鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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 今回のお話はR-18版にこのお話の前日談も投稿させて頂きましたので是非こちらをお読みになった後よろしければご覧ください。

 もしR-18版からご覧になった方は……指揮官の勇姿に期待あれ。


番外編 第十四話 情勢説明アイリス・ヴィシア編 姉妹に仕える光と影

 アイリス教国。

 

 信仰心が熱い宗教国家でありセイレーンが出現するまでは世界屈指の海軍力を誇る列強の一つとして挙げられたこの国家は北方連合と並びもっとも没落してしまった国家の一つと言えるだろう。

 

 一つの神を信仰し教皇の名の下にセイレーンに聖戦を仕掛けていたアイリス教国は、主に二つの勢力が国内に存在していた。

 

 一つは親ロイヤルでありアズールレーンに所属し続け、戦前より関係は良好とは言えなかった宿敵である鉄血公国を警戒する枢機卿リシュリューを中心とした親アズールレーンであるリシュリュー派。

 

 もう一つは枢機卿リシュリューの姉妹艦であったジャン・バールが作り上げた対セイレーンの特殊部隊を母体とし、後にヴィシア聖座と呼ばれる組織。こちらはセイレーンに対抗する為には隣国である鉄血公国の連携を模索しており、その結果鉄血との国土の合併もやむなしとまで考える鉄血融合派まで存在する程の親レッドアクシズ派閥であった。

 

 リシュリュー派とジャン・バール派。姉妹でありながらそれぞれの派閥に擁立され、対立する二人の確執は本人達の意思すらも無視して亀裂は肥大化していく。第一次セイレーン大戦の頃から存在する親鉄血と親ロイヤルの対立は最早修復不可能と言えるほどのものであり、最終的には国家の分裂という最悪の事態に繋がるのであった。

 

 きっかけは数年前の鉄血公国の軍備増強宣言であり、セイレーンからの強襲を全て防ぎきる防衛網の構築に成功した鉄血は次々とkansenや強力な無人艦を配備していき軍事力をアピール。更に国家の代表である教皇が中立を表明すると親鉄血派はアズールレーンに残留し続ければ鉄血公国、サディア帝国から攻撃を受け国内は火の海になると中立派の軍人、議員を説得。その結果選挙によって親鉄血派の議員が単独で過半数以上の議席を獲得し、親アズールレーンの議員や軍人を公職追放、予備役とする粛正を行ったのだ。その裏に鉄血の支援やビスマルクの暗躍があったかはどうかは想像に委ねよう。

 

 その結果、国内は親レッドアクシズ派が多数派となり最早アイリスはレッドアクシズに加盟するのを待つばかりと思われていたが……事態は誰もが予想外である方向に向かう。

 

 1940年5月。突如リシュリュー枢機卿率いる親アズールレーン派の議員、軍人、kansen、聖職者、そしてリシュリュー枢機卿を信奉する数十万の国民達は秘密裏にノール県ダンケルクに集結、夜間にロイヤルへの亡命を開始、スパイによる混乱やサボタージュによって伝達が遅れた結果この亡命は成功し、その後メルセルケビール海戦後にリシュリュー枢機卿がロイヤルの支援を受け、亡命政府自由アイリス教国の建国を宣言。国名をヴィシア聖座と変えた祖国を奪還すべく正義の戦いを宣言。同じ神を信奉する同胞達は戦火に身を投じる事になるのであった。

 

 そして、リシュリューとジャンバールにはそれぞれ腹心とも言える指揮官を抱えており、この物語は正反対の性格であるそんな指揮官を抱えるリシュリューとジャン・バールのとある一日を綴ったものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜間の司令室にて、人祓いを済ませ、たった一人で通信機を手に取るジャン・バールは今か今かと指揮官からの報告を待っていた。

 

 彼女の腹心である指揮官は現在ヴィシア植民地アフリカ領アルジェリア、ケビール港にてセイレーンとロイヤルネイビーからの防衛に従事しており、19歳という年齢ながら実質的にヴィシア海軍の実動部隊No.2であり実力主義のヴィシア海軍の護教騎士としてその手腕を発揮しており、今日は一週間に一度の定例報告を行う日であった。

 

「そろそろか……」

 

 ジャン・バールが時計を見ながら呟くとタイミングを計っていたかのように通信機が鳴り響く。即座に回線を開くとぶっきらぼうで親しみのカケラも存在しない青年の声が司令室に鳴り響く。

 

『合言葉は』

 

「クソッタレのセイレーンに死を」

 

『我らの道を阻むものには』

 

「全て燃やしつくし、蹂躙せよ」

 

『よし、繋がったな。ジャン、最近眠れないと聞いていたが気分はどうだ?』

 

「最悪だ。どこぞの女王やサディアや鉄血の馬鹿どものせいでオレの安眠は妨害され続けている……チッ、まあ、今は我慢しているがいずれ目に物見せてやるさ」

 

 

 不機嫌そうに舌打ちしながらジャン・バールは通信越しの指揮官に愚痴るが、指揮官は気にした様子もなくいつもの様にスルーする。二人が出会いもう数年になるがお互いの性格を理解している為このようなやり取りは日常茶飯事であり、特に気にも留めないのであった。

 

 

 実の姉であるリシュリュー枢機卿も含め、この世界でジャン・バールのことを「ジャン」と呼ぶ者は指揮官一人だけである。指揮官とジャン・バールの関係を一言で表すのであれば相棒以外の何者でもないと言えるだろう。彼等は互いに背中を任せられる信頼関係を築いており、時には意見を対立しあう事もあるが二人とも互いを認め合っており、その絆は固く、揺るがないものであった。そう、全ては過去に誓った誓約を実現する為に、そして二人で死ぬまで戦い抜く為に。

 

『単刀直入に言おう。アルジェリア方面でセイレーンの出現率が先週の1.8倍に跳ね上がっている。更にエクセキューター級も数匹確認したが全て撃破した』

 

「チッ……弾薬の問題は?」

 

『備蓄している物資はまだ余裕があるが、戦闘行動半径の低下は免れないだろう。今の所は問題ないが現状維持はこのままでは難しい』

 

 ジャン・バールは忌々しげに表情を歪め、通信機の向こう側で淡々と報告を続ける指揮官の言葉に耳を傾け続ける。ケビール港にはロイヤルからの再襲撃を防ぐために一年分の各種弾薬が集積されているとはいえ、それでも無尽蔵ではない。

 

 アルジェリアの維持の為には何れは大規模な補給が必要だろう、とはいえ補給船を狙われない保証はなく莫大な補給物資をケビールに向かわせる際にロイヤルから襲撃を受ける可能性もゼロではなく、ジャン・バールは憂鬱げに手を握り締める。

 

 

「了解した。近々補給物資を詰め込んだ船を送ろう。援軍の必要は?」

 

 

『物資さえあれば問題ない。アルジェリア方面は現有戦力で何とかなる。例えあのクズ共やロイヤルが大挙をなして押し寄せても俺達が撃退する。本国は任せたぞジャン』

 

 指揮官は淡々と語るがその言葉の節々から憎悪と怒りが込められている事をジャン・バールは感じ取っていた。彼は人類種の敵であるセイレーンに凄まじいまでの殺意と憎悪を抱いており、奴らを殲滅する事を常に考えている男だった。その為ならばあらゆる手段を厭わない危険な思想の持ち主ではあるが、同時に友軍や民間人を守る事を最優先とし、理知的で冷静沈着な性格をしており、決して感情だけで動くような人間ではなかった。

 

 だからこそ憎悪を糧に努力を重ね実力主義のヴィシア海軍にてジャン・バールからの信任を得る程の実力者にまで上り詰めたのだ。ただこの世からセイレーンを消し去る為に。彼のそんな姿を見たものは敬意と畏怖を込めて彼をこう呼んだ。

 

 

 

 怪物と。

 

 

 

 生命活動の全てをセイレーンの撲滅の為に捧げ、休暇の際も多くのアイリスの指揮官達が教会に向かう中一人でセイレーンの殺し方を学び続け、その存在をこの世界から消し去る為に一度戦場にでれば聖戦における狂信者のように専用のたった一人で操舵可能な指揮艦にて指揮を行い、荒々しく、激しく、そして冷酷に敵を屠り、作戦を遂行するその姿からそう呼ばれていた。彼は自身の存在意義はこの世界からセイレーンを撲滅する事であると信じており、アズールレーンとレッドアクシズの対立にも微塵も興味はなかった。

 

 しかし、仮にロイヤルが再びケビール港を襲うのであれば彼はセイレーン撲滅の障害となるロイヤルネイビーを一人残らず撃退するだろうとジャン・バールは信じていた。あの時、メルセルケビール海戦時に彼がダンケルク達の傍にいれば確実にロイヤルのフッド達は海に沈んでいたと確信しており、それを成すだけの力を相棒は持っていると。

 

 

「お前の力は信用しているが、油断はするなよ。帰ったら酒のひとつでも奢ってやる」

 

『期待しておく。それではまた一週間後ここでな」

 

「死ぬなよ、相棒」

 

『こっちのセリフだ、相棒』

 

 通信を終えるとジャン・バールは椅子に腰かけ、目を瞑ると静かに嘆息し、これからの戦いについて考え始める。

 

 

(アルジェリア方面に現れたセイレーンの数が跳ね上がったか……宣言もそうだが、奴らはまるで示し合わせたかのようにヴィシア領海内にも出現し始めた)

 

 

 ジャン・バールは考える。何故今になってセイレーンが現れるようになったのか? 今までも奴らがヴィシアの領海に出現する事は珍しくはなく、一時期には鉄血の差金でアイリス教国を恐喝、監視する為に配備していると信じる者も多かったが鉄血との関係が良好となった今は否定されている。

 

 とはいえこれだけはハッキリと言えるだろう。このままセイレーンが増加するペースが増え続け、本国周辺にまで現れる様になれば最早ロイヤルへの復讐どころか国家存亡の危機に繋がるという事実を嫌でもジャン・バールは理解し、再び舌打ちが司令室に鳴り響く。

 

「裏切り者共が……クソッ、今のヴィシアには何もかも足らん…!」

 

 無言で机を軽く蹴りつつ悔しげにジャン・バールは呟く。現在のヴィシア聖座が抱える問題。それは慢性的な人材不足であり、kansenだけではなく閣僚、将校、そして指揮官の数の弱体化が深刻なものとなっているのである。

 

 本来ヴィシア聖座が如何に実力主義とは言え19歳の指揮官が軍のNo.2に慣れる程甘くはなく、選任指揮官は複数人存在しておりそれ以外にも最前線で働く将校は多数存在していた。しかし現在はその多くが失われており、結果的に彼女の相棒は権力と軍権を手に入れる事が出来た……いや、そうしなければまともに軍が機能しない程にヴィシア聖座は機能不全寸前まで追い詰められていたのである。

 

 

 確かに亡命政府である自由アイリス教国と比べれば国民の90%以上が残留するヴィシア聖座は国力を圧倒しており、生産力なども亡命政府とは比べ物にならないと言えるだろう。だが彼女の姉であるリシュリュー枢機卿はその絶大な支持とカリスマ性によって亡命の際に数多くの優秀な軍人、司教、閣僚などのエリート達を引き連れていた為に、その穴を埋める為にジャン・バールは頭を抱える事になったのである。

 

 そもそも彼女も本来は宗教国家アイリス教国にて教皇の信任を得て司法、立法、行政を統括する立場であったリシュリュー枢機卿に比べてその経験はなく、ただひたすらに軍人であり続けた為に、姉の亡命以降は実質的に国家のトップとして慣れない仕事に奔走する事になっていた。

 

 

 元々ヴィシア聖座は鉄血の様な軍事国家ではなく宗教国家の為、軍において重要視されるのは信仰心や道徳性といった精神面が重視される事が多く、軍内部における人事異動の頻度は他の組織に比べて低い傾向にあった。

 

 例えば指揮官となる為に最も重視されたのは能力よりも神に対する信仰である為に自動的に、国家を統括する立場であったリシュリュー枢機卿への忠誠心と結びついていたのである。

 

 その結果本来十二人存在していた指揮官はヴィシア聖座として行動していた面々も含めて十一人も離反してしまい、更にヴィシア聖座の支持を表明した者達やら中立派の面々も枢機卿リシュリューに対する信頼と忠誠は別物であり、彼女が離反するのであれば自分は枢機卿に従うと言わんばかりにイデオロギーを変更させ、国家のエリート層とも言える閣僚、指揮官、将校、司祭の面々の6割以上はリシュリュー枢機卿の亡命について行ってしまった為に、ヴィシア聖座は苦難の道のりを歩む事になる。

 

 それでは大幅に弱体化したとはいえ、残った4割の面々は信頼におけるかと言えば答えはNOといわざる得ない。潜在的に枢機卿を未だに支持する者、更に現在は牢獄送りや謹慎にしたとはいえリシュリュー枢機卿の亡命の手伝いやサボタージュを行った者達の様に潜在的なスパイは数多く存在しており、確実にロイヤルにこちらの情報は漏れている。

 

 そしてその結果、メルセルケビールの悲劇が起きたのだとジャン・バールは理解しており、無駄にカリスマ性が高く、それでいて国民の多くを無視してロイヤルに亡命した姉を殴りたくなる衝動に襲われてしまう。

 

 その考えは正しく、とある『枝』に置いては駆逐艦ル・テリブルがヴィシアに残留しながらも平然とリシュリューやエリザベスに秘密裏に情報を送っている事が明らかにされており、ジャン・バールは殆ど離反しなかったヴィシアのkansenすらも疑いの目を向けざる得ない程の状況に何度睡眠不足に陥ったか、分からないほどだ。

 

 メルセルケビール海戦の敗戦はそんなヴィシア聖座の混乱の最中起きたものであり、軍事的にロイヤルが優越しており奇襲攻撃だからこそ敗北したのではなく政治的な混乱によって伝達や配置に大きな問題を抱えた結果、ダンケルク達は各個撃破の憂き目にあってしまったのだ。

 

 皮肉な事にそこからジャン・バールが更にスパイの炙り出しやサボタージュの厳罰化などの粛正行った結果、現在は国政が落ち着き、軍事行動の余裕が生まれた。とは言え前者は熱意はあれど若くて政治の参加経験のない若手議員が国政の中心になるという不安要素があり、後者は自身に軍権を集中させる事で無理矢理安定させた様なもの。

 

 とても正常な国家とは言えず人材不足の歪みと、不安要素の塊でしか無い国家。それが現在のヴィシア聖座という国家の現状を表していると言えるだろう。

 

「口うるさい連中は粛正してアイツと俺は権力を掌握する事には成功したが……セイレーンが増え続けて更にロイヤルの事もある。最悪セイレーンから国土を防衛する為には鉄血かサディアの支援も必要かも知れんな……」

 

 ジャン・バール個人としては国家として因縁の歴史や疑惑のある鉄血公国やその鉄血に行動を共にするサディア帝国にあまりいい感情はない。寧ろ鉄血との国土の融合を語る面々は同時に閑職送りにする事で影響力を削ぐなど反対の立場であった。

 

 メルセルケの恨みがあるロイヤルよりはマシではあるが彼女としては鉄血やサディアと必要以上に結びつく事を望んではいない。とはいえ『イオニア海海戦』や先日の『ビスマルクの演説』といい、最早国民がレッドアクシズとの結びつきを強くする事を望んでいる以上これからは嫌でも一蓮托生となるだろう。

 

 

 セイレーンやロイヤルという外敵に警戒しながら、油断のならない鉄血やサディアとの関係を深めていく。ロイヤルはビスマルクの演説に激怒しただろう。最早ジャン・バールもヴィシア聖座と国旗と共にレッドアクシズの赤い旗を同時に掲げる事に関して腹を括らなければならないだろう。

 

「何故…何故オレを、皆を見捨ててロイヤルの所に行ったんだ……何故最後に、オレにあんなはぐらかす様な言動をして……何故オレを、オレ達を見捨てたんだ……リシュリュー姉さん……!」

 

 もしも、リシュリューが亡命しなければ。もしもリシュリューが国家に残留し続けていれば。そして姉さんは何も言わずにすべてを押しつけたんだとジャン・バールは怒りと悲しみに満ちた表情を浮かべながら呟く。それでもなお彼女はリシュリューを恨めなかった。

 

 恨もうとしても平和だったあの頃の景色が思い出す、優しくて頼りになり、例え思想は違えど祖国を守る気持ちだけは同じと信じていたからこそ、同胞同士で殺し合う可能性のあるこの状況を作り上げたリシュリューに関して愛憎渦巻く複雑な感情を処理しきれず、ジャン・バールは壁を殴りつけると傷口から血が流れていく。

 

 

 今の彼女に残ったものはヴィシアを導くものとしての権力と責務。そして相棒である指揮官と交わしたあの日の約束だけだろう。

 

 

『誓ってやろう、オレはヴィシアの人々を守る為にお前の力を借りる、お前はセイレーンを撲滅するという夢を叶える為にオレ達の力を借りる……そこに裏は無く、裏切りも偽りも無い…それでいいな?』

 

『もう後戻りは出来ないぞジャン。俺の命はお前に預けた。だからお前の命も俺が貰う。全てはこの世から、この世界からセイレーンを抹消し尽くすまでだ!契約は成立した、2人でその命が尽きるまで共に戦い続けよう』

 

 ジャン・バールはどれだけ傷ついても相棒との約束を果たす為に生き続ける事を、死ぬまで護教騎士として民を守り、そして契約によってセイレーンを撲滅し続ける事を誓っている。それが今のジャン・バールの生きる意味であり、同時に肉親に裏切られ、歴史の波に翻弄され、プレッシャーによって精神的にボロボロになった彼女を支える数少ない希望となっているのであった。

 

 

「後戻りはできないか……オレはヴィシアの為に決して止まらない……だからお前も止まるなよ……相棒」

 

 

 月明かりだけが窓から漏れる暗闇の中で一人の騎士は笑いながら血だらけ拳を振り上げていた。彼女の名前はジャン・バール。ヴィシア海軍所属のkansenにしてヴィシア聖座の守護する双翼の1人なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィシア聖座の陣営代表ジャン・バールに腹心である指揮官がいるのと同じく、自由アイリス教国亡命政府の陣営代表リシュリュー枢機卿の元にも最も彼女が信頼を寄せる指揮官が存在している。

 

 彼はヴィシアの指揮官とほぼ同じ年齢でありながら真逆の人物と言えるだろう。司教の一人息子である彼は信仰心は強く休日は教会へ足を運ぶ敬虔な信徒であり、温和で穏やかな性格。一方で仕事には忠実で何事にも妥協を許さない。自由アイリス教国や枢機卿リシュリューの為ならば喜んで自らの身を捧げられる程の覚悟を秘めた人物でもある。

 

 

 彼の人柄を表すのであれば「護教騎士の中の護教騎士」「アイリスで最も模範的な軍人」と呼ばれており、若いながらも地道に努力を重ねて順調に出世街道を駆け上がり、指揮下のkansen達からは慕われており、現在では枢機卿より特別計画艦であるサン・ルイの指揮を任される程の信頼を勝ち取っていた。

 

 ノブレス・オブリージュ、高貴さは義務を強制させる。それは聖職者の家系で生まれた彼だからこそ身に付いたものであり、彼自身はキューブ適性を持ち指揮官として戦えることを誇りに思い、高潔な精神の持ち主である事に一切の迷いはない。

 

 だからこそ彼は迷いながらも敬愛する枢機卿と共に行動を選び、リシュリューに対して忠誠を誓い続けていた。例え国土を一時的に見捨てることになっても、国民を放置して他国に亡命する事になっても、そしてメルセルケビール海戦で最早ヴィシア聖座との対決が避けられなくなったとしても、それが本当の意味で祖国の為になるのなら。

 

 鉄血の傀儡ではなく再びアイリス教国を取り戻し、そして祖国の再統一とアズールレーンの復帰を目指すリシュリュー枢機卿やそれを信じてついてきた民達の夢を叶える為ならば最前線で戦い続けていた。

 

 そんな願いを胸に秘め、ロイヤルの地でセイレーン相手に戦い続ける模範的かつエレガントな騎士が現在しているのかといえば……。

 

 

 

 

 

 

「リシュリュー猊下!!本当に、本当に申し訳ございませんでしたぁ!!」

 

 

 

 

 

 土下座をしていた。

 

 

 

 

 自由アイリス教国に授与された基地内、リシュリュー枢機卿との謁見の場にてそれはもう綺麗な姿勢のまま見事なまでの謝罪を行っていた。もし土下座選手権と言うものがあれば間違いなく優勝候補に躍り出るであろう。

 

 

「サン、ルイ。こんな時どんな表情を私はすれば良いのでしょうか?」

 

 

「笑えばいいかと。そして必要であれば今からロイヤルに掛け合いギロチンを手配しましょう」

 

 そんな彼から事情を聞いたリシュリューはと言えば彼の告白、いや暴露によって厳格な枢機卿としての仮面を地面に叩きつけ表情をピクピクと引き攣らせながらそれはもう困惑しており、サン・ルイはいつも無表情な彼女から想像もつかない不機嫌な表情で淡々と返答していた。

 

 最も模範的な指揮官と呼ばれた男が土下座して、厳格で慈悲に溢れた枢機卿は私にどうしろと言うのですか!と叫びたくなる事を堪え、サン・ルイが不機嫌そうにプイッと頬を背ける光景。

 

 

 

 どうして、こうなった。

 

 

 

 もし、ここにアイリス出身者が。いやクイーン・エリザベスの使者がやってきたのなら間違いなくそう混乱に陥る事は言うまでもないだろう。

 

 

「顔をあげなさい指揮官。わたしがギロチンや処刑といった刑罰なんて命じる訳ないじゃないですか。だとしても貴方は…貴方と言う人は本当に……」

 

「返す言葉もありません……」

 

 

 土下座をようやく辞めた指揮官であったがその顔は罪悪感で今にも窓から身を投げ出しそうであり、リシュリューもそんな表情の彼を見て呆れる事はあっても、怒る事はなかった。むしろ、今までずっと隠していた秘密を、それでもなお曝け出した彼にある種の敬意すら覚えている程であった。

 

 もっとも、何故こんなクソ面倒臭いタイミングで暴露するのだと嘆息していたのだが。

 

 

「それで……今は何ヶ月なのですか?」

 

「2ヶ月、ですね……出撃前に体調を崩していて、まさかと思い調べてみると……」

 

「妊娠、していたと」

 

 

 彼がここまで憔悴して取り乱していた理由。それは指揮官がkansenである駆逐艦ルピニャートを妊娠させていたという現実が発覚したからだ。

 

 kansenは厳密に言えば人間ではなくキューブと呼ばれる物質で作られた疑似生命体。とはいえ人との違いはあれど人との交配は決して不可能ではなく世界各国でも少ないが報告に上がっており、アイリス教国でも過去に二件ほど事例が存在していた。

 

 指揮官は艦隊メンバーであるルピニャートと急速に仲を深めたきっかけは亡命騒ぎである事に間違いはないだろう。祖国を離れて不安になるルピニャートを指揮官は慰め、ルピニャートはそんな指揮官に惹かれていく。そして彼等の間にはいつのまにか恋が芽生え、やがて愛へと変わっていったのだ。

 

 

「秘密裏に付き合っていた事は認めましょう。私も人の恋愛に口を出す趣味はありませんし二人の関係を素直に祝福させて頂きましょう。ですが……ルピニャートは……」

 

「猊下……はっきりと言って頂いて貰って結構です。私は、ロリコンであると……」

 

 

 言葉を渋ってできる限り指揮官を傷つけない言葉を探そうとするリシュリューであったが、死んだ魚のような目をした指揮官は自らの罪を懺悔するかのように告白していく。

 

 

 それはあまりにも残酷な現実と言えるだろう。

 

 

 別にリシュリューとしては仮にジャンヌ・ダルクやエミール・ベルタン。小柄ではあるがベアルンのようなkansenであっても指揮官と仮に恋愛関係となっても素直に祝福したであろう。妊娠の事実ももう少し早く言ってくださいと軽く注意するだけで終わったであろう。

 

 

 それがここまで拗れた理由……それはルピニャートが、指揮官の恋人であるルピニャートの容姿がどう見ても11〜12歳程の小学生にしか見えない事だった。

 

 

 一般的に駆逐艦のkansenは下は五歳児、上は中学生ほどの見た目と性格を持つkansenは多いがルピニャートの容姿はかなり小柄で誰がどう見ても小学生にしか見えない。そんなルピニャートが今指揮官と肉体関係であると暴露され、あまつさえ妊娠してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 想像して欲しい。アイリスの中のアイリスとまで言われた模範的な指揮官が小学生程の幼女と恋人であり肉体関係にある事を。大人しくて物静かなルピニャートの未成熟な肢体や貪り、その小さなお尻を撫で回し、膣内にペニスを突き入れ精液を流し込む姿を。小ぶりな胸に吸い付き、揉みほぐし、舐め回しながら幼い割れ目に肉棒を押し込み何度も射精している事を。

 

 

 

 

 そしてつい先日ビスマルクは反ロイヤルの演説を行なっており、全世界からロイヤルは、正確にはクイーン・エリザベスは疑惑の目を向けられてその評価はズタボロとなっているのだ。このような醜態がもし何かの拍子レッドアクシズに、アイリスとヴィシアの国民にバレてしまえば……。

 

 

 

 

 

 バレたらヤバい。確実にヤバい。アイリスの権威は色々な意味で地に落ちる。

 

 

 

 

 

 指揮官、サン・ルイ、リシュリューの三人の心が一つになった瞬間であった。

 

 

「……ゴムは、使わなかったのですか?」

 

 

 リシュリューはお前、本当、マジで……と言いたげに呆れ果てたような目線を指揮官に向ける。しかし、指揮官は一瞬何かを言いたげな表情をしながらもそれを堪えて申し訳なさげにリシュリューに呟く。

 

 

 

 

「……はい、その……使いませんでした……」

 

 

「……つまり、貴方は避妊対策をせずにルピニャートの中に出したという事ですね?しかも何回も……」

 

 

「……はい」

 

 

「……避妊具を使わずに性行為を行ったという事ですね?」

 

 

「……はい」

 

 

「……ルピニャートは使って欲しいと言いましたか?」

 

 

「全ては、全部の責任は私にあります。ルピニャートは優し過ぎてゴムを使って欲しいと一度も言いませんでした……だから私が、ルピニャートではなく全て私が責任を取らなければならないんです」

 

 

「なるほど、大体の事情は分かりました」

 

 

 

 指揮官の話を聞き終えた後、リシュリューは大きく溜息をつくとそのまま椅子に座り直す。そして、静かに目を瞑りこれからの事を、未来を思い浮かべて思考の海に沈んでいく。

 

 

 平時であれば彼だけがロリコン野郎の罵りをうけるだけで済んだ妊娠騒ぎであるが、現在の情勢では余りにも不味い。

 

 

 鉄血のプロパガンダによって最早ロイヤル、いやクイーン・エリザベスの国際的な個人の評価は下落しており、亡命政府でありエリザベスの後ろ盾があるからこそ存続可能な自由アイリス教国としてはこれ以上の混乱や醜態は望んでいない。今は何もせず国内の安定化とエリザベスの地盤を固める事へのサポートをしつつ、何れくるであろうレッドアクシズとの対決の為に備えなければならない。

 

 

 ロイヤルの後ろ盾を得て神聖なる聖域を奪取して本土の国民達に正当性をアピールや、出来るのであればヴィシアの面々を平和的に合流させる事を望むリシュリュー。そんな彼女にとってアイリスの中のアイリスと称された腹心がまさかロリコンであった事などがバレて仕舞えば……想像するだけで背筋が凍る思いだ。

 

 

 公表すれば自由アイリス教国の看板に傷がつき、アイリス国民やヴィシアからの信用を失いかねない。それは即ち、今後の計画に支障をきたし、ひいてはレッドアクシズとの戦いにおいて自由アイリス教国の存亡に関わる事態になる可能性すらある。

 

 

 

 

 もはやリシュリューの答えは一つであった。

 

 

 

 

 

「まだ、誰にもバレてはいないのですね?」

 

「ルピニャートの友人であるル・テメレールとその指揮官にだけはバレてしまい、口止めはしていますがそれ以外には……」

 

「……指揮官。貴方に命じます。貴方はずっと私達を、自由アイリス教国を支えてくれたまさにアイリスの中のアイリスと呼べる人物であり、貴方のことを私も尊敬しています。だからこそ、命じましょう。絶対に、絶対に隠し通しなさい」

 

 

 リシュリューは真剣な眼差しで指揮官を見つめながら、ゆっくりとした口調で命令を下す。

 

 

「例えどんな手を使ってでも隠し通すのです。もしもこの事が他の陣営にバレてしまったら、貴方だけではなく自由アイリス教国は終焉を迎えるでしょう。信頼出来る医者を送り、ルピニャートは終戦まで監禁という形になりますがこちらで出産のサポートは全面的に行います。……いいですかロイヤルにも、鉄血にも、アイリスにも、絶対にバレてはなりません。これは最後のチャンスです。もしバレたら、その時は……分かっていますね?」

 

「……はっ!」

 

 

 指揮官は覚悟を決めた表情で敬礼を行う。リシュリューはその様子を見て小さく微笑むと、いつものような穏やかな表情に戻り椅子に腰掛ける。

 

 

「……終戦を迎えれば、二人の為に結婚式を場を用意しましょう。改めてお付き合いを、そして妊娠おめでとうございます。貴方達の子供が凄惨な争いを見なくて済むように私は全力を尽くします」

 

「ありがとう、ございます」

 

「いえ、これが私の務めであり使命なのですから……それにしても……最後にこれだけは聞かせて下さい」

 

 

 リシュリューは椅子に座り直し指揮官に問いかける。

 

 

「避妊具を使わなかったのは何故ですか?理由を教えてください」

 

「…………」

 

 

 指揮官は俯いて誤魔化そうとするもリシュリュー枢機卿の真っ直ぐで、それでいて凍てつく視線に堪えきれずに白状する。

 

 

「それは、私が精神的に不安定な時期に優しいルピニャートに溺れて───」

 

 

「………」

 

「………ルピニャートが、危険日を安全日だと偽っていたと後々になって気付いて……その日はゴムを使わずに愛して欲しいと流されて、出来ちゃいました。重ね重ね申し訳ございません……」

 

「はぁ……全く……」

 

 

 指揮官はその場で土下座の体勢を取ると、そのまま懺悔を始める。そんな彼の姿を呆れた様子で見下ろすリシュリュー枢機卿は、大きく溜息をつく倒れ込むように再び椅子に座り込む。そして、サン・ルイは再びこう呟くのであった。

 

 

「やはりこのロリコンを捌く為にギロチンが必要なのではないでしょうか?」

 

「サン・ルイ……貴方にしてはやけに厳し…いいえ何もありません。はい。何もないという事にしておきましょう」

 

 そういえばサン・ルイは指揮官の下で働いており、更に自身と話す際は殆ど指揮官関連の話題であった事を思い出し、なんとなく彼女が不機嫌な理由を全てを察してしまうがこれ以上の面倒事はごめんだと枢機卿は初めて胃薬を口にする。その胃薬は図らずもとある国の陣営代表や陣営代表の妹が常備している鉄血製の胃薬であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自由アイリス教国とヴィシア聖座

 

 この二つの国家は現在大きなターニングポイントを迎えたと同時にそれぞれ勢力内に大きな問題を抱えていると言わざる得ないだろう。

 

 ヴィシア聖座→国内のエリート層の多くがリシュリューの信奉者であった為に実に司法、立法、行政、軍事を支える面々が同時に数多く一気に離反してしまった為、戦力の低下は避けられず、今はまだ国内の混乱を収めるのに精一杯という状況。それが落ち着いたとしても国内には枢機卿を信奉するスパイが多数存在しておりこちらの情報がバレており、結果的にメルセルケビール海戦での大敗北に繋がってしまった。皮肉な事その結果ジャン・バールはこちらの都合のいい人材に任せる事によって権力の掌握と行動決定の迅速化に繋がったのだが、今度はレッドアクシズとアズールレーンの激化する戦いに巻き込まれつつあり、さらに国内は一気にセイレーンの出現率が跳ね上がっており、常に問題を抱えている。ジャン・バールはまだまだ枕を高くして眠れないであろう。

 

 

 自由アイリス教国→亡命政府である為に鉄血の傀儡になり兼ねないヴィシア聖座を非難するも、厳しい言葉になるが、実質的にはロイヤルが後ろ盾になければ何も出来ないロイヤルの傀儡と成り下がっている陣営。枢機卿のカリスマと手腕、権威によってロイヤルからは亡命政府、同盟相手として手厚く歓迎されているものの陛下の権威がガリガリ削れている今その立場は危ういと言えるだろう。勝てば問題ないが、勝てなければ一番苦しい時期に国民を見捨てて、悪のロイヤルの尖兵になったと言われ兼ねないのだから。

 

 ビスマルクの演説によってアイリスとロイヤルに亀裂が生まれ兼ねない現状をエリザベスとリシュリューはどうにか抑え込もうとしているが自由アイリスの中でもロイヤルは泥船であると発言する人も増えつつあり、更にリシュリューの腹心の指揮官がロリコンだというスキャンダルまで抱えてしまった為に枢機卿の安息の地はまだ遠い。

 

 

 




・アイリス指揮官(20歳)
元ネタは鉄血編ダイスの後に作られたダイススレに登場するアイリス編の主人公指揮官。アイリスの中のアイリスとまで言われる程に真面目な人物であり、休日はダイスの結果教会で過ごし、枢機卿からの評価を稼ぎまくった結果竜骨編纂終了後のサン・ルイ任されるなどまさに枢機卿の腹心の一人として認められる程の人物となるのでした。
ステータスは
指揮能力66
冷静66
女の子への興味51
上層部からの初期好感度39
運97
そして指揮官となった理由が枢機卿であるリシュリュー猊下を尊敬していたからこそであり、彼はリシュリュー枢機卿に忠誠を捧げ、護教騎士として民と信仰の守護者となっていくのでした。
そして、ルピニャートは初期艦であり今作品でもルピニャートと結ばれ、彼女を妊娠させた結果最終的にアイリスのロリコンと呼ばれる事になるのでした。

・ヴィシア指揮官(19歳)
アイリス指揮官とは真逆の人物でこちらはヴィシア編の主人公。信仰心の塊であるアイリス指揮官と違い、口も悪くてぶっきらぼう。信仰より一匹でも多くのセイレーンを仕留める事以外の興味は全くなく、苛烈な憎悪と殺意によって誓いを立てたジャン・バールと共に戦場を駆け抜けます。

ステータスは
指揮能力98
冷静89
女の子への興味61
上層部からの初期評価100
運29
指揮官となった理由はセイレーンの撲滅ただそれのみ。ジャン・バールとは15歳の頃からの付き合いであり、生命活動の全てをセイレーンへの撲滅に注いだ血の滲むどころか、ペンを持つ手が血だらけになる程の努力によって若いながらもアイリス教国最強の指揮官に。そして他の指揮官の誰もがリシュリュー枢機卿についていくなか、彼はヴィシアに残留して残された祖国の民を守る為に、そしてクソッタレのセイレーンをこの世界から1日でも早く消し去る為に戦い続けるのでした。

 今作ではアルジェリア方面の司令としてジブラルタルのロイヤルと最近多く出現するセイレーンへの対処を行なっていますが、もしも指揮能力98の彼がメルセルケビール海戦に参戦していればまた違ったら歴史に成ったのかもしれません。とはいえ19歳の彼が実力主義とは言え最重要拠点の一つであるアルジェリア方面を防衛しなければいけないのが現在のヴィシアの現状。サディア編で描かれたヴィシアの抱える問題とはこの深刻な人材不足なのでした。

 ちなみにジャン・バールと指揮官は恋人ではありません。今のヴィシア指揮官に祖国の防衛とセイレーンへの憎悪以外の感情は最早存在しないのですから。


 二つの勢力に分かれた姉妹達。それぞれ問題を抱えつつも歴史が壊れた世界は進み続けるのでした。

 コメント、評価、感想等をお待ちしております……

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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