鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第四十四話 ヴェネトの手紙

 鉄血の陣営代表であるビスマルクの仕事は多岐に渡り、黒キューブでの自身を使った人体実験が一定の成功に終わり、一度過労で倒れてしまった事もあり、他のkansenや軍人達から仕事を分業する事を指摘された結果、以前と比べると寝不足になる程のレベルでは無くなっている。

 

 とは言え忙しい事には代わりなく対ロイヤル戦におけるプロパガンダ活動の指示や、同じレッドアクシズであるサディア帝国と密かにすすめている謀略への下準備やその為の重桜商船団の代表明石との会談なども含めて毎日が多忙極まる日々を送っていた。

 

 そんな彼女だが、それでも以前と比べて現在は執務室に缶詰状態になっているわけではなくコーヒーの一杯の味と香りを楽しむ余裕もある程の余裕を持てるように慣れたのだから遥かに以前と比べればメンタルに余裕が持てるようになったと言えるだろう。反対にドーバー海峡を隔てた場所に君臨する女王は毎日嘔吐と寒気に襲われているのだが。

 

「んっ……緊急通信?」

 

 そう言ってビスマルクが休憩の合間に特別計画艦マインツが以前選んでくれたコーヒー豆の苦さを楽しんでいれば、執務室の端末が鳴動し、その画面にはキール第三基地司令の文字が浮かび上がっている。その瞬間ビスマルクは思わず端末を壁に放り投げたくなる欲求に襲われるがどうにか陣営代表としての吟味により、真剣な表情で端末に手に取る。

 

「私よ、どうしたのかしら指揮官」

 

『こちらキール第三基地司令、ビスマルクさん申し訳ございません。可及的速やかに報告したい事があります』

 

 通信越しから聞こえてくる若い男性の声には緊張感があり、ビスマルクはその声色からただならぬ事態が発生している事を察して表情を引き締める。とある事情で謹慎中であると同時に世界中で時の話題となっている指揮官ヴァイスクレー・ヘルブスト。彼は鉄血に忠誠を捧げ数多くの勇名を示した若き『英雄』ではあるが同時にトラブルメーカーであり、ビスマルクの睡眠時間を着任以来削り続けている。

 

 とはいえ真面目彼の性格上、冗談半分で直接私に通信を送るなんて事はあり得ず、自身でなければ解決出来ないほどのトラブルが発生したのだろうとビスマルクは徹夜を覚悟しつつ気を引き締めて口を開く。

 

「分かったわ、午後の予定は全て空けておくから今すぐ貴方は本部に向かいなさい。そこで全てを話しなさい。護衛の必要は?」

 

『必要ありません。それでは今すぐ向かいます、出来ればビスマルクさんと二人きりで話がしたいのですがよろしいでしょうか?』

 

 それは意外な申し出だった。ビスマルクは一瞬眉を潜めるものの、現状において彼は信頼出来る人物であり、きっと必要な事なのだろうと理解していた為に素直に応じる事に決める。

 

 数十分後、おそらく走って来たのだろう。冬場だと言うのに軍服を汗まみれにして息切れを起こしている青年がノックと共に現れる。生体認証システムによってこの部屋に自由に入る事が指揮官はこの世界で二人だけであり、そのうちの一人であるヘルブスト指揮官はふぅ…と息を整えながら緊張した様子で敬礼する。

 

 

 無理もないだろう。彼は現在謹慎中であり、本来であれば基地に引き篭もり『謀略』が成功するまでの間大人しくしてほしいとビスマルクは命じていたのだから。だと言うのにプレッシャーや恥を忍んで、そして鉄血の為に現れたのだから想定外の事態に襲われたのだろうとビスマルクは確信する。もしかすればセイレーンの上位個体とまた会談か何かを秘密裏に行った可能性すらあるのだから。

 

「前置きはいらないわ。リラックスしていいから話しなさい」

 

 ビスマルクの言葉にヘルブスト指揮官は少しだけ肩の力を抜いて安堵しながらソファーに深く座り込む。

 

「……ビスマルクさん。一つだけお願いが……今から話すことはグラーフ達も含めて全員に他言無用でお願いします」

 

「他言無用ね……内容によっては約束は出来ないけれど出来る限り努力するわ」

 

 

 その言葉を聞くと同時に、まるで懺悔でもするかの様にヘルブスト指揮官は深く頭を下げる。その姿を見たビスマルクは思わず目を丸くするが、そんな彼女の反応を知ってか知らずか、彼は意を決して顔を上げると懐から何かを取り出す。

 

 

「全て、これを見れば理解できるでしょう。プライベートな話題になり、失礼な事この上ないのですがこれに関してはビスマルクさんに知っていただく必要があると思いまして……」

 

「プライベート?」

 

 

 ビスマルクは眉をひそめながら彼が懐から取り出した何かを受け取る。それは封筒であり中には手紙らしき物が入っているようだった。一体なんだろうかとビスマルクは首を傾げながらもその中身を取り出して確認しようとする。

 

 しかし次の瞬間、ビスマルクの手の動きがピタリと止まり、目を見開き固まってしまう。その表情は驚愕に染まっており、信じられないと言った表情を浮かべている。

 

 

「あな、た……これって……」

 

 

 手を震わせながら更に読み進めていくビスマルクだったが、その表情は徐々に強張っていく。そして最後まで読んだ彼女は手紙を机の上に置くと目眩に襲われながら叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「ラブレターって、何考えてるのよヴェネトは!!!」

 

 

 

 

 

 

 鉄血の陣営代表の心からの叫びが部屋中に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあこの早速始めようかな、マンジュウの皆!大変だけど頑張ろうか!」

 

「「「「ピヨ!ピヨヨ!!」」」

 

 キール第三基地の広間でひよこ型ロボットマンジュウの鳴き声が青空に響く。普段はキール基地の警備及び、庭の手入れや食事の提供などを行っているが今日に限ってはいつもとは違っていた。

 

 今日の予定は少し早い大掃除だ。謹慎中の俺は基本的には軍務に制限がある為に午後は何もやる事はなく、普段は自分なりに勉強を進めたり、反省文を自分なりに書いて自己分析を行うなど自分なりに心の整理をする為に色々としていたが流石に毎日では気が滅入る。

 

 ヒッパーと二人で話し合い、慰められた結果精神的に少しは余裕が出来、己と向き合う事に成功したが同時に今の俺には何も出来ない現状に罪悪感だけでなく、勉強以外のエネルギーの発散場所を求めていた。

 

 だから俺が選択したのは大掃除だ。ヒッパー、シュペー、グラーフの三人は現在別の任務を行っており、この基地に戻るのは2月になってから。それなら彼女達が戻って来た時に驚くくらい綺麗にしておけば喜ぶのではないかと考えたのだ。

 

 

 それに今は謹慎中とはいえ、何もしないのは良くない。だから基地の大掃除をする事にしたのだが……正直言って一人でやるのは大変なので手伝う人材が必要だった。そこで白羽の矢を立てたのがマンジュウ達であった。

 

 というか最初は気分転換のつもりで掃除用具をマンジュウに話せば「なら私達も指揮官様のお掃除をお手伝いします!」と筆談で伝えきて、アレよアレよとこんな騒ぎになってしまった。ヒッパーはマンジュウはアンタを慕って純粋に忠誠を捧げているわよと言っていたが、少し胸が熱くなり、目から汗が流れたのは秘密だ。

 

 基地中でマンジュウのピヨピヨとした鳴き声と為に大掃除は進んでいく。普段から彼らは清掃を欠かさない為例えばキッチンのシンクはピカピカに磨き上げられており、ゴミ捨て場には塵一つ落ちてない。だが今回は違う。徹底的に磨き上げ、窓を開け放ち空気を入れ換え、床をモップ掛けし、天井まで拭き上げる。

 

 タンスをずらして中のホコリを、風呂場、トイレ、廊下などの水回りを入念に磨いていく。もっと時間がかかると思っていたがこれじゃ今日一日で大掃除は終わりそうかな?とマンジュウに感謝しながら苦笑しつつ、自室の掃除くらいは自分でする為に箒と塵取りを片手に自室の掃除に取り掛かる。

 

 俺は今充実感を感じていた。掃除が嫌いな人は多く、俺も普段であれば面倒くさいと感じていただろう。しかし、こうして自分の手で汚した物を片付けると言う事は心の底からスッキリ出来るのだ。心地の良い肉体の疲労に酔いしれながら今度は机の周辺を掃除しようと近づくと、ふと机の中から一通の手紙が目に入った。

 

 

(あれ……これって……)

 

 

 見覚えのある封筒。それはサディアから鉄血に帰還する前にザラさんから受け取った、サディア帝国の総旗艦、ヴィットリオ・ヴェネトさんの手紙であった。

 

「あー……色々あって読む間無かったからなぁ……」

 

 放箒を壁に立て掛けながら申し訳なく手紙を手に取る。鉄血に帰還してからゆっくりと読もうとはしていたのだが明石からシュペーの見ている前で受け取った指輪の件やロンドンとの会話。更にヒッパーとのデートの際の一連の出来事と忙しい日々を送っていた為にすっかりこの手紙の存在が頭の中から消え落ちていた。

 

「リットリオのアホは別としてヴェネトさんにザラさん元気にしてるかな……ビスマルクさんの演説はサディアに届いたと思うけどちゃんと説明してくれてるのかな?」

 

 

 時期にしてまだ1ヶ月も経っていないのにもう2年くらい前のことだと思てしまう、サディアでの日々は俺に色々な経験を与えてくれた。妹との再会やヴェネトさんとの会話。そしてあの海戦の後に自身の欠点に気がついた事や、『英雄』となる事を決める事など……思い出が蘇るたびにサディアでの日々が鮮明に思い起こされる。

 

 

 そんな風に感傷に浸りつつ俺は封筒を開けて中身を見る事にする。時間なら沢山ある。ずっと放置し続けた事を反省しつつ、俺は丸みを帯びた綺麗な文字で描かれたヴェネトさんからの手紙を読み始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓指揮官様へ。

 

 冬の寒さが本格的になり始めたこの頃ですがいかがお過ごしでしょうか?恐らく貴方は鉄血の母港でこの手紙をお読みになられていると思いますが、鉄血は寒い地域ですので冬は特に風邪などをひかない様に気をつけて下さいね。

 

 それでは、まず貴方にサディア帝国の総旗艦としてお礼改めて申し上げましょう、本当にありがとうございました。

 

 貴方がいなければサディア帝国はあの海戦に敗北し、イラストリアスの空襲によって甚大な被害が出てしまい、マルタ島の攻略所では無くなったでしょう。貴方がイラストリアスの艦載機を発見し、素早く迎撃を行ってくれた為に私たちは圧倒的な勝利を納め、イラストリアスとウォースパイト達だけを捕虜にするだけではなく、マルタ島攻略というロイヤルのクビキから解き放つことが出来ました。

 

 貴方は間違いなくサディア帝国の希望であり、『英雄』です。あの時、あの戦場で貴方の勇気ある広域通信が司令部に響き渡った時、私は思わず涙が出てしまう程に嬉しかったのですよ?鉄血は私達を対等な立場で見てくれている。

 

 そして貴方のお陰で私達は未来に向けて一歩を踏み出す事が出来たのですから。サディア帝国を代表して感謝させて頂きます。私達は受けた恩と恨みは決して忘れません、次に貴方が、鉄血が私たちの力が必要であると言ってくれるのなら私の全ての権限を使ってでも我らは同胞である鉄血の為に一肌脱ぎましょう。

 

 

 さて、本題に入ります。私が今回筆を取ったのは他でもありません。出来ればあのマルタ島の祝勝会で伝えたかったのですが、今ここで貴方に伝えなければならない事があります。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルブスト様、貴方の事が好きです。異性としてお慕いしております。

 

 

 

 

 

 

 この想いを伝える為、少しでも時間を取ろうとしたのですが、深夜にこの手紙を書く時間はあっても貴方と会う時間は多忙を極める為に難しく……こうして手紙という形で伝える事になってしまい申し訳ありません。

 

 私は貴方にロイヤルからの攻撃から救われた時から、いえ、正確には初めて会った時に一目見た時から好きになっていました。貴方を初めて見た時、私の心の中で何か熱いものが込み上げて来るのを感じたのです。それが何なのか最初はわかりませんでしたが、その正体は一目惚れだったようですね。恥ずかしながら私は恋と言うものをした事が今まで一度も無く、これが初恋だと言えましょう。

 

 貴方に最初に出会った時の事は今でもよく覚えています。鉄血艦隊の指揮官として、使者の代表として現れた貴方を一目見た時に私の心は貴方に奪われてしまいました。

 

 貴方の事が知りたい。貴方ともっと先の関係になりたい。貴方の事を考えるだけで胸が熱くなり、夜も眠れない程に貴方への愛しさが溢れてきます。あのテルマエで貴方の前で裸となって話しあいましたが、例え外交のためとは言え私は決して肌を殿方に軽々しく見せません。貴方だからこそ、貴方になら見られても良いから覚悟を決めて裸で会談に取り組み、恥ずかしさと同時に貴方が興奮してくれていた事を嬉しく思ったのも事実です。

 

 

 そして貴方への想いが溢れ、恋という気持ちが強くなったのは間違いなく『イオニア海海戦』のお陰でしょう。イラストリアスの空襲から貴方達「救国の艦隊」は必死になって迎撃し、祖国であるサディアを救ってくれた。ずるいです、貴方は本当にずるい人です。貴方はまるで物語の主人公のように華麗に祖国を救ってくれた、こんなのもう気持ちを押さえつけるなんて事はできるはずもありませんでした。

 

 

 

 

 もう一度言いますヘルブスト様、私は貴方の事が好きです。大好きです。

 

 

 

 私を貴方の物にして欲しい。貴方の妻にして欲しい。身も心も全て貴方に捧げる覚悟はできております。

 

 私はサディア帝国の総旗艦であり、貴方は鉄血の指揮官。決してこの恋がそう簡単なものではない事は百も承知です。

 

 ですが諦めません。謀略やハニートラップを疑うかもしれませんが、総旗艦として誓いましょう。私は貴方を愛しています。貴方に尽くしたい、貴方と結婚したい。貴方に抱きしめられ、キスされ、愛されたい。もし叶うのならば貴方との間に子供を授かりたいと思っています。どうか貴方の答えをお聞かせ下さい。私はいつまでも待ち続けます。

 

 

 愛を込めて

 ヴィットリオ・ヴェネトより。

 

 

 追伸

 

 鉄血のビスマルクにこの手紙を見せて頂いても構いません。ですがそれ以外の方々には絶対に内緒にしてくださいね?恥ずかしいですので……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜……」

 

 

 俺は手紙を机の上に置くと深呼吸と共にポケットの中に常備しているサディアで買ったチョコレートを口に含む。甘さが口の中に広がるが今はそれ以上に苦味の方が強い、あれこのチョコレートってビターチョコじゃなかったっけ?と思いながら俺は静かにベッドの上にダイブする。

 

 そして、笑顔で枕両手で掴むと全ての力を振り絞り、それを思い切り床に叩きつけながらもう一度深呼吸をした後に口を開く。

 

 

 

 

 

「どうすりゃ良いんだよ、こんなのぉぉぉぉ!?」

 

 

 

 絶叫した。

 

 

 

 それはもう絶叫した。

 

 

 

 

 心の底から絶叫した。

 

 

 

 

 いや待ってどういう事なの!?えっヴェネトさんが俺に惚れて……なんで!?

 

 どうしてそうなるの!!??意味わかんねぇよ!! 確かにサディア帝国とは友好的な関係を築きたいとは思ってたけどヴェネトさんに恋愛感情持ってもらえるような事をした覚えはないぞ!?

 

 しかもあのラブレターの内容だよ!初めの方は事務的な内容なのにどんどん甘酸っぱくなっていって最終的にめちゃくちゃ情熱的なメッセージになってるじゃねぇか!!!

 

 

 ふと義理の弟を思い出す。サディア人であり俺の妹と結婚した彼は妹とそれはもうラブラブで情熱的な関係を俺の前でも見せつけてくれたが、この手紙には義弟と同じ空気が何となく感じられた、サディアでは恋に落ちると情熱的に相手に自分の想いを伝える風習でもあるのだろうか?

 

 

 何て現実逃避を行なっていたが正直、もう、これは俺のどうにか出来る範疇やキャパシティを軽く超えていた。確かにヴェネトさんに告白されたのは嬉しい、あんなに優しそうで爆乳な銀髪美人に好きと言われて嫌と言える男はこの世界にほぼ居ないだろう。

 

 

 だが、まず立場が違い過ぎる。俺は鉄血の軍人でヴェネトさんはサディア帝国で貴族待遇で元老院にも出席している総旗艦。住む世界も違う上にお互い国が違う。更に言ってはなんだがキューブ適性を持つ指揮官は国の宝として手厚い待遇を受けているがその理由は他国に貴重な指揮官が流れない為だ。

 

 俺がサディアに住むといってもまず間違いなくストップが掛かるはず、そもそも指揮官である俺は特別な事情が無ければ本来海外に行くことすらも難しいのだから。

 

 

 何よりもお互いの事を何も知らないだとか、恋愛云々で浮かれている場合ではなくこの案件は下手をすれば国際問題に発展するだろう……例えば俺がヴェネトさんに付き合うのは無理ですと言えば下手をするとイオニアで深めたサディアと鉄血の友好関係が崩壊しかねない。

 

 

「どうすりゃいいんだよこれぇぇ……!」

 

 

 

 思わず頭を抱えながら宛名の間違いでは?と見直してもちゃんとヘルブストの名前はある。つまりヴェネトさんはリップサービスでも何もなく本気で鉄血軍人の俺を愛してくれて、ラブレターを送ってくれたのだ。

 

 

 

 あぁもうマジでどうしよう。

 

 

 こういう時こそ冷静になれ、クールに考えろと自分に言い聞かせるが思考は全くまとまらない。放置するのは間違いなく悪手で下手な返信も出来ない上に、そもそも俺も余りの急展開に感情がついていけない。

 

 

 

 ヴェネトさんが……あの爆乳美人なヴェネトが俺に……。

 

 

 

 思わずサディアで一緒に混浴した時の事を思い出してしまう。あれはヤバかった……本当にあれ以上二人でテルマエ外交を行なっていれば理性が保たなかったかもしれない。

 

 そんな彼女が俺のことを…… そして俺は鉄血の指揮官で彼女はサディアの総旗艦。立場の違いなどを理解した上で真剣に彼女は俺に告白してくれた。

 

 もし仮に……もしもの話だが彼女と恋仲になったら……彼女の柔らかそうな唇が、むっちりとした太ももが、なによりたぷん♡と揺れる爆乳全てで尽くしてくれて、あの彼女が俺のものになるのか…… ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ、全身が熱く、顔色は赤くなっていくのを感じる。

 

 

 

(落ち着け、何を考えているんだ俺は)

 

 

 頭を振って邪念を振り払う。性欲で考えるな、相手の気持ちと自分の気持ちを……なんて考える暇もなく、まずどうしようと再び頭を抱える。

 

 いっそ見なかった事にしようか?なんて最低な考えが頭に浮かぶが、勇気を出して告白してくれたヴェネトさんの覚悟を考えれば下手な返事は絶対にダメだ。

 

 

 ならどうする? やはり断るべきなのか? いやそれはあまりにも早すぎるし国際問題云々なだけで彼女の気持ちを踏み躙りたくない。

 

 じゃあ、受け入れるべきか? それもお互いを知らないのに早計過ぎる気がするが……いやしかし俺は鉄血で相手はサディアで……。

 

 堂々巡りを繰り返す。結局俺はこの問題は一人で解決出来るとは思えずヴェネトさんもビスマルクさんに読まれる事を前提に追伸をしているのだからと、情けない限りだが上司であるビスマルクさんに躊躇いながら手紙を片手に相談する事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程ね……どおりでサディアが三国会議を開く際はサディアを救った貴方を連れてきてほしいって言ってた訳ね……」

 

 

 そして翌日、俺はビスマルクさんにヴェネトさんからのラブレターを片手に相談しているのだった。ビスマルクさんは頭を抱えながらも納得していた。まぁ確かにビスマルクさんからしたらいきなり総旗艦様がこんな手紙送ってきたら驚くよなぁと思いつつ、とりあえずこの問題を解決するにはどうすれば良いかを相談したのだが、正直俺自身にも解決策は思いつかない。

 

 

「えっと……ちなみに三国で会談を行う予定は」

 

 

「今の所は無いわ。裏で繋がって色々と水面下で動いてはいるのだけどジャン・バールやヴェネトも忙しいのだから。とはいえこれは……本当にどうしたものでしょうね……」

 

 

 ビスマルクさんはラブレターを眺めながら腕を組む。

 

 

「……随分とあっさり信じてくれましたね」

 

「ええまあ…あなたにしてはどうしたものか、とは本気で悩んでいるようには見えたからかしらね?それにこんな事で嘘をついてもあなたに得がなさすぎるもの」

 

 ビスマルクさんはそう言いながら嘆息する。俺としてはそんなビスマルクさんには悪いが一人抱えていた秘密を正直に吐き出した為に安堵感があったのだが、安堵感だけで問題は解決しない。

 

「…それで、その…ラブレターまで渡されたのなら、返事などはもう書いているのかしら?まさか無視したりとかはないでしょう?」

 

「いえ……まだですけど……」

 

 流石にビスマルクさんも困惑気味で俺も恐る恐る答える。

 

 一応、何度も考えてみたが俺自身も答えは出てこない。ヴェネトさんが好きか嫌いかであれば間違いなく好きで彼女の様な方が恋人になればもう最高の人生と言えるだろうが……判断材料が、お互いの事をを知らなさすぎて恋愛以前にどう答えるべきか分からない。

 

 

 それどころか、そもそも俺は女性経験がない。今までの俺の人生に女性との付き合いは家族以外は無くキューブ適性があると決まってからはひたすら軍で学んでいた為に女性経験なんてあるはずもなく、最近はやっとシュペー達を俺にとって大切な存在であると理解したが、誰かと付き合った事もないのだ。

 

 

 つまり俺自身が彼女に対してどういう感情を抱いているのか全くわからない。だからこそ俺は彼女の告白を受けるべきなのか、断るべきか分からない上に下手に答えると国際問題に発展するのだから結局手紙の返信は出来ずにこうしてビスマルクさんに頼るしかなかったのだから。

 

 

「分からないんですよ……いや返事もクソもこんなんどうすればいいんですか?下手にやればサディアと鉄血の関わりにひびが入りますが……かと言って放置しすぎても間違いなく悪化していく一方でサディアで過ごしたとは言え俺とヴェネトさんはお互いの事を知らなすぎますし……」

 

「……難しいところよね。ただでさえ鉄血はサディアはロイヤルの件で友好関係を深めなければいけない時期で神経質になっているし……下手にサディアの機嫌を損なうような真似は出来ないのは確か。個人的にも私も異性と付き合った経験はないからあまり力になれないけれど……その、頑張って頂戴、ね?」

 

「何を頑張れって言うんですかこれぇ…」

 

 

 思わず座ってうなだれて俺はぼやく。しかしビスマルクさんには何も言わずに考え込む。ビスマルクさんだって男慣れしているわけでもないのにこんな相談されても困るのは間違いないだろうが、それでも鉄血の陣営代表として何をすれば良いのか一緒に考えてくれるのは少しだけ気が楽になった。

 

「手紙を信じるのなら何故惚れられたのか?と言っても、一目惚れからイオニアの件で深まったのだから貴方を処罰云々も出来ないし……そうね、貴方はヴェネトの事をどう思うのかしら?何も知らないのではなく、異性として魅力はあるかどうか、それだけでも構わないわ」

 

 

「……正直、魅力的だと思いますよ」

 

 

 ビスマルクさんの質問に俺は素直に答えた。ヴェネトさんが魅力的なのは否定しようのない事実であり、立場や国際問題や距離の問題などが無ければ喜んで俺は彼女の告白を受け入れていた可能性は高い。

 

 

「そう、ね……なら答えるのは先延ばしにして先ずは友人として手紙を出し合いお互いの事を知る事から始めてみなさい。そこから先の事はそれから考えればいいんじゃないかしら?」

 

 ビスマルクさんは俺の言葉を聞いて小さく微笑むとそう提案してきた。確かにそれは名案かもしれない。少なくとも手紙による交流を続けていればお互いにどんな人間かはわかるだろうし、俺としても色々と知ることが出来る。先延ばしに過ぎないのかも知れないがお互いを知った上でゆっくりと結論を出すべきなのだろうと俺もビスマルクさんの提案に頷いた。

 

 

「幸い明石の商船団が色々あってサディアと鉄血を行き来しているから今から手紙を書いて夕方辺りに明石に渡せば2〜3日でヴェネトに渡してくれるはずよ。手紙の内容はそうね……貴方自身の頭で考えてほしいのだけど、先ずはお互いに何も知らないから文通から始めましょうと書きつつ好きなものを聞いて見たり、ヴェネトには貴方は負傷中だと伝えてあるから体調が回復したと書けばいいと思うわ、一刻も早く書きなさい。この様子だとヴェネトは相当心配していると思うから」

 

 

 そう言ってビスマルクさんは執務室にあるレターセットとペンを差し出してくる。本当にこの人は頼りになる人だと感謝しながら俺は差し出されたそれらを受け取って頭をさげる。

 

「不安に思うかも知れないけど彼女は決して私怨で軍を動かしたりしない愛国者よ。『多分』貴方との関係が破局したからと言ってレッドアクシズの離脱や鉄血への攻撃を選ぶ様な女性じゃない……通信越しとはいえヴェネトと話して痛感したわ、もっと早くヴェネトとよく話していれば、鉄血とサディアの連携はもっと上手くいったのだから」

 

 

 

 

 

『私は。サディア帝国総旗艦(アンミラーリオ)ヴィットリオ・ヴェネトは。皇帝陛下の名の下に誓いましょう。私達は貴方を裏切らないと。例え戦局が不利となっても、上層部が何を言おうが全ての私の権限を使って最後まで共に戦うと』

 

 

 

 

 サディアに滞在中、ヴェネトさんが発した言葉と覚悟が脳裏に響き渡る。あの時、サディア帝国は鉄血と共に歩んでくれると判明して嬉しくて、だから俺は妹が住んでいる国だからでは無く、本心から優しく、大好きなこの国を守りたいと思えたのだから。

 

「何から何までありがとうございます、難しいと思いますが自分なりの答えを見つける為にヴェネトさんと手紙のやり取りをしてきます!」

 

 

 俺はビスマルクさんに感謝しつつ頭を下げて執務室を出て行く。これからどうなるかはわからないが、まずはヴェネトさんへの手紙を書くことから始めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……まさかあんな相談を受ける事になるとはね……」

 

 

 指揮官が退出した後の部屋の中でビスマルクは呟く。まさか鉄血軍人である自分が恋愛相談を指揮官から受けるとは思わなかったと苦笑しつつもこれからのことを考えると胃が痛くなる。

 

 ビスマルクは同じ「女」としてヴェネトの恋が本物だと文脈で判断していたのだ。だからこそこの二人の恋愛はどのような形であれ何れは決着をつける必要があり、ヴェネトの手紙の内容次第だが、もし二人が結ばれる結果になれば自分は祝福しなければならないと考えていた。

 

 そう、祝福を。kansenと人間である以上に総旗艦という地位であるヴェネトと、サディアの英雄である鉄血の英雄と化したヘルブスト指揮官が結ばれるのは外交的には大きな価値がある。政略結婚という言葉が頭に浮かび、二人の関係すらも外交の道具として冷徹に扱おうとしていた自分がビスマルクは嫌になる。

 

 彼らの行方がどうなるのかは分からない。しかしどのような結末を迎えても大切な守るべき同胞の一人であり、鉄血の為に尽くしてくれた忠臣が傷つかない様に自身の権限を使ってサポートしようとビスマルクは呟く。

 

 こうしてビスマルクはまた一つの重荷を背負うのだ。彼女は宰相より自身の為に生きてみろと指摘されているが、今の自分は戦争を引き起こした罪人であると自覚しており、自身の未来を考える余裕など無い。ただ祖国を守る為だけに、同胞の明るい未来と光ある道を歩む為だけに人生の全てを捧げているビスマルク。彼女は嘆息しながらもこうして鉄血と同胞の為だけに、後ろを振り返らずに孤独な戦いを続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 余談ではあるが後に指揮官はヴェネトとの手紙のやり取りを複数回行った後、他にビスマルクにケッコン済みの指揮官などから何かアドバイスが貰えないのか?と聞いたところ。

 

「既婚者の指揮官は前大戦世代の人ばかりで皆引退しているし、現役では一人だけ複数人とケッコンしている指揮官はいるけれど……貴方も知っている第二遊撃艦隊の指揮官は確かに艦隊の四人とケッコンしていて指輪を送っているわ。でもあの四人はあくまで家族であって恋人ではないと言っていたわね」

 

 そう、申し訳なさげにヘルブスト指揮官に語っていたのだが彼女は知らなかった。

 

 

 

 

 

「あっ、こらぁ♡がっつくなぁ……!オレの胸ばっか弄るのはやめろぉ…♡」

 

「だってレーベのおっぱい吸ってると落ち着くんだもん……お姉ちゃん♡レーベお姉ちゃん……♡」

 

「ふふっ、レーベばかりではなく私の胸にも溺れて下さいね指揮官……♡」

 

「グナイママぁ…♡」

 

 

 その言葉の裏で自身の腹心であるプロイセン指揮官は普通に四人と肉体関係であり、休暇中は5Pも珍しく無いという極めて淫靡な夜を送っていると言う事を。ビスマルクは軍事や政治や化学に関しては才女ではあるのだが恋愛面に関しては間違いなく節穴であった事に、彼女が気が付くのはまだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ロイヤルを貶める為の謀略を水面下で勧めているサディア帝国の総旗艦はようやく届いた想い人からの手紙を読んだ感想はと言えば。

 

 

「どうしましょうリットリオ……ヘルブスト様に貴方の好きな趣味や食べ物は何ですか?と聞かれたのですが、私が大好きなものはあなたです、なんて書いてもいいものなのでしょうか?」

 

 

「……流石にやめておいた方がいいんじゃないかな?」

 

 それはもう、乙女な表情で無事であった指揮官の現状を再確認して喜びつつ、想い人とペンフレンドになれた事に関して幸せを噛み締めており、妹であるリットリオはもうどうにでもなれと再び胃薬をワインで流し込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして指揮官達はヴェネトとの文通により、少しずつ明るさを取り戻しながら彼らはようやくロイヤルやセイレーンとの戦いから離れ束の間の休息を送っているが……世界は、そんなキール第三基地の面々を無視して進んでいく。

 

 

『これより我ら北方連合と重桜は軍事同盟及び、各種協定の締結を宣言!そして交戦中である鉄血公国、サディア帝国、ヴィシア聖座との戦いを講和によって終結させる事を宣言する!』

 

 白髪の北方連合の陣営代表ソビエツキー・ソユーズの突然の発表は世界に衝撃を与える。だがそれを嘘だと思う人は皆無であろう、樺太・サハリンで行われたこの記者会見にてソユーズの側には重桜の陣営、そして国家のトップである巫狐長門が決意を込めた表情でソユーズと同調するかのように口を開く。

 

『我らはこれよりイデオロギーや過去を乗り越え、共に人類共通の敵であるセイレーンとの戦いを団結して歩む事になる。アズールレーンの方々には突然の発表に混乱を与えた事に謝罪しよう。レッドアクシズの方々には我らが最早戦いを望んでいない事を理解した上で講和のテーブルに共に座る未来を祈ろう!』

 

 極東情勢複雑怪奇。後にエウロパ大陸各国からそう呼ばれる事になった宣言を聞き、レッドアクシズやアズールレーンだけではなく観測者達は余りの事態に興奮と困惑を隠せない。そして同時にクイーン・エリザベスは理解した。最早、自身の最後の希望であった真珠湾攻撃は果たせないと。過労とストレスでその発表中にエリザベスは嘔吐しながら、ロイヤルネイビーは作戦計画も大幅な見直しを行う必要があると判断する。

 

 

 

 

『『それでは発表させて頂こう!!共に歩む事を選んだ我らの名前は───』』

 

 

 

 

 極東で新たなる歴史が今始まる。

 

 

 




・ヴェネトの手紙
ずっと放置し続けていたヴェネトから受け取った手紙は読者の方々も予想している方も多かったのですが案の定ラブレターなのでした。

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1.割と事務的な感じの内容だった…後いつでもサディアに来てくれたら歓迎する、ってのはありがたいけど
2~3.…うん?なんかこう…甘酸っぱい感じがするような…
4~9.ラブレターじゃねえかこれー!?→確定
10.………サディア語わかんね!!!

 これを見て指揮官は最早自身でどうにかするなんて考えずにビスマルクに相談。その結果まずはお友達かとヴェネトとペンフレンドとなり、明石の船団を経由して少しずつ彼等はお互いの事を知る為に手紙のやり取りを行います。そして謹慎中、人との温もりに飢えた指揮官にとってその手紙のやり取りは間違いなく心の支えとなったでしょうね。


・プロイセン指揮官
 度々登場するビスマルクの腹心であるプロイセン指揮官、彼はビスマルクには私達は家族であると説明してはいるのですが、やはり彼も14歳と言う事もあってグナイゼナウ、シャルンホルスト、Z1、Z2と既に肉体関係に。というか元ネタの裏設定では精通を迎えていなかった指揮官をグナイゼナウとシャルンホルストがケッコンしたその夜に寝巻き姿で夜這いを仕掛けた結果精通してしまい、その夜は手を出さずに保健体育の事なんて知らない指揮官と保健体育の勉強をしばらく真面目に行った後、そこから皆とやる事はやる関係となるのでした。
ちなみにコンドームは身につけています。どこぞの北方連合やアイリスのバカとは違いゴムの重要性は理解しているのですから。

・重桜と北方連合
 この二カ国に関してはまた次回、そして再びアンケートを行います。
内容は原作では存在しなかったこの二カ国の軍事同盟の名前は何がいいか。期限1月31日まで、その後投稿される二カ国の裏を描いたお話にて発表させて頂きます。皆様のご協力をお願い申し上げます。

 コメント、評価、そして、アンケートへのご協力をよろしくお願いします……

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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