鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第四部 『変わりゆく世界』
第四十三話 情報戦争


 鉄血公国の海軍の総本山がキールというのなら、政治的な役割を担う首都ベルリンはまさに鉄血の中枢であった。その首都に住まう者達もまた、鉄血の重鎮達であり、軍事国家であり絶対王政の鉄血公国の未来を担う貴族もまた国家の未来を左右する存在だった。

 

 ビスマルクは今まさにその国を背負って立つ者に相応しい威風堂々とした軍服を見に纏い、勇敢な佇まいで国家のNo.2にあたるマクシミリアン・フォン・バーデン宰相に敬礼を行っていた。バーデン宰相は既に70歳を超えているというのにその目は若々しく活力に満ち溢れており、背筋もピンと伸びて、その姿勢からは年齢を感じさせない程だ。

 

 ビスマルクの後ろでは彼女の姉妹艦であるティルピッツが凛とした表情で立っている。彼女もまたビスマルクと同じくこの国の未来を担う一人であろう。

 

 そんな二人を前にしてバーデン宰相は静かに語りかける。

 

「ビスマルク……貴公の案は了承した。20年以上にも渡り産まれてからずっと国家に、同胞に、胸に煌めくライヒスアドラーに全てを捧げてきた貴公が決めた事なのだから私も全面的にサポートを行おう」

 

 

 

 宰相の言葉には慈愛に満ちた優しさがあった。しかし同時にどこか寂しげでもある。ビスマルクはその言葉を受けて一瞬だけ目を伏せたあと、真っ直ぐな目線を返す。

 

 

「宰相閣下。作戦の計画案は第三段階に別れていますが準備は既に終了しています。サディア帝国と共にロイヤルを追い詰め、そしてこの戦争に勝利する為の計画を我々は命をかけて任務を遂行し、この戦争に終止符を打ちます」

 

 

 ビスマルクの決意を込めた宣言を聞きながら、バーデン宰相はゆっくりと椅子に深く座り込む。kansenであるビスマルクは陣営代表として国家のために忠を尽くし、常に鉄血にその身を捧げて来た。そして彼女は常に公国を良い方向に導くための政策を打ち出し続け、その手腕を発揮していた。

 

 

「ビスマルク……一つだけ、貴公に問いたい。貴公はもしやこの戦争を自身の手で引き起こした事に今も罪悪感を抱いているのではないか? そのように見えてしまったのだ」

 

 バーデン宰相は心配そうにビスマルクを見つめると、少しだけビスマルクはピクリと肩を震わせる。バーデン宰相が言う通り鉄血公国がセイレーン技術を巡る争いに反発してアズールレーンから離脱してレッドアクシズを形成。そして世界を巻き込んだ大戦のトリガーを起こしたからこそ、ビスマルクは常に責任をとって鉄血の未来を救うために。あのセイレーンに見せられた破滅的な未来を、ロイヤルに蹂躙され全てを奪われる絶望の未来を回避するためにあらゆる手を打っていた。

 

 

 しかし、その破滅の未来の真相を知るものは数少なく、バーデン宰相はビスマルクからその事実を伝えられた一人であった。

 

 彼女のカリスマ性や政治手腕は優秀なものであったが、ここまでビスマルクが鉄血公国で軍事的権力を持つ事が出来たのはバーデン宰相。辺境伯の地位を持ち、公国の宰相であったバーデン宰相がビスマルクの後ろ盾となった影響も大きいと言えるだろう。

 

 

 そう、バーデン宰相は必死に未来を変えようと足掻いてレッドアクシズを形成し、経済制裁とあの『事故』を受けて公国内の軍事だけではなく食糧事情の改革の為働き、今もサディアという友邦を襲い、同胞を傷つけたロイヤルとの戦争を終わらせる為に戦い続けるビスマルクの根底が……責任感、そしてこの戦争を引き起こした罪悪感がある事を知っていた。

 

 ビスマルクはそんなバーデン宰相の言葉に対して小さくため息をつくと、静かに口を開く。

 

 

「宰相閣下……私は自分の選択に後悔などありません。確かにこの国を、いえ、世界の未来を考えれば、もっと別の選択肢もあったかもしれません。ですが……」

 

「勘違いしておるようだなビスマルク。私は貴公を責めてはおらぬよ。むしろ貴公のお陰で鉄血という国家はセイレーンと言う恐怖に対抗する為の術を会得して、後一歩で戦争を勝利に導く為の青写真を示してくれた。貴公を責めるものは最早この宮廷に、そしてこの鉄血公国にはおらぬよ。だが……私には貴公が焦っているのではないか?死に急いでいるのではないかと思えてならぬのだ」

 

 

 ビスマルクはその言葉を聞いて俯く。その様子は何時もの彼女らしくない弱々しいものだった。70歳を超える年齢となっても大国の宰相を務め上げ、宮廷抗争を生き抜いて来たバーデン宰相にとって、ビスマルクの内面を推し量る事は容易かった。

 

 

「……宰相閣下の仰る通りですね。私の行動原理はただ一つ。祖国を、同胞を守る為ならば如何なる犠牲も厭わないというものでした。それが例え我が身であっても、です」

 

「姉さん…!」

 

「知っておるよ。かつて貴公が産まれる前から私はそうして公国に尽くして来た軍人や貴族を見てきた。皆とても誇り高い者達だった。しかしビスマルク……そんな忠義を私に語った皆は全員、私を残してヴァルハラに旅立ってしまったのだ。あるものは戦場で、あるものは反対派による暗殺で。ある者は味方を救う為にセイレーンに突撃して自爆して果ててな……そして、私だけが生き残ってしまった」

 

 

 バーデン宰相は疲れたように笑みを浮かべると窓の外に広がる海を眺めていた。その瞳に映るのは一体何なのか。それは誰にも分からない事だ。ビスマルクもまたそれ以上は何も語らず、静かに黙って立っていた。暫くすると、バーデン宰相はふぅっと息を吐きながら椅子に座り直す。

 

 

「死に急ぐなよビスマルク。貴公はこの国にまだまだ必要な存在だ……同胞の為に忠を尽くし、その身を捧げるのは美徳と言えるだろう。だが同胞の為に常に尽くし続けて自身の命を蔑ろにした者の寿命は短い。少し前は過労で倒れたと聞いたが貴公はまだヴァルハラに行くような歳ではない」

 

「私は……」

 

「もう少しだけ肩の荷を下ろして気楽に生きて見るのも悪くはないのではないか?同胞の為に生きるだけではなく、自身がこの戦争が終わった先に何をしたいのか?を考えるのだ。貴公の事だからロイヤルからの圧力の解放や同胞の笑顔しか考えてなさそうだが、個人で考える事も大事だぞ?」

 

「……分かりました。少し、考えます」

 

 

 ビスマルク達は小さく頭を下げると部屋から出て行った。ビスマルクが出て行ってから、バーデン宰相は大きくため息をつくと天井を見上げる。

 

 

「本来は老人である私が戦争の苦悩を背負うべきだったと言うのに、彼女に全ての負担をかけてしまったな……もしも、セイレーンが現れなければ、kansenが産まれなければ今こうして戦争を終わらせる為に悩んでいたのは私であったろうに……」

 

 

 バーデン宰相は内心では人類と言うものは闘争を捨てられないという性悪説を信じており、例えセイレーンやkansenが現れずとも何れはこのエウロパ大陸は世界を巻き込む戦争が起きていたと信じていた。そうなれば今この戦争を終わらせる為に苦悩していたのは自分ではないか?と今でも考えてしまう。

 

 

 

 マクシミリアン・フォン・バーデン公国宰相。

 

 

 

 本来の、セイレーンが出現しなかった『別の世界』では最後のドイツ帝国宰相としてイギリスやアメリカが率いた連合国との休戦協定を担当し、最後まで帝国を、帝政を存続させようともがき、挫折し、失意の内に余生を過ごしたとされる男はそんな事を知る由もなく、この世界ではビスマルクに全ての重荷を背負わせる事に悲しみを抱えていた。

 

「ビスマルク……貴公はいつになれば個人の幸せについて考えられるようになるのだ……その忠誠と献身は美徳ではあるが、君自身も幸せにならねば誰も報われぬであろうよ……」

 

 

 バーデン宰相の、いや。一人の疲れ果てた老人の呟きを聞くものは誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄血公国の全ラジオやモノクロテレビから。いや、サディアを始めとする親レッドアクシズを表明する国家では現在多くの国民が鉄血公国の陣営代表ビスマルクからの緊急放送に耳を傾けていた。セイレーン技術の応用によって作り出された最新鋭のホログラム機能によって鉄血では黒い軍服を見に纏った金髪碧眼の美女、鉄血の陣営代表ビスマルクが演説を行っている。その演説は反レッドアクシズを表明する国家に国際チャンネルなどを通じて生放送され、ドーバー海峡を超えてロイヤル王国にもリアルタイムで彼女の言葉が伝えられるのであった。

 

 

「我々は平和を望んでいた!!レッドアクシズの結成を裏切り者と罵る方々もいるだろう!だが、我々鉄血公国は人類の防衛の為に一度も他国に侵略せず、ただセイレーンという人類共通の敵だけにその砲火を振るってきた!そう!アズールレーンと理念は違えど、ただ戦い続けてきたのだ!蒼き航路を取り戻す為に!我らの安息の海を取り戻し、黒鉄の力と熱き血潮もって勝利をもたらす為に!明日を!未来を!未来の子供達に残酷な将来を送らせない為にも!我々はずっと戦い続けてきたのだ!」

 

 

 演説の内容は何処か悲痛さを感じさせるものであった。ビスマルクは一度深呼吸を行うと、まるで何かを振り払うかのように拳を強く握り締める。その様子は首都ベルリンからマスコミによって生中継されていた。そして、彼女は大きく息を吸い込み……ビスマルクはマイクを力強く握ると、叫ぶように声を張り上げた。

 

 

「だというのにクイーン・エリザベス達はただ自国の利益を追求し、優雅や栄光という仮面を被り、その裏でどこまでも邪悪かつ卑劣な行いを続けてきた!メルセルケビール海戦では友邦ヴィシア聖座の防衛艦隊に到底不可能な降伏しろと言うべき最後通牒を送り暴力によって多くのkansenを傷つけたのだ!そしてあと一歩でヴィシア聖座の騎士ブルターニュは襲撃艦隊によって死ぬ所であった!」

 

 

 同時にスクリーンでは傷ついたヴィシア艦隊のkansen達のボロボロになった写真が映し出される。ビスマルクの言葉と同時に報道陣が一斉にフラッシュを焚き始め、カメラのシャッター音が鳴り響く それらの写真はメルセルケビール海戦直後に撮られたものであったが、ジャン・バールによって検閲され、公開される事はなかったものであった。ボロボロになった痛ましい騎士達に泣きそうな駆逐艦と思わしき子供の姿。そして騎士ブルターニュの傷は生々しく、誰が見ても彼女が死にかけなのは明らかだった。

 

 

 陣営代表であり実質的な国家指導者でたるkansenジャン・バールは国民にメルセルケビール海戦の真実こそ公開したものの、この写真を各国に公開する事は現在の分裂したヴィシア聖座の弱体化を同時に公開する事になり、同時に国内が報復の怒りで統制が難しくなるなどを危惧し断腸の想いで封印していた。

 

 しかし、鉄血からのロイヤルへの報復の為の、外交攻勢の為にジャン・バールは苦い顔をしながらも鉄血にこの写真の提供を決意したのだ。ホログラムから。モノクロテレビから。そしてビスマルクの後ろの壁に投影されている大型モニターからも次々と写真が表示される。鉄血国民、サディア国民の多くはそれを見て怒りの声を上げ、ヴィシア正座の国民は初めて見る痛ましい写真に拳を握りしめる。

 

 

 当然中立勢力や親アズールレーン勢力の人々にも動揺が走り、放送を見ていたロイヤルのクイーン・エリザベスなどはTカップを放り投げ、即座に総司令部に戒厳令の為に動き出す、

 

 

 

「そう、クイーン・エリザベス達はセイレーンから人類を守る為に戦っていたヴィシア海軍に先制攻撃を仕掛けたのだ。仮にこのボロボロになったヴィシア海軍がその後セイレーンに襲われていればヴィシア国民の多くが犠牲と成ったであろう事は想像するに難くない。それほどまでに無慈悲に、卑劣に、クイーン・エリザベスは自国の利益を優先し、さらに亡命政府のトップであるリシュリュー枢機卿を脅し、傀儡国とする為に自由アイリス教国と名乗る陣営を作り上げるように要求したのだ!クイーン・エリザベスは!!同じ神を信仰する国民同士を自国の利益と利潤の為に殺し合いを強要したのだ!!」

 

 

 

 怒りに任せてマイクに叫ぶビスマルク。しかし、彼女は本気でリシュリュー枢機卿がクイーン・エリザベスの命令を受けて傀儡君主となる事を望んだと信じてはいなかった。そしてビスマルクはロイヤルを非難する言葉を繰り返し、聞く者たちの耳に届くように伝えているのだが、一度としてもこの演説内でアズールレーンやその他国家を非難することはなかったのだ。

 

 全てはロイヤルに国際的な非難を集中させ全世界の敵に、物語の上でわかりやすい悪役になってもらう為の布石であり、彼女はこの演説を持ってアズールレーンとレッドアクシズというイデオロギーや技術を巡る戦いをロイヤルという卑劣な国家を悪として演出する事で、正義の味方のレッドアクシズと悪のロイヤル王国という構図に変えようとする為に、あえて自由アイリス教国はロイヤルの被害者である事を強調しているのであった。

 

 そしてロイヤルという言葉を押さえ、クイーン・エリザベスだけを非難する事で、ロイヤルでの彼女の築き上げた全てを崩壊させる為の布石とする。それがビスマルクの真の狙いであり、ビスマルクの言葉は続いていく。

 

 

「それでも、まだクイーン・エリザベスはこう言うだろう。我々は既に宣戦布告を行っており交戦状態なのだから非難される謂れはないと。軍人同士で戦うのは交戦国としては当然であると……だが、この通信を聴いて欲しい」

 

 

 

 

 

『えー此方ー鉄血艦隊ー!貴方達ー!所属不明の一団はー!我らの領海を侵犯している可能性があーるー!なのでー!すみやかにー停船を行いー!武装解除をしてー!此方の誘導にしたがいなさーーい!こちらの指示に従いなさーーい!』

 

 

 

 

 ビスマルクが黙り込むとノイズ混じりに拡声された青年の声が演説台から響き渡る。だが、その停船勧告は砲撃と思われる轟音と共に掻き消されてしまう。そう、それはバルト海海戦で指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストが咄嗟の判断で行った自分達の正当性を示す為に行ったイーグル達への嫌がらせも兼ねた大音量通信であった。

 

 

「この通信はバルト海で行われた所属不明艦隊に停船勧告を行うとある指揮官の映像記録であるが、直後に彼らは謎の集団によって突然の砲撃によって交戦状態に陥ってしまう。セイレーンも出現して突如行われた三つ巴の戦いは我ら鉄血艦隊が勝利し、その日着任したばかりの指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストは紳士的に慈悲の心を持ってハーグ条約に則り謎の集団を降伏させる事に成功する……だが、その集団は!ロイヤルネイビーであったのだ!」

 

 

 再びモニターには二人の写真が表示される。桃色の髪を伸ばして赤い軍服に身に纏った美女は縄で縛られてこちらを睨みつけており、ボロボロのタカの羽根の様な空母艤装を身につけた美女は手を上げながら武装解除を行なっている。その二人の軍服の装飾は赤と金の色彩がそれぞれ散りばめられており少しでも詳しい人なら彼女がロイヤル出身のkansenである事を即座に理解できただろう。

 

 

「捕虜となった五人のkansenは全てキールの街を襲撃し、こちらの唯一の空母kansenグラーフ・ツェッペリンを爆殺する為に派遣された所、間抜けにもセイレーンに襲撃を受けて交戦状態となり、そして我々に発見されたと言う事がこの戦いの真実であった……そして、桃色の髪の戦艦デューク・オブ・ヨークはクイーン・エリザベスの側近である騎士団長キング・ジョージ5世の妹であり、空母イーグルは最古参のロイヤルkansenであった。そう……彼らは、もしもセイレーンがいなければ!!クイーン・エリザベスの命令を受け、我が祖国の領土を焼き払い!同胞の命を奪うという外道な行為を行っていたのだ!!」

 

 

 怒りを露わにして叫ぶビスマルクであったが、彼女の言葉を否定するものは誰もいない。誰もが彼女と同じ気持ちであり、同じ思いを抱いていたからだ。マスコミも、国民と、他国の国民も、そして放送を聞くロイヤル出身者でさえその非道の怒りを理解していた。

 

 

 そんな彼らの視線が集まる中、ビスマルクは更に演説を続けていく。

 

 

「グラーフ・ツェッペリンの暗殺のために民間人の命すら焼き払う可能性を示したクイーン・エリザベスの野望は指揮官ヴァイスクレー・ヘルブスト達の奮戦によって阻止する事に成功した。しかし、もしも成功していたのならキールの街は阿鼻叫喚のこの世の地獄となっていた可能性も存在していた……そう、クイーン・エリザベスは礼儀と優雅と栄光を口にしながらも民間人への虐殺行為の命令書に鼻歌混じりにサインをしていたのだっ!!」

 

 

 先程よりも大きな怒号が鳴り響く。そしてそれは次第に大きくなっていき、ビスマルクの言葉に対する同意の声が多くなっていく。ビスマルクはその反応を確認すると一旦言葉を区切り、深く息を吸い込んでから再び演説を始めていった。

 

 

 その姿を見守る各国の陣営代表達の反応は様々だ。

 

 

 

 

 

 

「ちっ……始まったか」

 

 

 ジャン・バールはこの演説によって、最早ヴィシア聖座は嫌でも振り回され、サディアと鉄血と地獄まで付き合う事になるだろうと理解していた。

 

 

 

 

 

 

「リットリオ、マルタ島に再び戒厳令を。暴動に発展する可能性もありますので注意してください」

 

 

 ヴィットリオ・ヴェネトは広間にて集めた国民の怒りを煽りつつ、元ロイヤルの領地であったマルタ島の国民を暴動から防衛する為に、更に多くの駐留軍を派遣する事を決意する。

 

 

 

 

 

「ええい!!情報はまだか!!江風!本国に連絡を!追加の情報をまとめてこちらに送るように伝えよ!」

 

「同志チャパエフ、これから忙しくなります。私は人民議会には少し遅れるように連絡して下さい。同志長門と共に私はここで待ち続けましょう」

 

 

 ソユーズと長門は滞在先の国境付近のホテルにて、現在演説中ではあるが重桜ではラジオや映像の電波は届かず、もどかしい思いをしながらも詳しい情報を入手する為に24時間体制で待ち続ける事を決意。

 

 

 

 

 

「勝手な事を言って……貴方達はまさか……!」

 

 リシュリュー枢機卿は勝手に自国がエリザベスに傀儡となる事を強要されたと発言するビスマルクの意図を読み解こうとしており。

 

 

 

 

 

「あぁ!!もう!!!ウォースパ……じゃなかった!!ジョージ!今すぐ幹部級を集めなさい!これは女王命令よ!!それと議会にも出る事になるだろうから車の手配を!!」

 

 

 そして、ロイヤルの陣営代表クイーン・エリザベス本人は怒りの余り机を蹴り飛ばしながら緊急会議の開始を宣言する為に重鎮達を集め始めていた。

 

 

 世界はたった一人の演説によって変わろうとしている。

 

 

 

「そしてつい先日!友邦サディア帝国はこの戦争を終わらせるための一歩として地中海のセイレーン前哨基地の攻略の為にロイヤルネイビーと秘密裏に手を組み、その攻略をもって地中海の安全と和平への道の第一歩とするべく動いた……我ら鉄血艦隊もサディア帝国からの密命を受け、攻略作戦を援護すべく先程の指揮官達を救援艦隊として送り込んだのだ。全ては平和のため……そう、戦争を終わらせてこれ以上の悲劇を生み出さないために!」

 

 

 演説をしながらもビスマルクは自嘲する。本来はサディア帝国との関係強化の為に送り込んだのであり、彼女達はロイヤルの事は知らなかったのだから。同時にヴェネトが台本を描き、ヘルブスト指揮官が修正を行った地中海の演劇はレッドアクシズの関係強化に大きな影響を与えたと彼女は内心感謝しながらも表情に怒りを秘めて、見入っている者達の感情を揺さぶる為に怒りをぶつける。

 

 

「だが!!サディア帝国の平和の願いをロイヤルは踏みにじったのだ!クイーン・エリザベスの命を受けたイラストリアスの艦載機は夜間の出撃を待つサディア帝国の軍人、kansen達が集うタラント港に殺到し、夜間爆撃によって命を奪おうとしていた!!クイーン・エリザベスは!!我らの平和の願いをまたしても踏み躙り!民間人も多数存在するタラント港を火の海にしようとしていた!爆撃機の大群が押し寄せ、イラストリアスは数万人以上の民間人ごとタラント港の命ある者たちを焼き殺そうとしたのだ!だが、その時!!」

 

 バン!!とビスマルクが左手で机を叩いたと同時に、大型スクリーンでは次々と白衣の空母kansenイラストリアスから発艦したと思わしき爆撃機が迎撃される様子が描かれている。サディア帝国のkansenたちが上空に対空砲を向ける写真の数々。そして黒衣を見に纏った鉄血艦隊の空母グラーフ・ツェッペリンが放った艦載機の数々がイラストリアスの爆撃機を粉砕していく様子が映し出されていく。

 

 中には動画も混じっており、火の塊のとなったロイヤルの艦載機が次々と海に墜落していく様子が描かれている。そして動画内では若い青年らしき人物の広域通信が電波にのってエウロパ大陸を駆け巡る。

 

 

『この海域に存在する全てのサディア海軍に告げる!こちら鉄血艦隊!これより戦闘に参戦する!!!友邦サディアを襲うロイヤルの『卑劣な騙し討ちによる奇襲攻撃』を防ぐための迎撃行動を行う!繰り返す!こちら鉄血艦隊!これより戦闘に参戦する!!』

 

 それはまさにサディア帝国の国民にとっては救世主の様に思えたであろう。鉄血艦隊はサディア帝国を卑劣なロイヤルの爆撃から守る為に必死に戦っていると世界中に発信していった。如何にクイーン・エリザベスが誤魔化そうとしても、この映像では誰が正義であり、誰が悪であるのかは明白であった。

 

 

 

 こうして、世界は真実を知る事となった。

 

 

 

 クイーン・エリザベスの狂気の野望を。

 

 

 

 鉄血の同胞を守る為に命をかける献身的な戦いを。

 

 

 

 サディアと鉄血が一つとなり、侵略者ロイヤルに対抗する為に心を一つにしたという事実を。

 

 

 

『錨をあげよ、サディアの戦士達よ!!侵略者から祖国を守る為にその力を貸して欲しい!!臆するな!!躊躇うな!!そして後ろを振り向く必要はない!!!我らの後ろには鉄血の同胞が……フローテ・ディ・サルヴェッツァ(救国の艦隊)がついているのだから!!国民の皆様にはあと少しだけ耐えて頂きたい!!次の朝には朝刊に華々しい記事を大々的に載せる事を総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトは誓いましょう!!サディア帝国に栄光あれ!!!サディア海軍!!全力を以て……進軍せよ!!」

 

 

 その全てを。言葉ではなく行動によって示し、世界にサディアを救おうとした英雄達の雄姿を知らしめたのである。

 

 そして、映像の最後には捕虜となり、剣を取り上げられた無様なクイーン・エリザベスの姉妹艦であるウォースパイトと、襲撃犯であるイラストリアスが縄で縛られて連行されていく姿が映っていた。睨みつけるようにカメラに視線を送るウォースパイトと、ずぶ濡れとなったイラストリアスの写真はこの戦いの勝利者が誰であるかを如実に表していた。

 

 

 

 こうして、地中海の海戦は終結を迎える。

 

 

 後にサディアの人々はこう語り継ぐことになる。

 

 

 サディア帝国と鉄血艦隊の活躍により、卑劣な奇襲攻撃を仕掛けようとしたロイヤルの企みは阻止され、地中海は守られたのだと。

 

 そして、サディアを救った英雄達は今。『救国の艦隊』という名とロイヤルの悪評と共に今、ビスマルクによって知れ渡る事になる。

 

 

 

「我らの指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストは卑劣なロイヤルの野望を打ち砕いた!鉄血艦隊は奇襲攻撃を仕掛けるイラストリアスを撃破し、戦いはヴィシア聖座の介入もあってレッドアクシズの勝利に終わり、戦死者は0となったのだ……そう、0だ!!こちらの攻撃を受けて轟沈したイラストリアスを救うべく、ヘルブスト指揮官は地中海に飛び込み!彼女の命を救う事に成功する!イラストリアスが多くの人々を殺戮しようとする中、ヘルブスト指揮官は紳士的かつ人道的に!そして勇気ある行動をしたのである!諸君!彼等の名は歴史に名を残すであろう!エリザベスという個人の邪悪なる野望を討ち滅ぼし!平和を守り抜いた偉大なる男の事を!彼こそ!!卑劣なエリザベスの野望を砕き!!人々を救い!!三つの国をまとめ上げるきっかけを作った真の愛国者である!!」

 

 

 ビスマルクの言葉が響き渡り、歓声が湧き上がる。その声の中には涙を流す者達の姿もあり、誰もがビスマルクの演説を聞いて麻薬のような多幸感に包まれていた。現代に生きる英雄若きヘルブスト指揮官の行動は鉄血国民の民族的感情を刺激し、そして、ビスマルクが最後に言った言葉は人々の心に深く突き刺さり、ある者は涙を流しながら熱狂している。

 

 

 

 

 それはまるで宗教の様であった。人々は熱狂する。英雄の活躍に拳を振り上げて陶酔していく。

 

 

 

 ビスマルクの口から語られる、一人の男の英雄譚はまだまだ続く。ヴィシア聖座はマルタ島から国民を置いて逃げ出そうとしたロイヤルネイビーの軍人達を捕縛する事に成功し、ウォースパイトもヘルブスト指揮官によって降伏する事を選択する。ロイヤルにとって悪夢のような、そしてレッドアクシズにとっては英雄譚とも言える彼の活躍は多くの人々に記憶される事になるだろう。本人は一人でラジオを聴きながらイラストリアスを救った一連の出来事を思い出して微妙な顔をしているのだが。

 

 こうして演説も佳境に入り、人々はロイヤル……いや、エリザベスの卑劣な野望と、若き英雄の功績を示した演説を最後まで聞く為にラジオ、白黒テレビ、ホログラム投影機など様々なメディアを通して視聴を続けるのだった。

 

 

 

「サディア帝国の言葉を借りるなら彼らは救国の艦隊と呼ばれ、両国は、そしてヴィシア聖座も加えた3国はロイヤルの非道に怒りを覚えつつセイレーンに対抗するために真の同胞となり得た。全てはあの戦いを必死に戦い抜いた戦士達の行動の結果であり、その中心に若き英雄が存在したのは言うまでもないだろう。そして指揮官が本国に帰還して間もない時期に悲劇は……起きた」

 

 

 

 突如スクリーンには若い、私服姿の青年の姿が映し出される。しかしその青年の表情は苦痛に歪んでおり、足は血だらけとなっていた。ズボンの一部は銃弾によって切り裂かれており鮮血に染まった足が露わとなっている。その傷跡は生々しく、彼がどのような状況で負傷をしたのかを物語っていた。

 

 

「この映像を見た者達にはわかると思うが彼はヘルブスト指揮官である。そして彼の傷は銃撃によるものであり、太ももに放たれた弾丸は彼の足を鮮血に染め上げ、その青いアザは更に足で踏みつけられたものである……彼はサディアでの激戦を終えて、鉄血に帰還後。休暇を過ごしていた所を何者かに襲われたのである……」

 

 

ビスマルクは拳を強く握りしめ、歯を食いしばりながら言葉を続けていく。

 

 

「襲撃者は正体不明の武装集団であり、ヘルブスト指揮官はその凶弾に倒れた……我々は彼に救われたというのに、だ。そして我々は海に逃亡しようとする犯人を追い詰め、捕縛する事に成功した。これが……襲撃犯の姿だ」

 

 

 スクリーンには血だらけになった太ももと並び、金髪と銀髪のメイド服姿のボロボロの艤装を装備した女性二人が捕縛される様子が描かれていた。そして、この放送を見ているロイヤル国民は即座に理解しただろう。彼女達はエリザベスの配下であるkansenロイヤルメイド……つまり、ヘルブスト指揮官を襲撃したのはエリザベスの息が掛かった者だという事に。

 

 

 

「シェフィールドとエディンバラ……ヘルブスト指揮官を襲撃し、彼を瀕死の状態に追い込んだのはこの二人だ……そう、エリザベスは、休暇中の英雄を暗殺する為に暗殺者を派遣し、報復を……我らの!!!!同胞を!!!殺害しようと企んだのだ!!」

 

 

 

 その瞬間、ビスマルクはそれまで以上に。彼女の人生で最も声を上げたと断言出来るほどに叫ぶようにエリザベスへの憎悪と怒りを口にする。その声はマイクを通じて世界中に響き渡り、同時にエリザベスの悪行は世界中へ発信された。

 

 ビスマルクの演説はまだ終わらない。しかし、彼女が次に口にした言葉は人々の耳には届くが、それより人々はビスマルクの顔から目が離せなかった。

 

 

 

 なぜならば、彼女は怒りに震えて涙を流していたからだ。

 

 

 

 彼女はあくまでこのプロパガンダは演説であり、エウロパ大陸の人々にロイヤルは悪であり、鉄血は、レッドアクシズは正義であると示すためのものであると割り切って演技をするつもりであった。しかし、彼女は自然と暗殺未遂事件を公表する時、涙がその美しい青色の瞳から流れたのであった。それはどのような事情とはいえ鉄血の為に忠誠を尽くした同胞が後一歩で殺されかけたと改めて理解したから。

 

 

 そして、エリザベスのスパイによって彼の命が後一歩でヴァルハラに導かれそうになったからであった。怒りと悲しみからくる感情の昂りはビスマルクも知らない内にそのプロパガンダに更なる説得力を与えるのであった。

 

「休暇中の指揮官を暗殺者二人は襲撃するも失敗に終わり、指揮官は重症となる。そして、我々は後日海上より逃亡しようとするスパイを捕縛、或いは抹殺する為に部隊を派遣したが、ヘルブスト指揮官は無理を押して鉄血軍人の責務を果たす為に部隊を率いて出撃した。その目的はスパイ二人を捕縛する為だ……そう、自分を傷つけた暗殺犯にすら指揮官は慈悲を与えたのである」

 

 

 ビスマルクはそこで一度言葉を区切り、一呼吸置く。そして再び口を開くと同時に手にしていたマイクを投げ捨て、懐に隠し持っていた拳銃を取り出して空中に向かって一発発砲した。

 

 

 その音は会場の隅々まで届き、その光景はまるで映画かドラマのワンシーンのように見えていた。

 

 

 突然の行動に一瞬静まり返った会場だったが、ビスマルクは銃声によって一旦静まり返った会場に再び予備のマイクを手に取ると、会場には彼女の声だけが響き渡る。

 

 

「だが、その後暗殺者達はまるでロイヤルの都合で出現したかのようなタイミングで出現した人型セイレーンを鉄血艦隊に、指揮官達に押しつけて自らは逃亡を図ったのだ……重症で激痛に耐えながら人類種の敵との戦いを優先したヘルブスト指揮官率いる救国の艦隊は、人型セイレーンの撃破に成功するも、指揮官は一命は取り留めたが昏睡状態に陥ってしまった……そしてセイレーンとの戦いを放棄したエリザベスの尖兵達はどうにかセイレーン撃退後に飛び出した戦士達によって現在は捕虜としてこちらの手の内にある……そう!!!」

 

 

 

 ビスマルクは再び拳銃から一発空中に発砲し、更に続ける。その姿はまさしく鬼神の如く。普段の彼女からは想像できないような狂気と怒りに満ちた表情を浮かべていた。

 

 

「エリザベスは!!最早セイレーンとの戦いであるアズールレーンとレッドアクシズ共通の命題を無視し、自身の権限と権益を守るために!エリザベスとその側近は軍を私物化していると言えるだろう!!ただ、気に食わないからとヘルブスト指揮官を暗殺しようと配下を報復のための殺人者として派遣したのである!!これのどこが正義なのだ!!否定すると言うのであれば、先の戦いで捕虜となった暗殺者はなんだ!?軍を私物化する貴様の行動は、先人達の活躍によって救われたこの世界を!!散ってきた英霊達の!!そして今も戦う軍人達の思いを踏み躙っていると言うことを理解しろ!!!聞いているかエリザベス!!この拳銃はお前の暗殺者が使っていたものだ!!お前が!!お前さえ……お前がぁ…!!!!」

 

 

 激情の余りシェフィールドが使用していた拳銃を地面に投げつけたビスマルクの姿を演技だと思う人間は一人もいないであろう。本人すらもプロパガンダの一環であったといえるのに今やロイヤルへの怒りを爆発させた一人の愛国者となっていたのだ。

 

 

 ビスマルクの言葉に人々は、いや、エリザベスを知る全ての人々すらも言葉を失う。カリスマ性に溢れたエリザベスはロイヤルの国民からは慕われており絶大な支持を得ていた。しかしこの演説でエリザベスが行っていた事が全て事実であればエリザベスは卑劣で卑怯なロイヤルを巻き込んだ国賊以外の何者でもないじゃないか。

 

 

 ロイヤル国民の多くはあくまでこれが敵対国のプロパガンダであると冷静に理解していたが、それでもラジオ局から流れる電波から涙と怒りの叫びをあげるビスマルクの声はロイヤルの国民すらも迷いを抱かせる。

 

 

「そして……捕まえた暗殺者のアジトを捜索した結果、驚くべき事実が明らかとなった……それはクイーン・エリザベスは敵対国家である我々だけではなく、アズールレーン各国をも真の盟友とは思っておらず、秘密裏に陥れる為に情報収集を行っていた……」

 

 

 先程までの怒りを抑え、パチンっ!とビスマルクが指で音を鳴らせばモニターは次々とユニオンと重桜の機密情報と思わしきメモを写し出される。その瞬間、会場の空気が一変した。それはあまりにも衝撃的な内容だったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景をロイヤル本国で緊急放送を聞いていたヴァリアントのその瞳には涙が浮かぶ。そしてその唇が震えるその口元が歪む。その頬が引きつるとヴァリアントはワナワナと震えながらしてやられたと理解する。

 

 

「ふふっ、ビスマルクもよくやる、か」

 

 

 その傍らで白髪のkansenは腕を組みながらその様子を見つめていた。彼女の名はハーミーズ。最古参の空母kansenの一人であり、東洋の植民地艦隊より召集された彼女は大騒ぎと化しているロイヤルネイビーの基地に置いて数少ない冷静を保っている人物であった。

 

 

「何言ってるのよハーミーズ!?貴方はどっちの味方なの!?」

 

「無論ロイヤルですよヴァリアント様。私は陛下や王家に忠誠を誓い、祖国にその身を捧げていますから……ですが、今回ばかりはしてやられましたね」

 

 

 

 悔しそうに叫ぶヴァリアントとは打って変わって楽しそうにハーミーズはラジオを聴きながらくすりと笑う。その間もビスマルクの演説は続いていく。横須賀、ハワイ、NYなどの要衝では現在空母kansenが増強を予定しておりそれをロイヤルは秘密裏に掴んで本国に情報を送って利用しようとしていたということ。とある日に重桜では演習を予定しておりその演習をロイヤルは察知して重桜の動きを事前に封じようとしていた事などを次々と暴露していく。

 

 そして、盟友であるユニオンや重桜であってもロイヤルはスパイを派遣しており、エリザベスは自らの野心の為に情報を収集していたとビスマルクは断言した。

 

 

「いまビスマルクが語った全てはスパイなんて派遣しなくとも軍の関係者ならわかる事ばかり。タラント空襲の失敗の結果各国では防空の為に空母kansenが要衝に配備されるのは常識。重桜が毎年この時期に演習を始めるのは通年行事であって元アズールレーンである鉄血なら知っている事。そう、ビスマルクは当たり前の事しか語っていませんね」

 

 

「そうよ!!こんなふざけた暴露なんてユニオンや重桜の国民の人々は──」

 

「信じますよ?確実に」

 

 

 

 ハーミーズは静かに微笑んだ。ビスマルクが暴露していることは公然の秘密であり軍関係者であれば誰でも知っているものばかりだ。だが……

 

 

「そうですね、これはコンボというものです。例えばビスマルクがこの情報だけを暴露しても公然の秘密ばかりであってこちらのライフにダメージは無かったでしょう。しかし、他のカードと組み合わせれば……卑劣なタラント空襲の失敗に、英雄を暗殺しようと命令した陛下、メルセルケビールの暴露に、多数の捕虜……鉄血は多数のカードをもっている。それらを見合わせればまた印象は変わってくるでしょう」

 

 

 ハーミーズは産まれた時から聞いた事もないカードゲームで物事を喩える癖のある奇人であり、時に狂人扱いされる事もあるが決して彼女は無能ではなく最古参の空母らしい落ち着きと判断力をもっており、ヴァリアントに分かりやすく解説を行う。

 

 

「例えば陛下の暗殺未遂は間違いなくデマ。こちらとしては自分達が不利になるタイミングで休暇中の鉄血軍人の暗殺を行うなんて外交的に悪手なのは火を見るのは明らかですが、スパイを陛下が派遣したのは事実でしょう。タラント空襲も否定しようがなくこちらが軍を派遣したのも捕虜によって明らかとなっている。そう、鉄血は誰がどう見ても事実である事柄を都合よく情報をまとめ上げる、多数の嘘と本当に近い事実を混ぜ合わせる事で事実を誤認させるのです。ビスマルクの演説は事実と虚実が織り交ぜられており、それが証拠として通用すると思い込ませている」

 

 

「……だから、こちらがユニオンや重桜にスパイを送り込んだなんて暴露を?」

 

 

「ぶっちゃけるとそんなの何処でもやっている事でしょう。友好国であってもスパイを派遣するというものは鉄血だってやっているはずです。それを敢えて暴露するのはそれがダメージになり得るからです。鉄血はこの戦争で会得したカードを出しながら本当の事実と公然の秘密を混ぜて証拠を出しながら説得力を持たせようとしている。これがビスマルクの戦略なのでしょう」

 

 

 ハーミーズの語る言葉はまさに的を得ている。この戦争ではユニオン、ロイヤル、重桜、北方連合といった各国がスパイを送り合い、互いに情報を探り合っている。その事をビスマルクはよく理解しているのだ。そして彼女はそのカードを切ったのだろう。

 

 

「一枚のカードであれば信憑性は少なくてロイヤルの傷は薄い。それが説得力のある複数枚のカードと組み合わせれば信憑性は増していく。それがアドがとれるコンボというものです。ロイヤルはタラント空襲を行なってスパイを派遣しているのは事実なのだから暗殺未遂事件や虐殺目的の爆撃を行なってもおかしくないと演説を聞いたものは想像してしまう。そして普段なら公言の事実であるロイヤルがユニオンや重桜にスパイを送っているという事実ですらも、演説に聞き入っている他国の国民からすれば衝撃的な事実と受け止めてしまう……恐らくユニオンや重桜ではこれからロイヤルへの追求や大使館などへの厳しい捜査が行われるでしょう。既にあの演説によって民間人はロイヤルに不信感をいだき始めている筈です」

 

 

 ビスマルクはただロイヤルの国の悪行を暴露してレッドアクシズ内の結束を高めた訳ではない。それはあくまで前座に過ぎず本命は敵国であるユニオンや重桜の国民感情を操作してロイヤルの戦争継続の士気を削ぎ、孤立させる事であるとハーミーズは語る。

 

 

 その為にビスマルクは中立国、アズールレーン所属国家の国民感情にロイヤルは不実で卑劣な国家……いや、クイーン・エリザベスは自身の利益を追求する売国奴であり国家のウミである事を暴露して、ロイヤル国内でも彼女の信頼を失墜させようという試みもあるだろうと彼女は予測する。事実彼女はロイヤルという単語を殆ど使わずにクイーン・エリザベスという個人を非難しているのだから。

 

 戦争とはこれまでより強い武器を持つものが、より数の多いものが、より技術力が高いものが勝利を獲得してきた。しかしビスマルクは情報戦、プロパガンダによって一気に形勢を覆しつつある。自国内や中立国に語りかけるプロパガンダは過去においても珍しくはなかった。

 

 それが敵対国にすら醜態や誹謗中傷によってダメージを与えるという新たな情報戦という概念を作り上げたビスマルクにハーミーズは素直に賞賛する。この戦争の軍権はクイーン・エリザベスが握っており、彼女やその一派が支持を失えば継戦能力を失うという民主主義の国家の弱点を突いた一撃と言えるだろう。

 

 

「なんで……なんでそんなに貴方は嬉しそうなのよ…」

 

 

 ヴァリアントは力無く椅子に座り込み今後のロイヤルの苦難の未来について嘆息する。あのとき、レス島でさっさとグラーフ・ツェッペリン達を抹殺していればこんな事にはならなかった。あの時捕虜として連行する為に長々と時間さえ稼がなければ今これ程までにロイヤルは追い詰められることはなく、陛下が苦悩することはなかったと罪悪感で嗚咽を漏らすヴァリアントに静かにハーミーズは語る。

 

 

「それが、戦争だからです。与えられたカードの中で最善の戦術を選び取る、それが私達の戦争です。卑怯も、汚いもなく勝利の為に、利益のために、有利になる為に努力を重ねる。それは歴史的にロイヤルもやってきた事であり、今は鉄血が行っている事。私は例えこの戦争に敗北したとしても素直に鉄血を賞賛しましょう。決闘という観点からみると鉄血は見事こちらの失態を追求してロイヤルを見事追い詰めているのですから……もっとも、鉄血が暴力によって民間人を傷つけるなど残虐で決闘者未満の行為をしていたら非難しましたがね」

 

 

 そう言って微笑むハーミーズにヴァリアントは何も言えず、項垂れる。

 

 

「今私達のやるべき事はセイレーンを撃退し、レッドアクシズが攻め寄せるのであれば全力で迎撃するという事。そして陛下を信じて支えることだけです……きっとこれからロイヤルは大変でしょう。陛下の不信任を追求する議員も出てくるでしょうしデモも起きるかもしれない。ユニオンや重桜も不信感が湧いてしまいロイヤルが孤立する事もあり得るかもしれない。そして真珠湾も本当に起きるかどうか……今が、陛下にとっての正念場と言えるでしょう」

 

「ハーミーズ……」

 

「陛下は言動はやや高慢な所はありますが、常にロイヤルの為に。祖国の為にその身を捧げてきた愛国者であって、今はきっと苦しんでいるでしょう。ビスマルクの演説を信じた守るべき国民によって売国奴と呼ばれることも、無能と呼ばれる事もあるでしょう。ですが、本当に外道であればメルセルケの時にあれ程までに苦悩した表情を浮かべていませんし、いつ倒れてもおかしくありません……だから臣下として私達は陛下を信じて支えるしかない。貴方は陛下の姉妹艦です、だから貴方は陛下を信じ、そして支えてあげてください。それが唯一できることです……私は、権威や血や手腕ではなく、陛下が決して私達を見捨てないで居てくれるからこそ、陛下が私達を信じてくれるからこそ、私達王家の戦士達は戦えるのですから」

 

 

 

 

 ハーミーズがそっと差し出した手をヴァリアントは強く握り返す。その手は震えていた。だが、それは恐怖からではない。敬愛すべき姉の苦境を知ったことで自分の不甲斐なさを感じて悔恨しているのだ。

 

 

「頑張りましょうヴァリアント様。あの日、未来を知って苦悩しながらもロイヤルの為に全てを犠牲にしてでも皆の為に未来を陛下は掴み取ると誓ってくれました。なら臣下である私達は苦境の陛下を支えてあげることしかできない。陛下を信じ、軍人としての責務を果たす。それが、唯一の恩返しなんですから」

 

 

 そうだ、自分は陛下を支えるために生まれた姉妹なのだ。ならば自分が弱気になってどうするのかとヴァリアントは涙を拭う。

 

 

『押してるのに、わざわざ律儀に敵の話に付き合うのは馬鹿ってことだよ、覚えておくといい』

 

 

 ヴァリアントは今も悪夢を見る。今でもあの時のヘルブスト指揮官の蔑むような冷たい言葉と後ろから迫ってくる爆撃と砲弾の音が忘れられずにトラウマとなって身体が震える事もある。もっと上手くやれば、あの時私がアイツを殺していればと後悔の海に沈む事もある。

 

 それでも前を向いて歩き続けるしかない。ハーミーズの言う通りそれが自身の役目であり、誇り高きロイヤルネイビーに所属する軍人の責務。栄光のクイーン・エリザベス級に類するヴァリアントに出来ることの全てなのだから。

 

 

『我々は彼らを止める為の戦いを継続する事をここに宣言する!!我々の敵はロイヤルではなく、ロイヤルネイビーを私物化する売国奴クイーン・エリザベスとその一派である!!レッドアクシズの旗の下に集う同胞達よ団結せよ!そして、アズールレーンに所属する全ての人々に告げる!我らは貴方と戦う気は一切ないと、そして今一度考えてください、果たして奸賊クイーン・エリザベスの言葉に正義があるというかと!!』

 

 

 

 惜しみのない拍手と興奮の声援に包まれながらビスマルクの演説は終わりを迎え、そして世界は動き出す。明日に向かって歩みを進める為に、それぞれの正義をただ貫くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「第一段階はクリアしたわ……次はあなたの番よ、ヴェネト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四部『変わりゆく世界」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バーデン宰相

 史実でも登場する人物。史実では敗戦末期に宰相に就任し、終戦交渉を皇帝により任されるも失敗してしまいドイツ帝国を存続させようともがくも既に遅く、ドイツ帝国は敗北してしまい帝政は終焉を迎い、晩年は失意の中1929年にひっそりとこの世から去る人物。この世界では存命して今も公国宰相として公王を支え続け、政治的なバックが存在しなかったビスマルクの後ろ盾となっていた。ビスマルクの事を評価しつつも彼女が個人の幸福に微塵も執着がなく、ただ鉄血の為に全てを捧げようとしている事を苦々しく思っている。

 ハーミーズ
 頭決闘者のkansenであり登場すればたった一人で全ての話題を持っていき、下手をすれば法廷フェイズに発展する為にゲーム内のイベントや外伝から出禁されているのでは?と称される最古参の空母kansen。今作のハーミーズは陛下を勿論慕っているものの、決闘も戦争と同じと考えており、余りにも非人道的な行為を除けば素直に敵の戦略を褒める人物に。実はイーグルとは友人である為にイーグルがどんな形であれ生きている事に喜びを感じつつ、捕虜に対しては適切に扱っている鉄血を素直に誇り高き決闘者として称賛していた。
陛下がボロカスに言われた事に関しては怒りよりも、まず陛下を心配するなど頭決闘者で無ければ高潔な人物であると言えるだろう。
本来はインド洋の植民地艦隊に所属していたが現在はロイヤル本国に帰還している。


 ヴァリアント
 ヘルブスト指揮官が活躍するたびに今も罪悪感で吐きそうになっている人物の一人。レス島の戦いの際にあのままレパルス達と砲撃を続けていれば恐らく指揮官達の艦隊は壊滅したと思われ、GMやスレ民からも見直せばあの時が一番ロイヤルが指揮官達を殺せる最高のチャンスであったと指摘されている。現在は本国にて防衛の任についているが、ハーミーズの一言を聞いて陛下を支えようと決意する。


 ビスマルクの作戦
 今回はレッドアクシズを団結させるよりも、陛下を罪人として祭り上げる事が目的であり、自国内の団結ではなくロイヤルや重桜の国民にロイヤルへの不信感を煽りつつ、ロイヤル国民には陛下に疑念を抱かせようとしている。ロイヤルへの報復の第一段階は終了し、作戦は第二段階に……余談ではあるが捕虜は全員防音機能を備え付けられた個室送りにされており、今回の演説の内容を何一つ知らないという。


 ヘルブスト指揮官
 マンジュウたちとラジオを聴いてこれで『英雄』もう後戻りは出来なくなったと、覚悟を決めた。現在謹慎中。


 

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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