「とりあえずはまあ、こんな所だ……後でそっちの連中にも入ってはいけない所はしっかり伝えておけ」
機械の駆動音や海鳥の声が響く中ジャン・バールさんは近くのベンチにドカリと座りつつ、親愛感のかけらも無い声色でそう告げる。普段の軍服姿とは違いカジュアルな服装をしたジャン・バールさんはとても絵になる。青色のデニムジャケットに白シャツと黒のスキニーパンツというシンプルな格好なのにとても似合っているのだ。
対して俺はと言えばいつも通りの私服である灰色のコートにジーンズと変わり映えのない格好で同じくベンチに座り込む。それにしてもカッコいいというか何というか……ジャン・バールさんは下手な男より間違いなくイケメンだ。もしかすると本人にその気は無くても女性にモテているのでは?軽く見つめると胡散臭そうに彼女は眉をひそめる。
「どうした?他に行きたい場所でもあるのか?」
「いえ何というかその……ジャン・バールさんがカッコいいなって思いまして」
「ふんっ……」
鼻を鳴らして1ミリも心を動かされていない様子のジャン・バールさんに苦笑いをしつつ、改めて周囲を見渡す。
港には無数の艦船が停泊しており、その殆どは駆逐艦や軽巡洋艦と言った小型艦であるが、それでも100隻以上の艦船が停泊している光景というのは壮観だった。その全てが無人艦であり、24時間体制で侵略者から祖国を護る為に活動しているが、ここ数日の出撃を見ている身としては間違いなく鉄血よりも対応は早いと言えるだろう。
セイレーン出現のアラートが鳴り響けば軍人もkansenも全員目の色を変えて出撃準備に手早く取り掛かるのだが、そのスピードを見る限りどれほどの訓練をしているのかと思わされる。
「世辞なんて不要だ。心にもない空虚な言葉程この世で無意味なものは無い」
「いやまぁ、そんなつもりは……」
「本気だとしてもオレは世辞やおべっかは嫌いだと言う事は覚えておけ。なんなら敬語も不要だ」
「いえその、慣れませんので敬語だけはではこのままで……」
「ふんっ……勝手にしろ」
恐る恐る口を開いた俺に頷くジャン・バールさんだが、別に俺を嫌っている訳ではなく、単にこういう性格だと言う事がここ数日の付き合いで理解出来た。何処までも軍人である彼女は無駄や装飾を徹底的に嫌う。
常に自身にも他人にも厳しく護教騎士の模範であろうと努力を欠かさず、枢機卿が亡命するまでは最前線からの武勲だけで今の地位を獲得した叩き上げの軍人であるというビスマルクさんの彼女の評価を思い出す。
武人肌という訳ではないが、余計な事に首を突っ込まないし、逆にこちらから話を持ち掛ければ真面目な顔で応じてくれる彼女に俺は心からの尊敬と同時に信頼を持っていた。
ヴィシア聖座に滞在して10日が立った。二度目の海外生活は慣れない事も多いが鉄血やサディアとはまた違うヴィシアでの生活に俺は楽しさを感じつつある。
心身的にサディアの時よりも気楽な理由はヴィシアの目的が対セイレーン戦の共同戦線とはっきりと示されており、ジャン・バールさんの性格的にも、こちらを害する可能性は極めて低いと判断できたの大きいだろう。
とは言えサディア滞在と明確に違う事も勿論あり、この10日間で俺達鉄血艦隊は二回ほど部隊を率いてセイレーンとの戦いに参加しており、ヴィシアの領海付近でセイレーンが大量発生しているという情報が決して嘘ではない事を身をもって知る事になる。
そんな中、ひとまずトゥーロン港を探索し避難経路や設備について頭に叩き込もうとした所で偶然息抜きに散歩中だったジャン・バールさんに後ろから話しかけられた時は流石にキモが冷えたが。
「……ならちょうどいい、オレも少し時間が余ってな。少しでいいなら案内をしてやろう」
なんて言われて半ば強引に彼女に案内される事になってしまった。陣営代表どころか実質的なヴィシア聖座のトップであるジャン・バールさんに案内されるなんてリットリオの時と同じくこちらを探っているのでは?と警戒をしたのも今は昔。
ただこの人は口調こそ荒っぽいが面倒見がいいタイプらしく、こちらを案内しながらもこの港の施設や避難経路を分かりやすく機密に触らない程度に教えてくれて今に至る。
「軍港の外の街には出たのか?」
ジャン・バールさんはベンチに座りながらそう尋ねてくる。
「いえ、まだです。ここ最近は忙しかったので……」
「そうか……」
沈黙。
「その……ジャン・バールさんって趣味は」
「サーフィン」
沈黙。
「鉄血の皆もヴィシアでの生活に少しずつ慣れてきました。鉄血ではライ麦パンがメインですがこちらではバゲットがメインなんですね。あまり食べた事が無かったですが美味しかったですよ」
「そうか。ライ麦パンが恋しくなればガリソニエールに声をかけろ。数日以内に鉄血の食事に近いものを用意させる。」
沈黙。
(待って…!話が……話が続かない!)
ベンチに座って20分程経つが会話が一向に進まない。別にジャン・バールさんが会話を嫌っている訳ではないと信じたいがかなり素っ気ない。
仲間であるグラーフやシュペーはかなりおとなしい性格だがそれでも会話はそれなりに弾み笑顔を見せてくれる事もある。だがジャン・バールさんはひたすら寡黙で沈黙が辺りを包み込み、気まずいのでせめて少しは打ち解けようと当たり障りのない言葉しか出てこない。
そう、拒絶ではなく虚無。ジャン・バールさんは俺の言葉を拒絶している訳でもイラついているわけでも無くただ虚空を見つめて俺の存在を意識していないように思えた。
(何か地雷踏んだかなぁ……)
この沈黙は居心地が悪いというレベルではなく正直辛いものがある。いっそ話題を変えようと思ったその時だった。
「ガリソニエールから先日の戦闘についての報告が届いた。何でも弾薬の消費量が想定よりも多かったらしいな。無駄玉を撃つ指示が多かったと聞いたが本当なのか?」
「……っ……」
ジャン・バールさんは突然俺の顔を睨むような視線を向ける。俺は一瞬ビクッとしたが、ここで怯んでしまえば彼女の機嫌を損ねると判断して言葉を紡ぐ。
「そう、ですね……ガリソニエールさんが指揮下に入り戦ってましたのでいつもの指揮ではなく、ガリソニエールさんや鉄血艦隊の皆に俺の指示通りに動いて頂きましたが、ヒッパーからも弾薬の消費量が多かったと苦言されたのは事実です」
つい三日前の戦闘ではヴィシア聖座のガリソニエールさんが俺達の艦隊の援護をしてくれたが、その為にいつもの「艦隊の皆に自由に動いてもらい、自身はオペレーターに徹する」指揮ではなく直接戦闘の指揮を取った。
ヒッパーとの猛勉強や鉄火場をくぐり抜けてきた結果、今までの低レベルな指揮と比べれば我ながら悪くはない指揮で勝利を掴み取り、どうにかガリソニエールさん相手に負担をかけず、自身の指揮能力の低さを誤魔化す事に成功したと思っていたが彼女の目は蛇の様に鋭かったらしい。
「ほう、オレの前で誤魔化さずにはっきりと口にしたのは褒めてやろう。だが、お前の指揮能力や全て傘下に任せて自身はオペレーターとなる戦闘方式は全てビスマルクから聞いている。慣れない指揮をして無様を晒すより、ヴィシア滞在中はいつも通りの戦いを行え。ガリソニエールも含めてヴィシアの騎士たちは全員一人でも敵艦隊と戦えるように叩きこんでいるからな。」
「……はい」
ジャン・バールさんの鋭い指摘に俺は何も言い返せなかった。初めて掴み取った自身の指揮による勝利に成長を実感出来たが、それもグラーフ達のフォローのお陰でありまだまだ改善点は多い。
ガリソニエールさんに素直に話しておけば良かったと後悔しつつ嘆息をしていると、ジャン・バールさんは軽く舌打ちをしながら呟いた。
「……弾薬の消費を減らす為の一歩は会敵前に牽制としてバカスカ撃つ事を止める事だ。序盤は別に撃たなくてもいい。部隊を早く分散させて慌てて戦うのではなく、アドミラル・ヒッパーのシールドを使って部隊を固めて近づきつつ、ギリギリまで近づいてから部隊を散開させろ。一概にそれが正解とはいわんが折角のシールドが宝の持ち腐れだ。戦場を見渡しながら的確な判断が出来る様になれ」
その言葉に思わず目を見開く。まさかアドバイスが来るなんて思ってもいなかったからだ。俺が驚いた表情を浮かべていたせいかジャン・バールさんは気まずそうに頭を掻きながら言った。
「馬鹿な姉についていった護教騎士の一人にシールドを使いこなす軽巡がいてな。そいつの戦い方が自身が皆の盾となって距離を稼ぎ、一斉砲撃を行うと同時に部隊を散開させる戦い方だった。それで何度か命を救われた事がある。」
「そう、ですか……」
その言葉にはどこか寂しそうな響きを持っていた。彼女の姉であるリシュリュー枢機卿は反鉄血と親ロイヤルを掲げて数十万人の国民や自身の思想に賛同するkansen達と共にロイヤルに亡命して自由アイリス教国と名乗っているが、国家が分裂する前は姉も含めた自由アイリスに参加したkansen達と肩を並べて共にこの国で戦ったのだろう。
国家が二つに分裂したヴィシア聖座と自由アイリス。国家を分裂させる理由を作り上げた自身の姉が売国奴と呼ばれても仕方がない立場にいる事を彼女はどう思っているのだろうか?
それまで戦友として肩を並べ、同じ神を信奉していた仲間達と対立し、下手をすれば殺し合うかもしれないという現実に対して彼女がどう思っているのか何て今の俺には絶対に口にする事はできなかった。そのイデオロギーの対立を煽った国出身者であり、現在の情勢に『英雄』として少なからず関わっている自身には。
「……鉄血の指揮官。正直、お前たちが羨ましい。優れたセイレーン技術に強力な海軍。こんなに強い国を持って、こんなに強い空母や船体が作られて、自身の正義を信じて、そんな迷いなき目で戦えるお前らがオレには本当に妬ましくて……忘れろ。今の言葉は」
彼女の言葉に俺は何も言う事が出来なかった。そんな俺の様子に気づいたのかジャン・バールさんは少しバツが悪そうに視線を逸らした。
「……お前達が出撃したお陰で少しずつ海域の調査は進んでいる。あと少しでセイレーンの尻尾を掴めるだろう……お前達の協力に感謝する。オブザーバーの派遣に関してはたとえ、どの様な結果となってもダンケルク辺りを寄越す。それが今のヴィシアに出来るせめてもの誠意だ」
ジャン・バールさんはその言葉を最後に再び沈黙したままベンチに座って空を眺め始める。この空を自由アイリスの将兵達も見上げているのだろうかと思いながら俺も同じように黙って青空を眺め続けた。
「リシュリュー猊下?空ばかり眺めてどう致しましたか?」
「いえ……なんでもありません。それより指揮官?ルピニャートの容体は?」
「出産を控えてますが、安定しています。お腹の中の赤ちゃんが蹴って元気だと伝えてくれていますよ」
「そうですか……その子がロイヤルではなく、アイリスの地で家族揃って平和な日々を過ごせる事を願い、私も粉骨砕身努力しましょう」
(誓うではなく努力するしかない現状。そしてアイリスを知る事なく新たに産まれてくる命、ですか……ジャン・バール……指揮官……私は……)
ジャン・バールさんとしばらくベンチに座りつつ、静かな時間を過ごしていたが彼女はシックな腕時計を目にやると徐に立ち上がった。
「そろそろ時間だ。オレは仕事に戻るがお前はもう少しトゥーロンの探索をしてくれてもいい。必要ならオレの名前を出せ。聞きたい事はそれで機密以外は答えてくれるだろう」
先程までの疲れた様子を見せずにジャン・バールさんは立ち上がると颯爽に立ち去ろうとする。俺はもう一度感謝の言葉を掛けようとするが……その時だ。
(んっ……またなのか?)
何かが、俺を興味深く見つめている気配を感じて周囲をキョロキョロと見渡すが特に誰かがいる訳でもない。だが、確かに感じるのだ。敵意こそないが何者かがこちらを観察しているという感覚が。
「どうした鉄血の?」
不思議そうに辺りを見渡す俺に気がついたのかジャン・バールさんが声をかけてくる。面倒くさそうな表情を浮かべつつも俺の様子に警戒しているのか腰のホルスターに手を添えながら問いかけてくる。
「あぁ、その……何と言うか、誰かにじっと見られている様な感じがするんですよね。ダンケルクさんに初めて宿舎に案内してもらった時も似たような感じが……」
「詳しく聞かせろ」
彼女は猛禽類の様な目で辺りを警戒すると俺の腕を掴んで強引に立ち上がらせる。そのまま腕を引かれながらベンチから離れて人気のない場所まで移動すると、俺を守るかの様にホルスターから拳銃を抜き放つと周囲に向ける。
「それでだ、何があった?敵か?まだ視線は感じるか?」
「いえ、俺にも何が何だか……視線は感じますけど…変な感じなんですよね。敵意はなく、好奇心混じりな視線といいますか、まるで子供に観察されているような……」
「子供が?……まさか、いや、そんな筈は……」
「ジャン・バールさん?」
彼女は何故か少し動揺した様子で辺りを見渡す、人を殺せそうな殺気は既に雲散しており、何かを思い出すかのように困惑した表情を浮かべると静かにホルスターに銃を収めた。
「そうか……まあお前が鉄血の指揮官だからな、ものの珍しさだろう」
不自然だ。不自然すぎる。ジャン・バールさんは舌打ちしつつも恐怖や殺意ではなく困惑といった感情を滲ませていた。おかしい、彼女の性格を見る限りロイヤルのスパイが国内に侵入しているかも知れないという状況でそんなにあっさりとホルスターに銃を収めるなんて絶対にあり得ない。
「……指揮官。お前はもう戻っていいぞ。後はオレの方で調べておく」
「でも、それじゃあ──」
「忘れろ」
ジャン・バールさんは有無も言わせない口調でこちらを見つめる。初めて向けられる明確な彼女の拒絶の意思に俺は思わず気圧されそうになるが、それでもここで引くわけにはいかない。
「そうですか……スパイの可能性もありますので今度会議を開いた時に議題にして頂けますか?敵意は何となく感じませんが犯人を早めに突き止めなければ取り返しのつかない事に繋がりかねません」
ロイヤルのスパイの可能性をあげつつも、俺にはジャン・バールさんは何かを隠しているとしか見えなかった。まるで視線の人物を知っているが、俺に知る必要がないと言わんばかりの口調に興味ではなく鉄血の指揮官として震える手を握りしめて問いかける。
俺は彼女を真っ直ぐに見つめるが、彼女も俺を睨み返す。鋭い視線には有無を言わさず沈黙させる勢いを感じさせたが謹慎前にビスマルクさんに向けられた視線と比べれば遥かにマシだと自身を奮い立たせる。
数秒の沈黙の後、彼女は大きくため息をつくと頭を掻いた後に再びこちらをジッと見つめてきた。先程の鋭い視線とは違い、どこか疲れた様子でもう一度はっきりと問いかけた。
「いいか、もう一度だけ言うぞ。『気にするな』そして戦闘時以外お前達の身の安全はヴィシアが保証している。万が一ロイヤルのネズミ共だった場合はこちらで対処するが、視線の事は『忘れろ』。いいな?」
「……わかりました」
これ以上は答える気はない。機密であると暗に告げられた言葉に対して俺は素直に引き下がると、ジャン・バールさんは小さく鼻を鳴らすと踵を返して立ち去っていく。視線はいつの間にか消えており、結局正体不明のまま俺は宿舎に戻る事となる。
(何なんだ一体?)
宿舎に戻りながらも俺は先程の出来事を思い浮かべる。俺が見た視線は間違いなく俺の事を探る様子であったが、同時に敵意もなかった。まるで興味津々でこちらを観察している様な……そんな感覚を思い出す。
ピュリファイアーのような人型セイレーン?それともヴィシアの軍人か裏で繋がっている他国の人物?候補は幾らでも挙げられるがもう一度ジャン・バールさんの言葉が頭に過ぎる。
『気にするな』
『忘れろ』
ジャン・バールさんは。いや、ヴィシア聖座が敵対している恨み骨髄のロイヤルと手を結んでいる事は100%あり得ない。セイレーンやユニオンや北桜同盟と秘密裏に謀略を企んでいるのならもっと別の言い方も出来たはずだ。
つまり……断定こそ出来ないが一番高い可能性はヴィシア聖座の軍人かkansenが俺を監視している事か?それも彼女の反応的にジャン・バールさんの命令ではなく、独自で俺を調べているという感じか?そしてジャン・バールさんから見て俺を絶対に傷つけないと断言できる人物なのだろうか?
(わからない……)
まさか秘密裏に自由アイリスを説得しているのだろうか?それともサディア帝国と秘密会合を?と頭の中はぐるぐると疑念が渦巻く。
宿舎に戻ると既に夕食の準備が出来ていた。テーブルの上には様々な料理が並べられているが、やはり食欲が湧かずに俺は席に着くと静かに食事を始める。しかし、用意された食事を皆と食べても先程までの出来事が気になってしまい、全く料理の味を楽しむ事はできなかった。
その後食事が終わり次第、思い切ってヴィシア聖座の幹部クラスであるガリソニエールさんにヴィシアに俺を興味本位で監視してそうな子はいないか?とダメ元で話しかけた所。
「うーん、ウチの子達はそんな事するようなのは居ないはずだし……気のせいじゃない?動いてスッキリすれば気にもならなくなると思うよ?どうする?イ イ コ ト する?」
と笑顔で豊かな胸の谷間に指を差し込み、強調しながら冗談っぽく微笑むが、童貞である俺にとっては刺激が強過ぎて失礼しました!!と退散したのは内緒だ。いや大丈夫だ、あの様子だと真面目に答える気は微塵も無かったんだから逃げ出してもセーフだな!うん!
「とはいえ、こう……興味本位で誰かも分からない奴に監視されるのも気分が悪いんだよな……」
ベッドの上で横になりながら俺はため息をつく。ジャン・バールさんにはああ言ったものの、やっぱり気持ち悪いものは気持ち悪かった。いやまあ、スパイとか暗殺目的じゃなくて単純に好奇心の視線だった可能性もあるけどさ……。
いっそグラーフ達に相談しようとするが、それはそれでジャン・バールさんの『忘れろ』という言葉に背く事になる。下手に好き勝手行動してヴィシアとの関係にヒビが入ればビスマルクさんの信頼を裏切る事になってしまう。ジャン・バールさんは『忘れろ』という言葉と同時に『安全』を保証してくれたのだから。
取り敢えず今日はもう寝よう。明日も気晴らしに軍港を出て街を探索しよう。その時また視線を感じるなら……まぁその時はその時だ。そう一人呟き俺は眠りにつくのであった。
「……アルジェリー、ガスコーニュはどうしている?」
「あら、急にどうしたのかしら?あの子なら部屋に居て寝てるはずだけど……」
深夜、仕事を終えたジャン・バールは幹部の一人であるアルジェリーに問いかけると彼女は怪訝な表情を浮かべる。普段はガスコーニュに関してノータッチであるジャン・バールがいきなり彼女について尋ねたのだから当然だろう。
ガスコーニュ。ヴィシア海軍が保有する特別計画艦。その強さは四大陣営のkansenと遜色はなく、ヴィシアの『怪物』と並んでメルセルケビール海戦までに彼女の誕生が早まっていればフッド達ロイヤルネイビーを相手に互角以上に戦えたとジャン・バールは断言している程だ。
だが、ガスコーニュという特別計画艦の存在は余りにも特別であった。他の特別計画艦が基本的には姉妹を持たずに単艦として産まれてくるというのにガスコーニュは……
「珍しいわね……貴方が妹に興味を示すだなんて…」
「ふんっ……そう言う訳じゃない。気になる事があるだけだ」
鼻を鳴らして不機嫌そうに語るジャン・バールに対してアルジェリーは特に気にする事もなく、小さく肩をすくめる。
そう。ガスコーニュという少女の正式名称はリシュリュー級戦艦四番艦ガスコーニュ。つまり亡命した上で自由アイリス亡命政府を作り上げたリシュリュー枢機卿と、ヴィシア海軍の実質的な代表であるジャン・バールの2人と血縁関係である妹なのだ。
しかし、ガスコーニュはリシュリューとジャン・バールの血縁でありながら、特別計画艦としてこの世に生を受けることになる。遺伝子レベルから改良を行った彼女は名実共にヴィシア海軍最強のkansenであると同時に、国家が分裂した両陣営の海軍の代表の妹と言う極めて複雑な立場にあるのだ。
その気になれば血縁関係で決められるものでは無いとはいえ、姉の実績を鑑みるに枢機卿への就任すら可能である彼女の存在は秘匿されており、言わばヴィシア聖座という国家のトップシークレットと言っても過言ではなかった。
「そうか、それならいいんだが……何やらあいつが鉄血の指揮官を気にしているようだったからな。一度問い詰めて聞き出す必要がある」
ジャン・バールは苦々しげに今朝の出来事を振り返る。子供の様に好奇心旺盛な目で他国の指揮官を勝手に観察する存在なんて自身の妹以外にあり得ないとジャン・バールは確信していた。
ガスコーニュは指揮官という存在を見たことがない。現在のヴィシア聖座には指揮官はたった1人しか存在してない上に、その指揮官はガスコーニュを生み出すための戦闘データこそ集めたものの、彼女が誕生する頃にはアルジェリア方面の司令となってセイレーンとの戦いを繰り広げていた為に一度も顔を合わせた事がないのだ。
だからこそ、普段は寡黙なガスコーニュが一度だけジャン・バールに語った台詞を彼女は思い出す。
「ジャン・バール。検証の必要あり。ガスコーニュの調査対象として『指揮官』という存在に観察の必要ありと判断。陣営代表である貴官に速やかな『指揮官』との接触を要請する」
機械的に淡々と喋るガスコーニュの言葉にジャン・バールは衝撃を受けたのだ。彼女は誕生してからずっとこの調子で要望を口にした事など一度もなかった。だと言うのにあのイオニア海海戦の夜、多くのロイヤルの捕虜達を連行する際に一緒に従軍していたガスコーニュは、産まれて始めて他者に興味を持った様子で自身に話しかけてきたのだから。
「お前……いや、許可できない。現在ヴィシアには指揮官が1人だが、そいつはアルジェリア防衛の基地司令だ。ガスコーニュ、情勢が落ち着き次第アイツは基地に帰還する。その時に好きに観察するなり質問するなりするんだな」
「了解。該当の対象である『指揮官』がヴィシア聖座に到達次第、観察対象として情報収集を開始する。情報プロトコルの更新を確認。質問終了、これより任務を遂行を再開する」
ガスコーニュとの会話を思い出しながらジャン・バールは頭に手をやる。ガスコーニュは何故か『指揮官』という存在に興味津々であり、彼女はヴィシア聖座に『指揮官』が到着次第情報収集を開始すると語っていたのだ。そう、ジャン・バールの相棒である『怪物』個人ではなく『指揮官』という存在を。
「ふぅん?まぁ、あの子が何かするとは思えないけど……以前から『指揮官』に興味があって貴方が観察の許可を出したのなら貴方が巻いた種なんじゃ」
アルジェリーの一言にジャン・バールはバツの悪そうな表情を浮かべる。まさか自身の相棒より先に鉄血の指揮官に興味を持ち、勝手に観察するとはジャン・バールも予想外であった。
歩く国家機密が鉄血の客人に勝手に観察した上で、鉄血の指揮官は疑念を持っていると言う状況にジャン・バールの胃も痛くなる。
「あっ、ジャン・バールとアルジェリー?ちょうど良いや。ちょっと夕食を食べ終わった後に、鉄血の指揮官から自分を監視しそうな護教騎士とかいない?って聞かれたんだけどね。もしかしてそれって、ガスコーニュのことだよね?一応その後追及されたけど誤魔化しておいたから安心してね」
更に扉を開けて現れたガリソニエールの一言にジャン・バールの胃の痛みは増していく。あの鉄血の馬鹿ガリソニエールに早速聞くとは、自分で調査するつもりじゃ無いか?と暗くなった窓の外を眺めながら口を開く。
「すまんなガリソニエール……ガスコーニュにはこれ以上指揮官を勝手に観察するなと明日にでも言っておく。全く面倒臭い事になりやがって……」
「いやだからそれ自分が撒いた種なんだから」
「うるさい……言われなくとも責任は取るから少し黙れ……」
不機嫌そうにジャン・バールは机に突っ伏すとアルジェリーは苦笑するが、ガリソニエールは楽しそうな表情を浮かべていた。
「あたしとしては会わせてみるのも面白いと思うんだけどな?」
「ダメだ、アイツはヴィシアにとって切り札の一つだ……鉄血にもそうそう見せられないに決まってるだろ」
ガリソニエールの提案を即座に却下するジャン・バール。自身の妹であるガスコーニュの強さだけではなく複雑な政治的な立場から無闇矢鱈に妹を表舞台に出す事をジャン・バールは許さなかった。
例えレッドアクシズの一員である指揮官達にもまだまだガスコーニュの存在は滞在中は秘匿し、何れ然るべきタイミングまで政治的に不安定かつ産まれたばかりで情緒も安定してないガスコーニュを守り続けることが、姉であるジャン・バールの役割だと彼女は理解していたのだから。
「ガスコーニュには明日の昼にでも仕事が終わり次第、直接オレがこれ以上鉄血の指揮官を観察するなと釘を刺しておく、お前達はガスコーニュや鉄血の奴らに余計な事を言うなよ」
「はいはーい。分かってますって」
「分かったわ。でもガスコーニュには悪気はないんだから怒るのは禁止よ?」
ジャン・バールの言葉にガリソニエールとアルジェリーは頷くが、歩く国家機密である妹が他国の指揮官に興味津々であると言う状況にジャン・バールは胃をキリキリさせながら、鉄血製の胃薬を後で飲む事にしようと固く決意するのであった。
だが、そんなジャン・バールの固い決意は翌日裏切られる事になる。何故ならば──
「えっと、君が俺を観察していた子かな?はい、どうぞ。ジェラートでも食べるかい?」
「?」
翌朝。ジャン・バールが仕事を終えて注意する前に、軍港外の街中で鉄血の指揮官とガスコーニュは2人きりでベンチに座り、仲良くジェラートを食べながら会話をする羽目になったのだから。
・シールドを使いこなす軽巡
自由アイリス所属のジャンヌ・ダルクの事。「神穹を衝く聖歌」によると自由アイリスとヴィシアは国家が分裂する前は政治的対立こそあれどkansen同士の交流は良好だったとされており共闘する機会も多かったとされている。だからこそ「神穹を衝く聖歌」ではヴィシア勢は敵視するロイヤルのフォーチュンに集中攻撃をかけるも元同胞である自由アイリスの面々を攻撃する事は乗り気ではなかった。
・ガスコーニュ
特別計画艦でありながらリシュリュー級の末っ子。つまり陣営代表同士であるジャン・バールとリシュリューの妹という政治的にも重要な立ち位置であるkansen。「神穹を衝く聖歌」の情報によるとリシュリュー枢機卿やスパイであるル・テリブルもガスコーニュの存在を掴んでいなかったらしく、旧アイリス時代にヴィシアで極秘に。もしくはリシュリュー枢機卿離脱後のヴィシアにて建造されたトップシークレットのkansenであると思われる。
今作ではメルセルケビールの後にヴィシア指揮官などの働きもあって誕生するも、直後にヴィシア唯一の指揮官である彼がアフリカ方面の司令となった為に指揮官と言うものに興味津々な様子。実は「番外編 第七話 戦いの裏側にて 後編」にてロイヤルの離脱艦隊を足止めする為に既に登場しており、鉄血艦隊とガリソニエールの共闘の際も後方より特殊弾幕を砲撃していた。
・裏話
ガスコーニュの登場に関しては。ジャン・バールとダンケルクとの初遭遇の際のダイスロールにて。
たようでした
セイレーン活発化の調査
dice1d10=10 (10)
1~3.いつぐらいにわかりそうかな?
4~6.だがそこまで時間はかからないだろう
7~9.まあ、ともあれ暫くよろしくお願いします
10.*おおっと*←確定
ファンブル
dice1d3=2 (2)
1.ほーこくほーこくー!と少女が飛び込んできた
2.…視線を感じる?←確定
3.アラート!?
と指揮官が観察されている事が確定し。
dice1d2=1 (1)
1.無機質な感じ(ガスコーニュ)←確定
2.少しだけ興味をまとっている気がする?(その他ヴィシア勢)
とガスコーニュが指揮官と遭遇するフラグを達成。さらにヴィシアの軍港を探索するダイスロールでは。
dice1d10=9 (9)
1~2.駆逐艦の子達かな?
3~4.…なんか高貴というか…凄い子がいる
5~6.さっきの…ガリソニエール、だっけか?
7~8.銀髪の人と話してみるか
9.ジャン・バールと偶然会った←確定
10.……また見られてる
ジャン・バールと遭遇し軍港を案内してもらうイベントがありつつも。
ジャン・バールの反応ダイスにて
dice1d10=10 (10)
1~3.好きでやっただけだ、必要無い
4~6.ふん、戦働きで返してもらおうか
7~9.…なら、その敬語をやめろ
10.*おおっと*←ファンブル
ファンブル
dice1d10=5 (5)
1~3.あら、見つけたわよ?
4~6.…また視線?←確定
7~9.らきすけ
10.*おおっと*
と何度も低確率選択肢でガスコーニュに観察されるという選択肢を引き続けた結果、最終的な指揮官はガスコーニュと関わり合う事になるのでした。ちなみにジャン・バールは基本的に鉄血にオブザーバー派遣には乗り気ですがガスコーニュの存在は秘密裏にしようとしており、また鉄血の指揮官の悪運90によって胃を攻撃される犠牲者が増える事になるのでした。ガスコーニュと指揮官のお話はまた後日。
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄