鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第三十四話 英雄となる為のケジメ

 

 

 立ち入り禁止区画までは沢山の鷲の胸章を身につけた黒い軍服に身を包んだ鉄血軍人ばかりで視界が占められていたというのに、ここから先は特別な区画となっている。人の姿が辺りに見えず、代わりにマンジュウばかりがピヨピヨと働いており、側からみれば異質な廊下をカツカツと音を立てながら進んでいく。

 

 ここはキールに存在する鉄血海軍本部。ビスマルクさんも所属する鉄血海軍の総本山であり、セイレーンとロイヤルネイビーに対する最後の防波堤ともいえる場所だ。二ヶ月ほど前に通ったこの廊下にはマンジュウはそれ程見かけなかったが、現在では一つの区画を支配する程に数が増産されていた。

 

 マンジュウの利点はいくつもあるが、文句を言わない労働力である以上に、忠誠心も高く、絶対に機密を漏らさないなどの利点が存在している。例え彼らがスパイの手に堕ちてもピヨピヨと話すだけのマンジュウの感情を読み取ることは不可能だろう。俺も着任前にマンジュウからの言葉を読み取る訓練を行ったが、慣れるまで苦労したことが懐かしく思えてくる。あの時はピヨピヨ言ってるヒヨコ相手に、正直なところ、俺はいったい何をやってんだろう?と気が狂いそうだったが今ではいい思い出だ。

 

 勿論マンジュウだって完璧な労働力ではなく、融通が効かずにエラーを起こすこともある。ただこうしてマンジュウの活躍の場が増えている現場を見ていると、基地でマンジュウの運用について試行錯誤を行っていた、俺達がやっていたことは無駄ではなかったと誇らしく思えてくる。

 

 今は量産スピードもそれ程早いとは言えずに機密も多く、活躍の場が限定されているマンジュウだが、いずれ彼らが増産されればどれ程役に立つだろうか?下手をすれば、鉄血国民は労働から解放されるのでは?なんて頭の片隅で思い浮かべながら進んでいけば、俺を先導する電気銃を持った二匹のマンジュウは、とある部屋の前で立ち止まるとピヨピヨと鳴きながら合図と共に、俺に敬礼を行っていた。

 

「ご苦労様。君たちは少し離れた所にたっていてくれ。ごめんな、用事はすぐに終わると思うから頼むよ」

 

「ピヨ!」

 

「ピヨヨッ!」

 

 二匹のマンジュウの敬礼を受けつつ、俺は扉の前で左手を心臓の上におきながら、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。その胸中を占める多くの感情は不安と罪悪感。本当ならこんなことはしなくてもいいのでは?と甘美な誘惑が脳内に響き渡るがそれを振り払い、満を辞して俺は扉をノックする。

 

 これは俺にとって必要な儀式なんだ。俺が『英雄』として前に進むために。ビスマルクさんやリットリオの期待に応えるために。そして、何よりも俺が傷つけてしまったあの子に謝罪を行い、きっちりとケジメを付けるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様、基地が再稼働するまでの間ゆっくり休みなさい」

 

「はっ!」

 

 辺り一面が難しそうな書籍で囲まれた鉄血公国の陣営代表、ビスマルクさんの執務室にて俺は椅子から立ち上がり彼女に向かって敬礼を行う。やはり何度彼女と顔を合わせても緊張感は薄れない。同じく横で冷静に敬礼をしているグラーフは慣れた様子で、この部屋で緊張をしているのは悲しいかな俺だけなんだろう。

 

 サディア帝国での仕事を終えて祖国に帰還した翌日。シュペーとの指輪を絡めた会話に思わず意識してしまい、将来を考えてしまい一睡もできなかった夜を乗り越えた朝、俺はグラーフに案内されるままに鉄血海軍の本部に向かっていた。

 

 グラーフが網膜認証を行って開いたドアの向こう側、執務室にて軍服に身を纏った数ヶ月ぶりに再開した陣営代表のビスマルクさんは、目の下のクマを化粧で隠しきれずに何処か疲れた様子ではあったが、開口一番に労いの言葉をかけてくれる。その言葉に緊張しつつも報告を終えると、ビスマルクさんは俺達に一週間の休暇を与えつつ報告会は15分程の短い時間で終了を迎えるのだった。

 

「ごめんなさいね、本当は休暇だけではなくマインツの代わりに新たな人員を…とでも思ったのだけど余裕が無くなったのよ……」

 

 ふぅとため息を吐きながら申し訳なさそうに語るビスマルクさんから思わず目を逸らしてしまう。彼女は俺を非難してはいない様子だが、余裕が無くなった原因の幾つかは突然重桜の使者とも言える明石を連れてきた俺の判断のせいでもあるのだから。

 

 明石についての報告はグラーフが予め行ってくれたようだが、グラーフ曰くビスマルクさんも流石に驚きを隠せなかったらしい。国益と、この戦争を終わらせるステップの1つになればと、俺の判断で彼女を鉄血に連れてきたが、ここまで疲れた様子のビスマルクさんを見ていると、その判断が正しかったのか?と少し不安になってきた。

 

 というか本当にビスマルクさんは大丈夫なんだろうか……?サディアに向かう前日も疲れた様子ではあったが、イオニアの戦いの事後処理などのせいか、疲れてるのを通り越して疲労困憊、今のビスマルクさんは無理やり気力と根性とコーヒーの力だけで動いているようにも見えてしまい、彼女に無理をさせてしまう原因を作ることになった俺は罪悪感を覚えてしまう。

 

 

 

「明石を連れてきたことに関しては驚いたけど、よくやってくれたわ。人員を補充できない以上、本当は『英雄』である貴方に勲章の一つでも渡したいけど、今は色々と忙しいのよ。それが落ち着き次第、貴方に勲章を授与できるように手配するわ」

 

「大丈夫なのか?」

 

 

 グラーフはそんなビスマルクさんの様子を見ながら心配そうに声を掛ける。彼女も最早疲労を隠しきれなくなっているビスマルクさんを心配している様子だ。

 

 

「大丈夫よ、対策はきっちりとした上で貴方達への祖国への献身を労うわ。今、私が貴方たちにできるのは少しでも休暇を与えることだけ。流石にセイレーンを倒すために出撃してもらうことになるから基地内で待機してもらう必要はあるけど、基地の再稼働まではゆっくりと貴方もグラーフも休みなさい」

 

 

 グラーフにそう声をかけながらビスマルクさんは冷めたコーヒーを口にする。いや貴方も明らかに疲れていますから休んでくださいと声をかけたいが、仕事を増やした要因の俺が言っても説得力が無く、声をかけられない。何よりも今が一番鉄血、そしてレッドアクシズにとっての正念場であることを、この執務室に存在する3人は理解しているのだから。

 

 

 

「貴方達がロイヤルの魔の手からサディアを救ったことはとてつもない価値がある。先に着いたサディアの人員はしきりに貴方達を『救国の艦隊』と呼んで感謝していたわ」

 

 サディア帝国と鉄血公国の関係は建国以来の蜜月関係と言えるだろう。イラストリアスの夜間の奇襲攻撃を防ぐことに成功し、長年に渡ってサディア帝国にとって喉元の骨であったマルタ島が陥落した。

 

 歴史上のわだかまりも勿論ある。お互いに本心から信用できないという事情もある。それでも、今のレッドアクシズはイオニア海海戦という名の祭りが終了し、その余韻の熱がまだ残っている。

 

 だからこそ、今この瞬間こそがこの二カ国が、いやヴィシア聖座も含めたレッドアクシズに所属する三カ国が関係を深めることができる最大のチャンスといえるだろう。レッドアクシズの関係を深め、ロイヤルや他のアズールレーン勢力が手出しできない、手を出せば手痛い反撃を受けると認識させる必要がある。

 

 

 ロイヤルが混乱に陥っている今、レッドアクシズはそのための貴重な時間を、信頼関係を構築するための時間を得ることに成功した。俺が今できることは休暇を過ごした後、鉄血の望む『英雄』を演じてレッドアクシズの団結を強めることだ。

 

 それが例え自らが英雄の器でないと理解していても、あのマルタ島でのパーティの夜。俺は大切な同胞と俺を信頼してくれたサディア帝国の人々のために演じ抜くことを決めたのだから。

 

 

「数日後にはサディアで貴方のことが新聞に載り、その後は鉄血でも同じことが起きる。貴方は着任以来ずっと祖国に尽くしてくれて、『英雄』となることを決めてくれた。その献身が必ず報われるために、ヴァイスクレー・ヘルブスト。貴方のことは鉄血が総力を挙げてサポートさせてもらいます」

 

「ありがとう、ございます」

 

 

 ビスマルクさんはファイルを閉じると、俺の名前を呼びながら青い瞳で見つめてくる。吸い込まれるような彼女の瞳から今度は目を逸らさずに、ビスマルクさんの期待に応えなければと決意する。

 

 どうしてこんな所にまできてしまったんだろう?と悩むことはもう止めた。これからは『英雄』として失敗は許されない。だが、不思議と緊張はしつつも、どうにかなるんじゃないか?と楽観視している自分もそこにはいた。

 

 その原因は間違いなく俺の横に立つグラーフ。そして艦隊のメンバーであるシュペーとヒッパーのお陰だろう。彼女達は俺を信頼してくれた、彼女達は俺を大切な仲間だと言ってくれた。そんな彼女達がいるからこそ、執務だろうが、戦闘だろうが、『英雄』になることだって頑張ろうと思えるのだから。命よりも大切な彼女達にいつか報いるために。

 

 

「これから、貴方には『英雄』として苦労をかけるかも知れないけど、私が全責任を持って貴方と艦隊の皆だけではなく、その家族も守ります。貴方は私達の同胞であり、常に貴方の後ろには私達がいる。そのことを決して忘れないでね」

 

 

 静かに語りかけるビスマルクさんのその言葉を最後に、報告会は終了を迎えるのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卿、流石に緊張し過ぎじゃないか? 」

 

「いや無理だって……陣営代表の前で報告する時に、緊張するなって言われても無理だよ、ビスマルクさん実質海軍のトップみたいな人なんだよ? 」

 

 

 執務室を出て廊下を歩く俺に、笑みを浮かべながらグラーフは語りかけるが、緊張の糸が切れた俺は急いで休憩のためのベンチを探そうとする。疲れた……ビスマルクさんと会話をするだけでここまで体力を消耗するなんて。正直雰囲気的に話しかけやすいヴェネトさんと会話をしていた方が気楽だ。いやテルマエのあれは例外だが。

 

「ふふふ、卿の立場を考えれば慣れてもらわないと困るがな。なにせ卿は『英雄』なのだから」

 

「グラーフはよく緊張しないね…」

 

「この世に生を受けてからずっと、ビスマルクと顔を突き合わせていたからな。多少のことではそう咎める性格でもないのだから、いっそ次に会う時は呼び捨て、ビスマルクと呼んでみないか」

 

「グラーフは俺に死ねと!?死ねと言ってるのか!? 」

 

 

 からかうように笑みを浮かべるグラーフだが、そんなこと無理に決まってるだろ!!俺にとってビスマルクさんは憧れの女性であって、雲の上のような存在。こうして新人の俺が何度か顔を合わせること自体が本来ならあり得ずに、何度ビスマルクさんと会話をしても慣れることはできなかった。

 

 まぁ、それを言い出せばグラーフだって本来は雲の上の鉄血幹部なのだから、本来はこうして呼び捨てで呼ぶなんてことはできるはずもない。こうしてビスマルクさんと会話をしていても平然としてるグラーフを見ていると、そういえばグラーフって本来めちゃくちゃ偉い地位なんだなと忘れがちな事実を再確認できる。

 

 

 

 えっ、他国のNo.2のリットリオは呼び捨てどころかアホ扱いしてるって?まぁアイツは呼び捨て呼んでもいいかなっていうか、むしろあのアホ……じゃなかった、リットリオのアホは多少雑に扱った方が良いかなって。ヴェネトさんからも許可をもらってるからね。

 

 

 

「ビスマルクは間違いなく卿に期待をしているぞ。でなければ卿の網膜の登録なんて許すはずがないのだから」

 

 

 報告を終えて部屋から去る少し前、ビスマルクさんはこれからのためにと俺を呼び止め、部屋のロック解除のために俺の網膜を登録するように命じていた。今までは許可を得た上でグラーフかマインツが同伴しなければ、決してビスマルクさんの執務室に入ることはできなかったが、これからは要件さえあれば気軽にビスマルクさんの執務室に向かうことが可能だろう。

 

 ……できればそんな機会が無ければ嬉しい、あったとしても信頼できて、最悪フォローしてくれるグラーフが側にいてくれると嬉しいんだけどね。

 

「それに、卿は知らないだろうがビスマルクの部屋に立ち入るための権限を持つ指揮官は、我の知る限りでは卿も含めて現在は二人だけだ。それだけ卿はビスマルクに期待をかけられていると頭の隅に覚えておけ」

 

「……マジで?」

 

 

 思わぬグラーフの発言に吹き出しそうになる。同時に気軽に了承した網膜登録がそこまでの権限だったのか?と瞬時に理解してしまい、プレッシャーで胃が痛くなってきたが、グラーフは無言で水筒のアイスコーヒーを差し出してくれた。

 

「ありがとう……ちなみに後一人は誰なんだい? 」

 

「第二遊撃艦隊の指揮官。卿も知ってるはずだが、グナイゼナウやシャルンホルスト達の部隊の指揮官だ。あの部隊はビスマルクが外遊する際の護衛なども担当しているからな」

 

 

 水筒に口を触れないように注意しながら、苦くて冷たいアイスコーヒーを喉元に流し込みつつ質問をすれば、素直にグラーフは答えてくれた。 

 

 

 第二遊撃艦隊といえば、バルト海も含めて何度か援軍に来てくれて窮地から救ってくれた何かと俺たちと縁のある艦隊だ。その指揮官はグナイゼナウさん曰く未成年だと聞いていたが、まさかそこまでの地位とは思いもしなかった。

 

 そういえばグナイゼナウさんはサディアに向かう前にアドバイスをしてくれた上に、彼女達は俺達が不在の間出現したであろうセイレーンの対処も行っていたはずだ。サディア土産のお菓子に干し葡萄の甘いワインも含めて今度渡しておこう。

 

 

「さて、卿はこれからどうする?我はクラップ社に向かった後ヒッパーとシュペーに直接会って休暇の連絡を伝える予定だが、恐らく我が基地に戻る頃には夜になっている。我に付き合わなくても良い、自室のベッドで休んでおくべきだと思うが……」

 

「うーん、そうだねぇ…」

 

 グラーフに水筒を手渡しながら少し迷ってしまう。正直な話、仕事が明日からなら色々とやることもあったし、そうでなくてもグラーフの手伝いをと考えていたが、やることが無くなってしまった。

 

 俺には趣味は特になく、このまま帰れば自室で久々に教本を読みながら勉強しつつ、マンジュウにひたすら甘いデザートを次々と注文することになるだろう。それはそれで悪くはないが、いつでもできることだ。

 

 なら……今しかできないことを、サディアに向かってからずっと心の隅で気にしていた用事を手早く済ませてみるか。本当は『彼女』が基地に戻ってから済ませる予定だったが、こういうことは早めにやっておいた方が良い。

 

「グラーフ、君に頼みたいことがあるんだ」

 

「どうした? 」

 

 こほんと咳払いをしながら俺は廊下て立ち止まると辺りを確認する。周りに俺とグラーフ以外の軍人は存在しないことを手早く確認すると、グラーフの側に近づき、小さく呟いた。

 

「ちょっと謝りたい人がいるからさ……今からロイヤルの捕虜の部屋に向かう許可を貰ってもいいかな? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本部には地下室が存在しており、勿論独房なども作られてはいるが、『バルト海海戦』で捕虜になったイーグル達はそこには向かわずに立ち入り禁止区画となった客室に監禁されているという。

 

 とはいえ俺の方針をビスマルクさんは引き継いでくれていたらしく、栄養のある食事や暇つぶしのためのボードゲームなどの支給。流石にキール第三基地のように庭を出歩くことは認められなかったが、捕虜同士の面会なども含めて彼女達は情報媒体の差し入れの禁止などの制限はありつつも、捕虜とは思えない程の厚遇を与えられていた。

 

 そんな捕虜の中に一人のkansenが存在している。名前はロンドン、ロイヤルネイビー所属の重巡kansenであり、現在俺が部屋をノックした部屋の主人であり……何よりも、ずっと俺が謝りたかった相手だ。

 

 サディアに向かう少し前、俺は彼女からロイヤルネイビーの情報を得ようと尋問を行ったが、その最中に紛れ込んでいた実験動物用の媚薬を彼女は摂取してしまい、発情してしまう。

 

 もしあの時マインツが助けてくれなければ、俺はそのまま正気を失った彼女に性的に襲われていただろう。結果的に未遂に終わったとはいえ、あと少し遅ければ取り返しのつかない事態を招いていた。

 

 不可抗力とはいえあの事件の後にサディアへの派遣が決まってしまい、俺とロンドンはずっと顔を合わせてはいない。ビスマルクさんは直接謝罪した上で彼女に全ての事態を説明したようだが、俺は彼女を傷つける要因を作ってしまった。

 

 

「ロンドンさん。お久しぶりです。君と以前話した鉄血の指揮官です。少しだけ、お話しをさせていただけませんか?」

 

 

 だからこそ、謝らなければ。ずっと謝罪をしたかった。彼女達は一週間以内に目隠しの上で再び基地に移送される、しかしそれよりも前に、俺は全ての決着とケジメをつけるために罪悪感を胸に抱きながら勇気を持って、再度扉をノックする。

 

 

 グラーフは許可をしてくれた。この謝罪は鉄血に帰ってから真っ先にケジメとしてやらなければいけない。これから俺はレッドアクシズの『英雄』を演じることになるが、傷つけてしまった彼女に何もできなくては一生後悔するだろうから。

 

 目の前の女の子を傷つけてしまい、放置し続けたような人間が、偽善とはいえ人々に希望を与える存在になれるはずないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……その、お久しぶり、です…?」

 

「あぁ、久しぶりだね」

 

 彼女は……怪訝そうな顔で扉を開けると、こちらを見つめた瞬間硬直してしまい、その後頬が赤く染まっていく。それでも彼女は途切れ途切れになりながらも玄関の扉を開けてくれた。

 

 久々に出会ったロンドンの見た目は以前と変わらない。当たり前だが虐待や拷問の様子もなく、清潔な衣服に身を包んで痩せている様子もなかった。少なくても拒食症の類は患っていないことに安堵しつつも、言葉が自然と出てこない。

 

 彼女もそうなんだろう。俺を見ながら何かを言いたげに口を開こうとするも、何となく言葉が続かない様子だ。当たり前だろう、例えどんなに彼女が悪くないとはいえ、ビスマルクさんから事情を説明されたとはいえ、自身が襲いそうになった尋問相手が目の前にいるのだから。

 

 

(クソっ…!)

 

 

 思わず心の中で悪態をつく。謝罪の言葉は決めていた。この前の事に関しては君は悪くない、全て悪いのは俺達鉄血海軍で、俺は君を傷つけてしまったと。土下座をしてでも、彼女に例え許してもらえなくても、何をされようが彼女に謝罪を行おうとしていた。

 

 だというのに上手く言葉が出てこない、どう切り出せば良い、どんな言葉から話せば良い?ずっと脳内で決めていた謝罪ワードは瞬時に頭から霧散してしまい、そんな自分に嫌気がさしてしまう。

 

「その、ですね…」

 

 重苦しい空気を最初にヒビを入れたのはロンドンだった。顔を伏せる彼女の小さな声が耳に届き、少し離れた場所にいるヒヨコ達はじっと俺たちの様子を見つめていた。

 

 

「ええと…その、この間のことなんですけれども…」

 

 意を決したかのように一息つくと、ロンドンはそう切り出すと。

 

 

 

「本当に申し訳ございませんでした…!」

 

 

 

 そう言いながら大きく頭を俺に下げていた。その頬には涙が伝っており、彼女が罪悪感で今にも押しつぶされそうであることが伺える。

 

 

 

 ……本当に、本当に最低だな、俺って。

 

 

 

 いっそ殴られた方が気は楽だった。彼女は外部からの情報をシャットダウンされた上で、この一週間近くを部屋で過ごしていたはずだ。

 

 訳もわからずに異性をレイプしそうになって、鉄血の陣営代表に説明されるも、当然そのことを誰にも相談できずに、たった1人で一ヶ月以上この気持ちを抱えて込んでいたんだろう。

 

 俺は加害者で彼女に謝罪しようとしていた、それと同時に彼女も……ずっと混乱の最中俺を性的に襲おうとしたことに関して謝ろうとしていたんだろう。

 

 

 全ては俺達鉄血が悪いというのに、全て彼女は何も悪くないというのに。

 

 

 俺はこんなに優しい女の子を一ヶ月も放置して、追い詰めて、その上で謝罪することもせずに逆に謝罪を受けてしまった。正直な話サディアでの日々は楽しいことも多く、ロンドンの記憶も何度も抜け落ちてしまい、本格的に謝罪をしようとしたのも鉄血本国への帰還が決まってからだ。だが、俺がサディアで仕事をしている最中もずっと、彼女はこの部屋でひとりぼっちで誰にも相談できずに、悩み続けていたんだろう。

 

 これが、最低と言わずに何が最低なんだろうか?罪悪感で吐きそうになるがそんなことを思うことすらも俺には許されない。仕事を言い訳にはできない。結果として俺は彼女を傷つけてしまったという事実だけが現在残っているのだから。

 

 

「あの時はその、なんだか頭も回らなくって…違うんです、私は本当はもっと…その、あんなのじゃなくて…」

 

「違うよ。悪いのは全部、全て俺達鉄血なんだ」

 

「でも、ずっと謝ろうとしたけど貴方に会えなくて…ごめんなさい…本当に…あんな酷いことをして…」

 

「分かった許す、許すから落ち着いてゆっくりと、顔を上げてくれ」

 

 

 

 ゆっくりと顔を上げたロンドンは初めて会った時のような誇り高い王家の戦士でもなく、尋問の時のような温厚で知的な雰囲気ではなく……ただ泣きじゃくり、今にも砕けそうな追い詰められた表情の一人ぼっちの女の子がそこに立っていた。

 

「ロンドン……」

 

 そんな資格がないことははっきりと分かっているが、俺は泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめた。かつて妹が結婚を認められずに泣きじゃくっていた時もこうして抱きしめていたことや、俺自身もマルタ島での夜にこうしてグラーフに抱きしめられていたことを思い出す。ロンドンは抵抗もせずに俺の腕の中にすっぽりと収まるも、軍服は彼女の涙で濡れていく。

 

「もう二度と、俺は君を傷つけない。次からは二度とあんな事故は起こさない。そして君は悪くない。何も、何も悪くないんだ」

 

「私は……私は……! 」

 

「ごめんな、ずっと謝れなくて……何度でも言う。何度だって言う。君は何も悪くないんだ。だから二度と自分が悪いなんて追い詰めないでくれ、いいね? 」

 

「…っ…───!! 」

 

 言葉にならない声を出しながらロンドンは俺に抱きつき、ずっと溜め込んでいたものを吐き出すように泣き出していた。

 

 例え敵対国の人間であろうと同じ人間であり、笑って、泣いて、傷ついて。願いも、家族も、それぞれにとって大切なものだってある。

 

 今ここで泣いているのは、王家の戦士でもなく、捕虜のkansenでもなく、たった1人の女の子だ。結局、俺には謝罪する権利すら無いのだろう。だけど……自分の行いの結果、追い詰められていた女の子を放置することはできなかった。

 

 

 廊下ではすすり泣く声が静かに響き、その声は彼女が俺の胸の中で疲れて、寝息を立てるまでの間ずっと続いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




・一週間の休暇
指揮官達が鉄血に帰還した後に原作ダイスではボーナスとして何かないか?と触れられたのですが。


dice1d10=1 (1)
1~3.お疲れ様、基地の再稼働まですこしゆっくりしてちょうだい←確定
4~6.+…マインツが抜けるのなら、代わりが必要かしらね?
7~9.++そう言えば、あなた宛にこれを渡しておいて、と上からあったわ
10.*おおっと*

と休み以外は与えられる事はなく、その理由に関しても


dice1d10=4 (4)
1~3.回せる人員が無いのよ…!
4~6.そもそも余裕が無い←確定
7~9.素で忘れてる…
10.*おおっと*

イオニアの戦いを得て多くの人員が未来に向けて動き始めた結果、余裕は消えてしまい結果としては指揮官達に与えられたのは休暇だけとなってしまうのでした。北方連合程では有りませんが現在の鉄血に余裕はありません。

・ロンドン
第一五話 危うい尋問にて指揮官を媚薬で発情した状態で襲いかけてしまったロンドン。彼女は指揮官がサディアに旅立った後も、ビスマルクから直接謝罪を受けた後もずっと誰にも相談出来ずに罪悪感で押し潰されようになりながらの日々を過ごしていました。

サセックス曰く、ロンドンの性格は推しに弱くて騙されやすく、騙されてもにっこりと受け入れ、ひたすら自分だけで抱え込むという余りにも優しい性格であり、鉄血のミスによる騒動だと言うのに彼女は全くビスマルク達を責めず、寧ろ自身が傷つけそうになった指揮官に罪悪感を抱いていました。そんな余りにも優し過ぎる彼女もこの時だけは指揮官の胸の中で子供のように泣いていたそうです。

・燈火のシニエ
現在新たに開催中のイベント『燈火のシニエ』ではアイリス教国時代のお話、アイリスとヴィシアが分断する間際にヴィシアがアズールレーンとしてサディア帝国に攻撃を仕掛けるという内容になっており、メルセルケビール海戦が初のkansen同士の公式的な戦闘であるという設定を採用している本作と矛盾が生じてしまいましたが…

 今作ではセイレーンがいくつも並行世界の枝で実験を行なっていると言うゲームの根幹部分である設定を採用して、ロイヤル以外『再現』の歴史を知らないという状況になっており、イベント内でリットリオやアルジェリーが『再現』を連呼していますが、そして『再現』の為の出撃などあり得ないと言う世界観。ですので恐らく今回の戦いは起きてない、もしくは起きたとしても小競り合い程度に止まっていたのではないか?と推測させて頂きます。

 また、ゲーム本編での『燈火のシニエ』は元ネタとなった史実の『ジェノヴァ砲撃』比べても色々と差異が存在する戦い(リットリオとの交戦やザラとトレントが負傷など本来の歴史ではあり得ない)ですので、特異点である特別な指揮官が存在する点なども含めてかなり珍しい結果に終わった枝だったのでは無いでしょうか?その結果がゲーム本編においてセイレーンが取るに足らない勢力であったサディアを注目する要因の一つになったのかもしれません。



次回からは指揮官達は休暇中という事もあってしばらくの間は平和な日常、そして近々ユニオンの状況説明の為の番外編を投稿させて頂きます。さて、こんな平和な日常がいつまで続くのでしょうか?
また、アンケートを追加させて頂きましたので是非投票にご協力をお願いします。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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