ロイヤルのスパイコンビによる反撃で足を負傷した俺は、退院した後も全く引くことなく断続的に太ももに感じる痛みに思わず不快感を感じて顔を顰めてしまう。
相手の放った銃弾は血管を切り裂いたようで流血こそ酷いことになっていたが傷は幸いにも浅く、三日間ほどの入院で退院することができた。とはいえ医者曰く本来であれば二週間近くは何もせず安静にして欲しいと言われており、それでもあまり入院し続けるとヒッパー達が心配するので足を包帯塗れにしつつもどうにか早期退院することができた。
俺が負傷したと聞いた3人の対応はそれぞれ違ったものだった。当事者であるヒッパーはいつものように接してくれたが、グラーフは必ずスパイを捕まえて相応の報いを受けてもらうと言いつつも、相手が銃を持っている可能性がありながら不用意に近づいた俺を嘆息混じりに説教する。
「全く……あの時の卿は尾行するだけで良かったというのに。責任感も結構なことだが、前にも言ったが卿が死ねば我も含めた皆が悲しむ。その事を理解して自身が「英雄」であることを自覚するんだ」
シュペーは俺が負傷したと聞いた瞬間泣きそうな顔を浮かべつつ、すぐに俺の手を握って大丈夫かと何度も尋ねてくる。普段は大人しい印象がある彼女であったが、この時ばかりは必死さが伝わってきて、そんな彼女を安心させるために頭を撫でる。
「ごめん……本当にごめんな。俺の不注意が招いた結果だ。油断し過ぎた、次からは絶対に皆に相談して行動することにするから、ねっ?」
「……絶対だよ?指揮官が撃たれたって聞いた時、もう心臓止まるんじゃないかって思ったんだから……」
そう言いながら優しく手を握ってくれたシュペーはやっぱり天使と言えるだろう。最終的にはシュペー、ヒッパー、グラーフの三人に無茶を叱られ、心配され、彼女達に迷惑をかけたなと罪悪感を抱きつつも俺は退院して基地に戻ることになったのだ。
さて……やることが無い。休暇は過労から復帰したビスマルクさんより直接伸びたと伝えられたが、現在スパイを捕まえるために軍を総動員して戒厳令を敷くレベルで警戒態勢が敷かれており、迂闊に出歩くこともできない状況だった。
更に、ビスマルクさんの配慮で足の怪我を理由に外出自粛と命令されたが、仕事もない現状ではやることもない。大講堂や本部に向かうことすら禁止された俺は……暇つぶしも兼ねて一つの決心をしようとしていた。
「やっぱり先延ばしはダメだよなぁ……」
二匹のマンジュウが電気銃を持って護衛する中、俺は捕虜達が収容されている部屋の一つの前で立ち止まる。この部屋の主はイラストリアス。イオニア海海戦で虜囚の身となって鉄血に引き渡されたロイヤルの空母kansenがこのドアの向こうにいる。だが正直気が進まない、色々な意味で俺は彼女と会うことをずっと先延ばしにしていたため、緊張感で胸が痛くなる。
イラストリアスは俺のことをどう思っているのだろうか?降伏の意志も無いのに無理矢理救出して、緊急医療とはいえ彼女の胸に手を当てながら人工呼吸をしたために唇を奪ってしまい、更にはヒッパーのせいでイラストリアスは亀甲縛りで皆の前で晒された時にマゾヒズムに目覚めて喘いでいた可能性もあり……。
考えれば考えるほど俺の気持ちは沈んでいく。いっそこのまま逃げてしまおうかと思ったが、先延ばしばかりするのも問題だろう。彼女は既に他の捕虜とサディアて何があったのか?を話しており、そういうところも含めて一度は接触する必要がある。自身のカンが物凄い勢いで赤い警報を発しているのを無視しつつ、俺は意を決して扉をコンコンと部屋をノックしながら話しかける。
「失礼だがイラストリアス、君に話があるんだ。無論君が望まないのであれば今日は失礼するが……捕虜である君に色々と聞きたいことがある」
一瞬の沈黙、そして緊張。やがて短く「どうぞ」という声が扉越しから聞こえ、深呼吸をして覚悟を決めてゆっくりとドアノブを捻り、室内に入る。
そういって扉を開けると……中にいたイラストリアスはゆっくりとこちらを振り返り、優しく微笑んでいた。相手は少なくとも今は友好的に接してくれそうだと理解した俺は内心安堵しつつ彼女に近寄る。
そして、よかった…マゾヒズムに目覚めて自分で自分を縛っていたなんてこともなく本当によかった…!と心底安堵する自分がそこにいた。
「あら、お久しぶりですね鉄血の……指揮官様、でよろしいでしょうか?」
「あぁ。機密のために本名を君に伝えることができないのは心苦しいが、私は鉄血海軍の指揮官を務めている」
「いえ、大丈夫ですわ。ロイヤルで指揮官をしている方々も名前を軽々しく伝えることができませんから……」
「さて……こうして格式に囚われた会話をするのもアレだね。今回は別に俺は情報を探ろうとか、君の関係者を炙り出そうとか考えているわけじゃないんだ。ただ単純に君のことが知りたくて来ただけなんだ。だから気楽に接してくれるとありがたいのだが……」
「今回は、ですね?」
そう言うとイラストリアスは小さく笑い、少し困ったような表情を浮かべた。そう、本来なら捕虜の尋問はもう少し厳しいものと彼女達は予測していたはずだ。
だが鉄血は……というか俺は別に捕虜を虐める必要もないだろうと、彼女達を客人として国際条約に定められた以上の待遇を約束しており、少し困惑気味ではあったがキュラソーやロンドンから話を聞いたであろうイラストリアスはリラックスした様子。とはいえ俺を嫌っているであろうイーグルからも色々と聞いているのは確実なのだから不安もあるだろうが。
「だからリラックスしてくれ。君を俺達は傷つける意図はないんだから。まず聞くが捕虜としての生活はどうだ?何か困ったことや不満があれば遠慮なく言ってくれ」
「いえ、その……不自由はありませんよ。むしろ私達の扱いは捕虜というよりも賓客に近いかもしれませんが……これも貴方の方針なのでしょうか?」
「まぁね。ビスマルクさんからの許可は得てるよ。例えロイヤルが敵だったとしても、今の君達は鉄血の保護下にあって条約で捕虜として認められた軍人だ。ならそれ相応の敬意を払わないといけないからね、それにぶっちゃければ、こうして優しくしておけば捕虜も協力的な姿勢になってくれるんじゃないかな?と思ってたけどそっちは今のところ成果はないかな?色々あってイーグルには嫌われたしね」
冗談っぽく俺は苦笑するとイラストリアスはクスっと笑う。和やかな空気が辺りを包み込み、本当に俺達はサディアで殺しあった仲なのか?と疑問を感じてしまうが、イラストリアスの真意は分からない。
ロイヤルネイビーの貴族階級であった彼女は心を隠すことは得意らしく、明らかに慣れていないであろうイーグルと違って些細な会話から情報を引き出すことは難しそうだ。
「紅茶とコーヒー、どちらをお飲みになりますか?鉄血の指揮官様」
「俺は甘党でね。できれば甘い物を出してくれたら嬉しいんだけど」
俺の言葉にイラストリアスはクスッと微笑みながら席を外す。俺はとりあえず椅子に座り、部屋の窓から海を眺める。青い空に白い雲、そして潮風。こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのにと思いつつも俺は息を大きく吐く。
(言える訳ないよなぁ…イラストリアスの今の状況なんて)
この休暇で分かったことだが、既に鉄血では地中海の戦いの情報は……いや鉄血だけではなく、既に世界中に広まっているようだ。俺の名前などはまだ公開されない予定ではあるが、それまで秘匿されていた鉄血唯一の空母であったグラーフの名前は煌びやかな戦果と共に鉄血の新聞を彩り、逆にイラストリアスの扱いは……それはもう酷いものだった。
友邦サディア帝国に奇襲攻撃を仕掛けようとした卑怯者、生き恥を晒した恥知らず、卑劣な悪女、鉄血に敗れた敗北者、世界に恥を晒したポンコツ、中にはロイヤルネイビー史上最低最悪のビッチ等々……少なくとも国営放送のラジオなどは理知的に情報を伝えていたが、それ以外の鉄血国内で報道されている内容はこうなっていた。
初めて新聞を読んだ時はあまりの内容に言葉を失ってしまった。レッドアクシズではイラストリアスは完全に恥知らずの悪役として歴史に名を刻むことになるだろう。サディア帝国との友好関係が深まるにつれて港湾奇襲攻撃を行おうとした彼女の悪名はますます広まるばかりだ。
幸い捕虜である彼女達はラジオ、新聞などの情報媒体に触れることは禁止されており、その現状を知ることがないのは幸運と言えるだろう。そんな彼女がボロカスに言われる要因を作ったのは俺達のせいなんだよなと事実に胸が重くなるが、そうとは知らないイラストリアスは二つのココアとクッキーを乗せたトレイを持ってくる。
「お待たせしました」
「ありがとう」
イラストリアスが用意してくれたココアは甘党には嬉しくてたまらない代物だ。しかもココアの上には生クリームまで乗っており、思わず口元が緩んでしまう。カップを持ち上げると湯気と共にチョコレートのような香りが鼻腔を癒し、口に含むと身体が内部から暖かくなる。
こうして俺達は2人で静かにココアを飲みながら無言の時間を過ごしてはいたが、彼女から敵意や憎悪を感じないためなのか、全体的に敵意剥き出しだったイーグルの時とは違い、穏やかな時間を過ごせたのは幸いだ。
「鉄血の指揮官様。その、ええと、……あの時は、本当に申し訳ございませんでした」
和やかな雰囲気の中イラストリアスは突如頭を下げる。いきなりの行動に俺は少し困惑してしまうが、彼女が何を言いたいのか理解できてしまう。
「あの時、敵である私を貴方は海に飛び込んでまで救ってくれた、助けてくださったとリットリオ様から聴きましたわ。改めてお礼を。降伏を拒否して死を選ぼうとした私の命を救っていただき誠に感謝致しますわ」
イラストリアスはそう言うと再び頭を下げる。しかし、あの時のことを思い出してしまった俺としては、素直にその謝罪受けることはできなかった。
自身の命をゴミのように扱い、大切な仲間が、俺を認めてくれて命が無くなれば傷つくと言ってくれた皆の好意を踏み躙りヒーロー気取りの行動を取ってしまった事実。結果的にイラストリアスが助かったから良かったものの、もし俺達2人が死ねばどんな酷い未来になったのやら……そう考えてしまうと胸が痛くなる。
それに先日のスパイ騒動といい、何度も鉄血の皆に迷惑をかけてしまったことが頭の中で罪悪感と共に感情をミキサーにかけていく。
「あの……指揮官様?」
「あ、あぁ気にしないでくれ。軍人として助けられる命は救いたかっただけだよ。それがたまたま君だっただけだよ」
俺はそう言いながら内面をイラストリアスにバレないように取り繕い、苦笑するしかなかった。確かに彼女を海に飛び込みながらでも救おうとしたのは紛れもない俺の意志なのだが、その所為で鉄血の皆に心配をかけてしまえば本末転倒で……うん、やめよう。今は自分の馬鹿なことをした過去を勝手にほじくり返し、心の海に沈んでしまうのは。
「それにその、あの時は思わず……貴方に暴力を振るってしまいましたから……」
心なしかシュン…と憔悴様子のイラストリアスが言っているのは、彼女が目覚めた瞬間俺をビンタしたことだろう。俺は心臓マッサージのために彼女の爆乳に触れてしまい、思い切り息を吹き込むために彼女の唇を奪ってしまった。キスというよりは人工呼吸に近い行為であったが、目が覚めたイラストリアスはあの時恐怖と羞恥で俺を思わずビンタしたことを気にしているだろう。
うん……でもあれは、仕方ないと思うんだ。
「いやまあ…いいですよ、あんなタイミングで目覚めて唇を奪われてたら仕方ないですから。救助活動とはいえ改めて俺も謝罪させていただきます、自分が貴方の立場だったら同じ事をしたでしょうから」
「ありがとう、ございます」
あの時の事を思い出したんだろう。イラストリアスは自身の唇を指で触り、少しだけ顔を赤くしている。そんな様子を見て少しだけドキリと緊張してしまう。
イラストリアスは今まで気が付かなかったがかなりの美人さんであり、その爆乳は見るだけで劣情を抱いてしまう。いくら緊急医療とはいえあの時の爆乳の感触を、そして柔らかな唇の感触を思い出してしまい、それを誤魔化すためにココアを口に含む。
あの時は必死だった、瀕死の彼女の呼吸は殆ど止まっており、劣情なんてものも一瞬で消え去り、ただ彼女の命を救うために心臓マッサージと人工呼吸を何度も何度も繰り返していた。だが、いざ全てが終わった後こうして美女であるイラストリアスと2人きりの状況になると意識せざるを得ない。俺は目の前の女性の胸を揉み、恐らく反応的に彼女のファーストキスを……。
「……そうだね。緊急事態だったとはいえ男である俺が君に人工呼吸を行ったのは色々と問題だったはずだ。それにね……その後のゴタゴタも本当に申し訳なく……」
脳裏に彼女が亀甲縛りで縛られた姿を思い出し、心底彼女がマゾヒズムに目覚めなかったことに安堵する。いや、もしかしてイラストリアスのいけない扉を開いてしまったが、こうして冷却期間ができた結果そのダメージも回復したのかもしれないが……そこまで深く考えるのはやめておこう。
「……仕方ありませんわ、お互い成すべきことを成そうとしたのと同じく、あれも指揮官様のお仕事の一つだったのでしょう?」
少しだけ黙り込み、赤面しながらも悩んだ様子ながらもイラストリアスはそう口を開いた。いや確かにイラストリアスを捕縛するのは紛れもなく俺達の仕事の一部ではあったが、亀甲縛りは間違いなくヒッパーの独断で俺の指示じゃ無いんだ。そう、断じて無いんだ。
何気に会話の端から「お互いの仕事」であるという情報を引き出し、あの空襲はイラストリアスの独断専行ではなくもっと上位の、恐らくクイーン・エリザベスの命令であることの言質をとる。
小さいが一歩前進したことに喜びつつ、今日はこれくらい情報を聞き出せたのだから充分だと、なんだか空気も気まずくなり、そろそろ部屋を後にしようとしたところで、イラストリアスは躊躇いがちに口を開く。
「その……鉄血の指揮官様。一つだけ質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……機密に触れない程度で、答えられる範囲ならね」
何となく、イラストリアスが何を聞いてくるのか予想した上で残りのココアを全て飲み干してイラストリアスの言葉を待つ。すると予想通りの言葉を彼女は口にした。
「どうして、何故。あの日。あの戦いで。貴方は敵である私を助けたのでしょうか?」
真っ直ぐと、敵対する国家の重鎮とも呼べる彼女はこちらを見ながら尋ねてくる。その目は少しの感謝と大きな疑惑の混ざったものとなっており、本気で今の彼女が俺の口から聞き出したいことが伺えた。
当然だろう。リットリオがどう話したにしても俺は自身の命を危険に晒してでもイラストリアスを救おうと、沈みゆく彼女を確認した途端、必死で戦闘中の海に飛び込み彼女を救出したのだ。
本来ならば降伏を選択せずに戦い続ける敵国のkansenを戦闘中に救助するなど言語道断であり、事実、俺はマインツやグラーフより叱責を受けた。それは簡単に言えば俺が自身の命をゴミのように扱ったのが「原因」ではあるが「動機」はまた別だ。
「そうですね……タラントに空襲を行った罪人である貴女を捕虜にして法廷に突き出すため。クイーン・エリザベスとの交渉のために役に立つと思ったから。戦闘中だったウォースパイトを降伏させるための手駒となったから。単純なヒーロー気取りの馬鹿な行動だったから。俺が目の前で人が死ぬことを嫌ったから。ヒッパーに人殺しの業を背負わせたくなかったから………なんて後から考えれば幾らでも理由は出てくるんですが」
「ですが?」
「正直に言えば……俺としても何で貴女を助けたのか分からないんですよねぇ……」
少しだけ、悩んで。頭で最もそれっぽい理由を考えてもしっくりとくる『動機』が頭に浮かばずに正直に俺はそう答えると、イラストリアスは驚き半分、呆れ半分。更に困惑を付け加えたような表情で見つめてくる。
理由は考えたが、あの時は実際なんで身体が考える前に咄嗟に動いたのかは自分でも分からない。流れるように上着を脱いで躊躇うことなく海に飛び込み、そして運動音痴ながらも必死で救おうとした動機。それを色々と考えた上であえて言うのであれば。
「あえて言うのであれば……ただ、目の前で貴女に死なれると気分が悪かった。それだけだよ、イラストリアス」
本当に、それ以上もそれ以下もない。あの時はただ純粋に、目の前で死にかけている女性を救いたいと思っての行動だったのは間違いない。敵対する軍人を救って名を上げようとか、イラストリアスを晒しものにしようだとかそんな理由はなく、ただ自己満足のために、気分が悪くなるのが嫌で俺はあの海に飛び込んだ。
その結果シュペー達の心が傷つき、軍人失格の行動となってしまったのだから、死ぬ程反省はしているが、それでも今もこうして生きている姿を見て、イラストリアスの命を救ったことに後悔があるか?と言われればノーと答えることができる。
「多分俺は……今後は海に飛び込むような馬鹿なことはしないにしても、今後もアズールレーンと戦闘になってしまえば、戦闘後は真っ先に救助命令を優先して出すだろうし、こちらが有利であれば真っ先に降伏勧告を行い。それを拒否しても死なない程度にダメージを与えて捕虜にする状況に持ち込むと思うな。勿論最優先なのは自身も含めた鉄血艦隊の皆とはいえ……」
ふぅ……と我ながら、必要であれば殺す覚悟が必要だったとしても、助けられる範囲であれば情報の取得と自己満足のために助けようとするだなんて、軍人としては失格だなと自嘲しながら最後の言葉を口にした。
「セイレーンが我が物顔で今も海を跳梁跋扈しているのに、セイレーンから皆を守るためでなく、陣営同士の戦いで命を失うだなんてなんというか……嫌、だからね」
「……お人好し、なのですね」
困惑気味にそう口にするイラストリアスの言葉に、俺は何も言い返すことはできない。お人好しどころか実際は自己満足で行動している軍人失格のクソ野郎なんだが、それでも今後イラストリアスの時程じゃないにしても似たようなことがあれば、助けられる命は敵であっても俺は助けようとするはずだ。
例え降伏を相手が拒否しても、有利な状況で相手に増援の予兆がなく、グラーフ達の命に危険がない状況であれば何度だって俺は助けようとするだろう。
『今回、我らは圧倒的な勝利を収めることに成功したがあくまで結果論だ。もし貴官が溺れ死ねば大問題になっていたのは間違いない。これからは勝手に暴走するなんてことは二度とするな。仮に相手を説得するなら、自軍が圧倒的に優位な状況で、艦隊の皆と話し合うという当たり前の前提条件をクリアした上で無力化するんだ。』
『貴官の躊躇いが指揮系統を混乱させ、それが艦隊運営だけでなく鉄血公国の作戦行動に悪影響を与えかねない。今はまだ割り切れないかも知れないが……その結果がグラーフ、シュペー、ヒッパーの命を奪う要因となり得たのなら、その時悔やんでも悔やみ切れないぞ』
『……なにも、降伏勧告をするなとは言わない。捕虜を得ることができれば人道的にも情報的にも優位に働くのだから。だがそれは圧倒的優位で余裕があり、相手を安全に無力化する上で援軍は来ないと確信できる状況だけに限定しろ。それと……シュペー達は貴官を大切な仲間と……家族のような存在だと認識している。そのことだけは絶対に忘れるな。彼女達から離れることもなく、二度と泣かせるような真似はするなよ』
マインツと最後に話しあった時の内容が頭の中でリフレインする。仲間を危険に晒さないことが最優先で、二度と彼女達に心配かけさせないために躊躇わない。そして、その上で条件さえ整えば助けられる命は敵だったとしても助ける。これが俺が決めた信条とも言える覚悟であった。
「指揮官様。貴方に命を助けられたことに感謝はしていますが……指揮官様のために言っておきましょう。貴方の優しさは素晴らしいものですが……いつか、その優しさが身を滅ぼさないことを祈っております」
静かにココアを飲み干したイラストリアスはじっと俺を見つめてそう言うとカップを置く。
「ですが……人としては、そのお考えは私は好きですよ」
そして、クスリとイラストリアスは微笑み、揶揄うようにそう口にするそんな彼女の表情を眺めると頬が熱くなって何も言えなくなり、ただ「そんなのじゃ無いよ」と口にするのが精一杯になるのであった。
しかし、俺は知らなかったんだ。こんな穏やかな休暇を過ごしている内に、とんでもないことが起きようとしているだなんて。
イラストリアスと話をした後日、残り少ない休暇を楽しむ俺達の日常は早朝から鳴り響いたアラートによって崩壊する。
ヒッパー達に出撃準備を任せて本部に状況の説明を求めようと通信室に向かおうとするも、その前にキール第三基地にビスマルクさんの緊急通信が強制的に響き渡る。恐らくこの基地どころか全てのキールの軍施設に流れたその放送の内容は、思わず胸が押し潰されそうになる程のプレッシャーを伴うものであった。
スパイ撲滅指令
『これより我ら鉄血公国海軍は逃亡中の所属不明勢力の討伐作戦を行う。所属不明勢力は女性型の個体が二体。所属不明勢力は我ら鉄血海軍より重要情報を盗み出すと同時に、丸腰の鉄血海軍所属の軍人に発砲を行っており明確な敵対行動を見せている。彼らは現在カテガット海峡に向けて逃走中であり、これより我ら誇り高き鉄血海軍は総力を上げて機密情報漏洩の阻止のために、そして同胞を傷つけた愚か者に裁きの鉄槌を下すことを宣言する!!鉄血の同胞達よ立ち上がれ!敵勢力は人型に擬態したセイレーンの可能性もあり容赦の必要はない。我らの誇りと尊厳のために。何よりも我らの同胞を傷つけたクズ共に血の報復を行うのだ!!これよりスパイ撲滅作戦を実施する。出撃可能なkansen、指揮官は全て作戦に参加し、所属不明勢力を轟沈せよ!!同胞の流れた血は未だに精算されることなく地面を這っているのだ……我らの怒りを!我らの本気を!!恥知らずの悪魔達の脳髄に恐怖と絶望と共に砲弾の嵐を叩き込むのだ!!!我が同胞のために鉄血の力とならんことを!!鉄血の旗の下に出撃せよ!!』
1940年12月5日早朝
鉄血艦隊陣営代表、戦艦ビスマルクの演説より抜粋
①鉄血の旗の下に!!
国民不満度-5.0の変化。
政策方針が1ポイントタカ派に傾く。
ロイヤル王国との関係-200。
サディア帝国との関係+50。
サディア帝国との不可侵協定が締結される。
研究チーム「ヴァイスクレー・ヘルブスト」が選択可能となる。
指揮官「ヴァイスクレー・ヘルブスト」が選択可能となる。
海上ユニット最大指揮統制率+15.0%
包囲ボーナス+5.0%
補給ボーナス+5.0%
損耗修正+5.0%
対ロイヤル王国ユニットへの戦闘ダメージ補正+20.0%
撤退確率-50.0%
イベント『スパイ撲滅戦』が発動する。
情報部より報告
内容
鉄血公国の動向
同国政府の連絡によると
「スパイ撲滅指令」
において
「鉄血の旗の下に!!」
を選択したとのことです。
同胞を傷つけた卑劣なスパイ達を撲滅せんと怒りに燃える鉄血艦隊。何も知らずに必死で逃亡を続けるシェフィールドとエディンバラ。そして咎人を断罪する為に現れる鉄血艦隊最強の切り札。
一発の銃弾から始まった海戦。その海戦に参加する『救国の艦隊』の面々の行動とは。
次回、第四十話『鉄血の旗の「下」に』
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄