12月31日。クリスマスに行われたロイヤルへの30万人の捕虜返還作戦も終えたキールの街では作戦に参加した鉄血海軍の将兵やkansen達も既に帰還しており、一大作戦を終えた彼らは年越しの宴を楽しんでいた。ある者は恋人と、ある者は家族と、ある者は友人と……様々な形で今年最後の時間を過ごしているだろう。一年の総決算ともいえるこの日、俺は当たりが暗い闇夜の下で手紙を書く為に頭を悩ませていた。
勿論相手はサディア帝国の総旗艦のヴェネトさん。未だに信じられないが俺は彼女にラブレターによって告白されており、まだお互いの事を知らない事もあって一度文通しあってお互いの事を知ればいいとビスマルクさんからのアドバイスを頼りに、俺は彼女と何度か手紙のやり取りを行なっている。
今から思えばイオニア海の戦い以外鉄血とサディアの関係はまさに蜜月関係となっているとは言え、なぜこうも早いスピードで手紙のやり取りが出来たのかといえば、輸送作戦の為に綿密な打ち合わせが必要であるが為にそのついでとして手紙を明石がついでに送り届けてくれたんだろうと今ならわかる。
カリカリと手紙を書く音は薄暗い私室の中で響き渡り、インクの匂いに鼻腔がくすぐられる感覚を覚える。こうして手紙を書くなんて経験はヴェネトさんとの文通を始めるまでは皆無だったが謹慎中であり、必要以上に他者とのやり取りが禁じられている今の俺にとっては、彼女との文通は唯一の楽しみだと言っていいかもしれない。彼女との手紙のやり取りは仲間と会うことが出来ない孤独感を紛らわせてくれる大事な存在になっていたからだ。
「……よし」
ペンを置いてゆっくりと深呼吸を行う。何度も書き直したせいか便箋には書き損じの跡があり、それでも何とか書き上げた文章を読み返す。内容は特に問題ないはずだ。後は封筒に入れて宛先を書いて明石に渡せばきっと手紙をは彼女の元に届くだろう。女性との手紙に頭をフル回転させたせいか少し疲れたが、甘いチョコレートを口に放り込んで糖分を補給する。うん、美味い。
彼女との手紙のやり取りをするのは合計でこれで3回目だ。と言ってもその内容はひたすらにお互いのことを知る為に色んなことを。例えば好きな食べ物とか嫌いな物とか、趣味を手紙に書いてそれをお互いに送り合った。俺が質問すれば彼女が次の手紙で答えてくれて、彼女が尋ねれば今度は俺が答える。そんな感じのやりとりを続けて、少しずつお互いに相手の事を知ることが出来た気がする。
何よりも、雲の上のような存在と思っていたヴェネトさんだが、結局の所あの人もごく普通の人間である事がわかった事が何より感慨深かった。
12月25日に行われた占領地であるマルタ島に住む約30万人もの住民達を捕虜返還という名目で実質的な強制移住させるという大規模な計画に対して、彼女は主導的な立場となり見事作戦を成功させてロイヤルの内情に致命的なダメージを与えた。だが、同時にその2日後に届いた俺への手紙ではヴェネトさんは酷く落ち込んでいたのだ。
『後悔はしていません。これがサディア帝国の未来の為であるのならと私はマルタ島の恒久支配の為にその地に何百年も世代を重ねて住まう人々の生活を崩壊させる事になったとしても、それがサディア帝国の為になるのなら私は躊躇う事はありませんでした』
『ですが今になって夜は眠れなくなりました。30万人もの人々の不幸のどん底に叩き落とす命令にサインをしたのは私であり、彼らの怨嗟の声で悪夢を見るようにもなりました。私が彼らに与えた恐怖は決して消えることはないでしょうし……目が覚める事にとても苦しくて、胸が張り裂けそうになります』
『私の決断は正しかったと皆は認めてくれました。しかし、どの様に美辞麗句を眺めても私は彼らを不幸にしてしまった。男性も、女性も、老人も、子供も、約30万人の老若男女を無理やりに故郷から引き離して新たな土地へと連れ去ったのですから。彼らは今どうしているでしょうか?彼らは私を許すことはありません。そして、私もまた彼らが許してくれるとは思いません……私の行動の結果サディア帝国とロイヤル王国との関係は仮にこの戦争が終わったとしても憎悪に満ちたまま続くことになるでしょう』
『ヘルブスト様。私は貴方の事を愛しています。しかし、同時にこの様な作戦を実行した私を貴方はどう思うのでしょうか?私は最低な女です。強制移住の結果多くの人々を不幸にしたと言うのに最も恐ろしい事は貴方に嫌われる事なんですから。こんなにも弱い私をどうかお許しください。愛しています。心の底から貴方を。例え悪夢に苛まれようとも忘れることは出来ません。これからもずっと貴方を想い続けます。だから、だから、もしも許されるのならば、いつかまた貴方に会える事を夢見ております』
俺はその手紙を読んで、彼女がどれだけ重い責任を感じているのかを理解した。彼女は今までは楽しそうにお互いの事を知る為の手紙を書いてくれたと言うのに、前回受け取ったその手紙には彼女の恐怖や苦しみが書き連ねられていた。
あの強制移住作戦に関しては軍人として、この戦争を終わらせる為の策略としては見事と言う他ないが、彼女はそれまでの軍人やkansen同士の戦いから民間人をターゲットとした今回の大規模作戦に苦悩していた。
サディア帝国総旗艦として冷徹な判断が出来たとしても、ヴェネトさんという個人はどこまでも普通の人であり、だからこそ俺はその手紙を貰ってから彼女を何とか元気づけたいと必死に考えていた。
まだ……俺は、あの人を魅力的だと思っていても異性として好意を抱いているのかどうかはわからない。ただ、俺はあの人を支えたいと、お互い所属陣営こそ違い俺は全てを捨ててサディア帝国に移籍する事は不可能だとしても、せめて手紙で慰めたいと思った。謹慎中、俺はあの人の手紙によって救われた。だから、今出来る精一杯の事を手紙に書き綴ったんだ。
マンジュウが用意してくれた甘ったるいココアで喉を潤しながら、手紙を机の上に置いて窓の外を眺めればそろそろ年越しも間際で花火が打ち上げられていた。ああ、もうすぐ今年も終わりか……。
「……外の空気でも吸うか」
寝巻き姿のままコートを羽織ると、そのまま部屋を出ていく。時刻は既に日付が変わる頃で、廊下は静まり返っており、窓から見える港では雪がちらつき始めていた。
外に出れば寒さが身に染みるが、それでも今の俺にとっては心地よい。冬の冷たい風に晒されながらゆっくりと深呼吸を行い浜辺まで歩くと、そこに座り込んでぼんやりと海を眺め始める。
よく考えるとこうしてゆっくり海を眺めるのは着任以来初めての経験かも知れない。いつも仲間達と海で戦っていたし、それ以外は執務室で書類仕事に追われてばかり。休日だって毎回大講堂で学んでいたり、サディア帝国のホテルで缶詰生活と海を眺める余裕もなかった。
夜の海は真っ暗だが、波の音だけが静かに響き渡り、ゆっくりと時間が過ぎていく。着任してまだ半年も経っていないというのに今年は俺の人生の中で間違いなく最も密度の濃い一年と成り果ててしまった。
着任1日目の戦いは三つ巴となり死にかけた。
レス島での戦いは第二遊撃艦隊の援軍さえ無ければ死にかけていた。
ピュリファイアーとの交渉ではもしも相手にその意図がなければ死にかけていた。
サディア帝国ではリットリオに脅されてヘタをすれば死にかけていた。
イオニアの戦いもイラストリアスの奇襲攻撃が成功していれば。彼女を救う為に海に飛び込んだ時も。ウォースパイトが最後まで抵抗していたとしても俺は死にかけていただろう。
さらに鉄血に戻った時だってヒッパーと出かけた時に2回もロイヤルのスパイと遭遇して発砲された結果足が血だらけになり、その後の追撃戦ではピュリファイアーとの交戦で死にかけて……
「……俺って何で生きてるんだろうな……」
本当よく俺死んでねぇな!?呪われているんじゃないかってレベルで、ロイヤルと関わったら大体死ぬ思いしかしていないぞ!? 今さらながら自業自得部分もあったとは言え我ながらよく生き残れたなと嘆息する。間違いなく俺が生き延びたのはベテランであり俺の稚拙な指揮でも自己判断で動いてくれるグラーフ達のお陰だ、その事を決して忘れないようにしなければ。
良い思い出も、苦い思い出も沢山ある一年。とにかく俺は生き延びた。そして今日は大晦日。明日には新年を迎えようとしているわけだし、このまま平和に過ごせるといいなぁ……無理かな?無理だろうな……
「ロイヤルも追い詰められているし、エリザベスさえ失脚すればこの戦争は多分終わる。終戦まで生き延びて今度こそクリスマスも年末も皆で過ごさないとな」
重桜と北方連合が単独講話を選択し、ユニオンがあそこまで腰が重いのであれば後はロイヤルさえ打倒すれば戦争は終わる。外交的に追い詰められて孤立しているとは言えロイヤルは油断できない。願わくば血を流さずに講話が成立して欲しい願いながら腕時計を見ればいつのまにか時刻は12時を回っていた。
暗い浜辺で海を眺めながら一年の始まりを迎え、いっそこのまま今夜は徹夜で初日の出を拝むのもいいかもと思い始めたその時だった。
「んっ……?」
水平線の向こう側から何かが近づいてくる。それはもう猛スピードで何かがこっちに向かってくる。最初は潜水艦の類いかと思ったが、それならばもっと静かに接近してくるはずだ。ならばあれは何だと思っていると、その正体はすぐに判明する。
シュモクサメを模した艤装に跨った少し紫色の肌をした少女が満面の笑みでこちらに突撃してくる。
あぁそっかー、ビスマルクさんもアイツの生命力はゴキブリみたいなものだからすぐに復活するから気をつけなさいとか言ってたな。うんうん、懐かしい顔に出会えて俺も……何て感慨深く感じるするまでもなく。
「またかよぉぉぉぉ!!!!!」
「まただよぉ!ヒャッハー!!」
ザパァ!!と海面ギリギリから突っ込んできたそれは一直線にこちらに向かってくる。一回目と二回目はグラーフが蹴り飛ばしてくれたが今は俺一人だ。グェー!!と間抜けな声と共に俺は衝撃によって吹き飛ばされ、そのまま浜辺を転がっていく。
「あれ?やっぱりヒト単体だと避けられないものなのかな?」
激痛に耐えながらこちらに突っ込んできた上に呑気な事を口走るソイツに思わずぶん殴ってやろうかと思うが、残念ながら今の俺にはそんな余力はない。そもそもこんな深夜帯に一体何しに来たんだよお前は!!
「無茶言ってんじゃねぇよ!というか生きてたんだな……ピュリファイアー」
「ボディの再生にちょっと時間はかかったけどね?たくっ、あのグローセとかいう奴覚えてろよクソが……!」
俺が苦い顔をしながら彼女にそう話せばフレンドリーかつ怨嗟の声混じりに彼女は答える。人類種共通の敵であると同時にそれまで何度か俺達に情報を与えるメッセンジャーとして現れた人型セイレーン。スパイ追撃戦でグローセさんに粉微塵にされたあいつが……ピュリファイアーが生きていたのだ。
本来鳴るはずの警報も鳴らない辺り相手には高度なステルスシステムがあるのだろうと、また一つビスマルクさんに伝えるべき情報を頭の中にいれつつ、ピュリファイアーと俺は向き直る。俺を殺そうと思えば幾らでもそのチャンスはあったと言うのに相手にその気配がない以上、こちらも戦闘の意思は無いことを態度で示す。
……今まではグラーフ達が常に側にいてくれたが、謹慎中である今は俺一人だ。正直恐怖を感じ、この会談で俺は絶対的に不利ではあるが少なくともピュリファイアーは俺を殺すつもりは無さそうだし、まずは話を聞こう。もし彼女が俺の命を狙っているならわざわざこんな真夜中に姿を見せる理由もないのだから。
「……と言うか何しに来たんだよお前は……」
今は稼働してないとはいえこの基地の周辺にはサディア帝国の軍人や明石が連れてきた護衛、更にシェフィールドのようなスパイが鉄血に侵入していた事もあって周囲を警戒しながら彼女に尋ねる。
「えっ暇つぶしだよ?」
「……はい?」
あっけらかんと、まるで今日の天気を聞くようなテンションでピュリファイアーは答えたが、こっちとしては理解不能だ。
「いやそれは冗談としてこっちもちゃんとした理由があって………あれ?何だっけ?」
「おい!!」
ふざけてるのかと問い詰めようとしたが反応を見る限りマジで忘れてるぞコイツ……!首を捻って「やっべ…」と冷や汗をかいている彼女を見る限りどうにも嘘をついているようには見えない。いや本当何しに来たんだよこいつ!!
「いやー、悪いねぇ。ようやくボディが再生出来たんだけど新しい身体にまだ慣れてないんだ。いやなんだっけ……?」
「いやそんな当たり前みたいに俺に聞かれても……」
俺達こんな奴ら相手にもう50年以上戦い続けるのかと脱力感に苛まれながらも、一度死んだ人型個体であってもボディが再生すれば記憶を受け継ぎ、更に復活直後は記憶の混濁などの症状もあるとまた一つセイレーンについてビスマルクさんに伝える知識を蓄える。
「まぁいいか、思い出したら連絡するよ」
「お、おう……じゃあ気をつけて帰れよ……?」
「はいはーい、またねー」
それだけ言うとピュリファイアーは再び猛スピードで海の方に走り去っていく。何だったんだあれ……と脱力しながらその事を伝えるべく急いで基地に戻って本部に通報しようとした所で。
「あー!!思い出した思い出した!!」
ピュリファイアーはそう叫びながらまた俺に向かって艤装を走らせてバカみたいなスピードで突撃してくる。また吹き飛ばされた俺はまた浜辺を無様に転がり、お前本当いい加減にしろよ!!と文句の一つでも言ってやろうとすれば、まるで天気の話しでもするような口調でピュリファイアーは俺に告げた。
「このままだとさ、ビスマルクが死ぬかもしれないって話だね。いやーやっと思い出した!それ伝えにここに来たんだよ私は!」
「……はっ?」
一瞬で空気が凍りついたのが分かった。ピュリファイアーの言葉の意味が分からず、思考がフリーズしてしまう。そんな俺の様子など知ったことかと言った様子でピュリファイアーは話を続ける。
「待て、どう言う事だ?」
「うんうん、シリアスな表情になってんじゃないの。そっちにとっては陣営代表が死ねば大混乱に陥るからまぁ当然かな?」
思わず睨みつける俺を尻目に、ピュリファイアーは一切気にする事なく、じゃあ話は終わったと言わんばかりに背を向ける。
「おい!まだ話しは終わってないぞ!どう言う意味なんだよそれ!!」
「うーん?これ以上は君に教えられないかな?この情報をどうするのかは君次第。君の判断によってはビスマルクの明暗を分けるだろうさ」
ピュリファイアーはニヤニヤと笑いながら嘲笑するように言葉を紡ぐ。意図が、意図が分からない。セイレーンがビスマルクさんを暗殺しようとするのであればわざわざ俺に伝える必要もなく、不気味すぎる。だが俺に情報を伝えていると言う事は……? 考えろ、考えるんだ……何か意味があるはずだ。ビスマルクさんの明暗を分けると言うことは……。
「いいものも見れたし、情報も教えてあげたから今日はここまでにしといてあげる」
「…いや、待て、それだけ俺に教えて何を…!?」
「だって、今のキミに教えたところで困ることなんて無いしね?寧ろ面白いことになりそうだ……キミの想像通りになるかどうかはこの後でのお楽しみ。果たしてこの『枝』が喜劇か悲劇のどちらになるのかをこっちも楽しみにしておくよ。闘争の果てまで駆け抜けろ人間!私のお気に入りの玩具!それではごきげんよう。楽しく愉快な闘争を、ってね!ふひゃはははは!!」
狂ったような高笑いと共にピュリファイアーの姿は完全に消え失せてしまう。残されたのは静寂だけ。ただ波の音だけが響く砂浜に呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
情報が余りにも、余りにもデカイ上に不確定過ぎる。考えろ、相手の意図を読め。相手はこちらの戦力を削ぎたいのか、それとも……。
「いや……まてよ」
それまでのピュリファイアーの行動を振り返ってみる。2度目の接触で彼女はサディア帝国でそちらが作戦行動を起こすのであれば私たちは邪魔しないで黙認すると言っていたが、その後イオニア海海戦が始まった辺りピュリファイアーは、セイレーンはロイヤルが港湾奇襲攻撃を実施しようとしていたのも、サディア帝国が騙し討ちを仕掛けようとした情報も得ていたはずだ。その真意はスパイ追撃戦で明らかとなった。
『ダメダメ!君みたいな子は面白いけどさ!ここであの二人には沈んでもらって泥沼になって貰う必要があるんだから!!』
『あそこでイラストリアスかウォースパイトのどっちかをキミ達が対処してくれるって期待してたんだけどさ、ちょっとキミは働き過ぎたよ。まさか両方助けて更にマルタ島から逃げる奴らまで捕縛されるなんて君と総旗艦サマの行動は想定外にも程があったかな?まぁ結果として世界は今までにないくらい面白い事になってるんだからこっちとしてはこの結末も万々歳なんだけどね!!』
ピュリファイアーがこちらに情報を伝えた理由。それはサディア帝国に奇襲攻撃をかけるロイヤルネイビーを阻止した上で実行犯であり。クイーン・エリザベスの側近の一人でもあるイラストリアス、ウォースパイトのどちらかを俺達が殺す事により、戦争が泥沼化する事を望んでいたからだ。
だが、その企みはイラストリアスとウォースパイトだけではなくマルタ島に所属する全てのロイヤルネイビーの軍人が捕虜となるという結末により阻止。作戦はレッドアクシズの大勝利に終わり、恨みを糧に泥沼になるどころか完全敗北の結果クイーン・エリザベスの責任問題に発展しただろう。
スパイ追撃戦の際に現れた時は逃亡するシェフィールドとエディンバラを彼女が殺害する事により、鉄血とロイヤルを憎しみ合わせ、戦争の長期化を狙っていたように思える。その結果はスパイ二人が投降する事によって阻止されてしまい、その後のビスマルクさんの演説やマルタ島の30万人の民間人の返還によって最早クイーン・エリザベスの地位はいつ失墜してもおかしくない程にロイヤルを外交的に孤立させる事に成功した。
二度のセイレーンの策略は全てレッドアクシズとアズールレーンのこの戦争を泥沼化させて、憎しみのままに長期化させるのが目的だ。だがロイヤルは坂道を転げ落ちるかのように失態を重ねて孤立し、更に北桜同盟の単独講話やユニオンの動きを見る限り、徐々に追い詰められて最早エリザベスに全責任を被せ、傷が深くならない内に講話を選択してもおかしくないだろう。
しかし、理由は不明だが戦争の長期化と闘争を望むセイレーンにとって今の状況は芳しくない事は明らかな筈だ。それではセイレーンは次にどうすればいいのだろう?戦争の長期化と闘争を望むセイレーンにとって最も都合のいい展開は……。
「まさか……ビスマルクさんをロイヤルに殺害させる事でお互い殺し合う盤面を作り出し、そのまま泥沼になる事を望んでいるのか……?」
ふと閃いたその状況を予測すれば、冷や汗が止まらなくなるが、そうなれば全て辻褄はあう。セイレーンが裏でロイヤルと手を結んでいる可能性だって俺達鉄血海軍との接触を見る限りゼロではない。セイレーンはただロイヤルの謀略の情報を掴んでいるだけかも知れないし、最早地位が崖っぷちなエリザベスにピュリファイアーが唆している可能性もある。
あくまで可能性の一つであって、確定情報ではないがもしビスマルクさんがロイヤルによって殺害されれば……レッドアクシズは間違いなく激怒するだろう。
現在は彼女が抑え込んでいるが、ロイヤルにフラストレーションを溜めているタカ派の鉄血軍人は少なくはない。ビスマルクさんはリミッターであると同時に多くの鉄血国民から慕われている。そんな彼女が仮にロイヤルによって殺されでもすれば間違いなくタカ派によって鉄血海軍は支配され、ロイヤルを滅ぼす勢いで無条件降伏以外は認めないと徹底抗戦に舵を切ってもおかしくは無い。
同胞愛の強い鉄血海軍は卑怯な事や卑劣な事以上に、仲間を害される事を何よりも嫌う。更にプロパガンダによって反ロイヤル感情が高まりつつある今サディア帝国とヴィシア聖座も同調する可能性が高く、そうなればエリザベスの首を差し出されても「はいそうですか」とレッドアクシズは素直に拳をしまう事なく、ロイヤルとの戦いは終わらず、憎悪のままにセイレーンが望む闘争に発展し、泥沼化するのは間違いない。
「どうすりゃいいんだよこんなの…!!」
最悪の可能性が外れてくれる事を願おうとしても、ピュリファイアーの闘争発言とビスマルクさんの暗殺計画。そして先程の狂ったような高笑いがそれを裏付けてしまっている。
何もしなければビスマルクさんはピュリファイアーかロイヤルによって殺害される可能性があるが、情報が不足し過ぎている為に対策のしようがない。今出来る事は一刻も早くビスマルクさんにこの情報を伝えて今後の動きについて相談する事だけだ。
動悸が激しくなり、焦燥感が募る。このままではまずいと分かっているのに、情報が少なすぎて打つ手が思いつかない、俺は頭を掻きむしりながら、とにかく今はビスマルクさんの元に戻ろうと新年早々足を動かす速度を上げるのであった。
ビスマルク追撃戦。
ロイヤルネイビーの戦艦フッドを一撃で轟沈させたビスマルク相手に総力を上げてロイヤルネイビーが挑んだ戦いであり、ロイヤルネイビーは報復の為に動員可能な戦力全てによって孤立するビスマルクを轟沈させる事に成功する。
その姿はまさに恨み骨髄のロイヤルによるリンチであったと言われており、空母アークロイヤルによって足を破壊されたビスマルクはその後戦艦ロドニー、戦艦キングジョージ5世を中心とした部隊に死の直前まで、まるで嬲られるかのように攻撃され続け、最後には主砲と副砲を破壊され、機関部を徹底的に破壊されても攻撃は止まず、最後の重巡ドーセットシャーによる魚雷攻撃によって轟沈するまで彼女は蹂躙され続けた。
ある『枝』においてはフッドが重傷ながらに救出され、その後ビスマルクも彼女の騎士によって生存した為にお互い恨みこそあれど、それを一度は捨て去り、人類種の敵であるセイレーン相手に休戦協定を結ぶ事に成功した。
だが、もしも、フッド卿が死亡していれば。もしもU-556がビスマルクの救出に失敗していれば。或いは両方失敗していれば、鉄血とロイヤルの溝は決定的なものとなり、憎悪のまま仇討ちの為の戦いが始まり泥沼化したであろう。
栄光を汚されてフッド卿を殺されたロイヤルと、同胞愛の塊であり鉄血のために常に戦い続けた陣営代表のビスマルクを殺された鉄血。お互いを許すはずもなく憎しみのままにセイレーンそっちのけで戦い続けていた可能性もあるだろう。
そして、クイーン・エリザベスは……その未来を。全て、知っているのだ。自らの女王号令の能力により、あり得た未来ではフッドとビスマルクが死亡する事で起こる戦争の泥沼化を知っているからこそ、彼女は最後の賭けを行うべく運命の地であるデンマーク海峡にビスマルクを呼び出すべく使者を秘密裏に派遣していた。
「講話に向けた話し合いを行うとでもいってビスマルクを呼び寄せれば、恐らく和平を望んでいる彼女はやってくるはずよ。そしてフッドが『突然』爆発すればそれは鉄血が講話会議の最中銃を向けたと大義名分となる……」
クイーン・エリザベスは一人、目を爛々と輝かせて作戦計画のための準備を行っていた。植民地海軍より少しずつ抽出したロイヤルのkansen達をそれぞれグリーンランドとアイスランドに秘密裏に潜ませておき、話し合いの最中フッドがビスマルクによって砲撃されたかの様に装わせる。
そして『史実』によってビスマルク追撃戦に参加したメンバーでビスマルクを殺害したと同時に、間髪入れずに追撃戦に参加しなかった面々によってビスマルクというリーダーが存在しない、キール本部に強襲をかけて決戦を挑み、サディア帝国とヴィシア聖座が行動を起こす為に混乱する鉄血海軍を粉砕する事で降伏に追い込む。それこそがエリザベスに残された唯一の勝機であった。
余りにも無謀な作戦ではあるがロイヤルネイビーの戦力は豊富であり、ビスマルクというリーダーを失った鉄血海軍であれば総力を結集すれば決して艦隊決戦で負ける筈はない。それまでは王家の戦士達が傷つく事を惜しみ、同時に『再現』スケジュールが狂う事を嫌ったクイーン・エリザベスによって艦隊決戦案や鉄血の本拠地強襲作戦は反対されていた。
しかし、最早『再現』がビスマルク追撃戦以外は期待出来ず、このままでは座して死を待ち、ロイヤルが世界から孤立する絶望の未来しか残されていない現状では、彼女はあらゆる犠牲を払ってでも勝利を掴むしかないのだ。
「仮にビスマルクがデンマーク海峡に現れなければ、それはそれで好都合。ロドニーやジョージも含めたロイヤルネイビー全ての艦隊で鉄血海軍を粉砕してやるわ……!」
メラメラとエリザベスの目には憎悪の炎が燃えていた。鉄血海軍はロイヤルネイビーを余りにも追い詰め過ぎた結果、エリザベスは最後の決戦に挑む事を決意したのだ。ロイヤルを『悪』と呼ぶのなら鉄血は『正義』であり、捕虜の命を人質にするなど卑怯な事もできないはずだと説得した事により、フォーミダブルといった捕虜の家族達もこの作戦に参加する事を了承した。
乾坤一擲で後のないロイヤルはこの決戦に命をかけて、勝利と栄光を掴もうと最後の作戦に向けての準備を着々と進めていくのであった。
負ければ最早ロイヤルに未来はない。しかし、どれだけ傷ついても勝利さえすればあとはどうにでもなる。議会の人間は30万人の国民を本国に送る為に動けと命令していたが、それさえも植民地海軍を最低限の戦力を除いて本国に結集するための手段としてエリザベスは利用する。既に重桜が不戦を表明した以上、『再現』の為に派遣していた面々をわざわざアジア方面で遊ばせる理由も無くなったのだから。
当初は傷つく王家の戦士達の犠牲を最小限に抑え、未来でロイヤルが覇権を握るための戦いであったが、今はロイヤルの未来の為に王家の戦士をすり潰してでも勝利を得なければならない現状にエリザベスの胸には強い決意が生まれていた。
「勝たなければならないのよ……ロイヤルは、絶対に!!」
その様子はまさに獅子の如きであり、女王陛下と呼ばれるに相応しい覇気を纏っている。追い詰められた獅子は最も恐ろしいという言葉があるが、今の彼女こそ正にそれであった。女王は祖国の未来の為に全ての汚名を背負い、王家の戦士達はそんな女王の決意を汲み取り、彼女の望む結末を迎えるために己が全てを捧げようと覚悟を決める。
「……本当に、馬鹿らしいですわ」
決戦に向けて秘密裏に覚悟を決めるロイヤルネイビーを見て、青髪の少女は心底どうでもいいと言わんばかりに、失望した様子で溜息を吐くのであった。
・ヴェネトの手紙
指揮官とヴェネトは個人的な手紙のやりとりを複数回行っていますが、割と赤裸々なやりとりをしていました。指揮官の頭の中には仮にビスマルクがロイヤル、もしくはセイレーンによって害される可能性があるのならサディア帝国に個人的に頼むと言う最後の手段を取る事も出来るのですが、国ではなく個人で同盟国を動かす事はあくまで最終手段です。
・ピュリファイアーの意図
彼女の意図としてはこのままビスマルクが死ぬのを眺めているのも、蠱毒という観点からみれば正しいのですが、より大きな泥沼を望む為に指揮官と接触を果たすのでした。
ちなみにダイスの流れは
遭遇ダイス
dice1d8=8 (8)
1.寮舎の改造
2.購買部を見に行く
3~6.KAN-SENが会いに来た?
7.捕虜の様子、見に行くか?
8.ちょっと海風に当たるか
何しに来たの?
dice1d10=3 (3)
1~3.……なんだっけ?
4~6.この前のと合わせて、少しだけ情報教えてあげようかなってね?
7~9.ああそうそう、ちょっとした贈り物かな
10.*おおっと*
問い詰める指揮官
dice1d10=10 (10)
1~3.…まあ忘れたなら大した用事じゃなかったんでしょ!
4~6.ああそうだ、情報だったね
7~9.…何か渡すんだったような…?
10.*おおっと*
ファンブル
dice1d10=5 (5)
1~3.命を取りに来た!って言ったら、どうする?
4~6.ああそうだ…このままだとビスマルクが死ぬかもって話だね
7~9.…そういえば、こいつの服装ヤバくない?
10.*おおっと*
更に問い詰める指揮官だが…
dice1d10=6 (6)
1~3.『不幸な事故』が起きるかもしれないから注意はしといた方がいいよ?
4~6.これ以上は教えてあげない
7~9.流石に過労とかで倒れられるとこっちも色々困るんだよねー
10.*おおっと*
そして指揮官の反応は
dice1d10=10 (10)
1~7情報が断片的すぎる、話せない
8~9.ビスマルクにだけ、通してみるか?
10.*おおっと*
dice1d10=8 (8)
1~3.…ブチ撒けるか?
4~6.ビスマルクと…グラーフの二人ならどうだろう
7~9.…前のといい…まさか、このまま泥沼にでもする気か?
10.*おおっと*
とピュリファイアーの接触から指揮官がピュリファイアーの意図に気づくまで全てが低確率の選択肢を引いた結果であり、悪運90をまた発揮したのでした。
・陛下の意図
当然ですが陛下としてこのビスマルク追撃戦の『再現』と鉄血本部の奇襲作戦はあまりにも無謀であり、議会を無視した計画は本来の陛下であれば実施する事はなかったでしょう。しかし余りにも追い詰められ、最早敗北を待つだけであった陛下にとってはこのビスマルク追撃戦の再現は最後の希望であり、時間的に残された最後の勝機。例え多くの王家の戦士が死なない為に引き起こした戦争とは真逆の道に進もうとしていたとしても、敗北という全てが、ロイヤルの未来が閉ざされる未来だけは阻止する為に彼女は最前線で指揮を取るでしょう。そして王家の戦士達の『ほとんど』は忠義と陛下の覚悟によってただ、彼女に従うでしょう。
次回はとある青髪の少女からみたそんなロイヤルを描きます。
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指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄