戦場と言うものは戦う前から既に勝敗は8割方決まっているものだ。
例えば資源の有無や技術力の格の違いに兵站、その他にも様々な要因で戦力差が開けば戦既にその軍は戦う前から敗北していると言えるだろう。
一例を挙げるのであればメルセルケビール海戦は特に分かりやすいだろう。ロイヤルとヴィシアが衝突した世界初のkansen同士の戦いはロイヤルの勝利に終わったがそれは既に決定づけられたようなものであった。
空母による航空支援に優秀なレーダー技術を保有してきたロイヤルとは違い、ヴィシアは国内の政治的な混乱により技術力の遅れや航空兵装を保有していた空母が全て枢機卿派としてロイヤルに亡命するなど戦力が大幅に弱体化した上に、自由アイリスが提供した暗号データを利用した無線通信の妨害による連携の封鎖など全てにおいて不利な状況であり、結果、ロイヤルの攻撃部隊によってヴィシア海軍は一方的に攻撃され壊滅的な被害を受けてしまう。
そう、メルセルケビール海戦は戦う前から勝敗は決まっていたのだ。だからこそジャン・バールさんは国内の粛正による安定化やガスコーニュを生み出すなど戦力の拡充。暗号の見直しや兵站の強化や対空砲の強化に鉄血との技術交流など国力の底上げに尽力していたのだ。
───卑劣な偽善者たるロイヤルの連中に目に物を見せてやる。
その決意によりヴィシア海軍はメルセルケビール海戦前より格段に強くなり、仮にロイヤルがまた攻めてきたとしても一方的なロイヤルの勝利ではなくヴィシアは研ぎ続けた牙で獅子の喉元に噛み付く事も可能だろう。
そう、戦いは既に準備の段階から始まっている。それは対セイレーン戦に於いても同じでありヴィシアは俺達鉄血に救援要請を得た上で国内の航路の安定化の為に本気でセイレーンの大量発生の大元である鏡面海域攻略の為に準備を行った。
そして俺達の上司であるビスマルクさんはそんなジャン・バールさんの想定を数段上にいく支援として、鉄血最強の決戦兵器であるグローセさんや虎の子の空母であるグラーフ達、更には鹵獲したセイレーン艦を根こそぎヴィシアに派遣するなど並々ならぬ決意と過剰なまでの救援部隊の派遣によって共同作戦に望む事を表明したのだ。
謎の多い人類種の敵セイレーン相手に全く油断もせずに過剰なまでの戦力を、ネズミを1匹しとめるために1ダースの猫を投入するような徹底ぶり。その結果何が起きたのかといえば答えは一つだ。
『調べを奏でよ!人類種の敵たる殺戮機械に憎悪、恐怖、絶望を!Sinfonie Nr. 9…合唱せよ!』
赤く染まる空を背景に鉄血が誇る最強の戦艦kansenであるグローセさんの詠唱が木霊する。圧倒的な弾幕による暴力の奔流は殺戮機械たるセイレーンを根こそぎ破壊していく。レーダーにはグローセさんの弾幕によって次々と敵の量産型セイレーン艦がロストしていき、残照たる火薬や匂い以外は全て残さずこの世界から抹消された。
そう、蹂躙だ。
鏡面海域に突入してからというもの世界は赤く染まり、何度も四方八方からセイレーンが猟犬のようにその砲を向けてくるがグローセさんたった1人の弾幕によって全てが破壊されていく。鏡面海域攻略作戦に参加しているジャン・バールさんをはじめとしたヴィシア海軍は呆気を……いや、圧倒的な力を前にドン引きしていた。
「ヴァイス……これ私達の出番いるの?」
勿論ドン引きしているのはヴィシアだけではなく鉄血海軍も同じだ。スパイ撲滅戦ではシェフィールド達を一発では殺さないように嬲る為に敢えて力を抜いていた事がグローセさんの戦い方を見ているとよく分かる。通信越しのヒッパーは最早恐怖すら通り越して戦友の活躍に引き攣った表情で呟く。
うん……俺もそう思う!だってヴィシアも鉄血も何もせずグローセさんが豪快に弾幕で殲滅するからね!!もうこの人だけでいいんじゃないかな?っていうくらい無双状態だからね。
「あぁ、うん……でもほら弾薬の問題もあるからね?それにグローセさんだってkansenなんだから疲れるだろうし……」
「ねぇ指揮官。あれ疲れてるのかな?グローセさんむしろ敵を全滅させるごとにテンションが上がってない?」
俺の弁明にシュペーは呟く。うん遠目から見ても分かるくらい恍惚な表情で殲滅してるね!あれ疲れてるどころかずっと地下で戦うの我慢してたからストレス発散できてるんじゃないの!?
「あら、この程度なのかしらね?」
まるで魔王の如く敵を蹂躙するグローセさん。俺も含めた他の部隊のやる事は片っ端からセイレーンを吹き飛ばしているグローセさんが逃した余ったセイレーンをちょこちょこと戦う事だが正直それすら必要のない気がする。最早鏡面海域攻略部隊ではなくフリードリヒ・デア・グローセ護衛部隊と言った方がいいかもしれない。
「やっぱり特別計画艦って凄いんだな……」
「……ごめんなさい、主(メートル)……」
思わずそんな呟きをすれば同じヴィシアの特別計画艦である素直な良い子のガスコーニュがしゅんと落ち込んだ様子になる。自分も特別計画艦だと言うのに全ての戦闘でグローセさんが大活躍している為ガスコーニュは役に立ててないのでは?と落ち込んでしまい慌ててフォローする。
「い、いや!ガスコーニュも凄いからね!ほらあの時の弾幕だって!」
「性能比較。ガスコーニュの弾幕はフリードリヒ・デア・グローセと比べて殲滅速度が3.8倍以下と判断……主(メートル)や皆の役に立ちたいのに……」
俺の言葉に対してガスコーニュは相変わらずの無表情ではあるが、それでも少しだけ悲しげな雰囲気が漂っていた。うーん、こういう時にどういう言葉をかけてあげればいいのか分からないんだよな。取り敢えず慰めようと海面を滑るガスコーニュに船に入ってきてみ?頭撫でてあげるから!と提案しようとしたが。
『妹を泣かせるとぶち殺すぞ』
……何故か俺達の個別通信を聞いてるはずのないジャン・バールさんからの殺意の篭った通信が船内に鳴り響く。声だけで人を殺せるような迫力に冷や汗をかきながら、再びグローセさんの弾幕が敵艦隊をこの世から消滅させるのであった。
セイレーンが制圧している鏡面海域とは通常であれば人類にとっては偵察不可能と言える程の異常環境でありkansenが例え護衛、もしくは彼女達が偵察したとしてによるこれまで得られた知識は少ない。何らかの実験の痕跡や施設が発見される事があり、例えばブラックキューブもそんな鏡面海域から発見されたものだと、ビスマルクさんは言っていた。
鏡面海域が偵察困難な理由は溢れるように湧いてくるセイレーンの脅威だけではない。例えば生半可なレーダーにエラーが生じてしまい、最悪通信機器まで全て使えなくなる可能性もある。事実鉄血製のレーダーや通信機はセイレーン技術をふんだんに投入している為か問題はないが、ジャン・バールさんからの通信によればヴィシアの通信機器やレーダーは時折おかしい反応を見せていると舌打ちしている。
更に突然の巨大な渦巻きによる海流の変化や磁場の影響で通常では考えられない現象が起きてしまう事も珍しくはない。気温もさっきまでは2月とは思えない真夏日のような蒸し暑さだったというのに今では氷点下近くまで下がっている。ロンドンから貰った手袋を持ってきてよかったと装着しながら、冷静に慌てずピヨピヨと働くマンジュウ達に感謝する。
鏡面海域の攻略は本当に一筋縄ではいかない。だからこそ鏡面海域での探索には細心の注意を払い、時には鏡面海域の深部へと突入して情報を得る必要がある。今回の任務は異常気象とセイレーンの大量発生が中心部に近ければ近い程多く発生するというデータから鏡面海域の中心部へと向かう。
簡単に言えば中心部まで殴り込みをかけてその原因。例えば人型セイレーンだとか何かの装置を撃破すれば恐らく目的は完遂するだろう。とは言え空が血の様に赤く染まり恐怖心を煽りつつ、中心部に近づけば近づく程に人型のセイレーン。ピュリファイアーの様な人語を話さず無言で殺戮の嵐を巻き起こすエクセキューター級も少しずつ冷徹な瞳でこちらに向けながら出現して火砲を向けており、グローセさんに全てを任せて楽をできる状況では無くなってしまった。
「ヒッパーシールドを!シュペーはその後ろに隠れつつ敵に接近してから二人で前方のエクセキューターを狙え!ガスコーニュは砲撃支援を!グラーフはヴィシア艦隊に航空支援だ!最優先目標は生き残る事!誰も死ぬなよ!」
「了解!!」
皆の返事を聞きながら俺はグローセさんに視線を向ける。グローセさんは俺の合図を察してか小さくウィンクをして微笑む。今回の作戦の要であるグローセさんが敗北すれば恐らくこの作戦は失敗する。鉄血も、ヴィシアも、全員が最大火力を持つグローセさんを防衛する為に彼女を中心に輪形陣を組みセイレーンの大群に挑みかかる。
「我らの聖戦の時はきた!護騎騎士突撃!鉄血の奴等ばかりに頼るなよ!オレ達の海を汚すクズどもに神の鉄槌を叩き込め!全艦隊、目標に照準――攻撃せよ!!」
ジャン・バールさんは巨大なヴィシアの旗を振り回しながら先陣を切る。彼女の指示に従って護騎騎士団は敵艦隊に向けて突進し、殺戮機械達に斬り込んでいく。駆逐艦達は慣れた様子で敵の攻撃を掻い潜り魚雷を発射し、戦艦達は射程外から着実に敵を粉砕していく。どれほどの訓練を重ねればあれほどまでの連携が取れるのか。ヴィシアは頼りになる同胞である事を再確認しつつ俺も鉄血艦隊の皆に声をかける。
「我が同胞の為に鉄血の力とならん事を!!そして我らのヴィシア聖座は我らの同胞だ!ならば我々も続くまでだ!!鹵獲艦は砲撃で敵をかき乱せ!その合間に一隻ずつ着実に沈めるんだ!!Los!Los!Los!(いけ!いけ!いけ!)戦神トールの如く!」
Los!Los!と叫びながら俺の号令に合わせてセイレーン達に向かって行く。柄にもない鼓舞を見たシュペー達は苦笑していたがそれでも士気は上がっているようで次々に敵艦隊に肉薄しては主砲を発射。鹵獲艦の砲撃でによって隊列が乱れたセイレーン艦を的確に狙い撃ち、確実に数を減らしていく。
中心部に向けて着実に俺達は進んでいく。弾薬の問題を常に頭にいれつつも想定通り、いや寧ろ想定以上の速さで海を駆ける。断続的に襲い掛かるセイレーンの量も初期と比べればかなり減ってきたように思える。
「ピヨ!」
セイレーン技術をふんだんに使って開発されたヒヨコ型ロボ、マンジュウの内の一人が差し出してくれたドーナツを食べながら鏡面海域を進む。鏡面海域の中心部はまるで血のように真っ赤な空が広がり、周囲には破壊したセイレーンの残骸が大量に浮いている。恐らくセイレーンはこの鏡面海域の中心部にある装置か何かを守る為に存在するのだろう。グラーフの偵察機は中心部に向かわせたが余程ジャミングが酷いのか状況は不明、それでもここまで来れば後一息だと拳を握り締める。
「兵装起動、火力全開!」
ガスコーニュの声と共に一発の砲撃が放たれる。対セイレーン対策として産まれた彼女はまさにグローセさんやローンさんと同じくヴィシアの切り札。その一撃はセイレーンが展開したシールドごと貫通して戦艦ルーク級を一撃で仕留める。
海戦に置いて初弾で命中させる事の難しさを考えればガスコーニュが如何に優秀なkansenであるのか理解できるだろう。更にグラーフとペーターさんの弾着観測も加わり鉄血・ヴィシア連合軍は中心部に向かって邁進する。止めるものは何もない、セイレーンを蹴散らしただ真っ直ぐに進むのみ。
『ピヨ!!』
マンジュウ達が声を上げる。どうやら中心部に辿り着いたようだ。中心部には塔の様な巨大な装置があり、そこから血の様に赤い空が広がっている。
「あぁ、ついに来たな」
装置を見て俺は思わず息を漏らす。巨大な塔の様な制御 装置はまさにこの赤い海を作り出した元凶だ。だが相手もここが最終防衛ラインだと理解しているのか次々と量産型セイレーンは湧き出てきており、中には虎の子らしきエクセキューター級もダース単位でわんさか出てくる。
「おい鉄血の。問題はないか?」
「大丈夫です。合図は任せます」
ジャン・バールさんからの通信に答える。俺の言葉を聞いてジャン・バールさんはニヤリと笑うとヴィシアの旗を振り回す。
「よし、お前達!準備はいいか!?オレ達の祖国を護るぞ!!」
ジャン・バールさんの指示に従ってヴィシアのkansen達は敵陣に突っ込んでいく。側から見れば自殺紛いの突撃に見えるが民と信仰の守護者たる護教騎士たるヴィシアの戦士達は恐れる事無く敵中に飛び込み、剣を振るう。
「我等はヴィシア聖座の盾なり!人形共に裁きの鉄槌を喰らわせろ!!!」
その士気の高さは凄まじいものだが一番の要因は陣営代表たるジャン・バールさんが真っ先に敵陣に突っ込んでいることが原因だろう。ノブレス・オブリージュを体現するかの如く最前線で敵を粉砕していくジャン・バールさんを見てアルジェリーさんは冷や汗をかきながら彼女を死なせない為に護衛を行い、ガリソニエールさんは笑みを浮かべて処刑用の斧を片手に敵陣に斬り込む。
それはまさに鉄血の神話に登場する戦乙女ワルキューレの如き勇姿だった。苛烈であり理知的に、野蛮かつ合理的に敵を屠っていく。ジャン・バールさんの鼓舞と共に立ち向かうヴィシアのKAN-SEN達もその姿に奮起し、士気は高まる一方だ。そんな彼女達に呼応するように俺もまた叫ぶ。
「ヴィシアだけに格好つけさせるわけにはいかないよなぁ!!右方向はヴィシアに任せて俺達は左から攻め込む!!鹵獲艦の砲撃の合図と共にローンさんとヒッパーのシールドに隠れつつ目に移る全てのセイレーンを撲滅しろ!!我が同胞の為に鉄血の力とならん事を!!弾薬を全て使い切る勢いで砲撃開始!!Los!!Los!!Los!!」
俺の号令に合わせて鹵獲艦が砲撃を開始する。主砲の直撃を受けたセイレーン達は一撃で轟沈、そのまま砲撃を続行しながら前進を続ける。敵の数は多いが攻略目標である塔は目の前だ。敵が例え待ち受けていたとしても全て沈めれば問題ない。ここが正念場だと全員が理解しているのか皆は叫びながら残骸を増やしていく。
「ふん、ここまで暇でしょうがなかったんだからいいタイミングだってえの!」
「うん……負けられない。みんな頑張ろう……!」
「大切な人達と主(メートル)の為に!」
シュペーとヒッパーがガスコーニュを仕留めようとする敵軽巡を同時に仕留めると、ガスコーニュは赤、青、白に色付けされたトリコロールカラーの弾幕を敵中心部に炸裂させる。
グローセさんの弾幕が目に見えるもの全てを消しとばす範囲攻撃であるのならガスコーニュの弾幕は敵の装甲を着実に削り取る精密射撃と言えばいいのだろうか?上空に一度飛び立ったトリコロールカラーの弾幕はホーミング機能があるのか弧を描きながら敵中央部に向かって降り注ぐ。
着弾!!
凄まじい轟音と同時にロックオンされていたと思われる8隻のルーク級戦艦は大爆発を起こし、周囲にいたセイレーンを巻き込みながら木っ端微塵に吹き飛ぶ。この弾幕によってセイレーンの攻勢が弱まったと同時に上空からは悪魔のサイレン音が鳴り響く。
「時は満ちた!」
グラーフの妹であるペーターさんのスキルは金縛り。kansenや敵セイレーンを問わず3秒間だけ動きを止める強力なスキルだ。たかが3秒と思うかも知れないが砲弾が飛び交う戦闘における3秒間は黄金よりも貴重な価値がある。ペーターさんのスキルにより一瞬動けなくなった敵が回復する頃には最早その運命は死あるのみ。
「グラーフ!」
「終わりだ……Funebre!」
グラーフとペーターさんの放った雷撃や爆撃の猛攻はまさに悪夢そのものだ。雷鳴の様な爆音を響かせながら鋼鉄の嵐が荒れ狂う。人類を苦しめ続けた殺戮機械の集団はあっという間に殲滅される。困難に耐えながら牙を研ぎ続け、敵の技術を奪取、研究し続けた鉄血公国の信念が戦場にて結実した瞬間だった。
「ちょっとちょっとー、流石に酷すぎないかなー?」
鉄血とヴィシアが多くのセイレーンを撲滅した頃、突如海の中からシュモクサメを模した黒い艤装に跨った薄紫の肌をもつ少女が抗議しながら現れる。
「……お前かぁ……」
流石にヴィシアの手前理由を話す事もできないが見知った顔を見た瞬間戦場だと言うのに脱力感に襲われる。白い霧と共に現れた上位種であるセイレーン、ピュリファイアー。時に俺達のメッセンジャーとして有益な情報をもたらし、時に交戦した因縁ある相手だ。
シュモクサメ型の艤装に跨ったピュリファイアーはこちらの陣容を見回すと、笑みが一瞬で凍りつく。特に以前の戦いで腕をちぎられ粉砕される羽目になったグローセさんの姿を見た瞬間それはもう嫌そうな表情を浮かべている。
「ふん、お前が今回の件の首謀者か?」
「首謀者、とは違うけどね?管理してたと言うのは間違いじゃないけど……流石にこの戦力連れてくるのは反則じゃない?」
ジャン・バールさんに殺意の篭った視線を向けられるがピュリファイアーはあっけらかんとそう答える。ビスマルクさんが持っていたブラックキューブに当たる装備もなく、目に見える範囲では強化された様子もない為周囲のセイレーンが撲滅されたこの状況ではピュリファイアーの勝利は最早不可能に近いだろう。
「こっちは与えられたリソースも限られてるのにさぁー!!というか『あのヴィシアを』ここまで信頼するなんて、やっぱこの『枝』の鉄血面白いけどおかしいよ!あークソ!!もう最悪!後でオブザーバーに抗議してやる……!」
ピュリファイアーは訳の分からない言葉を口にしながら全ての砲門をこちらに向けて愚痴りながら凄惨な笑みを浮かべる。負けると分かっていても相手は復活する事が出来るのだからせめてこの戦いを楽しんでやると言わんばかりのバトルジャンキーっぷりだ。
「データは集めたんだから後は好き放題させてもらうよ!あはは!こんなに不利な状況で戦うなんて久々だよ!」
ピュリファイアーの言葉に呼応するように突如セイレーン達が出現し、一斉に襲い掛かってくる。ピュリファイアーが『リソース』という言葉を使う以上相手は与えられた権限以上の事は出来ないと改めて情報を会得しつつも、目の前に見える塔を破壊する為に俺とジャン・バールさんはそれぞれ戦闘指揮を取るべく動き出す。
ヒッパーが付きっきりで教えてくれ、ジャン・バールさんのアドバイスによって俺の指揮能力も少しはマシになったとこの戦いで実感できた。後は目の前の人型を倒せばこの任務も終了だ。
「運が悪かったと思って沈めピュリファイアー!」
「バーカ!!やってやろうじゃねぇかグェ!?」
それまで無言だったジャン・バールさんの不意打ち気味の砲撃によってピュリファイアーの砲門が一つ破砕される。ジャン・バールさんにとってセイレーンとの話し合いの価値は何ら価値も持ち合わせていないらしく、次の瞬間ヴィシア艦隊から大量の砲撃がピュリファイアーに殺到する。
「うるさい死ね。おい鉄血、お前もさっさと砲撃指示を出せ」
(うわぁ……)
問答を無視しての容赦のない不意打ち攻撃というえげつない対応に少しだけ引きつつ、俺達鉄血艦隊はジャン・バールさんに習って残り少ないピュリファイアー傘下のセイレーンを次々と撃破していくのだった。
「あっ、やっぱり流石にこれ無理だよねー?」
執拗な一斉射撃、物量による暴力。そもそも強力ではあるが鉄血の技術力と歴戦の猛者達も合わせた結果、それは最早もはや戦闘にすらならなかった。ピュリファイアーはボロボロの状態でシュモクサメ型の艤装も既に破壊され、血だらけになりながら海上に漂う。
「ま、でもこれで終わりかなー?あはははははははは!!もし、今度戦う時はもっと強化されてると思うからその時はよろしくね!じゃあバイバーい!」
それでもピュリファイアーは笑い続ける。その笑みには諦めの色など微塵もなかったが、流石に限界を迎えたのかピュリファイアーは指をぱちん!と鳴らすと背後の塔は崩壊していく。恐らく機密保持のためなんだろう、空は赤から青に戻っていき、鏡面海域が解除された事が分かる。
これでヴィシアは救われた、後は逃げようとするピュリファイアーに追撃を加えて撃破するだけだが……背後を向いて猛スピードで逃げようとするピュリファイアーに、それを上回る速度でローンさんは武装の殆どを失ったピュリファイアーの右手を背後から掴むと、ギシギシと骨が軋み、腕の骨が砕ける音が響き渡る。
「ちょ、痛い痛い痛い!!!」
「ふふっ?逃げられると思ってるんですか?こんな目障りな海域を作ってヴィシアの皆さんを苦しめた挙句、危害を加えて自分は退散?うふふ……そんな舐め腐った性根はもう……許せないよねぇ!!!!!」
「えっ」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。あのローンさんが、ゆるふわな雰囲気でヴィシアの面々や俺に接していて、戦場でも笑顔で皆を守り続けてくれた彼女の余りの豹変っぷりに思考が停止してしまう。ピュリファイアーの腕を掴んだまま彼女はもう片方の手で手刀を作る。
「まずは一本、腕を折りますからねぇ……!」
「全員に告げるわ!!耳栓とアイマスクを持ってる連中は!特にヴィシアの駆逐は今すぐにつけなさい!早く!!」
ヒッパーの指示の元にえっ、えっ!?と困惑するヴィシアの駆逐艦達はあらかじめ用意する様に伝えられていたアイマスクと耳栓で視界と聴覚を遮断する。グローセさんは慣れた様子でまだアイマスクを身につけてなかった駆逐達の視界を巨大な生体艤装で隠し、シュペーも嘆息しながら近くの駆逐艦の耳を塞ぐ。
ブチリ!!と何かが千切れる音と共に、最早声にすらならないピュリファイアーの激痛に喘ぎながらの絶叫が周囲に響く。それと同時にピュリファイアーの右腕は肘より先が完全に消失しており、それをこちら指揮艦に向かって無造作に投げ込んだ。
ぐちゃ!と音と共に引きちぎられた右腕が船内に投げ込まれる中、俺は急いで近くにいたガスコーニュに見せまいと彼女に船内に入る様に命じる。
「おい……何だアレ……?」
「いやその……ええっ……」
ジャン・バールさんも先程までの勇猛果敢な様子を雲散させて完全にドン引きした様子で目を背ける。俺も余りの事態に何も言えずにえっ、えっ?と混乱するガスコーニュの側に近寄って耳を塞いでいるとグラーフは答えは合わせをしてくれた。
「あれが、ローンの本性だ。仲間には決して手を向けないが戦場で相手を殺し、壊し、蹂躙する事に愉悦と快感を覚える生粋の狂戦士。しかも自身の女性指揮官を自分色に染め上げた結果仲良くエクセキューター級の首を引っこ抜いたせいで駆逐艦が一人トラウマでしばらく引きこもった程にな」
グラーフは心なしか目のハイライトが消えながら解説してくれる。確かにローンさんは普段は優しいんだろう。しかし敵対するセイレーンに関しては一切の容赦がない。
「そういえばビスマルクさんにお土産がもっと必要ですねぇ……ふふっ♪丁度小瓶もありますので眼球を……」
……止めるべきなんだろうか?と一瞬迷うが、アイツは絶対復活するだろうし多少雑に扱ってもいい。それに上位個体のセイレーンの肉片データはブラックキューブの制御に役立つだろうと黙認する。
流石にこれがロイヤルネイビー相手なら全力で止めたが許せピュリファイアー……今度会った時豪華な焼き菓子渡してあげるから。
ぐちゃ、ぐちゃと生きたまま解体されるピュリファイアーの絶叫と船に投げつけられる肉片を観ながら、サンプル獲得に喜びつつも、ちょっと今日眠れないなと覚悟を決めるのであった……。
その後、ローンさんの残虐ファイトで多くの人達に。特に戦闘狂と自身を表していたガリソニエールさんに、深刻なトラウマを植え付けつつ、ピュリファイアーは完全に戦意を喪失し両腕と右足、眼球を一つを千切られたあたりで自爆を敢行。
「私の手を煩わせないのはいいんですけど…自爆だなんて、許せないッ…!」
怒りに満ちた目で自爆したピュリファイアーを睨みつける彼女を宥めつつ、今回の作戦は最終的にスプラッターな状況に陥りつつも誰も命を失う事なく大成功に終わるのであった。
鉄血は生きたまま解体された多くのピュリファイアーの肉片のサンプルを獲得しつつ、ヴィシアに鉄血の技術力を見せつけるデモンストレーションに成功し、ヴィシアはセイレーンの大量発生の根本を断ちつつ鉄血に護教騎士の実力を見せつける。まさに大成功といえる勝利なのだが……
「……祝勝会、少し送らせる事にしましょうか?」
ダンケルクさんが思わずそう提案する程に精神的に、げっそりとなる、色々な意味で忘れられない海戦となるのであった。
・蹂躙
今回の戦いは鉄血側が過剰共とれる援軍を送りつけた結果として本来苦戦するはずの鏡面海域攻略作戦があっさり終了する事に。原作ダイス的にも苦戦する選択肢はあったのですが、結果的にはグローセの弾幕が炸裂し、もうあの子だけでいいんじゃないかな?と思われる程の一方的な蹂躙となるのでした。勿論ピュリファイアーに与えられたリソースが多ければこれでも苦戦したはずですが、今回彼女は戦闘ではなく防衛と観察に集中していた為に可哀想な肉片となるのでした。鉄血としては生きたまま腕をちぎれば身体は残ると前例は出ていますし貴重なサンプルデータを入手しましたがヴィシアの皆には圧倒的な技術力と偶に結果としてヤバさをアピールしてしまうのでした。
・ローンについて
彼女は色々な解釈がありますが、CWやクイーンズオーダーで描かれた描写によれば決して仲間を傷つける事はない優しい女性です。ニーミちゃんが一人で危険な状態になっていれば走って助けに向かい、セイレーンに力を振るわないか?と説得されれば激怒する程に。そんな彼女ですがセイレーンは例外であり今回の残虐ファイトに繋がるのでした。彼女のお陰でピュリファイアーの肉片は大量に集まり、ブラックキューブ制御の為の研究は進展するでしょう。多くのトラウマを植え付けながら。ちなみにラ・ガリソニエールはよくローンと比較されますが彼女は戦闘を楽しんでいるだけで普段はかなり常識人寄りな戦闘狂であり、ローンは根っこからして色々と危うい狂戦士と結構違っています。
また、それまで偶に会話の流れに出てきたローンの指揮官は実は女性です。何故そんなケッコンしていないのか?という質問もありましたが、意気投合し過ぎて女友達として一緒に許せないよねぇ!!となっていたのが真相なのでした。
次回はいよいよヴィシア編もいよいよ終盤に。サディア編とは違いあっという間に終了した鏡面海域攻略作戦ですがガスコーニュの事も含めて話し合う事に。果たして姉としてガスコーニュを愛しつつ陣営代表としての責務を全うするジャン・バールの選択は?
コメント、感想、質問、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄