鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第五十六話 ヴィシアの恋。サディアの恋。鉄血の恋。

 ヴィシア側が用意してくれた会議室にて、俺達は向かい合う様に席に着く。普段から掃除を欠かせない為か埃ひとつない会議室はシンプルな装飾と最低限の備品のみが置かれており、質素な部屋だ。実戦的な戦闘集団であるヴィシアらしいと感心しながら当たりを見回すと会議に参加する皆の表情は千差万別である事に気がついた。

 

 鉄血側のグラーフとヒッパーはまたコイツなにかやらかしたのか?と言わんばかりにジト名で俺を見つめており、緊急事態とはいえジャン・バールさんの腹部にキツイ一撃をお見舞いしたシュペーは気まずそうに俺の席の隣で俯いている。

 

 一方ヴィシア側の先に座っている面々はガリソニエールさんは楽しそうに俺を見つめており、ダンケルクさんはどこか値踏みする様な目ながらも友好的な視線を向け、ジャン・バールさんは苦虫を10個は同時に噛み締めた様な目で正面のガスコーニュを見つめている。

 

 そう、正面のガスコーニュにだ。彼女はヴィシア側の席に座らず少し怯えた様子で俺の後ろに隠れて陣取っており、まるで叱られた子供の様に縮こまっている。そんな彼女に「大丈夫だよ」と問いかけながら頭を撫でてあげるとジャン・バールさんは一瞬殺意の篭った視線を向け、鉄血の皆はなんで……?と困惑する様子を見せ、ガスコーニュ当人はと言えば安心しきった表情で頬を緩ませていた。

 

 

「さて、それでは聞かせてもらおうか?何故我らの指揮官がガスコーニュと呼ばれる少女を手篭めにしたと勘違いされたのか?何故ジャン・バールは我を忘れて激怒したのか?そもそもガスコーニュとは何者なのか……説明してもらうぞジャン・バール。我らの納得するだけのな」

 

 

 

 まず口を開いたのはグラーフだ。彼女はじっとガスコーニュを不審者を見る様な目で見つめ、その瞬間ガスコーニュは怯えた表情でこちらの背後に隠れる。やはり、この子は見た目の割に幼い所があるのでは?と再び彼女の頭を撫でているとジャン・バールさんは妹に一瞬目をやると静かに口を開いた。

 

 

「アイツの名前はガスコーニュ……リシュリュー級戦艦四番艦。つまりオレとリシュリューの……ヴィシアと自由アイリス双方の陣営代表の妹である特別計画艦だ。三番艦のクレマンソーは建造中止となった事も含めこの世で唯一の、な」

 

「ほう……」

 

 

 グラーフは納得したと言わんばかりに頷く。シュペーとヒッパーも俺とガスコーニュの双方に目をやり、どうやら理解してくれたようだ。しかし、これはあくまで既に俺にも伝わっており、最終的には皆に伝わる情報だから話したと言わんばかりにジャン・バールさんは話を切り上げる。

 

「……悪いがそれ以上。ガスコーニュについては今のお前に教えられる事は殆ど無い。血筋と特別計画艦である事。それだけで、どれだけヴィシアにとってガスコーニュの存在が重要かどうかは理解したはずだ。ただまあ……どうやらお前がやらかしてくれた、と言うのは確定したがな」

 

 

 ジャン・バールさんは俺を忌々しげに見つめるが、俺としては何をやらかしたのか。そして何故この子が……ガスコーニュが俺の勘違いでなければ、俺に……恋をしているのかという説明は一切口にしない。

 

 ビスマルクさんすいません……無茶をもうするなと言われましたが、今回は情報の為に少し無理をしなくてはなりません。そう思いながら俺はヴィシアの面々と向き合うのであった。

 

 

「ひとつだけ、言っておきます。そうやって黙秘してもこちらの印象が悪くなるだけですよ」

 

「……何が言いたい?」

 

 

 じっと、威圧する様にジャン・バールさんは俺を睨みつけるがここで怯んでしまえば後悔するだけだ。ぎゅっと拳を握りしめ、交渉を有利に進める為に言葉を紡ぐ。

 

 

「俺達は貴方達ヴィシア海軍の救援要請を受諾してやってきた部隊であり、先日の数回の戦闘も含めてこれからも貴方達と共にセイレーンと戦う事になるでしょう。その為の覚悟は決めていますし、貴方達の助けになりたいと本心から思っていますが……少なくとも、貴方が俺とシュペーに手を上げた事でグラーフとヒッパーは貴方達ヴィシア海軍に疑念を持つ事になるでしょう。そう、機密に触れた俺たち鉄血艦隊が貴方達に後ろから撃たれないか?と」

 

「んー?つまりあたし達に背中を任せられない、って事かな?」

 

 

 その言葉で明らかにヴィシア側の空気も変わる。ニヤリと笑みを浮かべるガリソニエールさんはセイレーンを前にした様な凄惨な笑みを浮かべる。わざとなのか、それとも本心から俺の発言にイラっとしたのかは分からないが、俺はそうだと呟きつつ頷いた。

 

 

「現状は、ですね。指揮官として必要な情報の開示もないまま仲間達をこれ以上海戦に参加させる訳には行きません。帰れと言われれば荷物をまとめて帰りますし、このまま拘束するのなら抵抗はしませんよ。最も、ヴィシアもロイヤル程ではないですが余裕はないとこの数日ではっきりとわかりましたがね」

 

 

 あえて挑発するようにヴィシアの面々を見つめると、隣に座るヒッパーは「あんた友好国の奴等に挑発するとか頭おかしいんじゃないの!?」と信じられないものを見る目でこちらを見つめる。

 

 

 

「度重なるセイレーンからの強襲に、修復されつつあれど、艦隊派遣をおいそれ頼めないサディア帝国との埋まらない溝。そんな中、俺達鉄血との関係まで悪化すれば……どうなるかは想像がつくでしょう?」

 

「オレ達を脅すのか?」

 

 

 

 ジャン・バールさんは今にも掴みかからんと言わんばかりの目で俺を睨みつける。とはいえ否定しない以上何故猫の手も借りたい状況でサディアではなく鉄血に声をかけたのか?という一つの疑問はこれで解けた。

 

 

 例え捕虜を使った謀略などを共同で行う事となっても未だにヴィシアとサディアには少なからず確執があるのだと。そんな、一色触発の空気の中にっこりと俺は微笑む。

 

 

「まさか。これは提案です、もしも貴方達がガスコーニュについての必要な情報を開示してくれれば、俺達はビスマルクさんに今回の不幸な諍いに関しては報告せず、サディア帝国とヴィシア聖座の仲介を鉄血が行うと約束しましょう。セイレーン技術の更なる提供に、鉄血と取引をしている明石の商船団との仲介もね」

 

 

 セールスマンの様に俺は両手を広げて告げて見せる。俺の独断とはいえ仲介はビスマルクさんは今後のレッドアクシズ同士の関係改善は必須だと考えているはずであり、セイレーン技術の更なる投与も、いずれは鉄血側からアプローチがあったはず。明石の商船団に関しては先方が望んでいると明石に伝えるだけで喜んで船団をあの猫はヴィシアに向かわせるはずだ。

 

 そう、俺は複数の見返りをヴィシアに示したがそれらは全て俺が何も言わなくとも、鉄血本国や明石がヴィシアに示した事であり、失うものは何もない。それでガスコーニュのヴィシアが秘匿している情報が手に入り、お互いの猜疑心が無くなるのであれば安い物だ。

 

 ヴィシアはジャン・バールさんがこちらを攻撃したという醜態を隠し、サディアは労せずヴィシアとの関係改善を行い、鉄血はセイレーン技術によってヴィシアが強化される事が国防に繋がると同時に明石の商船団にヴィシアとのルート構築に協力したという借りが産まれる。

 

 最大限の利益の為に全員が笑顔になれる関係を作ろうと口にした明石の言葉を思い出す。ロイヤルとの和平交渉が進む中、陣営代表が鉄血の使者を外に連れだして暴行しようとした。若しくは鉄血の『英雄』がヴィシアの陣営代表の妹を手篭めにしようとしたという誤解で生まれる不和は一刻も早く何とかしなければいけない。

 

 正直ガスコーニュの情報はそれ程重要ではないかもしれないが、今後俺達が疑心暗鬼に陥らずに本当の意味で背中を合わせて戦う為にはここで腹を割って話す必要があるのだから。

 

 

「このまま疑心暗鬼の種を蒔いたまま出撃を拒否する俺達鉄血艦隊を対処するか?それとも全てを水に流しヴィシアの陣営代表としての利益を得るためにガスコーニュの情報開示を行うか……情報開示が不可能なら俺達が納得するだけの理由を言ってくだされば引き下がりましょう。さぁ、どうします?護教騎士ジャン・バール」

 

 

 

 俺の言葉にジャン・バールさんは睨みつつヴィシアの陣営代表としての利益と情報開示のリスクについて天秤にかける。その沈黙は時間にして数分であったが俺にはそれが数時間にも感じられた。

 

 

「……分かった。確かにお前達の言う通りだ。ガスコーニュについては話せる限りの事を話そう。だが……」

 

「先程の争いは全て『何も無かった』。そしてヴィシアとサディアや重桜の商船団への仲介などは決して借りではなく、我々が自発的に行った事。ガスコーニュの情報がもしビスマルクさんの耳に入るべきではない情報ならば墓の中にまで持っていきましょう。何なら誓約書も……」

 

「いらん。ちっ、ビスマルクめ……とんだ腹黒の蛇野郎を寄越してきやがって……!」

 

 

 舌打ちをするジャン・バールさんだが、俺の発言の意図を読んだのかそれ以上の言葉はなかった。ガリソニエールさんやダンケルクさんもどうにか交渉の山場は迎えたと判断したのか空気が弛緩する。まぁヒッパーは小さな声で(アンタ本当……!本当にアンタは……!)と何か言いたげな様子だったが。

 

 

 

「……チッ、ここから先は他言無用だ、いいな?」

 

 

「いいの?ジャン・バール?」

 

 

「いいも悪いも無い……これ以上鉄血から関係の悪化は、避けなくちゃならん。それに……こいつは抜け目ない蛇みたいな男だ。オレ達が黙っていてもガスコーニュ本人からいつか聞き出すだろうからな」

 

 

 実際ジャン・バールさんの言う通り最悪ガスコーニュ本人から聞き出そうとしていたのは事実だが、流石に大人しい子供の様に見えるガスコーニュを騙くらかすのは罪悪感で俺の胃が耐えきれなくなるのであくまで最終手段だ。

 

 

 チッと舌打ちを最後に見せ、不機嫌な表情を浮かべつつもジャン・バールさんは全ての情報を開示してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間は100%以上の力を出す事が出来る。それは誰かを守りたいだとか、テンションが上がっただとか、火事場の馬鹿力とか様々な言葉で表現される現象ではあるが時として人は予想以上の力を発揮することは科学的にも証明されており、艤装を装備したkansenも同じであり、感情の昂りや、精神の高揚は時に多大なる戦果を上げる事が可能となる。

 

 一方でそのまた逆も然りであり、仲間の戦線離脱や日常生活ストレスによってkansenも本来出せるはずのポテンシャル以下の実力しか発揮できない事もあるのだ。例えば目の前にいる敵が強大であればあるほど恐怖や絶望によって冷静さを欠いてしまったり、怒りに我を忘れる事で本来の実力を発揮できなくなる。

 

 

 時に150%の力を発揮し、時に50%の力も出せなくなる。それが感情や自我を人と同じ様に持つkansenなのだ。

 

 

 ではそんな彼女達にどうすれば真の意味でkansenとしての力を最大限発揮できるのか。相手を恐れず、恐怖せず、動揺せず、常に平常心を保ち100%の力を安定して引き出せてこそ、彼女達の真の実力を引き出す事になる。そう考えたヴィシア聖座の化学部門は建造中の特別計画艦にあるアプローチを行ったのだ。

 

 

 

 感情抑制モジュール。

 

 

 

 喜怒哀楽の感情を抑制し、どこまでも冷徹で機械的に物事を処理し常に100%の力を発揮させる為の一種のリミッターがガスコーニュには装備される事となったのだ。

 

「お前達はオレ達を非人道的だと思っているだろう……安心しろ。感情抑制モジュールはいつかは壊れるものだ、感情を完全にコントロールする為に学び、情緒を常に安定させ100%の力を発揮しつつ、時として感情の昂りによって150%の力を発揮し、状況に応じて最適な判断を下せるkansenを作り出す……それがヴィシア内部で行われていた研究であり、本来はガスコーニュも多くの戦場や護教騎士とのやり取りを得て、完璧な情緒を獲得した護教騎士となるはずだった……そう、お前が邪魔をするまではな」

 

 

 ジャン・バールさんはガスコーニュと俺を見比べて探索しながら続きを口にする。

 

 しかし、そんな感情抑制モジュールも完璧なものではなく理論上ではガスコーニュが情緒を獲得するまでに壊れる事がある。それは異常なまでの感情の発露がトリガーとなっているらしく、例えば親しい友人の死に対する悲しみや、自分の存在意義を失った事による混乱、仲間や祖国が敵に回ったことによる絶望など要因や想定されるケースは様々である。

 

 

「そう、例えば……生まれて初めての恋によってあの人の事が好き。相手はなんて思っているんだろう?私はあの人の側にいたい。キスをしたい、それ以上のことをしてみたい……とかね?」

 

 

 ダンケルクさんがにっこりとガスコーニュに目を向けると、ガスコーニュは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯く。えっと……それって……つまり……主(メートル)扱いってまさか……!

 

 

 

「……認めたくないが……非常に業腹だがな…ガスコーニュの心が感情を獲得する程高まる理由は……つまり、オレの妹はヴァイスクレー・ヘルブスト……お前に、『異性』として恋をしてい……くっ…!」

 

 

 

 ジャン・バールさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら言葉を絞り出す。あぁ、なるほど……確かに……それは……うん……。

 

 

「一目惚れ、と言うことでしょうか?」

 

「そうかしら?ガスコーニュはね。産まれたからずっと指揮官って存在に興味を持っていたのよ。でもヴィシアには……殆どの指揮官がリシュリュー枢機卿について行き、ガスコーニュを生み出す為のデータを収集した唯一残留した指揮官もずっとアルジェリア方面で勤務でね。彼女は貴方に会うまで一度も指揮官に出会った事が無かったのよ」

 

 

 何気にヴィシアの内情を頭の中に放り込むが、顔を赤くしながらそっぽを向くガスコーニュを母親の様な目で見つめつつダンケルクさんは再び問いかける。

 

「そんな産まれて初めて出会った指揮官である貴方は尾行していた事を非難もせず、彼女にジェラートを奢ってあげた。ガスコーニュの質問も全て真摯に受け答えしてくれて、また会おうと約束だってしてくれた。貴方にとってはほんの些細な出来事なのかも知れないけどガスコーニュにとっては……どれだけ貴方と出会った事が嬉しかったのかしら?それは一夜にして恋だと自覚してしまい感情抑制モジュールは壊れてしまう程に……これが全ての真相かしら?どう?ガスコーニュ?」

 

「……厳重な抗議の必要ありと判断。あ、あの……ダンケルク……恥ずかしいから主(メートル)の前でそんなに……あぅ…!」

 

 

 ガスコーニュは俺の後ろで赤面のあまり倒れそうになりながらも俺の肩に手をやり、身体を支えてくれる。そんなガスコーニュを見てダンケルクさんはくすくす笑い、俺はなんとも言えない気分になる。

 

 痛い。鉄血の皆からの視線が痛い。シュペーですらまた面倒なトラブルを生みやがってと可哀想なものを見る目を向けてくる。

 

 まぁ、ガスコーニュが俺に対して好意を抱いてくれた事は素直に嬉しいし、あんなに可愛い女の子に好かれるなんて男冥利に尽きるとも思う。ただ、問題は……

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、ちょっとだけすいません!!ごめん鉄血の皆とガスコーニュ!それとガリソニエールさんは少しだけ部屋から出て行って!!ちょっとダンケルクさんとジャン・バールさんと話さないと駄目だから!!」 

 

 

 

 

 

「どうした卿?そんなに冷や汗をかいて……?」

 

 

 

 

 グラーフは不思議そうな顔で首を傾げるが、今は説明している時間はない。取り敢えず、この場を一旦離れて貰う為に俺は大声で叫び、不思議そうな表情を浮かべながら彼女達は出ていく。

 

 

 シュペーは特に心配した様子で俺を見つめてくれたがそれでも俺を信じて部屋の外に出ていってくれた。最後にガスコーニュが俺たちに視線を移しつつ扉を閉めると、部屋に残されたのはあらあらと笑みを浮かべるダンケルクさんと怪訝な表情を浮かべるジャン・バールさん。そして、俺の三人となる。

 

 

 

 

「ふふ……これは面白い展開になったわね……」

 

「おい、お前いきなりどうし……」

 

「その、ですね!今からいう事は他言無用でお願いします。もし貴方達のどちらかが誰かに話せばビスマルクさんが最悪動きかねない機密情報を漏らす事になります。それでいいですか?」

 

「……話せ」

 

 

 短くジャン・バールさんが呟くように言うと、ダンケルクさんも小さく首肯する。俺は大きく深呼吸すると、意を決して二人を見据える。

 

 

「実は……俺は……」

 

「貴方、好きな人がいるの?」

 

 

 ダンケルクさんが冗談っぽく呟くと、次の瞬間ジャン・バールさんの殺気が凄まじいものとなった。

 

 

 

「お前……人の妹の心を奪っておいて……!余程死にたいらしいなぁ…!?」

 

「違います!逆です!告白されてるんですよ俺!」

 

 

 

 このままじゃ今度こそ殺される。そう思いながら必死で叫ぶと、ジャン・バールは驚いた表情を浮かべ、ダンケルクさんは笑顔でこちらを見つめる。

 

 

 

「あらあら貴方って本当にモテてるようね?でも機密情報って事は相手が余程の人物……なのかしら?それって」

 

「ヴェネトさんです」

 

「…………………えっ?」

 

「ですから、ヴェネトさん。サディア海軍の陣営代表である総旗艦、ヴィットリオ・ヴェネトさんに愛しているとラブレターを貰ったんです」

 

 

 

 彼女からの手紙を思い出して思わずガスコーニュの様に顔が赤くなる同時に空気が一瞬で凍りつく。だが次の瞬間ダンケルクさんとジャン・バールさんは……もう20歳は老けたような疲れ切った表情で大きくため息をつく。

 

 

「はぁ……成る程ね……レッドアクシズの英雄サンはヴィシアの陣営代表の妹だけではなく、サディア帝国の総旗艦にも愛していると伝えられていて……いわば三角関係って所かしら?」

 

 

 ヴェネトさんにはペンフレンドからお互いの事を知ろうとやり取りをしており、告白に答えた訳じゃない。それでも彼女が俺の事を本気で想ってくれているのは分かる。

 

 だからこそ俺は更に彼女とじっくりと手紙のやり取りを行い、お互いの事を知った上でちゃんとした答えを出そうと胸に秘めていた。

 

 だが、ジャン・バールさんの妹であるガスコーニュにも同じ様に好意を抱かれた事で事態は変わる。ガスコーニュは鈍感な俺にもわかる程に俺を慕ってくれ、彼女の好意は……産まれて初めての純粋で真っ直ぐな好きと言う感情に溢れていた。

 

 

「ガスコーニュを選んでも、ヴェネトを選んでも、どちらを選ばなくても下手をすれば国際問題となる。2人同時に選ぶなんて事は当人達に気持ち次第とはいえ話し合う機会も無ければ難しく、レッドアクシズの関係に亀裂が入りかねない……ビスマルクは大変ね。こんなに面倒な事態になるなんて……」

 

「なら簡単だ。お前がガスコーニュの前から──」

 

「ジ ャ ン ・ バ ー ル ?」

 

「……何でもない」

 

 

 

 

 ダンケルクさんは笑顔で口を挟んできたジャン・バールさんを威圧しつつ黙らせると、改めて俺の方へ向き直る。

 

 

「それで……どうするの?ガスコーニュかヴェネトのどちらかを選ぶのかしら?」

 

「……最低かも、しれませんが……もう少しだけ時間をくれませんか?ガスコーニュとも、ヴェネトさんとも出会ってばかりでお互いの事を深く知り合っていません。だから……」

 

 

 いつかは、決着を付けなければいけないだろう。俺を好きだと言ってくれたヴェネトさんと純粋な好意を向けてくれるガスコーニュ。どちらも俺には勿体ない程の女性であり、これは結論の先延ばしだと理解している。

 

 

 それでも、だからこそ俺は二人の事を知ってからきちんとした返事をしたい。それが今の俺の考えだった。 

 

 

 

 

「……つまりはお前は妹とヴェネトを天秤にかけ、比べてどちらかを捨てようとしているんだな?」

 

「ジャン・バール!」

 

「いいや、言わせてもらう。ヴァイスクレー・ヘルブスト。お前は今ガスコーニュの姉であるオレに向かって二股発言を口にしたんだ。お前はその覚悟があるのか?最終的にどちらを捨て、どちらかを愛する覚悟が。もしくは三人で話し合い、納得した上で両方を平等に愛する覚悟があるのか?」

 

 

 

 ジャン・バールさんはホルスターから拳銃を抜くと、俺の額に銃口を向ける。その目は愛する妹を裏切るような真似をする男ならば容赦しないと、生半可な覚悟で選び、手を出すつもりなら殺すと言っているようであった。

 

 

 その目は同じく妹を持つ身として、俺に対する怒りと共に深いガスコーニュへの愛情が感じられる。

 

 あの子は、本当に愛されている。ジャン・バールさんは本気だ。俺がふざけた事を言えば間違いなく俺の額に穴が一つ増える事になるだろう。

 

 

 ダンケルクさんすら動けなくなる殺気と威圧感で俺の心臓は握りつぶされそうになる。立っているのがやっとであり、なけなしの勇気も消え失せそうになる。

 

 

 

 

 でも、俺は。

 

 

 

「覚悟はあります。ガスコーニュとヴェネトさんは俺を好きだと思ってくれました。だからこそ生半可な気持ちで応じる気はありません。もっとお互いの事を知り、全てをガスコーニュとヴェネトさんに話した上で選択します。俺の想いを。俺の答えを見つけ出し、2人に話します」

 

 

 銃口を突きつけられながらも、俺は真っ直ぐにジャン・バールさんを見据える。きっとリットリオもジャン・バールさんと同じ事をしただろうと予想しながらも、彼女の視線を受け止める。

 

 暫くするとジャン・バールさんは小さくため息をつくと、拳銃をホルスターに収める。

 

 

「……ちっ……その言葉、忘れるなよ。下手な選択でガスコーニュを泣かせたり、先延ばしにするだけなら俺がお前を地の果てまでも追いかけて八つ裂きにしてやる。当人達で話し合い、悔いのない選択を求めろ。お前が中途半端に答えを出したら絶対に許さないからな」

 

「はい、分かっています」

 

「それと、さっきの事は謝っておく。お前を殴ろうとして。そして銃口を向けて試す様な事を言って悪かった」

 

 

 ジャン・バールさんはそう言うと頭を下げ、俺も非礼を詫びるとダンケルクさんは全く……と呆れる様な表情でドア外で待っている皆を迎えにいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は鉄血、ガスコーニュはウチのだ……幾ら支援の礼があるとはいえ、そうそう預けられるようなモノじゃない。ガスコーニュがお前に恋をしたからといってもアイツを鉄血にそのまま移籍や派遣させる訳にはいかん」

 

 皆の前でジャン・バールさんはそう話すと、シュンとガスコーニュは悲しそうな表情を浮かべる。思わず罪悪感で胸が張り裂けそうになる中、ジャン・バールさんはそれでもと前置きをした上でこう言い放った。

 

 

「……だが、まあお前達がここにいる間くらいは部隊に組み込んで貰っても、一緒の宿舎で寝泊まりする事くらいは構わん……流石にこれ以上は譲れんがな」

 

 

 そう言うとガスコーニュは少しだけ驚いたような顔を浮かべつつ、次の瞬間満面の笑みで俺の手を取る。うわ、めっちゃ柔らかい。女の子特有の柔らかさにドギマギしていると、ガスコーニュは俺の腕に抱き着いて来る。ふわりとした優しい胸の感触と女の子の匂いで俺の顔は一気に熱くなる。

 

 

 

 

 

「……ありがとう、ジャンお姉ちゃん!」

 

 

「………ぐえっ……」

 

 

 ……あ、ジャン・バールさんが机の突っ伏す音が聞こえる。そんな俺達を見てダンケルクさんとガリソニエールさんはニヤニヤと笑い、グラーフもくくっと笑い声を出す。ヒッパーはもうどうにでもなーれ!と同じくジャン・バールさんと同じく机に突っ伏すがシュペーはと言えば。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ねぇ指揮官)

 

(んっ?)

 

(私も、指揮官の事が好きだからね?)

 

(あぁ……っ……!?!?!?)

 

 

 会議がひと段落着いた頃、小声で皆に聞こえない様にシュペーは俺の耳元で囁いた後、彼女は本気だよ?と笑みを浮かべ更に囁く。

 

 

(ガスコーニュちゃんに先を越されちゃったけどね、このままじゃ負けられないよ。私も本気でヴァイスを愛している。今は答えなくてもいいよ。でも頭の片隅に入れておいて欲しいな)

 

(シュペー……)

 

(ずっと前から……サディアで貴方を膝枕した時から好きでした。だからねヴァイス。これからは女の子として私を見て欲しいな。貴方がどんな選択をしても私は後悔しない。今は貴方の側で戦えるだけで幸せだから……でも、いつか答えて欲しい。それが私の本心)

 

 

 

 突然のシュペーの告白に心臓が跳ね上がる。あのシュペーが、俺を……?と目を見るが彼女の青い瞳は青空の様にどこまでも真っ直ぐで曇りなく、俺を見つめていた。

 

 

「……っ……」

 

 

 俺は思わず顔を逸らすと、シュペーはクスッと笑う。そしてゆっくりと立ち上がって俺から離れていき、その頬はマフラーで隠れているが、その下は真っ赤になっている様に思えてしまい、会議の疲れと脳のキャパシティをオーバーしてしまった俺はその夜、ベッドの中で悶々とした夜を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、本当に良かったの?ジャン・バール」

 

 

「…あいつの悲しそうな顔をずっと見ているのが嫌だっただけだ、それ以外は何もない」

 

  

 会議を終えた帰り道。ダンケルクは心配そうにジャン・バールに声をかけるが、当の本人は何でもないと答える。しかしその表情は何処か寂しげで儚かった。

 

 

「あら、ならそうしておくわね……でも、彼に預けるのはいいけれど……もし上層部がそのままあの子を貸し出しを許可なんて出したらどうするつもりかしら?」

 

「ふん……幾ら耄碌してるようなやつらとはいえ、そこまで愚かな選択はしないだろう」

 

 

 だが、ジャン・バールは知らなかった。数日後、親鉄血の上層部は喜び勇んでガスコーニュの恋を祝いつつとある提案をジャン・バールに行う事を。

 

 

 如何に権力を集中し、その気になれば強権を振るえるはずのジャン・バールも何も言えなくなる提案を結果的に彼女は受諾して、嫌々ながらも鉄血の指揮官に直接通達する事になる未来をこの時は何も知らないまま、アルジェリア方面を防衛している『相棒』に愚痴と報告を行う為に静かに司令室に足を進めるのであった。

 

 

 




 指揮官がガスコーニュだけではなくシュペーの恋心も自覚する事に。指揮官の謹慎期間中に手紙で支えてくれたヴェネト。ずっと着任してから一緒に戦ってきたシュペー。そして一目惚れしつつも真っ直ぐで純粋な好意を向けてからガスコーニュ。指揮官の選択の時は近いでしょう、もはやレッドアクシズをも巻き込むことになった大恋愛の行き先は?

 次回はそんなジャン・バールと指揮官の会話から。いよいよヴィシアのセイレーン大量発生の原因が判明し、鉄血とヴィシアの総力を上げた戦いの日も近くなりますが果たしてどうなるやら。


 コメント、感想、評価をお待ちしております。





 また、余談ですがつい最近ハリーポッターの寮テストというものを公式、非公式問わずに試しにヘルブスト指揮官ならどの方な選択をするのだろうか?と予測した上で行った所……なんと全ての心理テストで彼の適正はスリザリンとなる事に。

 狡猾な交渉能力と情報収集能力に臆病な性格。そして深い同胞愛は正にスリザリンの適正にピッタリなのかもしれません。ちなみに陣営代表で試した所。

陛下はジャン・バールはグリフィンドール
ソユーズはレイブンクロー
ヴェネトと長門はハッフルパフ
ビスマルク、リシュリューはスリザリン

 どちらかと言えば鉄血出身のkansen達はスリザリン適正の高い子達が多いのかもしれません。


指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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