鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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第六話 悪運90な着任日

 セイレーン、ロイヤル、そして鉄血という歴史上初と言える三つ巴の海戦。

 

 後に『バルト海海戦』と呼ばれる事になるこの戦いは、全ての勢力が入り混じった乱戦状態ではなく、図らずも鉄血がイニシアチブを握る二つの戦場が自然と形成されていた。

 

 一つ目の戦場はロイヤルに押しつけられる事となったセイレーン残存艦隊をヒッパーとシュペーの鉄血重巡コンビが迎撃しているセイレーン戦線。

 

「シュペー!魚雷貸してくれない?もう切れかけてるのよこっちは!」

 

「ごめん、貸してあげたいけどこっちも忙しくて……ねっ!」

 

 謝罪と同時に放たれた砲撃で目の前の軽巡ナイト級を撃破したシュペーは次の標的へと目標を定め、ヒッパーはじゃあ仕方ないかとぼやきつつもシールドで敵の攻撃を防ぎつつ至近距離から重巡ビショップ級に砲撃を加え海の藻屑を量産していく。

 

 

 こちらは既にロイヤルネイビーが多くを撃退していたとはいえ、敵セイレーンの数はまだまだその多くが健在。

 

 しかし、歴戦の猛者である二人の活躍とグラーフの放った爆撃機により、集中的に砲火を受けた戦艦ルーク級と空母クイーン級といった大型艦の八割が既に轟沈判定を受けており、残る小型艦を中心とした残存艦も次々とレーダーからその姿が消えていく。

 

 そして、二つ目の戦場は

 

「邪魔ばかりしてぇ……! 」

 

「生憎だが邪魔をするのが我の役目なのでな」

 

  敵のロイヤル空母の呪詛をその身に受けながらも平然と艦載機を使い、冷酷に戦闘機の機銃で逃げようとする相手には威嚇射撃を行い、砲撃を敢行する相手には爆撃を加えて砲撃態勢から回避行動に移行せざる得ない状況に追い込み、制空権だけでなく戦場の全てを支配する鉄血空母グラーフ・ツェッペリン。

 

 敵のkansenが損耗しているとはいえ、たった一隻で五隻のkansenを翻弄し、一つの戦場に閉じ込めておく事が可能なのは間違いなく彼女の技量によるものだ。

 

 本来であればセイレーンへの対処も含めたった一隻の空母が五隻のkansenの動きを止めるという事は例えユニオンが誇る最強の空母と宣伝されたエンタープライズであっても不可能に近いと言えるだろう。

 

 しかしロイヤルネイビーは既に長くセイレーンと戦い続けており弾薬、体力、集中力と様々な面で本調子ではなく、更に現在セイレーン戦線のシュペーとヒッパーは、こちらに向かおうとする敵を優先的に撃破してくれている。

 

 その為、グラーフは時折飛来するクイーン級空母の艦載機への対処を除けば、集中して傷ついたロイヤルの妨害に従事できていた。

 

 シュペー、ヒッパーvs量産型セイレーン

 

 グラーフvsロイヤルネイビー

 

 完全に分断された二つの戦場にて有る時はレーダーで、ある時は目視で、ある時はマンジュウの信号旗を確認しながら三人に情報を伝えて指示を与えつつ、時折ロイヤルの進路の妨害に徹するのが自分の役目。とは言ってもグラーフのお陰でロイヤルは艦載機による攻撃回避に徹する必要があり、進路妨害のための無茶な行動をする必要が無くなったのは幸いだ。

 

 これが自身による完全な指揮では直ぐに戦線が崩壊をしてロイヤルに逃げられるか、泥沼で彼女達の長所を台無しにしていたんだろうなと悲しくなるが、同時に目の前で戦う三人の戦乙女達の姿を見て、初の戦場で優秀な彼女達と共に戦えた事実に安堵を覚えていた。

 

 

「ふぅ……おっ、ありがと」

 

「ピヨッ!」

 

 

 開始からたった数十分に過ぎない戦闘だと言うのにリアルタイムで変化していく戦場にて、緊張と疲労によって脳に疲労が溜まっていく事を自覚しながら、マンジュウから差し出された水を口に含みながら再び戦場を見渡して情報を整理する。

 

 シュペーとヒッパーに関しては二人が脅威となる大型艦の殆どを撃破した事もあり、現状では残る小型艦の敵の魚雷攻撃にさえ気をつければ、もう問題はないだろう。

 

 グラーフの戦線では制空権は完全に掌握、ロイヤル艦隊による対空砲や散発的に発艦する戦闘機によってこちらも無傷ではないが、敵は周辺への警戒も含めて敵は完全に対応できていない。

 

 戦場は今の所問題ない、現状最も懸念なのはロイヤルによる援軍なのだがここは鉄血領海。少なくても中立国の海峡やキール運河を通るのであれば即座に本国からの通信が入るだろうし、近隣に他のロイヤルのkansenがいるのなら彼女達がセイレーンに襲われた時点で援軍になるだろうからそこは問題ないだろう……寧ろ

 

(グラーフ・ツェッペリン……って言ってたよな?相手の空母は)

 

 機密であり、少なくてもビスマルクさんの右腕ではあるものの、現状表舞台に立ってない鉄血の機密とも言える彼女の名前が敵の口から漏れた事だ。

 

(通信が傍受されているにしてもツェッペリンとは俺たちは一言もいってない、だとするとスパイか……?)

 

 出来れば鉄血に内通者がいるとは考えたくはないが、アズールレーンとレッドアクシズは戦争中。敵がスパイを送り込む事は充分に考えられ、いくら鉄血が防諜活動に従事をしていても情報が抜き取られていてもおかしくはない。

 

 少なくてもあの敵旗艦らしき空母は機密であるグラーフの本名を知っている辺り何か情報を握っているのだろう。今の戦況はこちらが有利ではあるがいつ何が起きてもおかしくはない。

 

なら……今のうちに。

 

『シュペー、悪いが敵セイレーンを一人で抑え込める自信はあるか?』

 

『うん、ヒッパーちゃんが頑張ってくれたからある程度なら。ここは問題ないよ』

 

 こちらが個別通信を送ると、シュペーは駆逐ポーン級を二隻同時に砲撃で撃破しながら短く返答する。まだまだ敵の数は多いが小型艦ばかりであり、シュペーの腕とグラーフの艦載機による爆撃の援護があれば、仮に残存セイレーンに囲まれても包囲を突破する事は出来るだろう。

 

『なら……ヒッパー、シュペーに残存セイレーンを任せてこっちに来てくれ。一人でもいいから拿捕して情報を引き出したい』

 

 時間を稼ぐ事には成功したがこのままではジリ貧、出来ればセイレーンを撲滅してから二人に援護に来て欲しかったが、シュペーに後は任せてヒッパーには一人でもいいので敵を拿捕する事を狙って貰うしかない。

 

 自分の指揮艦は論外でありグラーフは敵を足止めする事に精一杯、ならヒッパーに任せるしかない。出来れば敵空母であればグラーフについて問い詰められそうだが難しいだろう。

 それでもあの傷ついたロイヤルメイドや、魚雷が切れているらしき赤毛の駆逐艦であれば拿捕する事は不可能ではないはずだ。

 

『はいはい、全く……人使いが荒いわね!シュペー、後は頼んだわよ!任せる! 』

 

『うん、任された』

 

「じゃあ……行くわよ!! 」

 

 個別通信を切り終え全速力でヒッパーはロイヤルネイビーが脱出しようと四苦八苦している新たなる戦場に一直線に進んでいく。

 シュペーを一人にする事に罪悪感を覚えるが、突撃して近距離戦を行うヒッパーよりもシュペーの方が生存性は高くなるはず、今は自分を信じてくれた彼女を信じるしかない。

 

 途中の数隻の小型艦に襲われそうになるも砲撃を全て回避するヒッパー、そして選別とばかりに遠距離からシュペーの砲撃が届きその小型セイレーンは撃破されていく。

 

 

「もしや、卿の狙いは……」

 

「グラーフ!急いで右に避けろ! 」

 

「捉えたぞ! 」

 

「汝、己の滅亡を嘆くが良い! 」

 

 グラーフの呟いた一言は一瞬の隙をついて水平に放たれた敵戦艦の砲撃と少数の雷撃機によってかき消される、彼女は生体艤装の唸り声を響かせながら華麗に回避するがあと一歩遅ければ直撃だったはずだ。

 

「もはや、汝を海に沈めなければ目的は達成不可能。なら汝をメギドの火に包み込み死を与えるのみ! 」

 

「王家の戦士はこの程度では退かん!お前を撃破し、陛下の元に帰還する為に!! 」

 

 

「主砲が一つ潰れても、艦載機の多くを失っても戦意は衰えずか……その執念にだけは敬意を表するよ。貴様らのな」

 

 ロイヤルネイビーは決して諦めてはいない、最早ロイヤルである事を隠さずに、その目には絶望ではなく状況を打破しようとする執念が感じられ、敵空母と戦艦は残った弾薬を全て使い果たす勢いでグラーフに攻撃を加え、彼女はその攻撃を避けつつも五隻の行動を阻害し、それぞれの譲れない信念が硝煙と共に交錯していく。

 

 

「グラーフ、シュペー、ヒッパーあと少しだけ耐えてくれ……あと少しで!」

 

 こうして、三つの勢力が入り混じる戦場はいよいよ佳境を迎えようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう!この!!ちょこまかと逃げるな!」

 

「あたしだって捕まりたくないもん!」

 

 グラーフが敵戦艦と敵空母の猛攻を受ける中、到着したヒッパーは砲撃を加えながら最も近くにいた赤毛の少女を狙おうとするも、必死に相手は回避に徹してひたすら攻撃を避け続けていく。

 

「あの子はやらせません! 」

 

「あんたに構ってる暇はないっての! 」

 

 必死にメガネの重巡とメイドがそれを邪魔しようとするもそれを無視して、ただひたすらヒッパーは赤毛の駆逐艦のみに狙いを定めて後ろから追いかける、まるで戦場に似つかわしくない鬼ごっこのような状況だ。

 

「よく避けるな……簡単に捕まらない、か」

 

 同じ艦種であるメガネの重巡や、傷ついたとはいえ此方に砲撃を何度か加えてきたメイドではなく弾薬がほぼ切れている小さな駆逐艦であれば捕獲しやすいとヒッパーは思ったのだろう。

 

 とは言え向こうも必死なのか何発も砲撃をヒッパーが加え、時折グラーフの艦載機が機銃攻撃を仕掛けるも、その全てを回避する辺り、例え見た目は幼くても鉄血の領海に派遣される程の技量は感じ取れる。

 

 

「私達は本国に帰るんです……妹達も待っている家に!皆で何としても!」

 

 過ぎていく時間。

 

「ふふっ、これが最後の戦いでも本望!せめて汝だけは差し違えても!」

 

 砲撃と爆撃。

 

「女王陛下に栄光あれ!  」

 

「我が同胞のために鉄血の力とならん事を! 」

 

 忠誠や矜持がぶつかり合う混迷の海。 

 

 汗でびっしょりとなった額をマンジュウから差し出されたタオルで乱暴に拭いながら、鉄血とロイヤルの双方のkansenの声が耳を刺激する。

 

 守りたいと願う信念、揺るぎない忠誠、帰りたいと願う望郷、果たそうとする責務。

 殺戮機械である量産型セイレーン戦では味わえない両陣営の必死の声が耳にこびり付き、恐らく自分は一生この海戦を忘れられないだろう。

 

 

 レーダーを見るとセイレーン戦線はシュペーが孤軍奮闘をしており、既に敵主力は全て破壊されていた。

 隊列が乱れた残存セイレーンは散発的な抵抗しか出来ておらず、もう少しでシュペーをこちらに呼び出す事も可能となるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その必要も無くなったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頃合いだ……!シュペーは全速力で右方向に逃げろ!グラーフは艦載機を上空に避難して後方に!ヒッパーは魚雷をぶっ放してから全速力で同じく後方にさがれ!指揮艦も下がるぞ!シールドに注意してな!それと……」

 

 念には念を入れてとある情報を個別通信で全員に送りつつ、先程とは違い最大音量ではないが、マイクを使って皆に最後の指示を行う。今までの命令を全て放棄して、全ての決着をつけるべく、全速力で逃げろと言う矛盾を孕む撤退命令を口にしながらも、俺はこの瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー()()()()()()()()()()()()()()() 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらシュペー、了解」

 

「こちらヒッパー!そう言う事ねっ!了解!」

 

「こちらグラーフ、了解」

 

「「「ピヨッ!」」」

 

 赤毛の駆逐艦を追っていたヒッパーも、敵の猛攻を凌ぎつつ足止めに徹していたグラーフも、一人セイレーンをこちらに向かわせないように戦っていたシュペーも、戦場を駆けずり回っていた指揮艦も全ての鉄血勢力が全力で海域の離脱を敢行する。

 

 恐らくロイヤルのkansenは唖然としているだろう。これが罠なのか?それとも鉄血の上層部からの命令なのか?何れにせよその答えはすぐ知ることになるだろう。

 

 

 

 何故なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――射程範囲に、入ったね……』

 

『アントーン、ブルーノ、ツェーザル……全門、発射用意! 』

 

 

 

 

 

 

 耳をつんざくような轟音と共に、苛烈な砲撃をその身に受ける事になるのだから。

 

 

(貴方達には本隊の支援として、こちらの本隊が準備を整えて出撃するまでの間、時間稼ぎ兼露払いとして時間を稼いでもらうわ。

遅滞戦闘を行いつつ情報を集めて仮に人型のエグゼキューター級やネームドのセイレーンがいるのであれば即座にこっちに送る事。

グラーフ達が居るとはいえ撲滅や敵中枢に突撃なんて考えずに役割を果たしなさい)

 

 

 初出撃となった自分がビスマルクさんより受けた任務は、セイレーンの大規模艦隊を撃破するのではなく、露払いとして遅滞戦闘を行い情報を集める事。

 

 敵を撲滅する役目を担うのは本部直属で編成された艦隊であり、俺とは比べ物にならない程の戦闘経験を積んだ指揮官が指揮する部隊であり、自分の役目は到着するまでの間の時間稼ぎであり、決してロイヤルと交戦をする事でもセイレーンを全滅させる事でもなかった。 

 

 現在ロイヤルと残存セイレーンを砲撃しているのは、駆逐二隻に守られた指揮艦の命の元、二隻の戦艦型kansenを中心に十隻近くの無人量産戦艦。計十二隻の砲撃が遠方より敵全てに降り注いでおり、集音モードは既に切っているが轟音で耳がおかしくなりそうだ。

 

 

『卿は最初から足止めしか考えてなかったのか?』

 

『まぁね、相手が援軍が来るってバレたりしたら、もう何がなんでも一人殿にでもして全力で逃げるだろうし、足止めしつつヒッパーには悪いけど彼女に追いかけっこして貰って、ロイヤルネイビーが逃げ出さない様に誘導したんだ」

 

 砲撃音をバックコーラスにしながらそれぞれ散っていた艦隊の面々はこの指揮艦を中心に集結しつつも、グラーフは面白そうな様子で口を開く。

 

 途中からグラーフは気が付いていたようだが、相手がもしこっちの援軍が到着すると知ればあのピンクの戦艦辺りが殿になって全速力で逃げようとしたはずだ。

 

 だからこそ出来る限りこの指揮艦にヘイトを稼いでもらい時間を稼ぎつつ、グラーフに爆撃で撃破ではなく足止めに徹していたのは、ロイヤルにこの足止めはセイレーン戦を終わらせた後にやってくるシュペーとヒッパー目当てだと思わせる必要があった。

 

 自分の指揮では確実に皆を逃しただろうし、仮にシュペーとヒッパーで最初から交戦していれば一隻は拿捕していても残り数隻は逃していた筈だ。

 

 確実に相手を逃がさない為に、最初から自分の頭には援軍到着のための時間稼ぎの策しか存在しておらず、ロイヤルがこちらに敵をなすり付けようとした時点では通信を傍受している可能性があったので結果的にヒッパー達を騙す事になってしまったのは反省しているが。

 

『アンタ本当に……こっちは必死になってあの赤毛を追いかけながらメイドとメガネに撃たれてたのに本当に……!! 』

 

『いや本当に悪かったね……一応ヒッパーにはシールドがあるし、危ない攻撃は全部指揮艦で受け止めてたからヒッパーを捨て駒とかそう言うつもりは無かったんだ、ヒッパーにしか出来ないって思』

 

『なら!ロイヤルが!通信傍受してないって理解した時点で!個別通信入れなさいよ!このバカドジアホマヌケ!死んじゃえ!キールの海に沈んじゃえ!!』

 

 顔を真っ赤にして怒るヒッパーを見ると罪悪感が湧いてくる、確かに乱戦状態だったとはいえ予め言うチャンスはあったはずだ。

 

 それでも皆に情報を送ったり、ヘイトコントロールのために煽ったり、進路妨害とやる事が多過ぎてそこまで頭が回らなかった……そりゃ自分が何も知らずに囮にされているなと理解したら怒るわ、俺でも。

 

 

『あー……うん、こっちも時間稼ぎに必死でな、そこまで考えつかなくて……いや本当ごめんな?基地に戻ったら土下座でもなんでもするから』

 

『落ち着いてヒッパーちゃん、指揮官も悪気も無かったし結果オーライだよ。ほら深呼吸深呼吸』

 

『シュペーは指揮官に甘過ぎるっての!土下座は良いから!基地に戻ったら覚悟なさい!みっっっっちり指揮官として厳しく鍛えて上げるわ!! 」

 

 結果的に戦闘は勝利に近づいているが、彼女達を騙す事になった事は本気で反省しており、ヒッパーの怒りは甘んじて受けよう。思えば高度な柔軟性といい、囮といい着任早々ヒッパーには特に迷惑ばかりかけているな……今度何かお礼をしなくては。

 

 

『全く、卿も性格が悪いな……勝利の為には味方すら騙そうとする心意気は称賛に値するが』

 

 そんな、ヒッパーをシュペーは宥めつつグラーフは呆れつつと面白そうにこちらを見つめている。騙そうとするつもりは無かったんだけどなぁ…

 

 色々と複雑な感情で心を乱しながら感謝の感謝の電報を送ってくれとマンジュウに声をかける、後で援軍に来てくれた指揮官に酒でも送るかと思っていると、一度に装填していた砲弾を全て出し切ったのか轟音が収まる。

 

 

 恐らく援軍はロイヤルよりもセイレーンを優先したのだろう、レーダーの上では既にセイレーンは全て撃破されているがロイヤルは全艦健在となっていた。

 

「くっ……!これ以上は流石に無理だな……戦ってきたツケもある、か」

 

 遠目から見ると大破こそしてないが、全員最早戦闘継続不能、後は再度攻撃を仕掛ければこの戦闘は終了だろう。流石にこれ以上の戦闘は向こうが沈む可能性もあるが……

 

 鉄血とロイヤルは戦争中、レッドアクシズとアズールレーンは戦争中、更に相手は恐らく非合法な手段でこちらの領海にやってきて、わざと音量を最大にして嫌がらせ要素も混みとはいえ停船勧告を無視して砲撃をして……一歩間違えば自分を着任当日に殺していたかも知れない存在。

 

 グラーフ・ツェッペリンの名前を知る彼女たちから情報を引き出したいが、仮に捕虜にしてもロイヤルのkansenは女王と国家に絶対的な忠誠を誓っている者ばかりであり、恐らく情報を引き出すことも難しいだろう。

 

 ヒッパーが捕虜にしようとしたのも一度気絶なり行動不能にする必要があったからこそ比較的艤装の耐久力が低い駆逐艦を狙ったのだろうが、それも失敗してしまった

 

 かと言ってロイヤルが見捨てる可能性がある以上彼女たちはロイヤルへの交渉カードになるかどうか……それなら領海侵犯の見せしめにして彼らに任せてロイヤルに鉄血は本気だと伝える事が正しいのかも知れないが。

 

 

 

 

 

(私達は本国に帰るんです……妹達も待っている家に!皆で何としても!)

 

 

 

 

 

……あー、クソ!もうヤケだ!

 

 

「あー、こちら鉄血の……君たちの戦闘した指揮官だ……これ以上続けるなら、沈めるしかないが……君達は、どうする?」

 

 

 

気がつけば、俺はマイクを手に取り。

 

 

戦場に響き渡る様に音量を上げ。

 

 

前方のロイヤルネイビーに話しかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞こえましたか指揮官、こちらの作戦行動を勝手に邪魔されましたがどうします?」

 

 

 突然戦場に響き渡る友軍の声に砲撃態勢を解きながら困惑する旗艦である巡洋戦艦グナイゼナウ。彼らの任務は大規模セイレーン部隊の排除であったが、状況が二転三転と変化していき最終的にはロイヤルネイビーと残存セイレーン艦隊を撃破せよと命令を受けていた。

 

 捕虜にするのも難しく、鉄血の上層部は見せしめとしてロイヤルネイビーの撃破を願っている。その事に何も感じない訳ではないが、土足で領海侵犯をした上友軍に被害を与えたのだ。

 最早相手からの白旗が出ない以上、始末する他ないと覚悟を決めて再び砲撃態勢となった所で事前通告も無しの突然戦場に響き渡る若い男の声に全員戸惑いを隠せないでいた。

 

 降伏勧告をするのは良い、しかし通告も無しに彼らは何をやっているのだろうか?しかもよく見ると前方の指揮艦は徐々にロイヤルネイビーに前進しており、このまま砲撃すれば皆を巻き込んでしまうだろう、取り敢えず鉄血回線を開いて通信を傍受すると。

 

『アンタ本当に何やってんの!?シールドの耐久もないでしょ!?』

 

『相手の情報を引き出す必要がある、それに相手はボロボロなんだ。戦闘不能であるなら試す価値はきっとあるよ』

 

『卿……なら援軍に一言声をかけろ、明らかに困惑しているぞ彼方は』

 

『……やっべ忘れてた!?マンジュウ急いで伝聞を!待ってくれ!ちょっとだけ待ってくれって!』

 

『いや指揮官この通信も多分聞かれているから……』

 

『あー……あーーー!!』

 

「「「「………」」」」

 

 先程まで戦闘だったというのに何とも言えない脱力感が辺り充満する。

 

 

 グナイゼナウ達はキューブ適正があるからと十歳で指揮官が着任してからと言うものの、四年間ただひたすらセイレーンを相手に戦い続け、時に苦い敗北を味わい、時に勝利の美酒を飲み、何度も死にかけて遂には指揮官の片目を失いながらも、ただひたすら鉄血と家族同然の繋がりとなった戦友の為に戦い続けた歴戦の猛者。

 

 だと言うのにこんな事態は誰も経験した事が無かった、そもそもkansenと交戦するのがこれが初とは言えまさかこんな虚無感に襲われる事になるとは。

 

「あーー……電文きました、ちょっとだけ降伏勧告するから待って欲しいと、指揮官どうしましょうか?」

 

「っていうかこの空気どうすんだよ……ロイヤルに聞こえてないからまだ良いけどさぁ……」

 

 指揮艦を護衛する駆逐艦Z2ゲオルク・ティーレとZ1レーベレヒト・マースは困惑しており、先程まで勇ましく砲撃をしていた巡洋戦艦シャルンホルストは絶句しながら無言で途方にくれて指揮官を見つめる。

 

「総員待機!グナイとシャルンは砲撃準備だけして待っていてね、レーベとティーレはその後接近して魚雷を撃つ用意を。これで降伏してくれるならこっちも嬉しいけど、返答がダメならすぐにでも打ち込まないと」

 

「「「了解!!」」」

 

「良いのですか?一応抗議の電報でも」

 

「いやいいよ。砲撃中ならともかく砲撃が終わった後だし、向こうも電報をちゃんと送ってるからね」

 

 

 指揮艦内も似た様なもので、クルー達はどうすんだこれと一様に表情を浮かべつつ眼帯をつけた指揮官を見つめると、彼はフリーズから立ち直るとコホンと咳払いをするとまだ幼さも残る声で皆に指示をする。

 

 

「戦力差はあって敵の数も少なく全員満身創痍

……ただロイヤルの忠誠心を考えると難しいか?」

 

 

「そうだねシャルン、でもこれで降伏さえしてくれれば色々な意味でメリットは大きい、今はまだ僕達は見守ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっちまったぁ……勢いでやっちまったぁ……!

 

 衝動的に降伏勧告するにしても友軍に声かけないとダメだろ俺、本当何してんだよ、最悪味方の砲撃で死ぬ所なんだぞ本当にもう……!

 

 もう辞めようこれ以上引きずると精神衛生上悪い、後で友軍には直接謝罪しようと心に決めつつ、気を取り直して前方の傷ついたロイヤルネイビーに近づきながら、指揮艦の中でマイクを口に近づける。

 

「……降伏だと?」

 

 目視できる距離から眺めてみても大破状態のkansenがいないのが奇跡と言える程の惨状だ、ほぼ全員中破状態となっており、それでも全員銃口をこちらに向けながら警戒して返答する。

 

 とは言えこの状態では指揮艦のシールドを破る事は愚か命中させる事も難しいだろう、ヒッパーとシュペーが同じく銃口を向け、グラーフが時折爆撃機スツーカのサイレンを鳴らす中、戦闘を終わらせるための交渉が進んでいく。

 

「こちらには捕虜を丁重に扱う用意はある、捕虜になって王家の栄光を穢すというのなら、今無様に死ねばそれだけ。でも生き残ればまた女王陛下に釈明やその後の人生を王家のために尽くせるぞ」

 

「私達に生き恥を晒せというのか…!?」

 

 

「別に降伏しなくても良いが……仮に君達がここで降伏しなければ、我々は君達を王家に命じられて降伏を禁じられていた、王家は非合法な手段を無理やり強要して鉄血領海に強制的に移動させた上で最初から君達を見捨てていた、なんなら自決用の爆弾まで持たせていた……なんて嘘をつくかもしれないけどな」

 

「貴様……!」

 

「写真も用意していて君たちの遺体だって潜水艦で回収すればいい、目撃者がいない状態なら幾らでも情報は操作できるんだ。仮に君達が全員死ねば英雄にしてやるよ……悲劇のな」

 

「そんな事、ロイヤルの国民が信じるわけないだろう!」

 

「あぁそうだな、でも例えば……こんな情報をリークされた中立国は勿論、重桜やユニオンにサディアの国民はどうかな?大義もなく中立国の領海を非合法な手段で渡って、敵国の領海にやってきた上にたった五隻で無茶な任務を強要されて捨て駒にされたという説明を間に受ける人々は少なくないはずだ」

 

 

 怒気をあらわにしたロイヤルの空母はこちらを睨みつけ、その他のkansenも険悪な表情でこちらの指揮艦を睨みつける。

 

 

 銃口を構えて一触即発の冷たい空気に思わず背筋が寒くなる、やはりロイヤルの女王kansenクイーン・エリザベスは忠誠を尽くすkansen達の生存を何よりも最優先としているのだろう。

 

 ただ降伏しろと言っただけでは恐らく彼女たちは……特に旗艦を命じられている目の前の空母は絶対に降伏はしないはずだ。

 

 だからこそ今死ねば、名誉の戦死ではなく彼女達を非道な女王クイーン・エリザベスによる犠牲者となった悲劇の英雄に祭り上げるぞと脅迫する。無論先日どころか今日指揮官になったばかりの俺にはそんな権限はないのだが。

 

「少なくても君達の女王陛下は死んでこいとは言ってなかったはずだ。それにキミの考えていることも分かる、今誰かが殿となれば一隻はロイヤルにたどり着くかもしれない?でもこの包囲網の追撃戦で本気で一隻でも帰還できると思うか?」

 

「……」

 

 睨みつけながらも何も答えないロイヤル空母、恐らくこの場にいる全員理解しているはずだ。既にロイヤルの逃げ場はなく援軍もやってこないと。

 

 選択肢は最後まで抵抗するか、降伏するか二つに一つ。その決定権は俺ではなく目の前のロイヤル空母が握っている。

 

「降伏を選べば捕虜として丁重な扱いを約束しよう、君達が望むならサインでも録音でも血判でも好きなものを用意する。しかし徹底抗戦を選べば君たちは全員役目を果たせないまま海の藻屑となり、死んだ後に有る事無い事こちらで情報操作するかもしれないぞ?」

 

「……私は……」

 

「選択肢は二つに一つ。全員降伏して捕虜として名誉ある待遇を受け、生きてロイヤルに帰り女王陛下に謝罪したうえで再び女王陛下の元で尽くすのか。それとも、全員目撃者もいない、ロイヤル本国に通信も届かない鉄血領海でただ役目を果たせないまま沈んでいくか……こんな事を言った上で説得力もないかも知れないが、貴艦の聡明な判断に期待する」

 

 降伏のデメリットはあえて余り上げてないが普通なら分かるはずだ、今自分たちが降伏するとどれだけ祖国に迷惑をかけるのか、そして鉄血は本当に捕虜の身を守るのか?という不信感もあるだろう。

 

 本音を言えば自分は本気だと今からシールドを解除して姿を表してこちらも無防備宣言をしてもよかったが、敵kansenの目の前で指揮官の姿を見せるのは基本的に禁じられている。流石にヒッパーに今度こそ失望されかねないので辞めておこう。

 

「……イーグル、私達は皆そなたの判断に従うわ」

 

「私に全部決めろというのか……私は……私は……!」

 

 そうか 目の前の空母はイーグルと言うのか……ロイヤルは徹底していたのだろう、今の今まで自分たちの名前を一言も口にしなかった。

 

 あのメガネの重巡には妹がいて、あのメイドは赤毛の駆逐艦を最後まで守ろうとして、目の前の戦艦とイーグルはその気になれば一人で脱出する事も出来たはずだ、だと言うのに皆で脱出する事に最後まで拘っていた。

 

 戦闘中はアドレナリンによる高揚感で分からなかったが今更ながら目の前のkansenはセイレーンとは違い……やはり自分は未熟なのだろうか?考えるのはやめよう、これ以上考えれば戦えなくなるかも知れないのだから。

 

 やがてイーグルは空を見上げ、何かを呟くと疲れた様に口を開く。

 

「ロイヤルネイビー所属、空母イーグル、戦艦デューク・オブ・ヨーク、重巡ロンドン、軽巡キュラソー、駆逐ジャージー……武装解除の上で貴方の降伏勧告を受諾させてもらう。これは全て私の決断だ、他の四人は私に強要されて降伏する事になった……」

 

「……貴艦の聡明な判断と勇気ある決断に感謝する、それと……そちらの女王陛下を侮辱した事に心からの謝罪をします、ロイヤルネイビーの皆様、本当に申し訳ございませんでした」

 

 機密の為に彼女達の前では姿は出せないがそれでも深々頭を下げて謝罪すると、こちらの謝罪に彼女達は少し驚いた様子を見せる。

 ただイーグルだけは未だに全てに疲れた様に、最早泣く涙すらなく一気に老け込んだ様に感じてしまう。

 

「……私はどうなってもいい、だが……他のKAN-SENに関しては手出しはしないと約束してくれ。」

 

「勿論、約束させてもらう。条約はハーグ条約に則って鉄血は貴方達を丁重に扱おう、それでは武装解除の上で何もせずにしばらく待っていて欲しい」

 

 そして通信を切ると一気に力が抜けてしまい、倒れ込むように椅子にドカリと座り込む。

 

 おわった……どうにか誰も死なずに済んだ、時間にしてまだ交戦を開始して1時間も経っておらず、その少し前までヒッパーと一緒に書類仕事をしていた事が信じられない。

 

 このまま疲れ果てた今ならこの揺れる船の上でも安眠出来そうだと思いつつも、何も言わずに待ってくれた三人に個別通信を行う。

 

『お疲れ様、指揮官よくがんばったね』

 

 優しく褒めてくれるシュペーに涙を流しそうになるのを堪えて。

 

『やっっっと終わったわね……ただ今から捕虜移送やらなんやらしないといけないし、あんたには山程言いたい事があるんだから覚悟しなさいっての!! 』

 

  少しだけ嬉しそうにしているが今も怒っているヒッパーへの謝罪の言葉を考えて。

 

『卿よ、初陣にしてはよく頑張ったな、課題も多いとは言え……ふふふ……これから毎日中々面白い日々が送れそうだ』

 

まだ出会って二日目とはいえ、初めてあのグラーフが笑う姿を見て少し驚きながら。

 

『こちら第二遊撃艦隊旗艦グナイゼナウ、降伏の受諾を確認。これより捕虜移送をサポートします』

 

 第二遊撃艦隊旗艦グナイゼナウさんに捕虜のサポートを……って第二遊撃艦隊?

 

 

 ……完全に何か忘れていたようだが今思い出した、降伏勧告終わったと後方の友軍には一言も声を掛けていなかったことを。

 

『本当!!本当に!!申し訳ございませんでしたーーーー!!!!』

 

 指揮艦の中でこれまでの人生の中で最も大きな声だと確定できる謝罪が響き渡る、幸いにも集音モードはマンジュウが直前に切ってくれたようだが危うくイーグル達にこの醜態を晒す所だった……!

 

『あー……いえ、捕虜移送についてはヒッパーから直ぐに連絡を受けていたので問題ありません、ただ降伏勧告に関しては次からは事前に通告してくださいね』

 

『はい……本当にすいません……以後気をつけます……あと、それとは関係なく救援に来て頂きましたので後程ワインでも贈らせて頂きますね』

 

『こちらも仕事なのでお気になさらず、どうしてもと言うのでしたら私達の指揮官は未成年なので、できれば菓子の詰め合わせを希望します』

 

 未成年なの!?いや自分も大概若いが指揮官としての教育受けてる時に話聞いてたとはいえ、本当にいたのか未成年の指揮官……

 

 

 最後は締まらないものの……こうして俺の着任一日目である最悪でもあり、幸運でもあり、そして、何よりも一生忘れられない海戦は幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーと言うのが以上の海戦の顛末よ」

 

「少し、待ってちょうだい……話が追いつかないわ」

 

「安心しろティルピッツ、私も最初に話を聞いた時は今日はエイプリルフールか何かなのかとカレンダーを確認した」

 

 殺風景な執務室にて先程までに報告書を朗読していた私の話を聴くと妹の戦艦ティルピッツは頭を抱えて、巡洋戦艦オーディンは若干目のハイライトが消えながらも再び私の部屋のカレンダーを確認している。

 

 あの海戦……正式名称では『バルト海海戦』と呼ばれる事になる戦いで、着任当日の指揮官はロイヤルネイビーと交戦。

 その足止めを果たした上でセイレーンをほぼ撃破し、最後は友軍の援護を受けた上でロイヤルネイビー全てを捕虜にして鉄血へと帰還した。

 

「正直報告を聞いた時は頭が痛くなったわよ……まさか五人も捕虜を連れて、しかも一人はロイヤルの騎士団団長キングジョージ五世の妹。大戦果といえば大戦果だけど逆に大戦果過ぎて……徹夜で対応に追われる事になったわ」

 

 ロイヤルへの抗議文、中立国スカンジナビアとユトランドへの対応、何処からか話を聞きつけた軍需産業であり艤装を製造しているクラップ社との会談に……他にも鹵獲した敵艦載機にユニオンの機体があったり、情報統制で捕虜の情報の情報を秘匿したり、指揮官が相手はグラーフの本名を知っていたと発言したので調査や、諜報の見直しと……余りに忙しすぎて今後もしばらく睡眠時間を削る羽目になるだろう。

 

 そして何よりも今回の件をうけて私の睡眠時間を削った事象、それは……

 

「それと、今回の件を受けて鉄血はしばらくロイヤルに備えて防衛網の構築が必要になったの、つまり……ヴェーザー演習作戦は中止よ」

 

 ヴェーザー演習作戦

 中立国でありながらロイヤルに基地や物資を提供している疑惑があり、鉄血への鉄鉱石の締め付けを強化するスカンジナビア、及び親鉄血でありながら海軍力がほぼ無く、ロイヤルの橋頭堡にされる恐れがあるユトランドを占領する為の軍事作戦。

 

 本来であれば既に行われてた作戦を更に引き延ばし、万全の状態で挑もうと準備を進められていたがその計画も今回の『バルト海海戦』の結果白紙化される事になってしまった。

 

 その理由はロイヤルの奇襲攻撃対策だ、もし今回のようなことが再びまた起きれば、取り返しの付かない事態を招き民間人の死者が出る可能性も高い。

 

 そんな状態で戦線の拡大をしてしまってはロイヤルへの満足な対処は不可能となり、本国への防備を固める必要性から本来スカンジナビアを任せるはずのオーディンとティルピッツ、及び参加予定の複数の駆逐艦を呼び戻し、彼らに引き続き本国の監視任務を行ってもらうことになる。

 

「つまり……私はヴェーザー演習作戦のために産み出されたというのに、早速存在意義を失ってしまったと言うわけか」

 

「それは……」

 

「あぁ冗談だ、それくらいでヘソを曲げるほど子供でもないさ」

 

「貴方の存在意義はこの作戦の為だけでは無いわ、まだやるべき幾らでもある。その為に貴方には悪いけど鉄血の為に尽くしてもらう事になるわ」

 

 苦笑しながらオーディンは……特別計画艦である彼女はティルピッツの肩を軽く叩きつつ軽口を口にする。

 

 

 来たるべきヴェーザー演習作戦、そしてその後スカンジナビア方面をロイヤルやセイレーンから守る為に生み出されたセイレーンと戦う事に特化した特別計画艦であるオーディン。

 

 kansenが本来産まれるために必要なメンタルキューブを使わずに、ただセイレーンと戦う為の決戦兵器として遺伝子情報から都合良く改良されて産み出された特別計画艦、その多くは強大な力を秘めており鉄血では四隻の特別計画艦が在籍している。

 

 正確には鉄血に於いては今まで二隻……しかしヴェーザー演習作戦が成功後、防衛任務に当たる幹部がティルピッツだけでは負担が余りにも大き過ぎる、だからこそ私は人間の上層部を説得し、三隻目と四隻目の計画艦である巡洋戦艦オーディンと軽巡マインツが誕生するまではヴェーザー演習作戦を遅延させていたのだ。

 

「つまりヴェーザー演習作戦の中止で私は今まで通り本国で防衛をすればいいのね、姉さん」

 

「ええっ……このままではジリ貧なのは分かってはいるけれど、防衛網の構築の為に少なくても数ヶ月はかかりそうね、まさか漁船に乗り込むだなんて予想外だったわ……最もそれ以外の情報はまだ吐いていないけどね」

 

 これからは更に忙しくなる、ロイヤルは数の上では鉄血のkansenを上回っている……その為の対策を行わなければあの時セイレーンに見せられた光景が現実のものになりかねない。

 

 備えるしかない、数がダメなら質を、kansenが居ないのなら無人機の強化を、そして更に戦力を増やす為のアテは……ある。

 

 これからは忙しくなるだろう、その時に一人でも多くの犠牲を少なくして、この私が起こした戦争を一刻も早く終わらせる為に。

 

 あの指揮官はどうなるのかしら?グラーフに話を聞けば欠点もあるが面白い、なにより見ていて飽きないと言っていたけれど……雛鳥がもし大空を羽ばたく大鳥になるなら……少なくても五隻の捕虜で上層部がお祭り騒ぎとなったのは事実、グラーフが選んだがどうなるのかは私にも分からないが、今後彼が更に活躍し鉄血を支える指揮官となる事を祈ろう。

 

 私の睡眠時間を奪わない事を祈りながら、ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば捕虜はどこにいる?本部には居なかったが」

 

「捕虜ならぜんぶあの指揮官に任せているわ、部屋にも余裕はあるし、取り敢えずの処置でマンジュウを使ってみてもらってから本部に移すつもりよ」

 

「姉さん……彼は新人よ?それって大丈夫なのかしら……」

 

 

きっと、大丈夫よ。グラーフもいるし……うん

 




 本作の複数あるターニングポイントの一つである『バルト海海戦』はこれにて終了、次回は幕間のグラーフ・ツェッペリン編。そして今回降伏したイーグル達についても次回以降触れていきます。


・ハーグ条約

 史実において1899年に締結された国際条約、捕虜の扱いや使用不可能な兵器などについて書き記してあり、本編においてはイーグルが「不審船」ではなく「ロイヤルネイビー」として降伏をした為に、彼女たちは条約に則って適切な扱いを受ける事に成功する。

 正確には捕虜に関して決められた条約名はハーグ陸戦条約であり、陸戦における捕虜の扱いを決めた条約なのだが、この世界ではWW1が起きておらず、現在における捕虜の扱いを称した国際条約であるジュネーブ条約において捕虜の扱いについての記述はなく(史実では1929年)こちらが優先される事に。

 また本作独自設定では第一次セイレーン大戦の結果WW1以降の戦争が起きていない為に鉄血の領土はWW1と同じくポーランドなども含めて吸収した史実以上の領土になっているという設定に、その為特にWW1以降ミクロネシア、満州国などを獲得してた史実日本を参考にした重桜は少し領土が狭くなっている。この事が重桜にどう影響していくのだろうか?


・女王陛下
 恐らく総統閣下シリーズのような事になっている、陛下の受難の日々の開幕である。


・本作の時系列

 史実をベースにしたアズールレーン世界に於いては時系列は。

ゲーム内
鉄血がレッドアクシズを結成→ヴェーザー演習作戦が実施され、輝ける峡湾の星(第一次ナルヴィク海戦)→ 峡湾間の反撃(第二次ナルヴィク海戦)→アイリスと鉄血の戦闘終了→光と影のアイリス前半(メルセルケビール海戦)

 となっているが今作に於いてはダイスの結果も含め、ノルウェー方面に戦力を向けるヴェーザー演習作戦は計画艦開発の為遅延しており、メルセルケビール海戦は終了済み。その為史実とは違い

本作
鉄血がレッドアクシズを結成→ヴェーザー演習作戦の遅延→鉄血とアイリスの戦闘が終了→光と影のアイリス前半(メルセルケビール海戦)→第三話〜第六話のバルト海海戦→バルト海海戦の結果、鉄血への本土攻撃を防ぐためにヴェーザー演習作戦の無期延期

 図らずも鉄血が敗北するはずの海戦が回避され、史実では孤独なる北欧の女王と呼ばれ、その命尽きるまで本国に帰還せずノルウェーにて一人ロイヤルに対抗し続けたビスマルクの妹でもあるティルピッツが本国に残留。

 更に戦艦デュークオブヨークが捕虜となった事により、後に彼女に沈められる運命であった鉄血の幹部の一人でもあるシャルンホルストが生存。ヘルブスト指揮官の突発的な行動の結果、歴史は少しずつ狂い出していく……

・「……私はどうなってもいい、だが……他のKAN-SENに関しては手出しはしないと約束してくれ。」

 活動報告にてイーグルの決断に関する補足あり、「ロイヤルネイビー」と最後に名乗る瞬間までイーグル達は所属を明らかにせず、名前も鉄血の前では隠して行動をしていた。
 もし彼女が最後まで「ロイヤルネイビー」と名乗る事をしなければハーグ条約の適応外となっており、自らの所属を明らかにすると言う行動は本編でも後々大きな影響を与える事となる。

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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