鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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 今回の作品は原作ダイスにて何回もファンブルが発生した結果予想外の方向に進んでいきます。さて問題です、何度このダイスはファンブルが起きたのでしょうか?答えは後書きにて。


第五十五話 ガスコーニュの恋とたった一人の肉親

 沈黙が部屋を包み込む中、唖然とした表情のジャン・バールさんにガスコーニュは俺に向かって一礼するとそのまま自然な動きで部屋に入り込み、俺の隣に腰掛ける。そんな彼女の行動にジャン・バールさんは再び声を上げようとするが、それよりも先にガスコーニュが口を開く。

 

「えっと……主(メートル)、横に座ってもいい、かな?」

 

 彼女は小首を傾げつつそう問いかけると、俺が答えるよりも早く隣のスペースに潜り込んでくる。そんな彼女の様子を見てジャン・バールさんが目を見開く。おかしい、ガスコーニュとの付き合いは1日だけとはいえもっと彼女は機械的で淡々としていたはずだ。

 

 

 それなのに今の彼女の言葉の節々からは確かな感情が伝わり、その表情も上目遣いでこちらの様子を伺う仕草も俺の記憶にある彼女とは大きく異なっている。

 

 

「……ガスコーニュ?何で俺の事を主と呼ぶのかな?」

 

 

 じっとこちらを見つめてくるガスコーニュに困惑しつつ問いかけるが、彼女は特に気にする事無く微笑むと再び口を開いた。

 

 

 

「……ガスコーニュ自身がそう呼ぶべき、と判断。

……その、勿論、主が不快であればもうしないようにしておく」

 

 頬を染めながら視線を落とすと、ガスコーニュは俺に謝ってくる。上目遣いで頬を染めるガスコーニュの様子に俺は思わずドキリとしてしまうが……鈍感でヒッパーからデリカシーのないと言われた事もある俺にだって理解出来てしまう。頬を染め、上目遣いでこちらを見つめ、恥ずかしそうにしながら俺に話しかけてくる。これはつまり……!?

 

 

「……ちょっと、だけ時間をくれないか?」

 

 

 だが何故?どうして?と思考が脳裏に駆け回る間もなく次の瞬間、俺はこれまでの人生で最大級の死の恐怖で震えていた。乙女のガスコーニュの様子をじっと見つめるジャン・バールさんの瞳が今や完全に据わりきっており、全身から明確な殺意と憎悪が漏れ出している。あっ、ヤバい俺殺される。

 

 

 そう思って逃げ出そうとしてもその圧倒的な威圧感から体が動かず、恐怖と混乱から涙すら浮かんできた。そして、ジャン・バールさんはゆっくりと深呼吸をした後に、静かに語り始める。

 

 

 

「なるほど……な、大体分かった」

 

「な、なにがですか……」

 

「お前が何をしたのか、という事がだ」

 

 

 

 ジャン・バールさんは立ち上がると、俺の肩に手を置く。その手は不自然なほどに優しくまるで小鳥を撫でるような繊細さで触れてきたのだが、俺にはその手が万力の様に感じられ、もはや指一本動かす事が出来なくなっていた。

 

 彼女の表情は穏やかだったが、その瞳の奥では激情が渦巻いており、ただ俺を睨みつけるだけで俺の心臓を握り潰してしまいそうなほどの圧力を放っている。その表情とプレッシャーを見れば彼女が本気だという事は誰の目にも明らかだった。

 

 

 

「……表に出ろ、鉄血の指揮官…!タダで妹をやれる訳などないからな…せめてオレより強くなければ許さんぞ…!」

 

 

 

 次の瞬間、ジャン・バールさんは憤怒の形相でこちらを睨むと、俺の首根っこを掴み上げる。仮にも成人男性である俺を軽々と持ち上げる彼女の腕力は一体どれほどのものなのか……って冷静に状況分析してる暇もねぇわ!!

 

 

 おいどうすんだよ!この人までツッコミ放棄して暴走したら意味も分からない以上に最悪国際問題になるじゃねぇか!!

 

 

「ジャン・バールさんストップ!!!ストップ!!というか本当落ち着いてください!ヒッパーとかガリソニエールさんとか目撃者もいるし洒落にならない国際問題になるんですって!こっちも状況理解してませんけど!!今鉄血の使者である俺を貴方が殴れば──」

 

 

 俺が殴られるだけなら殺されそうだが……良い。俺が悪いなら甘んじて二人きりになった時にジャン・バールさんから拳を受け止める覚悟はある。

 

 

 だが説明もせずに表で彼女が俺を殴れば、恐らく鉄血の仲間達はキレるはず。一応親善の名目で派遣されているのに、ロイヤルとの話し合いや北桜同盟との講話会談も近い中、レッドアクシズ同士でそんなスキャンダルを引き起こせばどうなるかを考えれば取り返しのつかない事になりかねない。

 

 

「……そうか、それもそうだな」

 

 

 ジャン・バールさんは一言呟くが、俺の首根っこを掴んだまま通信機をポケットから取り出すと手早く操作を行う。その間も俺の身体はギリギリと締め上げられており、首が締まって息苦しいうえに全身の骨がミシミシと悲鳴を上げ始めている。

 

 このままだと俺の意識は闇に落ちてしまいそうになりながらも必死に耐えつつ、俺は通信機のスピーカーに耳を傾ける。

 

 

「ダンケルク?今から30分、お前にオレの権限を全て移譲させる。今からお前がヴィシア海軍の陣営代表だ、頼んだぞ」

 

『えっ、待ちなさいジャン・バール!?いきなり何を言って……』

 

「いいから任せた。今からオレは権限を全てお前に剥奪された一般人だ。オレはこいつに話がある、30分後また連絡する」

 

『えぇ……!?ちょっと、何よそれ……!』

 

 

 ジャン・バールさんは一方的にそれだけ言うと、そのまま通信を切る。そしてこちらに目を向けると冷たく、それでいて怒りの炎をその目に宿しつつ口を開いた。

 

 

「これで俺は今から30分……ヴィシアの陣営代表でもない、ただのジャン・バール……いや、ガスコーニュの姉貴だ。鉄血もヴィシアも関係ない一人の姉としてオレの妹をたぶらかした不届き者を殺……殴らせてもらうぞ……!」

 

「いや本当に落ち着いてくださいって!!と言うか今俺殺すとか言ってません!?ガスコーニュも助け……」

 

「え、えっ…!?めーとる……ジャンバ……私どうすれば……!?」

 

 

 

 だめだ!ガスコーニュはオロオロと二人を見つめながら、どうすれば良いのか分からず困惑している様子で、助けを求めるようにこちらを見ている。

 

 

 あぁ懐かしいなぁ!!大昔両親が大げんかした時の幼かった妹もこんな感じだった気がするわ!!とは言え今はそんな事を思い出してる余裕もない。というかこの人本気だしマジで殺されるかも……!

 

 俺が焦りながら思考を巡らせる間にもジャン・バールさんは俺を引きずり、部屋の外へと連れ出そうと力を込める。ガスコーニュはトテトテと後ろから怯えた表情のまま付いて来ているが未だに混乱の最中だ。

 

 

「ストップ!ストップです!これやると色々問題なるんですって!!殴るならせめて事情説明してから本部で……!」

 

「うるさい!!嫌ならオレに反撃しろ!!女だからって手加減するな!!今のオレは姉として話をしている!!護教騎士や陣営代表ではなくジャン・バールという個人としてオレはお前を殺……殴る!!」

 

「助けてガリソニエールさん!!この人冷静さ完全に失って俺を殺そうとしてるから!!!」

 

 

 最早興奮状態のジャン・バールさんでは話しが通じないと首根っこを引き摺られながら俺は叫ぶようにガリソニエールさんに助けを求める。

 

 

 正直この宿舎に滞在してる鉄血の皆にもこの状況を見られ大問題になる可能性も高いが背に腹はかえられない。せめてヴィシアの幹部であるガリソニエールさんなら彼女を抑えられる事を祈りつつ、俺が声を上げると廊下の向こう側からカツンカツンと足音が聞こえてくる。

 

 

「ヴァイ……指揮官……と、ジャン・バールさん…だっけ、何してるの?」

 

 

 廊下の奥から現れた普段の義腕を外しているシュペーはドン引きした様子で俺とジャン・バールさんを見つめて困惑している。それゃそうだよ!ウチの指揮官が首根っこ掴まれて滞在先の陣営代表がブチ切れた様子で引っ張られてるんだからね!

 

 

「邪魔をするな、これはオレとこいつの話だ…!」

 

「ヘルプ!ヘルプシュペー!ガリソニエールさん呼んできて!ちょっとこの人、興奮状態で話が通じないんだってば!?」

 

 

 シュペーの姿を見た瞬間ジャン・バールさんの力が更に強まるが、俺は首が締まりつつも何とか言葉を絞り出す。すると彼女は首を傾げながらも素直にコクりと小さくうなずく。

 

 そして、そのままジャン・バールさんを睨みつけながら静かに口を開く。

 

 

「ねぇ、どうして指揮官の首根っこを掴んでいるの?それに、何でそんなに怒ってるの?」

 

「……」

 

「教えて欲しい。何が、あったのか」

 

 

 いつもの口調ではあるが、その言葉には有無を言わせない力があった。大人しく、常に天使のように優しいシュペーがここまで怒りを露わにしているのは初めて見る。

 

 

「……ふん、お前には関係のない話だ」

 

「あるよ。ウチの指揮官が殴られたら、私だって黙ってはいられない」

 

 

 シュペーの言葉を聞いてもジャン・バールさんは鼻で笑うだけだった。しかし、それでも彼女に対して引くつもりはないらしく、鋭い眼光でシュペーを見つめていた。

 

 

 両者の瞳からは敵意や殺意といった感情が溢れる。ジャン・バールさんが何故キレているのか何となくだが想像がつくが、シュペーのその怒りの根底はまさに彼女が鉄血出身のkansenだからだ。

 

 

 我が同胞のために鉄血の力とならん事を。鉄血海軍は全ての勢力で最も同胞との絆を重視し、仲間が傷つけられる事を許さない。たとえ相手が友好国の陣営代表であっても、同胞に理不尽に暴力を振るわれれば、シュペーは決して許さないだろう。

 

 

 それは俺も含めた鉄血海軍に所属する兵士達全員の共通認識であり、同胞を傷つけた際の怒りは他国を凌駕し、秘匿されていた特別計画艦であるグローセさんを出撃させて俺を殺しかけたスパイ二人を血祭りにあげようとした先日の事件でも分かる通りだ。

 

 

「お前に何ができる?」

 

「……どういう意味?」

 

「言葉の通りだ、お前如きにオレを止める事は出来ないと言っている」

 

「……」

 

 

 ジャン・バールさんは挑発するようにそう言うとシュペーは僅かに眉を動かすと、せせら笑うかの様に笑みを浮かべる。あぁこれヤバいな……。

 

 

「前提条件が間違ってるよ。そっくりそのままの言葉を返してあげる……貴女如きに私の大事な指揮官は殺させない……!!」

 

「……!!」

 

 

 次の瞬間、シュペーは腰から躊躇う事なく隠し持っていた何かを投げつける。石や投げナイフか?と警戒したジャン・バールさんは警戒した様子でそれを直視するが、それは袋詰めされた小さなチョコレートだ。だが、チョコレートを注目してしまった一瞬の隙をついてシュペーは距離を詰めると俺を奪還しようと手を伸ばす。

 

 

「……!?」

 

 

 咄嵯の出来事だったが、ジャン・バールさんも多くの戦場をくぐり抜けてきた叩き上げの軍人だ。即座に反応して身を翻すが、シュペーは体を捻りながら飛び込むようにジャン・バールさんの腹に拳をめり込ませる。

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 不意打ち気味の一撃に思わずジャン・バールさんは苦悶の声を上げる。だがジャン・バールさんも俺の首筋を掴み、片手が使えない状況ながらも右手でシュペーの腕を掴むと強引に振り払う。

 

 そして、そのまま彼女の顔面を殴りつけようと右腕を振り上げるが、シュペーは冷静に両腕でガードをして一歩後ろに下がると挑発する様に口角をあげる。

 

 

「全く痛くないよ。ヴィシアの格闘訓練って本気でやってるの?鉄血の教練プログラムを今度教えてあげよっか?」

 

「……ッ!」

 

 

 煽られた事に更に苛立った様子のジャン・バールさんだが、一度腹を殴られた事で冷静さを幾分か取り戻した様だ。一瞬目を瞑る彼女を見て、やっと俺を解放してくれると期待するも。

 

 

 

「その必要はない。むしろ片手が使えないくらいがお前に丁度いいハンデになる」

 

 

「えぇ……」

 

 

 

 なんでそうなるんだよぉ……!!冷静になったけどそれは陣営代表ではなく目の前の敵を撃ち倒すための戦士としての思考だったよ!

 

 

「……そう、なら遠慮なく行くね」

 

 

 シュペーは小さく息を吐いて構えを取る。すると彼女は今まで見た事がない程に冷徹な表情を浮かべ、静かに口を開く。

 

「……死んじゃダメだよ指揮官。この馬鹿女に捕まれて振り回されると思うけど、直ぐに助けるから」

 

「あの、シュペー?」

 

「上等だ鉄血の……!このクソ野郎に裁きを下す前にお前をぶっ潰す!!」

 

「あの、ジャン・バールさん?」

 

 

 俺の言葉が聞こえていないのか、それとも聞くつもりもないのか、シュペーとジャン・バールさんの二人はお互いに睨み合うと次の瞬間には激突していた。

 

 俺の首根っこを掴んだまま、ジャン・バールさんはシュペーに蹴りを放つが、それを腕で防いだシュペーはそのまま回し蹴りを放つ。

 

 それをしゃがみ込んで回避したジャン・バールさんは再び足払いを仕掛けるが、それもジャンプして避け、空中にいる間にシュペーは両足の裏を合わせてジャン・バールさんの顔に向けて放つ。

 

 

 ジャン・バールさんは片手でシュペーの足を掴み、廊下の床に叩き落とそうとするが、シュペーは掴まれた足を軸としてバク転しながら距離を取り、着地と同時に再び突っ込み、ジャン・バールさんは片腕でシュペーのパンチを防ぐ。

 

 

 

「お前は!!オレの妹を手篭めにしたクソ野郎の味方をするのか!妹に手を出されればこうもなろう!妹がよくわからん輩に手籠にされればこうもなろう!どけ鉄血の!!」

 

 

 

 ジャン・バールさんは右足でミドルキックを放ってくるが、それを上半身を逸らすだけで避ける。そのままジャン・バールさんは左足でのハイキックを繰り出すが、それをシュペーは左腕をクロスさせて防御する。

 

 シュペーは攻撃を防いだ直後、そのまま身体を回転させてジャン・バールさんの脛にキックをお見舞いしようと反撃に移る。

 

 

「そんな訳ないに決まってるでしょ!?」

 

「あぁ!?」

 

「シュペー……」

 

 

「あの指揮官が!!他国の女の子を手篭めどころか!!そもそも女の子に手を出せるはずないよ!!絶対に!!!」

 

 

「そっちぃ!?」

 

 

 シュペーの言葉を聞いて思わず叫んでしまう。信頼してくれるのは嬉しいけどそれ童貞としての信頼だよなぁ!?と叫びたい気持ちを抑えつつ、俺は二人の戦いを見守る。どうやらシュペーが有利のようだ。

 

 

 ジャン・バールさんは片手しか使えないのもあるが、それでもシュペーの方が動きが速い。だが、スタミナはジャン・バールさんが上らしく、徐々にシュペーの動きに疲労が見え始めた。

 

 

 シュペーは一旦距離を取ろうとするが、ジャン・バールさんはそれを許さず、彼女の腕を掴んで引き寄せるとそのまま一本背負いを仕掛ける。流石にこれは避けられないと思ったが、シュペーは咄嵯の判断でブリッジをして受け身を取った。

 

 

 シュペーの体が浮いた瞬間、ジャン・バールさんは更に追撃をかける。ジャン・バールさんは起き上がるタイミングに合わせてシュペーの顔面を殴りつけようと右足を振り下ろす。

 

 

 だが、その一撃を紙一重で避けたシュペーはジャン・バールさんの脇腹に膝を叩き込む。小柄なシュペーは素早く動きつつ俺を奪還しようとジャン・バールさんにダメージを与えていき、一撃の威力が高く一発でも当たればシュペーをKO出来るジャン・バールさんは的確にシュペーを仕留めようと攻防の最中隙を窺う。

 

 高速で動きダメージを与え続ける鉄血式歩兵戦闘格闘術と蹴り技を中心にしたヴィシア式格闘術サバットの本気のぶつかり合い。もしこれが試合形式なら多くの観客や両国の軍人を魅了し、その技術に感嘆の声を上げていただろう。

 

 

 だが、今の俺にはそんな事を考える余裕がなかった。未だに混乱した様子でこちらを見つめているガスコーニュのせい?必死でこちらを奪還しようとしてくれるシュペーに感動したから?それとも普段は冷静なジャン・バールさんが何故こんなにキレたのか?を推理していたから?それらもあるだろう。だが一番な理由は。

 

 

 

 

 

(頭がいてぇ…!息ができねぇ…!!死ぬ!!このままじゃ死ぬ!!)

 

 

 

 

 

 ジャン・バールさんに捕まれた状態で二人の戦闘に巻き込まれた俺は、容赦なく身体がぐわんぐわんと音を立てて振り回されている。

 

 

 両者の攻撃が一切当たらないとはいえ二人の格闘が過激化する程に体力面でそこまで優れてない俺は振り回され、吐きそうになりながらも意識を保つのに精一杯だった。

 

 こうして二人の戦闘を冷静に頭で解説してる理由?そうでもしないと意識を失いそうなんだよぉ……!

 

 もう脳みそがシェイクされ過ぎてさっき一瞬故郷のフランクフルトの情景が頭によぎったけどこれ走馬灯だよね!?うっぷ……あっやべ吐きそう。

 

 車酔いをさらに酷くした様な感覚に襲われながら、なんとか耐えているがミシ…ミシ…と小さな音が微かに届く。

 

 よく見ればジャン・バールさんが掴んでいる俺の私服の襟元辺りがあまりの格闘に振り回されたせいで破けかけていた。えっあのこれ……!

 

 

 

「チッ…!重巡の癖に硬ビリィ…ん?」

 

「あっちょっ、指揮官…!?」

 

 

 格闘の最中、振り回され過ぎたショックで襟元の部分は綺麗に千切れてしまう。同時に猛烈な勢いで俺は吹き飛ばされるがシュペーはカバーするかの様に手を広げて受け止めてくれた。

 

 

 あぁ、やっぱりいい子だよなぁ……と感動する間もなく俺とシュペーは抱き合う様に勢いで吹き飛ばされ、少し転がり壁に激突する。

 

 衝撃で視界がチカチカするがお互いに受け身のお陰でダメージは最小限に抑えられたのが幸いだ。寧ろ女の子のシュペーを抱き締める様な形になってしまったのが役得……じゃなくてさっさと起きなければ。

 

 

「いてててて…サンキュー、シュ……んっ?」

 

 

 

 起きあがろうと地面に手を無造作に置こうとした途端、ふにゅんと手の平に柔らかい感触を感じる。無意識に揉めば指が沈み込むような弾力のあるそれは今までの人生でたった一度だけ触ったものと似ている感触だ。そう、緊急避難でイラストリアスに人工呼吸をする為に触れたおっぱいの感触と……?

 

 

 

 

 

「ええと…指揮官、その…」

 

 

 

 シュペーの言葉を聞いて自分の手が触れているものが何なのか理解し、顔から一気に血の気が引く。恐る恐ると視線を下に向ければそこには俺の手がしっかりとシュペーの小振りながらも確かな膨らみを持つ胸を鷲掴みにしている光景があった。

 

 

 

 シュペーの表情は先程までの冷徹なまでの戦士ではなく、赤面して恥ずかしげに俯いており。一瞬フリーズするがすぐに自分が何をしているのかを理解し慌てて離れようとするも、こちらも恥ずかしさと衝撃で動けない。

 

 

 頬を染めてマフラー越しに口元を隠し恥ずかしそうに目を逸らすその姿は可愛さと色気が両立し、彼女をいやがおうにも女として認識してしまう。

 

 そして、そんな可愛い仕草をされてしまっては男として黙っていられる訳もなく、俺の顔にも熱が集まり始め、心臓がバクバクと高鳴っていく。

 

 必死に理性を働かせて欲望を抑え込もうとするも、俺の本能は目の前の少女を貪り尽くせという欲望により下半身が痛くなる。このまま自分が触っている彼女の胸を好き放題したい、熱っぽい目で押し倒されているシュペーにキスをしたいなどの下劣な考えが頭の中でぐるぐると回る。

 

 

 

「………なにしてるんだお前達は」

 

 

 

 

 呆れる様なジャン・バールさんの一言で俺は正気に戻り、慌ててシュペーから離れて彼女にお礼と謝罪を言う。

 

 

「す、すみません!助けていただいたのにこんなセクハラまがいの事をして……!」

 

「あっ、いえ、大丈夫です。その……私こそごめんなさい。急に触れられてびっくりして固まっちゃったせいで変な反応をしてしまいましたから!」

 

 

「いえいえ!こちらこそ!」

 

 

「いえいえ!」

 

 

「いえいえいえ!」

 

 

「お前ら敬語だったか?というか目の前でラブコメを始め──」

 

 

「「アンタが暴走して吹き飛ばしたのがいけないんでしょうが!!」」

 

 

 ジャン・バールさんの言葉に思わずツッコミを入れる俺とシュペー。俺達が叫んだ事に驚いたジャン・バールさんがビクッと肩を震わせる。

 

 

 人は理解不能な状況に直面すると理性を取り戻すと言われているが、彼女も先程までの怒りは霧散したと同時にうぐぅ……と正論にぐうの音も出ずに沈黙する。

 

 

 シュペーの胸の感触が手から消えていない。寧ろ興奮でより鮮明に思い出せるぐらいだ。あの時のシュペーの反応を思い出すだけで下半身がまた元気になるのを感じるが、どうにか冷静さを取り戻して周りを見渡すとガスコーニュは相変わらずオロオロしているが心配した目でこちらを見つめてきており、気まずい雰囲気が四人を包み込む。

 

 

「さて……では、この状況を説明してもらおうか、ジャン・バール?」

 

 

 しばらくそうして固まっていると、廊下の奥からコツコツと靴音を鳴らしてグラーフ達がようやくやってくる。

 

 ガリソニエールさんはガスコーニュと何かを話しており、ヒッパーはこのアホまた何かやらかしたな?とため息を吐きながら俺を見つめ、グラーフは状況を整理しようと質問を投げかけてきた。

 

 とりあえず俺は事の顛末を簡単に話すと、俺の説明に納得出来ないのか、それともただ単に面倒くさかっただけなのか、グラーフは眉間にシワを寄せて腕を組み、他の皆も困惑している様だ。

 

 

「ジャン・バール!?貴女何やってるの!?」

 

 

 すると扉が開き、ダンケルクさんが走ってきたのか少し荒くなった呼吸を整えつつ彼女を怒鳴る。その怒りの矛先は先程までの自分の行動が恥ずかしくて縮こまっているジャン・バールさんへと向けられていた。

 

 

「……すまんなグラーフ・シュペー、ヴァイスクレー・ヘルブスト。怒りのあまりお前がガスコーニュを手篭めにしたと早合点してしまった。許してくれ」

 

 

「はぁ?何のことだか分からないけどウチの童貞指揮官が他国のkansenに手を出す訳ないでしょ?」

 

「同意だな。卿は情報収集能力こそあれど女心の機敏については未熟な童貞だ」

 

 

「だからさぁ!!擁護してくれるのは嬉しいけどシュペーも含めて俺への評価が辛辣過ぎませんかねぇ!?」

 

 

 

 正直殴られるよりメンタルがガリガリと削られるなかシュペーもペコリと無言で頭を下げるが、彼女は赤面は今もしつつも警戒した様子でジャン・バールさんを睨む様にじっと見つめており、それ以上にダンケルクさんは説明しろと言わんばかりにガスコーニュや俺達を見つめている。

 

 

 

「あのですね、ジャン・バールさん。こう言うのも何ですけど……ここまで大事になるともう隠し通すのも無理でしょうし一度空いてる会議室とかありませんか?」

 

 

 一応騒ぎは治ったものの夜の宿舎に鉄血とヴィシアの皆が集まった状況でホイ解散とは言えない状況となっているのは確実だろう。

 

 

 何故ジャン・バールさんはあそこ迄俺に激怒したのか?そしてガスコーニュを巡る秘密について一度話し合って誤解を解かないか?とそれとなく話すと、一瞬躊躇いつつも冷静にヴィシアの陣営代表に相応しい思考回路を発揮し深いため息と共に口を開いた。

 

 

 

「あるにはある……が、ガスコーニュのやつも呼んだ方がいいか。謝罪も含めて今後の予定を話し合う必要もあるか、ついてこい。会議室に案内する」

 

「本当にウチの陣営代表がごめんなさい。破けた服は直ぐにでも弁償して、場合によっては金銭的な賠償もするわ。本当に……ジャン・バール?本当に洒落にならない事をしてくれたわね?貴方は」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。それに私の方こそ……あの……」

 

 

 

 案内しようとしたジャン・バールさんにダンケルクさんの冷たい視線を送りつつシュペーと俺に謝罪すると、シュペーは自分も他国の陣営代表の腹にボディブローをかました手前おずおずと口を開くがダンケルクさんは無言で首を横に振る。

 

 

「今回の事はヴィシア聖座が全面的に悪いのだから気にしないで。貴方達は正当防衛したのよ、後でジャン・バールにはウチの指揮官も含めてキツく言っておくから場合によってはビスマルクに全て報告して頂戴。全く……それにしても……」

 

 

 ダンケルクさんは一瞬、悪魔の様なオーラを宿してジャン・バールさんを睨みつけた後面白そうな表情でガスコーニュと俺を見比べると呟く。

 

 

「まさかガスコーニュに……ねぇ指揮官?」

 

 

「はい?」

 

 

「ガスコーニュと仲良くしてあげて頂戴ね」

 

 

 そう、ダンケルクさんは微笑んで俺にそう問いかけた後、シュペーの耳元で何かを呟く。シュペーは表情を強ばらせるが「頑張りなさい」とダンケルクさんの言葉に小さく首肯し、その様子に満足したダンケルクさんはそのまま廊下の奥へと消えて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『馬鹿かお前は?』

 

「うぐっ……」

 

 

 その後、鉄血とヴィシアの合同会議を終えたジャン・バールはその足で通信室に向かうとアルジェリアの防衛艦隊を任された司令である相棒の指揮官に呆れた様子で話しかけられ、その言葉に彼女は思わず胸を押さえた。

 

 

『怒りのあまり他国の、それもわざわざ頭を下げて派遣してもらった鉄血艦隊の代表の『英雄』を表に出ろと引きずった?それを阻止しようとした鉄血の重巡と小競り合いになって最後は皆に見られた?クソ忙しい時に通信を送ってきたかと思えばお前……本当にお前……』

 

 

 

 相棒の指揮官の呆れる様な声音に彼女は何も言い返せず俯いていると、彼はため息をつく。重症だ。姉のリシュリュー枢機卿がロイヤルに亡命した時以来の憔悴っぷりに流石に見ていられないと思い、指揮官は言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。

 

 

『先方が事を荒立たせない方向に向いてくれたから良いにしても、例えダンケルクに権限を一時的に移譲しようが一歩間違えば国際問題になっていたんだ。お前が妹を愛している事は分かるがお前の背中にはヴィシアの全ての国民の命が乗ってる。その事を忘れるな』

 

 

「……分かっているさ。ただ、どうしてもあの指揮官に腹が立って仕方なかったんだよ。アイツは……ガスコーニュは……残されたオレのたった一人の家族だったんだ……会議の時も……なのに……アイツは……!」

 

 

 憔悴と後悔が入り混じった声が通信機越しから指揮官の耳元に届く。残された、たった一人の家族という言葉を聞いた途端に指揮官は苦い表情を浮かべつつ嘆息しながら言葉を紡ぐ。

 

 

『……ガスコーニュを大切にする気持ちは分かる。だが彼女の気持ちを尊重するんだ。感情抑制モジュールが壊れたと言う事は間違いなくガスコーニュは鉄血の指揮官に恋をしている。なら姉として妹の幸せを祝福してやれ。それが無理でもせめて彼女を傷つけるな。お前はガスコーニュを愛しているが、仮に国際問題になっていればガスコーニュは始めて感情を抱く程に好きになった男と引き剥がされる事になったかもしれないぞ?それでいいのか?』

 

「……」

 

 

『それと、今度からは冷静になれ。感情的になる前に俺に相談しろ。お前一人じゃどうにもならない事もあるだろう?その時は俺に頼ればいい。俺だってお前の事を信頼している。だから相棒、一人で悩むな。俺に言える事はこの件が解決したなら今後、国益と相談しつつ、ガスコーニュの幸せを第一に考えてやる事。それだけだ』

 

 

「ああ……分かったよ。悪かった。少し取り乱していた」

 

 

『分かってくれれば良い。鉄血が正義の味方を気取っている以上最早鉄血はヴィシアを併合しようと動く事はないだろう。クソ共の調査が進んで撲滅作戦に移る際にまた連絡しろ、それまでは……感情を会得したガスコーニュとよく話し合えよ。あの子はお前の家族なんだから』

 

 

 指揮官の寂しげな笑みが浮かび、その言葉を最後に通信が切れる。ジャン・バールは深いため息をつき、そのまま廊下の壁に背を預けると目を閉じて考え込む。

 

 

(オレの唯一の家族……か)

 

 

 リシュリュー枢機卿が国を裏切り、ロイヤルに亡命した今。ガスコーニュはジャン・バールにとっては唯一の肉親だ。彼女はこれ程までに自分は妹を愛していたのかと改めて実感し、それと同時に自分が情けなくなる。

 

 ガスコーニュの想い人を引き裂こうとした挙句、自分の手で殴ろうとする。それはガスコーニュにとって何よりも辛い仕打ちだった筈だ。その事に気が付き、ジャン・バールは再び大きなため息をつく。

 

 

「……上層部の連中は恐らく……なら……オレは……」

 

 

 静かな夜に星々の光が煌めく夜空を見上げながら、彼女は静かに呟く。その表情は知るものはただ夜空の星と、月明かりだけだった。

 

 

 

 




・ジャン・バールの激怒。

 彼女はたった一人の肉親が他国の男に恋をしたという事実に暴走してしまい、結果として陣営代表でありながら後一歩で同胞想いの鉄血が激怒しかねない行動を取ってしまう事に。普段は冷静な軍人でありながら妹への愛、そして、たった一人の肉親が離れていく事への怒りから暴走してしまうのでした。鉄血とヴィシアの共同会議後、ダンケルクに叱られつつ自身の相棒である指揮官と話し合った今は何かを決意したようですが……。


・ガスコーニュ
 彼女は率直に言えば指揮官に惚れました。そう、ゲーム的に例えるのであれば愛100の好感度。今作で同じ人物を挙げるなら鉄血の指揮官に惚れているヴェネトとシュペーと同じ程に。なぜ、そうなったのかも含めてまた次回描写させて頂きましょう。




・ファンブルの回数

 答え先ず連続で10が四回出てしまい。


dice1d10=10 (10)
1~3.…?質問の意義が不明、詳細の説明を求む
4~6.照合完了、KAN-SENとは仕える相手に独特の呼称の使用を認む
7~9.…昨夜より、ショウドウを感知
10.*おおっと*←確定


*おおっと*
dice1d10=10 (10)
1~3.…ガスコーニュ自身にも不明、一部エラーの発生を認む
4~6.ダンケルク様より、あなたの思うままに進めばよい、と
7~9.ガスコーニュ自身が、そう呼ぶべきと判断。…不快であれば、拒否を求む
10.抑制モジュールブレイク←確定

ガスコーニュが完全に指揮官に惚れていると判明した時のジャンバールの反応にて


dice1d10=10 (10)
1~3.あまりの展開についてこれていない…
4~6.…お前、本気で何をした?と片手で頭を抱えている…
7~9.流石に認められんぞ…!?
10/*おおっと*←確定



dice1d10=10 (10)
1~3.妹はやれんぞ!!!!
4~6.……ガスコーニュ、少し席を外せ
7~9.…会議の必要性があるな…
10.表に出ようぜ…!←確定

 10000分の1の選択肢で我を忘れて妹のためにジャン・バールは指揮官の首根っこを掴んで宿舎の表に出ようとする事に。その後いくつかのやり取りの後にシュペーがやってきて格闘を開始し。


dice1d10=10 (10)
1~3.邪魔をするな、これはオレとこいつの話だ…!
4~6.ふん、お前には関係のない話だ
7~9.妹に手を出されればこうもなろう!
10.*おおっと*←確定


*おおっと*
dice1d10=10 (10)
1~3.妹がよくわからん輩に手籠にされればこうもなろう!
4~6.…とりあえず、なんでこうなっているのか詳しく話聞かせてくれないかな?
7~9.ガスコーニュが追いついてきた?
10.*おおっと*←確定

 次に二回連続ファンブルで100分の1の可能性を踏み越えた上で


dice1d10=9 (9)
1~3.…一体なんの騒ぎなんだ、これは?
4~6.シュペーが足止めしている内に人が集まってきた…
7~9.(アン)らきすけ←確定
10.*おおっと*

 最終的にシュペーは指揮官に胸を揉まれてしまい、ジャン・バールは正気に戻り一旦1スレ終了。その後の冒頭にてまたファンブルがいきなり発生し。


dice1d10=10 (10)
1~3.とはいえまだ流石に主認定は認められないようだ
4~6.…とりあえず、何があったのか教えてくれない?とシュペーが
7~9.と、とりあえず状況の整理をしよう…!
10.*おおっと*←確定


*おおっと*
dice1d10=5 (5)
1~3.ガスコーニュも追いついてきちゃった
4~6.騒ぎに気づいた鉄血とヴィシアの他のメンバーも集まってきた…←確定
7~9.…なんの騒ぎだ?これは
10.*おおっと*


 なので1スレに六回ファンブルが出た上にその次のスレ冒頭でラストに騒ぎに気がついたグラーフが10で現れ、最終的に会議する流れになりましたので七回選択肢10が出る事に。結果として『鉄血の旗の元に』最大のファンブル事件として名を残し、ヴィシア編=ラブコメ編として名を残す事になるのでした。

第五十七話にて
『ヴィシア編はダイスの暴走状態の結果、今までとは少し違うノリの物語になるのですが』

 という答え合わせはこれであり、結果として本気で指揮官にヴィシアの最高戦力であり陣営代表の妹であるガスコーニュが鉄血の指揮官に本気で惚れてしまった結果、このヴィシア編はややラブコメ描写が多めの緩い空気が漂うものに。水面化ではヤルタ会議やオブザーバー派遣について外交的な協議が進む中、ジャン・バールの決断と指揮官の運命は……次回はそんなヴィシア+鉄血の会議から始まります。


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指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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