鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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番外編 十六話 王家の特別計画艦

 

 

 権威を第一とするロイヤルネイビーのkansen達はそれぞれ階級によって生活の質に変化が生じるが、それでも一般階級のkansenであっても一般的な軍人以上の待遇である事は間違い無いだろう。個室が与えられて食事も貴族階級と比べると差はあるものの満足感を得られるものであり、軍規さえ守れば基本的に自由が認められているのだ。

 

 

 食事が最も分かりやすいがこの差は各国のkansenによって違っており一般的に鉄血、ヴィシア、ユニオン、北方連合などは明確な権力の差はあれど食事などもそこまで格差は存在せず、反対に自由アイリス、サディア帝国、重桜、ロイヤルは明確に食事に差があるといえるだろう。

 

 

 ロイヤルネイビーの上流階級ともなると子羊や鹿などの肉を使用した料理からフルーツや生野菜といったものまで様々なものを摂取する事ができる。望めばメイドや従者達にケーキや紅茶などを用意してもらう事と可能であり、とりわけロイヤルの王族、貴族階級のkansen達は個人的な私有地、別荘の保有などもクイーン・エリザベスの国内の政治的な働きかけによって許可されているほどである。

 

 しかし、そんな上から下まで豪勢な生活送るロイヤルネイビーのkansenであるが一般階級であるkansen以下の生活を余儀なくされている者達も存在しており、彼女達は隔離されて自由に出歩く事を禁止されて、食事も小さな専用の配膳穴から虜囚の様に受け取るしかない状況であった。

 

 彼女達の存在は現在一般のkansenや民衆達から秘匿されており、遺伝子に至るまで対セイレーン特化として改造した結果優れた力を持ちながら国家の方針に翻弄され、自由の無い生活を送る存在となってしまった。

 

 彼女達の名は『特別計画艦』。カンレキも存在せずに人為的にキューブの段階からセイレーンと戦う為だけに強化されて生み出された存在であるため通常のkansenよりも能力は高く、例えば自由アイリス教国のサン・ルイなどはリシュリュー枢機卿の右腕となる程の信任を得るなど各国における重要な戦力となっている。

 

 特に戦力不足である鉄血公国ではとある事件の結果、特別計画艦のメンタルケアや待遇などに陣営代表のビスマルクは注意しており、地下室に幽閉されているフリードリヒ・デア・グローセであっても一流ホテルのような内装の部屋を与えられており、外出こそできないものの食事なども十分すぎる程に与えられている。鉄血とロイヤルは特別計画艦の待遇においても大きな差が存在していたのだ。

 

 ロイヤルにおける特別計画艦の待遇の悪さは決して女王クイーン・エリザベスの嫌がらせや冷遇命令ではなく、この戦争を勝利に導く為の必要な犠牲であり、女王や幹部達も罪悪感を感じていたのだが当の本人達はそんな事を知るよしも無かった。

 

 

 他のロイヤルネイビーのkansenより優れた力を持ちながら、特に理由も説明されずに幽閉され。戦う力をもちながら戦いに出る事も出来ずに日々を過ごす……それが今の彼女の現状であった。

 

 

 何れ女王陛下は全てが終わった際に彼女達に謝罪した上で相応の地位を与えようとしていたが、そんな事を知る由もない特別計画艦の彼女達は今日もたった1人で部屋に隔離され、誰と会う事も交友も深める事も出来ず、情報媒体に触れる事すら禁じられている。

 

 

 彼女達に与えられた現状は鉄血海軍の捕虜となったロイヤルネイビーのkansen達がヘルブスト指揮官の元である程度自由に過ごしている事を鑑みれば皮肉以外の何者でもないだろう。ロイヤルネイビーの特別計画艦であるネプチューンとモナークは、今日もただ『生きている』だけの日々を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロイヤルの特別計画艦第一号として誕生したモナークは地下に設置された個室にて目を覚ました。彼女が幽閉されている部屋には窓一つ無く、唯一の光源といえば天井に取り付けられた蛍光灯のみだ。

 

 目を覚ました彼女は設置されたシャワーを素早く浴びると日課のストレッチを行い身体の調子を確かめる。その後で鏡の前で身だしなみを整え、いつ誰が現れても対応可能な威風堂々の立ち振る舞いをする。その姿はまるで戦乙女の如く美しく凛々しいものであった。

 

 だが、彼女が戦いに出た事はメルセルケビール海戦の予備部隊として配属されたのが最初で最後であり、それ以後はただその時が来るまでこの部屋で待っていてほしいと短く説明されて以降、何もする事が無い状況が続いていた。

 

 多くのkansen達が今セイレーンやレッドアクシズも戦っているのだろう。しかし自身は火砲を用いて敵の首級を上げる事も、軍人として人々を守る事も許されない。モナークは着替えるとただ椅子に座って目を瞑り時が過ぎるのを待つのみであった。

 

 何もせず、何も出来ず、何も許されない。ただ彼女はこの部屋で待機する事が現在与えられた使命であり、彼女に出来る事はロイヤルネイビーにいつ呼び出されても良いように椅子に座り続ける事だけであった。

 

 やがて小さな配膳穴から何も言わずに食事が挿入される。食事の内容は粗末なものではなく、貴族階級が食べているものとほぼ同じなのがせめてもの女王陛下の慈悲なのだろうか?今日の食事はコーンスープにローストチキン。カボチャのキッシュに新鮮なサラダと食後のアップルパイに紅茶という豪華さである。

 

 無言で食事を終えた後、配膳穴から食器を回収する音が聞こえる。食事を終えるとモナークは再び目を閉じる。彼女にとってこの時間だけが唯一自由な時間だった。

 

 特別計画艦として生まれながら、戦う力もなく自由も無い。自分は一体何のために生まれてのか?と自問自答する事にすら疲れてしまった。期待は失望に変わり、失望し続ける事にすら疲れ果てた。

 

 

(私は……このままずっと、ここで朽ちるだけなのであろうか?)

 

 

 彼女にとって最も辛い事は一度は女王陛下に期待されていた事だろう。モナークは自身が本来は生まれる事がなかった存在である事を察していた。血縁関係であったキングジョージ5世級の遠縁の姉妹達(ハウという例外は除く)に愛憎渦巻く感情を秘めており、だからこそ生み出された自身はキングジョージ5世級のkansen以上に優れている存在であると証明する為に戦果を上げる事を求めていた。

 

 

 それが多くのkansen以上に戦う事を目的として作られた特別計画艦である自身の存在意義であり、忠誠を誓う王家と女王陛下に対する義務だと彼女は信じていた。

 

 

 しかし、その想いは結局叶わぬ夢に終わった。たった一度予備部隊としてケビール港攻撃の際に配属された時は一度も主砲を鳴らす事はなく、その数日後に訳も分からずこの地下室に幽閉される事になったのだ。

 

 

 

 自身が何をしたと言うんだ。私はメルセルケでなにか醜態を起こしたとでも言うのか?

 

 

 モナークの知る由もない事だが、無から生み出されたと言える特別計画艦である彼女は女王号令による未来を引き出す試験を受けておらず、並行世界の歴史の『再現』というロイヤルの最優先目的について何一つ知らされていなかった。

 

 

 ネルソンがダンケルクに敗北すると言う、本来メルセルケビール海戦にて起きるはずの無かった戦いが起きた理由の一つが予備部隊としてモナークが配属された事であると予想された結果、モナーク達特別計画艦は『再現』にとって不確定要素と判断され幽閉される事となったのだ。

 

 

 だが、そんな事を知らないモナークにとっては自身の存在が女王やロイヤルネイビー上層部に疎まれていると感じるのは無理もない事であった。

 

 必要だからと生み出されて、あっという間に冷遇されて監禁される。そんな状況ではいくら忠誠心を持っていたモナークであっても、次第に女王に対して不信感を抱くのは仕方ない事であった。

 

 

 以後彼女は一度として女王クイーン・エリザベスを『女王』や『陛下』と呼ぶ事はなく、ただエリザベスと呼び捨てにする様になった。自身の境遇の理不尽に胸の内に黒い炎が燻り始めるのを感じる。

 

 

 何故自分がこんな目に遭わなければならない?私は何も悪い事をしていないではないか?そもそも何で自分だけなんだ?他の姉妹達はどうして幽閉されていないのに、自分はここに居るのだろうか? 彼女は気づいていない。

 

 それは彼女自身の内面を孤独感と共に徐々に蝕んで行き、最早今の彼女は『陛下』ではなく『王家』というシステムそのものにだけに忠誠を誓い、ただ腐り果てる前に一度でもあの青い海原をもう一度その目に焼き付け、ロイヤルネイビーの軍人として誇りある死を迎えたいとすら考え始めてしまう。

 

 それでも彼女が自殺の様な真似をしなかった理由は自身がどこまでいっても王家の戦士であると同時に、ただ2人だけ、この様な状況であっても自身の死を悲しんでくれると思える人物が居たからだ。

 

 

 

 

 1人目キングジョージ5世級戦艦のハウ。モナークにとっては遠縁の血縁者であり、純真無垢で人を疑うという事を知らない程に優しい女の子であり、物静かで人付き合いも悪くキングジョージ5世級のkansen達に強い対抗心と愛憎渦巻く複雑な感情を秘めているモナークであっても、クッキーを片手に物怖じせずに接してくるハウにいつしかモナークも彼女にだけはぶっきらぼうではあるが心を開いていた。

 

 

 ハウはメルセルケビール海戦前にアズールレーンの総本部勤務となったが、その際もモナークの前に姿を表し、別れ際に彼女の手を握って言った言葉が今でも忘れられなかった。

 

 

『モナーク、また会いましょう。ウェールズやヨークと仲悪いのも分かるけど喧嘩しちゃだめよ?また貴方の顔が見たいからその時まで絶対に生き延びましょう。ふふっ♪貴方と私は友達なんだからね!』

 

 

 彼女にとってハウの存在は救いでもあり、希望でもあった。例え短い時間だとしても人付き合いが苦手な自身に笑顔を見せてくれた彼女だからこそ、再会の約束を果たすまでは決して死は許されない。それがモナークにとっての唯一の数少ない生きる目標の一つであった。そして2人目は……

 

 

 

 

 その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。またか……とモナークは呆れながら無視するとやがてカチャ…カチャ…とピッキングする音がしばらく響き渡り、数分もしない内に鍵が外れ、ギィッと音を立てて扉は開かれる。

 

「全く……毎回思いますけどピッキングの最中だと分かっているのなら、その前にドアを開けて欲しいですわ」

 

 メイドのような衣類を身につけた青髪の少女は溜息を吐きつつ、手に持ったヘアピンをポケットの中にしまうと我が物顔で椅子を一つ持ち出してベッドの隣に置くと腰掛ける。丁寧口調な言動と同じくその動作は優雅かつ上品であり、モナークから見てもまるで本物の貴族の令嬢であるかの様に思えた。

 

 

 彼女の名はネプチューン。ロイヤルネイビーにおいてモナークの次に誕生した特別計画艦である軽巡kansenであり、モナークと同じく本来であれば別室で幽閉され、軟禁状態となっている筈の少女であった。

 

 

 しかし、彼女は特に気にせず、こうしてヘアピンで脱走しては度々モナークに会いに来るのだ。その理由は単純明快。単に暇だからである。

 

 

 彼女に言わせれば何ヶ月も監禁して人との会話すら禁止されるのは理不尽で腹が立つと同時に暇で仕方がない。

 

 

 幽閉中に出来る趣味は全て遊び尽くした為、もうやることがない。ならばいっそ好き勝手やってやろうと思い立ち、自由奔放な性格である彼女はあっという間にピッキング技能をマスターすると時折脱走しては新聞などを奪ったり、こうしてモナークの部屋に入り浸っては彼女と他愛もない話や世間話をするのが日課となっていた。

 

 

「何度も言っているだろうネプチューン……勝手に私の部屋に入らないでくれと……」

 

「あら?別にいいではありませんか。既に警備や食事を運ぶロイヤルメイド隊のスケジュール表を盗んで行動は全て把握済みですわ。絶対見つからないので有ればバレていないのと同じですし、それに私は貴女とお話がしたいだけですから。さぁ、今日は何のお話しをしましょう?」

 

 

 ニコニコしながら口を開くネプチューンにモナークは再び深いため息を漏らすと、諦めたように目を瞑る。ネプチューンというkansenはモナークから見れば余りにも異質なkansenであった。

 

 ネプチューンという少女の本質はどこまでも自身の欲望や野心に忠実であり、自身の利益と打算の為だけに動く事が多く、その為には手段を選ばない。忠誠が美徳であり、女王陛下に忠誠を捧げ、王家の栄光の為に戦う事が当たり前であるロイヤルネイビーのkansenの中でもネプチューンは例外であり、彼女は自身が信じるものこそが正義であると言う主張を曲げる事は決して無かった。

 

 無条件で王家の戦士が女王陛下に絶対的な忠誠を誓うので有れば、ネプチューンはあくまでロイヤルネイビーや王家やクイーン・エリザベスに「それなりの」感謝や好意は抱いてはいるが、あくまで「それなり」なだけだ。

 

 女王陛下の為に命を捧げるだなんて馬鹿らしい。自分の命は自分だけの物なのだから、この世界に生を受けた瞬間から誰よりも自由に生き、死ぬ時は満足して死にたい。それが彼女の考えであり、彼女の生き方であった。

 

 

 もちろん、そんな思想の彼女は産まれた時より他者と関わる事を嫌い、自由に生きる為にただひたすら一人で趣味であるお菓子作りだけを楽しみ、自由に知識を得る事に喜びを感じ、自身の理想を追求する事だけを行なっていた為に幽閉されるまでに友人は皆無。そもそも他人に興味を抱く事すら稀であり、唯一興味を抱いたのは同じ特別計画艦の縁で幽閉前から何度か会話に菓子の試食など行っており、自身とは違い静かに監禁されている現状を受け入れていたモナークだけだった。

 

 お陰でモナークは脱走して部屋にやってくるネプチューン相手にポツポツと会話をする事が多かった。どれだけ来るなと言ってもネプチューンは無視したと言う事もあるが、見返りに掠め取った新聞などの情報媒体をネプチューンが持ち込む事も多々あり、何よりもネプチューン本人には決して彼女は口にするつもりはないが、たった一人で監禁されているモナークにとって話し相手である彼女の存在は確かに心の支えでもあった。

 

 

 

「そういえば、モナークの所に命令書は届きましたか?」

 

 

 

 ネプチューンはモナークの為に(勝手に)茶葉を取りだし、ティーポットに入れて蒸らし始めるとふと思い出したかのように話題を振る。モナークはその言葉を聞くと少し表情を曇らせる。

 

 

「……あぁ、届いた」

 

 

「そうですか……全く、本当に今更ですわね。所詮女王陛下にとって私達の存在なんて駒の一つに過ぎないのでしょうけど、せめて謝罪の一つくらいあってもいいと思いますのに」

 

 

 ネプチューンは紅茶の入ったカップを2つ用意するとベッドの隣にあるサイドテーブルに置き、モナークに片方を差し出す。

 

 

 モナークとネプチューンが数日前に受け取った命令書、その中に書かれていた内容は『近々大規模な鉄血本部強襲作戦が実行される為にお前達も参加しろ』といえあまりにも簡潔かつ、詳しい情報や日時は何一つ書かれておらず、モナークはネプチューンの言葉に同意するように深く溜息を吐くと、差し出された紅茶を一口飲む。

 

 

 

 

「……茶葉が用意されている物と違わないか?」

 

「そりゃそうですわ。この茶葉は女王陛下専用のものを倉庫から失敬したものですもの」

 

 

 悪びれもせずに平然と言い放つネプチューンにモナークは呆れ果てて再び深いため息を漏らすが、そんなモナークにネプチューンは胸元から畳んだ新聞の切れ端を差し出す。そこには女王クイーン・エリザベスの是非を問う批判的な記事が載っており、モナークはそれを受け取ると目を細める。

 

 

 

『艦隊を私物化する愚物』『私服を肥やす俗物』『国家を乱れさせる売女』『30万人の国民が住むべき場所を失った元凶』と様々な罵声が飛び交うなか、その見出しの下の記事にはクイーン・エリザベスの王族待遇である地位を非難する人々のインタビューや、反戦デモの様子が描かれており、ネプチューンはそれを横目で一読すると鼻を鳴らす。

 

 

 

「おおかた我らの女王陛下は度重なる敗北で政治的に失墜直前なのでしょうね。だからこそ大博打で鉄血の本部強襲作戦なんて無茶な賭けに出たのでしょう。そもそも監禁されている私達が出なければいけない程の総力戦を計画している段階でもう既に負けが見えているでしょうが」

 

 

 

 ネプチューンは肩をすくめながらそう言うと手に持っていた紅茶を口に含む。特別計画艦の二人には情報媒体の制限がされているが、仮にネプチューンが新聞を盗まなくともロイヤルが現在追い詰められているという情報はリバープール基地にも流れたビスマルクによる反ロイヤル演説によって彼女達は知る事になっていただろう。

 

 ネプチューンとモナークは理解していた。例えクイーン・エリザベスの真意がどうであれ本来は自分達はこの戦争が終わるまで監禁されていたはずだと。そんな自分達が敵国の海軍の総本山に殴り込みをかけると言う無茶な作戦に参加命令が出された時点で、クイーン・エリザベスは相当追い込まれている事は明白であった。 

 

 もしも、ロイヤルネイビーの作戦が全て上手くいき『史実』の様に連戦連勝によってレッドアクシズ相手に勝利し続けていれば、ネプチューンとモナークも複雑ではあるが陛下は優秀であると認めた上で軟禁生活に耐え続ける事ができたかもしれない。だが現実は違う。

 

 ビスマルクの演説によって暴露されたロイヤルの数々の失態。暗殺部隊を送り込んで逆に暗殺部隊が全員捕虜となる。サディア帝国に夜間奇襲攻撃を仕掛けるも失敗してマルタ島を喪失する。極め付けにどの様な意図があったとは言えレッドアクシズにとっての英雄であるヴァイスクレー・ヘルブスト指揮官をスパイによって暗殺を仕掛け、失敗したと言う事実は二人の王家に対する不信感と失望を決定づけるのに十分だった。

 

 

 

 

「はっきりと言いましょう。私はもうこの国を愛する事は出来ませんわ……」

 

 

 

 

 

 ネプチューンは新聞を折りたたみながらそう呟く。彼女にとって忠誠とは自身が従いたいと思える存在にのみ捧げられるものであり、自身を監禁した挙句連戦連敗によって政治的地位が失墜しつつあり、それを守る為に自身の部下達を総動員して犠牲を顧みずに国際関係すら無視して暴走して邁進する存在。

 

 

 栄光や名誉と下らないお題目を普段は語りながら優雅たれと口にしながら実際は自らの権力と金にしか興味のない女王など誰が愛せるだろうか?

 

 

 少なくとも『再現』の知識がないネプチューンから見たエリザベスという女王は愛する価値もない人間であり、そんな彼女が代表であるロイヤルネイビーも。そして自身を産み出したロイヤル王国という存在全てに失望したネプチューンはモナークに向かって口を開く。

 

 

「私は……」

 

「それ以上はやめろネプチューン。私は王家の戦士としてお前を拘束しなければならなくなる。」

 

「……真面目ですわね。ですが溜め込んでばかりでは、いつか損するだけですわよモナーク」

 

 

 

 ネプチューンが決定的な一言を口にする前にモナークは静かにそれを止める。盗聴器の類が存在しない事は既に把握済みとはいえモナークはネプチューンの口から『反逆』という言葉が出る事を何よりも恐れていたのだ。

 

 

 

 本気であれ、冗談であれ、このロイヤルネイビーという組織において女王陛下への『反逆』『暗殺』などの言葉は最も禁忌とされる言葉だ。女王にどれだけ複雑な感情を抱きつつもそれだけは口にしてはならず、万が一でもその言葉を誰かが耳にすればネプチューンという存在はロイヤルネイビーより抹消されるだろう。だが、ネプチューンは落ち着いた様子で微笑むとモナークの耳元に顔を近づけると囁いた。

 

 

 

「……もし、私達がこの国から逃げるとするのなら何処に行けばいいでしょうか??」

 

 

「……」

 

 

「ふふっ、私だって馬鹿ではありませんわ。今の私達の状況がどれほど絶望的であっても私達は逃げる事は出来ませんもの。特別計画艦である私達はまさに技術の結晶そのもの。間違いなく私はロイヤルネイビー全軍に包囲されて殺されるでしょうね。例え逃げる事に成功してもロイヤルという国家そのものが国際的に孤立しているこの状況でロイヤルから逃げ出したkansenなんて誰が信用するのでしょうか?例えレッドアクシズであっても艤装を取り上げられてモルモット扱いでしょうね」

 

 

 

 

 kansenは国家を裏切る事や離反する事は許されない。人権を獲得した彼女達は同時に兵器としての価値が定められており、その命は国家の財産であると同時に暴力装置であって勝手な行動は許されないのだ。更に特別計画艦である二人は文字通り国家機密の塊であるが為に彼女達が他国への亡命は決して許されず、その命尽きるまでロイヤルに奉仕し続ける事が定められているのだ。

 

 

 例え、どれだけ自身の尊厳を傷付けられようとも、自分達の存在理由は祖国の為にある。『王家』と言う名の鎖に縛られた特別計画艦である彼女達は逃げ出す事も勝手に死ぬ事も許されない国家の、王家の備品なのだ。

 

「自殺は悔しいですからしませんけど、逃げても結局殺されるかモルモット扱い。ですが……」

 

 

 

 ネプチューンはニヤリと微笑むと覚悟を決めた表情を浮かべる。

 

 

「私達を道具のように扱うあの女に一泡吹かせる事が出来るのならば、何があっても生き残りますわ。この戦争がどんな結果を迎えるにしても、いずれ国際関係を悪化させて数々の醜態を晒した女王エリザベスは戦争の勝敗の有無に関わらず幹部と共に失脚する事は確実です」

 

 

「ネプチューン……」

 

 

「だから生き延びますわ。どれだけ意地汚くなっても生き延びて、このロイヤルという組織で貪欲に出世を重ねて自身の居場所を作り出す。そして失脚したエリザベスにこう言ってやるのですわ。『貴方は確かに優秀かもしれませんが、私達、特別計画艦の心を理解する事が出来ない無能な敗北者だったようですね』と。危険な作戦でしょうが私はこれを出世の為の踏み台にして、エリザベス失脚後のロイヤルで地位を築いて見せましょう」

 

 

 

 そう言いながらネプチューンは立ち上がってモナークに手を差し出す。その瞳には先程まで抱いていた女王に対する不信感は一切なく、ただ野心に満ちた光が宿っていた。

 

 

 

 モナークと同じ境遇でありながら常に前を向き、自身の立場を向上しようと努力するネプチューン。ネプチューンの瞳には怒りの炎が灯っていた。自分達は駒ではなく、一人の人間であるという確かな誇りと、そんな自分達に対して無礼を働いたクイーン・エリザベスに対する復讐心を胸に秘めて、それでも前に貪欲に進み続ける友人の姿を見てモナークは思わず笑みがこぼれた。

 

 

 

「私は今、王家の戦士としてお前の手を取る事は出来ない。だが、先の未来でお前が本気でロイヤルネイビーという組織の為。アズールレーンの理念たる青き航路を守り、人々を守る為の盾となるのであれば私はお前と同じ様に戦おう」

 

 

 モナークは差し出したネプチューンの手を取る事はしなかった。しかし、ネプチューンはその言葉だけで満足そうに微笑むとその手を下ろす。

 

 

「ふふっ♪まぁ決戦の前にエリザベスが失脚すればスムーズに講話によって多くの命が救われるのですが……いっそ女王とその狂信的な信奉者である幹部達には決戦で死んでもらった方がスムーズに──」

 

「ネプチューン。三度目はないからな?」

 

 

 微笑みながら物騒な事を口にするネプチューンをモナークは呆れて苦言するが、彼女は気にした様子はなく紅茶を再び口に含む。

 

 

 天才肌であるネプチューンの能力の高さこそモナークは信頼するが、同時に野心的であり自由を何よりも望む最もロイヤルらしくない、ロイヤルであるネプチューンが祖国にとっての癌となるのであれば、如何に友人であってもモナークは彼女を取り除く気であった。

 

 

 しかし、同時にネプチューンはそれを覚悟の上で表明した事をモナークは理解しており、だからこそ、それ以上は何も言わずモナークもティーカップを手に取り口をつける。

 

 

 この戦争に勝利をしても、敗北しても、国際的に最早孤立したロイヤル王国の未来は苦難の道を歩む事になると冷静に二人は分析しており、同時に醜態を晒したロイヤルネイビーという組織を見る目が厳しくなるのは避けられないだろうと考えていた。

 

 そんな組織で出世をして地位を得る事は決して並大抵の覚悟では成し遂げられないだろうとモナークは考えるが、その隣で同じく冷静な表情を浮かべていたネプチューンの瞳に迷いはなかった。

 

 

 例えどんな苦境に立たされようとも、どのような状況になろうとも、例え自身が兵器として扱われようとも生き延びてやるという強い意志を秘めており、ただ自身を蔑ろにしたエリザベスに文句の一つも言ってやりたいと言うたった一つの目的の為に。

 

 エリザベスを見下し、エリザベスを蹴落とし、自身の力で這い上がり、目的を達成する為に邁進する。そんな彼女の姿こそが自由人ネプチューンの本質であり、これからもそうであると予想しながらモナークは紅茶を飲み干す。

 

 

 

 

 

 何処までいっても王家の戦士であり、女王陛下個人ではなく王家への忠誠は揺るがない、祖国に尽くす真面目で物静かな騎士モナーク。

 

 

 

 

 何処まで行っても自由を求めて野心的であり、女王陛下や王家に見切りをつけ、自身の居場所を作るために貪欲に成り上がる事を決意した不敵な少女ネプチューン。

 

 

 

 

 彼女達の思想は本来水と油であり、相容れないものだ。しかし不思議と二人は互いにこうしてお茶を飲む程度には打ち解けている様に見えるが、それはきっと二人にしか分からない何かがあるのかも知れない。

 

 

 二人の艦船が織りなす戦いの行く末は誰にも分からない。カンレキが存在しない彼女達の歩むロードはまだまだ白紙のままであり、いくらでも未来を描き込むことが出来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り数週間前。北桜同盟成立という熱狂が冷めやまない中。重桜に一時的に帰還した長門は地下の隠し部屋にて従者である江風と共に、とある男性と密談をおこなっていた。

 

 平伏する男の年齢は中年ほどだろうか?スーツ姿に人の良さが伝わる温厚な顔つきをした男は国家元首である長門相手に流石に緊張の色を隠せないが、それでも真っ直ぐと長門の瞳を見つめながら男は決心する。

 

 

「……承知致しました長門様。貴方様のご意思を果たす為に、この命に変えても、彼らを説得して見せましょう」

 

 

 そう言う男の言葉に嘘偽りはなく、ただ純粋に自身に出来る事をしようと決意していた。そんな彼の言葉を聞いて長門は静かに目を閉じて深々と頭を下げる。

 

 

「お主の決心に感謝する。余はお主の為に総力を上げて出来る限りの事をすると約束しよう」

 

「どうか、私のような者にもったいない御言葉を……ありがとうございます」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。余はお主にどれだけ感謝してもしきれない程に恩義を感じているのだから」

 

 

 長門は頭を下げたまま微動だにしない男に静かに微笑みかける。

 

 

「北方連合、ソユーズとの打ち合わせは既に成功した。後はかの地でお主が彼らの説得に成功すれば、北方連合と重桜の未来に太陽が再び昇るだろう」

 

 長門はそう言いながら男に罪悪感を抱く。自身の本当の思惑を間違いなく目の前の男は全て理解しているはず。だと言うのに男は嫌な顔ひとつせず祖国の未来の為に、彼は異国の地にて困難な交渉に身を投じようとしている。

 

 

 未来で行われる予定である、第二次ダイナモ作戦を黙認する気である事も含め、自身が偽善者である事に胸を掻きむしりたくなる長門であるが男は静かに口を開く。

 

 

 

「私は……貴女がこの国を導く巫狐であった事を心より誇りに思います」

 

 

 その一言に思わず長門は頭を跳ね上げてしまうが、それを見た男は穏やかに微笑みながら話を続ける。

 

 

「世界は大きな車輪のようなものです。対立しあったり、争いあったりせずに皆で手をつなぎあって、まわっていかなければなりません……ただ争うだけではなくその様な選択肢を用意して下さった貴女に私は敬意を表します。長門様の行動の是非については後の歴史に委ねるとして、今を生きる者として、これからを生きていく者達のためにも私は、私の信念に従ってその職務を全う致しましょう」

 

 

 男が口にした事は紛れもない本音であった。打算や国益がありきとはいえ、長門は確かに自らの立場を利用して、その手で未来を切り開こうとしている。そして彼女の選択によってその未来で幸福に生きる人々を増やす事が出来るのであれば、良心に生きる男にとってはそれだけで充分なのだから。

 

 

 長門達との会談を終えた男が早々に準備を終えて妻の待つ家に帰ろうとすれば、男の肩に鳩が一羽大人しく留まる。『カミ』との調和によって一種のケモノ付きと呼ばれる一種の精霊と融合した状態となった重桜人の多くは体に獣のような身体的特徴が現れるが、そうならなかった人は特定の動物に異様に好かれるという特徴があるらしく、例えば五航戦の翔鶴と瑞鶴は鶴の一種であるタンチョウに好かれている。

 

 

 

 男の場合は特に鳩に好かれており、彼は愛くるしい表情を浮かべる鳩の頭を優しく撫でる。

 

 

(私のやるべきことは変わらない。ただあの人の望みを叶えるだけだ)

 

 

 男はそう決意しながら自宅への帰路へ就く。平和の象徴である鳩が男の頬に擦り寄り、まるで激励するかの様に鳴くのであった。

 

 

 

 




 ・ネプチューン

 ネプチューンという少女はアズールレーンという作品においても特に特異な性格をしている人物と言えるでしょう。彼女の内面はゲーム内の台詞では分かりませんがそれ以外の媒体、主にライトノベル版である「アズールレーン Episode of Belfast 」もしくは漫画版である「クイーンズ・オーダー」で描写されているのですがその内面は野心と自身の心に何処までも忠実であり、無条件の王家への奉仕が美徳とされているロイヤルネイビーではかなり浮いた存在となっています。

 カーリューは彼女は自由過ぎてメイドには向かないと苦言し、キュラソーは彼女がメイドにならない理由は指揮官との時間を大切にする為にと発言しており、ライトノベル版では自身の野心の為であれば陛下の買収すら厭わないというシーンが存在するなど何処までも自由な少女ネプチューン。彼女は決してロイヤルや王家を嫌っている訳ではない何処ろか寧ろ好意的ですが、それは『王家の戦士』だからではなく『この陣営は自分にとって心地よいからこそ』であり同時に義理硬い性格もあって平時や母港の『枝』ではその本質を本人が隠している事もあってか皆と仲良くやれるのでしょう。ゲーム内やライトノベル版ではリアンダー級やシュロップシャーともなかなか上手くやれていますし義理堅い面もあるのですから。

 しかし、今作では産まれてからライトノベル版のようにまともにモナーク以外のkansenと交友関係を築く事なく、ロイヤルネイビーの度重なる敗北によってその信頼は揺らいでいき、最早女王陛下やその側近である幹部達への信頼は皆無となり、この国を。ロイヤルネイビーを愛せないと言い出す程に。だからこそ彼女は女王陛下への復讐の為にロイヤルの敗戦、もしくは勝利といえど責任をとっての陛下達の辞任を予測し、その混乱の最中成り上がる事を望むのでした。ハーミーズ風に例えるのであれば、特別計画艦はロイヤルから離れる事は出来ない。ならロイヤルネイビーで成り上がって満足するしかないじゃないか!という事です。

 全ては面と向かってクイーン・エリザベスに貴女は無能であると蔑む為に、そして自身の生まれた意味をロイヤルに刻みつける為に。彼女は野心という牙を研ぐのでした。

・モナーク
 彼女も原作であれば王家に複雑な感情を持ちながらも、女王には一定の対応をみせますが、自身が最優である事を曲げないなど血縁関係であるキングジョージ級の面々とは少し複雑な関係とはいえハウという純真無垢な存在もあってかそれなりに軋轢を産む事なく過ごしていましたが、今作のモナークは『王家』というシステムそのものを信奉していても『女王陛下』個人への信頼は皆無に。メルセルケビール海戦の予備部隊として配属されていましたが、彼女が後詰めとして存在しているからこそ『再現』が失敗したのでは?と考えるロイヤルネイビー上層部や陛下達によって幽閉される事になるのでした。『再現』の事なども知らずに訳もわからず幽閉されて心をすり減らす彼女の救いはかつて自身を必要として、信頼してくれた「ハウ」という心優しい少女との約束を守る為。そして同じ特別計画艦であるネプチューンと異なり彼女はネプチューンと違って何処までいっても王家の戦士であり続けますが、同時にネプチューンの野心を応援しつつ、ネプチューンが間違えた時に粛清する事を決意するのでした。
 なお、デューク・オブ・ヨークが鉄血の捕虜となったと聞いた時。彼女はとても複雑な表情を浮かべていたそうな。

・ロイヤルの特別計画艦事情
 現在は四人の特別計画艦が存在している重桜や鉄血と違いロイヤルではネプチューンとモナークの二人のみで計画は凍結されており、メルセルケビール海戦の予備部隊としてモナークが存在していたからこそ『再現』の失敗につながったと判断され……だからこそ円滑な『再現』の為にモナーク達は幽閉される事に。陛下は全てが終わればモナークとネプチューンに謝罪した上で全てを説明するつもりなのですが、既に二人の心は陛下から離れてしまうのでした。

 一方ロイヤルと違い鉄血では特別計画艦は産まれてすぐに幹部となるだけではなく、幽閉されているグローセすらもその待遇に数々の配慮がなされていますがそれは過去にとある事件が影響しており、その事件には第二遊撃艦隊のアードラー・プロイセン指揮官やシャルンホルスト達が関わっているのですがそれはまた近々描写させて頂きましょう。

 なお残るユニオンと重桜では、ユニオンではそもそも階級や権威なども緩々なのでシアトルやジョージアはごく普通に皆と同じように暮らしているのですが、重桜の伊吹、北風、出雲、吾妻の四人は原作の三笠の言葉によると本人達の性格もあって駿河以上に重桜に馴染むのに時間がかかったそうな。


・謎の男
 今は何も情報開示は不可能。しかし、彼の行動が北桜同盟の未来を左右します。


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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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