鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第三部 指揮官暗殺未遂事件編
第三十二話 『英雄』と『懐刀』


 雲一つない青々とした空にまるで祝福されたかのように、多国籍の船団は列を成してイオニアの海を進んでいく。この船団に所属する者達の国籍を知れば軍人であれば間違いなく驚きを隠せないだろう。

 

 先頭を進むのはサディア海軍所属の重巡ザラ、総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトの腹心であり、『帝国の懐刀』の異名をもつ幹部の一人だ。彼女は道先案内人として船団を導くためサディア軍から派遣されたkansenであり、サディアの国境付近まで同行してくれることになっていた。

 

 

 後方を進むのは重桜の商船団。一応は民間組織という形にはなってはいるが、リーダーの工作艦明石は現役の重桜海軍所属のkansenであり、付近にポツポツと存在する数隻のkansenも元重桜海軍の方々だ。話を聞けば中には歴史的にも有名な『重桜海海戦』に参加した古参のkansenも存在しているようで、旧式の装備に身を固めながらもその力は決して侮れないだろう。

 

 そして、サディアと重桜に挟まれる形となっているのは俺達鉄血艦隊、キール第三基地に所属する面々だ。サディアでの任務や後始末を終えて鉄血本国への帰還を目指す。紆余曲折を経てアズールレーンに所属する重桜の面々の護衛を護衛する事になったが、この戦力であれば、非武装の商船の護衛こそ必要ではあるものの、例えセイレーンの大規模艦隊に襲われようが難なく撃退できるだろう。

 

 

 更にこの指揮艦にはイオニア海海戦で捕虜になったイラストリアスを護送しているということもあり、結果的には三カ国どころか四カ国の混合艦隊となっていた。恐らく鉄血がレッドアクシズを結成して以降の歴史で、ここまで色取り取りの国々の面々が集まった経験は初めてではないか?と感慨深く、俺は指揮艦のブリッジにてその威容を目に収める。

 

 もしかすると、この戦争が終われば、こんな感じに戦前に行われていたとされる、世界各国のkansenを収めた観艦式が再開されるかも知れないなと感慨深くなるも、実際は鉄血とサディアは兎も角、重桜は商売のために鉄血本国に向かっており、ロイヤルに至っては連行される捕虜なのだから到底、平和の風を感じることができないのが複雑な気分になるが、それは置いておこう。

 

 

「ピヨヨッ! 」

 

「りょーかい、そろそろだね」

 

 ブリッジにて海図やコンパスと睨めっこしていたヒヨコ型ロボのマンジュウが声を上げると、それを合図に通信機を手に取る。最初の内はマンジュウとの意思疎通にも苦労したが、今では彼らの鳴き声だけで何となくだが言いたいことが伝わって来るのだから慣れってものは恐ろしい。

 

 サディアへの滞在中は中々マンジュウと顔を合わせることができずに、もしかすれば忘れられているのでは?と少し不安に思ったが、小柄で忠実なヒヨコ達は俺の顔を見るなり敬礼してくれて、安堵したのは内緒だ。

 

 それに心なしか、最近のマンジュウは前よりも忠実で積極的に俺をサポートしてくれるようになった気がする。学習型AIを積んでいるという話だが、人と同じく発展途上の技術の塊である彼らも学び、成長していく。苦楽を共にする過程で、俺を指揮官と認めてくれたのは嬉しいが、彼らの成長や学習能力の高さについても鉄血に帰ってからビスマルクさんに報告しなければ。

 

「こちら鉄血艦隊指揮官。そろそろ国境付近なので準備も兼ねて一時間程休憩を取ります。鉄血組とザラさんは指揮艦に一度収容を。重桜の皆さんは英気を養ってください」

 

『こちらヒッパー。悪いけどこっちは重桜のkansenにちょっと呼ばれてるから休憩はそっちの方でとるわ。何かあったら直ぐに連絡するのよ』

 

 

 通信機を手に取り報告をすれば、少しだけうんざりしたような声のヒッパーから連絡が届く。想像がつくがタラントで拘束されていた重桜組は恐らく、サディアの新聞にも書かれていた、イオニア海海戦の顛末について本人達から色々と聞きたいんだろうな、なんて思いながらもヒッパーに了解と通信を送る。

 

 彼女達であれば機密の範囲内で話してくれるだろうし、そこから仲良くなって貰えればこちらとしてもありがたい。多国籍のkansenとの出会いで色々と得るものがあることを願おう。友人というパイプがあれば、こちらが将来重桜に向かった時に役に立つこともあるだろうからね。

 

 

 マンジュウに待機と警戒を命じてブリッジを出ると、俺は袋詰めにされたワインを数本手に抱えながらも甲板に向かっていく。波も少なく船の揺れが穏やかであることを幸運に思いつつも、肘で強引にドアを開けながら甲板に向かうと、お目当ての人物が既に黄昏ていた。

 

 真っ赤な赤髪の上に勲章を身につけたベレー帽を被った爆乳の美女。片手にサーベルを握りしめ、艤装で身を包んだザラさんに労いの言葉を掛けながら俺はワインを渡そうとする。

 

「……あら、指揮官」

 

「ザラさんお疲れ様。これ、鉄血からグラーフが持ってきたワインですけど良かったら持って帰ってください。彼女が選ぶものだからきっと口に合うと思いますよ」

 

 正直な話、極度の甘党の俺にはワインの良し悪しは分からない。サディアでハマった干し葡萄のワインもかなりの甘味を感じる物だから受け入れられた訳で、苦さや渋さを基調としたごく普通のワインの美味しさはコーヒーと並んで理解できないが、きっとグラーフが鉄血から選んで持ち込んだ物なのだから美味しいと信じよう。

 

 寂しいがここでザラさんとはお別れだ。思えばホテルに滞在してる最中は常にザラさんもわざわざホテル暮らしをしてくれて、俺達がサディア軍に用事がある時は橋渡しをしてくれて、個人としてもサディアでの観光案内として美術館やおいしいランチに付き添ってくれた。俺達がサディアで心地よく過ごせたのは間違いなくザラさんのお陰でもあり、感謝してもしきれない。

 

 

「………」

 

「本当に幸いでしたね、セイレーンに襲われるんじゃないか?って少しヒヤヒヤしましたけど、天気も快晴でセイレーンの尻尾も見えずにここまで来れたのは運が良かったですよ」

 

「………」

 

「あの、ザラさん? 」

 

「…っ…ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたのよ。ありがとう、ワインは有り難くもらっておくわ、きっとポーラも喜ぶはずよ」

 

 世間話を振るもザラさんは反応が鈍く、少しだけ浮かない表情で海を眺めていた。出会った当初やサディアで過ごした日々を振り返れば、明らかに様子がおかしく、率直にいえば元気がなく、どこか塞ぎ込んでいる様子。

 

「その……大丈夫ですか? 」

 

「大丈夫よ。ごめんなさい、心配しなくても大丈夫。こちらの話だもの、ねっ? 」

 

 そう、謝罪しながら彼女は笑みを浮かべるもその顔はどこか無理をしているようで、無理やり笑みを作り出したような表情だ。何となくだが……彼女がこうなってしまった理由は予想が付く。少しだけ悩みながら思い切って俺は彼女を誘ってみせる。

 

 

「もし良ければ、ちょっと二人でコーヒーでも飲みませんか?丁度今は休憩時間ですし、今から急いでサディアに帰る必要もないでしょう? 」

 

「いや、遠慮しとくわ。こっちも仕事が溜まっているのよ。その善意には感謝するわ」

 

「……何も無ければここでバイバイとなりましたけど、流石にそんな様子じゃ放っておけませんよ。機密や国に関わることなら無理でしょうけど、それ以外なら俺に吐き出してください。誰かに愚痴ればきっと悩みの解決の糸口も見えてきますから」

 

 ビンゴだ。俺の言葉に一瞬だけ硬直したザラさんは明らかにその言葉を聞いて動揺しているようだった。目を少し見開き、あぁ、そういうことなのかと何かに納得するかのように頷くと、静かに声を漏らす。

 

「……そんなに悩んでるように見えたのかしら? 」

 

 無言で俺が同じように頷けば、それを見て苦笑しながら彼女はため息混じりに吐息を漏らす。普段の彼女であればここまで分かりやすく憔悴した様子を見せる筈もなく、完全に隠し切ることもできたはず。それができない程に恐らく今の彼女は……心身共に追い詰められている最中なんだろう。

 

 海鳥の鳴き声をバックに、彼女に渡すはずのワインを近くの棚に収納しつつ、俺達は無言で二人肩を並べて船内に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方なら多分こうなった理由もわかるでしょうけど……そうね。少し悪いけど、付き合ってもらってもいいかしら? 」

 

 サディア人は甘いコーヒーが好きであることを思い出し、これでもかと砂糖とミルクを入れたアイスコーヒーと、今朝のおやつ予定に昨夜購入していた菓子パンを差し出すと、ザラさんはちゃんと口にしてくれた。少し心配だったが少なくとも食欲はあるようで拒食症の様子はないかと思わず安堵していると、ザラさんは早速本題に入る。

 

「ええっ、お察しの通りこの前の戦闘でね……私たちが、もう少し早く動けてればあの子を捕まえることができたんじゃないかって、少しね」

 

 

 物憂げな表情を浮かべながら、甘いコーヒーを口にしながらもポツポツとザラさんは口を開く。マインツがいる前では到底飲む事が不可能だった甘さの塊であるアイスミルクが喉を潤すなか、俺は黙って彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

 

「あそこでヨークを捕まえるなり、撃沈していれば完全勝利だったのに、サディア軍の中でも私達だけが失敗したのよ。ポーラもすっかり落ち込んじゃって……」

 

 

「……ポーラさんは大丈夫なんですか? 」

 

 

「大丈夫……とまでは行かないわね。総旗艦様は、全力を尽くした結果なんだからそこまで気にしなくても良いって言ってくれたけど、ずっと仕事以外で塞ぎ込んじゃって……なんとか私もポーラを慰めようとしたけど、ふふっ、貴方に声をかけられてやっと気付いたわ。自分が落ち込んでいることすら隠せないのに、妹を慰められる訳なかったわね」

 

「……コーヒーのおかわり、飲みますか? 」

 

「ええっ、お願い。とびっきり甘く、ね」

 

 

 あっという間に飲み切った彼女のコーヒーカップを受け取り、砂糖とミルクを入れながら自身もあの海戦に想いを馳せる。彼女には悪いが、実のところザラさんが何故落ち込んでいるのかについて目星はついていた。

 

 

 あの海戦以降忙しくて中々ザラさんには会えなかったが、戦後処理を手伝っている最中に他の人から彼女達の戦いについての顛末は聞いている。

 

 イオニア海海戦は大勝利に終わったが、たった一つだけサディアは失態を犯す。それは、イラストリアスに空襲開始の合図を送った重巡のkansenであるヨークがスエズ方面に逃亡してしまったことであり、その時ヨークと交戦したのがザラさんとポーラさんだった。

 

 セイレーン前哨基地への偵察のために先遣隊として派遣されていたザラさんとポーラさんは先にヨークを無力化する任務を帯びていたが、ヨーク達はそれを読んでいたのか信号弾を空に放つ。どうにか空襲阻止には成功したものの、混乱の最中ヨークは艤装のほとんどを海に投げ捨てて必死に逃亡したようで、最後は国際条約で戦闘が禁止されているスエズ運河方面に逃げ込まれてしまった。

 

 恐らく彼女はそのことを今も気にしているんだろう。圧倒的勝利を収めた中で自分だけが失敗してしまうなんて、厳しい目を向ける軍人もいただろうし、自分を責める事になっても仕方ないだろう。そもそもザラさんは帝国の懐刀と称された女性であるというのに、ここまで分かりやすく落ち込んでいるのが異常事態なのだから。

 

「あなたに言っても仕方のないことだとはわかっているのに……ごめんなさい、少し戦功を挙げたあなたに嫉妬しているのかもしれないわね? 」

 

 

 ザラさんは再びコーヒーを受け取って、ティースプーンでかき混ぜながらそう口にする。そして俺は気がついてしまった、落ち込んでいるザラさんに俺が悩みを吐き出せばいいだなんて傲慢であり、かえって彼女を追い詰める以外の何ものでもない結果になったんじゃないか?と。

 

 

 

 片やロイヤルを騙し討ちするはずが、策を読まれて奇襲の合図を撃ち上げられて翻弄されてしまい。数の上では有利だというのに逃げられたザラさん。

 

 

 片や自国でもないのに彼女の祖国を防衛することに成功して彼女の失態の尻拭いを行い、敵の空母と戦艦を鹵獲した鉄血艦隊の代表。

 

 実際は作戦を放棄して海に飛び込んたヒーロー気取りで自殺志願者であったバカなのだが、あくまで客観的に見ればそうだというのに、そんな俺から悩みでもあるんですか?と言われるのは屈辱でもあり、自分を追い込む結果にしかならないだろう。

 

 

 何となく落ち込んでいる理由は分かっていて、俺がグラーフにしたように愚痴れば少しは気が晴れると思ったが。もしやとんだ思い違いだったんじゃないかと冷や汗をかく中、ザラさんの言葉は続いていく。

 

 

「……改めて、お礼をさせて貰うわ。サディアを、祖国を守ってくれてありがとうございます」

 

 そう……俺達とザラさんは、立場が違い過ぎたんだ。俺はグラーフに慰められたとはいえ、グラーフはあくまで同じ勝利を分かち合った仲間。しかし、別の戦線で戦っていたザラさんは違う。

 

 ザラさんからすれば何を言われても上から目線にしか聞こえずに、更に落ち込む要因にしかならないだろう。そのことを、前提条件の違いを理解できずに踏み込んでしまった自身の失態に今更ながら思わず吐き気が込み上げる。

 

(何で俺は…またこんなことを……! )

 

 軽く、頭を下げるザラさんに俺は自分の軽はずみな行動に罪悪感を覚えてしまい、何も言えなかった。今更彼女の気持ちもわからずに、傲慢なことをしてしまった俺に何ができるんだろうか?

 

 過ぎたことを考えてもどうしようもない?ヴェネトさんからもそう慰められて、沈んでいた彼女に俺がそう声をかけても嫌味以外の何ものでもないだろう。

 

 お二人が全力で戦った結果なら後悔しなくてもいい?彼女はもっと上手くやれたんじゃないか?と悔やんでいるというのにそんなことを口にできるはずもない。

 

「貴方に話して少しだけ気が楽になったわ。ごきげんよう、鉄血の指揮官。もし、また会える時があればその時は今度こそ…」

 

 いっそ、この船にたんまりと置いてあるワインを持ってきて、こうなりゃ飲んで忘れましょう!なんて最終手段に出ようとするも、ザラさんは無理に微笑みを作りながら帰ろうとする。

 

 俺は結局、彼女を傷つけただけだった。悩みを解決するどころかこれじゃ死体蹴りをしただけじゃないか。恐らく彼女の性格上を俺を恨むことは無いだろう。恨まずにただ、不甲斐ない自分を責め続けながらポーラさんを慰めるために更に無理を重ねていく。

 

 

 

 あんなに世話になったのに。サディアで初めて俺を信じようとしてくれた女性なのに。

 

 

 このままザラさんを帰せばきっと彼女は、ポーラさんは傷ついたままであり、自分をずっと追い詰めていくだろう。無視するのは簡単だ。このまま俺たちは鉄血に帰り、彼女達はサディアに帰る。彼女の問題もヴェネトさんが問題視していない以上、いつかは風化して時の流れが解決するはずだろう。心に一生残るシコりが残る可能性があるが、ザラさんとポーラが向き合うしか道はない。

 

 そう、俺には関係のないことなんだ。首を突っ込むと火傷する。慰めても彼女を傷つける結果にしかならない。だから、このまま別れるのが二人にとっては最良でベターな結末であるということは理解できていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ…サディアの懐刀がこの程度なら、先が心配ですね?ええ、全く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無言でドアに向かうザラさんの背中に俺は、いやらしい笑みを浮かながら、言葉のナイフを投げつける。

 

 俺は、彼女を放っては置けなかった。たとえお節介と言われようが膝枕をしてくれたシュペーや、抱きしめてくれたグラーフのようなことはできなくても、ザラさんには元気になって欲しかったんだから。例えどんな形でも。

 

 

「あなた……」

 

 

「おや?負け犬でも耳は敏感なようですね?だってそうじゃないですか、この先、栄光あるサディアの幹部としてヴェネトさんを支えるべきアンタが一回失敗したくらいで使い物にならなくなるなんて。もし、次負けたらどうするんですか?こめかみに銃を突きつけてトリガーを引いてみます?それとも、恐怖のあまり無様に引きこもってこのまま朽ちて──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、無理しなくてもいいわよ?貴方がそんなことを言えるような人じゃないって分かってるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 振り返った彼女の目には憎悪も、怒りも、悲しみすらなく、ただ呆れだけで彩られていた。正直ビンタどころか殴られるのであれば全て受け切ろうと覚悟はしていたが、あっという間に彼女は俺の意図に気がついたようだ。

 

 

 ……考えてみれば当然だろう、ザラさんはもう一ヶ月近くホテルに滞在して俺達と少なからず交流していたのだから、俺の性格くらい把握していて当然だ。

 

「……すいません、もっと気の利いた罵倒のほうが良かったみたいですね?」

 

「いや、それ以前の問題よ。あんなに鉄血の皆に慕われている貴方がいきなり私を罵倒するだなんて不自然だし、何より私が自殺幇助されたって上にいえば蜜月関係は崩壊して国際問題になりかねないのに、そんなバカみたいなことを貴方がするわけないでしょう? 」

 

「ごもっともですね、はい」

 

 

 うん、流石に言い過ぎたか。皮肉なら幾らでも言えるが心からの罵倒は難しいな……一応ザラさんの立場と性格的に、どんなに悔しくても反骨心こそ覚えても、上層部に密告する危険性は無いと判断した上での発言だったが……。

 

 

 いや待て、というか流石に考えなさ過ぎじゃねぇか、馬鹿なんじゃねぇの俺!?彼女が冷静だから良かったとはいえ、もしザラさんが怒りのままに上に報告したら俺ビスマルクさんに銃殺されても、なんなら今ザラさんに殴り殺されても文句言えねぇじゃねぇか!!

 

 あぁ……こういうことか。考えなしに行動するな、まず誰かに相談しろってグラーフもマインツも言ってたな……自分の命を大切にする以上に脊髄反射で動くべきじゃないな。もっと広い視野をもって行動しなければ……発破をかけて俺個人への怒りで立ち直ってくれればと思っていたが、似合わないことなんてしなけりゃよかった。

 

 

「でもね。言ってくれるじゃない、鉄血の指揮官」

 

 取り敢えず重桜式土下座で床に頭を擦り付けようか?と悩む俺を尻目に、思い切り罵倒されたというのに笑顔でザラさんはそう口にする。目は爛々と輝いており、声にも覇気がどことなく感じられる。

 

 

「ええそうね、その通りだわ。たった一度逃したくらいでこんな顔なんてしている暇はないもの……ポーラも含めて次はもっと上手くやってみせるわ、見てなさい?英雄サン」

 

「ははは、ならちゃんと見せてもらおうかな。俺が帰ってからになるけどね」

 

 

 結果的に、俺の下手くそな発破に呆れたようだがザラさんはやる気を取り戻してくれたようだ。怒りのままに帰還してそのまま俺を恨むなり、見返すなりして元気になってくれればと思っていたが、俺だって世話になったのにザラさんに嫌われたくはない。彼女が大人の対応をしてくれたことに感謝しつつも、別れ際に差し出された手をぎゅっと握りしめる。

 

 

「貴方のことは忘れないわ、ヘルブストさん。私達は受けた恨みと受けた恩は決して忘れない。貴方達がサディアに報いてくれた恩は必ず返してみせるわ。それにもし貴方に助けが必要なら、姉妹共々直ぐに鉄血に駆けつけて助けになる。幸運を、貴方の未来が輝かしいものになることを願っているわ」

 

「ヴァイスでいいですよ。俺もサディアで過ごした日々は忘れません。俺達が穏やかな日々を過ごせたのは貴方のお陰です。次にザラさんが鉄血にくる機会があれば、その時は俺が恩返しをさせていただきましょう。我が同胞のために鉄血の力とならんことを。そして栄光あるサディアの未来に幸あれ、です」

 

 サディア帝国はいい国だ。

 

 妹が嫁にいった第二の祖国だからこそ俺はずっとサディア帝国を好意的な目で見ていたが、たった一ヶ月程度の滞在でその想いが変わることは無かった。いや、むしろ強くなる一方だ。

 

 だから俺は早くこの戦争を終わらせたい。『英雄』を演じてレッドアクシズ団結のために力を尽くし、全てが終わった後に妹や彼女達と平和になった世界で再開するために。

 

 サディア帝国に向かう中、俺はマインツにいざとなればサディアを捨てて鉄血のために尽くし、敵対する覚悟を決めろと言われていた。そして今はザラさんの手を握りしめながら、この二カ国の蜜月関係を終わらせないために、そしてこの戦争を終わらせるための一歩を踏み出す覚悟を決めようとしている。

 

 俺はぎゅっとザラさんの手を握り締めながら、大好きなこの帝国に恩返しをするために、なすべき事を為さんと決意するのであった。

 

「まぁ、あんな規模の海戦、もう二度起きない方が幸運なんですけどね」

 

「ふふっ、それは言えてるわ……っと、忘れるところだったわ。ヴァイス。貴方に渡したいモノがあるの」

 

 そう言いながら彼女はマントに貼り付けられていたポケットを探ると、小さな封筒を俺に手渡してくる。

 

 

「総旗艦様から貴方への手紙よ。今すぐ読まずに鉄血に帰ってから、時間がある時にでも読んで欲しいって伝えられたわ」

 

「ヴェネトさんから?ビスマルクさんじゃなくて俺個人に? 」

 

「そうね、もしかするとラブレターかもしれないわね。まぁ、冗談はさておき、そろそろ帰らせてもうわ。仕事が溜まっているのも本当だし、ポーラにも色々と伝えないとね。チャオ、また会いましょうね。棚に仕舞ってるワインはありがたくもらっておくわ」

 

 別れ際、今度こそ彼女は帰ろうとするも、思い出したかのように封筒を手渡すとこちらの返答も待たずに廊下を進んでいく。彼女が歩くごとに揺れる豊満なヒップをさりげなく眺めつつ、俺は封筒を取り敢えずポケットの中にしまっておく。

 

「ラブレターねぇ……」

 

 

 

 

 去り際のザラさんの言葉に少しだけ浮ついた気分になるも、即座にそんなはずはないと納得する。確かに恋人より凄いこと(テルマエ外交)をしてしまったが、それだってヴェネトさんが盗聴防止などのちゃんとした目的の元で行った事だ。マルタ島で話しかけてくれたのも政治的な意図があってのもの。

 

 とはいえ、恐らくこの手紙はマルタ島攻略とタラント防衛に成功した感謝を伝えるためにわざわざ用意してくれた物だろう。わざわざそこまでしてくれる陣営代表のヴェネトさんの思いに胸が熱くなる。また鉄血に戻って時間がある時にでもじっくりと読ませてもらおうか。

 

 こうしてザラさんと別れた後も俺たちの航海は平和そのもの。天候にもセイレーンにも妨害されず、結論から言えばなんら障害もなく鉄血本国に帰還することに成功した。これで、俺達の任務は終わり、ビスマルクさんに報告をした後にゆっくりとその手紙でも読ませてもらおうとしたところで。

 

 

 

「というわけで、鉄血の艦隊の皆には感謝してもしきれないにゃ!だから明石の感謝の気持ちを受け取って欲しいにゃ!! 」

 

「そんなことしなくてもこっちは仕事をしたまでですからね。ですが、ありがとうございます明石さぶふぉ!? 」

 

 

 

 

 その時、俺が思わず吹き出してしまったのを誰も責めることはできないだろう。なんせ彼女に渡された小さな包みに入っていたのは。

 

 

「えっと明石さん。これって、指輪……だよね……? 」

 

「ムフフ♪そうだにゃ、正真正銘のkansenと人間の絆の証!心が通じ合ったキューブ適正者がkansenに渡せば能力も底上げされて、実際に婚約したkansenも身につけている正真正銘、貴重な本物のケッコン指輪だにゃ! 」

 

 

 俺の隣でその小包を覗き込むシュペーも、それが何なのか、そしてどれだけ貴重な物なのか把握した途端に硬直した様子であり……何故だか俺はそんなシュペーと目を合わせることが、不可能になるのであった。

 




・「いや、無理しなくてもいいわよ?貴方がそんな事を言える様な人じゃないって分かってるんだから」



dice1d10=5 (5)
1~3.…そうね、その通りだわ
4~6.言ってくれるじゃない
7~9.…あなた、似合ってないわよ?
10.*おおっと*

 実の所この様に原作ダイスに於いてもこの時点で指揮官に煽られようがザラが本気でキレる選択肢はファンブル以外には存在せず、より落ち込むか即座に指揮官の意図に気がついて対応するという選択肢以外残されておらず、今回は選択肢4〜6となりつつも、指揮官の似合わない挑発に呆れるという対応に繋がりました。

 これがもし交友の薄い捕虜のロイヤルの面々であれば恐らく彼の挑発にのり、指揮官にビンタの一つでも行ったでしょう。しかし、ザラは一ヶ月近くホテルに滞在して指揮官と交流しており、指揮官がいきなりそんな挑発や罵倒をする性格でも無ければ、出来る性格でもないと理解しており、結果的には指揮官の発破をかけるための挑発は失敗に終わる事に。ですが、指揮官の意図には気がついた様で二人は和やかなムードで別れる事に成功する子でした。ザラと出会う所から始まり、ザラと出会って終わるサディア編。彼女とポーラはヨークを逃す失態を起こしましたが、きっと立ち直り次こそは奮起する事でしょう。あの時下手くそな挑発で慰めようとしてくれた鉄血の指揮官サンを見返してやる為に。

・ヴェネトの手紙
 サディアでの別れのシーンの選択肢は

dice1d10=3 (3)
1~3.ザラとかだけ
4~6.リットリオも来たのか
7~9.ヴェネトさんも来てる?
10.*おおっと*

 と他の面々が来る可能性もありましたが結果的には戦後処理に忙しいようでザラだけが見送る事に。しかし、ヴェネトは諦めるはずもなく

dice1d10=1 (1)
1~6.用意しましたよ!!
7~10.時間が…時間が無い…!

 選択肢の結果、ギリギリ指揮官個人に送る手紙をザラに渡してもらう事に成功。その手紙の中身が判明するのはもう少し先になりますが、ヴェネトは決して諦めない女です。

・「えっと明石さん。これって、指輪……だよね……? 

この続きはシュペー視点のお話に。鉄血に帰還した直後に明石に渡されたものとは貴重なケッコン指輪。そしてシュペーは艦隊メンバーの中で唯一明確に指揮官の事を異性として気にしている女の子であり、少しだけ彼らの関係に変化が見られるかもしれません。


 次回は番外編として各国情勢の鉄血編。各国情勢だけではなく、『イオニア海海戦』の裏でビスマルクが何をしていたのか、そして度々登場していた14歳の第二遊撃艦隊指揮官の過去が少しだけ明らかに。

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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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