トゥーロン港は完全にヴィシア海軍によって掌握されているが、少し離れた場所にある都市トゥーロンは市民達がごく当たり前の生活をおこなっており、その光景はまるで平和そのものであった。
市民達は戦時下であってもたくましく生き、海軍であるヴィシア聖座の護教騎士達を信頼している様子が窺える。宗教国らしく女神像や十字架があちこちにあり、教会も多く存在するのが印象的だ。今日は休日なのか多くの市民が教会で祈りを捧げており、その様子はまさしく敬虔な信仰者のそれだった。
とはいえ戦争の影響は少なからず受けており、特に印象深いのは強烈な反ロイヤルであることを隠し切れてない事だろう。街中にはロイヤルの獅子の旗や女王クイーン・エリザベスのポスターに赤い×印が描かれPerfide Albion(信用出来ないロイヤルのクソッタレ)の文字が書かれていた。
それは街だけに限らず軍港内でも同じであり、至る所に反ロイヤルのポスターが描かれており、中には肥えた汚い豚の身体で不細工にデフォルメされたクイーン・エリザベスやフッドが丸焼きにされているという風刺画まで存在しており、メルセルケビール海戦から始まる反吐が出る程の反ロイヤル感情は最早市民一人一人にまで根付いている事に気がつき何とも言えない気分になる。
そんなトゥーロンの街中を休日に朝から私服姿で散策していたのだが……案の定、ジャン・バールさんやダンケルクさんといた時に感じた敵意はないが好奇心を孕んだ視線が一つ、何処からか向けられており俺の心はざわめきを感じていた。
藪蛇はごめんだとロイヤルのシェフィールドに銃撃された事を思い出し、出来る限り人混みに塗れて散策していてもその視線は消えず、俺は嫌な予感を覚えながら視線を周囲に巡らせる。
「……よし」
だが、なにも対策をしていない訳じゃない。俺はシュペーから借りた手鏡で自身の髪の毛を弄るふりをしながら周囲を観察する。シュペーから手鏡を貸して欲しいと言った時は彼女は少し驚きつつも素直に貸してくれた事もあり、後でお土産を購入しようかと周囲の店を眺めつつ辺りを見渡す事四回目。
「あの子……かな?」
いやー……ダメ元で試してたがまさか本当に見つかるとは思わなかったと苦笑しつつ手鏡を眺めると、鏡の中には少し遠くから水色髪の私服姿の少女がじっとこちらを見ている姿が映っていた。
振り返ると素早く通路の死角に入って姿を消す様子が鏡越しに見え、俺は小さくため息をつく。もう一度鏡を見ながら前に歩き出すふりをすれば、水色髪の少女は素早く顔を出しながらじっとこちらを見ているのが見えた。
少女の年齢は恐らく高校生程だろうか?美しい青髪に白い肌と黄色い瞳が特徴的な美少女で、まるで人形のように整った容姿をしている。服装はシンプルな白のブラウスと紺色のスカートで、足元は黒いタイツを履いている。
その表情は何処までも無感情で何を考えているのか理解出来ない。だがその視線は敵意や悪感情は感じられず、まるで機械的に観察しているような気配を感じられた。
「さて……どうするか」
手鏡をポケットに入れつつ周囲を見渡してみるが、幸い近くに人は多い為に荒事となっても目撃者は多数だろう。脳裏によぎったのは自身の足を銃撃したシェフィールドの表情とあの時の激痛。そして、もう二度と無茶はしないとグラーフ達に語ったイオニアの夜と自身の過失が招いた不祥事の過去。
本来であればジャン・バールさんの言うとおり綺麗さっぱり忘れて無視するのが正解なんだろうが……俺は自身を監視している女の子が無害、もしくはこの人混みでは危害を加えられないと予測していたのだ。
「いいか、もう一度だけ言うぞ。『気にするな』そして戦闘時以外お前達の身の安全はヴィシアが保証している。万が一ロイヤルのネズミ共だった場合はこちらで対処するが、視線の事は『忘れろ』。いいな?」
ジャン・バールさんが昨日言っていた言葉を思い出す。その言葉と直前までの警戒を見ていれば、仮にロイヤルのスパイの可能性が1%でもあれば間違いなく彼女は憲兵隊をフル活用して24時間体制で軍港内の調査を行い、客人である俺は宿舎で大人しくしていろと命令されていた筈だ。
だが、彼女は俺を宿舎に軟禁する訳でもなく軍港内に憲兵の姿も見えなかった事から彼女はロイヤルのスパイの警戒をするまでも無く、俺を観察している犯人を確信している様子に思えた。
この事から選択肢は二つ。恐らくヴィシア聖座が内部に引き込んだ鉄血にも秘密の客人が俺を見つめていたか、ヴィシア聖座出身者がジャン・バールさんの断りもなく勝手に俺を観察対象にしたかのどちらかだ。
(ただ前者の可能性は低いはずなんだよな……考えられるとしたら鉄血以外にもサディアから援軍が来ているって事もあるがその場合そもそも秘密にする理由もない。ユニオンや北桜同盟の使者が俺を観察している可能性もあるけど、こんな情勢でここに派遣されるような使者がそんな興味本位でリスキーな行動をとるとは思えない…)
断定は出来ないが恐らく青髪の少女はヴィシア聖座出身者のkansenじゃないか?と俺は推測する。それも鉄血艦隊が派遣された事を知っているヴィシアの幹部クラスかそれに近い地位のkansenだと思うのだが……。
とはいえ、このまま放置していても仕方ない。一応は確認しておくかと意を決して俺はゆっくりと歩き出す。だが、少女は素早く物陰に隠れてしまい、その姿はすぐに見えなくなってしまう。
だが、俺は慌てずに少女の姿を手鏡で確認しながら近場のジェラート屋の主人にお金を渡す。
「すいません、チョコとバニラのジェラート二つお願いします」
「あいよ!兄ちゃん二つ注文だなんて彼女でも待たせてるのか?羨ましいねぇ!」
「あはは……」
ややテンションの高い店員さんに苦笑しつつ二つのジェラートを受け取る。そして……俺は最後に手鏡で確認した地点にダッシュで向かう!
「……」
突然男がジェラート二つを片手に走り出した結果周囲の人混みは奇異の目で俺を眺めるが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。物陰に隠れていた水色髪の少女は逃げようともせずに無言で機械的な表情でじっと俺を見つめており、少なくとも今は俺を傷つける可能性は低い事に安堵しながら俺は声を少しだけ大きく上げながら、謎のストーキング美少女に話しかける。
「お待たせ!!いやーこんな所で待ってくれてたんだね!!ずっと会いたいと想ってたよ、あははっ! 」
その声を聞いた人混みは恐らく俺と彼女は待ち合わせをしていたのだろうと納得すると、興味を失った様子で散っていくが、そんな中で少女は相変わらず無表情でこちらを見つめている。
その瞳には敵意や悪意は感じられず、俺は手に持っていたジェラートを一つ差し出しつつも口を開く。
「えっと、君が俺を観察していた子かな?はい、どうぞ。ジェラートでも食べるかい?」
「?」
俺の言葉に首を傾げて少女はしばらくじっと俺を見つめていたが、やがてバニラ味のジェラートを受け取ると小さく頭を下げる。その仕草はまるで幼い子供のようで、何処か可愛らしい。
「取り敢えずさ、君さえ良ければそこのベンチで話し合わないかい?ジェラートも溶けちゃうからさ?」
「……了解。隠密行動の失敗により任務の続行は困難と判断。情報プロトコル修正。これより任務を修正し観察対象との交流を最優先事項とする」
「うん?よく分からないけど、じゃあ一緒に行こうか」
「……」
そう言って少女は無感情のままこくりと小さく首肯する。どうやら俺に対して敵意は無いらしく、ようやく安心して俺はほっと息をつく。いやそれにしてもめちゃくちゃ可愛いなこの子。やっぱりkansenなのかな?それに何処となく目元当たりが誰かに似てるような……。
そんな事を考えつつもジェラートを片手に俺達は街中の小さなベンチに腰掛ける。周囲には多くの人混みがあって、万が一彼女が俺に敵対行動を取っても目撃者多数だろうなと思いながらじっとバニラ味のジェラートを見つめている少女に声をかける。
「おいしいと思うよ?さっきそこの店で買ったものだから毒なんかは入ってないさ。それに君に毒を盛るメリットもないからね。なんなら毒味しようか?」
俺の一言を無視……と言うか聞いていない様子で少女はじっとジェラートを見つめたまま動かない。もしかしたらこの子は甘い物が苦手だったりするのだろうか? だとしたら悪いことをしたなぁ……と思っていると、不意に少女は小さな口を開けるとパクッとジェラートを頬張る。
「…分析、完了…美味しいと認む」
「そっか、それは良かった」
無表情ながらもどこか満足そうな様子でジェラートを食べ始める青髪の少女、そのまま食べる様子を眺めるとまるで小動物のように感じてしまう。
うーん、可愛いなぁ……ちまちまと食べる姿は無表情ではあるが見てて飽きない。すると、こっちのジェラートもじっと見つめてきたので俺は口をつける前のチョコジェラートを差し出す。
「あっ、一口食べるかい?まだ俺も口つけてないよ?」
「了解」
少女はチョコ味のジェラートを受けとると、またもパクっと一口食べるが、無表情のまま首を傾げて一言呟いた。
「差違検出……前者の方が口に合うと判断」
うーん?チョコ味も悪くないと思うんだけどな?と彼女が返してきたジェラートをそのまま口に含む。やはり最強はバニラなのか?と思いつつ、ふと少女を見ると彼女はいつの間にかもう一個のジェラートを平らげており、空になった容器をじっと見つめていた。
「おかわりいる?」
「……肯定」
「分かったよ。じゃあ今度は2人で選ぼっか?」
「……」
俺の提案にコクっと小さくうなずくと彼女と肩を並べて再びジェラート屋に駆け寄っていき、先程と同じジェラートを購入する。先程の店員さんに『コレかい?』と言われたが曖昧な笑顔で誤魔化しつつ、今度購入したのはバニラ味が3つだ。この子は余程バニラが気に入ったらしく、戻ってくると俺の隣に座ってそれを頬張り始めた。
その様子を眺めながら俺は苦笑しつつ自分のジェラートを口に含む。後で宿舎に戻った際によく考えてるとこれ間接キスでは?と少し恥ずかしくなったが、今はそんな事を考える余裕はなかった。
「さて……良い加減に話を進めるか」
少女がジェラートを3つ食べ終えたのを見計らってコホンと咳払いして話しかけると、彼女は無表情ながらもじっとこちらを見つめつつ、小さく首を縦に振る。
「ええと…その、最近見てきてたのはのはキミ…で、合ってるよね?」
「肯定、『指揮官』という存在の観察をしていました」
機械的で淡々とした口調だが素直に答える。俺を指揮官とやっぱり認識していたのか?納得しながらジェラートの代金分くらいの情報は引き出そうと質問を続けていく。
「じゃあ君はヴィシア所属でいいのかな?」
「肯定、ヴィシア海軍本部直属で非常時に出撃を命じられている」
「そっかぁ……因みに俺を観察しろと誰かに命じられた訳なのかな?それとも誰かの命令?」
「陣営代表ジャン・バールより1940年11月12日深夜2時36分に申請済み。『指揮官』という存在に観察の必要ありと判断した所、観察と質問の許可を受諾。以後1月17日の海戦より調査開始し、現在に至る」
「……成る程ね」
スラスラと出てくる言葉に俺は思わず感心する。いやまぁ確かに色々情報は知っているけどさ……というか1月17日という事は……
「待って……じゃあ君はガリソニエールさんとの共闘の時にあの戦場にいたのかな?後方に。」
「肯定、ラ・ガリソニエールより隠密状態より後方支援弾幕を命じられた。その後ラ・ガリソニエールの命令によって隠密行動に徹していた為鉄血艦隊に発見される事も無く帰還。その後報告書を閲覧し鉄血の指揮官ヴァイスクレー・ヘルブストと判断、以後ジャン・バールへの申請通り貴官を観察対象として選定した」
……うーん、なんだろう。ちょっと頭が痛くなってきた。ただ彼女の言っていることは間違いないんだろうな……。
というか待ってこの子素直過ぎない?嘘をついている様子も無くこちらの問いかけに無表情だが全て応えてくれる。
「ちなみにブラのサイズは?」
「3週間前の健康診断でDカップと判明。ダンケルクより新品の下着を譲渡され黒、青、白、ランジェリータイプやショーツタイプなどの下着を所有。現在装着している下着はピンク色の上下セットのランジェリータイプであり装飾はレースとフリルがあしらわれつつ、胸部中央には大きなリボンがついている。その他追加情報。スリーサイズは上から……」
「わかった!もう良いから!!!」
「?」
この子羞恥心がないの!?冗談で言ったセクハラ発言にすら淡々と返答してくる少女に俺は頭を抱えてしまう。というか本当に俺最低だよ!白昼堂々出会ったばかりの女の子に下着の色やらサイズ聞くとか変態じゃねぇか!!
俺が顔を真っ赤にして慌てふためく様をじっと見つめてくるが、余りにも無表情ながらも純真無垢な瞳で見つめられると余計に恥ずかしくなる。
この子の羞恥心は一旦置きつつ、どうも感情が希薄過ぎる気がする。機械的で淡々とした口調といい無表情で口角に1ミリも変化もない様子といいまるで感情を抑えられているような雰囲気と言えば良いのだろうか?
しかし先程ジェラートを食べて喜んでいる様子を見る限り無感情なロボットという訳でも無く、俺を観察対象にしていたのも純粋な興味なんじゃないか?と思える。そんな純粋な女の子に下着の色を聞こうとした自分がクソ野郎に思えてくる。シュペーに今度こそゴミみたいな目で見られるぞこれ……
「ごめんね質問ばかりで……そうだね?じゃあ俺にも何か質問とかはあるかな?俺を観察対象にしているんだろ?機密にならない程度なら何でも答えるよ」
「了解。では質問を開始。まずは……貴方は何故鉄血海軍に所属している?」
少女は少しだけ考える素振りを見せると俺に質問を投げかけてきた。あんまりにも直球な質問に少し戸惑いつつも俺は素直に返答する。
「うーん……まず所属している訳は鉄血出身者でキューブ適正があって志願したからだね。わざわざキューブ適正があるなら祖国を守るために戦いたいし国外に移住する理由も微塵もなかったからね。後志願した理由は蒼き航路を守って人々の生活を守りたかったというのもあるね」
質問に答えながら思い返せば俺が指揮官になった理由は余りにも平凡で当たり前だった。ただ故郷を守る為に戦いたい。人々を苦しめるセイレーンをこの海から駆逐して平和を取り戻したい。
レッドアクシズとアズールレーンの戦争を終わらせる為の手助けがしたい。後はkansenは美人だから少し『男』としてそういう期待をしていた訳でもあるし、出世して大艦隊を指揮したいなんてロマンもあった。
それがいつの間にか着任して半年も立たない内にこれまでの人生で最も濃密な日々を過ごし、多くの大切な存在に出会い、何度も死にかけながらも今じゃ『英雄』として、ヴィシアに派遣されてこんな女の子とジェラートを食べているんだから人生何が起こるかわからない。
「指揮官になって不安や恐怖、後悔などと言ったマイナス感情に襲われた経験は?」
「何度もあるよ……過去の自分を殴り飛ばしたい事もあるし、もっと上手くやれたんじゃないか?って思う事も沢山あった。だけどさ、その度に仲間達が支えてくれたし、一緒に乗り越えた。指揮官になって一番良かった事は命よりも大切で守りたいって思える仲間達と出会えた事だよ」
いつも俺に怒りつつも理不尽な事は言わずに常に支えてくれるヒッパー。
天使のような優しい性格で時に膝枕までしてくれて、最近は着任時より明るくなってきたシュペー。
俺を基地司令として任命し常に副官として支えてくれて、英雄になる不安を吐き出した時は優しく抱きしめて肯定してくれたグラーフ。
三人のkansenの皆に俺は何度も救われた。彼女達のお陰で俺は頑張れる。どんなに辛くても苦しくても俺が間違えた時には殴ってでも止めてくれて、俺が死にそうな時は涙を流して彼女達は悲しんでくれた。俺にとっては命よりも大切な存在の彼女達。
だからこそ俺は皆に恩返しをしたかった。この世界で生きる意味を与えてくれた、家族同然の彼女たちに報いたかった。だから俺は戦える。
鉄血は同胞との絆を何よりも大切にする国家だが、いつの日か、俺を信じてくれる皆と笑って過ごせる未来を歩む事が俺の戦う理由になっていたんだ。
俺の返答に少女は無表情のままだが満足したのか小さくコクりと首肯すると次の質問をしてきた。今度は俺も気合いを入れて質問に答えていく。他愛のない質問から軍事機密に関わるので拒否する事もあるが、それでも可能な限り応えてあげる。
好奇心旺盛な少女は無表情ながらも何度も、何度も気になる事を質問してくる。その度に俺は真面目に応え続けた。
暫くして彼女は満足したように立ち上がる。
「質問終了。今朝ジャン・バールに12時に執務室に来るように最優先命令を受けている為、本日の質問はここまでとする。質問の報酬に先程のジェラートの代金を支払う」
そう言って財布を取り出すと俺が奢った分のジェラート代を支払おうとするが、そんな事は必要ないと首を振りながら俺の方から最後の質問を二つだけ問いかけた。
「ジェラートの代金は不要だよ。だからお願いがあるんだけどさ……俺を観察対象にするのは構わないし、君が望むならまたこうやって2人でジェラートでも食べながら話をしよう。でもね、余りヴィシアやウチの鉄血の子達の迷惑にならないように観察する時は注意して他の人に気づかれないようね?」
今回、この子としばらく会話をする限り、彼女がヴィシア所属である事は間違いなく、命の危険性とほぼないと言えるだろう。それなら俺を観察対象にして尾行するくらいなら別に人の迷惑にならなければ構わないと許可を出す。
無口かつ無表情で何を考えているか分からないけど、言葉の端々から良い子である事が、分かるのも理由ではあるけどね。
「了解、隠蔽行動の優先率向上を確認……次回より実行します」
……とはいえ、悪い子では無いとはいえ、本当に彼女はなんとというか、独特な雰囲気だ。機械的な口調で淡々と話すかと思いきや純真無垢で素直な子供みたいな一面もある。そして俺は最後の質問を投げかけた。
「じゃあ君が良ければ三日後、出撃がなければ2人でもう一度ジェラートでも食べようか?それまでに何か質問があるならまとめておいて。何ならガリソニエールさん辺りに話しかけて直接きてくれても良いから」
「了解。では3日後、このベンチで午前10時での集合を申請する」
「いいよ、こっちも鉄血製やサディアのお菓子を持ってくるからね……っと、最後にもう一つだけいいかな?」
頭に?と疑問符を浮かべる少女に、俺は優しく微笑みかけ、ダメで元々だと覚悟しながらこう話す。
「そう言えば君の名前を聞いてなかったけど、なんて名前なのかな?ガリソニエールさんに伝言とか必要なら名前も聞いておきたくてね?」
一瞬だけ空気が静かになる。だが少女は躊躇いもなく無表情かつ淡々な口調でその質問に答えるのであった。
「ヴィシア海軍所属。リシュリュー級戦艦4番艦。特別計画艦ガスコーニュ……それが、私の名」
「そっか………リシュリュー…級…?」
へえ、リシュリュー級……ん?リシュリュー級?…………!?!?!?!?
余りのショックに思い切り咳き込み、ゲホゴホッ!!とむせてしまうが、俺の動揺に彼女は不思議そうに首を傾げつつ俺の背中を無言で撫でてくれた。やっぱりこの子は良い子だな……じゃなくて…!!
リシュリュー……リシュリュー級!?亡命した自由アイリス政府の代表リシュリュー枢機卿とヴィシア聖座の代表であるジャンバールさんの妹の特別計画艦!?!?!?
「体温の低下と急激な発汗現象を認む…自室への移動を推奨」
「ああうん、そうだね、今日の所は少しここで抜けさせて貰おうかな……ちなみに他の姉妹は?」
「三番艦は建造中止の為現在自由アイリス教国と自称する亡命政府の代表一番艦リシュリュー及び二番艦のジャン・バールのみ……体温の更なる低下と身体が小刻みに震えていると判断、一刻も早く自室で休養を推奨する」
本格的に冷や汗と吐き気と胃痛と目眩が止まらない。全てが、全ての謎が解かれていく。何故ガスコーニュと名乗る少女をジャン・バールさんは秘匿していたのか。
それは簡単だ、目の前の女の子は歩く国家機密。それも鉄血にとってのブラックキューブに匹敵し、世界に暴露すれば国際情勢が動きかねない。パンドラの箱とも呼べる存在。だからこそヴィシア聖座は彼女の存在を隠す必要があったんだ。
だがその試みは完全に失敗し、鉄血の指揮官である俺と彼女は接点を持ってしまった……そう、ヴィシアの特別計画艦であり二つの勢力の陣営代表の妹というとんでもない爆弾を抱えた少女を。
そのまま、ガスコーニュと別れて宿舎までの帰路につくもシュペー達への土産や手鏡の返還なども完全に頭から離れたまま震える足を引き摺ってなんとか宿舎まで辿り着く。
そして部屋に戻るなりベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めて思いっきり叫び始める。
「嘘だろ!?そんな事普通……あるか普通ぅ!?」
この部屋が防音でなければ宿舎全てに俺の声が反響していただろう。こんなに叫びたくなったのはヴェネトさんからのラブレターを初めて読んだ時以来だ。改めて自身が置かれた状況を理解すると、もう何もかもが分からなくなってくる。
「そりゃそうだわ!!枢機卿とジャン・バールさんの秘匿された妹とか全力で隠そうとするわ!!」
ヴィシアの切り札でありトップシークレットでもあるガスコーニュの政治的な価値はかなりのものだろう。立ち回り方法によっては自由アイリス教国の正統性を完膚なきまでに粉砕し、非常時にはジャン・バールさんの後任を務める事も出来る存在がダイレクトアタックを仕掛けてきた事実に鉄血の指揮官としてはどう対応すればいいのか分からない。
「よし……よし!明日ジャン・バールさんとちょっと話し合うかぁ!!!」
現実逃避であり本来なら今すぐにでもジャン・バールさんの元に面会を希望してガスコーニュについて話し合う方が正論だろう。しかし、もはや俺の精神はあまりのショックに余裕を失っており、とてもではないが今日ジャン・バールさんと会話が出来る状態では無くなっていたのだから。
「ジャン・バールに明日緊急で会いたい?何なら今から連絡して……えっ?明日しかダメ?わ、分かったよ。いやでも大丈夫?死にそうな顔してるよ?」
その後、震える足を引き摺って宿舎に滞在しているガリソニエールさんに明日面会したいと声をかけたが、最早ポーカーフェイスなんて出来なくなるほどの衝撃を受けている俺を彼女は心配してくれた。その後昼食も取らずに精神を落ち着かせる為に持ち込んだチョコレートを食べながらひたすらベッドの中に丸まって深呼吸を何度も繰り返す。
だが、俺は大切な事を忘れていたんだ。ガスコーニュの素直で純真無垢な性格を。
「お前……ガスコーニュに何をした?」
その日の夕方辺り、執務室より走ってきたと思われるジャン・バールさんが思いっきりこちらを睨みつけながら扉を開いてきた。うん!あの子めっちゃ素直だからそりゃ真っ先にお姉ちゃんに話すよなぁ!?
ノックもせずにドアを蹴破る勢いでこちらの扉を開けたジャン・バールさんの瞳は怒りと困惑が混じっており、ずんずんと大股で近づいてくると俺の肩を掴みつつ問いかけてくる。その力は万力が込められていてめちゃくちゃ痛いと同時に嘘を付いたり、馬鹿な事を抜かせば場合によっては殴るぞと言わんばかりの威圧感を与えている。
うん……友邦国の使者にそんな事するなんて本来なら陣営代表失格ではあるが、事の重大さがそんな常識を吹き飛ばしている。そしてガスコーニュが嘘偽りなく目の前の海賊の様な雰囲気の陣営代表の妹である事がこれではっきりと証明されてしまった。
「何をしたと、とは?」
「ふざけるな、ガスコーニュのやつの様子が明らかにおかしい。アイツが自分から指揮官と会ったと報告してくるんだぞ。更にそれ以外にも……お前、何をした?返答によってただでは……」
「いや知りませんよ!?ジェラート食べながら彼女について色々聞いたのは事実ですけどヴィシアの内情知ろうとしたわけでもないですし、別れ際に貴女の妹とか言われて俺だって吐きそうになったんですからね!?ガリソニエールさんに聞いてください!俺余りの事に明日貴女に報告する予定でしたから!」
俺の言い分にジャン・バールさんは何とも言えない表情を浮かべつつも、その言葉自体は本当だと理解しているのか小さく舌打ちをした後に俺の肩を離す。その剣幕から問答無用で殴り飛ばされる事も覚悟していたが、彼女の様子は明らかに普段と違っていた。どこか焦っている様子で軽く頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
「……悪かった、取り乱して」
「いえ、こちらも迂闊でした。まさかあそこまで情報が出てくるとは思わなかったもので」
「その様子では……どうやら本当に何も知らなかったようだな?当たって悪かった………はあ…しかし、なんでアイツではなく鉄血のお前にガスコーニュは興味を……」
アイツ?が誰なのか分からないが恐らくヴィシアの指揮官か誰か何だろうと頭の中で推測しつつも、ジャン・バールさんは嘆息混じりに冷静になってくれた。
よかった。相手は冷静になって話を聞いてくれるようだ、後はグラーフ達やガリソニエールさんも呼びこんな時間だが鉄血とヴィシア同士でガスコーニュの事も含めて情報開示の話し合いを行えればと彼女に提案しようとした所で。
「主(メートル)の起床済みを確認、挨拶を敢行……こんばんわ、主」
……ジャン・バールさんの後ろから音もなくガスコーニュが……んんん??
「「………主?」」
2人の間の抜けた声が重なりあうのであった。
・ガスコーニュの主判定
今回のお話を3行でまとめると
①指揮官は自身を監視していた子に思い切って声をかけた。
②ジェラートを渡して仲良く会話すると国家機密の塊でした。
③ジャン君、キレて指揮官のその夜寝室を強襲。するとガスコーニュもやってきて主認定で懐いていた。
といった所でしょうか?レッドアクシズにも隠し通し、リシュリュー枢機卿やスパイのル・テリブルすら知らない国家機密の少女が仲良く鉄血の『英雄』とジェラート食べながら自身の正体を明かした訳で……ジャン・バールの胃は指揮官以上に痛くなっているのは確実です。
・裏話
今回のガスコーニュと指揮官の会話に関してはガスコーニュ本人も情報を漏らさない選択肢が幾つもあったのですが。判定の結果ジェラートを差し出しつつ正面から話しかける事になった指揮官。
ガスコーニュの反応
dice1d10=6 (6)
1~3.…無反応だとこう、困る
4~6.…とりあえず受け取ってくれたので座れる場所でも探そう←確定
7~9.人違いだと認む
10.*おおっと*
素直にジェラートを受け取りガスコーニュは食べ始め。
dice1d10=2 (2)
1~6.肯定、『指揮官』という存在の観察をしていました←確定
7~8.肯定、あなたの事を見ていた事を認む
9.……否定
10.*おおっと*
指揮官を素直に観察した上でヴィシア聖座所属である事を暴露
dice1d10=3 (3)
1~3.リシュリュー級4番艦、ガスコーニュ←確定
4~6.ヴィシア以外への詳細の発言は禁止されています
7~9.秘匿されています
10.*おおっと*
最後の最後に自身の名前どころかリシュリュー級四番艦である事も含めて全て暴露、その結果指揮官も!?っと困惑しつつ何故ジャン・バールが必死に隠そうとしていたのか理解したのでした。ちなみにその直後の行動判定選択肢では。
dice1d9=9 (9)
1~3.出撃だってよ
4~5.自艦隊メンバーと交流だ
6~8.ヴィシアの子達と話してみるか
9.ジャン君がやってきた…←確定
ダイスに意志でも宿っているのか?と言わんばかりにジャン・バールは即座に指揮官の寝室に強襲。ふざけるなお前ウチの可愛い妹に何をやった?とキレつつも指揮官と話し合いようやく落ち着き、すまなかったとジャン・バールが頭を下げた直後に。
dice1d10=10 (10)
1~3.いやまあ…うん、許すよ…
4~6.…あの子って…ジャン・バールさんの妹…でいいのか?
7~9.そっちもなんでこうなったとかなんかないの?
10.*おおっと*←ファンブル
*おおっと*
dice1d10=10 (10)
1~3.…一つ、頼みがある
4~6.…少し様子をダンケルクに話したら、恋する女の子みたいね?とか言われたんだが…
7~9.ご本人登場
10.+主?←確定
と100分の1の確率でガスコーニュがジャン・バールの後ろについてきた上で、指揮官を主(メートル)認定した上で挨拶。余りの事にジャン・バールと指揮官は呆気を取られるしかありませんでした。ちなみに直後のダイスによればガスコーニュの好感度は最低保証+30をした上でGMがダイスを回した所。
dice1d70+30=54 (84)
好感度84とかなりのものに。80を超えているからゲームの様に好き判定という訳ではないとは言え、完全にガスコーニュはジェラートを奢って仲良く会話をしてくれた鉄血の主(メートル)に懐いてしまうのでした。
次回はそんなガスコーニュを巡るお話。サディア編のヒロインがヴェネトであった様に、ヴィシア編の鍵となるヒロイン、ガスコーニュを巡る処遇についてジャン・バールと指揮官が仲良く話し合う事に。総旗艦の様に明確に恋をした訳ではありませんが完全に懐いたガスコーニュは果たして……
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄