鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第三話 幸運10な着任日

 朝焼けが滲むように東の空に広がりはじめ、窓を開ければ優しい南風が自身を包み、遠くからは小鳥が遠くさえずる声が耳を刺激する。

 

 塩味の効いたベーコンとチーズを挟んだサンドイッチで朝食は終わらせ、女性陣の前で働くのだからと念の為に朝風呂にも浸かり、身だしなみを鏡の前で確認をする。

 

 

 曇りひとつない大きな鏡の前で自身の軍服姿を眺めてみると、漆黒の軍服を見にまとった自身の姿が。右胸元の国家鷲章ライヒスアドラーが雄々しく羽ばたき、幼い頃から憧れていた鉄血海軍の一員として今日から正式配属されるという現実に、期待と不安で胸の鼓動がとまらない。

  

 こんな事なら歯を磨くのは最後にするべきだったと後悔しつつ、精神を落ち着かせる為にも同時に甘いココアを飲みたくなるが、先程歯を磨いたのだから断腸の思いで自重する。

 

 毎回ココアばかり飲んでいるがコーヒーはどうも苦手だ、鉄血では自分の体には血とコーヒーが流れているだなんてジョークもあって俺の家族も湯水の如くコーヒーを飲んでいたが、どうもあの苦味が好きになれない。

 

 流石に誰かに提供されたものは飲むが……指揮官候補生として過ごしたフランクフルトの宿舎では、何度も苦いコーヒーを教官や人付き合いで飲まされた事は文字通り苦い思い出。

 

 

 そう考えれば無料で幾らでもマンジュウが甘いミルクココアを提供してくれるこの環境というだけでも指揮官になった甲斐があっただろう……我慢できないから一杯だけココアを貰うか。

 

 ベルを鳴らしてマンジュウに頼み、蜂蜜と砂糖をたっぷり入れたミルクココアを運んで貰い、ミルクと砂糖の甘い刺激で喉を潤しつつ今後の付き合いを考えてるといっそ昨日の内にコーヒー嫌いな事をその事も3人にいっておけば良かったなと苦笑する。

 

 たしかに不安はある、だが昨晩3人と話した結果、精神は意外な程に落ち着いている。

 

 もう覚悟を決めたというか、逃げ道を無くしたからなのだろうか?少なくても今までは泣き言は幾らでも言えたが、今日からは彼女達の前では余り見せてはいけないなとミルクココアを一気に飲み干す。

 

 

「我が同胞のために鉄血の力とならん事を、ってね。さて……いくか! 」

 

 

 ベッドの上に置いていた漆黒の帽子を被りつつ最終確認を終えるとドアを開けて部屋を出る。これからは、毎日同じ事を繰り返すのだろう。そしてセイレーンから鉄血の海を守り平和の為に戦い続けるのが俺の仕事なのだから。

 

 こうして着任最初の一日を過ごす為に……鉄血の、レッドアクシズの指揮官の一員として初めて雛鳥は歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええと、こっちの書類はこっちで……あ、ヒッパーさん」

 

「はいはい、それはあっちでこれはそっち……全くさっさと覚えないってえの。

あと、ヒッパーで良いって言ったの忘れてない?」

 

「おっと、ごめんごめん。まだ慣れてなくて……ね?」

 

 着任当日の朝、新人のアンタに事務仕事を任せるなんて見ていられないからとヒッパーが秘書に立候補してくれた事もあり、現在俺は事務仕事に忙殺されながらもどうにか仕事をこなしていた。

 

 ヒッパーの呆れた目が痛いが、テキパキと書類を整理・保管し、まとめてファイルに閉じてくれくれるので此方としては大助かり。

 やけに手慣れて居るので前の部隊でも経験があるのか?と何気なく聴いた所……

 

「妹のオイゲンがね……あのバカのフォローをしてりゃ嫌でも身につくわよ! 」

 

 なんて不機嫌そうにファイルに書類を叩き込むヒッパーの姿が。

 

「あんたにはわかる?もっと、もっと!と叫びながらバカみたいに突っ込んで、必要以上にバカスカ弾薬を無駄に消費!その後も隙あれば、私の戦闘終了後の報告書に自分の書類を紛れ込ませて、『じゃあシャワー浴びてるから後はよろしく姉さん♪』って言い出す妹を持つ姉の気持ちが!! 」

 

 

 そう文句や愚痴を言いながらも手は休まずに仕事をしているのだからヒッパーは何処までも真面目で面倒見が良いのだろう。

 いや余りに妹さんに苦労して慣れてしまった可能性もあるが……っとこの様子なら早めに休憩が取れそうか。

 

「ありがとうヒッパー、そろそろ休憩にしようか。売店で何か甘いものでも買ってこようか?」

 

「はい、はい、そんなの気にしないでさっさと手を動かす!というか、ベル鳴らしてマンジュウに頼めば無料でケーキくらい持ってきてくれるっての!」

 

「……マジで? 」

 

 軽食だけなら兎に角ケーキまで用意してくれるのか……マンジュウの高性能っぷりに驚きつつ、朝食べたサンドイッチのクオリティを考えれば甘党としては早速ケーキが気になってどうしても食べたくなってくる……というわけで。

 

「なぁ、ヒッパー」

 

「あっ、先に言っておくけど私の分は要らないから。最後まで私が!1人で!仕事を終わらせる為に!手を動かしてるのを見て一人で好きなだけケーキを食べときなさい」

 

「………何でもありません」

 

 ふんっ!と鼻息を荒げるヒッパーを見つつ、諦めて部屋に戻ってから頼もうと再び手を動かしながらバレないようにため息を一つ、何となくだが目の前の少女の性格が理解出来る様になってきた。

 

 

 苛烈ではなく何処までも真面目。口調がやや高圧的なので誤解されやすい性格だが世話焼き気質で、だがこちらが間違って居なければ基本的には味方でいてくれる。

 言ってみれば天使か?と勘違いするほど昨日自分に優しかったシュペーと同じ善人なのだろう、そういう意味でもヒッパーが今日秘書を担当してくれてよかった。

 

「まだ仕事はおわってないけどさ、本当に今日は助かったよ……ありがとうヒッパー。明日も手伝ってくれないかな?」

 

「当然よ、新人のあんたを1人で好き勝手させて後々尻拭いするよりは、さっさと仕事を覚えてもらう必要があるわ!いい?早く私がいなくても事務仕事くらい出来る様になりなさいってぇの!」

 

 そっぽを向いてこちらの顔を見ないのは照れ隠しなのだろうか?それにしても本当に助かった……ヒッパーのお陰で今日は早く仕事が終わりそうだ。

 

 海域パトロールや演習などの業務がある日もあるが、今日は事務仕事だけで雑務は終わる。取り敢えずこの仕事が終わったらケーキを食べつつ、基地の近辺の街に足を運んで探索でもして見ようかと次の書類に手を取ったところで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に耳をつんざく様なサイレンが基地に鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

「「!? 」」

 

 基地中を震わさんとばかりに鳴り響くアラート音。耳をつんざくばかりの不吉な暴音と赤い光を放つ回転灯が否でも応でも目の前の出来事が現実であると突きつけてくる。

 

 鉄血には、各地に大型レーダーや偵察機設置された監視塔が存在する、その監視塔がわざわざこちらに警笛を鳴らしてくるのは……当然未確認の、いや十中八九こちらで対処しなければならない敵性存在が発見された事を示していて。

 

「ヒッパー今すぐ出撃準備を!俺は通信室に! 」

 

「了解!あー……もう!!初日だってのに何やってんのよ! 」

 

 明らかに苛立ちを隠せない様子で書類を机の上に置くとヒッパーは即座に走りだし、慣れた様子で部屋から出て行く。

 

 

 相手がこちらを考えてくれないのは理解して居たが、まさか初日にやってくるとは思わなかった。最終的に出撃の判断を決めるのは代表であるビスマルクさんだが今日初陣を経験する可能性もある訳で

 

 

「着任初日になんでやってくるんだよ……セイレーン! 」

 

 クソっ!と舌打ちをしながらも廊下を覗けばマンジュウ達も慌てた様子でそれぞれの配置に着こうとピヨピヨと動いており、緊張と高揚に包まれながらも急いで自身も指揮官用に設置された通信室に走り出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報によれば戦艦Rook級を中心としたセイレーンの大艦隊が接近中よ。

目的は恐らく鉄血本土の軍事基地の攻撃、及び壊滅させる事。その攻撃目標にキール第三基地も恐らく入っているわ」

 

大型の通信機が備え付けられた部屋でマンジュウ達が騒がしく動く姿を見て感心する暇もなく、凛としたビスマルクさんの音声が部屋に反響する。

 

 寄りにもよって大艦隊……それも配属初日にセイレーンと出くわす事になるとは。

 

 

 今頃ヒッパー達は艤装の最終シークエンスの確認を行なっており、今か今かと出撃の時を待っている。

 俺の仕事はそんな彼女達の為にまず情報を少しでも集める事であり、ビスマルクさんの言葉を聞き逃さないように一言一句脳髄に叩き込みつつ、緊張しながら次の言葉待つのだった。

 

「貴方達には本隊の支援として、こちらの本隊が準備を整えて出撃するまでの間、時間稼ぎ兼露払いとして時間を稼いでもらうわ。

遅滞戦闘を行いつつ情報を集めて仮に人型のエグゼキューター級やネームドのセイレーンがいるのであれば即座にこっちに送る事。

グラーフ達が居るとはいえ撲滅や敵中枢に突撃なんて考えずに役割を果たしなさい」

 

「了解です!!」

 

 通信越しからもわかる威風堂々とした声に思わず背筋がピンと伸びる、これが陣営代表のカリスマなのだろうか?

 

 敵本体と単独で直接殴り合わなくても良いと言われた事に少しだけホッとしつつ、早速ヒッパー達の元に走り出そうとするも、ビスマルクさんからの通信はまだ続く。

 

 

「……本当にごめんなさい。本当は貴方達に無理させたくなかったけど最も近い基地で遅滞戦闘も可能な部隊が貴方達しか居ないの……時間を稼ぐ事だけを考えて絶対生きて帰りなさい。これは命令よ」

 

 今でこそ人類は海を奪還したが一時期は人類の海を90%を奪って我が物顔で好き放題して多くの街を焼き払った人類種の敵セイレーン。幼い頃から……そして、指揮官として教育を受けている時期もラジオから流れたセイレーンが引き起こした数々の蛮行を思い出し、憤りで胸が熱くなる。

 

 

「了解しました!自分の、自分達の役目を果たしますーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を! 」

 

「幸運を。そして鉄血と公王陛下や宰相閣下に恥じない戦いを行い、必ず生き残りなさいーー我が同胞のために鉄血の力とならん事を! 」

 

 

 もう二度とあんな光景を生み出したくない、このまま俺達が敗北すればセイレーンに焼かれるのは基地だけではなく港周辺、そして傷つくのは軍人だけではなく無辜の人々。まだ未熟ではあるが、やっと俺は皆を守る為の力を手に入れたんだ!なら……!

 

 まるで一種の熱に浮かされたかのような高揚感が身体中を駆け巡る。同時に頭を冷やして情報分析を行い、どうすればセイレーン相手に時間を稼げるのか考えつつもビスマルクさんからの通信を切られ、俺は一部のマンジュウを引き連れて共に走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 波風を切り抜けながらマンジュウの操舵の元に海原を切り進む一隻の小型軍艦「指揮艦」と、それに並走して輪形陣の陣形にて進む3人の乙女たち。監視塔からの報告によれば敵セイレーンは北西方向に展開中であり隊列を組んで我が物顔でこちらに向かっているらしい。

 

 

 三半規管は訓練時代に鍛えているので船酔いの心配はないが、それでも吐き気は感じてしまう。ビスマルクさんの前では勇ましく啖呵を切るものの、初めての実戦……一歩間違えば海の藻屑になりかねない戦場に向かっているのだと感じると少しだけ震えてしまう。これは武者振るいだと自分に言い聞かせて深呼吸をしながら、じっと窓の外から海を眺める。

 

 竜型艤装に座りながら目的地まで無言を貫くグラーフに、ストレス発散と言わんばかりの笑みを浮かべながら小型のレーダーを眺めるヒッパー。自分と違い何度も実戦を経験した二人でも初の戦闘では恐怖を感じたのだろうか?と疑問に思っていると、大型の腕型艤装を振りかざしながら心配そうにこちらを見つめてくるシュペーの姿が。

 

『指揮官、初めての戦いで不安かもしれないけど出来る限り貴方のフォローはするから安心してね。貴方と皆が傷つかないように私も動くから……落ち着いて、訓練通りにすればきっと上手くいくからね? 』

 

 なんて、二人にバレないように個人通信をしてくれるシュペーは天使か何かだろうか?感謝しつつシュペーに手を振ると、少し恥ずかしそうに手を振り返すシュペーの姿が。癒される反面なんだか自分まで恥ずかしくなり、帽子を目深に被りながら不安に気づかれてしまった事を反省する。

 

 自分では出来る限り平然、平静と落ち着いていようとしていたが直ぐにバレるほどに不安が一挙一動に滲み出ていたらしい。ふぅと軽くため息を見ながらもレーダーを見てみると目標地点まで恐らくあと10分程の距離となっていた……そろそろか。

 

『そろそろ目的地だ。俺とシュペーとヒッパーはここで待機、グラーフは念のために偵察機で敵の陣形や数を確認して出来る限りの情報を伝えてくれ』

 

『『『了解』』』』

 

「「「「ピヨッ! 」」」

 

 

 

 

 慣れた様子無線で短く返答する三人、そして一斉ピヨピヨと返答するマンジュウ達。初めてマンジュウを見た時は言語が喋れなくて大丈夫か?と不安になったが案外上手くいくものだと感心する。無線傍受をされても相手が何を言っているのかと分からないのもいい点だ……ただ、同時に味方もこの通信を聴いて混乱しかねないのだから一長一短ではあるな。その辺も踏まえて後でレポートに書いて後で提出しておこう。

 

 グラーフが偵察機を三機程発艦させると、彼女は目を瞑りながら思念を偵察機に送り、精神を同調させて操作に専念する。上空に飛び立つ灰色の偵察機AR196は声をかき消す轟音を鳴らしつつ、比翼で空を掻き切りながら上空に放たれ、やがて見えなくなっていった。

 

 一分一秒が長く感じる。何か出来ないか?そうだ、敵潜水艦に捕捉されないか調べてくれとヒッパーに言えば、「そんなの、とっくにしてるからアンタは直ぐに動けるように待ちなさいっての」と呆れられ、レーダーをじっと眺めながら手が汗でびっしょりと濡れていく。

 

 緊張の一瞬、空気が重くなりマンジュウ達までじっと待機する。待つ間もどんどん早鐘を打つ心臓が手で掴まれるように痛く感じる。頼む早く見つけてくれ……!!

 

「チッ……!やつらめ……!卿よ、緊急入電!最優先で本部のビスマルクにすぐに伝えろ!! 」

 

 時間的には5分後、体感的には3倍以上に感じる重苦しい時間を過ごしているとグラーフは苛立った様に舌打ちをしながら怨嗟の声を海に吐き捨てる。何かあったのだろうか?今までにない焦ったグラーフの姿を見て、まさか敵艦隊に強力なネームドのセイレーンでもいたのだろうかと不安に駆られつつも、頭が痛い程に緊張をしながらグラーフの次の言葉を待つ。

 

 思えばこれが全ての始まりだった。狂乱と狂騒と様々な思惑に巻き込まれて駆け巡り、一指揮官に過ぎない自分の人生が変わったその瞬間を。

 

「ここより北西4キロの方面に大規模セイレーン部隊を発見。そして……」

 

 

 

自分の平穏な人生が終わり、俺達が時代の唸りに巻き込まれる事になった運命的な一言を言葉を……グラーフは口にする。

 

 

 

 

 

「同時に鉄血領海にてーーーー空母、戦艦も含む5隻の()()()()()()()()がセイレーン艦隊と交戦をしていると……ロイヤルがこの戦場に存在していると今すぐに伝えろ……!」




用語解説
 指揮艦
 戦場にてkansenの指揮を取るキューブ適性者である指揮官が搭乗する20トン未満の小型旗艦。通信、食料、医療器具、艤装の予備部品と正に移動をする司令部という機能を持ち、kansen達の動きをサポートを行い、指揮によって勝利に導く。

 各国により指揮艦の姿は違うものの、鉄血公国の赤と黒を基調とした指揮艦は戦闘技能を全て削ぎ落とし、特殊シールドにより戦艦の鉄鋼弾10発程度であれば無効化可能なシールドを持っており。有事の際は全てのkansenを集めて離脱する生存性重視の船舶となっている。それでは、何故その様な高性能シールドを全てのkansenに搭載させないのかと言えばどうやら特殊な動力を用いており……その動力のブラックボックスを知るのは技術者、上層部の一部、そしてビスマルクと姉妹艦のティルピッツのみとされている。

 本来指揮艦の運用に於いては十人ほどの人員が必要ではあるものの、ヘルブスト指揮官の搭乗艦はマンジュウの試験運用も兼ね、全てをマンジュウに委ねている特別製。指揮官曰く

「乗り心地は配属前に搭乗した指揮艦よりも快適で内装も良い、しかし常にピヨピヨとマンジュウの声を聞く羽目になるのでノイローゼになる指揮官が出ても仕方がないのでは?」

と後にビスマルクにレポートを提出している。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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