北方連合にとってシベリアという地域は帝政時代は流刑地として扱われた場所であるが、1940年となった現在に於いては大きな意味合いを持つ地域となっていた。それはこの地域は世界でも類を見ない程のセイレーンが出現する地域となっており、本国の首都が存在する欧州方面、そして太平洋方面にセイレーンが雪崩れ込まないように防波堤としての役割が求められ、日夜セイレーンの侵攻を防ぐために戦い続ける必要があったのだ。
カムチャッカ半島に位置するペトロパブロフスク・カムチャッキー。北方連合にとって貴重な不凍港であるこの地域は、セイレーンが世界に出現して以降、シベリア戦線の最前線にして最後の砦と発展を遂げることになる。ここが落ちれば北方連合が食い止めているセイレーンが世界中に蔓延することになる。たとえ北方連合は共産主義を信奉した結果世界中から孤立することになっても、人類の明日のために、同志のため、人民のためにこの地域だけは守り抜かねばならない。
その意思の元にこの地に派遣されたkansen、指揮官は決死の覚悟で戦い続ける。明日と希望がたとえ見えなくても、もはやそんな日常が当たり前になった北方連合の軍人達はただひたすら次の交代の時間まで数ヶ月に渡って戦い続けるのだ。例え無人艦がすり潰されていき、例えレンドリースがあれど物資は目に見えるように連日の防衛戦で減っていっても、時として戦死者が出ても休む間もなく彼らは戦い続けた。
北方戦線異常ナシ。他国からみれば地獄といえる対セイレーン戦における最前線も、北方連合の軍人達にとってはそれは日常であり、異常ではなく当たり前のように今日も戦い続けるのだ。
「ベラは右方向のルーク級に砲撃!テルヌイは護衛にあたれ!タリンは左方向に魚雷を撃った後3メートル下がってエクセキューター級に主砲準備!メルクーリヤはタリンの援護にあたれ!!」
セイレーンの大艦隊の侵攻を阻止するために派遣された防衛艦隊の指揮官は指揮下のkansen達に次々と指示を出す。他国では滅多に現れない人型セイレーン、エクセキューター級も複数出現する中、澱みのない動きで指揮艦を操舵し、指示を出し、撲滅していく。
最前線で研磨されてきた、その手腕は見事と言ってもいいだろう。しかし、その数は中々減ることはない。次々と現れて我が物顔で海を支配するバケモノに対して、この日も『いつも通り』セイレーンの『大艦隊』と交戦する指揮官達。しかし、この日は普段と違い、妙な胸騒ぎが彼を襲い続けていた。
(何か……おかしい。いくら何でも数が多すぎる、まさか近くに出現ポイントの基地でも作られたのか鏡面海域でも発生しているのか?)
疲労で汗を拭うが水を飲む間もなくたった一人で彼はモニターを確認する。kansenのデータとリアルタイムで連動したモニターで弾薬を確認すれば既に弾薬は半分を切っているが、それでもセイレーンは減る気配もなく、同時に致命傷ではないが少しずつ艦隊メンバーの傷も増えていく。この地に着任してからまだ一週間も経っておらず、その間に三回程セイレーンの大艦隊を撃破した指揮官はこの地が地獄の一丁目であることは既に理解していた。
しかし、四度目の出撃となった現在はこのペースで行けば弾薬が枯渇しても、撲滅は不可能と思える程に次々とセイレーンがわんこそばのようにやってくるのだ。焦る気持ちを抑えながら救援要請を送るも、やってくるはずの援軍までセイレーンによって足止めされていると報告が届き、彼は決断を迫られていた。
このまま撤退して基地で手早く補給を受けた後再出撃を行うか、それとも援軍の部隊と合流すべきか。しかし、どちらの選択も選ぶことはできない。敵の大艦隊に囲まれた現在、まずはこの包囲網を突破しなければ選択肢の自由すら与えられないのだから。
腹を括るしかない。援軍の部隊を指揮するのは恐らく同じく指揮官である彼の父親であり、先ほどから健在ではある様子だがセイレーンに囲まれたのも同じらしく余裕はないと通信が送られてくる。このままではジリ貧だと嫌な想像が脳内に溢れるがそれを堪えて軍人の役目を果たそうと試みる。
砲音と忌々しいセイレーン艦のエンジン音が響く中、彼は部下達の様子を伺う。誰もが疲れ切った表情を浮かべており、特にテルヌイなどは魚雷を使い果たしたのか、もう戦える状況ではない。彼女だけじゃない、他のメンバーも既に満身創痍であり、これ以上の戦闘は無理だと判断した彼は通信マイクに手を出す。今はまだ余裕はある。しかし万が一の時は……。
「メルクーリヤ、少し良いか?」
「ダーリンどうしたの?ごめんね、忙しいから手短にお願い!」
個別通信に切り替えて彼は部下であり、自らの妻であるパーミャチ・メルクーリヤに声をかける。先日彼の子供を出産したメルクーリヤは育児休暇を終えて、ブランクなど感じさせない様子で目の前の軽巡ナイト級を蜂の巣にしているが、指揮官にはいつものように優しい声色で対応してくれた。
「敵の数が多すぎる。万が一の時は……お前が殿になって一人で敵を食い止めてくれ」
「はーい了解♪前にも言ったけど、覚悟は決めてるから大丈夫だからねダーリン!」
メルクーリヤは軽い口調で返答するが、この大艦隊を相手に殿を試みるというのはほぼ間違いなく死と同義である。
それでも彼女は笑顔で返事をする。
その言葉に恐怖や嘘偽りはなく、彼女は必要であるのなら時間稼ぎのために本当に死ぬつもりなのだ。そしてそれは彼女の夫である指揮官も、他のkansen達も皆同じ。ただでさえ戦力的に不利なこの状況、例え全滅したとしてもセイレーンの侵攻だけは防がねばならない。それが彼等にできる唯一の抵抗である。
しかし、全員の玉砕は許されない。だからこそ指揮官は命の選抜を行う必要があった。少しでも多くの戦力を保持して脱出するために、断腸の想いで自らの愛する妻を。子供を産んだばかりの彼女を死地に追いやるのだ。
生存率や足止めのためであれば、ベラルーシアを殿にすればもっとも時間を稼げるだろう。しかし彼女は陣営代表のソユーズの妹であり北方連合にとっては貴重な戦艦kansenであるために、たとえ彼女が殿を志願しても政治的、戦力的な意味で許されず、この部隊が全滅しても彼女だけは明日の未来のために本国に送り返す必要がある。
タリンも足止め要因としては最高の戦果を期待できるだろう。しかし彼女の正体は現在は敵対しているレッドアクシズである鉄血で産まれた重巡リュッツオウであり、現在は名前を変えて北方連合に派遣され在籍している。鉄血のことを知る彼女は鉄血との敵対の未来も和平の将来を考えても重要になることは確実であり、今ここで失うべき命ではないのだ。
そして、残ったのはセイレーン大戦を初期から戦い抜いており、多くの人々から慕われる彼の妻であるメルクーリヤと、ごく普通の駆逐艦である駆逐kansenストレミテルヌイ。冷徹な判断であればストレミテルヌイを切り捨て、見捨てればもっとも北方連合へのダメージは少なくなるだろう。
しかし、指揮官とメルクーリヤはそれができなかった。ストレミテルヌイはあまりにも幼く、純真無垢で二人を慕っている女の子。そんな子を囮にして逃げられる訳がない。それに、この地獄のような戦場で、自分を頼ってくれた子を見捨てられる程、二人の心も強くはなかった。
だから指揮官は決断した。過去にベッドの上で何度も話し合ったように、いざとなればメルクーリヤを切り捨て、殿にすると。これは両者が過去に合意していた内容ではあるが、改めて口にすることによってお互いの覚悟がより強固になったのを感じていく。
指揮官とメルクーリヤは過去幾度も話し合い、結論は出ていたはずだった。しかしこうして現実に直面すれば、愛している妻を見捨てる可能性があるという現実に指揮官は胃の中のものをぶち撒けてしまいたくなるほどの罪悪感に襲われる。
「大丈夫だメルクーリヤ。お前が死んだ後、すぐに俺も死ぬ。お前だけは絶対にいかせな──」
「もう!何言ってるの!?ダーリン、私怒るよ!」
メルクーリヤは先程までの軽口とは打って変わって、敵をまた一体屠りながら通信機越しに愛する夫を叱ってみせる。
「あの子を、私達の子供を置いてくつもりなの?お互いどっちかが死ねば残った方があの子を育てる。そう決めたことは忘れてないわよね?」
彼女は、メルクーリヤは優しく諭すように、しかし強い意志を持って彼に語りかける。それは、その約束は彼とメルクーリヤが結婚する時に交わした誓い。自分達が死んでしまったら、残された子供がどうなるか。北方連合初の人間とkansenのハーフである彼らの愛の結晶。そんな可愛い赤ちゃんが共産党によって実験動物にされないため、ソユーズからの庇護を受け続けるために、指揮官は例え妻を見捨てても生き残らなければならないのだから。
指揮官は自身がどれ程までに追い詰められていたのか自覚する。妻を失う恐怖と罪悪感から愛する息子をも見捨てて死を選ぼうとしていたことに。しかし、メルクーリヤは彼を責めることなく優しい声色で話しかけてくる。
通信機の向こうから聞こえる砲撃音、魚雷が敵艦に命中する音、そして爆発音が響き渡る中、彼女は夫に語りかけ続ける。その言葉が耳に届くごとに彼の心は氷解して落ち着きを取り戻していく。
「はっはっ……それもそうか!そうだよなぁ!じゃあなんとしても生き延びて将来あの子に伝えるよ!お前の母さんは本当に優しくて、立派な人だったってな!」
「えっ立派っておっぱいが?もぅ♡ダーリンったら、こんな場所でセクハラだなんてエッチなパパなんだから♡」
「流石に下ネタはどうかと思うけどなぁ!」
なんて軽口を叩きながら指揮官と、そしてメルクーリヤは、二人は理解していたのだ。ここが死に場所に成りかねないという現実を。そして伴侶と息子に別れを告げてでもお互いだけは生き延びさせようとした。社会奉仕が望まれる共産主義というイデオロギーや党への忠誠のためではなく、ただ愛するもののために。そして息子に少しでもマシな未来を見せてあげるために。
「愛してるよ、メルクーリヤ」
指揮官の口から漏れ出た言葉。それを聞いたメルクーリヤの胸の中に暖かいものが満ち溢れていく。それは彼女にとって一番欲しかった言葉であり、大好きな彼にそう言われるごとに、この世界に生まれてきて良かったと思える瞬間でもあった。
「私もよダーリン。でもね?」
「あぁ、一番は全員で生き延びることだ。ごめんな馬鹿なこと言い出して、最初から諦めて……全員で勝利の後にウォッカを喉に流し込み、二人で愛する我が子の頭を撫でて、同じベッドで愛し合う。いつもの日常を過ごすために、もう一度朝を迎えるために頑張ろうか!」
そして、指揮官は通信を切ることになるのだが同時に心は落ち着いていく。指揮を再開し、皆で生き延びるために。もう一度家族で朝日を拝むために、最後の最後まで諦めずに戦い抜くことを決意する。
その時だった。指揮官はまず戦闘能力をほぼ喪失した、ストレミテルヌイだけでも離脱させようとレーダーを確認したところ……
───セイレーンとは別の艦隊が、後方より現れたのだ。
「えっ、ちょ…なにが起きたの!?」
「同志指揮官!こちらのレーダーではわからん!報告を!」
困惑するストレミテルヌイの声と、冷静に現状を把握しようとするベラルーシアの声が響く。しかしそんな二人に答えられる余裕など無い。何故なら突如として現れた正体不明の艦隊は真っ直ぐに彼らに向けて接近していたのだから。
「これってまさか……!?」
タリンがそう口にする中、指揮官はやがて表記されることになるレーダーの識別反応を見て心臓が飛び出んばかりに驚愕を覚える。同時に後方から挨拶代わりにと放たれた無数の砲弾は北方連合艦隊を無視してセイレーンに飛来し、次々とセイレーンの命は刈り取られていく。
「間に合ったか……北方連合はセイレーン戦で苦労しているとは聞いていたが、よもやこれ程とは思わなかった」
大音量で後方から凛とした女性の声が耳に届く。指揮官は慌てて集音モードを最大にして、その声が戦場の皆に響くように調整した。その謎の艦隊の出現にもっとも驚愕したのは間違いなくメルクーリヤだろう。なにせ……もう数十年は会っていない戦友が、いきなり戦場に乱入したのだから。
「同じアズールレーン勢力であるとはいえ、訳あって無断で領海侵犯したことに関しては謝罪させてもらう。しかし、その謝罪の前にまずはこちらの仕事を果たそう!蒼き航路を護るアズールレーンの理念を守るために、そして我らの意志を北の戦士達に示すために!」
そして頭にツノを身につけた戦士は久々の戦場に心を躍らせ、艤装を展開しながらこう言い放つ。
「北方連合の勇猛な戦士達に告げる!我の名は三笠!敷島型戦艦四番艦の三笠だ!これより我ら重桜艦隊は友邦である貴殿らの援護を行う!重桜の戦士達よ!轟音を響かせ、雷光を轟かせ!敵を撲滅せよ!ここを我らの未来を左右する天王山だと思い各員一層奮励努力せよ!金剛!榛名!霧島!我の合図と共に砲撃を開始せよ!」
その声と共に、三笠と名乗った女性は主砲を放つ。それはかつて彼女が『重桜海海戦』で使用していた物と同じ旧式の主砲。しかしその威力は重桜の技術蓄積と改良の結果桁違いであり、一撃で敵前衛艦隊を壊滅させてしまう。しかしそれでも尚、敵の主力部隊は健在であった。だが重桜は二の矢を残している。
「ふふっ……流石の私も色々と溜まっていますのでここで発散させていただきましょうか……加賀、飛龍、蒼龍。三笠サマや金剛に醜態を晒して遅れを取るようであれば、私があなた達を背後から撃つと思いなさい。艦載機発艦用意!」
何処か不機嫌そうな表情を浮かべる空母赤城はそう言いながら式神を構えて次々と艦載機を生み出していく。そしてそれを見た他の空母達は、加賀さえも彼女の言葉に恐怖を覚え、背筋を凍らせつつ次々と敵を撲滅していく。
総数でいえば重桜艦隊は30人前後といったところだろうか、たった4人で戦線を支えて苦労していた北方連合艦隊の苦労などつゆ知らず、重桜艦隊は敵を蹂躙していく。
結局、セイレーンの撲滅までそれ程時間は掛からなかった。指揮官が三笠に聞けば他の重桜艦隊が足止めされていた北方連合艦隊を既に救援したらしく、同志達が無事であった事実に安堵の息を吐く。
「榛名!霧島!行きますわよ!国に残した比叡の分まで奮戦し、重桜の名に恥じない活躍を見せつけますわ!」
「姉様、今更だが本当によかったのか?重桜に残した正規空母は瑞鶴と翔鶴だけだ。彼らに私達がいない重桜を防衛できるか」
「心配しなくても五航戦の二人の強さは本物よ加賀。あの二人にもいい機会だから、独り立ちしてもらう必要がありますわ。それにしてもまさか北方連合は鉄血のような生体艤装に、たった一人だけで操舵可能な指揮艦までも製造しているなんて……中々面白そうな事が始まりそうね」
金剛隊が残敵を掃討しつつ、赤城と加賀が不穏な会話を行う中。三笠は過去の戦友であるメルクーリヤに気がつくと手を振りながらフレンドリーに近づいていく。
「三笠!?いや、なんでここにいるの!?」
「おおっ!?メルクーリヤか!久しいな!アヴローラは元気にしているか?それは追々説明するにして確か以前にあったのは30年程ま……えっ指輪?お、お主、既婚者になったのか!?」
「ふふーん♡何を隠そうあの指揮官が私のダーリンなんだから!あっ、この前赤ちゃんも生まれたわよ♪後で写真見せてあげるわ!」
戦いを終えた後。戦場後では束の間の平穏が訪れる。妻であるメルクーリヤは旧友の三笠と再会を喜び合い、二人は笑い合う。そんな光景を見ながらも指揮官やベラルーシア達は唖然としていた。なぜ北方連合を、共産主義に反対な立場を持つ重桜が突如救援に駆けつけたのだろうか?
恐らく重桜でなにか外交方針の転換となる政治的な出来事があったのだろうと指揮官は推測するが、それ以上深くは考えないことにした。今自身ができることは彼らをP・カムチャッキー基地に連行……ではなく招待することであり、詳しいことは全て党本部やソユーズに任せようと安堵しつつも重桜艦隊に警戒を怠らない。
しかし、一つだけ揺るぎない事実がある。それは今日も生き延びることができたこと。基地に戻って可愛い我が子を再びこの手で抱きしめることができるということ。そして……
「ダーリン♪」
そう言って指揮艦に乗り込んだメルクーリヤは突然、指揮官に抱きつき、皆に見せつけるように唇を重ねる。その光景に三笠は顔を真っ赤にし、ベラルーシアはいつものことかとバカップルにため息を吐いて見守る。
「ダーリンも頑張ったからね……今日もいっーーぱい、おっぱいに甘えてもいいからね♡」
そして、皆に聞こえないように耳元でメルクーリヤは囁く。今日も基地に帰れば愛する息子を抱きしめ、夜は愛する妻に甘えて、おっぱいを枕に安眠できる。そのことが戦いを終えた指揮官にとって、最優先の新たなる任務となるのであった。
『北方戦線異常ナシ』、そう言われ続けたこの国に初めて『異常』が産まれようとしている。
時は遡り重桜にて。ここはナラ県。古来、古の都が存在していた歴史ある地域であり、その山奥にひっそりと存在する小さな庵で従者が正面を護衛する中、二人の女性が対談を行なっていた。
「よもや連合艦隊旗艦となったお主がこんな小さな家にやってくるとは……我を命令で呼び寄せてもよかったろうに」
呆れつつもお茶と羊羹を差し出す和服姿の女性の名は三笠。過去に「重桜海海戦」にて東郷提督と同じくその名を世界に知らしめたkansenであり、現在は若いもの達に道を譲るべきと軍を引退して行方をくらませ、この自らの名前の由来となった三笠山を眺めることができる山中で隠遁生活を行なっていた女性だ。
「いえ、三笠大先輩のお手を煩わせる訳にはいきません故に……それに誰が聞いているのかも分からないのでこうして二人きりで話し合いたいと願い、参りました」
静かに差し出されたお茶を口に含む者は長門。現在は連合艦隊旗艦と巫狐の二足の草鞋を履き、陣営代表どころか重桜のトップとして君臨する小さな女児の姿をしたkansenである。
川のせせらぎの音が心地よく聞こえる中で二人は向かい合う。本来ならば重桜の中枢を担う彼女がわざわざ隠居生活を送っている三笠の元を訪れた理由はただ一つ。その役目を果たすために長門はゆっくりと口を開く。
「三笠様。貴方には北方連合に向かい、重桜と北方連合に渡りをつけ、関係改善と友好のための使者になっていただきたいのです」
深々と頭を下げる長門に三笠は困惑する。まさか長門の口から北方連合との友好関係の樹立を提言される日が来るとは夢にも思わなかった。
そもそも、現在の重桜は共産主義を掲げる北方連合に対して敵対心を持っていたはずだ。過去の北方帝国とは違い、北方連合は共産主義というイデオロギーにて国内をまとめるために、時に宗教の弾圧を行なってきた歴史がある。それが宗教国家である重桜の怒りに触れて、現在では同じアズールレーンの勢力ではあるものの国交断絶状態と化していた。
そんな北方連合との関係改善をまさか自国のトップが言い出すとは……三笠は長門がやってきた理由を自身が隠遁生活から軍に復帰するための要請ではないか?と予想していたために長門の予想外の発言に戸惑いを隠せない。
「お主がコミュニズムに染まった……という訳ではあるまい。結論から述べた後は説明をするのが筋。長門。時間はいくらでもある。お主がなぜそのような結論を出してここにきたのか、全部説明してくれないか?」
「ええっ、わかりました。情けない話であり、少し長くなりますが……」
そして、長門は語り出す。現在の重桜の情勢が極めて危ういものであり、軍が分裂の危機を迎えていることを。真珠湾攻撃は無くなったが派閥は消えることなく、主に親アズールレーンの金剛派と親レッドアクシズ派の赤城の確執。更に反ユニオン、親鉄血などそれぞれの軍人や政治家が別の考えを独自に持ち、混乱と混沌の坩堝となりそうであると。
最悪のケースでは、統一されていたアイリス教国が分裂し、自由アイリス教国とヴィシア聖座となったように国内が分断されかねない。それを阻止するべく、長門は金剛と赤城の思想を受け入れるのではなく、第三の主張を。アズールレーンに残留しつつ将来的に自国と敵対しかねないユニオンとロイヤルに対抗するためのパートナーとして選んだのはコミュニズムの国、北方連合と手を組むべきであると考えたのだ。
当然、長門は北方連合との取引の危険性を理解していた。第三の選択肢は誰も考えなかったのではなく、考えるまでもない危険で荒唐無稽な選択扱いされかねないのだ。それまでの重桜では宗教を弾圧し、一種の立憲君主制に近い政治体制になっている自国とは違う北方連合を信じてはいなかった。『アカ』と手を結ぶのか!!と軍部でも反発、白眼視する意見は間違いなく多くなるだろう。
場合によっては重桜にコミュニズムの思想が流入して革命が起きかねない。長門は信頼できる江風たち従者に自らの思想を語ったのだが、全員が危険です!!と反対して眉をひそめたのだから。
しかし、赤城の真珠湾攻撃は重桜を将来的に資源をコントロールして東洋の番犬扱いしかねないユニオンへの恐怖と反発から産まれたものであるが……もしも東洋の番犬が北方の熊と、かつては資源大国であり、セイレーンが出現して没落するまでは重桜以上の大国として世界に君臨していた北方連合が肩を並べているのならどうなるのであろうか?
現在世界から孤立している北方連合との関係が深まればユニオンやロイヤルに資源を締め上げられ追い詰められる。一方的に宣戦布告される可能性が減り、抑止力に繋がるのではないか?と彼女は語る。
「三笠様、私は今であれば北方連合と手を組むことは決して不可能ではないと愚考します。北方連合は共産主義を掲げた結果国内を統制することには成功しましたが、同時に世界的に孤立してしまいました。だからこそ重桜が手を差し伸べなければ、いずれはユニオン、ロイヤル両国から肉壁、防波堤とされる未来しかありません。ですが、重桜が手を貸せば北方連合はユニオン、ロイヤル両国の重圧から逃れることができる。そうすればまたかつての豊かな大国へと返り咲く可能性もあるでしょう。座していれば重桜と同じく使い潰される。しかし、北方連合視点となり同じ境遇である重桜と手を結べばどうなるのでしょうか?ソユーズはイデオロギーよりも自国の未来を重視するはずですが、現在の重桜と北方連合の関係は断絶している。そのためには三笠様。貴方の協力が必要なのです」
北方連合はセイレーンに対抗するためにユニオンやロイヤルから支援を受けてはいるが、アズールレーン本部に派遣中の面々からの報告によれば、決してアズールレーン各国はkansenや無人艦を派遣していない、議題に上がったことも無いと重桜は把握していた。
「そして謎に包まれた北方連合が現在苦戦中であることは……三笠様とも関係が深い、明石の動きを見ていればわかります」
「明石が?」
三笠は懐かしい名が話題に上がったことに少しだけ驚く。かつて自身が引退する直前、当時産まれたばかりの明石から商船団構想を。植民地をもたない重桜の退役kansenや軍人の再就職の受け皿となるメリットを提示しつつ、その初期の商船団の人材集めや、三笠の故郷であるロイヤル、現在は関係が断絶している北方連合に手紙を書いて欲しいと明石は彼女に協力を求めたのだ。
そのため明石は三笠には頭が上がらず、もし歴史がまた別のものになったのであれば明石は三笠の要請を受け、世界各地にセイレーンに対抗するための後方輸送、補給のための船団を派遣していた可能性もあるだろう。
「明石は重桜に尽くしてくれて莫大な上納金や各国の製品をもたらしますが、商人の信頼に関わると決してレッドアクシズや北方連合の情報は口に出しません。ですがその動きをみれば掴める情報もあるのです。そう、明石は毎回北方連合に商品を輸送する時は、ユニオンやロイヤルに派遣する時の3倍近くの退役kansenで船団を護衛しているのですから」
北方連合はセイレーン塗れであることは周知の事実ではあるが、主要航路であってもそれだけの護衛が必要ということは、どれだけ北方連合が現在苦労しているのだろうか?全世界が北方連合を見捨て、セイレーンが国内を蹂躙し、孤立無援になって戦い続けている北方連合。そんな余裕のない北方連合であれば、藁も掴む程に重桜の戦力は欲しいだろうと、今であれば北方連合に恩を売ることができるのだ。
ユニオン・ロイヤル・自由アイリスを中心とした『アズールレーン』
鉄血・サディア・ヴィシア聖座を中心とした『レッドアクシズ』
その二つの陣営とはまた別の組織を、アズールレーンに所属しながらもユニオンや鉄血に対抗できる、北方連合と重桜が手を組んだ第三の陣営を作り上げることこそ国防に繋がり、金剛派と赤城派の潜在的な欲求を満たすことが可能であり、それが自身の目的であると、長門は三笠に語り終えた。
「……成長したな、長門」
三笠は幼い長門の頭を優しく撫でる。長門は目を細めて、気持ちよさそうな表情を浮かべるも同時にため息混じりに苦笑する。
「あくまで構想段階であって現状は絵空事ですが…私も正直な話北方連合が真の意味で信頼できるかどうか分からないのです。北方連合は重桜を散々利用した後使い捨てる。仮にセイレーン戦が落ち着いた後、北方連合が味方で居続けてくれるか?そもそも北方連合は重桜の支援を受け入れるのか?などの疑問もございます、反対意見もごもっとも。江風にすら愚考扱いされたのですから」
「だからこそ、お主はその構想を形にするために我に会いに来たのであろう?構想を構想で終わらせず、重桜にとっての未来の掴むために行動を開始した。赤城や金剛のどちらにつくこともなく、アズールレーン残留とロイヤルへの敵対に反対意見を持つ金剛。ユニオンやロイヤルの圧力を危険視するためにレッドアクシズを新たなパートナーに選んだ赤城。その二つの意見を聞いて潜在的な欲求を把握し、二勢力とも満足する第三の選択肢を作り上げた。長門、お主は自身を卑下しているが決して傀儡ではなく重桜の民を想う主君になっているよ」
そう言いながら頭を撫でる三笠に、長門の胸に温かなものが満ちていく。尊敬する大先輩から褒めてもらえた。勿論現状では問題点も多い。しかし、三笠は自らの考えを支持して行動を共にしてくれる。そのことが長門に勇気を与えたのだ。
「三笠様は重桜だけではなく北方連合の双方に名が知られています。貴方には遠い北国で友好関係の構築に動いて欲しい。いずれ御前会議で北方連合救援のための案を提示して、赤城や金剛など派閥のリーダーや幹部をまとめて北方連合に送りましょう」
「そして派閥のリーダーが国外にいる中、お主が国内を掌握して二つの国が手を組むように第三の派閥を作り上げ、赤城派と金剛派を切り崩す。そして我は北方連合にこの案を提示して説得を行いつつ、赤城たちが暴走しないように監視すれば良いのだな?」
長門は頷きながら、改めて三笠に頭を下げた。隠遁生活を行う三笠を表舞台にひっぱりだして自らの野望のためのコマとして負担を掛ける。それでも全ては重桜の未来のために、天城の願いであり、生前天城が大好きだった美しい重桜の桜を守るために。
「三笠様、改めてお願いします。どうか力をお貸しください」
「……心得た。これより我は貴方に、長門様に忠誠を誓い、その手足となって動くことをここに宣言しましょう」
こうして、重桜の影の実力者たる三笠の協力を取り付けることに成功した長門は、御前会議で北方連合の救援のための部隊の派遣を決定し、早速三笠に北方連合への手紙を託し、三笠は多くの者達と重桜を飛び出していったのであった。
ストーブの熱が部屋を暖める寝室にて。二人の男女はお互いの体液の匂いを身体に擦り付けながら抱き合い、愛し合っていた。
「よしよし♡ふふっ♡今日は色々なことがあったからクーちゃんのおっぱいで休んでもいいからね?ダーリン♡」
ベッドで産まれたままの姿になったメルクーリヤは自身の胸に顔を埋めて甘えている指揮官の頭を撫でながら甘やかす。戦場を脱し、重桜との緊急会議やソユーズへの報告などを終えた二人は幼い息子を再びこの手で抱きしめて家族としての時間を過ごした後、こうして寝室で夫婦としての時間を過ごしているのだ。
指揮官は仕方ないとはいえメルクーリヤを見捨てかけた選択に罪悪感をもっており、そのことに気がついた彼女はベッドで愛しい指揮官を甘やかし、何度も愛し合いその心を癒していた。メルクーリヤの胸で先ほどまで幼児退行して甘えていた指揮官はうっとりとした目で彼女の胸に顔を埋めているが、メルクーリヤは聖母のような微笑みを浮かべて彼の頭を優しく撫でる。
「でも今日はびっくりしたわね〜まさか、三笠とまた会えるだなんて。あっちも私が結婚して赤ちゃんもいるって話したらめちゃくちゃ驚いてたけどね」
「もう30年くらい三笠さんと会っていないんだろう?そりゃ久しぶりに会った戦友が指輪身につけていたらびっくりするさ」
「……ダーリン、今一瞬私の年齢のこと考えたでしょ?」
「いや全然?僕は歳とか気にしないよ。僕が愛している女性はメルクーリヤだけで、重視するのはメルクーリヤの中身と母性、そしておっぱいだ」
一瞬頬を膨らませたメルクーリヤに対して指揮官はふざけるように冗談を言いながら彼女の乳首を口に含む。経産婦であるメルクーリヤは今も母乳が出るため、指揮官は赤ん坊のように吸い付きながら彼女のおっぱいを堪能する。
そんな指揮官に呆れつつも愛しさを感じながらメルクーリヤは彼を抱きしめる。愛する夫に自身の母乳を与える幸せを噛みしめながら、メルクーリヤはこの上なく幸せな気分になっていた。
「んっ…もう……♡…ふふっ、この先どうなるのかは分からないけど、難しいことは全部ソユーズに任せて私達はもうちょっと頑張ろっか?」
「そうだな。僕達にとって一番大切なのは重桜の影響で少しは前線が楽できそうなこと。そして生き延びる可能性が上がったことなんだから」
未来ではなく明日を求める北方連合。重桜が何を考えているのかメルクーリヤと指揮官には分からない。しかし、生き延びる可能性が上がり、再びこの手で愛する人を、そして息子を抱きしめることができることを今は二人は感謝する。こうして寝室ではメルクーリヤの胸に指揮官が甘える音が夜遅くまで響き渡るのであった。
1940年重桜御前会議。
その日、冬の寒さも肌に染みる中行われた御前会議で、巫狐である長門は突然衝撃的な発言を口にする。彼女は共産主義を信奉する同じアズールレーン国家である北方連合は現在セイレーンによって亡国の危機であることを述べ、重桜は人類の守護と蒼き航路を防衛するアズールレーンの理念を守るために重桜から救援艦隊を派遣することを宣言したのだ。驚く重桜軍人、kansen達の目の前で、長門との要請を受けて隠遁生活より復帰した重桜海海戦の英雄三笠も長門を支持することを表明する。しかし、親レッドアクシズであった赤城や共産主義を嫌う軍人達は即座に到底受け入れられない。共産主義者の流入によって国内が乱れる可能性もあり、危険であると反対し、御前会議は紛糾する。はたして重桜はアズールレーンの理念を守るために北方連合に部隊を派遣するべきなのだろうか?それともコミュニズムを信奉する者達を無視してまた別の道を歩むべきなのだろうか?
①我らはこれより義によって助太刀致す!!
効果
国民不満度+3.0の変化。
政策方針が2ポイント介入主義に傾く。
北方連合との関係+50。
戦略物資-3000。
北方連合との不可侵協定が締結される。
研究チーム「三笠」が選択可能となる。
kansen「三笠」が選択可能となる。
イベント「北方連合への第一次部隊派遣」が発動する。
②アカとの取り引きなど認められるか!!
効果
国民不満度-1.0の変化。
政策方針が2ポイント閉鎖主義に傾く。
北方連合との関係-10。
戦略物資+3000。
イベント「乱れゆく重桜」が発動する。
③『長門様に療養を進める』
効果
国民不満度+7.0の変化。
政策方針が3ポイント閉鎖主義に傾く。
政策方針が2ポイントタカ派に傾く。
アズールレーン所属勢力との関係-10
戦略物資+3000。
kansen長門が選択不可となる。
研究チーム長門が選択不可となる。
kansen大和が選択可能となる。
研究チーム大和が選択可能となる。
陣営代表が大和に変更される。
イベント『内戦前夜』が発動する。
情報部より報告
内容
重桜の動向
同国政府の連絡によると
「1940年重桜御前会議」
において
「我らはこれより義によって助太刀致す!!」
を選択したとのことです。
重桜の反応
「大変結構!」
北方連合の反応
「彼らは果たして善意だけで手を差し伸べてくれたのであろうか?」
・各国関係。
今回は各国関係や現在の北方連合の関係などはお休みする事に。代わりに今回の出来事をHOI2と呼ばれる歴史シュミレーションゲーム風に再現する事に。あくまでこの世界が実はゲームであるなどの展開はなく、もしも未来でゲーム化した場合どのような選択肢がプレイヤーに与えられるのか?という仮定として描かせて頂きました。今後は歴史的重要イベントでこのような選択肢が度々出てきますがフレーバーとして楽しんで頂けると幸いです。北方連合の現状と各国関係についてはまた別の機会に。
・指揮艦
本来の指揮艦は多数の人間のクルーによって運用され、鉄血ではマンジュウたちがクルーとなりましたが北方連合の指揮艦は指定の位置に手をかざすだけで、一人でも操れます。それだけではなく秘匿されていた北方連合式生体艤装に関してもセイレーン技術のリバースエンジニアリングの結果であると重桜に説明しましたが実際には……
秘匿されていた生体艤装などセイレーン技術に赤城は興味津々なようです。
・三笠
本来の歴史であればレッドアクシズに重桜が加入した後に表舞台に隠遁生活から復帰して現れた三笠。
原作では彼女は赤城に対抗する為に行動を開始しますが……三笠と善意と正義でどの様な形であれ、赤城の危険性(躊躇いなくセイレーンと手を組む、リセットできるとは言えkansenで人体実験を行う、天城以外興味がない媒体も存在するなど)を理解しつつも、対アズールレーンとして赤城によってまとまっていた重桜を乱し、セイレーン作戦が開始しても重桜は意志統一が不可能となってしまうなど少し賛否両論な人物であるかもしれません。
今作ではイオニア海海戦によって歴史が崩壊して真珠湾攻撃が中止となるも、原作以上に乱れた派閥政治と化した重桜をまとめる為に長門が自らが三笠に接触した事により、ゲームとは逆に三笠が長門の部下として動く結果に変化が生じ、彼女は金剛や赤城を引き連れて北方連合に向かいましたが果たして北方連合と重桜、そして長門、三笠、金剛、赤城達の意志は統一されることになるのでしょうか?
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