鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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番外編 十七話 水面化での戦争。そしてヴィシアの決断

 鉄血が提案した首脳会談におけるオブザーバーの派遣要請はバーデン宰相の承認を得て、秘密裏に各国に使者が派遣される事となる。ロイヤルの諜報部門にバレないように行われた使者派遣は水面下で動き見せ始める。

 

 鉄血の思惑通りというべきか、敵対するアズールレーン陣営の中でも重桜はトップである陣営代表の長門は真っ先にオブザーバーの派遣に賛成するも、北方連合、ユニオンは唐突な提案に難色を示す。

 

 正確にはイデオロギーや主張の違いや憎悪によって難色を示すと言うよりも、あまりにも唐突な提案に二カ国は困惑したというのが本音であり両国の議会は紛糾する。とはいえ門前払いされなかったのは両国共に、外交的に失敗を繰り返す落ち目のロイヤル王国に既に見切りを着けたに他ならないと言えるだろう。

 

 ひとまず鉄血公国は秘密裏に会談の5月27日までは、アズールレーン各国に対してどの様な敵対軍事行動を取るつもりもないと鉄血公国公王にビスマルクのサイン付きの誓約書を手渡し、水面化での交渉はロイヤルと自由アイリス教国も知らぬ間に進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

「ソユーズよ。既にお主も余と同じく鉄血からオブザーバー派遣の要請を受けていると思うが……どう思う?」

 

 

 重桜の陣営代表長門は北方連合と重桜の国境地帯である樺太中心部のホテルにて、怪訝そうな表情を浮かべ北方連合の陣営代表であるソビエツキー・ソユーズの問いかける。本来であれば通信越しでの会談となってもおかしくない北桜同盟トップ同士の首脳会談。

 

 

 長門はロイヤルからの通信傍受を恐れ、わざわざソユーズをこの様な場所に理由をつけて呼び寄せたのだが、ソユーズはそれだけ長門がこのオブザーバー提案を重視すべき案件だと理解していた。

 

 彼女達はホテルのスイートルームの窓際にある椅子に腰掛けながら会話を続ける。その内装は重桜風にアレンジされており畳が敷かれていたり障子や襖が設置されていたりと和の雰囲気が強いと言えるだろう。

 

 共産主義国家で生まれたソユーズとしてはブルジョアジーの権化とも言えるサディア帝国やロイヤル王国の煌びやかなに内装に内心辟易していたが、不思議と重桜風の畳の匂いが鼻腔をくすぐるシンプルな内装に落ち着いた気分になる。

 

「我々としては既にロイヤル王国の手によるアカ狩りによって国内のコミュニストである同志達が粛清されたと聞いています。ですので、これが早期終戦に繋がるのであれば、最早ロイヤルに遠慮する必要はない……とはいえ、もう少し議会にて議論を行うべきでしょうね」

 

 ソユーズは長門が入れた緑茶を飲みつつ、今回の件について冷静な意見を述べる。本音を言えば欧州を中心とした今回の戦争に北方連合は介入する余裕も、必要性も感じず。勝手にやってほしい、我々は同志を守る為に戦うのが精一杯で、重桜との対セイレーン戦や『計画』の準備も含めて忙しいと言うのに、我々を巻き込むなと彼女は思う。

 

 現在重桜と北方連合が協力体制を取っているのはあくまでも対セイレーン戦が目的であり、最早鉄血公国との講話さえ終われば欧州戦線なんて興味はない。寧ろロイヤルと鉄血は延々と潰し合ってくれれば……と内心ソユーズはその灰色の瞳に冷酷な光を浮かべて思案する。

 

 

「先に言っておくが、重桜は今回オブザーバーの派遣要請は受けるつもりだ。ソユーズよ、お主との付き合いは短いが恐らく鉄血の意図を探るために自分達で探りを入れるつもりではないのか?」

 

「…っ…」

 

 

 幼い容姿の黒髪の少女に図星をつかれたソユーズは静かに目を瞑る。同盟締結前は長門は傀儡同然の少女であると聞いていたが、いざ同盟締結後に会った時はまるで別人だった。

 

 決して長門は傀儡では無く未来を掴む為に策謀を巡らせる知将であり、更に言うなら重桜という巨大かつ不安定な国家の舵取りをする為に冷徹さと非情さ、何よりも慈悲の心を兼ね備えた人物とソユーズは評価する。

 

 そもそも如何に権力があれど世界中から白い目で見られている共産主義国家である北方連合と同盟締結に至るまで国内をコントロールした彼女の手腕は本物だ。

 

 いっそ御し易い人物であるのなら資源や資金を搾り取るだけ絞り尽くして後はポイすれば良いのだが、生憎この少女はそんな甘い相手では無い。そんな彼女の慧眼にソユーズはこの少女が同盟相手の代表で良かったと複雑な気分になりつつも口を開く。

 

 

「やはりお見通しですか。確かに私達は鉄血が何か企んでいるのではないかと警戒しています。世界中からの外交評価を一夜にして塗り替え、鉄血が『正義の味方』として『悪』のロイヤル王国を屈しないという盤面を作り上げたビスマルクの手腕は素晴らしいものでしょう。ですが……」

 

 

 ソユーズは緑茶を再び口に含んで嘆息する。

 

 

「個人的には彼女を尊敬しており、私たちの祖国にも同志タリンのように鉄血出身のkansenがいるとはいえ、やはり鉄血公国と北方連合の長年の確執はそう簡単に拭えるものではありません。故に同志長門、我らはもう少し相手の意図を探ろうと思います」

 

「うむ……お主の判断は正しい。だからこそだ」

 

 

 

 長門は緑茶の入った湯飲みを置いてから、深呼吸してから言葉を紡ぐ。その姿はまるで年相応の幼女とは思えない程に信念を感じさせるものであるが、同時にふっと笑みを浮かべる。

 

 

「鉄血と北方連合の確執が根深いものである事は理解している。だからこそ、重桜がオブザーバー提案に了承して人を送りつつ、暫く鉄血の動きに目を光らせておこう。無論北方連合にも情報は送るが、そちらが望むのであれば」

 

 

 長門は柔らかな笑みを浮かべながら、ソビエツキー・ソユーズに告げた。 

 

 

「お主達、北方連合が望むのであれば、我ら重桜が仲介役として鉄血と北方連合の仲を取り持とう。重桜としても隣国であるお主達北方連合と鉄血の関係が融和の方向に傾けば安全保障の上でも重畳であり、同盟国の懸念材料は取り除いておきたい」

 

 

 ソユーズは静かに頷いてみせる。北桜同盟とレッドアクシズの講話も近付きつつあるが、共産主義国家である北方連合は全世界からその特殊なイデオロギー故に冷淡な態度を取られており、特に絶対君主制である鉄血公国との関係は決して良好なものでは無かった。重桜が講話後も窓口として仲介役になってくれるのであれば、そのメリットは大きい。

 

 何よりこの少女は重桜の代表としての振る舞いを弁えている。少なくとも、ソビエツキー・ソユーズは個人としては目の前の長門を信頼するに足ると判断していた。

 

「分かりました。では、この件は重桜と共に歩調を合わせましょう。少なくとも北方連合の党内にて重桜が単独でオブザーバーを派遣した事を非難することがない様に働きかけましょう。同志長門。それでは例の計画も含めて今後とも、よしなに」

 

「……どの様な形であれ人類種の敵はセイレーンである事はレッドアクシズにとってもアズールレーンにとっても共通事項。1日でも早くこの戦争を終わらせる為に余も微力を尽くそう」

 

 

 長門とソユーズ。宗教国家重桜と共産主義国家北方連合という本来の歴史であれば敵視する事はあれど、決して手を組むことの無い両国が協力関係を結ぶのはひとえにセイレーンという共通の脅威に対しての一致団結であった。

 

 タラント空襲という『再現』の失敗から蝶の羽ばたきのように生じたこの同盟は果たして吉となるか凶となるのか?それは誰にも分からない。

 

 

 だが、少なくとも今は『計画』の遂行と並行して、両国の同盟関係を強化させるべく尽力する事こそが、今の自分に出来る最善だとソビエツキー・ソユーズと長門は考えており、即座に了承した重桜から遅れて二ヶ月後。北方連合も鉄血にオブザーバーを派遣する事を決定するのであった。

 

 

「……それにしても緑茶というものは苦いものです。同志長門、我らの祖国ではジャムを舐めながら紅茶を飲む文化があるのですが一度試して見ますか?」

 

 

「そうか、それでは遠慮なく……うむ!これは中々!お主と話しているとかるちゃー・しょっくと言うものを常々感じるな」

 

 

 

 ラズベリージャムを舐めながら緑茶を飲む長門に鉄面皮のソユーズも内心『小動物の様で癒されますね』と微笑ましく思い、結果としてこの秘密会談の後、両国ではジャム入り緑茶が密かなブームになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、ユニオン出身のkansenブルックリンは部屋に戻るなり乱雑に服を脱ぎ捨てるとベッドに向かって倒れ込む。今日のシャワーはもういい、できる事ならこのまま睡魔に身を委ねたい。しかし、まだ眠るわけにはいかない。

 

 

「……何で上層部はこんな問題、私に押し付けるんですかぁ……!」

 

 

 枕に顔を埋めると思わず叫び声を上げる。彼女はユニオンのkansenの中でも外交能力の高さをユニオン海軍上層部より評価されており、戦前はロイヤルや重桜にも新書を届ける経験もある程の才女ではあるのだが。

 

 同時にその調停能力の高さゆえに便利屋扱いされており、アズールレーン総本部であるNYシティの要塞にして北桜同盟成立の結果関係が悪化しつつある、ロイヤル出身者の軍人と重桜出身の軍人の諍いのたびに駆り出される苦労人でもあった。

 

 本当に疲れる任務だったとブルックリンは嘆息する。ロイヤルの軍人と重桜の軍人はそれまでは程々に上手くやっていけたのだが、重桜が共産主義者と手を組み単独講和の動きを見せるとロイヤル出身者は当然皮肉を口にし、重桜出身者は当然反発する。最初は小さな皮肉の応酬がそれぞれ王家、巫狐の罵倒にまでつながり、ついに殴り合いに発展した時には流石の彼女も頭を抱えた。

 

 kansen達は比較的マシではあるが、重桜のkansenとロイヤルのkansenはそれぞれお互いの為に相互不干渉を貫いており、現在ではユニオン出身の彼女から見てもギクシャクした空気が流れている。

 

 ブルックリンは頑張った。それはもう頑張った。重桜とロイヤルの軍人がそれぞれ諍いに発展しそうになれば第三国の軍人として穏便に話し合いの場を設け、トラブルになりそうであれば仲裁を行い、両国のkansen達のメッセンジャーとして走り回る。お陰で体重が7キロ近く痩せる程のストレスに苛まれながらも2カ国の軍人達の調停を行っていたブルックリン。

 

 彼女としては何故同じアズールレーンの旗の下に集った仲間同士が争うんですか?レッドアクシズの思う壺ですよ?と重桜とロイヤルの軍人達に正論を述べたかったのだが、それを口にすれば更に状況が悪化する事は目に見えていたので口をつぐんでいた。

 

 

 結果としてブルックリン達の働きによってようやく重桜とロイヤルの軍人達の関係も笑顔という仮面を貼り付けながら力強く握手をし合う程度には改善したのだが、皮肉な事にそれがユニオン上層部でのブルックリンの評価に繋がり、面倒な仕事をまた押し付けられてしまったのだ。

 

 

「鉄血とロイヤルの会談におけるオブザーバーについて……鉄血からの使者のもてなしから、その報告に至るまで全て私が担当しろというのは幾らなんでも丸投げ過ぎませんか……?」

 

 

 ブルックリンは下着姿のまま枕を抱きしめてジタバタと暴れる。聡明な彼女であっても今度ばかりはユニオン上層部に呪詛の言葉をなげざるえない。彼女の仕事は鉄血から秘密裏に派遣された使者団をもてなすと同時に交渉役から議会や軍上層部への報告まで全てを行えという無茶振りだ。

 

 しかも秘密交渉であるのだから、ロイヤルや重桜の面々にバレない様にしろだの、信頼できる使者団の護衛のユニオンkansenの選定。更には数週間滞在するであろう鉄血の使者団の衣食住に至るまで全てブルックリンが決めろと言うのだから思わず命令書を破り捨てたくなってしまう。

 

 それだけ彼女が信頼されているという証ではあるのだが、それは人間である政治家や外交官の仕事では?とブルックリンは何度もため息をつく。

 

 

 実の所当初はその通り政治家や外交官が鉄血の使者団と交渉を行う予定であったのだが、軍上層部が善意をもって『重桜とロイヤルの諍いを納めたブルックリンであればこの交渉をまとめ上げるはずだ!』と鉄血との交渉のまとめ役として推薦し、彼女のキャリアアップを望んだというのが事実なのだが、そんな事情を知らないブルックリンは愚痴をこぼす。

 

 

「そうですね……主力艦達は現在防衛網の構築やパトロールで忙しいので呼べませんが、海上騎士団のクリーブランド達なら護衛役の役目も果たせるはずです……NYシティではなくメイポート基地かノーフォーク基地……いやパナマ基地であればそれ相応の設備にロイヤルと重桜への隠蔽も出来て……はぁ…しばらくこれでは眠る事も出来なさそうですね……」

 

 

 流石に鉄血が使者を派遣すると言ってこちらを油断させつつ、武装したkansen達がNYシティ本部に殴り込みをかけるなどはブルックリンもあり得ないと信じているが、だからと言って鉄血は形式上とはいえ交戦国なのだから注意は必要だとブルックリンは思案する。

 

 鉄血の交渉団をもてなし、監視を行い、交渉の様子や内容を上層部や議会に報告し、結論が出るまで待ち続ける。何故こんな役目を私にと嘆きながら彼女は明日クリーブランド達に護衛役を頼もうと枕に顔を埋めて見せる。

 

 結果として鉄血とユニオンの交渉は一週間程度で終了し、ユニオンはオブザーバーの派遣を決断したのだが……その後の両国の話し合いの窓口として使者団のパナマ基地への滞在は二ヶ月にも及び、クリーブランドはブルックリンが毎晩死にそうな目で胃薬を口にする姿を目にして同情しつつ、後に『今この戦争で一番ユニオン軍人として頑張っているのはブルックリンだ』と妹や同僚に語る事になるのであった。

 

 

 また、ブルックリンが飲み始めたその胃薬は、図らずもとある国の陣営代表や陣営代表の妹、某枢機卿が常備している鉄血製の胃薬であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっきり言うぞジャン、これ以上の防衛は不可能だ」

 

 

 深夜、ヴィシア聖座の司令室にてジャン・バールは腹心である指揮官からの直球な報告を受け思わず歯を食いしばる。アルジェリア防衛の司令として配属されたヴィシア聖座に唯一残留した指揮官はその声に僅かな苛立ちを滲ませながら報告を続ける。

 

 メルセルケビール海戦の敗北後、ヴィシア聖座は4つの地域を最重要拠点に任命し。

 

・本国

 

・ヴィシア領アルジェリア

 

・ヴィシア領インドシナ

 

・そしてヴィシア領マダガスカル付近に存在する『聖域』防衛部隊

 

 

 この四つの地域を最重要拠点防衛拠点に任命し、人材不足ながらもどうにか防衛を続けていたのだが、遂に限界が訪れたのだ。

 

 本来の旧アイリス教国時代であれば防衛可能だった戦力の大半はリシュリュー枢機卿と共に本国を見捨て、ロイヤルに亡命し、残されたヴィシア聖座の面々は一気に亡国の危機に陥った。

 

 

 防衛の難しいインドシナ方面の戦力の縮小化などを行い、だましだましで艦隊運用を行なっていたのだが寧ろ対セイレーンだけではなく、対ロイヤルネイビーの防衛網の構築をサディア帝国や鉄血公国に頼らずに行えたのは間違いなく彼女と指揮官の手腕と言えるだろう。

 

 それでも、数ヶ月前からアルジェリアと本国を結ぶ海域にて活発化しつつあるセイレーンの攻勢には対処出来ず、結果として防衛すら覚束ない程に戦線は膠着状態に陥っていたのだ。

 

 

 

「現状の資源状況は?」

 

「……芳しくはない。信じられるか?この前お前が送ってくれた一年分の弾薬は二週間もしない内に半分となった。今の俺達には何もかも足りない。資源も、弾薬も、防衛のためのkansen達もな。更にあのカス野郎達だけではなく、ロイヤルへの備えも考えれば……ヴィシア聖座が単独ではこれ以上国民を守り切るのは不可能だと言っておく」

 

 

 ジャン・バールが最も信頼する腹心の一人である指揮官はセイレーンへの激しい憎悪を滲ませつつも冷静に現実を告げる。

 

 彼の言う通り、今やヴィシア聖座に残されたkansen達は自らの命を守るのが精一杯だ。人型セイレーンであるエグゼキューター級まで出現するようになった今、如何に天才的な指揮能力を誇るヴィシアの『怪物』であってもこれ以上は不可能だと言う現実を受け止めざるえない。

 

 

「……ジャン。鉄血公国のオブザーバー派遣の提案に関してはこちらも聞いている。ここに至ってはオブザーバーを派遣する為の条件として鉄血公国からの軍事支援を受けざる得ないだろう。」

 

 

 指揮官の言葉を聞いてジャン・バールは苦い表情で拳を握りしめる。レッドアクシズ内でのヴィシア聖座の立ち位置は正直に言えばあまりよろしくは無い。

 

 鉄血公国と旧アイリス教国は過去の歴史のいざこざや領土問題などを抱えており戦前は鉄血は寧ろ共産主義国家である北方連合との関係のほうがアイリスよりも遥かに良かったといえばどれだけの確執と不信感を両国は秘めているのか理解出来るだろう。

 

 国内には親鉄血の国民は多いが、寧ろそれは反ロイヤルのついでであり、イオニア海海戦や指揮官暗殺未遂事件、ビスマルクの演説によって反ロイヤル感情の結果国民の多くは『史実以上』にレッドアクシズとの提携を望む動きとなっているが、同時にジャン・バールは国家を導くものとして、慎重な動きをせざる得なかった。サディア帝国とは違いヴィシア聖座はそう簡単に鉄血を信じることは出来ないのだ。

 

 本来の歴史の『枝』であればヴィシア聖座がいくらロイヤルネイビーとの戦いによって不利になっても、鉄血公国は自国の防衛を優先せざる得ず、最後は全ての国家から見捨てられたジャン・バール達ヴィシア聖座のkansen達はロイヤルにもヴィシアにも屈しないと集団自沈によって、こめかみに銃を突きつけ皆が自殺するという結末を迎えてしまう。

 

 

 だが、この『枝』に於いては国際情勢もかなり違った特異なものとなっており、反ロイヤル感情の高まりによって国民はレッドアクシズとの合流してを望み、サディア帝国との関係もイオニア海海戦の終盤のロイヤルネイビーの軍人達の捕縛や、第二次ダイナモ作戦への戦力派遣によって史実よりも遥かに両国の感情は融和の方向に向かっている。

 

 それは鉄血も同じであり、ヴィシア聖座の窮地によってはいつでもビスマルクは同じレッドアクシズとして戦力を派遣すると口にしており、鉄血からのラブコールもジャン・バールは受け取っていた。

 

 しかし、それでもヴィシア聖座はジャン・バールは決断出来ない。この国難を乗り越える為にはヴィシア聖座だけでどうにかしなければならないという意地もあるが何より……。

 

 

 

 ────オレはもう、二度と裏切られたくないんだ。

 

 

 

 実の姉であるリシュリュー枢機卿の裏切りによってアイリス教国が分裂したという罪悪感をもっているジャン・バールにとって、その思いは誰よりも強い。

 

 ジャン・バールは常に正しくあろうとした。リシュリュー枢機卿の裏切りの結果、ガタガタになったヴィシア聖座を強引に立て直し、相棒である指揮官や信頼できるヴィシアの護教騎士達と共に単独で国家を防衛しようと足掻き続けた。

 

 本来なら鉄血やサディアに頭を下げる事も出来た、しかし自身の姉が売国奴に堕ちた事に対して許せない気持ちや不信感もあり、決して戦前までは良好と言えなかった2カ国の裏切りに慎重になった結果他国をそう簡単には信じられなくなってしまった事もあり。

 

 何より自分自身の誇りと姉への複雑な感情と共に最後まで戦い抜く事を彼女は選んだ。史実と違い存在しなかった『相棒』の存在も、その後押しになった事は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、これ以上は……意地だけでは限界がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……鉄血公国に支援要請を出す。鉄血への貸しを作る事になるが、今はそれしかあるまい」

 

 

 ジャン・バールは覚悟を決めた表情で指揮官に告げた。指揮官は通信越しよりもう数年以上の付き合いであるジャン・バールの決意した声を聞き、彼女がどんなに辛い選択をしたのかを理解する。

 

 鉄血公国への借りを作ることになるがヴィシア聖座が生き残るためには仕方がない。レッドアクシズに頭を下げればまだヴィシア聖座は助かるかもしれないが、それはレッドアクシズに深く関わらざる得ない状況となってしまう事と同義だ。

 

 

(ジャンの奴、自由アイリスの奴らの事を気にしてるのかね……)

 

 

 混乱するアイリス教国を裏切りロイヤルに亡命し、反鉄血、親ロイヤルと口にする自由アイリス教国と名乗るジャン・バールの姉であるリシュリュー枢機卿が率いる亡命政府は、最早ヴィシア聖座のレッドアクシズとの関係の深まりによって穏便な形で再統合するのは不可能となるだろう。

 

 セイレーン撲滅の為に生きる指揮官としては、最早枢機卿に関する敬意は既に吹き飛んでいるが、それでも元アイリス教国時代から顔見知りの人間やkansenは多く、レッドアクシズと深く関わるようになれば彼らと交戦する事になり、少なからず拒否反応がある。自分でさえそうなのだから、姉妹艦も多数存在しているヴィシアのkansen達は出来る事なら自由アイリスと交戦したくないと思うのが人として当たり前の感情だろう。

 

 しかし、国土の防衛にレッドアクシズに力を借りるのであればその躊躇いを消さなければならない。もしかするとジャン・バールは二度と裏切られたくない、他国を信頼出来ないと口にしつつも根底では裏切り者の彼らが穏便な形で国内に戻る事を期待していたのではないか?彼らの帰るべき場所を守る為にレッドアクシズと深く関わることに慎重になっていたのではないか?と指揮官は推測する。

 

 そんな指揮官の考えを肯定するように、ジャン・バールの口調はどこか悲しげであった。

 

 

「ジャン。お前の選択を俺は支持する。このままイタチごっこを続ければ、国民に被害が出かねない。それだけはなんとしてでも防ぐ必要があるんだ」

 

 

 指揮官の脳裏には今もセイレーンへの憎悪が蛇のように頭に巻き付き、復讐の念は決して消える事はない。だが、彼はこの世界からクソッタレのセイレーンを一匹残らず撲滅すると同時に、二度と自身のように故郷を焼き尽くされ、家族を失い、全てを奪われる者達を増やしてはならないという使命感があった。

 

 それは、かつて自身が経験した悲劇を繰り返してはいけないという強い思い。例え元は同じ神を信じる者達と戦う羽目になっても、例えレッドアクシズという体制に取り込まれてしまう事になっても、武器を持たない民達を守るヴィシアの盾として軍人として戦い続けなければ自身の様な存在を生み出す未来が訪れかねないのだから。

 

 

「もし、レッドアクシズの連中がヴィシアを食い物にしようとするのなら俺達がその報いを受けさせてやる。もしロイヤルの連中が再びメルセルケのような悲劇を生み出そうとするのであれば全員まとめて海の底に沈めてやる。だからジャン」

 

 

 指揮官は静かに目を閉じて、決意を込めた声で呟く。

 

 

「ヴィシアの人々を守る為に、俺からも頼む。この国を、人々の生活を、人として当たり前の日々と未来を守る為に、鉄血に頭を下げてくれ。頼む」

 

 

 指揮官の言葉にジャン・バールは何も言わずにただ黙って通信機を切る。そして、彼女はそのまま無言のまま司令室から出て行った。

 

 

 翌日、鉄血公国に一つの通信が届く。それはオブザーバー派遣の提案の受諾と活発化しつつあるヴィシア本国のセイレーンの撲滅とその理由の調査の為に鉄血に部隊を派遣してほしいという救援要請であった。

 

 

 ビスマルクとジャン・バールの陣営代表同士の通信で彼女達が何を話したのかは今も不明だ。しかし、ビスマルクは後にジャン・バールに関してこう語っている。

 

 

「彼女は、最後まで祖国を守り抜く事を誓っていた。ただ人々を守りたい切実なる決意。その決意は、誰よりも強く、誰よりも美しかったわ」

 

 

 

 ユニオン、重桜、北方連合、サディア帝国、ヴィシア聖座。それらのオブザーバー参加も伴う鉄血とロイヤルの首脳会談の為の水面化での交渉は今も続いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リットリオ」

 

「だめだ」

 

「まだ何も言ってないじゃないですか!」

 

 サディア帝国が領有する事になったマルタ島の元ロイヤルの海軍基地にて総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトは妹であるリットリオに提案しようとするも、交渉の余地なくばっさりと切り捨てられた。

 

「もう何十回以上言ったがな……ヴェネト。ヤルタ島への交渉は私が行く。ロイヤルと鉄血のオブザーバーにはチェザーレを派遣する。貴女はサディア本国にて万が一に備えて待機してほしいと何度も言ってるじゃないか……」

 

「ですが……」

 

 なおも食い下がる姉の姿を見てリットリオは胃が痛くなる。サディア帝国はビスマルクのオブザーバー派遣に即座に了承した国家であり、リットリオとしても鉄血との関係強化と蜜月関係。そしてこの戦争を終わらせる為の講話に繋がるのであれば異論はない。

 

 しかし、彼女にとって頭を抱えたくなるのは姉のヴェネトだ。ヤルタもオブザーバーも陣営代表である自分が責任をもっていくべきです!レッドアクシズの蜜月関係を世界に示すためには私が動くしかありません!!と口にしているのだが、それらの言葉の裏にはある一人の男がどうしてもチラつく。

 

 

 ヴァイスクレー・ヘルブスト。鉄血公国の軍人でありレッドアクシズにとっての英雄。そして同時に総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトが一目惚れした想い人であり、現在は文通で我慢しているが自身の姉が彼と再会する為に合法的にクソ忙しいサディアを抜け出そうとしている事は、リットリオの目から見ても明らかだった。

 

 

「ヴェネト……だから言っているだろう。会談に陣営代表が派遣されて万が一の事があれば……」

 

「鉄血ではヤルタもロイヤルとの会談もビスマルクが参加すると言ってましたが?」

 

「……マルタ島を得た今、混乱する国内を収めることが出来るのは貴女だけだと」

 

「だからこそ元老院の方々や他の上層部の方々と既に話し合い私抜きでもサディア帝国は盤石であるように手は打ちました」

 

「……ヴェネト」

 

「それに『黒』を受け取る為にやはり私が行くべきでしょう。最重要機密である『黒』の譲渡に関しては慎重に事を進める必要があるのですから」

 

 

 リットリオが反論しようとすればヴェネトは笑顔でその反論を消していく。なまじ指揮官に会いたいという想いを実現する為に恋する乙女は自身の政治的手腕と軍事的才覚をフル活用しており、更にリットリオがなにも言えなくなるほどに完璧に準備を整えていたのだ。

 

 

(何故だ、何故私がこんな事に頭を悩ませなければいけない。逆だろう、何故普段からナンパをしている軟派な女として通っている私が国家に全てを捧げているはずの総旗艦の色ボケを必死で抑えようとしてるんだ?あの鉄血のアホめ、覚えてろよ……!)

 

 

「ヴェネト、いい加減にしてくれ。まるでヘルブスト指揮官に会いたいと言ってる様なもんじゃないか?」

 

「ええそうですよ?」

 

 

 開き直りやがったなこいつ!!とリットリオは内心叫ぶ。

 

 

「だからこそ、ヘルブスト様に会う為に私の行動は全てサディア帝国の利益となる様に動きました。彼と再会する為だからこそ誰が何を言っても反論出来ないほどの状況を作り出すつもりです。リットリオ?それでも私を止めますか?私は全身全霊をかけて彼と会う為に動く予定です!」

 

「……ちょっと待ってくれ。急用ができた」

 

 

 

 リットリオはにっこりと清々しいまでの笑顔の姉を見て思わず執務室から出て行ってしまう。向かう先は通信室、ビスマルクとの緊急通信を行う為だ。

 

 

「その……大変なのね、貴女も」

 

「……シニョリーナ。手を貸してほしい、あの色ボケかつ覚醒した姉を止める為にはヘルブスト指揮官と会う約束を作るしかない。ある程度情勢が落ち着き次第彼を一週間ほどサディアに派遣する様に頼んでくれ、理由は私がどうにかする」

 

 

 ビスマルクは普段は飄々としたナンパ好きのナルシストであるリットリオが胃薬を片手に通信室でうめき声を上げながら頼み込んでくる姿を見て、何とも言えない表情を浮かべた後に小さくため息をつく。

 

 その後ビスマルクは必ずヘルブスト指揮官を使者として数日間サディア帝国に滞在させると(本人の了承も得ずに)ヴェネトに約束する事でようやくヴェネトは渋々ながら納得したのだが、同時にビスマルクは鉄血製の胃薬を明石に頼んで無償で大量にリットリオ宛に届けた事は歴史の裏側の出来事と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『鉄血公国のオブザーバー派遣提案』

 

 先日鉄血公国はロイヤル王国との和平交渉を円滑に進める為に世界各国のkansen保有国に要請の為の使者を派遣する事となった。その中にはユニオンや北桜同盟といったアズールレーン構成国の面々を説得する為の交渉団も参加しており、現在ではこのオブザーバー派遣の裏で秘密交渉が進められていたとされているが、鉄血の提案に乗れば相応の譲歩を引き出せるかもしれない。

 

 

①オブザーバーを派遣しよう。

鉄血公国との関係+30

ロイヤル王国との関係-20

イベント『オブザーバー派遣』が発生する。

鉄血公国との間に六ヶ月の不可侵条約が締結される。

 

②もう少しだけ様子を見よう。

直ちに影響はない。

鉄血公国との間に六ヶ月間の不可侵条約が締結される。

 

③彼らを信じる事は出来ない、拒否しよう。

鉄血公国との関係-30

ロイヤル王国との関係+20

鉄血公国との間に六ヶ月の不可侵条約が締結される。

イベント『ロイヤル王国への武器売買』が発生する。

 

 

④要望は受け入れる、だが今は鉄血の力が必要だ

鉄血公国との関係+30

ロイヤル王国との関係-50

政策方針が1ポイント介入主義に傾く。

鉄血公国との間に「軍事同盟」「技術協定」「貿易協定」が締結される。

イベント『鉄血公国の救援部隊派遣』が発生する。

 

 

情報部より報告

内容

ヴィシア聖座の動向

同国政府の連絡によると

「鉄血のオブザーバー派遣提案」

において

「要望は受け入れる、だが今は鉄血の力が必要だ」

を選択したとの事です。

 

 

各国の反応

 

選択①オブザーバーを派遣しよう。

 

サディア帝国の反応『我らは鉄血と共に!』

 

重桜の反応『これが戦争を終わらせる為の一歩になるのであれば』

 

選択②もう少しだけ様子を見よう。

 

北方連合の反応『ギリギリまで情報を集めろ同志諸君』

 

ユニオンの反応『交渉は難航しそうだ』

 

 

選択③彼らを信じる事は出来ない、拒否しよう。

 

東煌の反応『面倒ごとに巻き込まないでくれ』

 

選択④要望は受け入れる、だが今は鉄血の力が必要だ。

 

ヴィシア聖座の反応『鉄血と手を組めば我々は更なる力を得るだろう』

 

 




・各国のオブザーバー反応
これらも全て実はダイスで決まっており。


…それで、問題は打診の結果ですね?
とは言えユニオンや重桜は基本的には平和を望んでいますし、少し問題なのはアイリスとヴィシアと敵地が近い為忙しい北連くらいでしょうか
サディア?言えば参加してきますよあんなん

ユニオン、重桜、東煌は10以外で参加、アイリスヴィシアと北連は1~6
以内で参加してきます

dice6d10=9 3 10 1 7 6 (36)

 結果として東煌以外の全勢力がオブザーバーを派遣する事に。ネタバレとなりますがヴィシア聖座が派遣する以上自由アイリスも参加せざる得ない状況に追い詰められました。

 ただし。その後の選択肢の結果。

……そういえば、他の所のオブザーバーの方々はもう来ているのでしょうか?
dice5d4=4 3 3 2 4 (16)
左からユニオン、北連、重桜、アイリス、サディア
基本的に2以下で来てますがサディアのみ3でも来てます

 皮肉な事に最も渋っている自由アイリス教国以外の勢力はオブザーバーを直接鉄血に滞在させるのは少し遅れてしまう結果になるのでした。その理由は

ユニオン、北連、重桜、サディア
dice4d10=10 9 3 4 (26)
1~3.なんかセイレーンの対処が忙しいんだ…
4~6.割とギリギリまで担当が決まらなかった
7~9.ギリギリまで鉄血の裏がないか確認してました…
10.*おおっと*

 北方連合はギリギリまで裏がないか確認する為に。

 重桜は北方連合との海路奪還の為のセイレーン狩りで想定以上に時間がかかってしまい。

 サディア帝国はヴェネトがギリギリまで自分がオブザーバーとして参加する事を足掻いていた為に。

 そしてユニオンは


dice1d10=3 (3)
1~3.裏で上層部達で取引とかがまあ…多少はね?
4~6.ロイヤルから来航中止できない?と連絡がいってるようで
7~9.こっちもなんかセイレーン大量発生し始めたんですけどぉ!?
10.*おおっと*

 交渉が難航し、それぞれの海軍や政治家の上層部同士がギリギリまで話し合った結果、オブザーバーは派遣される事になりましたが裏で色々と動いていたそうな。巻き込まれたブルックリンは海軍の期待を一身に背負いストレスに苛まれるのでした。


・ヴィシア指揮官の過去
 彼がセイレーンを憎悪する理由は故郷の沿岸の小さな町を過去に焼き払われてしまい、その数少ない生き残りである為に。鉄血のプロイセン指揮官と似た様な境遇ですがその憎悪は凄まじいもので、旧アイリス教国時代は『怪物』と呼ばれる程の才覚を発揮し、憎悪と殺意。そして二度と自分達と同じ様な境遇となる人々を作らない為に、生命活動全てをセイレーン撲滅のために捧げたのでした。彼とジャン・バールの出会い、そして相棒と呼ばれ信任を勝ち取るまでに関してはまたいつか描くかもしれません。


 自由アイリスやロイヤルの反応はまた後日。次回より第五部であるヴィシア編が開始します。唐突にヴィシア聖座のセイレーンを撲滅する為に派遣される事になった救国の艦隊。そして迫る北桜同盟とレッドアクシズによるヤルタ会談。水面化での交渉の裏でヘルブスト指揮官の悪運が暴走し、ヴィシアで嵐を引き起こす。


 

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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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