と言う訳で番外編として戦闘前にロイヤル組の描写をどうぞ。
いったいどれほどの時間、私達は戦い続けたのだろうか?
腕時計を見るとまだ一時間も経っていない?嘘だろう、体感的には何十時間近く戦い続けたような気がするのに、私の周りだけ時間が遅くなったのかと錯覚を覚えてしまう。
肉体的にも精神的にも疲弊しつつも立ち止まる訳にはいかない、立ち止まったが最後、敵に撃たれて海の底に沈むのだから。
「ごめんなさい!イーグルさん、援護お願いします!」
セイレーンの量産型軽巡ナイト級四隻に囲まれた重巡ロンドンの悲鳴が耳元に届くと、返答する余裕も無く即座に雷撃機ソードフィッシュを五機放ちギリギリまで敵に近づける。
贅沢に雷撃をばら撒くなんて今の私には不可能だ、既に雷撃機も爆撃機も弾薬が底をつきかけている。苦肉の策として機体を出来る限り接近させて撃破を心がけているが、今も一機ソードフィッシュが敵の対空砲に巻き込まれて海に亡骸を晒す。
それでも四機の機体が敵の横腹にその身をぶつけるかのように近づける事に成功する。
雷撃投下……三隻撃墜!!
黒塗りかつ複雑な紋様がネオン状に点滅していたナイト級はミシミシと轟音と響かせつつ光を失い、その巨体が海に沈んでいく、全て撃破したかったが直前に一機逃してしまった。
しかしこれで囲まれていたロンドンへの圧力がマシにはなったはずだ。同時にソードフィッシュを失い破滅のカウントダウンの針がまた一つ進んでいく。
「すまないロンドン!三隻撃破したが残りは頼んだ! 」
「感謝します!残りは私がどうにか出来ますので他の3人の所に向か」
「……ちっ!!ロンドン後ろだ!避けろ! 」
既に服の一部が焼け落ちたロンドンは残り一隻のナイト級に砲撃を行い撃破、撃墜数は増えたものの慰めにはとてもならない。周りを見渡せば敵の量産機は何隻も存在しており、付近の戦艦ルーク級が砲撃態勢を移った事を確認した瞬間、私達は散開。再び目前セイレーンを一隻でも多く撃破するために終わりの見えない耐久レースを開始する。
「キュラソーさん!?その傷……!! 」
「大丈夫ですよジャージーちゃん.…多分まだ大破判定にはなってませんし、私の傷よりも貴女の弾薬です。もう殆ど残ってないのでしょう?」
「それは……」
「ジャージー、そなたは私の後ろに下がれ。キュラソーも無理をせずにジャージーと共に後方に」
「了解です」
「りょ、了解!」
「うふふ……報いを受けなさいセイレーン。戦乱の舞踏会はまだ終わらない。さぁ鮮血のワルツを踊りなさい……!」
付近では中破した軽巡キュラソー、弾薬を使い果たした駆逐ジャージー、そしてロイヤルの騎士団団長の妹であり、この状況でも不敵な笑みを浮かべた戦艦デューク・オブ・ヨークが自身の後ろに二人下がらせて砲撃を開始する。
撃破、撃破、大破、中破、撃破。
彼女が勇ましく砲撃をするたびにセイレーンは傷ついていく、しかし弾薬の事を考えれば無駄弾は撃てないのだろう。彼女はキュラソー達を狙う敵、もしくは大物である戦艦や空母に集中攻撃を仕掛けている。
皆戦闘をしつつも無線は使わない、いや最早使う余裕もない。
私達kansenは通常時では傍受を恐れて無線で会話を行うが、そのタイムラグすら惜しい現在私たちは集音モードで会話中だ。
艤装に備わった集音モードでは特定の範囲内であれば、つぶやいた一言でも耳に届く、無差別であるため会話を敵に傍受される危険はあるとはいえ、この状況では最早悠長に無線通信をする余裕すら消えていた。
確実に減っていく弾薬と艦載機。
確実に数は減っているが未だに私たちを囲む量産型セイレーン。
次々とダメージが重なり傷ついていく皆。
そして何よりも問題なのが現在戦闘中のこの海域が鉄血の領海だと言う事だ。
特務部隊の旗艦に命じられた私達は国際法ギリギリの……いや、バレれば確実にアウトと言える非合法な手段を使い、鉄血を目指してバルト海にやってきたのだが、その手段に関してはその事に何も感じないと言えば嘘になる。
しかし、レッドアクシズが仕掛けたこのふざけた戦争を終わらせる為に。
祖国と敬愛する王家の栄光の為に。
そして、何よりもこの特務任務の為に私に付いて来てくれたジャージー、キュラソー、デューク・オブ・ヨーク、ロンドンの信頼に応える為に私は潜み、隠れ、騙し、自分を殺してこの海域に展開した。
そこまでは良かった、船の中に潜みながらも和気藹々と話していた穏やかな時間はまさに今が戦争中である事を忘れてしまう。
穏やか蒼い海を見ながら海鳥達の声を聞き、身分の差もなく皆同じものを食べて語り合う。早く戦争を終わらせて皆でどこかに出かけましょうとロンドン達と約束する程に、それまで殆ど話した事のなかった、艦種も身分も違う私達の結束は高まっていく。
「御武運を」
艤装を積んだ漁船を操舵する、工作員の言葉を受けながら私達はバルト海への侵入に成功、艤装を装備して後は素早く任務を果たし、全速力でカテガット海峡を移動し本国に向かうだけだった。
だと言うのに……最後の最後でまさかセイレーンに襲われるとは。
ヴィシア聖座とロイヤルが交戦した後、鉄血は量産型セイレーンを操れる技術が既にあるのでは?と議論になっていたが、謎に包まれた鉄血の防諜を解き明かす事は出来なかった。
鉄血の罠にハマったのか、鉄血のkansenが現れない以上ただ運が悪かっただけなのか?
疑心暗鬼に駆られながら私は再び敵セイレーン一体を撃破する。しかし、既にキュラソーは中破、ロンドンも小破で弾薬がほぼ尽き、ジャージーに至っては魚雷も全て使ってしまった
私も艦載機を過半数失い、デューク・オブ・ヨークも舵にダメージを受けたのか移動速度が低下している。
最早、当初の任務を果たす事は不可能だろう、だからこそ後退して本国に帰還するしかない。
いや後退も出来るのか?敵セイレーンに囲まれて、戦線に穴を開けて脱出しても敵は猛スピードで追撃してくる。こうして敵に囲まれたのももう包囲を突破して4回目だ。
背中を晒した状態で移動速度も低下した今、果たして皆で帰る事は出来るのだろうか?
鉄血海軍が今にも現れかねない恐怖、任務を果たせず王家の栄光を汚してしまった罪悪感、皆を守らなければいけない焦燥感、そしてなにより皆を死なせてしまうかもしれないと言う自己嫌悪。
正直な話、脱出するための方法は……ある。
速度が特に低下しているが弾薬には余裕があるデューク・オブ・ヨークとキュラソー。
そして私が全ての艦載機を使って敵陣に穴を開けて、彼女達二人に殿を命じて最後まで敵を惹きつけてくれるのであれば……
(何を考えてるんだ私は! )
それはつまり二人を見殺しにするという事に他ならない。
きっとデューク・オブ・ヨークとキュラソーは笑って自身の命が尽きるまで、殿を最後まで担ってくれるだろう。
任務が失敗した以上一人だけでも生きて帰り、ロイヤルにこの情報を持ち帰らなければいけない責務を考えればそうする事が一番なのは理解できる。
でも私は……そうする事が出来なかった。
きっと私は旗艦として失格なのだろう、最後の最後まで皆で生きて帰る事に固執してしまい、冷徹に二人の命を見捨てれば自身も含めた三人は生きて帰れると言うのに、こうして僅かな希望に縋ってただ時間だけが過ぎていく。
本国に通信を送るには敵地のここでは不可能だ、そうしながら再び軽巡ナイト級を二隻撃破するも多勢に無勢。吐き気と寒気と疲労に襲われつつ、いざとなれば冷徹な決断をしなければならないと覚悟を決めければいけないと自己嫌悪に襲われていると。
(んっ……なんだアレは?)
炎に包まれるナイト級の後方、水平線の先にごく一瞬だが何か青く光るものが見えた。
見えてしまった。
「まさか……!」
心臓をバクバクと鳴らしつつ目を凝らしてぼろぼろの艦載機を一機飛ばして見せる、偵察機は既にセイレーンによって破壊されてしまったが、空の上から眺めるだけならこの壊れかけの機体でもどうにかなるはずだ。
「皆!2分でいいから時間を稼いでくれ!調べたい事がある!」
了解の言葉を待つ暇もなく艦載機を上空に放つ。その一瞬の隙を見て敵駆逐艦ポーン級に襲われそうになるも、ロンドンが撃破してくれた。
精神を同調させて上空に飛ばした艦載機の目を使い先程の方向に集中する、そのまま飛ばせば万が一敵に気づかれる恐れがある……敵だなんて言っている時点でもう私の頭の中では確信をしていたがそれでも心情的には否と答えてほしかった。
頼む……私の見間違えであってくれ、私たちに苦難を与えたんだ。不幸の女神がいるのなら幸運の女神だっているはずだ。
しかし。
(あぁ……遅かったのか!)
しかし、現実は何処までも残酷で、不愉快で、どこまでも幸運の女神は私達にはサディストだった。
私の目に飛び込んできたのは……赤と黒で塗装された鉄血の指揮艦。そして直練についているのは艤装に身を包んだkansen。
「皆、落ち着いて聞いてくれ!鉄血が……鉄血のkansenの存在を確認した!! 」
もはや心は絶望に染まり、艦載機のコントロールに失敗し、墜落した艦載機は海に沈んでいく。希望が暗雲に包まれるがそれでも、自分の役目を果たす為に声が掠れる中必死で私は叫ぶ。
皆の声にならないうめき声をセイレーンが放つ砲弾が掻き消してしまう。
最早……これまでか。
「……イーグルに聞きたい、その報告ではなにも分からない。鉄血のkansenのさらなる情報と、その周りには増援のセイレーンは居なかったのか?」
しかし、最早これまでとせめて残りの艦載機を全て使い、私が殿になる事を覚悟する中ただ一人デューク・オブ・ヨークだけは冷静に情報を分析していた。
「敵は……指揮艦タイプが一隻にkansenタイプはニ隻、そして後方に一隻の計四隻、詳しい情報はわからない。ただこっちに向かってくると言うよりもじっと立ち止まっていた」
「セイレーンは?」
「……いない」
「そうか、敵は三隻だけか。なら突っ込むぞ」
「はっ?」
「「「はっ?」」」
彼女のまさかの発言に戦場に間の抜けた声が響くも、デューク・オブ・ヨークは気にせずに砲撃をしながらまた一隻敵を沈黙させると獰猛な笑みを浮かべる。
「敵がセイレーンの近くに居ないのであれば、敵が操っている可能性は低いはず。
今回の量産型セイレーンは恐らく鉄血すら予想不可能な偶発的な出現か、仮にある程度制御に成功していようが周辺をセイレーン部隊で固めていないと言う事は、タクトを振ろうにも完全に制御できずにある程度の距離を取らない限りは鉄血にも制御できない凶暴なネメアーの獅子なのだろう」
「ねっ?ネメアー?えっえっと…」
ジャージーが困惑する中、デューク・オブ・ヨークの言わんとせん事を頭の中で思考する。ネメアーの獅子は伝説ではヘラクレスに討伐された人喰いライオンだ、多くの英雄や人々を食い殺した化け物。それをセイレーンで表し、そして鉄血のkansenの付近にはセイレーンは存在しない……つまり。
「鉄血が制御できない、もしくは鉄血にも予想外な量産型セイレーンを……押し付けるのか?」
「その通り。勿論敵のkansenは攻撃してくるがただ避けるだけに徹していれば死ぬ事はないだろう。後は鉄血に任せて我々は戦線を離脱する……勿論、私の予測すら鉄血の罠の可能性もあるが、どうする?旗艦イーグル? 」
じっと見つめてくるデューク・オブ・ヨークの目は絶望にそまっておらず爛々と輝き、その姿は眩しさ感じてしまう。全く諦めないその姿は彼女が騎士団団長、キングジョージ5世の妹である事を物語っているのだろうかそれとも彼女の素質なのだろうか?
鉄血が来てしまった以上誰かが殿になっても生き残る可能性は低くなっている、少なくてもこのままではジリ貧だ。
なら答えは……
「特務部隊の皆に告げる!これより私が戦線に穴を開け、その隙に全速力で私達は鉄血艦隊に突撃する!鉄血は構うな!攻撃は避けろ!なんなら魚雷も主砲も全て海に捨てて良い!ただセイレーンを押し付けて全力で撤退する!」
出来れば私ではなくデューク・オブ・ヨークが旗艦であれば良かったのに、なんて内心想いつつもただ皆で生き残る為に私は決断する。鉄血の部隊が増えていく可能性もあるのなら最早迷ってる暇はない、直ぐに行動を起こさなければ……!
「ジャージーは傷ついたキュラソーの護衛を!ロンドンは速度の落ちたデューク・オブ・ヨークの直練に!あと2分後に私が戦線に穴を開ける!敵の増援を考えればもう一か八かの賭けだ!それでもこの命……私に預けてくれ!」
「「「「了解!!」」」」
信頼する仲間達の返答が耳に響く中、残り少ない艦載機を集中させて敵の駆逐、軽巡が集まっている箇所を狙い一気に攻撃の準備を図る。運命の女神がサディストで有るのなら私達はそれすら切り捨てて進むしかない。
ただクイーン・エリザベス陛下と王家の栄光の為に、そして生きて皆で本国に帰還する為に。
最後の賭けは今まさに始まろうとしていた。
解説
・ヴィシア聖座
宗教国家であり鉄血公国の隣国であるアズールレーン所属するアイリス教国は、鉄血と真っ先と戦端を開いて小競り合いとなる。その最中、第一次セイレーン大戦中から親鉄血融合派である、ヴィシア聖座と呼ばれる派閥が多数派となりつつ政権を握る。
まともに鉄血と交戦する事なく国名をヴィシアと変え、宗教的にも重要な地域でもある聖堂と呼ばれる聖地を手中に収め、枢機卿リシュリューの妹でもあるリシュリュー級二番艦ジャン・バールを筆頭に多数のアイリス所属のkansenを多数取り込み、彼女達はレッドアクシズと行動を共にする事となる。
ただし鉄血から信頼されずに鹵獲(したとされている)セイレーン艦を使って監視され、事実上国家としての主権はほぼ失いながら…
元ネタはドイツ敗北後に傀儡政権として成立されたフィリップ・ペタン将軍率いるフランス本土を中心とした勢力ヴィシーフランス
・自由アイリス教国
一方政変にて敗北した旧アイリスと呼ばれる勢力は多数の軍人、政治家、宗教家、民間人を引き連れてロイヤルに亡命。後述するメルセルケビール海戦にて枢機卿リシュリューが勢力として自由アイリス教国の建国とアズールレーンの再加入を宣言。本土の奪還とレッドアクシズとの交戦を開始する。
事実上ロイヤルの傀儡政権となりメルセルケビール海戦では元同胞であるヴィシア聖座がロイヤルに攻撃される様子を黙認せざる得ない状況となりながら……
元ネタはドイツに敗北後、アフリカにて枢軸国との徹底抗戦を宣言し、最後は首都パリを奪還したシャルル・ド・ゴール将軍率いる自由フランス
余談だがゲーム内にリシュリューが正式実装されるまでの長い間、この時の演説の内容と話の通じない雰囲気から彼女は「TSド・ゴール」「狂信者」「クソコテ」「例のBGM」と言われた事もある。
・メルセルケビール海戦
作中イベント「光と影のアイリス」前半にて描写されたロイヤルとヴィシアの海戦
レッドアクシズの軍門に降ったヴィシア、そのアフリカ駐留艦隊が配属されていたケビール港に、ロイヤル艦隊は摂政フッド、空母アークロイヤルを中心とした特使を派遣。鉄血が監視として配属されていたとされる量産型セイレーン部隊を撃破し、ヴィシアとの交渉を開始する。
しかし、その内容は事実上アズールレーンへの全面降伏か死か今すぐ選べという内容であり……ヴィシア所属のケビール港代表者である巡洋戦艦ダンケルクはヴィシアは現在消極的にレッドアクシズに参加しており事実上中立、ロイヤルが手を出さない限りは我々は鉄血と行動を共にしないと宣言するも、ロイヤル艦隊はこれを拒絶、開戦となりヴィシア艦隊は敗北し、ダンケルク達は負傷しつつも撤退。これによりヴィシアは強烈な反ロイヤル国家となり、レッドアクシズと行動を共にする(道しか残されていなかった)
同時にこの海戦の後に、枢機卿リシュリューはロイヤル本島にて自由アイリス教国の再興とアズールレーンへの再加入を宣言する事となり、アイリスは光と影に分かれ、親友や姉妹同士で争い合う悲劇的な戦いに繋がるのだった。
後に語られたイベントではロイヤルは事実上鉄血の傀儡国になったヴィシアの海軍力を恐れ、本国の防衛や国益の為とはいえ元同盟国であるヴィシアを蹂躙する戦いに全く乗り気ではなく、作戦参加kansenや実行の許可を与えた女王クイーン・エリザベスも含めて全て後悔、後にヴィシアに特使を派遣し謝罪を行うも全てが遅く、関係者全てに辛い影を落とす事になる。
元ネタは史実でも行われたイギリスとヴィシーフランスとの間に行われたメルセルケビール海戦、その戦いの後にヴィシーフランスはイギリスに不信感を抱くことになり、戦術的にはイギリスが勝利するも、戦略的にはドイツとヴィシーフランスの接近となり敗北。イギリス海軍は後にこの作戦を振り返り、『史上最大の失敗であり我々は恥であると』と後悔する事になり、ドイツとヴィシーフランスの繋がりを深める結果になってしまった。
・ロイヤルの旗艦が無能なのではなく完全に運が悪かった。
活動報告にて裏話として、ダイス原作スレにおいてどのようにしてロイヤルが登場したのか書かせて頂きます。本編には関わりませんがなぜこの様な展開になってしまったのか気になる方は是非ご覧ください。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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ロイヤル最大の敵
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