鉄血の旗の元に《本編完結》   作:kiakia

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第三十七話 事件

 

 

 カツカツと鈍い音が階段を鳴らし、一人の女性が地下室に向かう。鉄血海軍本部内でも関係者以外立ち入り禁止とされている区画に、彼女は重い足取りで向かっていく。

 

 

 彼女の名はビスマルク。鉄血の陣営代表であり、本来であれば過労によって倒れてしまい一週間の休養を行なっていたkansenだ。

 

 彼女はまだ本調子ではないようで、頭痛によって時折立ち止まりながらも目的地に向かって行く。やがてたどり着いた場所は地下にある部屋だった。扉には鍵がかけられており、ビスマルクはその鍵を取り出す。カチャリという音と共にその部屋の扉が開かれる。同時に今から行う事の重要さにため息を吐きながら扉の先を歩いていく。

 

 

 そこは、地下室とは思えない程に整備されたホテルのような作りになっていた。窓こそ存在していないが暖かな暖炉の温もりが部屋に充満しており、大きなベッドや備え付けられたバスルームといい、まさに地下シェルターといえる程の充実ぶりだ。

 

 

「あら?珍しいわねビスマルク……どうかしたのかしら?」

 

 やがて部屋の主である女性が椅子に座りながら親しみを込めた和やかな様子で話しかけてくる。毛糸を器用に扱い、彼女は手袋を編んでいたがビスマルクの登場によって一旦作業を中断する。

 

 

「貴方に……出撃してもらう事になったわ」

 

 

 ビスマルクは彼女が差し出したクッキーを遠慮すると、疲れたような声でそう呟く。本来であればビスマルクは彼女と会う予定はなかった、ビスマルクは地下室で暮らす彼女に罪悪感を持っており、できる限りの便宜は測ってはいるが、それでも顔を合わせれば申し訳なさで胸が痛くなる。できる事なら話したくない、そして次に顔を合わせるときは彼女が望んだとはいえ、籠の鳥ともいえる幽閉状態から解放できるという知らせであって欲しいと思っていた。

 

 しかし、情勢の変化によってビスマルクは彼女と会わざるを得なくなってしまったのだ。

 

 

「只事ではないようね、新聞を見る限り鉄血が大攻勢を受けたわけじゃないのは幸いだけど……どうかしたのかしら?」

 

「……貴方に命令します。今から48時間後、この地下を出て艤装を装備して二匹のネズミを追い詰めて欲しいの」

 

 ビスマルクは拳をぎゅっと握りしめる。悔しげな表情を彼女に向けながら絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「了解したわ。ふふっ、あの子達には久々の戦場ね。ちなみにそのネズミはどうすれば良いのかしら?」

 

 彼女はビスマルクの瞳をじっと見つめながら楽しげな表情を浮かべている。その瞳を見続けているとまるで闇に飲まれていくような感覚に襲われるが、ビスマルクはハッキリとこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「撲滅。血も、髪の毛も、肉片にいたるまで、全てをこの世界から抹消する。それが貴方も、私も含めた鉄血海軍に所属する者達に、鉄血の名の下に課せられた最優先事項よ」

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは新たなるステージに向かおうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで!!落ちなさいっての!!!」

 

 

 ヒッパーの掛け声と共に離れた魚雷は敵セイレーンの横腹を突き刺して轟音を上げていく。硝煙の匂いと共に彼女の撃墜数が次々と加算されていくが、彼女の表情は鬼気迫る程であり、正直に言えばめちゃくちゃ怖い。マンジュウ達に至っては数匹震えており、シュペーやグラーフも呆然とした様子でヒッパーを眺めていた。

 

 

 スパイ騒ぎに加え、ビスマルクさんが過労によって倒れてしまい、本部が蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていたのは3日前だ。俺達はその様子を眺めつつ残り少ない休暇を過ごしてはいたが、デスクワークが無くともセイレーンが海域に出現すれば防衛のために出撃を行う必要性があった。

 

 サディア帝国に向かって以降、一ヶ月以上聞いていなかった懐かしいアラートが基地に響き渡り、思わずドキッと緊張してしまうが幸いにも敵の規模は中規模程。本来であれば皆の練度を考えれば特に問題もなく撲滅できる……はずだった。

 

 

「まだよ!まだまだ来なさいセイレーン!!死んじゃえ!!バカアホドジマヌケぇぇ!!!」

 

 

 ヒッパーはセイレーンを罵倒しながら次々敵を仕留めていく。彼女は3日前から不機嫌な表情を浮かべていたが、この戦場はいってみればヒッパーにとってのストレス発散の場となっているようだ。

 

 大声で罵倒しながらも全ての攻撃を回避して、避けられない攻撃はシールドで防ぐ彼女の練度はかなりのものだろう。全体の8割をたった一人で撲滅する無双っぷりに俺達はドン引きしながら彼女の姿を眺めていた。

 

 

「おらぁ!死になさいセイレーン!!!」

 

「ヒッパーの奴……どうやらかなり機嫌が悪いようだな」

 

 彼女が取りこぼした敵を爆撃機で粉砕しつつ、グラーフは珍しく冷や汗を流しながら呟いた。

 

「えっと……あれ……何があったの指揮官?」

 

「いや、ほらアレだよ。化粧品買おうとしてロイヤルに邪魔されたから……全部ロイヤルが悪いんだよ、うん」

 

 疑問符を浮かべるシュペーに、戦々恐々と怯えながら俺はそう答えた。彼女がキレている理由は3日前の出来事のせいだろう。折角の買い物の最中に雑貨屋でロイヤルらしきスパイと遭遇。俺はヒッパーに捕縛の手伝いを求め、急遽彼女との共同作戦を決行した結果、後一歩でスパイを捕らえそうになるも、最後は相手が民間人がいることもお構いなしに発煙筒を投げ込んだせいで失敗してしまった。そのせいで買い物は中止となり、ヒッパーはこうして不機嫌になって暴れている。

 

 

 もし、あの怒りの矛先が俺に向いていれば……なんて思えば、セイレーンには悪いが俺は生まれて初めてセイレーンに心から感謝する羽目になっていた。

 

 

「こんなんじゃストレス発散にならないってぇの!続きはないの続きは!」

 

 

 やがて最後の敵を主砲で沈めつつ、さらに爆雷を投げ込んで粉微塵に粉砕してからヒッパーは叫ぶ。海面には無数のセイレーンだった残骸が浮かび上がっており、今回の戦闘の結果はこちらの被害は0、敵も壊滅状態。戦果としては十分すぎるものだったが、ヒッパーにとっては不満が残るものになってしまったようだ。

 

 今回の戦いのMVPは間違いなくヒッパーだろう。しかし、物足りない彼女は目をギラつかせながら辺りを眺める。それは猛禽類を思わせる程に恐怖心を煽ってくる。

 

「へいどーう、どーう。こんな状態でも当ててMVPになるのは凄いけど、ちょっと落ち着くんだ。俺はいつものヒッパーの方が好きだぞー」

 

 脳内のアドレナリンがドバドバとなって興奮するヒッパーをなだめるために声をかける。こうなった時の彼女は何を言っても無駄だということは俺が一番理解している。だから素直に褒めつつも、彼女にこれ以上暴れないように注意を促す。彼女は八つ当たりでも味方に攻撃することは絶対にしないと理解しつつも、今の状態のヒッパーは確実に危ういと俺は理解していた。

 

 

「……ふんっ!この程度、私なら当然だっての!」

 

 

 なだめること数分後、どうにかふぅふぅガルルと猛獣のような唸り声を上げていたヒッパーは落ち着いた様子で、俺達は全員ほっと安堵の息を吐いた。

 

 しかし、このままでは不味いだろう。彼女の機嫌が悪くなった理由は大体ロイヤルのスパイの二人組のせいであり、もしも戦場でスパイと再開したらヒッパーは迷うことなく撃ち殺すだろう。艤装が無い街中であっても、石を投げつけた後首を絞めて絞め殺す寸前まで追い詰めかねない。そうなれば大惨事になりかねないし、俺としては情報のためにあの二人を捕らえて本部に連行したい。何よりも焦りや怒りを伴った戦場は彼女を危険に晒しかねない。

 

 

 善は急げなんて言葉が重桜にはあるそうだが言い得て妙だ。俺はセイレーンを撲滅して帰還中の船内で、シュペーとグラーフに少しだけ待ってくれと連絡してから個別通信に切り替えると、不機嫌そうに指揮艦の左側を滑るヒッパーに声をかけた。

 

 

「なぁ、ヒッパーちょっと良いか?」

 

「……なによ」

 

「もし良かったらさ、帰ったらすぐに買い物のリベンジといこうぜ」

 

 彼女が不機嫌な理由はロイヤルのスパイの二人に買い物の邪魔をされたからだ。恐らく、あの雑貨屋はしばらくは営業していないはずだが、他の店にならヒッパーが買おうとしていた化粧品だって売っているはず。

 

 これで少しでも彼女の気が晴れるなら俺の奢りで色々買ってあげようかな?元々ヒッパーには普段からお世話になってるからプレゼントする予定だったからね。

 

 

「はぁ!?急に何よ!ってちょっと待ちなさいよ!出かけるにしても急過ぎない!?」

 

「ヒッパーだって化粧品買いたいだろ?荷物持ちは付き合うし今回は俺の奢りでいこう!じゃあ報告書さっさと書いて夕方の17時辺りにあの時と同じ裏門前で集合ね。後はよろしく!」

 

 

 半ば強引に通信を切る。もし本気で嫌だったり、休暇はまだあるから明日とかもっと別の日にしたいって言うならヒッパーの言う通りにするが、今のヒッパーの様子を見る限り一刻も早く彼女には機嫌を元に戻して欲しい。よく考えたらデートに誘ったようなものかも知れないが、あくまで俺は荷物運び兼財布役だ。誘った以上ヒッパーの要望を叶えるために少し多めに財布にお金を入れておくかと頭の片隅で考える。

 

 

 結果的に基地に戻った後もヒッパーは特に文句を言わずに「わかったわ、また後で」と呟きながら自分の部屋に戻っていく。良かった、どうにか受け入れてくれたか。そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、俺は再びヒッパーと二人きりで出かけられる事実に内心喜びつつも書類を片手に仕事に戻ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、辺りも夕焼けに包まれる16時30分。コソコソとグラーフとシュペーに見つからないようにコート姿で基地を出て裏門に向かい、手持ち無沙汰に彼女を待っていると10分もしない内に以前と同じ私服姿のヒッパーはやってきた。

 

 

 先ほどまでは怒っていたのかぷんすかとしていたが、今はどこか嬉しそうな雰囲気を感じられる。どうやら俺の提案を受け入れてくれて、満足してくれたようだ。俺は彼女に向かって手を挙げて挨拶をする。

 

 しかし、ヒッパーは俺の姿を視界に入れた瞬間に呆れたように口を開く。

 

「あんたねぇ……気を使ってくれてるのはわかるけど、せめて明日とか明後日とかにしなさいっての。こんな時間に買いに行っても基地に戻るの夜になるわよ」

 

 確かに今の時間はもうすぐ夜の帳が落ち始めようとする時間帯だ。しかし、今日を逃したら次はいつ行けるかわかったもんじゃない。セイレーンは一度撃破すればその日の内は再度侵攻する可能性も低いので安心でき、今日はセイレーンに邪魔をされずに買い物を確実に行えるだろう。それに彼女はあんなにも買い出しを楽しみにしていたんだ、少しでも早く俺はヒッパーの願いを叶えてあげたかった。

 

 

「いや、こういうのは早い方がいいだろ?それに前回は俺のせいでヒッパーにも色々とあったからね。そのお詫びってことで今回は奢らせてもらえないかな?」

 

 

 前回ヒッパーは発煙筒を窓から投げ込まれた後、スパイが逃げる際に思い切り蹴り飛ばされて地面に倒れ込んでしまった。あの時、相手から銃を取り上げていたとはいえ、もしもナイフでも隠し持っていて彼女の顔に傷の一つや二つできていたらと考えると、悔やんでも悔やみきれない。

 

 あの日はヒッパーにとっては本当に散々な一日だっただろう。だからせめて今日は日頃の感謝と労いの意味を込めて、ヒッパーに喜んで欲しかった。機嫌を直して欲しいのも事実だが、それ以上にヒッパーが喜んでくれるなら俺だって嬉しくなるのだから。

 

 

「幸いサディア出張中にもらった手当もあって財布はあったかいんだ。宝石なんかは流石に厳しいけど、もしヒッパーが望むなら色々選んでくれていいからね?」

 

 実際、サディアでの任務を終えた俺にビスマルクさんは報奨金という形でボーナスを支給してくれた。これだけあれば買い物くらい余裕でできるはずだ。

 

「なによりさ、俺いつもヒッパーに助けてもらってばかりだろ?だから恩返しも兼ねて今日は俺とのデートに付き合ってくれないかな?」

 

 俺はそっとヒッパーに握手のために手を差し出す。するとヒッパーは目を白黒させた後、ため息混じりに応じてくれた。彼女の小さな手の温もりが俺の手と重なっていく。

 

 

「ごめん、私もちょっと熱くなりすぎてたわ……分かった、アンタの親切心は受け取るわ。でもね、二つだけ言っておくけど、断じてこれはデートじゃなくてアンタは荷物持ちってこと!それとお金はいらないわ、あんまり人にお金使わせるのって好きじゃないっての」

 

 

「了解。じゃあ折衷案で買い物に付き合いつつ、ヒッパーが喜びそうなものを俺がプレゼントする。それでいいかな?」

 

 彼女は頷くと手を離し、行きましょと言わんばかりに裏門を出て進んでいく。俺は慌てて彼女の後を追いかけるのだった。

 

 まずは街へと向かって歩く。道中は俺もヒッパーも特に喋らずに黙ったまま歩いていた。ただ先ほどまでとは違い、空気はかなり柔らかい感じではある。俺が彼女の横顔を眺めながらそんなことを考えていると、視線を感じたのかヒッパーはそっぽを向く。そんな何気ない反応を楽しみつつ、今日は俺も荷物待ちをしつつ彼女との散策を楽しもうかと俺達は並んで歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から述べよう。

 

 

 

 頭が痛い。頭痛が痛いなんてバカみたいな言葉が出てくるくらいには頭を抱えたくなってしまう。

 

 

 

 俺達は化粧品を買いに行く前に、スパイコンビと遭遇した例の雑貨屋の前を通りがかったのだが。

 

「商魂逞しいというかなんというか……」

 

「この前スパイに発煙筒投げられて普通に営業してるなんて凄いわねこの店…」

 

 

 なんと、雑貨屋は既に営業を再開しており、発煙筒を投げつけられた窓を布で覆っていることをのぞけば、前回のように営業を行なっていた。むしろ心なしか人が多くなっているのは、スパイが通っていたために話題になって繁盛したのだろうか?

 

 俺達はならあそこでいいかと雑貨屋の店内に入っていく。俺達の姿を見た店員さんが一瞬だけピクリと震えたように思えたが、いらっしゃいませと大きな声が店内に響き渡る。

 

 そこまでは良かった。俺は楽しそうに化粧品を物色するヒッパーを後方から眺めつつ、今回こそはヒッパーに楽しんでもらえればと辺りをそれとなく見渡すと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───以前会ったことのあるような、メガネをかけた女性が鼻歌混じりにヒッパーの横で化粧品を物色していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うそやん……」

 

 

 推理小説でよくある法則の一つに犯人は現場に戻るという言葉がある、つまりはそういうことだろう。俺は思わず天を仰いだ。……どうしようこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒッパーは上機嫌な様子で試供品を片手に笑顔でハンドクリームを手に塗っていた。その様子は正直とてもかわいい。そんなヒッパーを見ていると、とてもではないが俺は彼女の幸せな時間を壊したくはなかった。

 

『つまり以前遭遇したスパイの二人、その二人のうちに発煙筒を投げ込んだと思われる女性がまた店内を物色しているということね?』

 

「物色というか買い物を……あの時発煙筒投げ込んだのは外からですし、店員さん達も含めて誰も正体に気がついていませんね。それに以前会った時と比べても変装で雰囲気は変わっています」

 

 十中八九スパイと認定している女性の一人。前回発煙筒を店内に投げ込んだと思われる、エラと名乗っていたメガネの女性から目を離さずに、俺は店内の片隅で小型通信機で鉄血海軍本部に緊急通信を行なっていた。

 

 基地司令の権限によって与えられた通信機は特別製で、直接陣営代表に繋げることができる優れもの。今回はビスマルクさんではなく、現在代理となって働いているティルピッツさんが俺の通信相手となっていた。

 

 ティルピッツさんは俺からの通信内容を聞いた途端、嘘でしょ……?とまるで俺の正気を失うかのように唖然とした様子だったが、そんなの俺だって同じである。

 

 

「多分近くにあの二人のアジトがあるのかも知れません。買い物籠を観察すれば保存性に優れた缶詰なども大量に購入しているみたいですし、顔バレしたシーフの代わりに買い物に来たのかと」

 

 

『だからといって普通自分が発煙筒を投げ込んだ店に再び通うのかしら……』

 

「化粧品安いですからね……それにだからこそじゃないでしょうか?まさか鉄血も一度事件のあった店に再びスパイが通いに来るなんて考えられないだろうと」

 

 

 あの時シーフは色々な人々に顔バレしていたが、エラは手早く発煙筒を投げつけた後逃走したらしく目撃情報は少ない。

 

 勿論街中ではスパイを探索するために憲兵がいつもより多く出歩いているのだが、俺が見た時と比べても変装に変装を重ねているためか、エラはメガネ以外の雰囲気は全く別人になっている。

 

 以前は銀髪ロングだった髪型はカツラでも被っているのか黒色になっており、装飾や服装もガラッと変わっているために一目見ただけでは分からないだろう。だからこそ白昼堂々とこんな所で買い物をしているようだが、相手にとっては運が悪いことに彼女と直接話したこともある俺が再び店内に入店したのが運の尽きだ。

 

 

「至急増援をお願いします。現在は一人で、顔バレしているもう一人が近くにいるとは考えられませんが……」

 

『了解したわ。すぐにそちらに応援を送るけど……えぇ……本当なの……?』

 

 ティルピッツさんの戸惑いの声を聞きながら、俺はエラの動きを注視し続ける。彼女は手に取ったリップクリームをじっと見つめて思案顔をしているが、思案どころか頭痛いのはこっちだよバーカ!バーカ!ロイヤルのバーカ!!

 

「本当……ですね。逃げられるかも知れませんが、情報の裏取りのためにそれとなくカマかけて見ましょうか?発煙筒をもう一度使用するかも知れませんが……」

 

 

『迷うけれど……許可します。だけどくれぐれも民間人に被害の出ないように油断せず慎重にね』

 

 

 ティルピッツさんの言葉に俺は思わず苦笑する。確かに今この状況で発煙筒を使用されると面倒なことこの上ない。だがスパイコンビの内もう一人のシーフは恐らくアジトに潜伏中で、相手は孤立して油断しているはずだ。今なら最悪俺一人でも拘束ができ、最悪逃げられても周囲の憲兵なら捕まえてくれるはずだ。

 

 ただ……俺はヒッパーに声を掛けるつもりは無かった。上機嫌で化粧品を選んでいるヒッパーの邪魔をしたくはなかったし、ぶっちゃけセイレーン相手にあんなに八つ当たりをしていたヒッパーが、すぐそこにロイヤルのスパイがいるなんて知れば……最悪店内は血で染まることになるだろう。できることならヒッパーが何か行動を起こす前にエラを拘束しなければ……単独で。

 

 ヒッパーはとても楽しそうだ。そんな彼女の様子を見てつい口元が緩みそうになるのを抑えつつ、俺は彼女に気づかれる前に事を済ませようと行動を開始する。

 

 通信機の電源を切ると、俺は缶詰コーナーで新商品を見ているシーフにゆっくりと近づいていく。そして深呼吸の後に覚悟を決めて彼女に声をかけた。

 

 

「すいませんロイヤルのお嬢さん」

 

「あっ、はい!なんでしょ……あっ」

 

 

 振り向いた彼女の瞳が大きく開かれる。俺の顔を見た瞬間、その表情には警戒心と緊張が走った。どうやら俺だと気がついたようだ。というか畜生もう反応的に100%ロイヤルのスパイ確定じゃねぇか!

 

 

「い、いいえ!!な、何のことでしょうか!?急に声をかけたので反応してしまっただけですよ!?」

 

「成る程、つまり普段からロイヤルのお嬢さんと呼ばれるとすぐに反応するくらい慣れていると」

 

「はぅ!?」

 

 必死で誤魔化そうとするエラだが、ボロはどんどん出てくる。この子なんでスパイをやれているんだろうか?と疑問に思うが、シーフのフォローがあったとはいえ少なくとも前回お茶をした時はボロを出すことはなかったのだから、基本的には優秀なんだろう。そう、コンビで行動を組むときは。

 

「……まぁ俺が何を言いたいのか分かるな?問題がないようならすぐに解放して謝罪もするから、抵抗せずについてきてくれないかな?あぁ、カバン漁ってるようだけど、次、民間人巻き添えで発煙筒使ったらその瞬間君の顔を殴るからね?」

 

 

 前回発煙筒を投げつけられた恨みも兼ねて、笑顔で鞄に手をかけていたエラを威圧する。相手が発煙筒を使う前に攻撃するくらいの余裕はある。いやできることなら……寧ろ心情的には絶対そういうことはやりたくはないから、これで大人しくなってくれると嬉しいが……

 

「はわわわ…!」

 

 

 暴力をチラつかせて、笑顔で女性を威圧する男と。涙目になる勢いで怯えている女性。絵面としては最低の部類だろう。まるでこっちが悪役じゃねぇか!と罪悪感と倦怠感を覚えるが、それを無視して俺は彼女の手を強引に掴み連行しようとすると……

 

 

「……せ……」

 

「んっ?」

 

「戦略的撤退ですよー!!」

 

 あの野郎!案の定逃げ出しやがった!

 

 

 相手が尋問で黙り込む前にロイヤルと確定してのはありがたいが、エラはダッ!と俺の腕の隙間を縫うように動き、急いで入り口に向かって逃走を図る。俺は慌てて逃げ出すエラの背中を追うが……その瞬間ゾクリと刺すような殺意が後ろから現れた。

 

「ロ、イ、ヤ、ル、ぅぅぅぅ!!!!」

 

「「ひっ!?」」

 

 

 それはヒッパー……いやヒッパーのような姿をした何かだ。ドス黒いオーラを身に纏い、彼女は逃げ出したエラを凄い勢いで追撃する。そりゃあんな大声で戦略的撤退なんて叫べばヒッパーだって気がつくわと思いつつ。あまりのことで一瞬反応が遅れてしまい、店内には俺だけが取り残されてしまった。

 

 慌てて店内を抜け出して夕暮れに染まる二人の背中を追いかける。夕暮れ時だからなのか既に帰路についているため、道ゆく人々の数は少なく、数少ない民間人はドス黒いオーラを身に纏ったヒッパーに怯えている。

 

「まずいぞ、このままじゃ…!」

 

 

 早く助けに向かわなければ危ない……ヒッパーではなくスパイの命が危ない!!俺は焦燥に駆られながらも必死で二人を追い続ける。すると人通りの少ない路地裏にエラは逃げ込んだようだが、どうやら行き止まりになっていたようで……

 

 

「ロイヤルの!!!静かにしなさいっての!!」

 

「や、やめてください!それに私はロイヤルじゃ」

 

「はぁ!?アイツの顔を見て逃げ出すなんて十中八九ロイヤルに決まってるわ!よくも邪魔してくれたわねこのバカ!ちょっと大人しくしなさい!」

 

「い、いや!暴力反対!」

 

「あーもううっさい!!!こうなったら……!」

 

 路地裏からは声が聞こえてくるが……幸いにもヒッパーはちゃんと拘束のために動いてくれているようだ。うん、大丈夫。時折いやぁぁ!!と女性の声が聞こえるが、殴るような打撃音は聞こえていないからセーフだな!よし!路地裏だから周りに人もいないから民間人には聞こえてないからよし!……よし!

 

 

「こちら指揮官。スパイの拘束に成功しました。ヒッパーが頑張ってくれて……増援を要請します」

 

 路地裏から聞こえてくる悲鳴をBGMに、俺はティルピッツさんに人員を派遣するように連絡する。あと15分もすれば近くの憲兵隊が到着してくれると報告を聞きながら、俺は路地裏に入りたくないなぁ…と、こんな時だというのにそれはもう嫌そうな表情を浮かべていただろう。確実に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼ、暴力反対ですよ!捕虜は大切に扱ってくださいね!」

 

 

 二人に追われるというプレッシャー、というか主にヒッパーに追われる恐怖から思ったよりもあっさりと捕縛には成功したのだが……

 

 

 それは近年まで鎖国をしていた謎の東洋の国家、重桜より伝わったという特殊な拘束方法。身体を這う縄は菱形上の歪な六角形の穴を作り出しており、菱形上の穴からはスパイの胸が食い込むように飛び出している。スカートは股間部に同じように作り出された菱形上の穴を中心にみっちりと縛られている。

 

 口元は自由にはなってはいるが、背中はといえば蜘蛛の巣のように同じ菱形上に作られた六角形を中心に縄が張り巡らされており、まるで彼女の背中には亀の甲羅を無理やり背負わされたような縄目を作り出している。足こそ自由に動かせるが手首は縄で動けなくなっており、最早足以外満足に彼女は身動きを取れないだろう。

 

 亀の甲羅のような縄目に菱形上の複数の六角形の穴、そしてキツく結んでいるのか時折り漏れるエラの苦痛そうな声。その縛り方はまさしく……捕縛プレイやSMプレイで多用されるという、縛り上げた縄目から覗く女体の乳房や腰回りに尻肉を美しく・猥褻に見せつけ、女性が相手に支配されたことを示すという一種のアートのような側面を持つ、重桜式捕縛術。亀甲縛りそのものだった。

 

 

 おい待て似たようなこと前もあったぞ!とツッコむまでもなく、ヒッパーはサディア帝国で拘束したイラストリアスと同じように、エラの身体を縄跳びの縄によって亀甲縛りで締め上げていた。

 

 

 

 しかし、エラのそこそこ豊かなバストやムッチリとした太もものラインをこれでもかと強調するそのエロティックな姿は、男であれば思わず息を呑んでしまうほど官能的な光景であり、思わず股間が反応しそうになるのを深呼吸で抑えてみせる。

 

 ヒッパーなんで毎回亀甲縛りで拘束するの……というかこんな短期間の間によくここまで完成度の高い亀甲縛りを完成させたな……

 

 

「ちょ、ちょっとぉ!何でこんな縛り方なんですかぁ!」

 

「はぁ!?うるさいわね!簡単に逃がさないために決まってるでしょ!?」

 

 抗議の声を上げるエラだが、ヒッパーはガルルと威圧するようにエラを威嚇する。確かにエラの言う通り、どっちかといえば今はエラに同情しそうになったが、頭を切り替えて俺はエラに近づくと、彼女は悔しそうな目で俺を睨みつけた。

 

 

「変態ですね!こんなこと命令するだなんて!」

 

「いや待ってくれ、断固として俺は命令してないからな!?」

 

 誤解しないで欲しい。今回に限って言えばこれは完全にヒッパーの独断で、俺は何も命令していないんだ。これ多分バレたらロイヤルの捕虜の皆さんからのただでさえ低い評価がゴミカス同然になるんだろうなとため息を吐きながら、俺は憲兵隊がやってくるまでの間尋問を開始した。

聞けることは今の内に聞いておこう。

 

 

「そのね?一応聞くけど君ってロイヤルのスパイだよね?」

 

「残念ですがお答えしませんよーだ!」

 

 目線を合わせて落ち着かせるように声を掛けるが、舌を出して彼女は挑発するようにそう口にする。敵対勢力に情報を吐き出せるわけないのだから当然だろう。そっかーロイヤルじゃないのかー……さて。

 

 

「真面目な話だけどさ、所属勢力は早く言ったほうがいいよ?ハーグ条約って相手国の捕虜は丁重に扱う決まりはあるけどね?今の君は所属不明でスパイ疑惑がかけられているんだ。軍に何をされても知らないよ?」

 

 

 ハーグ条約は相手国の兵士の虐待を防ぐ側面はあるが、所属不明な兵士には適応外だ。自分の所属勢力がはっきりしない場合、軍に拷問まがいのことをされても……極論非人道的な扱いを受けても文句は言えなくなる。

 

 ただでさえセイレーンという人類種の敵が存在している以上、相手はセイレーンで人権すらないと判断された場合は……考えたくもない苦痛が彼女を襲うことになるだろう。

 

 

 とはいえ、ビスマルクさんやティルピッツさんがいる以上彼女が拷問を受ける可能性は限りなく低い。それでも口を割らないというのなら……と脅しをかける意味で警告すると、エラは一瞬だけビクッと身体を震わせた。

 

「いいかい?これは親切心で言っているんだ。君だって所属勢力ってものがあって、そこからの命令を受けて行動しているんだろう?元の勢力に迷惑をかけるって気持ちはわかる。だがはっきりしなければ君は何をされても文句は───」

 

 

 

 今、この時のことを思い返せば俺は馬鹿だった。

 

 

 勝利を確信して援軍が来るという安心感。そして拘束に成功したスパイを見て安心してしまったという油断。

 

 

 

 だからだろう。俺とヒッパーは気づくことができなかったのだ……背後に、音もなく忍び寄るもう一人の人影の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────タァン!と何かが破裂するような音が路地裏に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが何なのか確認する前に……足に激痛が走り、俺は思わず地面に倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁっ…!?」

 

 鋭い痛みと共に流れる生暖かい液体。焼けるような熱さと強烈な匂いを放つそれは紛れも無く俺の血であり、撃たれたという事実を理解すると同時に激痛で身を捩る。足を確認すれば直撃こそしてはいないが、弾丸が太ももを掠ったらしく、血がドクドクと流れ出ているのが見えた。

 

 

 咄嵯の出来事だったが何とか撃たれるまでの状況を思い出してみれば……俺はエラが一人で行動しているという前提で捕縛のために行動をしていたが。

 

 

 ────姿が見えないだけで、もう一人は店の外からエラを見張っていたという可能性が頭の中から抜け落ちていたのだ。

 

 

 

「ヴァイス!?」

 

「ちっ!外しましたか…」

 

「シェフィ!?なんでこんな所に!?」

 

 ヒッパーの悲鳴が響き渡り、振り返ればあの時の金髪の女性が特徴的な銃を二丁構えて俺を見下していた。シーフ……いや、シェフィと呼ばれた少女は流れるように何かを投げつけようとする動作に移る。

 

 

「ヒッパー!!アイツを止め…」

 

「えいっ!!」

 

 

 俺は地面に倒れ込みながら必死で叫ぼうとするが、手足を拘束されていたはずのエラが全力を込めて俺に頭突きを敢行する。

 

 ぐえっ!と馬鹿みたいな声をあげて壁に叩きつけられ、頭を打ったせいで頭部に鋭い痛みが走る。

 

「ちっ!こんのぉ!!」

 

「これまでです」

 

 止める暇もなく吹き飛ばされる俺を見て、ヒッパーは激怒した様子でエラを盾にしてシェフィに突撃しようとするも、間に合うはずもなく……前回と同じく路地裏は煙幕で覆われていく。

 

「ヴァイス大丈夫!?死んでない!?」

 

「ごほっ!い、生きてはい…がぁぁぁ!?」

 

 煙が肺の中に入っていき、足と頭部の痛みで行動を取れない中必死でヒッパーに返答しようとすると、シェフィと呼ばれた少女は思い切り恨みを込めて俺の傷口を踏んづけたらしい。骨まで響くような衝撃を感じ、思わず叫び声をあげてしまう。

 

 その間も目を凝らしてみればシェフィはガスマスクを素早く装着したらしく、意気揚々と平気な様子でヒッパーを再び蹴り飛ばすと手早くナイフでエラの縄を切断する。

 

 

 銃弾で太ももを攻撃され、さらに踏みつけられた痛みと煙幕で喉がやられていく。俺は結局何もできず、必死に俺を煙幕から逃すように動いてくれたヒッパーに引き摺られ、助けられた時には……スパイの姿はすでに消えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァイス…大丈夫よね?意識はある?私が誰だと認識できる?」

 

「大丈夫だヒッパー…っ…」

 

 

 俺はヒッパーの力を借りて煙幕の範囲から逃げ出した後、彼女の応急手当てを受けていた。といっても彼女のカバンの中にあるのは絆創膏くらいなもので、ヒッパーは自分の所持していたタオルで思い切り足を縛って、更にハンカチをガーゼ代わりにしてくれる。

 

 彼女の私物が台無しになったなと申し訳なく思えてくるが、今は痛みでそんなことを考える余裕はない。頭の痛みも含めて幸い命に別状はなく、そろそろ騒ぎを聞きつけた憲兵がやってきてくれるだろう。それまでは痛みを辛抱すればいい……が俺の心は敗北感で覆われていた。

 

 

 

 完全に、してやられた……完敗だ。まさか近くに銃を持ったあいつが居たなんて予想外だ。ヒッパーに怪我がなかったことだけが不幸中の幸いだが、気休めにしかならない。

 

 

「ヴァイス……ごめん」

 

 

 ヒッパーはいつもとは違い焦燥した表情で俺を見つめてくる。俺のことを心配してくれるのは嬉しいが、今回は彼女は全く悪くないんだ。むしろ彼女に黙って行動を起こした俺が、もっと言えばロイヤルのあの二人が悪いのであって、ヒッパーは何も悪くはない。

 

 

 悔しそうに歯噛みをする彼女を見る限り、今回も俺は彼女に迷惑をかけてしまった。その事実が重く心に伸し掛かっていく。

 

 

「ヒッパー。気にしないでくれ。むしろごめんな?2回も買い出し台無しにして……」

 

「……気にしなくていいわよ。元から私が巻き込まなかったら、こんなことには……」

 

 

……気まずいし調子が狂うな。なにより根っこは本当に優しいヒッパーが傷ついてるのを見たくない。

 

 

「金髪貧乳まな板無乳女」

 

「は、はぁ!?アンタ何言って…」

 

「そうそう、それでいいんだ。ヒッパーはその調子でね?」

 

 

 いきなりの俺の爆弾発言に、ヒッパーは困惑気味に抗議の声を上げるも、ふふっと俺は笑ってそんなヒッパーの様子を眺める。

 

「今回はアレだ、悪いのは全部ロイヤルってことにしよう。だからね?そんな顔しなくても、また買い出しくらい付き合うから、ねっ?」

 

 

 足の痛みで頭がクラクラするのに耐えつつ俺はヒッパーを慰めた。というか今回は完全にヒッパーは被害者側で、反省すべき点は俺の方が多い。だからこそだ、せめて巻き込まれた彼女にはそんな顔をしないで欲しかった。

 

 

「はぁ……ヴァイス、ひとつだけ言っておくわ」

 

「んっ?」

 

「多分……気を遣ってくれたんだろうけど、もしスパイと遭遇したら迷わず私に声をかけなさい。それと……」

 

 

 ヒッパーはそういうと俺に近づき……無言で壁に背に座っている俺の胸元に顔を近づけて、抱きつくようにして縋り付いてくる。

 

 

「直ぐにいつもの私に戻るから…憲兵が来るまでの間、今は…ちょっと悔しいからこのままでいさせて……」

 

 

「……うん」

 

 彼女の言葉の意味を察した俺は、優しく抱きしめ返す。悔しそうに身体を震わせる小柄なヒッパーの姿はどこか子供のようで…遠い昔、こうして泣いていた妹を抱きしめたなと思わず幻視してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 スパイ達はその後逃亡に成功してしまい、こうして二人の休暇は最悪のモノとなり、指揮官は憲兵達に事情を説明しつつも本部で治療を受けることになる。

 

 幸い命には別状はなく、血はかなり流れたが傷は思ってた以上に浅かったようで、しばらく包帯を巻く必要があるものの3日もすれば退院できると軍医に説明され、彼らの休暇は少しだけ延長されるとになる。

 

 

 だが、指揮官は……いや、ヒッパーや銃撃を行ったスパイ達も含めて当事者達は理解していなかった。この一連の出来事の重要性を。

 

 

 

 

 

 端的にいえば鉄血海軍、そして、のちの未来にこの情報を知ることになったサディア帝国は……

 

 

 

 

 

 激怒することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三章 指揮官暗殺未遂事件編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官暗殺未遂事件

 

 サディア帝国をロイヤルからの攻撃から防衛、救援に成功したことにより、両軍内部からは英雄視されていた若き指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストが休暇中、突如何者かに銃撃を受けることになった。彼は休暇中部下のアドミラル・ヒッパーと共に過ごしている最中に突如路地裏で凶弾に倒れることとなる。

 彼はその三日前にスパイと思わしき人物と接触するも、あと一歩で取り逃がしており、今回の銃撃はスパイが口封じのために、そしてイオニア海海戦の報復のためにロイヤルが刺客を送り込み、彼を暗殺しようとしたのではないか?と考えられている。

 幸い命には別状がなかったものの、鉄血海軍は若き英雄を暗殺しようとしたクイーン・エリザベスが送り込んだと思われる刺客に激怒。報復するために24時間体制で警戒を行なっており、予断の許されない情勢となっている。市民には秘密裏に処理されているものの、現在鉄血国内は戒厳令を敷かれており、報復の時は近いと言えるだろう。

 

 

①クソッタレめ!!

 

効果

国民不満度+3.0の変化。

指揮官「ヴァイスクレー・ヘルブスト」が選択不可となる。

研究チーム「ヴァイスクレー・ヘルブスト」が選択不可となる。

イベント『緊急鉄血円卓会議』が発動する。

イベント『サディア帝国の反応』が発動する。

イベント『アズールレーンへの譲歩』が発動しなくなる。

新たなkansenが追加される。

 

 

 

 

 

 

 




 今作最大級のファンブル、それはこの指揮官暗殺未遂事件と後に表される事になる一連の事件と言えるでしょう。 

 シェフィールドはエディンバラを救うためにアニメの様に鉄血軍人を躊躇いなく銃撃、負傷させて逃亡に成功したのですが……彼女達はサディア帝国での戦いこそ知ってはいても、サディアは鉄血の要請を指揮官の顔写真や名前などの公開は慎重になっており、何れはプロパガンダの為に公開する予定ですがまだ新聞やラジオで報道はされていません。

 つまり、シェフィールドとエディンバラはその部隊を指揮していた鉄血の指揮官の顔も、名前も知る事はありませんでした。彼女達視点ではあくまで指揮官ではなく鉄血軍人らしき人物であり、それがあの救国の艦隊を指揮してグラーフ・ツェッペリンと共に何度もロイヤルに打撃を与えた元凶であると知る由もなかったのです。

 そして「偶然」休暇中のサディアの英雄が「偶然」2回も2人を見つけ出して捕縛しようとするも失敗し、そして「偶然」シェフィールドは相手がサディアの英雄である事を知らずに銃撃を行いましたが……これを鉄血とサディア視点では果たしてどう思うのでしょうか?

 たとえ指揮官がちゃんと事情を説明したとしても、「偶然」とは思わず、むしろウォースパイトやイラストリアスを捕縛されてマルタ島が陥落した為にロイヤルのクイーン・エリザベスが報復の為に英雄を暗殺に動いたと思っても仕方がないでしょう。


 ……ロイヤルは一線を、決して超えてはならない一線を超えてしまいました。

 次回はこれからのプロットの整理の為にほんの少し(とはいえ今年中には確実に)だけ投稿が遅れる事になりそうですが、指揮官が銃撃された直後のそんな鉄血の反応、そして退院して休暇が伸びた指揮官を描かせて頂きます。

Q IFルートとしてロンドンの異なる未来を見てみたいか?

  • Aダイスで決められた史実を変えるな
  • Bダイスの女神に中指を立ててIFを

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