鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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番外編 第十一話 情勢説明ユニオン編 牙なき者の盾となれ

 ユニオン。

 

 世界最大の国力を持ち、北米大陸を支配する四大陣営の一つであるこの大国は、鉄血公国がアズールレーンより離脱して発足させた軍事組織、レッドアクシズと戦争中でありながらも平和を保っていた。

 

 

 彼らはモンロー主義を掲げて欧州で繰り広げられている戦争に参加すること無く、世界各国に軍事支援を行いつつも自国防衛に注力する。

 

 モンロー主義とは、自国内だけで全て完結できるユニオンは他国とはできる限り相互不干渉な中立であるべきという思想であり、現在のユニオンの国民の多くはこの思想を支持していた。彼らは他国を頼らずともやっていける。だからこそ他国に頼らず、他国に干渉しないと主張する。

 

 戦争の矢面に立っているロイヤルからすれば傲慢な考えと内心舌打ちするだろう。しかし、それを口に出さない。ユニオンはアズールレーンに所属するロイヤル、重桜、北方連合、自由アイリス教国に対セイレーン戦、対レッドアクシズ戦のための物資を提供しているのだから。

 

 ユニオン国民は戦争を望まず、政治家たちは次の選挙に勝利をするために民意を主張してご機嫌取りを行い、他国と比べてkansen達も軍以外の権限は持たず、結果として彼らにとって欧州の戦争というものはラジオや新聞などを通して語られる遠い世界の話だった。

 

 ロイヤルからの連日の参戦要請をのらりくらりとかわし続け平和を謳歌するユニオン。だが、そんな彼らにも変化が訪れることになる。それは遠い地中海で行われた武力衝突が原因だ。

 

 きっかけは、あのロイヤルネイビーが……あのロイヤルの陣営代表である女王クイーン・エリザベスが率いる海軍がサディア帝国に大敗北を喫し、それによってマルタ島が陥落したという一報である。

 

 サディアに派遣されていたスパイの報告は運命の夜より数日も経たないうちにユニオン本国に届いてしまう。いや、スパイの報告すらも遅かったと言えるだろう。なにせサディア帝国は自国の勝利を大々的に宣伝することによって、その勝利を世界中に広めたのだから。

 

 

 彼らはロイヤルネイビーが卑怯にも空母による奇襲攻撃を行い、民間人も多数存在していたタラント軍港を焼き払おうとしたと非難する。しかし、同時に鉄血より派遣されていた空母グラーフ・ツェッペリン達『救国の艦隊』によって防衛に成功。世界初の空母対決が勃発し、ロイヤルの襲撃犯であるイラストリアスは捕縛され、報復のためにサディア海軍はマルタ島を陥落させたのだ。

 

 

 サディアの発表から少ししてロイヤルも事実関係を認めつつ、卑怯な国はプロパガンダによってロイヤルを侮辱するサディアであり、私達を先に奇襲しようとしたのは彼らであると猛批判する。戦いは新たなステージを迎えつつあるが、ユニオンは戦争に参加することを望んではいない。

 

 しかし、彼らにとっては友邦ロイヤルの敗北は対岸の火事ではあるが、一つ軍部に衝撃を与えた事があるのだ。それは……

 

 

 

 

 

 

 ハワイ島に位置する海軍基地は対セイレーン戦線の最前線として整備されており、その規模はアズールレーン最大の基地であるNY要塞と比べれば規模は小さいものの、最新鋭の技術で作られた施設が数多く存在した。 

 

 ユニオンの保有するkansenの中でも最高戦力の一つとされる航空母艦、ヨークタウン級の二番艦エンタープライズはその基地の一角にある喫茶店にて珈琲を口に含んでいた。

 

 彼女は本来ならばハワイではなく、大西洋方面の防衛任務を与えられていたのだが、一週間ほど前に起こったある事件により急遽、この太平洋方面へと呼び戻されることになった。 

 

 

「苦いな……やはり違う豆にした方がよかったかな? 」

 

 彼女は苦笑しながらもテーブルに置かれたカップを見つめながら呟く。

 

 ユニオンに所属するkansenと呼ばれる少女達は皆、人間とは違う存在だ。見た目こそ普通の人間の女の子と変わらない彼女達であるが、その正体は戦うための兵器であり、人類種の敵であるセイレーンから蒼き航路を守るために日夜力を尽くしている。

 

 

 しかし、ユニオン所属である彼女達が戦う理由は人類の未来を守るためではない。お題目としては世界平和を掲げているが、実際には広大な自国の防衛、そして政治闘争のための道具として扱われている側面が強い。それでも、彼女達が人々の笑顔を守るために日々戦っていることは確かであった。

 

「ごめんごめん、エンプラ姉待ったー?」

 

 喫茶店の入り口から声をかけられ、振り返るとそこにはテンガロンハットを被った露出度の高い金髪の少女が手を振りながら喫茶店に入店する。

 

 彼女の名前はホーネット、エンタープライズと同じくこのユニオンに所属しているkansenの一人であり、ヨークタウン級三姉妹の末っ子である。

 

「大丈夫だ、それよりどうしたんだ?急に呼び出して?何か面倒な事でもあったのか?」

 

 エンタープライズはそう言いながら店員を呼び寄せ、ホーネットのために追加でサンドイッチの注文をする。

 

「んもう!なんで私が面倒なことを言うの前提なの!?」

 

「ふふっ、私はお前の姉なんだぞ、それくらいわかるさ」

 

 二人は互いに笑い合う。彼女たちは姉妹であると同時に、同じ釜の飯を食う仲間でもある。共に訓練し、戦場に出て、時にはくだらないことで喧嘩したりもする。そんな仲の良い二人の間には確かな絆が存在していた。

 

 

「それで、一体何があったんだ?」

 

 エンタープライズはしばらくの談笑の後、真面目な表情でホーネットに問い詰める。彼女の経験上、妹であるホーネットがわざわざ喫茶店を指定して待ち合わせを行うなんてこれが初めてだ。なにせこの妹は用があればアポも無しで来るなんて珍しくもないのだから。

 

「まぁその、ねぇ……エンプラ姉がここに来てくれたから、久々に姉妹仲良く戦えるなーって嬉しかったんだけどさぁ」

 

 嘆息をしながらホーネットは一枚の紙をエンタープライズに差し出す。そこに書かれているのは移動命令であり、彼女はフィリピン、マニラ基地に異動することが記載してあった。

 

「本当いきなりだからびっくりしたなぁ、いきなりここ離れてフィリピンに行ってこいって。指揮官やレンジャー達も一緒に向かうのはありがたいけどエンプラ姉と離れることになるのは残念だなって……」

 

「ああ、そうだな……」

 

 エンタープライズは手元の命令書を見ながら相槌を打つ。

 

 彼女が知る限り、今までこのようなケースは無かったはずだ。ユニオンの影響下にあるフィリピンのマニラにはユニオンの海軍基地が存在するものの、それまで空母kansenは配属されなかった。

 

 それだけではない。エンタープライズの知る限り姉のヨークタウンに、ワスプ、ラングレー、レキシントン、サラトガといった戦友の空母kansen達もNY要塞を離れてユニオン各地に存在する重要拠点に配属されることになっていた。

 

 

 (やはり……マルタ島陥落の影響か?)

 

 

 あくまで噂ではあるが、ユニオン上層部では今回の地中海の戦いを受け、戦争に積極的に参戦しているロイヤルを見捨ててレッドアクシズと和平するべきでは?と考える者が増えつつあるとされており、エンタープライズも自国の祖国の行く末を少し心配していた。しかし、それよりも彼女達kansenにとって重要なことは。

 

「目には目を。歯は歯を。空母には空母を……上層部は恐らくロイヤルの虎の子であるイラストリアスの敗北によって、空母による奇襲攻撃の防衛のためには、防衛用の空母kansenを集中運用する必要があると考えているのだろう」

 

 イラストリアスの敗北によって上層部は理解したのだろうとエンタープライズは思考する。

 

 空母によって奇襲攻撃を行おうにも、相手にも空母が存在しており防空戦に移行すれば、艦爆、艦攻を満載にする必要がある攻撃側の空母kansenは戦闘機を満載にした防衛側の空母kansenによって高確率で敗北する。

 

 

 もしも、ロイヤルのイラストリアスがタラント基地への襲撃に成功していれば、世界各国では空母による基地攻撃論が沸き上がる未来もあり得ただろう。

 

 

 しかし、現実はそう簡単ではなく、イラストリアスは同じタイプの艦種である鉄血の空母に待ち伏せされてしまい敗北。更には捕縛までされてしまい、結果的にマルタ島は陥落してしまった。

 

 もはや、空母の持つ航空戦力は攻撃のためではなく防衛のために扱うべきだという考えが主流になっており、ユニオン海軍はその流れに乗ることに決めたのだ。

 

 だが、それは同時にユニオン海軍の戦力を大きく削ぐことになりかねない選択でもある。ユニオンは広大な領土を保有しており、守るべき人々、防衛目標は多岐にわたる。ユニオンは世界最大の軍事力を誇ると評するものも存在するが、実際にはその軍事力を以てしても国土が広過ぎてカバーできない地域も多く存在している。

 

 そして、地中海での戦いの結果、敵性勢力が空母を集中運用すれば基地は火の海になりかねないが、同時に空母を防衛に当てれば相手空母を封殺できるという戦訓が得られ、ユニオンに存在する空母kansenの多くはユニオンの主要都市、基地、友好国の防衛のために異動することを命令された。 

 

 

 そして、その穴を埋めるためにユニオンの首脳陣はこの真珠湾の守りを固めることを選択したのであろう。ユニオンが誇る最強の空母、英雄エンタープライズ一隻に、太平洋防衛の最重要基地であるハワイ基地の防衛を任せたのだ。未だ訓練中である後続の空母が完成するまでの間、時間稼ぎを行うためにエンタープライズは今後たった一隻でこの基地を守り切る必要があるだろう。

 

 エンタープライズにとってみれば、それが自分の故郷を守るための選択であるのならば文句は無い。むしろ誇らしい気持ちですらある。

 

 だが…… この世界はユニオンだけではない。この世界に生きる人々は皆同じ人間なのだ。人種や思想の違いで争い合うことはあれど、本来ならこの世界では同じ人類同士が争う必要など無いはずなのに。イデオロギーの違いによって人類種の敵であるセイレーンが存在しながらも、アズールレーンとレッドアクシズは争い合う。

 

 そして、自国が何をやっているのかといえば他国を見捨てて物資だけを送り、モンロー主義を掲げては引き篭もる。その選択肢は悪いとは言えないだろう。自国の防衛は当然であり、自国民の命が最優先であることも当然だ。しかし、ユニオンの上層部は助けられる命を、他国の国民を見捨てているのではないか?

 

 自由と正義とフロンティアスピリットを掲げるユニオン。その海軍に所属するkansen達の一人であるエンタープライズは責任感と正義感が強く、だからこそ、そんなユニオンのやり方に疑問を感じていた。

 

「別にレッドアクシズの国々と戦いたい訳ではないが……こうして力を持ちながら、ユニオンだけが全てを無視して自国の防衛重視で引き篭もるというのもどうなんだろうな……ホーネット。私達は本当に正しいのだろうか?」

 

 喫茶店の窓から見える水平線の彼方に広がる海原を見つめながらぼやくようにエンタープライズは口にする。

 

「確かにね。でも仕方ないんじゃないかな?」

 

 姉の悩んでいる表情を見て気を使いながらもホーネットは運ばれてきたサンドイッチを食べながら気怠そうに口を開く。

 

「正義とか、悪とかじゃなくて、私たちができることって上からの命令を聞いて戦うことと、仲間とユニオンの人々を守ることくらいでしょ?それに、今のこの状況じゃユニオンにとっては最善の策だと思うけど」

 

 ホーネットはそう言いながらコーヒーを口に運ぶ。エンタープライズはホーネットの言葉を咀し、飲み込み、納得する。

 

「……そうだな。今、ユニオンの上層部は少なくともユニオンの国民は守ろうとしてくれているのだから。ただ……」

 

 エンタープライズは苦笑しながら呟いた。

 

「次の選挙では、自国防衛よりもレッドアクシズとの和平を積極的に口にする政治家に票を入れるのも悪くはないかもしれないな」

 

「はははっ、そうだねぇ。私もそんな人に票入れちゃおっかな?」

 

 ホーネットは姉の冗談に笑いながら応える。自分たち空母は時代の主役にはならないだろうとエンタープライズは少し残念に思ってしまう。彼女達に望まれたのはハルパーの鎌ではなく、イージスの盾。花形である戦艦kansenと違い、これからの空母kansenは防衛の役目を担うことになる。

 

 しかし空母には空母の役目と戦い方があり、自分達の役目をホーネットもエンタープライズも、ユニオンの空母kansen達は自覚していた。全ては自由と正義、何よりも戦うための牙を持たない人々の生活を守るという軍人としての責務を果たそうと彼女達は決意する。

 

 

 

 

 そんな二人が雑談を続ける中、エンタープライズは会話に花を咲かせつつもテーブルに置かれた新聞に目を通していく。そこには一面に地中海での戦いに関しての記事が大きく載っていた。

 

『ロイヤル敗北!空母イラストリアス轟沈!』

 

 その見出しが躍り、記事の内容はイラストリアスがタラント襲撃に失敗した挙句、鉄血艦隊によって撃沈されたというものだ。その後、襲撃犯であるイラストリアスは鉄血の指揮官の決死の行動によって救出され、捕虜となってしまったことが記載されている。

 

 その他にもロイヤルネイビーのkansenでは事実上No.2であるウォースパイトも降伏したと続き、最後にマルタ島の住民、軍人は全てサディア帝国の、レッドアクシズ陣営の手に堕ちたことが記載されていた、ユニオンにとってはサディアとロイヤル、どちらの主張が正しいのかどうかは分からない。

 

 ただ一つ事実であることは、ロイヤルの栄光にサディアと鉄血が泥を塗りたくったことだけは誰がどう見ても真実であると、ユニオン国民は理解しているのであった。

 

「そういえば、ホーネットに聞きたいことがあるんだったな…」

 

「んー?どしたの?」

 

 新聞を見ている姉の言葉を耳にしながらサンドイッチを食べ終えたホーネットはコーヒーを飲んで余韻に浸っていたのだが。

 

 

「ホーネットは付き合っているのか?お前の所属する部隊の指揮官と?」

 

「ぶほっ!?」

 

 新聞に目を通しながら口を開いたエンタープライズの質問が耳に届いた瞬間、ホーネットは口に含んでいたコーヒーを噴き出した。エンタープライズはその反応を見ただけで大体の事を察してしまう。

 

「なんだ、図星か。あの男、書類上の記録では指揮官としては優秀で演習も見学したが艦隊指揮能力も悪くなかった。一度話したが人当たりもいい好青年だったが……まさか私の妹に手を出していたとは……」

 

「ち、違うって!あの人とはそういう関係じゃ……って待って!?えっ、嘘、姉ちゃん!?あの人に会いに行ったの!?」

 

 

 

 エンタープライズの口から出てきた言葉が予想外過ぎて、ホーネットは動揺を隠しきれずにいた。エンタープライズがハワイ基地に異動したのはつい2〜3日前だ。そんな短期間に指揮官と姉がコンタクトを取っていただなんて信じられないとホーネットは震え出す。

 

 確かに会う機会は仕事柄あるかもしれないが、ホーネットの知る限り指揮官は2〜3日の間ずっと部屋にこもって秘書の自分とデスクワークを行っており、演習の時もエンタープライズの姿は見えなかったのだから。

 

「あぁ、会いに行ったというよりは昨日の夕方に向こうからやって来てな。何でもホーネットの姉である私に挨拶と…」

 

「夕方かぁぁぁぁ……い、言ってないよね!?変なこと言ってないよね!?姉ちゃん!!エンタープライズ姉ちゃん!?」

 

「ゆ、揺らすな!肩を揺らすな!落ち着け、ここは店内だぞ!?」

 

 エンタープライズは顔を青ざめさせながら慌ててホーネットの両手を掴み、なんとかして妹を止める。

 

「だって、姉ちゃんって普段何考えてるかわかんないんだもん!指揮官に本当に変なこと言ってないよね!?不味いレーションとか勧めてないよね!?」

 

「不味いって……失礼な奴だなお前は。私はそこまで無神経ではないよ」

 

「えっ?そ、そうなの?」

 

「……ホーネット、お前は姉を何だと思っているんだ……」

 

 若干ショックを受けたエンタープライズは苦笑しながら溜息をつくが、ホーネットの動揺は相当なものだ。頬を染めつつも真っ青な表情で震え出しており、私をどれだけ信頼していないんだと内心落ち込むエンタープライズ。これが長女のヨークタウンであればホーネットも実のところそこまで焦らなかったのだが、生憎ヨークタウンは病弱でありNY要塞に残って後進の育成を行なっていた。

 

「普通に彼は土産をもってきて挨拶をしてきただけだ。ホーネットさんにはいつもお世話になっています、今後も至らない点はありますが必ずあの子と共に戦い抜きますとな」

 

「そっかぁ…」

 

 ホーネットは安心して机に突っ伏すとそのまま脱力する。その様子を見るだけで何となく彼女が指揮官をどう思っているのか、友人のヴェスタルから朴念仁なところがあると評されたエンタープライズですら何となく読み取れるのだが、疲れているホーネットは気がつかない様子。

 

「ただな……それよりもその後が問題だった」

 

「後?」

 

 エンタープライズの言葉に疑問符を浮かべるホーネット。同時にその様子は普段の彼女からは想像できないほどに険しいもので、この姉やっぱりやばいことを指揮官相手にやらかしたんじゃと不安が募っていく。

 

「やけに楽しそうにここで働くホーネットのことを教えてくれてな。戦闘の時はレンジャーとコンビを組んでセイレーンを倒しているだの、秘書の時はテキパキと動いてくれて助かるだの、自分が指揮官として悩んでいる時に優しく抱きし…」

 

「………グエッ……」

 

 エンタープライズが最後の言葉を言う前にホーネットの精神は限界を迎えたらしく、カエルが潰されたかのような鈍い声と共に片手で顔を覆って天を仰ぐ。心なしか涙目になっているが、そのことを指摘しないだけのデリカシーと優しさをエンタープライズは持ち合わせていた。

 

「あのね、あのね姉ちゃん。違うの確かに指揮官とはプライベートでも友達だけど付き合っては……」

 

「好きなのか?」

 

 エンタープライズはテーブルの上に肘を立て手を顔の前で組みながら、真剣な眼差しでホーネットを見つめる。

 

「えっ……あっ……うぅっ……好き……なのかなぁ……多分好きだと思うけどぉ……」

 

 エンタープライズの視線に耐えきれなくなったホーネットは顔を真っ赤にして俯く。その姿を見たエンタープライズは少しだけ微笑み、妹の頭を撫でる。

 

「なるほどな、それは良いことだ。ホーネットは指揮官のことを異性として意識しているのか?」

 

「うん、まあ……そんな感じかな……でも、恥ずかしいからあまり言わせないで欲しいんだけどさ」

 

 顔を真っ赤にしながらも悩むようにホーネットは姉に打ち明ける。

 

「多分ウチの艦隊のエルドリッジも、レンジャーも……それに最近やってきた特別計画艦のシアトルも指揮官と仲良くて……特にレンジャーも指揮官のことが好きなんじゃないかなって……」

 

 ホーネットは指揮官と共に同僚であるレンジャーの顔を思い浮かべる。彼女も指揮官を意識していることはなんとなく同じ女として雰囲気で察知しているのだが、自分と比べてレンジャーの胸は爆乳であり、女性としての言動もレンジャーの方が女らしい。

 

 レンジャーとはハワイ基地に配属されて以降仲良くしているものの、同時にホーネットは彼女に女としての差を感じてしまい、恋のライバルとしては自身は不利だと思って悩んでいたのだ。

 

「ふむ、だが恋愛感情というのは個人差が大きいものだ。一概に姉である私が言うのもなんだし、私は恋愛経験もなく好きな男もいないが……ホーネットは彼とどうなりたいんだ?」

 

「えっ……と……わ、私は……できれば……その……戦いが終わったらお嫁さんにして欲しいかなって……」

 

「成る程」

 

 ホーネットは両手を組みながら、乙女らしく頬を染めながら上目遣いにエンタープライズを見る。その仕草にエンタープライズは思わず姉でありながらドキッとするが、努めて冷静を装いながらホーネットの言葉を飲み込んでみせる。

 

「つまり、まとめればホーネットは指揮官と結婚したいが付き合ってはいない。そして恋のライバルは多く、特にレンジャーは確実に指揮官を異性と認識していて自信がないと」

 

「うん……」

 

 エンタープライズは頭を悩ませる。一応最終手段としてはレンジャーとホーネットを含めてお前達が俺の翼だと言わんばかりに指揮官に重婚してもらうという選択肢もあるが、重婚によるトラブルは多い。なによりも今のホーネットは自信が無い様子であり、このままでは告白は難しいのではないか?とエンタープライズは予測する。

 

 

「私からは何も言えないな。月並みな言葉ではあるがこういう問題は本人同士で解決すべきであって、外野がとやかく言ってもノイズになるだけだ。私も今は戦場が恋人だからな。それでも……好きなんだろ?」

 

「うん…多分…じゃなくて、私は好きだよ。あの人のことが」

 

 ホーネットはエンタープライズの言葉に力強く答える。

 

「なら、まずはホーネットの気持ちを伝えてこい」

 

「えっ!?」

 

 エンタープライズの言葉にホーネットは驚きの声を上げる。

 

「ホーネットは指揮官に好意を持っているのだろう?それならば、自分の想いをぶつけるべきだと思うぞ。それは愛の告白じゃなくても良いんだ。ただ指揮官ともっと仲良くなりたいと、あなたのことがもっと知りたいと彼に伝えてみるのはどうだ?」

 

 エンタープライズはホーネットに対して優しく諭すように語る。エンタープライズ自身、ホーネットのことは姉妹として大切に思っており。指揮官を慕うホーネットの想いが報われてほしいと、妹が後悔する選択をしてほしくはないと願っている。

 

 例えその恋の行方が喜劇であっても悲劇であっても後悔だけはして欲しくない。それがヨークタウンとは違い姉らしい一面を見せることができなかった自分の精一杯の罪滅ぼしでもあった。

 

「ホーネットは指揮官を信頼している。そして指揮官も間違いなくホーネットのことを信頼しているんだ。彼が優しいことも知っているはずだ。仮に告白しても、彼はきっとどんな答えを出しても受け入れてくれるさ」

 

「姉ちゃん…うん、ちょっとずつだけど頑張ろう、かな?」

 

 エンタープライズはホーネットの目を見て言い切れば、今も赤面しているがホーネットはポツリと呟いてみせる。

 

「応援してるからな。このことは誰にも伝えないが、もし指揮官と付き合うようになったらヴェスタルやヨークタウンにはちゃんと自分で報告を…なっ?」

 

 エンタープライズに再び頭を撫でられながらホーネットは感謝する。この人が姉で良かったと。英雄でもエースでもなく姉として自らの幸せを願ってくれるエンタープライズの存在が、思春期のように恋に悩むホーネットにとっては何よりも勇気につながったのだ。

 

「それにしてもホーネットにも春が……私もいつか好きな人と恋の一つでもしてみたいな」

 

「えっ……姉ちゃん恋愛願望とかあったの…?」

 

しかし、美しき姉妹愛は何処へやら。驚愕の表情を浮かべるホーネットにエンタープライズは流石にムッとした反応を見せる。

 

「全く何を言ってるんだホーネット……私だって好きな男性を見つけて、愛し合って恋愛の一つぐらいしたいさ」

 

「姉ちゃん大丈夫?悪いものでも食べた?セイレーンの攻撃で脳震盪でも──」

 

「お前、本当失礼だなホーネット!?」

 

 

 

 ユニオンの日々は続いていく。欧州の戦いは地中海の戦いをターニングポイントとして激化していくことだろう。しかしユニオンは他国に干渉せず、他国に干渉されず、物資だけを引き渡してモンロー主義によって引きこもって自国の防衛を最優先とする。

 

 そんなユニオンが戦火に包まれるのか、レッドアクシズと交戦するのは未来次第だろう。少なくとも自由の戦士達は安息の日々を送り、束の間の平和な日常を過ごすことになるのであった。

 

 そう、あの出来事が起きるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニオン

 

 元ネタのアメリカ合衆国と同じく世界最大の国力と工業力を持つアズールレーンどころか全勢力最強と見られる国。

 原作設定ではセイレーンの襲来によってロイヤルや北方連合は既に没落する中、セイレーン襲来前と比べても軍事力・国力共に落ちることがなかった唯一の国という設定がある(逆にいえばユニオン以外の国はセイレーンの所為で弱体化している様子。特に北方連合は酷いそうな)

 

 順風満帆のように思えるが国土の近くにセイレーン要塞、セイレーンの前線基地が設立されており予断を許さない。例えば大西洋地域ではバミューダ海域に大規模なセイレーン前線基地が設立されており、単独での攻略は難しくて頭を悩ませている。

(ゲーム内ではNY要塞を襲撃された結果、無理矢理最新鋭のエセックス級をフル動員してロイヤルネイビーとユニオン海軍の共同作戦によってどうにか撃破する)

 

 この「開けれし紺碧の砂箱」で描写されたバミューダ海域の前線基地を例に挙げれば、海域一つに二桁以上のセイレーン艦隊が存在しており、本編では主人公である指揮官やエンタープライズを呼び寄せるためなのか、中心に近づくたびにその数は少なくなっていたが、それまではそんな都合のいい話も存在しなかった。

 

 

 言ってみれば少しだけ敢えて手を抜かれたのがゲーム本編であり、そんな都合のいい唯一指揮官が存在しない今作、ゲーム内の指揮官が着任する前の時系列であるケースでは

 

・通信機器と電信設備は常に故障する。

・どこが鏡面海域となっているのか位置すらわからない。

・過去に艦載機で物理的に調査をするも全て反応途絶

・何世紀も前から行方不明事件多発

 

 空母エセックス級をフル動員したと思われ、無理矢理攻略した本編以上の戦力を集めて強引に攻略するしかないという無理ゲーであった。国土の近くではさらにセイレーン作戦によれば北大西洋付近に大規模な鏡面海域が存在するなど大西洋方面は地獄であり、モンロー主義云々もあれど、ロイヤルからの支援要請をホイホイと受けられない原因の一つであった。

 

 一方、太平洋は比較的安全そうに見えて北方連合ほどではないがセイレーンの数も多い上に、中継地となるロイヤルのマルタ島のような場所もない(フィリピンのマニラ島が中継地)ため、襲われるリスクが高過ぎてkansen無しでは民間商船や軍船の行き来も難しく、世界各地との防衛がセイレーンによって妨害され、蒼き航路が脅かされる今ユニオンが引き篭もるのも仕方ないだろう。ユニオンとロイヤル視点だとこんな国際情勢にて勢力分断させた鉄血や、ゲーム内のようにいきなり奇襲攻撃で真珠湾に殴りかかってきた重桜は紛れもなくクソ勢力だろう。

 

 

 以上の事に加えてユニオンはモンロー主義によってロイヤル、アイリス、重桜、北方連合に援助こそするが基本的に引きこもって自国防衛を重視している。国土があまりにも広い上に民主主義国家なので民意を重視しており、国民を捨てるなんてことすれば何言われるか分かったもんじゃないので、西海岸も東海岸もフルで防衛する必要があり、広大な領土ゆえに防衛に苦しむ国家の一つと言えるだろう。

 

 こんな状態ではユニオンはレッドアクシズに攻撃なんてできるはずもない。例えば……卑劣な国家に軍事基地の一つでも攻撃されて、攻撃の後に宣戦布告を行われ、ユニオン内で多数の犠牲者が出ない限りは。

 

 

 

 まとめると

・民主主義国家なので他国以上に国土防衛を意識する必要がある。

 

・そもそも国民にとっては欧州でのレッドアクシズの戦いは対岸の火事であり他国のために血を流したくないし、kansenの派遣なんかもしたくない。

 

・大西洋方面に大規模なセイレーン要塞などが確認されており、太平洋方面はまともな中継地が東南アジアまで存在しないために貿易が難しい。

 

・独自のモンロー主義と呼ばれる引きこもり政策を国策として行なっているなどの理由もあって、レッドアクシズと戦争状態でありながら国民や軍は戦争を望まずに引きこもって物資支援を行なっていた。 

 

・現在はイオニア海海戦の結果航空戦力は全て史実とは違い防衛に回されることになり、空母は今後は補助戦力、防衛戦力として見られ、攻勢のための戦力は戦艦を中心とした大艦巨砲主義に染まっていくと思われる。

 

 

 

国際関係HOI2風

 

(ア)ロイヤル王国→+75

 建国以来なにかと縁がある国であり、旧セイレーン大戦中より結びつきは強い。ロイヤルのプロパガンダ工作の結果友好度が最も高くなってはいるがそれでも+75止まりなのがユニオンらしいと言えるだろう。原作ゲームではヴィクトリアスがユニオンの最新鋭艦載機コルセアを装備しており、見せびらかしているが最新鋭の艦載機に至るまで軍事物資の支援も行なっているようである。度重なる参戦要請は無視しているようではあるが。

 

(ア)自由アイリス教国→+50

 旧セイレーン大戦中からの盟友の国家、現在はユニオンは正統政府としては自由アイリス教国を支持している。

 

(ア)重桜→+30

 本来の歴史において関係が修復不可能なまでに悪化する日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争にあたる戦争なども含めた出来事がセイレーン大戦によって消滅しており、同じアズールレーンに所属する国家として見られており、アズールレーン本部の存在するNYシティでは重桜のkansenも働いている。

とはいえ重桜が歴史の表舞台に出たのはまだつい最近であり、史実でのペリー来航の歴史もスキップされていることから多くのユニオン国民としては重桜は遠くで知らない国扱いだろう。現在ユニオンからの支援物資によってセイレーンと戦闘中。

 

 

(中)東煌→+20

重桜と同じく遠くて知らない国。史実では大規模移民などが行われたのだが、セイレーンが歴史を歪めたこの世界では不明。少なくとも同じアズールレーンに所属する重桜と比べると友好度は低いと思われる

 

 

(レ)ヴィシア聖座→-30

ユニオンは正統政府を自由アイリス教国だと承認しており、ユニオンはヴィシア聖座の政府や海軍そのものを認めてはいない。

 

(レ)サディア帝国→-50

レッドアクシズに真っ先に参加した国でもあって警戒されており国交は断行しているが、『イオニア海海戦』の結果現在ユニオンではその行動一つ一つが注目されている。

 

(ア)北方連合→-50

同じアズールレーンに所属していながら共産主義を掲げる北方連合への警戒心は強く、国内ではレッドアクシズの盟主たる鉄血よりも注意すべきであるという意見も存在する程。とはいえ同じアズールレーン所属国家であってレンドリースは受け取っているようである。因みに北方連合はレッドアクシズ、アズールレーン双方から友好度は常にマイナス判定された唯一の国家、北方連合は地獄である。

 

(レ)鉄血公国→-75

 アズールレーンを分裂させただけあって友好度は最低。とはいえロイヤル程敵視している訳でもなく、講和のテーブルに着くのなら交渉はまだ可能なレベル。『イオニア海海戦』の結果空母グラーフ・ツェッペリンがイラストリアスを撃破したことから、警戒する声と和平を口にする声が双方出てきている。因みに、仮に鉄血がユニオンに攻撃した場合友好度は一気にマイナス200を超えて即座に勢力をかき集めてレッドアクシズ各地に攻撃を仕掛けるのは確実だろう。

 




・モンロー主義
 簡潔に言えば祖国ユニオンはすっごい国である。自給自足も出来て孤立してもどうにかなる。だから面倒くさい旧大陸の欧州などには関わらず、新大陸の自分達は引きこもって相互不干渉でいようと言う考え。現実世界のアメリカ合衆国でも提唱されていた思想であり、第一次世界大戦、第二次世界大戦でも参戦は遅れた要因でした。

 アズールレーンゲーム内でもユニオンは重桜の攻撃を受けるまでレッドアクシズと戦争状態に陥りながらも中立を理由に参戦に後ろ向きであり、プリンス・オブ・ウェールズは苦言を漏らしていた。

・空母による防衛
史実の歴史ではタラント空襲の成功にマレー沖海戦でのプリンスオブウェールズやレパルスの撃墜。更に重桜の真珠湾攻撃などの結果空母による基地攻撃の有用性やそれまで戦場の花形であった戦艦は撃墜可能であると示されてしまい、世界中で空母の研究が行われる事になるのだが、今作においてはイラストリアスがタラント空襲の再現の為に襲撃したお陰で、基地攻撃の有用性が広まりつつも、同時に防衛側に空母が存在していれば同数であれば間違いなく攻勢側が不利であると判明した為に、ユニオンでは空母は防衛戦力として見られる事になり、エンタープライズやホーネット達は離れ離れとなって防衛の任務に就く事になる。

 実は似たような事例はアズールレーンのアニメで登場しており、それまで真珠湾を艦載機で攻撃して無双していた正規空母の加賀は軽空母であるユニコーンによって、艦載機の数や練度では加賀が上であると言うのに、ユニコーンはかなりの時間足止めによって時間を稼ぐ事に成功しており、結果的に救援にきたエンタープライズによって加賀は胸を打ち貫かれ撤退する事になる。

 もし、あの時真珠湾にユニコーンがいなければ加賀は(謎狐などは別にしても)エンタープライズがやってくるまで大暴れした事は確実であり多くの犠牲者が出ていた筈でしょう。


 別作品であればアズールレーンより艦隊これくしょんの方がゲームシステム的にはわかりやすいかもしれません。艦爆と艦攻を満載にした攻撃側の加賀が戦闘機マシマシの防衛側のサラトガと交戦すれば、凄まじい被害でボーキサイトを消費する事になるのは加賀の方です。


 攻撃空母は防衛空母に弱い。基地攻撃の為には大量の艦爆、艦攻が必要となるも、対艦載機用に作られた戦闘機を満載にした空母には不利となる。空母と違って阻止される危険性のない戦艦が今後も戦場の花形であり続け、この世界の空母はハルパーの鎌ではなく、イージスの盾として活躍する事になるでしょう。


・ホーネット
 作中に登場する指揮官は元ネタである鉄血アズレンダイススレを制作していたGMのアズレンダイスユニオン編に登場する指揮官。ホーネット、シアトル、エルドリッジ、レンジャーが所属しておりホーネットは指揮官に惹かれる事になるのでした。果たしてホーネットの恋の行方は……

 また、実はレンジャーは史実では最後まで太平洋方面ではなく大西洋方面に所属しており、太平洋に配属される事はありませんでした。この時点で歴史は大きく変化しており『イオニア海海戦』は様々な意味で歴史に大きく影響を与えたと言えるでしょう。


 次回はいよいよ情勢説明重桜編、ユニオンが色々変化していく中、赤城達重桜の上層部の思惑とは……

コメント、質問、お気に入り登録、評価をお待ちしております……


追記
今回は少し早く投稿させて頂きましたので、次回は12月1〜2日予定。ですが早く終われば今週も投稿させて頂きます。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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