鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第五十話 抑止力とオブザーバー

 禍々しい黒色のキューブは触れても居ないというのに、見ているだけで不安で心が押しつぶされそうに思えてくる。次の瞬間俺の心臓が握り潰されるのではないかと思う程の圧迫感を覚えながらも、俺は目の前に立つビスマルクさんの瞳を真っ直ぐに見据えていた。

彼女は手にしたキューブを机に置くと、静かに口を開く。

 

「セイレーンとの戦いが始まって以来、我々鉄血海軍は何度も交戦をし続ける内に多くの戦利品を手に入れる事に成功したわ。敵の残骸データによって生体艤装やマンジュウだけでなく、鹵獲した敵の無人艦を戦力として運用する事まで出来るようになったわ」

 

 ビスマルクさんの説明を聞きながら、俺は彼女の言葉に耳を傾ける。毒を持って毒を制する、鉄血海軍の積極的にセイレーン技術を活用する方針はロイヤルやユニオンといった国々の反発に繋がったものの、その技術の高さは四大陣営屈指のものとなっているのは周知の事実だ。

 

 例を挙げればタラント港をイラストリアスに奇襲された際も、サディア帝国のkansenと違いシュペー達は対空砲によって多くの敵艦載機の迎撃に成功している。その理由はセイレーン技術を利用した生体艤装による対空迎撃の有用性を示し、結果としてサディア帝国に鉄血の化学力を見せつけたのだから。

 

 

「このブラック・キューブはそんな戦利品として数年前に獲得したものよ。その性質は多岐に渡るけれど……これを見てもらった方が早いわね」

 

 

 すると、ビスマルクさんは金庫の中にブラック・キューブと共に保管されていたと思われるファイルを俺に渡し、それを受け取ると、じっくりとビスマルクさんと一緒に目を通す。むっ!?これは……!

 

 

 (わからん……!)

 

 

 専門用語だらけの説明は暗号文まで混ざっている為か、その手の事に詳しくない俺にとって科学的な理解は不可能。それでも、数枚貼ってある写真は俺に衝撃を与える事に関しては充分だった。

 

 どこかの試験場で撮影したと思われる写真の一枚目は巨大なクレーターの写真だった。その光景は余りにも凄惨なものであり、周囲に飛び散った瓦礫の山と地面をえぐるほどの大穴を見ればどれだけの威力で攻撃が行われたのかは想像に容易い。

 

 試験のターゲットになった仮設住宅や旧式の無人艦の残骸はまるで乱暴な子供がおもちゃを壊したかのように無残に破壊されていた。

 

 二枚目の写真は無人の小さな島を標的にブラック・キューブを動力源として用いた砲撃写真の様であったが、見比べるとその差は一目瞭然だ。山が綺麗に丸くくり抜かれたように消え去り、まるで隕石でも落ちたかのような有様になっている。

 

 三枚目と四枚目はそれぞれブラックキューブを動力源として用いたビスマルクさんによる砲撃の瞬間が鮮明に映し出されており、黒色の核を中心にバチバチと雷光の様なものが映し出されており、標的の無人艦は黒色の核に強引に引き寄せられ、ぐちゃぐちゃに圧壊している。

 

 最後の写真は砲撃直後のビスマルクさんの姿を撮影したものと思われるが、彼女の青色の瞳は黄色く染まっており、その表情は憎悪や悲しみといったこの世に存在する全ての負の感情を込めた様なものだった。その姿はまるで悪魔そのもの、人間とは思えない程の怒りに満ちた形相に俺は思わず息を飲む。

 

 

「ビスマルクさん……これが、ブラック・キューブの力ですか? 」

 

 震える声でビスマルクさんに問い詰めれば彼女は恐怖に怯えた俺の反応を予想していたのか、嘆息混じりに説明する。

 

 

「通常の砲撃が一種の重力砲となり、目標を飲み込み、圧壊させる。その破壊力はセイレーンの無人艦どころか人型セイレーンや敵国のkansenをまとめて跡形もなく吹き飛ばすでしょうね。現段階でも最大周囲3キロ圏内の全ての建造物が、このキューブの力で崩壊し、地形すら変える程の力を持っているわ。そう、『現段階』でも、この砲撃を例えば敵の本拠地や首都に放てばどうなるか、分かるかしら? 」

 

 

「……」

 

 俺はビスマルクさんの質問に答える事が出来なかった。

 

 

「数万人の敵国の国民やkansenは何があったのか分からないまま一瞬で蒸発する事になるでしょう。現在鉄血海軍が確保しているブラック・キューブは1ダース程だけど、それら全てを鉄血海軍のkansen達が装備したまま無差別に砲撃を行えば、アズールレーン本拠地のNY要塞だって簡単に落とせるでしょうね。最も……」

 

 ビスマルクさんは何かを思い出すかの様にファイルの挟まれた憎悪に染まった表情を浮かべる自身の写真に目を向ける。

 

「現段階では、私以外はこのブラックキューブを扱えないし、扱わせる気にもならないわ。これを使用すれば重力砲だけでなく周囲の敵のセイレーン艦の制御の奪取や、一時的に鉄血製のレーダーからも消えるほどのステルス性能まで会得する事と引き換えに……その心は憎悪や悪意や残虐性で満たされるのよ」

 

 ビスマルクさんは俺からファイルを取り上げながら、淡々とした口調で語る。

 

 

「エリザベスを残虐に殺害してその首を掲げたい。祖国を守る為ならば敵国国民を焼き払いたい。さぁブラック・キューブを使って全てを蹂躙し!殺し尽くせ!奪い尽くせ!という強い衝動が私の中に湧き上がったわ。私の精神は限界を迎えてそのまま気絶。三日ほど昏睡状態に陥っていて……その際も鉄血がアズールレーンに蹂躙される悪夢を何度も、何度も見てしまい、うなされていたわ」

 

 

「……そんな危険な代物、軍事利用なんて可能なんでしょうか? 」

 

 

 机の上に存在する黒いキューブを視界に入れながら俺は恐る恐るビスマルクさんに尋ねる。確かにこれを使えば戦場における敵戦力の無力化が可能だろう。しかしリスクが高過ぎる。

 

 まだ研究が進んでいないとはいえ、暴走の危険性も高く、味方のkansen達にまで影響を及ぼしかねない危険すぎる兵器だ。俺の問いかけに対してビスマルクさんは首を横に振る。

 

 

「……貴方と同じ事を第二遊撃艦隊の指揮官にも言われたわ。再発防止の処置もなく、原因の究明も解明もなされていない不安定な代物なんて使うべきじゃないと。いくら強力でも、兵器と言うものに最も望むものは安定性よ。このブラックキューブはその点では間違いなく落第ね。それでも私は自身を被検体として何度も実験を重ねたわ。圧倒的なこの力の制御に成功すれば、安定してあの重力砲を出せるようになれば、そしてブラックキューブの安定化と量産に成功すれば、二度と他国の脅威に怯える必要がないからと足掻き続けて……そして、ある日。事態は急展開を迎えたのよ」

 

 

 

 ビスマルクさんが口笛を吹くと、その瞬間大きな音を立てて壁が開き。緑色の液体で満たされた……薄紫色の千切れた腕が保管されたガラスケースが現れる。

 

 

「これは……」

 

「そう。貴方がスパイ殲滅戦の際に回収したセイレーンの上位個体であるピュリファイアーの右腕よ。本来人型セイレーンは死亡すればその肉体は溶ける様に海に消えていき、残骸すら残さない。でもこの右腕は生きた状態のままフリードリヒの攻撃を受けて千切れた結果、消滅せずに残ったのよ」

 

 

 ゴポッ…と音をたてながら緑色の液体に満たされた容器の中で薄紫の腕は血管に至るまでまるで生きてるかのように脈動しており、時折ピクッと指先が動く。ホラー映画にありがちな生理的な嫌悪感を覚える光景だった。

 

 

「培養液で満たされたこの腕を調査した時は驚いたわ。未知の元素らしきものを確認できたり、千切れたはずなのにいまだに動く生命力に自己修復機能。人のDNAが最も近いとはいえあらゆる動物の細胞が混ざった様なこの身体の構造はセイレーン研究を数十年は……コホン、ごめんなさい。少し熱くなったわね」

 

 

 研究者気質なのかビスマルクさんは早口に語り始めるが、咳払いをして冷静さを取り戻す。

 

 

「話を戻すけど、重要な事はこのピュリファイヤーの細胞はブラックキューブと高い同調性が……というよりも、まるでブラックキューブの力を引き出す為の戦闘生体端末としてピュリファイヤーのような人型セイレーンが生まれたんじゃないかって結論に至ったの。飛行能力やビーム砲など人型セイレーンの科学技術はこちらの数世代先のもの。けれど、その為の動力源としてセイレーンはこのブラックキューブの力を引き出して利用しているのではないか?と。だからね……私は一か八かの賭けに出たのよ」

 

 

 ビスマルクさんはピクッと動いているピュリファイヤーの右腕を苦々しげに呟いた

 

 

「ピュリファイアーの細胞や血液をkansenの身体に移植すれば、ブラックキューブの力を安定して使用できるようになるかもしれない。理論上は可能だけど、そんな人体実験を同胞を使って行うわけにはいかない。だけど私は……私ならできる。何度もブラックキューブを使った実験を繰り返した私以外に適任者はいないと思って……そして、実行に移した」

 

 

 ビスマルクさんの表情は今まで見たことがない程に暗く、苦悩に満ちた表情をしていた。

 

 

「ビスマルクさん……それは……」

 

 

「……本当に……地獄だったわ。注射器でピュリファイアーの細胞を注入した時の痛みは……脳のシナプスに至るまで体の全ての細胞が焼き尽くされるかと思うほどの激痛。全身が内側から弾け飛ぶような衝撃。意識を失う事すら不可能で、気を失ったら即座に覚醒させられる。何度も、何度も、何度も、何度も……死ぬ事すら許されない苦痛で悶え、悲鳴をあげる事すら出来ずに全身の体液を垂れ流して、気が狂いそうになる程の苦しみを味わいながら、ただひたすらに……耐え続けたのよ」

 

 

 ビスマルクさんは震えながら自身の体を抱きしめる。鉄血海軍だけではなく、鉄血公国の英雄としてその名を世界に轟かす女傑の姿はそこにはなく、ただトラウマに震える一人の人間がそこにいた。

 

 

「そして、私の中にピュリファイアーの力が馴染んだ時、ついにブラックキューブの制御に成功したわ。最初は慣れない感覚だったけれど……一発だけなら、確実にあの重力砲を使えるようになったのよ。憎悪や殺意で身が焼かれそうになっても正気を保ったまま、大量殺戮兵器である重力砲が使用可能となった。制御不能な未知の力ではなく、交渉材料にもなるレッドアクシズのワイルドカードになった瞬間と言えるでしょうね」

 

「そして、この力を見せつけてロイヤルを恫喝し、サディア帝国とヴィシア聖座を巻き込み、ロイヤルをプロパガンダ戦で追い込みつつ、講和の為の準備をしている所で、ロイヤルの方から平和に向けた交渉を……ピュリファイアーの言葉が本当なら、恐らくビスマルクさんを罠に掛ける為の場を整えていたんですね」

 

 ビスマルクさんは頷きながら再び口笛を吹くと、ピュリファイアーの腕は壁の中の隠し空間へと消えていく。

 

 ビスマルクさんが何故ロイヤルが罠を張っている危険な交渉の場に向かおうとしていたのかこれではっきりした。

 

 そもそもビスマルクさんはブラックキューブの力を見せつけてロイヤルに恫喝する為の場を作ろうとしていた所で、渡に船と言わんばかりにロイヤルの方から絶好の場を用意してくれたというのが真相なんだろう。

 

 偽造だ、出鱈目だとロイヤルが口に出せない程の圧倒的な暴力を見せつけ、鉄血に手を出せば軍事基地どころか街が吹き飛び兼ねない危険性と恐怖を刻み込む為に。

 

 仮に問答無用でロイヤルネイビーがビスマルクさんを殺そうとすれば、一発限定とはいえ強力な重力砲によってロイヤルネイビーの襲撃部隊は間違いなく壊滅しかねない。

 

 そして貴方達がどこかに攻め寄せれば、この黒いキューブを使用するkansenが即座にレッドアクシズ全体の意思として報復攻撃を仕掛けると情報工作を仕掛ければ、外交的に孤立しつつあるロイヤルは大量破壊兵器を恐れた国内外からの圧力によって最早講和以外の道はなくなる。

 

 

 これが、ビスマルクさんがロイヤルと交渉しようと動いていた理由だった。仮にロイヤルに襲われても、敵の包囲網を突破したビスマルクさんが生きていれば、ロイヤルを非難しつつ無差別な重力砲による民間人も含めた撲滅戦というカードをチラつかせる事ができる。

 

 ロイヤルにその気はなく、敵がセイレーンであっても圧倒的な力をロイヤルを見せつける事ができる。

 

 そして、ビスマルクさんが殺害されたとしても、ロイヤルネイビーの傷は確実に深くなり、常にビスマルクさんが最後に見せつけた重力砲がレッドアクシズの諸勢力全てに行き渡っているのでは?と疑心暗鬼に陥り継戦を選択する事は難しくなるだろう。

 

 

 たった一発の砲弾で基地や都市が丸ごと吹き飛ぶこの力は歴史を変える。いわば大量破壊兵器による恫喝はこの世界の戦争のあり方を変化させるだろう。重力砲の一発で街一つを吹き飛ばすなんて、大量破壊兵器を鉄血が保有しているのなら……それを敵に回して戦う事がどれだけ愚かなのかは考えるまでもない事だった。

 

 

 対抗する為にロイヤルやユニオンが同じ兵器を開発できるまでは。そして、仮に全ての列強諸国に重力砲が行き渡れば……軽々しく戦争を引き起こせない抑止力としての意味合いも出てくるはずだ。

 

 それこそが、ビスマルクさんが求めた平和への道筋。外交的にロイヤルに勝利を収め、大量破壊兵器による抑止力による恒久平和への道は切り開かれる。無論お互いがブラックキューブによる総力戦、絶滅戦争に発展しそうな危うさは残っているが、それでもビスマルクさんの望む平和は目の前にあるのかもしれない。

 

 

 

 だが、人道的な観点以外にも問題は多い。

 

 

 

「問題点はブラックキューブやピュリファイアーの体液の譲渡こそサディア帝国やヴィシア聖座に可能とはいえ、現在レッドアクシズ全体でもブラック・キューブを完全制御可能なのは私しかいないという事ね」

 

 ビスマルクさんは腕を組みながら溜息を吐く。

 

 

「一応、研究は進めているけど鉄血の同胞にピュリファイアーの体液の注射やブラックキューブを使わせるなんて事は出来る限りは今はやりたくはないわ。私は偶然成功しただけで、他の子は暴走どころか死んでいる可能性だってあるのだから」 

 

 

「国内の鉄血のkansenで試験も出来ないのであれば、ヴィシアやサディアにこの二つを渡しても事故にしかなりかねませんからね。ヴェネトさんやリットリオなら真っ先に自分の身体で、ビスマルクさんの様に実験を行い兼ねませんが、暴走や死亡のリスクがある以上、友好国の方々に危険な賭けには出られませんから」

 

「……いわばハッタリね。将来的な技術的アプローチによって、危険性の少ない、誰でも使用可能なブラックキューブの量産やピュリファイアーの体液代わりの制御細胞を移植する事も可能になる可能性はある。けれどもそれはタラ、レバの想定や希望的観測であって、今はまだそこまでの技術力はないわ。例え鉄血公国であっても」

 

 ロイヤルをビスマルクさんの重力砲によって脅迫し、講和条約を結ぶのがレッドアクシズの目標であるが、実際にはブラックキューブの力を引き出す事が可能なのは現在はビスマルクさん限定。

 

 それも一発しかまともに撃つことが出来ないとロイヤルが気付けば、躊躇いなく、鉄血の精神的支柱であると同時にブラックキューブの研究者であるビスマルクさんは殺害され、戦争は泥沼化してジリジリとロイヤルにレッドアクシズは追い込まれていくだろう。

 

 最悪、暴走や犠牲を覚悟にロイヤルのkansen達ピュリファイアーの細胞を移植しつつブラックキューブを使って決戦を挑むという手段も存在するが危険性が高過ぎる。故に俺たちが最も望む未来は。

 

 

・ロイヤルがトラップを仕掛けている交渉の場でブラックキューブの力を見せつけつつ、ロイヤルやセイレーンの妨害もなく『穏便』に講和への道筋を作り出す。

 

・ロイヤルやセイレーンがビスマルクさんの抹殺に動くのであれば、ブラック・キューブの力を引き出しつつもその包囲網を突破してビスマルクさんを無傷で鉄血本土に帰還させ、世界にロイヤルの暴虐と報復をチラつかせる。

 

 

 この二つが勝利条件であり、尚且つロイヤルにブラックキューブの存在をちらつかせながらまともに現在運用可能なkansenはビスマルクさんだけであるという事実を隠蔽し続ける必要がある。これが、俺達が目指すべき理想の勝利の形だ。

 

 

「さて……そろそろ戻りましょうか。私はロイヤルと講和を結び、同時に抑止力となり得るブラックキューブの恐ろしさを彼女達に示す為に動かなければならないのよ。例えロイヤルがトラップを仕掛けていても、例えロイヤルネイビーが総力を上げて私を包囲して殺そうとしても、重力砲を相手に向けてその包囲網をブチ抜いてでも力を見せつけて帰還するわ。とはいえ不足の事態に備え、警戒して損は無いのは事実ね」

 

 

 ビスマルクさんは俺に向き合うと手を差し伸べて来る。

 

 

「指揮官。私はヤルタ島での会談の護衛役は第二遊撃艦隊に任せるつもりだけど、ロイヤルとの交渉の際は貴方達の部隊の手も貸してもらう事になると思うわ。相手は1941年の5月27日を会談の日に指定したわ……つまり、3月頃には貴方達の謹慎も既に解けて前線復帰となる。それまでに覚悟を決めて……私とロイヤルが待ち受ける伏魔殿に殴り込みをかける準備をしておきなさい」

 

 

「えぇ、任せてください。必ずや、貴女の護衛の為に力を尽くし、全員で生き残りましょう。その為に俺はここまで来たんですから」

 

 差し出された手を握り返し、ビスマルクさんの手から伝わる熱に少しだけ胸が高鳴った。勝利条件は皆でビスマルクさんも含めて会談を終わらせて無事に帰ってくる事。

 

 この戦争を終わらせる為のラストミッションになりかねない重要任務を任された事に心臓の鼓動は早くなり、不安や恐怖。ロイヤルが強硬手段に出た場合の未来を考えると震えそうになるが、それでも鉄血の未来の為にも失敗は許されない。

 

 ブラックキューブによる抑止力さえ有れば、例え力による偽善の未来と言われても、抑止力によって戦争は終結し、俺達は本来の目的である人類種の敵であるセイレーンとの戦いに集中できる筈だ。

 

 とはいえロイヤルとセイレーンに関しては油断はできない。ロイヤルは物量だけでなく数々の策謀を巡らせて出し抜こうとするだろう。最悪セイレーンと手を結んでいる可能性と0とは言い切れない。

 

 それに、ロイヤルが重力砲の力を恐れてビスマルクさんの暗殺を取りやめた場合、ピュリファイアー達は強硬手段としてスパイ戦のように殴り込んでくる可能性だって存在する。

 

 

 ピュリファイアーだけではなく、記録に登場する彼女と同じ戦闘タイプの知性体であるテスターや、鉄血近海ではあまり見かけず、知性こそ存在しないが戦闘力の高いエクセキューター級、更にその姿は一切不明だがピュリファイアーの言葉通りならオブザーバーというタイプの上位セイレーンも………。

 

 

 

「オブザーバー(観察者)かぁ……」

 

「…?どうかしたのかしら?指揮官? 」

 

 

 金庫を閉めて地上に戻ろうと先に進む準備をしていたビスマルクさんは、不意に呟いた俺に振り向く。

その顔には疑問と僅かな心配が入り混じっているように見え、どうやら無意識に言葉に出ていたらしい。

 

 

 

「いえ、ですね。一つだけ提案があるのですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでどうしたんだ卿。ビスマルクも含めて我に提案があるようだが?」

 

 再び30分ほどかけて眠気に耐えつつ階段を上がり、執務室に戻った俺とビスマルクさんは待機していたグラーフに向き直る。

 

 水筒越しからアイスコーヒーを喉に流し込むグラーフはリラックスしているが、ビスマルクさんは先程の俺の提案を書いて考え込むような仕草をしていた。

 

 俺が考えた案は突拍子もないもので、特に計画性もなく、ただ思いつきで言っただけのもの。それでもやるだけ損はないだろうと、再び俺はビスマルクさん提案した計画をグラーフに話しだす。

 

 

「いやね、セイレーンやロイヤルを動かさない為にどうすればいいかなーなんて考えてたんだけどさ……いっそ、世界各国を巻き込むのはどうかな?って思ってね?」

 

 

「……ほう?」

 

 

 

 グラーフは興味深そうに俺の話に食いついた。

 

「会談まで四ヶ月近く余裕があるならね、いっそこの世界でkansenを所有する国に出来る限り会談に『オブザーバー』として参加して貰えば、ロイヤルへの牽制に繋がるんじゃないかな?って思ったんだよ」

 

 

「……その、ちょっと難しいんじゃないかしら…?ユニオンにせよ、北連にせよ、他の国にせよ…そんな事に巻き込まれてくれるとはあまり思えないのだけれど」

 

 

 それまで無言だったビスマルクさんは、俺の突拍子のない提案にいい色は見せずに首を横に振る。確かに彼女の言うとおり、セイレーンとロイヤルの動きを止める為に各国の代表、特に敵対するアズールレーンの国々から招くというのはかなり厳しいかもしれない。

 

 

 レッドアクシズであるサディアとヴィシアは、恐らく『オブザーバー』として参加してくれるだろうが、モンロー主義に染まったユニオン。新たな陣営を立ち上げたとは言え未だにアズールレーンに残留している北方連合と重桜。それに公平性のためにはロイヤルに亡命した自由アイリス教国亡命政権にまで声をかける必要があるが多くの国は警戒するに違いない。

 

 

 

 それでも、ダメで元々だ。

 

 

「やれる手や、やれそうな手ならどんな事も試して見る価値は有るはずです。『オブザーバー』として参加してくれないか?と提案をするだけなら、やっておいてきっと損はないはずですよ」

 

 ブラックキューブを抑止力として使うのであれば、ロイヤルだけではなく、世界中に重力砲の凄さを見せつければ、更に抑止力としての価値は高まるはずだ。

 

 どうせ第三の矢である重力砲に関してはロイヤル経由で世界各国に即座にバレるだろう。それならば、この会談を重力砲によるデモンストレーションの場所として利用しつつ、こちらから情報をある程度開示する事で、逆に情報を開示されたもの以外制限する事も可能ではないか?と俺は推測する。

 

「それに……世界各国のアズールレーン陣営も含めた『オブザーバー』に囲まれた状態で、自分達が会談したいと言って場所を指定したと言うのに、こちらが真っ当に休戦協定の提案をして、ロイヤルが拒否すれば、参加した相手の顔に泥をぬるだけです。『オブザーバー』にロイヤルの傀儡である自由アイリス以外のアズールレーン参加国がいるのなら、ロイヤルは強硬手段を取ることは難しいでしょうし、仮にロイヤルが『オブザーバー』ごとビスマルクさんを始末しようと動いた事がバレれば……ロイヤルの戦争相手がまた一つ増えるでしょうね」

 

 

 『オブザーバー』の役割はあくまでロイヤルと鉄血の会談を円滑に進める為の仲介役に過ぎない。ただ会議に参加をしてその様子を眺めるだけであり、国益や利益を主張する事もない。

 

 

 いわば、俺はロイヤルが馬鹿な真似をしない様にする監視役として会談に無関係かつ、各国から選ばれた『オブザーバー』のkansen達に頼む提案をビスマルクさんに先程行っていたのだ。

 

 仮に会談中にロイヤルが強行策に出ようとしても、それは各国からの信用問題になるだろう。ロイヤルが企画した会談で、他国の代表が同席した状況で、他国の代表を危険に晒すなんて事は許される筈もなく、もしもロイヤルが各国の『オブザーバー』ごと全てを闇に葬ろうとして失敗すれば、参加国からの宣戦布告すら覚悟しなければならないだろう。

 

 セイレーンだけが襲撃を仕掛けてくるのなら……それはそれで、撃退できるのであれば、こちらとしても都合は良い。

 

「それこそ、ブラックキューブをちらつかせる必要も会議がうまく進めば必要ないでしょうね。ブラックキューブは後日改めて公開すればいいですし、何よりもこの会談で重要なことはロイヤルから「平和」の為に鉄血に頼み込みテーブルについたという事実を『オブザーバー』経由で世界に示す事。それでもロイヤルが講話提案を渋れば、重力砲のデモンストレーション会場として利用しつつ、『オブザーバー』にその力をアピールしながら、ゆるりと鉄血艦隊が本土に無傷に帰る事も出来るんじゃないかな、と」

 

 

 俺はビスマルクさん達に向けてそう締めくくる。

 

 

 これはあくまで一つの案に過ぎず、正直アズールレーン陣営である重桜、北方連合、ユニオンの三カ国の内一国でも参加しなければ成立しない素人考えの代物だ。

 

 

 しかし、それでも何もやらないよりはマシだと考えながらビスマルクさんの表情を伺うも、その表情冴えないままだった。まぁ確かにいきなりこんな事を言われても困るよな……と思いつつ俺はグラーフに視線を向ける。

 

 すると、彼女は顎に手をニヤリと面白そうに笑みを浮かべ、ただビスマルクさんに視線を向けるだけであった。

 

 

 

「……あなたは本当に予測もつかない提案をするわね?」

 

 

 少しの間だけ、無言の空気が続き……ビスマルクさんは小さく溜息を吐きながら口を開いた。

 

 

「とはいえアズールレーン参加国に会談を見られて何か困る事がある訳でもないわね……わかったわ。一応、打診するだけしてみましょうか…もし、あなたが望む結果が得られなくても恨まないで頂戴ね」

 

「えぇ、大丈夫ですよ。無理を言ってるのはこっちですし」

 

「そうね。本当に無理を言ってるわよ貴方は。各国に送る新書の作成や使者の選定。上層部や宰相閣下への説得。更には各国の『オブザーバー』への通達だけではなく、幾らかの譲歩を向こう側が望んだ場合に備えての準備もあるのだから……北桜同盟とのヤルタ会談の予定でただでさえ忙しいというのに」

 

 

「…………その、色々と申し訳ございません。出来る限りのサポートは──」

 

 

「冗談……ではないけれど貴方は謹慎中なのだから余計な事に首突っ込まずに大人しくしてなさい。ヴェネトやソユーズになんて説明すればいいのよ……はぁ……」

 

 

 俺の提案に賛成するも一気に仕事量が増えて愚痴をこぼすビスマルクさんに俺は頭を下げるしかなかった。いやまぁ……うん……謹慎中の指揮官がいきなり各国巻き込んで全陣営から人を呼び寄せるような提案するなんて面倒くさい案件だし、そりゃそうなるよね。

 

 

 

 

「とはいえ北桜同盟からの使者との会話を聞く限り少なくとも重桜は講和の為にオブザーバーを派遣して欲しいと提案すれば、恐らく来てくれるでしょうね。反応を見る限りでは、長門は北方連合への同盟提案も含めて一刻も早く戦争を終わらせたいと願っているはずだもの」

 

 

 

 重桜に関してはきっと参加してくれるでしょうとビスマルクさんは口にする。イデオロギーの相違がある北方連合やモンロー主義でひたすら新大陸に引き篭もるユニオンと比べても重桜は鉄血への悪感情は薄い……はず、であり北桜同盟はレッドアクシズとの単独講和を望んでいるのなら、見返りとして『オブザーバー』を派遣してくれる可能性は低くはないだろう。とはいえ重桜とロイヤルの関係は新聞を見る限り悪化しているので油断は出来ないが。

 

 

 

「ロイヤルが嫌といっても既に重桜が参加するのであればきっと面子の意味合いもあってロイヤルは『平和』を口にする以上、中止はほぼ不可能でしょうね。自由アイリスはヴィシアが参加する以上『オブザーバー』として参加しなければ、正当性に関わるのだからこれも参加するはずよ」

 

 

 

 そう話し合いながらビスマルクさんはまとめると。

 

 

 ・参加の可能性が高い

 重桜(国家のトップが和平に積極的。鉄血に悪感情も少なめ。お互いの事をよく知らないとも言う)

 

 

 ヴィシア聖座+自由アイリス教国(ヴィシアは国益的に参加しない理由もなく、自由アイリスはロイヤルの傀儡であるがヴィシアが参加する以上嫌でも参加するしか道がない。)

 

 ・参加するかどうか不明

 ユニオン(モンロー主義を拗らせて引きこもっており、この腰の重さは折り紙付き)

 

 北方連合(共産主義国家であり鉄血とのイデオロギーの対立がある以上、重桜とは違い、見送る可能性も高い)

 

 

 ・確実に参加する

 サディア帝国(『オブザーバー』どころか艦隊を率いて喜んで参加してくれるだろうとグラーフは語っていた。というかサディアは言わなくても勝手にリットリオのアホは人を送り込むだろうな、うん)

 

 

・参加する可能性は低い

 東煌(kansenを保有する中立国であり声をかける予定ではあるが……ビスマルクさん曰く、オブザーバーになるメリットが何一つ存在しない上に鉄血としても彼らがやってきても反応に困るので、どうでも良いとぶっちゃけた)

 

 

 

 カリカリとペンを走らせ、ビスマルクさんは即興で纏めた会談に関する報告書を書き上げる。ダメ元の提案だったとはいえこうして見ると、レッドアクシズからはサディア帝国とヴィシア聖座。アズールレーンからはユニオンと北方連合は不明とはいえ、恐らく重桜と自由アイリス亡命政府がオブザーバーとして参加するだろうと予想された。

 

「恐らく、私を殺す為の罠を張っているであろうエリザベスはこの状況をどう思うのかしらね……ヘルブスト指揮官。前々から思っていたけど、貴方は鉄血にとっての『英雄』かどうかはこれからの働き次第とはいえ、ロイヤルにとっては最悪の『疫病神』になりそうね」

 

 

 そんな事を口にしながらも、ビスマルクさんは何処か楽しそうに笑みを浮かべており、そんな彼女と改めて面倒な提案したと平謝りする俺の姿を見てグラーフも静かに微笑み続けるのであった。

 

 

 ロイヤルやセイレーンがビスマルクさんを殺そうと謀略を張っている可能性があるのなら、俺達はそれに備えなければならない

 

 

 やるべき事はいくらでもある。この講話と戦後のブラックキューブによる抑止論はビスマルクさんが生きてこその話である。彼女が死んだ時点で俺達の勝利条件である講和が成らない。何としてもこの会談を成功させてビスマルクさんを守り抜く為に、残りの謹慎期間を全て艦隊指揮の為の勉学に費やそうと決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何で!!新年早々!!サディアから帰って直ぐに!!ヴィシアに行く羽目になるのよぉ!?」

 

 

 

 

 

 一週間後。俺達は色々あってヴィシア聖座に派遣されて、ヒッパーが船の上で絶叫する事になるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 




 ・ブラックキューブ

 アニメやゲームにも登場したkansenの力を引き出す存在。設定資料によればkansenを構成するメンタルキューブの量子情報と接続すれば量産型セイレーンの奪取、基礎能力のアップ、特殊砲撃、並行世界の観測すら可能になる程の多岐にわたる能力を得る事が可能。アニメ版では巨大戦艦オロチの動力源として使用された。但し、その使用には精神状態の安定が必要であって制御は難しく作中では使用者のほぼ全員が暴走。又はMTEAグナイゼナウによるとリュウコツの汚染の可能性すらあるらしくハイリスク・ハイリターンな代物となっておりMTEA、余燼、上位型セイレーンの強さの力の秘密では?と推測する。

 原作では鉄血が2つ以上、アニメ版重桜は2つ以上保有しているが本作ではブラックキューブは1ダース以上テスターとの接触の際に譲渡されており、その力を引き出す為にビスマルクは常にペーメミュンデ機関において実験を繰り返しており、後に指揮官が鹵獲したピュリファイアーの細胞を移植する事で原作より少しは使用可能に。また重力砲の描写はゲームだけではなく3周年記念PVを参考にしており、ビスマルクが完全にブラックキューブを制御する事ができる可能性も示されている。但し、ブラックキューブにも適正が存在しており歴史の流れを変える可能性を秘めている『王手』とセイレーンから呼称されている存在でなければ制御すら不能で一瞬でアルジェリーのように暴走する可能性もあり、原作ゲームでは気合いと信念で最終的に暴走状態から戻ったビスマルクの異常さが示されている。

・第三の矢
 レッドアクシズのロイヤル、エリザベスへの復讐も兼ねた講話の為この計画はサディア帝国と鉄血公国の二カ国を中心に計画されており。

 第一の矢→暗殺未遂やタラント空襲などのロイヤルの所業の暴露によって外交的に孤立させつつ、ロイヤルのスパイ活動の制限を強制。

 第二の矢→30万人のマルタ島の民間人の強制移住によるロイヤル国内でのクイーン・エリザベスの政治的権威の失墜と時間稼ぎ。

 そして第三の矢はブラックキューブによるロイヤルへの恫喝の含めた講和提案であり、戦後レッドアクシズ参加国へのブラックキューブの譲渡によるアズールレーンへの牽制と戦争抑止を計画。

 とはいえ現在ではブラックキューブの力を引き出す事はビスマルク以外は不可能(そもそも人体実験をビスマルク個人でしか行っていない)であり、ハッタリも含めた講話提案を行おうとした所でロイヤルからの首脳会談が計画されてレッドアクシズにとっては渡りという展開でした。しかし、それは罠である事はほぼ明らかであり、ロイヤルに問答無用でビスマルク撤退戦を『再現』されたばあい、ブラックキューブによってロイヤルの大群を蹴散らす以外の道は無かったのですが……


・オブザーバー
 ロイヤルへの対処に関してビスマルクは


dice1d10=3 (3)
1~3.護衛艦隊をつけましょう←確定
4~6.言い出しっぺなのだから、勿論護衛してくれるわね?
7~9.他国まで巻き込めば向こうも行動しづらくなるでしょう
10.*おおっと*

 護衛艦隊の強化によって警戒すると言う道を取ろうとしたものの。


dice1d10=10 (10)
1~6.…流石にこれ以上は意見を出しすぎか…?
7~9.他国を巻きこむ、というのは?
10.*おおっと*←確定


dice1d10=10 (10)
1~3.かも、ではなく参加させればよいだろう…何、幹部が見にきたのが一人増えるのなどよくあることだ
4~6,両方
7~9.もういっそ向こうはユニオン、こっちはサディアにケツ持ち頼めばセイレーンも余計な行動できないのでは??
10.*おおっと*←確定

と連続ファンブルによって状況は一転。指揮官は

dice1d3=2 (2)
1.ほとんど中立みたいな重桜とかに手を貸してもらえないかしらね…
2.いっそ各国の手が空いてる重役を最低一人集めます?←確定
3.…いっそヴィシアとかも巻きこむべきかしら?

 指揮官はビスマルクに300分の1の選択肢である世界中のkansen保有国からオブザーバーを派遣させる事によりロイヤルへの牽制を行う事をビスマルクに提案。結果的に指揮官の提案によってブラックキューブへの恫喝は最終手段になり、世界各国からオブザーバーを集める事で平和に向けての話し合いを『講話会議の提案』にランクアップさせ、ひとまずは現存のカードによる講話を、場合によってはこの講和会議をブラックキューブの使用によるデモンストレーションの場とする事を目指すのでした。

 これにて指揮官の謹慎生活と世界が動いていく事を中心に描いた、第四部はひとまず終了となり、次回は鉄血の『オブザーバー』の派遣提案を巡る国々の反応と選択を描き、そして、色々あって、謹慎期間中だと言うにヴィシアに派遣されることになった指揮官達を描く第五部の『ヴィシア編』に続きます。

 いよいよ本編も終盤戦といった所。北桜同盟の謀略やヴィシア聖座の複雑な事情、そんな中久々に再開した指揮官達の関係に変化も生じるようで……ネタバレとなりますが、ヴィシア編はダイスの暴走状態の結果、今までとは少し違うノリの物語になるのですが果たして指揮官達の運命は如何に。

 コメント、感想、質問、評価をお待ちしております……


指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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