鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第五部 ヴィシア編
第五十一話 ようこそヴィシアに


  額の汗を乱暴にタオルで拭きながらエンジン音と共に指揮艦内ではマンジュウ達がピヨピヨと鳴きながら周囲の状況をまとめていく。謹慎期間を含めると一ヶ月ぶりの実戦だがそれまでの鉄火場に比べれば随分楽に感じてしまうが、今回は護衛対象を守り切る初の防衛任務だ。水を一気に飲み干すと通信機を手に取り現在の状況を彼女達に伝えていく。

 

「グラーフ!右方向に新たな機影だ!集中的にそっちに爆撃してくれ!ヒッパーはシールドを貼りながら輸送船への攻撃を防げ!シュペーはグラーフを狙う奴らを優先的に落とすんだ!皆離れるなよ!!」

 

『『『了解!!』』』

 

 

 短く返答する戦友達の声に満足すると、再びレーダーを睨み付ける。敵のセイレーンの規模で言えば大艦隊クラス。更に初めて見るが人型であるエクセキューター級が3機存在する大盤振る舞いだ。冷徹な殺戮機械達は物資を満載にした輸送船を集中的に狙っている。

 

『なんでヴィシアの領海に入った途端セイレーンに襲われるのよ!!ヴァイスあんた謹慎期間中に教会で祈りの一つでも捧げてなかったの!?』

 

「謹慎期間中は基地でおとなしくしてたんだよ!ヒッパー!右方向よりナイト級2隻接近!」

 

 

 輸送船を守る為に陣形を組む彼女達の背後から迫りくる敵増援にヒッパーは苛立ち紛れに叫ぶがそれでも輸送船に張り付く前に軽巡ナイト級はヒッパーの砲撃によってその骸を深海に捧げていく。それでもレーダーはまだまだ赤く染まっていて俺達に襲いかかってくる。

 

 まるで獲物を見つけた鮫のように次々と襲い掛かるセイレーンに泣き言の一つでも吐きたくなるが、これでも俺達と戦い包囲されたロイヤルのイーグルやイラストリアス、シェフィールド達が経験した絶望と比べればまだマシだと思えてくる。

 

 

『卿!エクセキューター級を1機撃破!退路は確保したがどうする?』

 

「逃げたいけど、輸送船を放り出す訳にはいかない、エクセキューター級さえ倒せば相手の動きは鈍くなるんだ、隠れているそいつらを見つけ出してケツに魚雷ぶち込んでやれ!」

 

 グラーフの爆撃機が悪魔のサイレンを鳴らしたと同時に、レーダーからエクセキューター級が1機ロストした事を確認して息を吐きだす。大丈夫だ、ピュリファイアーと比べてアイツらは自我もない量産型で性能も低い。

 

 とは言え時折飛来するビーム砲はこちらの輸送船に少なくないダメージを与えており既に10隻の輸送船の内2隻は炎上して必死で消化中、1隻は大破でエンジンがイカれてしまった。中のマンジュウ達に救命ボートで逃げろと指示を送りながら俺はレーダーを確認する。

 

 

『指揮官!後方から新たな反応!!』

 

「なんだって!?」

 

 

 シュペーの言葉に慌てて振り返ると確かに新たな敵機の反応が現れていた。しかも今度は大型艦クラスの巨大な反応だ。ちょっと待て!?真っ先にグラーフに厄介な主力艦は対処して貰ってたんだぞ!?

 

『戦艦ルーク級3!ヒッパーちゃんの方からも3!増援みたい……指揮官!!』

 

「最優先で沈めろ!!軽巡も駆逐も無視していい、あの火力が輸送船に向かえば終わりだ!」

 

 レーダー上で唐突に周囲に現れた敵艦隊にシュペーの磁気魚雷が発射され、同時にグラーフの雷撃機よってまとめて2隻が撃破される。だが、残った戦艦4基の砲塔が大破した輸送船に狙いを定めたのを見て即座にマンジュウ達に命じて救命ボートで脱出させる。そして、それを追うように戦艦の主砲が火を噴く。

 

 海に轟音が響く共に物資を満載にした貴重な輸送船が真っ二つになり、多くの量産型セイレーンと同じ末路を遂げてしまう。不幸中の幸いだが、五番輸送船は確か食料品などを中心とした物資だったはずだ。

 

 

 機密の物資を満載にした九番艦と十番艦と比べれば防衛優先度は低いが、それでもヴィシアに送り届けるはずの輸送船を一機失うのは大きな痛手だ。

 

 

「クソッ!ヒッパー!シュペー!敵の足を止めるだけで良い!グラーフの爆撃機を中心に大勢を立て直すぞ!我が同胞のために鉄血の力とならん事を!ここが正念場だ!気合を入れて守り切るぞ!」

 

『『『了解!!』』』

 

 

 三人からの返事を聞くと同時にレーダー上の敵艦隊が散開してこちらに向かってくる。ヒッパーの砲撃により駆逐艦が撃沈するが、その間に軽巡の対空砲火によって爆撃機が次々と撃墜されていく。

 

 だが、グラーフの爆撃は確実に敵の戦力を削っており、5分も経たないうちに増援のルーク級戦艦は全て撃破した。これで一安心……ではなく仕切り直しだ。

 

 水を一気に飲み干すと通信機を握りしめる。まだ、俺達はやれる。ヴィシア海軍の既に緊急電文は届いたはずだ、救援艦隊が救援を求めるだなんて本末転倒も良い所だが、輸送船防衛の為には背に腹はかえられないを

 

 

 

(どうしてこうなった!!)

 

 

 

 そう、心の中で叫びつつチョコレートを乱暴に噛み砕きながら、俺は再び神経を尖らせて現在の状況を彼女達に伝えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の件、発案者はあなたでしょう?なら動けばどうにかできる問題なら、あなたに動いてもらうしかないと思わないかしら?」

 

 

 例のオブザーバー提案から数日もしない内にビスマルクさんの執務室に呼び出された俺は、ビスマルクさんから受け取った書類を数枚目に通しながら極秘任務のブリーフィングを行なっていた。

 

 

 内容はヴィシア艦隊の救援任務。サディアに派遣された時と同じ様に現在ヴィシア聖座ではセイレーン活動が活発化しておりその防衛も限界を迎えつつある。オブザーバーの派遣には了承するが、その見返りとして鉄血海軍の助力を求めており、その先遣隊として俺達キール第三基地部隊が派遣される事が命令書には記されていた。

 

 

 

「いいのでしょうか?俺達って謹慎中ですし対外的には負傷している俺が海外に派遣されるだなんてバレたら色々と不味いのでは?」

 

「ヴィシアには既に事情は伝えているから問題ないわ。寧ろヴィシアは空母戦力を保有していないから、グラーフを派遣する事がそれ相応の外交的なメッセージになる……何よりも貴方はレッドアクシズの『英雄』なのだから、そのネームバリューはきっとジャン・バールも喜ぶはずよ」

 

「……それはそれで複雑な気分ですね」

 

 

 

 引き攣った笑みを浮かべる俺にビスマルクさんは和やかな笑みを浮かべる。あっこれ、俺のオブザーバー提案のせいで絶対仕事増やした事への意趣返しもあるわと悟るが今更どうしようもない。

 

 ヴィシア聖座。旧アイリス教国の流れを受け継ぎロイヤルに亡命したリシュリュー枢機卿達と違い、国内に残留しつつレッドアクシズと共に歩む事を決断した宗教国家。

 

 メルセルケビール海戦でロイヤルに敗北した後は激しい憎悪をロイヤルに向けており、先日のイオニア海海戦では最後の最後に逃げ出したマルタ防衛部隊をまとめて捕虜にしたことは記憶に新しい。

 

 旧アイリス強国以上に実戦的な軍隊を保有し、kansen達は祖国と民達を異端者から防衛する為に日々訓練に明け暮れており、特に陣営代表であるジャン・バールさんはリシュリュー枢機卿の妹でありながら卓越した軍事的才覚は枢機卿以上であると風の噂で聞いている。

 

 だが、俺にとって不安材料は二つ存在している。一つはヴィシア聖座と鉄血公国の確執。歴史的にも宗教的にも領土的にも過去に問題を抱えていたこの2カ国は戦前から緊張感を常に漂わせており、お世辞にも関係は良好と言えなかった。

 

 イオニア海海戦やビスマルクさんの演説で国民感情はかなり融和的になったと聞いてはいるが、それでもサディア以上に派遣されるのであれば身を引き締めてかからないとならないだろう。

 

 

 

 そしてもう一つは……。

 

 

 

「あの……ですね、ジャン・バールさんってめちゃくちゃ厳格な性格で、かなり気性が激しいって聞いた事が……」

 

 

 そう、もう一つの懸念事項は陣営代表たるジャン・バールさんの噂がどれもこれも物騒な内容しか伝わっていなかったのだ。

 

 

 曰く、たった一隻でセイレーンの中規模艦隊を撲滅した。

 

 

 曰く、戦前は気に食わないからとロイヤルのクイーン・エリザベスからのお茶会の誘いを無視して戦闘訓練を優先していた。

 

 

 曰く、定期的に軍事演習を開いては同僚の護教騎士たるkansen達をゲロを吐くまで鍛え上げている。

 

 

 曰く、姉の亡命にキレた結果国内の粛正にはかり、リシュリュー派の勢力を公職追放や逮捕を行いヴィシア聖座の権力を全て自身に集めたなどなど。

 

 

 

 

 風の噂である前提とは言え彼女の経歴はどれもこれもが過激かつぶっ飛んでいて俺は冷や汗を流してしまう。

 

 

「まぁ、確かに厳しい人だけどそこまで心配する事は……いや、ごめんなさい。その噂は全部事実よ。エリザベスやヴェネトや私が政治にも関わってのしあがったkansenならジャン・バールは姉が枢機卿だからではなく、常に自身にも他人にも厳しく護教騎士の模範であろうと努力を欠かさず、枢機卿が亡命するまでは最前線からの武勲だけで今の地位を獲得した叩き上げの軍人よ」

 

 

 ビスマルクさんは最早誤魔化そうともせずジャン・バールさんのプロフィールを淡々と述べていく。何処か懐かしさを感じる口調から察するに、ビスマルクさんもかつてはジャン・バールさんと色々と苦労があったのかも知れない。

 

 

「でもね。これだけは言えるわ。彼女は本気で祖国と民の盾として生きようと決意している。だからこそ、私も彼女には期待しているのよ。鉄血の『英雄』と呼ばれる貴方がヴィシア聖座に訪れ、彼女と出会う事で何かが変わるかもしれないと……ふふっ」

 

「……分かりました。俺も覚悟を決めます」

 

「ジャン・バールは不器用で融通の効かない所はあるけれど、義理堅さと誠実さは間違いなく陣営代表一のkansenだと信じてるわ。貴方はサディア帝国への使者として多大なる貢献をしてくれた。だからこそ今回も貴方を信頼して私はヴィシアに貴方達を送り出すわ」

 

 

 ビスマルクさんの真っ直ぐな瞳に俺は静かに息を飲み込む。期待とプレッシャー、そしてジャン・バールさんへの不安や恐怖で心臓の鼓動が高鳴っていく。

だが、ビスマルクさんの言葉通り、俺も覚悟を決めた。

 

 例えどんなに怖くても俺には戦友達が付いてくれている。ならば、俺が、俺達がやるしかない。『英雄』として俺にしかできない事をやり遂げる事がこの戦争を終わらせる為の近道になると信じて。

 

 

「貴方は一度大失態を起こした。その失態の過去を消すことは出来ないわ。今回の派遣はいわば貴方の名誉回復の為でもあるのよ。対外的には入院中な貴方が回復したと同時にヴィシアで活躍すれば貴方に失望した上層部の人達も見直すでしょう、もちろん私もね」

 

 

 ビスマルクさんは優しく微笑みながらそう告げると、そっと手を差し出してくる。俺もそれに応える様にゆっくりと手を握り返した。

 

 

「命令よ、キール第三基地司令。そして救国の艦隊の指揮官たるヴァイスクレー・ヘルブスト。私から言えることただ一つ。『失った信頼は自分の手で取り戻しなさい』そして、来たるべきロイヤルとの対話の日に、私の護衛としてこの鉄血公国で誰も文句言えない程にその力を示しなさい。それが貴方の贖罪であり、私の切実な願いよ」

 

 

「はい、必ずやこの命に代えても任務を果たしましょう」

 

「えぇ、頼んだわよ。それと……」

 

 

 ビスマルクさんは少しだけ言い淀むと、緊張した様子で俺の手を掴み、同時に俺を上目遣いで見つめてくる。その表情にもしかしたら……!と少しだけ心がときめくが。

 

 

「……そのね、ジャン・バールに万が一殺されても骨ぐらいは拾ってあげるわ。彼女を怒らせる事だけは気をつけなさい」

 

 

「……はい、お願いします」

 

 

 うん、やっぱりそうだよな……と俺は苦笑いを浮かべつつ退席し、こうして俺達の艦隊は再び集結し。再会の挨拶も程々に一週間以上の時間をかけて物資を満載にした輸送艦と共にヴィシアの地に向かうと事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの旅路は快適なものだった。前回の通り黒海→ボスポラス海峡→ダータネルズ海峡を通り、地中海を経由しつつヴィシア領海に向かうルートだ。前回と比べるとマンジュウが操舵する輸送船を複数引き連れている為に時間が掛かると思いきや、輸送船に自前で燃料や食料品などを大量に積み込んでいる為に寄港する必要もなく、寧ろ日程は思ってた以上に短縮される事になり驚いた。

 

 

 というか心なしかビスマルクさんが新たに用意してくれた指揮艦の速度もかなり速くなっているように感じてしまい、鉄血の科学力の底力を感じてしまう。

 

 

 本音を言えばサディア帝国をスルーする事に後ろ髪を引かれる思いはあったのだが、一刻も早くヴィシアに辿り着く為に寄港する事はなかった。

 

 

 サディア帝国には鉄血からヴィシアに向かう船団と通信すれば特に問題なくスルーしてくれた事に感謝しつつ、それだけ両国の関係が深まっている事実に込み上げるものがある。最もビスマルクさんが裏から根回ししてくれた可能性もあるのだが。

 

 とはいえ出来ればヴェネトさんと……俺を手紙越しから好きだと言ってくれたあの人に一目会いたかった。

 

 

 まだ俺の気持ちははっきりとはしていないが、それでも謹慎生活中に何度も手紙をやり取りをする中で彼女の存在は俺の中で大きくなっている。そんなヴェネトさんと会えるのはまだまだ先だろうが、今は彼女の無事を祈るばかりだ。

 

 

 そして、遂にヴィシア聖座に辿り着いた俺達は出迎えてくれた護教騎士団の皆さんと握手を交わす……事はなく、領海に入ってしばらくもしない内にセイレーンの大艦隊に襲撃され、こうして交戦状態に入るのだった。

 

 

 それだけ現在のヴィシアの海がセイレーンの大量発生によって危険地帯となっているのだと改めて痛感させられる。

 

 

 レーダーで先に補足した上で交戦は避けられないとグラーフの爆撃機の編隊が先制攻撃を仕掛けたというのに、敵艦隊は一行に怯まずに、寧ろ周辺から次々と増援を呼び出しながら輸送船への攻撃を開始する。

 

 ヒッパーがシールドで防衛、グラーフが艦載機による攻勢、シュペーが狙撃によって敵の撃破を行い、俺は艦隊の指揮を執ると同時に戦況を見守りながら指示を出す。

 

 

だが、これまで経験したどの鉄火場よりも数の多い殺戮機械の無尽蔵な艦隊の攻勢に、輸送船の防衛という初めての経験に焦燥が募っていく。

 

 

「不味いな……」

 

 

 

 窓から周囲を見渡せば皆が疲労困絶の表情を浮かべていた。30分近く常に集中してセイレーン相手に戦闘を続けているのだから無理もない。グラーフが常に退路を確保し続けている為に輸送船さえ見捨てれば撤退は可能だ。

 

 

 だが、それは出来ない。今ここで輸送船団が沈めば救援の意味がなくなり、特に九番艦と十番艦はヴィシアに譲り渡す筈の鉄血製の生体艤装のサンプルといった重要物資を積んでいるのだ。逃げるのは最終手段として何としても無事に届けなければ。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 そう考えていると、突如として目の前に無数の砲弾が降り注ぐ。どうやら敵の攻撃のようだ。幸いにも直撃こそしなかったが、衝撃で船体が大きく揺れて俺自身も転倒しそうになり、慌てて近くの手すりを掴む。

 

 

「少しは数は減ってるとは言えこれ以上は厳しいかな……!」

 

 

 10隻存在していた輸送船は既に1隻が轟沈し、残り2隻は中破して曳航する必要もあり、その他輸送船も無傷のものは何一つなかった。三人は必死で戦い続けてくれてはいるが包囲網をつくるかのようにジワジワと網を狭められ追い詰められていく。

 

 必死に戦場を把握しながらグラーフ達に現在の状況を伝えて自由に動いてもらういつもの指揮では対処に限界があり、真綿で首を絞められているような感覚に背筋が凍る。全滅という最悪なフレーズが頭によぎる。

 

 いざとなれば輸送船のマンジュウ達を全て収容して九番艦と十番艦の爆破処理をしつつサディア方面に逃亡逃げる事も視野に入れようとすれば、一つの通信が入ってくる。

 

 

 

 

 

『こちら、ヴィシア海軍所属の軽巡ラ・ガリソニエール。えっと、色々大変みたいだけど、そっちの所属を言ってくれないかな?』

 

 

 

 

 

 戦場に似つかわしくない、甘ったるい声が聞こえると同時にレーダー上ではヴィシア艦隊と思われる新たな機影が複数現れる。

 

 

 やっとかとその瞬間に援軍の到来に拳を握りしめながら急いで通信機を手に取り、再びチョコレートを口にして精神を落ち着かせながら応答する。

 

 

 

「こちらは鉄血艦隊。ゆっくり挨拶もしたい所ですが今はセイレーンの手厚い歓迎に嬉しくて泣きそうですよ。救援に来ておいて情けないとは思いますがこちらは輸送船を抱えていて撤退は不可能。状況の詳細データを送るので敵艦隊の側面より奇襲を仕掛けてください。タイミングは任せます」

 

 

『了〜解。それじゃ、あたし達の本気を見せてあげるわ』

 

 

 

 通信を終えると、すぐに敵艦隊の側面に複数の機影が映り込み、敵艦が慌ただしく動き始めるがもう遅い。側面から複数の砲撃が飛来し敵セイレーンが次々に吹き飛ばされ、薙ぎ払われていく。こちらを攻撃する事に必死になっていた敵の猟犬達は突然の反撃に対応出来ずにそのまま次々と撃沈していく。

 

 

「……凄まじいな」

 

 

『卿、反撃の指示を』

 

 

 その光景を見て思わず呟けばグラーフが短く問いかけてくる。

 

 

「ああ、そうだな。だが攻撃はヴィシアに任せて俺達は輸送船の防衛を最優先だ。今回の主役は彼女達だ。ただ輸送船を守りつつ彼女達が戦いやすい様にヴィシアの援護を優先してくれ!」

 

 

『了解した。全艦、ヴィシアの援護を行え!』

 

 

 グラーフの号令の元、シュペーとヒッパーは輸送船の相変わらず押し寄せてくる敵艦を迎撃、その間にグラーフが爆撃機による爆撃を行っていく。そして、グラーフの爆撃機の攻撃が敵の旗艦に命中したのか爆炎が上がり煙が上がるのが見える。

 

 

「よし!いいぞ、このまま押し切れ!」

 

 

 そう言った時だった。レーダーから高速でヴィシア所属と思われる、先ほど通信したkansenがこちらに接近してくる。長い桃色の髪を棚引かせ、巨大な斧の様な得物を片手に装備する軽巡タイプの護教騎士がフレンドリーに手を振りながらこちらに近づいてくる。

 

 

 

『ふぅん、君が噂の指揮官かな?仲良く自己紹介、と言いたい所だけど、ちょっと今から突っ込んでエクセキューター級を撃破したいから援護してくれないかな?』

 

 

「ええ、了解です」

 

 

 素早く返答すると桃色髪の軽巡ラ・ガリソニエールさんは少しだけ驚きの表情を浮かべると、次の瞬間には楽しげに微笑む。

 

 

「へぇ、思ったよりも肝が据わっているね。それにいきなり他国の子に命令されても嫌な顔せずに即座に了承するって珍しいじゃん」

 

「命令ではなく要請ですし、同じレッドアクシズのヴィシアの聖座の皆さんは命を賭けて戦ってくれています。なら俺達はそんな貴方達の味方をするだけです」

 

「…………」

 

「……どうしました?」

 

 

 ラ・ガリソニエールさんは一瞬だけ無言になると次の瞬間斧をクルリと回して俺に向ける。

 

 

「気に入ったよ。救援がてらジャン・バールから鉄血艦隊がどんな人達が見極めてこいって命令されてけど、絶体絶命のピンチにそんな対応ができるのは好感触かな?上には悪くない、ロイヤルよりは遥かに信頼出来るって伝えておくね♪」

 

 

「ははっ…それはどうも」

 

 

 比較対象がヴィシアにとって最底辺であるロイヤルネイビーである事に苦笑しつつも、俺はグラーフ達にラ・ガリソニエールさんが敵艦隊中心部に位置するエクセキューター級に突撃できる様にと指示を出す。

 

 

 

 

『前方に向かってシュペーとヒッパーは魚雷を打ち出しながら一斉砲撃!グラーフは爆撃機で敵艦を攻撃せよ!結果的にとはいえ護教騎士との初の共同任務だ!気合いを入れていけ!!』

 

 

『『了解!』』

 

 

『爆撃機発艦準備、いつでも』

 

 

「ぶちかませ!」

 

 

 

 

 シュペーとヒッパーも次々と敵艦船に狙いを定めて主砲を放ち始める。爆発と同時に多数の黒煙が巻き上がり、敵セイレーンが次々と沈んでいく。

 

 

 グラーフの爆撃機が悪魔のサイレンを鳴らしながら次々と爆弾を落としていき、更に後方から飛来するヴィシア艦隊の三色に色付けされた砲撃により敵艦が沈み始める。

 

 

 そして、セイレーンに覆われたレーダーには一つの道が完成する。中心部のエクセキューターに突撃する為の花道が。

 

「援護ありがと、負ける戦いも嫌いじゃないけど負け続けってのは性に合わないから……ねぇ!!」

 

 

 甘ったるい声に似合わない獰猛な笑みを浮かべたラ・ガリソニエールさんは艤装のエンジンを吹かしながら俺達が作り上げた道を進んでいく。混乱で未だに立ち直れないセイレーン艦隊は勿論彼女に砲撃を加えるも、最低限の動きでラ・ガリソニエールさんは回避していく。

 

 護教騎士は信仰の騎士であると同時に、力を持たない民を守る為に戦う守護者。その実力を遺憾なく発揮したラ・ガリソニエールさんは一切の攻撃を行わずがむしゃらに前に進んでいく。

 

 

 前に、前に、前に!!そして……遂に彼女の射程圏内に入ったのか、ラ・ガリソニエールさんの斧の刃が紅く輝き、そのまま振り下ろされる。

 

 

 

「あはは!楽しませてもらったぁ!」

 

 

 

 

 人型タイプであるエクセキューターとその護衛艦は必死で彼女を沈めようとするが、次の瞬間人型セイレーンの胴は一撃で切断され、その身体は真っ二つになる。

 

 

「あと一体……あたしを楽しませてよ……ねえ!」

 

 

 

 妖艶な笑みを浮かべながらも彼女は最後のエクセル キューターを仕留める為に獲物を睨む。その瞳には狂気すら宿っており、まるでエクセキューター(執行者)シリーズよりも余程処刑人の様だ。

 

 

 黄色いセイレーンの血が飛び散り、彼女は返り血を浴びるも、それさえも興奮剤になっているのか嬉々として斧を振るい、次々と自身よりも巨大な敵量産艦を屠る姿は戦闘狂の類にしか見えない。

 

 

『……あれ私達が救援する必要あったのかな?』

 

 

 シュペーが思わずそう呟くが、逆に言えばセイレーン技術を使わずともここまで戦闘力の高い護教騎士達でも対処不能な程に敵セイレーンが大量発生しているという事なんだろうと頭の片隅に情報をインプットしておく。

 

 残る一体のエクセキューターも数分足らずでラ・ガリソニエールさんの斧によって破壊され、残る敵セイレーンの動きが明らかに乱れ、反撃は散発的になっていく。

 

 

 これでどうにか勝利できた、人型セイレーンを失った敵量産艦は撤退を始めるも容赦なく鉄血とヴィシアの両海軍は追撃を行い、全ての敵艦船を破壊に成功するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、助かったよ。流石にこの数の敵を相手にするのって結構大変だからさ」

 

 

 黄色い血に塗れたラ・ガリソニエールさんは指揮艦に飛び移ると片手で斧をクルリと回して肩に乗せながら俺に直接通信を送ってくる。彼女はどうやら戦闘狂らしいが平時は物腰柔らかくフレンドリーな性格に見える。戦闘になると豹変するタイプという訳だろうか?

 

 

「いえいえ。それにしても随分と敵が多いですね」

 

「そうだね〜、個人的には楽しかったけど、ほぼ毎日セイレーンが襲撃仕掛けてくるせいで流石に休日返上になってイラッ♡ってしてるかな?アイツら深夜でもお構いなく攻めてくるからね?まるで……あの時のロイヤルみたいにね?」

 

 イオニア海海戦の際に深夜にヴェネトさんの放送にやって叩き起こされた事をニコニコと笑いながら暗に指摘するラ・ガリソニエールさん。とはいえ声音に皮肉は篭っておらず、今度は飛び降りると輸送船の護衛していたシュペーに抱きつく。

 

 

「まあ、今回は助けてくれてありがと!あたし一人だとちょっと面倒な相手ばっかりだし、君達は良い子だねぇ〜、おっ、それが生体艤装って奴?触ってもいい?」

 

 

「えっ……えっと…し、指揮官……」

 

 

 困った様な表情を浮かべるシュペーに抱きつき、その豊満な胸でシュペーの頭を抱きしめるラ・ガリソニエールさん。

 

 

 というかシュペーの巨大な義腕や主人が突然抱きつかれてガルル……と威嚇する生体艤装を相手に怯む様子もなく笑顔で撫で回すなんて……やっぱりラ・ガリソニエールさんは戦闘狂だけど凄まじく豪胆だ。

 

 

 

「あっ、ごめんね!つい可愛いなって思って……んふふ、改めて自己紹介するね?あたしは軽巡ラ・ガリソニエール。ガリソニエールって呼んで欲しいかな?ヴィシアの護教騎士の一人で普段は異端審問と処刑を担当してるけど……ふふっ、このご時世神と祖国に抗う異端者なんてセイレーンとロイヤルネイビーくらいしか居ないから怖がらなくても大丈夫♪」

 

 

 シュペーを離したガリソニエールさんは、近くにいたヒッパーとグラーフにも同じく抱きしめようとするが、全速力で後方に下がった二人を見て少し残念そうな顔をすると再び俺の方を見る。

 

 

「そっちの名前は聞いてるから自己紹介しなくても大丈夫だよ。ヘルブスト指揮官。一応ヴィシアに滞在中は私が四人の世話役、護衛役、パイプ役、監視役を勤めてるから、何かあればあたしを頼ると良いよ。重症を負った筈の指揮官がなんでピンピンしてるのかとか面倒臭い事は気にしない。けどこれだけは言わせてよね?」

 

 

 ガリソニエールさんはそれまでのニヤニヤしていた表情を引き締め、騎士らしく真剣な顔でこちらを見つめる。

 

 

「今回の件で分かったと思うけど、あたしらはセイレーンによって今劣勢に立たされてる。できる限り援護はするけど、こうやって何回も鉄血海軍にセイレーン狩りで出撃してもらう事になるだろうからヴィシア海軍の一人として言わせてもらうね……鉄血艦隊の皆様、どうか、祖国と人々を守る為に力をお貸しください」

 

 

 

 礼儀正しく頭を下げるガリソニエールさん。その言葉には確かな重みがあり、彼女なりにヴィシアという国とそこに住まう人々を心の底から愛している事が伺える。そんな彼女の真摯な態度を受けて俺は自然と口を開くのだった。

 

「鉄血の、レッドアクシズの一員として今回のセイレーンの大量発生の対処に全力を尽くします。貴女の様な方と共に戦えて光栄です」

 

 

 俺の言葉にガリソニエールさんは目を丸くして驚いた後、すぐに嬉しそうに笑う。

 

 

「ありがとう。じゃあこれからよろしくね?指揮官。君達の戦いぶりはしっかりと見届けさせて貰うよ。さて、それじゃあ後は……この子達のケアかな」

 

 そう言うとガリソニエールさんはボロボロになった9隻の輸送船を眺めながら呟いた。既に救命ボートに乗ったマンジュウが他の輸送船にピヨピヨと乗り移る場面を見られてしまったが、サディアの時と違いヴィシアにはヒヨコ型労働ロボット、マンジュウの技術の譲渡は決まっており、バレても問題は無いと思いたい。

 

 

 

「すまない卿よ……気付くのが遅れた我の失敗だな」

 

 

 グラーフが少しだけ落ち込んだ様子で謝罪してくる。しかし、唐突にヒト型のセイレーンの大群に囲まれるだなんて予想できる筈もないだろう。

 

 

 

「いや、グラーフが謝ることじゃない。それに今はとにかく急ぐべきだ。すいませんガリソニエールさん、港に入る許可と輸送船数隻の曳航の為に人員を貸してください。それと、あの海域の警備艦隊に連絡して警戒網を敷いて貰わないと……」

 

 

「はいは〜い!もうジャン・バールに伝えておいたから安心してね。輸送船の護衛は連れてきた無人艦に任せて、指揮艦とkansenの皆さんはあたしについてきて」

 

 

 俺の指示を受けたガリソニエールさんが元気よく返事をする。そして、ガリソニエールさんはニヤリと笑みを浮かべると俺達鉄血艦隊に向き直りこう言い放つ。

 

 

「はいはい、それじゃどうぞ……鉄血の皆様方、ようこそ、ヴィシアに。これから激戦に巻き込まれる事になる貴方達の未来に、神のご加護がありますように」

 

 

 

 こうして、俺達のヴィシアへの旅路は終わりを告げ、新たなる戦いが始まろうとしているのであった。

 

 

 

 




 ・開幕のセイレーン戦

 開幕の戦いはダイスで判定されており指揮官達はヴィシアに辿り着き次第、手荒い歓迎を受ける事に。

dice1d10=4 (4)
1~3.特に問題なく到着
4~8.そりゃいるよね!セイレーン!
9.迎え付きのようだ
10.*おおっと*

 サディア編の時とは違いヴィシア編は本当に国内の領海にセイレーンが跳梁跋扈している状況ですので、こうして出撃判定のダイスが度々あるでしょう。ヴィシア指揮官は基本的にアルジェリア方面でル・マルス達と戦い続けていますので鉄血艦隊の役目は本国に近づくセイレーンの撃破であり、度々護教騎士と肩を並べて戦う事になるのでした。ちなみに使者判定は。


dice1d10=3 (3)
1~3.ガリソニエール
4~6.アルジェリー
7~9.ジャン君
10.?????

 となっておりイオニア海海戦でオーロラ達を捕縛し、原作では『聖域』の防衛を任されるなどヴィシア聖座の中でも幹部クラスの彼女が指揮官達の世話役に。サディアので懐刀のザラを派遣したヴェネトと同じ様にそれだけ今回の救援艦隊をジャン・バールは重視しているのでした。

・鉄血指揮官が派遣された理由

指揮官の艦隊が派遣された理由はビスマルクも述べている通り、ベアルンの離脱によって空母戦力が存在しないヴィシアにとって最も有難い戦力であるグラーフ・ツェッペリンを派遣する事で外交的なメッセージをすると共に、指揮官への贖罪の機会に迫るロイヤルとの会談にてビスマルクの護衛を任せる為の実績作りという理由も存在しています。また既に『救国の艦隊』のネームバリューはそれだけ外交に大きな影響を与える程の鍵となっているのでした。指揮官の指揮能力も少しずつ伸びているとはいえ未だにkansenの自由意志任せの指揮なのですが。


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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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