鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第三十五話 香水と独占欲

 十二月にもなると欧州の冬はとても寒い。北海に面するこの地域は特にだ。鉄血の北部にあるこの基地も例外ではなく、北国特有の凍えるような寒気が支配していた。防寒具に身を包んだ俺は基地の庭で周囲を見渡す。ビスマルクさんから基地が再稼働するまでの一週間の休暇を貰ったのは嬉しいが、その休暇をどう扱うべきか頭を悩ませる。

 

 

 一応休暇中にやりたいことは、ある。しかし、いざ行動に移そうとなると、これがどうして中々難しい。シュペーやヒッパーに相談することも羞恥心があってできず、結果として情けないことだがこうして花々を見て心を落ち着かせ、頭を回転させているのだが。

 

 

「んっ?」

 

 

そうして花を眺めていると、少し遠くの方が人影の気配が。どうやらこの庭は捕虜であるイーグルのジョギングコースの一つだったらしい。

 

 

(いっそ、悩みを聞いてみるのも悪くないかな?まぁ俺イーグルに嫌われているだろうけどね)

 

 

 彼女は俺を見る度に嫌悪とも憎悪とも言えるような表情をしており、何より尋問の彼女から情報を散々話術で抜き取ったことを未だに根にもたれているのか、敵視されている節がある。立場的には仕方ないとはいえ、顔を合わせる度にジロリと睨んでくるのは心が少しだけ痛くなるが、まぁ仕方ないか……。

 

 

 それでも、やはり同じ人間同士だし会話ぐらいなら問題ないだろうと思い、俺はイーグルを呼び止めることにした。

 

 

「おーい、イーグ……って無視しないでもらえませんかねぇ!?」

 

 

「………貴方か」

 

 

 うわーめちゃくちゃ嫌そうな顔してるよこの人。ジャージ姿に身を包んだイーグルはこちらを見るなり面倒くさそうに口を開く。できることなら話したくもないはずだろうけど、そこまで嫌われることは……したわ、めっちゃしたわ。

 

 

「ちょっと君と話したいことがあってね、結構大事なことなんだよ」

 

 

「私に?」

 

 

 流石に警戒はしつつも、イーグルは立ち止まり少し睨みながらも興味は持ってくれたようだ。しかし、ベンチの横に座ってよと声をかけてもイーグルは睨みつけるばかりで、その目は警戒に彩られている。単純に話を聞いてくれるのは自身の処遇にも関わることかも知れないという可能性からだろう。

 

 

 まぁ、話す内容は思いっきり俺個人のプライベートの話題なんだけどね。

 

 

「いやちょっと君に相談したいことがあるんだけどさ……女性とのデートってどこにいけばいいかな?って無言で去ろうとするのやめてくんない!? 」

 

 

「チッ…」

 

 

「えっ嘘、今舌打ちした?」

 

 

「チッ…!」

 

 

 取り付く島がないとは正にこのことだ。思わず苦笑してしまう程に彼女の態度には容赦が無い。というか、女性にゴミを見るような目で舌打ち2回もされたの人生で初だよ、あっちょっと泣きそう。

 

 

 今すぐ立ち去ろうとするイーグルに謝罪しながら、どうにか引き止めることに成功すると、俺は彼女に事情を話しだす。

 

 

「グラーフのことは……彼女は尋問の担当もしてたから知ってるよね?」

 

 

「あの女か……」

 

 

 途端に眉間に皺を寄せてイーグルは苦々しい表情になる。自らの艦載機をすり潰されて、散々爆撃した相手を忘れるはずもないんだろう。お陰で余計に俺のイーグルからの好感度が下がった気がするが、もう底値なんだから今更だ。

 

 

「ちょっと前にグラーフと一緒にお互いにデートをしたんだけどさ、失敗したというか仕事の都合で早めに切り上げたんだよね」

 

 

「恋人なのか?」

 

 

「違う友人……いやそれ以上の関係ではあるけど、そういう洒落た関係じゃないよ。ただグラーフが大切な女性の一人であることは変わらないんだ」

 

 

 彼女と俺は恋人でもなければ付き合ってもいない。だが、お互いに初デートの相手として選んだあの日からもう1〜2ヶ月も過ぎてしまった。俺の人生初のデートは結局短時間で終わってしまい、グラーフは気にしないとは言ってくれていたが、あれがお互いの人生初のデートなんだと思えばどうしても気が沈んでしまう。

 

「だからさ、今度は成功したいんだ。グラーフに喜んで欲しいから。もっと仲良くなりたいから。そして、グラーフに少しでも恩返しできたらなって……だから同じ女性である君の意見が欲しいんだよ。デートをするなら女性はどういうことをすれば喜ぶのか?とかね」

 

 

「……そうか」

 

 

彼女は黙り込み、何かを考えるように俯く。やがてゆっくりと口を開いた。

 

 

「そうだな……まず、私は貴方とあの女のことをよく知らない。だからデートの内容に関しては参考にならないだろう。だが、一つだけ言えることがある」

 

 

「それは?」

 

 

「何故私に相談する?貴方にはシュペーやヒッパーといった相談相手がいるだろう」

 

 

 うーん……そうだろうねぇ……イーグルは少しだけ表情は柔らかくなりつつも疑念に染まった目でこちらを見つめる。嘘は幾らでもつけるがここは正直に言ってみようかな。

 

 

「その……同僚とデートにいくなんて他の同僚の子にアドバイス求めるとか、バレたりしたらなんか恥ずかしいし……」

 

「捕虜に相談する方が恥ずかしい以前の問題だろうがぁぁ!!」

 

 

 

 激昂したイーグルをどーどー落ち着けと言葉で宥める。もし後ろで監視役として電気銃を構えたマンジュウが隠れていなければ、俺は間違いなく彼女に蹴られていただろう。

 

 

「大体何故私なんだ!友好的なキュラソーなりロンドンなりもっと話しやすい相手がいるだろう!?」

 

 

「いやなんか目についたから、この際イーグルでいいかなって」

 

 

「ふぅぅ………もし私が捕虜もいう立場でなければ、そして後ろで電気銃を構えたあのヒヨコがいなければ、衝動的にあなたを殴っていたということを理解すべきだ、貴方は……!」

 

 

 まぁ、衝動的に聞いてみたとはいえ、実のところ俺が他に相談できそうな捕虜の子はいなかったりする。ジャージーはまだ子供で、ロンドンはあの出来事の後だから会うのは厳しい。デューク・オブ・ヨークは常に言葉を発さずに尋問を拒否しており、残っているのはイーグルとキュラソーだけだ。なので取り敢えず目についたジョギング中のイーグルに聞いて話を聞こうかと決意したのが真相だ。

 

 

イラストリアス?うん…まぁあの子は…うん。今はちょっと色々難しい時期だし……ね?

 

 

「まぁ、そのね。デートを成功させたいのは事実なんだ。一般論として女性は何を喜ぶのか教えてくれないかな?」

 

「はぁ……言っておくけど、あくまで一般的な意見であって、私の好みではないからな」

 

「お、おう。頼むよ」

 

 

腕を組みながら不機嫌そうにそっぽを向いた彼女が話し出す。

 

 

「なんでも良い」

 

 

「えっ」

 

 

「だから、なんでも良いんだ。何を着ていこうが何を食べようが、それが自分の好きな物であれば誰だって嬉しいものだろう?それが相手を知る機会になるのなら絆が深まる。それと一緒だよ」

 

 

「……そういうものなのかなぁ?」

 

 

「少なくとも私ならそれで満足するだろうし、不満は無いな。まぁ強いて言うならば食事代くらい自分で払ってほしいところではあるが」

 

 不機嫌そうに腕を組みながら答えてくれた彼女の意見を脳内で反復する、なるほど。言われてみればその通りかもしれない。相手のことを知る、というのはとても大切なことだ。

 

 

 というか俺の目的はグラーフと恋人になることでも、ましてや肉体関係になることでもなく、単純に仲良くなって人生初のデートをやり直したいと思っているだけなんだから。

 

 

 それにしても、そんな当たり前のことを見落としているとは……デートなんだから男ががっちりと予定を組んでみるべきだなんて思ってはいたが、自分が喜ぶことをすればいいのか。やはり女性との付き合い方に関してはまだまだ勉強が必要ということかと痛感する。

 

 

 いかんせんこの手の知識に関しては今まで必要が無かった分、圧倒的に知識が不足しているので少しでも意見を聞いて備えようとしていたが、変にガチガチに予定を決めるよりも自然体のまま、それこそ変に緊張せずに友人と出かけるくらいの感じで挑めば良い。

 

 

 

 ……よく考えたらサディアでザラさん相手に何日も二人で観光案内をされたが、あれも一種のデートなのかも知れない。そうだ、あれを参考にしてデートをしてみようかな。

 

 

 

「ありがとう、参考になったよ。じゃあ俺はこれで……」

 

「待て、話は終わっていないぞ。まだ聞き足りないことがある。例えばだ……どうしてデートを成功させたいと願うようになったんだ?何か特別な理由でも?」

 

 

「そりゃあ勿論、俺が彼女と親密になりたいから。それ以上の特別な事情も理由もないね」

 

「……いつか刺されても知らないぞ?」

 

 呆れた様子の彼女に肩を落としてみせる。とはいえ俺とグラーフが恋愛関係になることはまずないだろう。色々な意味で彼女と俺は釣り合わない、そのことは理解しているつもりだ。けれど、それでも歩み寄ってくれた彼女と更に仲良くなりたいという気持ちだけは本当な訳で……俺はグラーフとのデートを楽しみにしている。

 

 ……と言うかグラーフはまたデートしようと言ってくれたけど、大丈夫だよね?リップサービスじゃないよね?と少し不安が胸を支配するが、仮に断られても心を強く持とう。うん。

 

「じゃあそろそろ部屋に戻るよ。」

 

「ああ、言っておくが余計なことはもう二度と質問しないでくれ。私は貴方のことが嫌いなのだから」

 

 お礼を言うがはっきりと拒絶されてしまい今まで以上に嫌われたかな?なんてため息を吐く俺を無視して彼女はジョギングに戻ろうと、そう言って踵を返して歩き出そうとした時だった。

 

「……鉄血の指揮官、最後に一つ聞いても良いだろうか?」

 

イーグルの声が耳に届き、ふと振り返ると、彼女は真剣な表情を浮かべていた。なんだろうと首を傾げると、彼女は少し躊躇いがちに口を開く。

 

「貴方はロイヤルを……貴方達を殺そうとした私の祖国をどう思っているんだ?」

 

 それは意外な言葉だった。

 

 ロイヤルに身を置く彼女達にとって、自分達を捕縛した鉄血公国相手に対し、負の感情を抱いていることは容易に想像がつく。だがそれを直接本人に聞くということは、それだけで勇気が必要な行為だろう。嫌がりながらも向き合ってくれた彼女にお礼としては小さいものであると理解しつつも、俺は真っ直ぐと彼女の目を見て答えた。

 

「俺達、鉄血の敵はセイレーンだ。セイレーン技術利用の有無についてを筆頭に、色々な理由で鉄血とロイヤルは敵対していて、きっとロイヤルに殺意を持つ鉄血軍人も少なくはない。でも、俺個人としてロイヤルという国を恨んだことは一度もないよ」

 

 はっきりと、俺はそう答えた。たしかにロイヤルにイラっとしたことなら何度だってあり、殺されかけた経験もゼロじゃない。しかし、だからといってイーグル達を恨む気持ちは微塵もなく、ロイヤルという国家に対する負の感情も俺にはそれほど存在しなかった。

 

 

「憎くは無いのか?私達は本気であの時、貴方達を殺そうとした」

 

「そうだったね。でも戦争なんだ。そして戦争にはルールがあって、君達を捕虜にした時点で客人として守る義務が俺にはある。そんな守るべき捕虜に、武器を取り上げられた無抵抗な相手に憎しみを抱くなんて俺にはできないよ。ロイヤルが憎くて戦争をしてるわけじゃないんだから」

 

「憎くて、戦争をしているわけじゃない、か……」

 

 一人ポツリと呟いたイーグルの一言がやけに耳に残ってしまった。

 

俺が望む未来は同胞である仲間達と生き残り、この蒼い航路を人類の手に取り戻すこと。そして俺の本当の敵はセイレーンであって、ロイヤルではないと思っているのだから。

 

 とはいえ本気で殺そうとしたというのは恐らく……あのロイヤルが追い詰められていた『バルト海海戦』ではなく、ピュリファイヤーの言葉を信じるなら彼女達がグラーフを暗殺しようとしていた特務に関してだろう。推測とはいえ、図らずも情報の裏付けが取れた。だが今回はイーグルに助けてもらったんだから黙っておこう。

 

「じゃあそろそろ僕は戻るよ。色々ありがとうねイーグル……あっそれと色々あってイラストリアスが捕虜になって、この基地で世話することになったから報告を」

 

「……おい……えっ…ちょっと待て!?鉄血の指揮官!!こら逃げるな!詳しく聞かせろ!!」

 

 ちょっとイーグルは油断が過ぎるなと、遊び心でイラストリアスのことを伝えたあと全力ダッシュで逃げるも、身体能力の高さはイーグルが上。結局俺はイーグルに捕まり、逆尋問タイムと洒落込むことになるのだった。

 

 そして、イーグルからの好感度が更に下落したのは言うまでも無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逢瀬か?構わん。我も少しだけ休暇を与えられて余裕ができた。では明日の朝9時に門で待つことにしよう。前回のリベンジ、楽しみにしているぞ卿」

 

 

 

 結論から言えば、グラーフは俺の不安を他所にあっさりとデートを受け入れてくれた。後日、少し早く朝8時15分に紺色のジーンズと灰色のコートに身を包んで門に向かっていく。妹と比べて俺はおしゃれに関しては分からないが、コートさえ有れば間違いは無いだろうと信じていた。

 

 

 それに最近は寒いからね。これが夏ならどんなファッションにするのか頭を悩ませていたのだろうから、寒さを凌ぎつつダサイとも言われないコートには感謝するしかない。コート万歳だ。

 

 

 そう思いつつマンジュウに見送られながら、シュペーとヒッパーに鉢合わせしないように廊下を進んでいくとやがて、門が見えてくる。少し早すぎたかな?と思いながらも、女性を待たせるのは失礼だと流石の俺でも知っているために、こうして早めに待ち合わせ場所に向かったのだが……。

 

 

 

 ──すでに待ち合わせ場所には人影が一つ。門の近くで腕を組んで、虚空を見つめながら壁に寄りかかっているのだった。

 

 

「ってあれ……えっまさか……!?」

 

 

 余裕を持って歩いていたが、その人影を見つけた途端に俺は全力で走り出す。同時に腕時計で時間を確認すればまだ時刻は8時20分だ、決して遅れてしまった訳では無いことに安堵しながら、まさかと不安を胸に秘めて俺は門に駆け出していく。

 

 

「はぁ…はぁ……グラーフ、なんで……」

 

「おはよう、卿」

 

 

ぜぇぜぇと息を切らしながら、その人影に近寄れば、紛れもなくその姿は俺の今日のデート相手であるグラーフ本人だった。えっ待っていつから待ってたの!?と不安に思うが、グラーフは気怠げな表情でいつもの様子で口を開く。

 

 

「少しな……本ではデート待ち合わせは早い方がいいと聞いて早めにやってきていた。安心しろ、これは我の勝手で卿は悪くない」

 

 

 

「いやでもなんかその……ごめんね?ちなみにグラーフは何時から待っていたんだい?」

 

 

「朝の3時」

 

 

「早いわ!!!」

 

 

 さらっととんでもないことを口にするグラーフに思わずツッコミを入れる。まって、じゃあ5時間近くここに立って待ってたの!?

 

 

「少し早いとは思ったが卿とのデートが楽しみで眠れなくてな、気がつけばこうして足が門に向かっていた」

 

 

「…っ…」

 

 臆面もなくグラーフがそう口にすれば、思わず頬が熱くなる。そうか、グラーフもデートを楽しみにしていたのか……いかんいかん、グラーフと俺は恋人じゃなくて戦友だ。勘違いしちゃダメだ、寧ろグラーフはここまでデートを楽しみにしてくれていたのだから俺も精一杯エスコートしなくては。

 

 

 シュペーの言葉が頭の中で繰り返される。いつか、俺は結婚するのだろうか?その時にあの指輪をシュペー、ヒッパー、グラーフ。もしくは他の誰かに渡す機会もあるのだろうか?

 

 

 明石に指輪を渡されて、そしてシュペーとの会話以降どうしてもそんなことを考えてしまう。俺だって結婚だってしてみたいし、仮にあんなに優しくて頼りになる三人の中からお嫁さんを貰えるのなら、それはもう幸せになれるだろう。

 

 言ってみれば俺に変化が生じていたのだ。今までは俺はkansenの仲間達を大切な同胞、家族、友人、戦友として見ていた。しかし、今ではどうしても……シュペー達を『女』として、『異性』として、どうしても認識してしまう。

 

 

 これが恋なのかはまだ分からない。だが、少なくとも今の俺は彼女達に魅力を感じているのは事実。だからこそ、今この瞬間だけは純粋に楽しまなくては。

 

「さて、行くとするか」

 

「ああ、そうだね。今日はよろしく頼むよグラーフ」

 

 と二人で門を潜ろうとすると、ふとグラーフがいつもと違って胸をはだけた軍服ではなく私服であることに気がついてしまう。

 

 

 白いニットの服と長いロングスカート、その上から黒いロングコートを身に纏い、長い髪の毛をポニーテールにしたグラーフ。

 

 ニット越しからはいつものように谷間は見えないが、その圧倒的なボリュームが際立ちむしろエロい。しかも髪型が違うせいなのか、いつもの少し厳しそうな目つきとは違い、雰囲気も少し優しいもののように感じられる。彼女もデートと聞いて、わざわざ私服を選んでくれたのかと思うと嬉しさがこみ上げてくる。

 

 改めて美人だなぁ……としみじみ思ってしまうのだが、やはりその豊満すぎる胸部がニット越しからも目立つ。クールビューティーで爆乳である私服の美人女性と俺が出歩いた時、果たして周囲はどう見るのだろうか?と思わず苦笑が込み上げてくるが、デートの前にやるべきことは一つだろう。

 

 

「グラーフ、今更かもしれないけどさ。なんというか……その私服、似合ってるよ」

 

「……ふふっ、そうか。卿も私服をスルーする程鈍感では無かったか」

 

 

 

 彼女の私服が似合っていると指摘すれば、グラーフは満更でもない微笑みを見せてくれた。あっ、ちょっと惚れそう。

 

 

「サディアで押し付けられた私服ではあるが、卿から褒められるのも悪いものではないな。感謝する」

 

 

「あー、うん……」

 

 素直に感謝されると照れ臭いというかなんというか……とにかく俺たちは二人並んで街へと繰り出すのであった。

 

 

 流石に手は繋がない、だがグラーフとのデートに浮かれて、今日一日を心から楽しみにしている自分がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が真っ先に向かった場所は前回と同じ小物店。初デートで何も買うことができなかったことが未だに心残りな俺は、真っ先に彼女に何かプレゼントを買おうと心に決めていた。アロマの匂いが漂う店内からいらっしゃいませと女性店員の挨拶を受けながら、俺たち2人は店内に進んでいく。前回の反省を生かしてグラーフとは別行動をとりながら、その間に俺は色々と見て回る。

 

「ふむ、ならば手並みを見せてもらうとするか」

 

 

 そう言いながら別れたグラーフは嬉しそうな表情を浮かべていて少しだけプレッシャーを感じてしまうが、それに負けじと俺は店内の商品を観察する。女性向けの小物はやはり男性よりも種類が豊富であり、ネックレス、イヤリング、髪飾り、指輪などアクセサリーだけでもかなり種類がある。これだけあればどれを選ぶべきか迷ってしまいそうになるが、とりあえずグラーフのイメージに合うものといえば……。

 

 

「うーん……香水とかどうだろうなぁ」

 

 キラキラしたペンダントやネックレスと違い、普段使いの香水ならばきっと彼女も使ってくれるはずだろう。そんなことを考えながら俺は香水の瓶が並ぶ棚へ歩み寄る。しかし、そこで俺はあることに気がつく。

 

 香水って意外と高いんだな……以前指揮官となる前に個人で試しに購入したリラックス効果のあるアロマオイルは確かそこまで値段は高くなかった。それなのに目の前にあるガラス製の容器に入った液体は中々いい値段をしている。貯蓄はあるため購入こそできるが、失敗した時が怖くてじっくりとグラーフが喜びそうなものを選ぼうとする。

 

 だが、そもそも彼女はどういう香りが好きなのか分からずじまいだったことに気がつき、思わず溜息が出る。こんなことなら彼女の匂いでも嗅いでおけば……流石に変態過ぎるからこれ以上考えるのはやめておこう。

 

いくつか試してみると個人的には柑橘系の香りが好みだが、これでいいだろう。悩んでグラーフを待たせるよりは直感で自分好みなものを選ぶべきだ。

 

「すいません店員さん、これ下さい!」

 

「ありがとうございます!男性用ではなく、女性用のものですがよろしいでしょうか?」

 

「ええっ、あそこの女性に……まぁ、職場の同僚に渡すものですから。包装もお願いしますね」

 

 と、それだけ言って支払いを手早く済ませる。グラーフは喜んでくれるだろうか?と期待しながら包装が済んだ香水を受け取って店内を見渡すと、直ぐに彼女を発見できた。

 

 彼女は小物コーナーを覗き込んでいた。周囲には若い男女のカップルが楽しげに話している中、一人で何を見てるのかと思えば、グラーフは可愛らしいドライフラワーをじっと眺めている。香水よりももしかしてドライフラワーの方が良かったかな?と思いつつも、自分が選んだセンスを信じてグラーフに話しかけてみせる。

 

「あぁ、待っていたぞ卿。買い物は終わったのか?」

 

「うん。喜んで貰えると嬉しいんだけどね。じゃあ日頃の感謝を込めて、そしてデート記念にって事で」

 

 そう言いながら俺は包装された香水を彼女に手渡す。ふむと、中身を確認した彼女だったが、中身を確認したその瞬間、驚いたように少し目を開き、やがて何かがおかしいようにふふっと笑い始める。

 

「成る程、香水か……どうやら、卿は独占欲が強いものだな?」

 

 

 いきなりのグラーフの発言に思わず吹き出しそうになってしまう。えっ、待って、なんで!?俺、変なことしたっけ!?と直近の行動を振り帰っても理解はできない。

 

 しかし、後日。自分なりに恋愛に関する書籍を暇つぶしにいくつか眺めてみれば……どうやら香水は、男性から女性に渡すと独占欲の強さを表すらしい。自身の好きな香りを女性に身につけてもらうという一種のマーキングの意味合いがあると知って一人悶えることになるのだが、それはまた別のお話。その時の俺はグラーフからの独占欲が強いという言葉の意味を必死で理解しようと脳をフル回転させていた。

 

 うーん、例えばだ。グラーフが他の男と親密な関係となれば俺はどう思うんだろうか?嫉妬するのか?という疑問が生まれてくる。答えはすぐに出た。確かに俺は嫉妬をする。間違いなく嫉妬する。このクソ野郎がと嫉妬の炎が燃え上がる。グラーフだけではなく例えそれがシュペーやヒッパーであっても、どんな理由であってもだ。

 

 本来なら俺とグラーフは恋人でもなく仲の良い同僚だ。グラーフに恋人ができるのであれば祝福しなければいけないのだが……グラーフの横に他の男が立つ。それも、自分の知らない誰かが。それを想像すればするほど胸の奥がざわついて落ち着かない気分になる。

 

 これがグラーフだけなら、もしかすれば彼女に恋をしていると結論づけたのかもしれないが、同じくシュペーやヒッパーの横に他の男が立っていてもやっぱりあまり良い気分にはなれない。成る程これが独占欲というものなのか。

 

 

 

「心配はしなくともいい。我は何があろうとも卿の隣にいよう。とはいえ、そう独占欲をだされる、というのも、存外悪い気分はしないものだな?」

 

 むぅ…と自身の独占欲について悩んでいるとグラーフが微笑んでポニーテールを揺らしながら口を開く。もしかしてと一瞬だけシュペーの時のようにまさか……と心音が強く鼓動したのだが。

 

「そもそもだ。同胞を支えるのは当然だろう。そして卿はバルト海では勝手に投降勧告を行い、セイレーンには交渉を行い、サディアでは危うく死にそうなイラストリアスを救うために身を海に投げるような男だ。我がそんな卿を放って置ける訳がないだろう」

 

「うっ…」

 

「仮に我が今卿を放り出して本部に戻れば、シュペーとヒッパーは苦労する羽目になるだろう。卿は見込みはあるが、まだ指揮能力や自己評価の低さなど問題もある。我は卿が指揮官として、基地司令として、そして自らの命を放り出さないと断言できるように成長するまでは、絶対に離れることはないだろう」

 

 

「うん……なんも反論できないね、ごめんな」

 

 あっ、これ完全に異性じゃなくて手のかかる戦友を見る目だわ。確かに俺とグラーフの関係は親密ではあるが、同時にグラーフは俺を指揮官として推薦したこともあってその責任を感じている。その瞳は恋する乙女ではなく、一番近いものはその……何故か故郷のフランクフルトに残した母親を思い出してしまった。

 

 

「さて、それでは我も卿へのプレゼントでも購入を……」

 

「それはまた別の機会でね。そろそろ何か食べに行こっか」

 

「そうか。なら残りは全て卿に任せるとするか……期待しているぞ、ヴァイス」

 

 同僚に母親の面影を感じるなんて何だよと嘆息したくなるが、同時に財布を見ながら俺に何かを購入しようとするグラーフを引き止めて、俺達は店内を後にする。独占欲に関して考えるのはやめにしよう、今は全力でデートを楽しまなければ。

 

 

 しかし、我は何があろうとも卿の隣にいようというグラーフの言葉にはたとえ恋愛感情が含まれていないと理解していても、俺は嬉しさを感じてしまい……デートが終わるまで、そして終わった後も彼女の言葉が耳から離れることはなかった。

 

 その後のデートは何事もなく終わることになる。ごく普通にランチを取って割り勘で会計を行い、ごく普通にぶらぶらと二人きりで散歩しながら街を出歩き、最後は二人で基地に戻って現地解散だ。

 

 そこにいやらしい雰囲気なんてものはなく、我ながらデートと言うよりも友人と遊びに出かけただけじゃないかな?これ?と思わず呟いてしまうも、グラーフとのデートは間違いなく楽しかった。ある意味俺達らしいデートと言えるが、少なくとも俺は初デートの相手がグラーフで良かったと断言でき、生涯に渡ってこのデートを忘れることは一度もないだろう。

 

 

 こうしてお互いの人生初のデートは色気らしいこともほぼなく終わり、結局グラーフと俺の関係性への変化は何もなく、今日もいつものように日常は流れていく。

 

 いや、変わったことは一つだけある。デートを終えた次の日以降、たった一つだけ変わったことは。

 

 

 

「グラーフ……珍しいわね。その匂いって、香水でも付け始めたの?」

 

「うむ、少々色々とあったのでな?我のお気に入りの香水だ」

 

 

 グラーフが、常に柑橘類の匂いを発する香水を付け始めたということだけだ。




・香水
 指揮官は後々自分が調べるまでは知りませんでしたが、女性から男性に贈る意味合いは親密になりたいと言う意味を持っているのですが、男性から女性に送る場合は相手に自分の匂いを擦り付けたい、自分色に染め上げたいと言う意味合いを持っているそうな。グラーフは面白がって指摘してくれましたが、これがもしシュペーやヴェネトの場合ちょっとした騒ぎになったのは確実でしょう。ちなみに裏話となりますが他の選択肢は。


dice1d10=3 (3)
1~3.香水とか…←確定
4~6.ペンケース
7~9.イヤリングですね
10.……ん?グラーフが何か見てる?


香水→グラーフを俺色に染め上げたい
ペンケース→もっと勉強しろグラーフ
イヤリング→君を守りたいんだグラーフ

となっており、グラーフの反応も。


dice1d10=10 (10)
1~3.ふむ…及第点、と言ったところか?
4~6.…なんかすこし渋い顔をしている?
7~9.うむ、これならば文句もあるまいよ
10.*おおっと*←ファンブル


dice1d10=4 (4)
1~3.卿が送った香水…と言うのならば、卿の香りと言えるな?
4~6.…ふむ、卿は独占欲が強いのだな?←確定
7~9.…なんか、ちょっと変な感じのような…?
10.*おおっと*

と一度のファンブルの結果、グラーフは香水に込められ意味合いを知っているという結果に繋がるのでした。

・イーグル
鉄血本部で捕虜生活を送っていた時は流石にキール第三基地の様に出歩く事は許されなかったらしく、こうして朝は鈍った身体をほぐす為にマンジュウの監視付きとは言え自由にジョギングをする様になったイーグル。しかし本人目線ではウザい鉄血の指揮官が朝に偶にエンカウントするようになり、苦い表情を浮かべているのでした。作中人物の中では、指揮官の姿を知る登場人物の中ではぶっちぎりで指揮官への評価が最下位であり、地面にめり込むレベルで低くなっているイーグル、それでもデートの相談に乗ってくれる分、根っこの人の良さが滲み出てしまうのでした。

次回はユニオンの状況説明編。
アンケートの結果エンタープライズとホーネットの会話がメインのお話になります、実質的に中立を保っているユニオンの状況、そして指揮官たちが必死で戦ったイオニア海での戦いの影響がどう響くのでしょうか?

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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