を母親のような優しい表情でメルクーリヤは見つめている。
ちなみにこの指揮官。平時で有れば指揮官としての責務は果たすが、プライベートでは超がつくほどのおっぱい好き。メルクーリヤに一目惚れされて直後に恋愛電撃戦を仕掛けられた結果、年上でベッドの上では母性的なメルクーリヤの胸に結婚前から甘やかされ続けて完全におっぱい中毒に。息子が産まれてからもそれは変わらず、寧ろ母乳の影響で指揮官の胸フェチ度はどうしようもない域になっていた。
とはいえメルクーリヤの母性に包まれて幼児化して甘えてる時は兎も角、こうしていざ事後になれば毎回やってしまったと頭を抱えるのが常々となっていた。
ちなみに息子が生まれた時にクリティカルヒットした時の行為は、教師姿に扮したメルクーリヤせんせー相手に無垢な少年になりきる保健体育実習であり、その事実だけは何があっても墓の中に持っていく事を指揮官は決めている。
「でも、いっぱい甘えたから元気になったのは確かでしょ?」
「いや、まぁそれは……」
「あっ、嘘ついたら明日からおっぱい禁止よ♪」
「はい、正直めちゃくちゃ気持ち良かったです」
「素直でよろしい! 」
未だに甘え過ぎたと頭を抱える指揮官を見ながら、メルクーリヤは指を軽く舐めながらふと考えてしまう。電話といいマルタ島の戦いといい、きっとダーリンは不安なんだろうと。
既に恋仲になって一年以上になるが、基本的にエッチの時は自分から誘って彼を甘やかすという展開になりがちだが、自分から甘えたいと言ってくるのはメルクーリヤの経験上はあまり無く、甘えてくる大好きな青年に母性が刺激されるも、複雑な感情を心にメルクーリヤは秘めてしまう。
少しだけ甘さを感じる指に目をやると彼女の視界には自らの銀色の指輪が映る。kansenのケッコン指輪は軍製品であり、信頼しあったパートナー同士の証であり、キューブ適正のある指揮官とkansenを繋ぐ信頼の証だ。
その指輪は自らを構成するキューブ情報に影響を与え、能力が少しだけ上昇する為に、恋愛感情が無くても大切な信頼し合う仲間の生存率を上げるために、皆に配る指揮官も存在するが、メルクーリヤは愛の形としてプロポーズと共に彼から指輪を受け取っている。
(最初は一目惚れだったわね〜、本当に……あの時は大変だったわ……)
最初は興味本位だった。知り合いの指揮官が一般女性と結婚して子供が産まれ、その子供もキューブ適正があり指揮官になると聞いて少し着任前の若者にちょっかいをかけよっかー!と決めたその日。彼女はその時の決断を自分の人生で最も正しい決断だったと思っていた。
面白半分に見に行くとその青年の容姿と性格に一目惚れ。結局揶揄うことも出来ずに緊張してしまい、思わず彼と会ったその足で、ソユーズに頼んで本来タリンだけの部隊のはずが、自分もサポートするとねじ込んでもらった。
戦友であるアヴローラに協力されながら指揮官にアピールを繰り返し、料理を振る舞ったり、さり気なくプレゼントを送ったり、時には水着を見せつけたりと大胆なアピールをしたうえで、遂には指揮官を誘惑して二人は結ばれて男女の中に。
そして、肉体関係から入ったセフレとして始まった関係は破綻せず、お互いを知れば知るほど好きになって彼女たちは恋人となる。そして指揮官からのプロポーズを経て二人は夫婦となり、子供を授かるまでの関係に至っていく。
「ふふっ、安心しなさいダーリン♪」
今でも指輪を見ると思い出す。ポケットからゆっくりと箱を取り出し、赤面しながら勇気を出した目の前の青年の姿を。
『その、改めて、愛してるので……正式ケッコンを。夫婦になってください、なんて』
そっと箱を差し出した指揮官の行動にポカン、と一瞬フリーズしてしまい、何も言えずに無言でぎゅっと返答代わりに、彼を抱きしめた日のことを。
「私はダーリンを信じてるし、あの子だってダーリンの事が大好きなんだから」
初めて自分の手で赤ちゃんを抱いた時は、思わず涙が止まらなかった。ずっと国家の為に戦い続けた兵器である自分が母親になる幸せを噛み締める事が出来た現実に。
そして、この小さな3200gの愛の結晶を守ろうと。兵器から女の子になったんだから、次は女の子から母親になろうと。息子が誇れる親となり、子供に自分たちのような選択肢の無い人生を歩ませずに自由に生きてほしいと思い、いつか三人で静かに暮らすという夢を叶える為に、彼女は家族を支えて戦い続ける事を決意した。
「ダーリンは考え過ぎよ。もっと気楽になって、何も心配しなくてもいいのよ?辛い時は今みたいに恥ずかしがらずに、好きなだけ、私の胸に赤ちゃんみたいに甘えて、悩みを吐き出して、私で癒されてほしいって思ってるんだからっ♪ 」
世界は恐らく地中海の戦いから確実に変革していくだろうとメルクーリヤは感じてしまう。二つの勢力がそれぞれの想いを胸に争い合う中で、セイレーンの脅威は今も続いているこの世界。北方連合に出来ることは、ただ戦い続け、戦い続け、更に戦い続けて生存の為に腕を伸ばし続けるしか道はない。
北方戦線異常ナシ。その言葉を異常アリに変更する為にはあとどれくらい戦い続ければいいのかはメルクーリヤにも、指揮官にも、ソビエツキー・ソユーズであっても分からないだろう。
それでも、メルクーリヤは諦めなかった。この幸せを守る為に。そして家族が穏やかに暮らせる世界を求める為に、党でもコミュニズムでも軍でもなく、ただ自らの意思で戦い続ける。
「半年くらい戦えば後方入りできるだろうし、それまで一緒に頑張ろ?タリンやベラルーシアにストレミテルヌイちゃんだっているんだから……だからね?一人で抱え込まずに甘えたい時はたっくさん甘えて、もっと年上のお嫁さんに頼って、ね?」
「うん……ありがとう、メルクーリヤ……じゃあ、今夜はもうちょっとだけお言葉に甘えて……」
「あっちょっとぉ…もうっ❤️」
そう言いながら指揮官はメルクーリヤの名前を呼んでまた押し倒し、再び彼女の胸に抱きついてくる。
明日からは恐らく海軍本部に缶詰状態になってしばらくは家に帰れない愛する指揮官はまだまだ甘え足りないのだろうと優しく彼の頭を再び撫で続ける。今夜はこの甘えん坊さんが寝るまで徹夜コースかな?と苦笑するメルクーリヤ。こうして部屋には再び淫靡な音が鳴り響き続けるのであった。
翌日、指揮官が寝不足気味となり、ストレミテルヌイに心配され、タリンに叱られ、ベラルーシアからニヤニヤと笑われたのは言うまでもないだろう。
北方戦線は今日も異常は無く、当たり前の日常を過ごして戦士達は戦い続けている。
おまけ
結婚前の指揮官、父親、メルクーリヤのおはなし
「それでさ、父さん。俺……結婚を前提に付き合ってる彼女が出来たんだ」
『マジで!?おー!そうか、そうか!よかったなぁ!!』
メルクーリヤに誘惑されて処女と童貞を交換し、肉体関係から始まった関係ではあったが正式にメルクーリヤと付き合う事になり。こうして指揮官は極東ウラジオストク基地の太平洋艦隊を率いる父親に連絡をかける事になったのだが、電話越しから聞こえてくる父親の声は驚きつつも、喜色で彩られており、指揮官も思わず破顔する。
『で、相手は誰だい?同志タリンか?同志ベラルーシア?いや父さんみたいに一般女性をひっかけたのかい?いやー嬉しいなー!それでどんな女性なんd」
「やっほー♪ダーリンと付き合いさせて貰ってるパーミャチ・メルクーリヤでーす❤️前に直接あったのは5年くらい前だっけ?まぁ色々あったけど、というわけで息子さんと結婚前提におつきあいさせて貰ってるからよろしくね❤️お義父様❤️」
『…………』
沈黙。凄まじい沈黙。メルクーリヤと電話を変わった途端に父親は絶句したのか無言になる。やがて2分ほど時間が進み、また落ち着いてから連絡をしようかなと指揮官が電話を切ろうとした所。
『息子よ……お前、ババ専だったんだな…』
「ぶっ殺すぞクソ親父」
今ここに父親がいれば間違いなく指揮官はウォッカの瓶を投げつけてただろう。それ程のドスの効いた声が部屋に響くが、父親は気にせず嘆くように口を開く。
『いやー……やめない?父さんの気持ち考えてみ?息子が結婚前提の婚約者が出来たって言ってきて喜んでたら、その相手が父さんの新人時代を知ってるメルクーリヤさんなんだよ?その人お前のお爺ちゃんが戦ってた革命初期の頃から現役なんだよ?そんなベテランが義理の娘になる気持ち考えてみてみ?息子よ』
「肉体年齢は14〜15らしいから関係ねぇよ、後次メルクーリヤを年増扱いしたら孫見せないからな」
『えぇ……でもなぁ……まじかぁ…まじなのかぁ……うわぁ……そっかぁ……』
「と言うわけで今後とも末永くよろしくお願いします❤️お、義、父、様❤️」
『やめて、やめて下さい、メルクーリヤさん……』
一ヶ月後、メルクーリヤから妊娠したわよ❤️孫みせてあげるから楽しみにしてね❤️と報告を受けた結果、父親は死んだ目となり胃薬を飲む事になる。その胃薬は図らずも未来でとある国の陣営代表が常備する事になる胃薬であったという。
・北方連合
独自の政治体制である共産主義を信奉する全体主義国家。国家への奉仕が美徳とされているが同時に世界屈指のセイレーン塗れの国家であり、国内ではバミューダトライアングルと同じく異常海域であり、凄まじい規模のセイレーン要塞王冠を中心に、セイレーンの前哨基地がいくつも存在しており我が物顔で航路を跳梁跋扈する地獄の最前線、
公式設定では元々は戦前は絶対君主制と共産主義と政治体制が違うものの鉄血とはそれなりの関係を構築していた様で、その為なのかアドミラル・ヒッパー級のタリンが移籍していたりするそうな。
今作では革命は比較的穏便に終わり、大粛清なども起きずに全体主義を進めたという設定に。これは史実のソ連が共産主義国家樹立のために武力を持った歴史ではあるものの、この世界ではセイレーンと戦うために宗教や皇族ではない共産主義という新たな希望が必要だと目的と手段が史実と逆転している為に比較的穏便、それでいて史実と比べるとレッドアクシズとは今は交戦していないもののセイレーン相手に余裕はなく、すでに大祖国戦争モードで戦時体制となっている事に。
内心では『レッドアクシズもアズールレーンも関係ねぇよこっちはセイレーンと戦うだけで精一杯なんだよ!!』と思っており、ある意味では余裕がないだけだけども言えますし、最もアズールレーンの理念を守っている国家と言えるでしょう。例えば重桜であれば三笠は引退生活を送れる程に比較的平和な日々を送っていましたが、同期のアヴローラは常に最前線で戦い続けるしか道がないのですから。
しかし『イオニア海海戦』の結果、北方連合もきな臭くなるようですが果たして……
・北方連合指揮官
元ネタは鉄血ダイスの数ヶ月後に作られた北方連合ダイスの主人公指揮官。今作ではまるっきりその世界の歴史を辿ったわけではなくあくまでパラレル展開を歩んだ人物として登場しています
初期ステータスは鉄血指揮官と比べると
指揮能力43(25)
冷静さ40(76)
女の子への興味36(50)
上層部評価77(93)
運38(10)
そして、メルクーリヤの初期好感度90であり初期から一目惚れされているという状態から物語は始まりました。
彼を一言で表すのであれば、まさにレールに敷かれた人生を歩む青年。親が指揮官だから指揮官になる道しかなく、少し活躍すると上層部プロデュースで『英雄』として国内で宣伝され全てが北方連合によって決められて、能力に見合わない拒否権のない人生を強要されていました。
しかし、彼が唯一選んだもの、それが妻であるパーミャチ・メルクーリヤであり、鉄血指揮官と同い年ながら一年ほど前に着任した彼は、がむしゃらに努力を続けて辛い時はメルクーリヤの胸に甘え今では英雄を演じながらも一児の父親となり、充実した日々を過ごしていましたが、息子が産まれてすぐに最前線に配属される事が決まり……とはいえ理解のあるお嫁さんと可愛い息子がいる彼は守るべき存在を守る為に今日も戦い続けるでしょう。
裏話
北方連合の描写を描くために急遽別ダイスの指揮官が登場する事になり、パーティーの冒頭に少し登場予定のはずがどんどんと文字数は伸びていき、最終的には15000文字近い番外編に。また甘える描写はR-18にならない様にかなり省いた結果とこうなりました…
次回はサディアに舞台が戻ってパーティーに。いよいよヘルブスト指揮官とあの人が再開です。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄