鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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 本来であれば戦闘パートも入れる予定でしたが、少し長くなりますのでまずは戦闘前のパートから。

 


第四話 二つの海峡

 ロイヤルネイビーが……ロイヤルがこの戦場に介入している。

 

 グラーフの言葉に一瞬思考回路が停止してしまい、無線の用意をとマンジュウに命じるはずだった自分は絶句してしまう。

 同じく通信越しのヒッパー・シュペーも似たようなもので言葉を失っていた。

 

 これがロイヤルと鉄血の国境沿いの領海付近であればまだ納得しただろうが……なんせ現在地は鉄血領海ど真ん中。それもロイヤルと国境すら繋がっていないバルト海だ。

 

 戦闘が国際条約で禁止されており、ロイヤルのスエズ運河、ユニオンのパナマ運河と並び鉄血が管理する北海〜バルト海を繋ぐキール運河を通らない限り、ロイヤルが現在自分たちが展開中でバルト海に展開する為には、中立国も存在する二つの海峡を突破しなければなれない。

 

 

 親ロイヤルな中立国スカンジナビアの領海であり、条約によってセイレーン防衛はロイヤルが担っているスカゲラック海峡。

 

 親鉄血な中立国ユトランドの領海付近であり、条約によってセイレーン防衛は鉄血が担っているカテガット海峡。

 

 

 

【挿絵表示】

 

赤、鉄血本国

ピンク、親鉄血のユトランド

青、親ロイヤルのスカンジナビア

 

 ロイヤルと鉄血が本格的な武力衝突をまだ行っていない要因の一つがこの中立国が管理する二つの海峡の存在であり、鉄血とロイヤルは中立両国にアプローチ(と威圧)を仕掛けながらも、睨み合いを続けていた。

 

 少なくてもロイヤルが偶然中立地帯である二つの海峡を突破してしまう事故なんて可能性はまずありえない。

 それこそロイヤルが鉄血の軍が厳しく管理しているキール運河を利用するか……中立国二つの領海を二国を無視して突破し、鉄血の本土を狙おうとしない限りは。

 

 

 

 

「グラーフ!一応確認しておくけどそれは本当なんだな!?見間違いじゃなくてロイヤルの艦隊に間違いないのか!? 」

 

『当然だ、今偵察機の情報を送る。それにこの目でロイヤルのメイドらしき存在も一名確認した。卿も早くしろ、取り返しがつかない事になるぞ……!』

 

 

 改めて再確認を取るとグラーフが苛立った様子で偵察機から会得した情報をレーダーに転送され、レーダーの範囲が広がっていく。kansenの偵察機とレーダーはリンクしており、リアルタイムで情報の更新が可能になっているがこれも空母kansenの特殊能力の一つだ。

 

 

 更新されたレーダーを食い入る様に見てみると赤い点で描かれた敵性反応がいくつも現れるが、同時にグラーフが設定したであろう黄色い5つの点の周りだけ空白が目立っており今もその周辺の赤い点が二つ消えた。セイレーンがまさか同士討ちなんて可能性もない。

 更にグラーフの情報が正しいのであればロイヤルが誇る戦闘メイド集団であるロイヤルメイド隊の一員も存在しており、これが空想でも訓練でもなく現実である事を否が応でも認識させてしまう。

 

 

「了解した!シュペーとヒッパーは直練に!指揮艦は後方2キロ先に後退して待機!グラーフは後方に下がって更に偵察機を飛ばして情報を集めろ!」

 

『『『了解!』』』

 

「マンジュウは今すぐビスマルクさんに最優先コードで通信を繋げろ!そして今すぐシールドを展開!敵に空母が居るんだ、いつ爆撃されてもおかしくないと肝に命じろ!」

 

「「「ピヨッ!」」」

 

 

 急いで本部に緊急通信を送り皆に戦闘態勢で油断するなと命令。船が後方に下がる中シュペーとヒッパーが青いシールドで包まれていく指揮艦の側に近づき、グラーフが後方に下がりつつも更に偵察機を増やして周辺海域に他のロイヤルkansenが存在しないのか鋭く目を光らせる。

 

「……クソッ!」

 

 余りにイレギュラーな事態に喉がヒリヒリして、緊張で冷や汗が止まらない。

 否定したくなる様な事実だが前方に展開をして交戦中のロイヤルの艦隊が何を目的にしていたのか?そして、何故セイレーンと交戦しているのか嫌でも予想出来てしまう。

 

 

 現在アズールレーンとレッドアクシズは様々な要因が重なりつつも、大まかに言えばセイレーン技術の艤装を使うか否かを巡り交戦状態ではあるが、エウロラ大陸最大のアズールレーン構成国であるロイヤル王国と、レッドアクシズの盟主である鉄血公国が本格的に交戦をした経験は実の所、今まで存在しなかった。

 

 

 そもそもレッドアクシズとアズールレーンが交戦したのは極めて短期間の間に政変が起き、戦闘が終了した初期の隣国アイリス教国との小競り合いに、アイリス教国の後継国であり、親鉄血政権となったヴィシア聖座が交戦したメルセルケビール海戦のみ。

 

 メルセルケビール海戦以降は突発的に湧いてくるセイレーンへの対処の必要があったとはいえ、ロイヤルと鉄血は睨み合いが続き、その他アズールレーン構成国は、唯一ユニオンがロイヤルへの支援物資の提供を行う他は自発的な行動は控えており、ある意味小康状態とも言える。戦争中でありながら戦闘を行わない、いわゆるジッツ・クリーク(座り込み戦争)として化していた。

 

 それを打破する為にロイヤルが動くとするのなら……一度攻撃したヴィシアではなく、レッドアクシズの盟主国である鉄血の本土の基地に奇襲攻撃を仕掛ける可能性もあるのではないか?

 

 つまり、レーダーに移るロイヤル艦隊は中立国の領海である二つの海峡をバレない様に大艦隊ではなく少数の部隊で潜んで進み、セイレーン以外には、まず間違いなくロイヤルに攻撃されるはずもないと油断しているキール軍港に威力偵察。

 あわよくば戦艦と空母で好き放題爆撃、砲撃した上で混乱する鉄血を他所に本国に悠々と撤退するのが目的だったが、そこに偶然セイレーンが現れて……

 

『帰っても良くない?仮に救援を命じられても、あいつらを救援する気が微塵も起きないんだけど』

 

『救援は向こうが救難信号でも出さない限りは大丈夫だよ。でも本当に何してんのロイヤルネイビー……』

 

『シュペー、ヒッパー両名共に気を引き締めろ。敵性勢力を領海で放置しておく訳にもあるまい……もっとも助ける気が微塵も起きないという意見には同意するが』

 

 

 

 

 とシールド越しからでも分かる不機嫌を隠さずに、思いきり嫌そうな様子を見せるヒッパーになんとも言えない顔になるシュペー。

 2人の声音にはロイヤルへの嫌悪や憎悪はほぼなく、どちらかと言えば呆れた様子であり、グラーフもロイヤルとセイレーンを放置する訳にも出来ないと苛立ちつつも、現在セイレーンと交戦をしているロイヤルを自発的に助けるつもりは微塵もなさそうだ。

 

 

 あーうん……ここまで鉄血の領海深くにロイヤル艦隊が入り込んでいるという事は、簡単に言えばこっちを攻めようとして襲われた訳で……完全にこれってロイヤルの自業自得だよなぁと思いつつも口には出さない。

 

 セイレーンは何処かの基地から出現しているのではなく突発的に湧いてくるとか言いようがない勢力。ロイヤルの旗艦が無能なのではなく完全に運が悪かった。

 奇襲攻撃を仕掛けようとして、逆に横面をセイレーンに殴られ、尚且つ必死になって迎撃をしていると、現在俺たち鉄血の部隊にも捕捉されていてと……ロイヤルはまさに踏んだり蹴ったりの状況だろう。

 

 というかレーダーに移るロイヤル艦隊が上手くいけば、着任日当日に基地が焼かれて俺って死んでいた可能性が高いのかと今更背筋が寒くなる。

 セイレーンにその気がないのは百も承知とは言え、セイレーンから海を守る為に指揮官になった自分が、結果的にセイレーンに命を救われてしまった事に何とも言えない感情が心を渦巻く。

 

 運が良いのか悪いのか。セイレーンに感謝するつもりは微塵もないが、結果論としてセイレーンに命を救われた人間は恐らく世界で自分くらいだろう。

 

 いくらセイレーンを利用して毒を持って毒を制するのがレッドアクシズの理念とはいえ、それで良いのか?とため息を吐きつつもレーダーで交戦中のロイヤル艦隊を見ながら、ただビスマルクさんの通信を待つ俺達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば数分後に繋がったビスマルクさんからの無線の指示は、ロイヤル及びセイレーンの監視。及び敵対行動を取るのであれば攻撃しろという内容だった。

 

 

『既に戦闘中であるのなら割り込む必要も無いわ。弾薬が節約出来るとでも思って引きなさい。ここで引いてロイヤルが大人しくなるならそれで良し。再度攻めてきても今後はキールへの奇襲対策を行うから、逆に相手が奇襲をした時に万全の状態で迎撃するだけよ』

 

 緊張した様子で無線越しからつい数分前まで皆に話しかけていたのは我らが陣営代表。

 ロイヤルがセイレーンを撲滅してそのまま鉄血領海から出るなら何もせず敢えて見逃し、その後は中立国の領海二つを無視して攻め込んだロイヤルを外交的に非難する政治的な戦争になるのだろう。

 

 それに今は捕捉されては居ないがもし交戦するのなら……数的にはこちらは主力一隻前衛二隻、相手はグラーフ曰く指揮艦がないものの、主力二隻に前衛三隻と数の上では不利。

 

 

 

 まぁ……ビスマルクさんも交戦は辞めておいた方が良いと気を使ってくれるのは確かとはいえ、間違いなく俺の指揮だと不安に思ってるんだなと理解して少し悲しくなるも、穏便に終わるならそれでいい。

 

 元々セイレーンの大規模艦隊に対抗するための援軍は急いで今もこちらに向かっているものの、かなり時間はかかるらしく、自分自身も初戦闘でいくらセイレーン相手に消耗しているとは言え数的に不利なkansenとの戦いは初陣である自分にとっては避けておきたい。

 

 皮肉な事に不安や恐怖心は収まり、自身でも意外な程に冷静になっている自分がいる。

 ロイヤルが暴走しない限りは戦闘の可能性が低くなった為だろうか?それとも一度海にでて、もうどうとでもなーれ!とヤケになったのかも知れないなとため息を一つ吐きながらも次の手を打つ為にグラーフに話しかける。

 

「グラーフ、偵察機から見える範囲で敵のkansenの情報を追加で教えてくれ」

 

『うむ……翼の様な艤装をした空母に、ピンク色の髪をした戦艦。赤毛の駆逐艦に眼鏡をかけた軽巡……いや艤装を見る限り重巡か?そして軽巡タイプのロイヤルメイド。

空母、戦艦、重巡、軽巡、駆逐と中々豪勢な部隊だ。本格的に攻めるので有れば数十隻でいてもおかしくはないが数が少ない。恐らく中立海域を進む以上、少数の部隊で漁船か何かに潜んで国境沿いで瀬取りを繰り返し、鉄血の領海で艤装を展開させた……という所だろう」

 

 敵の規模だけでは無くグラーフは偵察機を操作しつつも、苦々しげにどの様にロイヤル艦隊がこちらの領海までやってきたのか考察する。

 海を移動するkansenは余りにも目立ち過ぎる為、仮に彼女達がごく普通に海路を進みカテガット海峡にくる頃には親鉄血の中立国に直ぐにバレてこちらに情報がリークされるだろう。

 

 かといってキール運河や陸路は厳しく警備されており、鉄血の領内に侵入するのは一筋縄ではいけない。だからこそロイヤル国境からスカゲラック海峡に移動した後は工作するなり、買収をして手に入れたスカンジナビアとユトランドの漁船に乗り込み移動。

 再び二つの国境沿いで漁船から漁船に乗り込み、こちらの領海からは艤装を展開して中立地帯の移動を行なったとグラーフは予想する。

 

 密航や密輸といった犯罪行為は行ってはいるが、戦時条約としては限りなく黒ではあるが幾らでも言い逃れができ、鉄血の基地の攻撃に成功したと言う輝かしい戦果の前では『多少』の行為は揉み消す事もできるのだろう。

 

 真実が正しいのではなく、第三者が見て正しいと思える事を示す事が真実になる

 

 後は鉄血領海で攻撃をした後は鉄血から仕掛けたとでも言えば幾らでも言い訳はつき、報復の為に無理やりカテガット海峡は兎も角、親ロイヤル地域であり、スカンジナビアの領海であるスカゲラック海峡に追撃をすれば非難されるのは鉄血だ。

 

 

『本当……限りなく黒に近いグレーを通り越して、アウトだよねそれ……』

 

『シュペーの言う通り。だが、ロイヤルの言い分としてはロイヤル国民が漁船に乗っていただけで、中立地帯には武装して進んでいないと回答するだろう。念入りに艤装も別の船に積み込んで鉄血領海で装備をしてな。本来であれば我らに破滅と終焉を与える破壊の使者となり得たが』

 

 

『そのつもりが逆に奇襲をされて、ミイラ取りがミイラにって訳ね。

きっと向こうは、鉄血がセイレーンを操って自分達の邪魔をしたなんて考えてるんじゃない?全く……自業自得だっての! 』

 

 イライラしたヒッパーの声が無線越しから響く。それに関してはヒッパーに同意するが、個人としての意見としては、いっそここまでするロイヤルに感心すら覚えてくる。

 

だがまぁ大丈夫。

いくらそんな謀略を行う予定だったロイヤルでも、今は数十分以上の全力戦闘で弾薬がギリギリな筈だ。

セイレーンもまだまだ残っているし、そんな状態でこっちを捕捉する程の余裕もある訳ないし、ましてや突っ込んでくるはずが。

 

『ねぇちょっと……えっ待って!?あれって!? 』

 

 なんて考えていると、無線越しからヒッパーの怒号が指揮艦内に響き渡り、前方で双眼鏡を持って監視をしていた饅頭が慌てた様子で旗を使ってこちらに合図を送る。

 

内容。

 

 

 

一直線に突っ込んで来ます。

 

 

 

ロイヤルが後方から追撃してくるセイレーンを引き連れて。

 

 

もう、ものすごい勢いで突っ込んでくるので注意して下さい。

 

………………はっ?

 

 

 

 

 

 




用語解説

・ユトランドとスカンジナビア
 地名に関しては本小説オリジナル
 設定に関してはイベント「輝ける峡湾の星」より、ナルヴィク港は中立発言から史実通りアズールレーンやレッドアクシズに参加せず中立国となっている国も存在している為。

スカンジナビア
北欧諸国、特にナルヴィク港が存在したノルウェーは中立地帯となっており、史実でもイギリスとフランスの軍事支援を早期に受けている。

ユトランド
デンマーク地域、鉄血と領土を隣接している事からカテガット海峡防衛の為にセイレーンの対策の為に(嫌でも)親鉄血にならざる得ない。

 となっていましたが、両国共に複数の海峡が重なっており、実際の所は2勢力からの防衛を受けざる得ないのでどちらに転ぶか不明な蝙蝠といえる地域。

 そして、鉄血がロイヤルからの防衛の為に予防戦争として両国に宣戦布告、それが「輝ける峡湾の星」で描かれたヴェーザー演習作戦であると本小説では解釈させて頂きました。
 但しこの世界おいては何やら少し違っているようで……それはまた次回解説させて頂きます。


・ロイヤルのkansenの5人
それもまた次回
ピンク髪のロイヤル戦艦……いったい何者なんだ?

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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