俺にとって新聞という存在は娯楽と実益をかねた情報源だ。指揮官となる前から情報は黄金よりも貴重なものだと理解し、指揮官としてまだまだ未熟な俺が少しでも有利になる為には情報を徹底的に集める必要があると信じていた。
勿論それは国外滞在中であっても変わらず夕食を終えた後ヴィシアの宿舎にてランプの明かりを頼りに新聞を読んでいた。
『ヴィシア鉄血連合軍鏡面海域攻略に成功!!』
そんな一面記事には俺とジャン・バールさんの握手の瞬間が写っており、記事を読み進めていると鏡面海域を攻略した事によりセイレーンの出現数はこの一週間でかなり減って航路のルートも安定化しただとか、『救国の艦隊』の紹介についてなどが詳しく述べられている。流石に俺の幼少期を神童扱いするのは少し盛り過ぎじゃないか?と記事を眺めるが、プロパガンダとは本来そんなもんだと苦笑しつつ納得する。
我ながら自分が新聞の一面に。それも国外であるヴィシアの新聞に載るようになった事に未だに実感が湧いてこない。もし数ヶ月前の自分にこんな未来が待ち受けているぞと手紙を書いても絶対に信じないだろう。
サディア帝国は対ロイヤル戦に勝利し、マルタ島を奪還した事を内外に示す為に大規模なパーティを行っていたがヴィシア聖座は作戦参加メンバーによるちょっとした飲み会が行われた程度だ。ガスコーニュが実は全く酒に酔わない酒豪だと判明したり、アルジェリーさんが泥酔して脱ぎかけたなど、いくつかのハプニングはあったが宴会は楽しく、慎ましく終了した。
なおジャン・バールさんは戦友と飲むと言って宴会には参加しなかったが翌日の彼女の様子はどこか覇気に満ち溢れており、何かの覚悟を決めた様子だった。
もうしばらく新聞読み進めていると、今回の作戦が成功した事による影響がいくつか予測されており、俺はそれを一つ一つ確認していく。例えばスエズとジブラルタル、欧州とアジアを結ぶ航路はこれで再開できるがレッドアクシズにマルタ島を占領されているお陰でロイヤルは事実上自国を繋ぐ航路を利用できない。
条約的には利用出来ても国防上の安全は保証出来ずに大回りするしか無いと述べられており、ならどうやってロイヤルは戦争継続の資源を得ているのかと言えば大回りにアフリカ大陸を横断するか、中立国経由でレッドアクシズの資源を得ている疑惑があり社説ではレッドアクシズは協力して中立国にロイヤルへの資源取引を控えさせるように圧力をかけるべし……なんて読み進めているとコンコンとドアをノックする音が部屋に響く。
「邪魔をするぞ」
「……どうも」
ガスコーニュがいつものように色々と鉄血について聞きに来たのかな?と思いながらドアを開けば、まさかの陣営代表ジャン・バールさんの登場に思わず笑みが凍りつく。ポーカーフェイスで誤魔化そうとするが、同時にジャン・バールさんがわざわざ俺の部屋に来るという事は余程の事があったのだろうと予想する。
「安心しろ。今日はお前にどうこうするつもりはない。尤もガスコーニュ関連で何かやましい事があるのなら話は別だがな……」
「いえ、そういうわけではありませんよ。それじゃあ……入ってください。飲み物はコーヒーでいいですか?」
「ああ、それで構わない」
とりあえず部屋の中に招き入れて椅子に腰掛けてもらう。ぶっきらぼうで威圧感すら漂わせているジャン・バールさんに内心震えたくなるが、手早くコーヒーを用意しながら会話を切り出す。
「それで今日はどんなご用件でしょうか?ジャン・バールさんが訪ねてくるだなんて珍しいですね」
「わざわざ好き好んでクソ忙しい中、お前との雑談目当てで来た訳じゃ無い。今日はヴィシアの陣営代表として『救国の艦隊』の代表のお前に用がある」
その言葉に嘘はないようでコーヒーを手渡しながら俺は背筋を引き締める。軍務に影響する上に俺個人と密談したいとなれば真面目な話なのは間違いない。しかし、一体何の話なのか全く見当がつかず、緊張した表情を浮かべてしまう。
「実は今回の作戦で『救国の艦隊』が活躍した事で代表であるお前に正式に勲章を授与する事が決定した。ほら、受け取れ」
そう言って押し付けるように彼女は俺に勲章を手渡す。金箔をあしらった五稜星形の形をした勲章にはレジオンドヌール勲章と小さく彫られており、俺は目を丸くした。
レジオンドヌール勲章、別名名誉軍団国家勲章。英雄ナポレオン・ボナパルトが活躍した時代から伝わる由緒正しいまさにアイリス軍人としての最高の誉といっても過言ではない勲章を鉄血出身の俺に授与しようとしているのだから。
「本来は叙勲式やら何やらが必要だが、こんな面倒な時期にする暇はない。だから現物だけ受け取っておけ。それさえあれば年金は毎年ヴィシアから支給され、身に付けてさえいれば、そこら辺のレストランで多少サービスの質も向上するだろう」
ジャン・バールさんは何ともないような顔をするが、勲章を確認すれば四等階級と下から二番目の階級である事が伺えた。そう、アイリス最高の栄誉たる勲章の下から二番目なのだ。
俺の知る限り鉄血軍人としてこの勲章を得ている人物は五等階級のシュヴァリエばかりであり、外国人である俺が四等階級……シュヴァリエのさらに上であり、授与数も十倍以上少ないオフィシエのレジオンドヌール勲章を授かるという事にどれだけの価値が有るのか理解し、冷や汗を流す。
「不服そうだな?」
ふんっ!と鼻を鳴らすジャン・バールさんに慌てて首を振る。不服どころかこの勲章の価値を理解しているからこそ、オフィシエの勲章なんて栄誉を頂いてもいいのだろうか?と口を開こうとすれば不機嫌そうに彼女は口を開く。
「大方、皆あの海戦で必死で戦ったというのに自分だけが勲章を貰うだなんて……とでも思っているんだろう?だがお前は鉄血派遣艦隊の代表であり栄誉を受ける権利……いや義務がある」
「義務、ですか」
「そうだ。ナポレオンも言っていたが、勲章は人を動かす力がある。身につけていれば箔がつき、この小さな玩具一つを身につければ他の奴らは……少なくともヴィシアの連中はお前だけでなく、それを身につけたお前が率いた鉄血艦隊全てを尊敬して認めるようになる。この勲章はお前の功績ではなく作戦に参加した鉄血艦隊全ての功績と栄誉を讃えるためのものだ。黙って身に付けろ、そして胸を張れ。これはお前だけの勲章じゃない、鉄血艦隊全員の勲章なんだ」
「……はい」
ジャン・バールさんの言葉に俺は素直に返事を返すグローセさんは俺は何もしなくとも『救国の艦隊』を率いている俺に全ての功績が集中すると冗談で述べていたが、その事に俺は内心反発していた。
自分の未熟さは自分が一番理解している。だからこそ本当の意味で功績に恥じない軍人となる為に作戦に参加して必死になって戦ったのだが……グローセさんの言いたい事はそう意味では無かったのだ。
結果的に最早俺のネームバリューはレッドアクシズ全てに伝わっており、例え何があっても確かに功績は全て集中する。だがそれは鉄血艦隊全てを代表してのものであり、恐らく彼女は俺に驕るな。そして、個人ではなく代表としての栄誉と名声の意味を理解しろと遠回しに言っていたのだろう。
勲章はただの飾りではない、これを他国の軍人に渡すという事は国同士の繋がりや信頼の証であり、それを授与するということは他国への敬意と賞賛を示す。
確かに俺は鉄血艦隊を率いる指揮官で勲章は俺個人の物ではないかもしれないが、それでも俺は今この時、鉄血の代表として勲章を授与された事に胸を張って受け取る。それが鏡面海域攻略作戦に参加した皆の栄誉に繋がるのだから。
「それに……お前はロイヤルとの和平交渉の際にビスマルクの護衛をすると聞いたからな。箔の一つや二つは必要だろう。恐らく鉄血に帰った後ビスマルクから勲章が贈られる可能性があるが覚悟しておけ。断るなよ、お前に箔がなければガスコーニュを……オブザーバーとして任せられないからな」
一瞬だけ目を瞑るジャン・バールさんに思わず笑みを浮かべる。成る程、彼女の言う通り、ビスマルクさんから勲章を授与される可能性もあるのか……いきなりだと驚いて辞退してしまったかも知れないがこれで心の準備は出来たと感謝していると彼女はコーヒーを口に含みつつ呟く。
「……本来であればオブザーバーとしてガスコーニュを三か月後に鉄血に向かわせる予定だった。だが状況は変わった。おい鉄血の、ガスコーニュを鉄血にそのまま連れていけ」
ジャン・バールさんの言葉に一瞬驚いてしまうが、その表情はかなり嫌そうなものだ。顔を顰めて俺を睨みつけ、なぜ自分がこんな事をつたなければならないんだと抗議の視線を向けている。同時にその表情には苦々しさも隠しきれずコーヒーを乱暴に飲み干す。
「……お前達の負担にはなるかもしれんが…上の方から、どうせお前達が戻るのなら後から派遣するよりは先にガスコーニュをお前達に同行させて欲しい、との事だ」
「ロイヤルとの交渉直前にガスコーニュは鉄血にくると思ってましたが……良いのでしょうか?」
「オレに聞くな……!あのクソ老人共め……阿呆だとは思っていたがここまで耄碌しているとは思わなかった……!」
ギシリと歯軋りをした後吐き捨てるように舌打ちをしながら呪詛の言葉を投げつけるジャン・バールさん。彼女は姉であるリシュリュー枢機卿が国外に亡命した為現在ヴィシアでは姉の地位を実質受け継いで教皇の次に巨大な権力を。実質的に教皇は政治介入を行わない為に司法、立法、行政、軍事のトップとなりこの国を導いている女傑だ。
更に旧枢機卿派の粛正もかねた権力の集中も行っており、その気になれば独裁者としてこの国を好きに牛耳る事も可能だろう。しかし、実際には権力を集中していたとしてもそれには限界がある。
海軍の実働部隊の指揮権を掌握した所で総司令部や兵站部門の気を損ねるような事は出来ず、彼女の権力の後ろ盾になっている人々や民意で選ばれた政治家などの意向を逆らう事は難しいらしい。
彼女は俺を嫌っており、ガスコーニュが俺に恋をしているのも苦く感じているはずだ。そんな彼女を派遣する事で鉄血や世界に外交的なメッセージを与える事へのメリットを理解していても、本人からすれば上層部から妹を鉄血に差し出せと言われたようなもので不快に思っても仕方ないだろう。一時的とはいえ大嫌いな男である俺に最愛の妹を差し出すようなものなのだから。
「……こうなった以上俺に拒否権はない。ガスコーニュが鉄血に数ヶ月滞在する事は最早決定事項だ。妹を泣かせたら殺す、手を出しても殺す、傷つけても同じだ。覚悟しておけ」
同じく妹を持つものとしてシンパシーを感じたのか、ジャン・バールさんは俺に鋭い眼光を向ける。その言葉に俺は気を引き締める。
ガスコーニュを悲しませるつもりはないが、万一彼女を泣かせてしまった時は姉である彼女に殺されても文句は言えないだろう。ガスコーニュを愛する姉としてもし俺が彼女を蔑ろにすれば全ての立場を放り捨ててでも俺を殺すと断言できる程のガスコーニュへの愛情を持っているのだ。
「……まぁ、何にせよお前はこれから忙しくなるぞ。まずはガスコーニュに今回の一件を伝えてこい。ビスマルクへの連絡はオレがしてやる」
「分かりました。それじゃあ……」
「ガスコーニュを、頼む。業腹だがアイツはお前の事が……好き、だからな。こうなった以上お前に頼むしか無い……お前の負担にはなるかもしれんが、ガスコーニュのやつと継続的にやり取りをしてほしい、というのは可能か?」
姉としてガスコーニュを心配しての言葉だろう。俺にガスコーニュを任せると言う事はつまり、情緒を獲得したばかりでまだ幼い彼女の精神の安定、そして成長の為に彼女を孤独にするなという事だろう。
俺の事を嫌ってはいるが、ガスコーニュが鉄血で孤立したり、和平交渉まで一人で寂しく過ごすという事がないようにと。言葉の厳しさの裏にガスコーニュへの愛情が節々から伝わってきており、彼女のガスコーニュへの姉妹愛が垣間見える。
「……任せて下さい。必ずガスコーニュは幸せにしてみせます」
「……ちっ……おいやめろ。プロポーズのような事は口にするな。あくまでお前とガスコーニュの関係を認めた訳ではなく、オブザーバーとして参加するガスコーニュのホスト役としてお前を指名しただけだ。誤解はするなよ……オレはお前を陣営代表としてではなく、ガスコーニュの想い人としては微塵も認めていない事を忘れるな、わかったな?」
暗い窓の外を見ながらコーヒーカップを手に取り、顔を背けるジャン・バールさん。その表情はどこか複雑そうだった。
陣営代表としての妹の利用価値と、姉として大好きな妹を俺に任せたくないという嫉妬じみた感情の葛藤。複雑な立場ながらもこれだけは言えるだろう、彼女の根底は妹への愛だ。それこそ他国の人間を必要ならば殴ってしまわない程の深い愛情を感じ、思わず口を開いてしまう。
「ガスコーニュの事を、愛しているんですね」
「当然だ。妹を愛さない姉が何処にいる?オレ達や民を見捨てたどこぞの愚姉と違い、オレは妹を愛している。ガスコーニュはオレの誇りだ。アイツはオレの全てだ」
俺の言葉に一瞬だけジャン・バールさんは驚いたような表情を浮かべるが、すぐに不敵な笑みを顔に浮かべる。まるで自分の弱さを嘲笑うかのような自嘲が篭った笑みだ。
「だからこそお前に言っておく。ガスコーニュから惚れられている以上、ちゃんとした答えを出せ。先延ばしにしてヴェネトやグラーフ・シュペーと4角関係を続けるのであれば……生半可な覚悟で妹に手を出すのであれば全てを投げ打ってでも、ガスコーニュの姉としてお前を殺す」
「わかりました、その時は黙って受け入れます」
「……妹とお前がどんな選択をしても、覚悟さえあればオレは何も言わない。ガスコーニュの想いを尊重しよう」
そう言いながらジャン・バールさんは立ち上がると頭を深々と下げる。
「もう一度言う。すまない、妹が迷惑をかけるが……どうか、ガスコーニュの事を支えてくれ。まだ幼いアイツを会談までセイレーンやロイヤルの連中から守ってくれ。頼む、この通りだ……!」
俺に頭を下げる事への葛藤や抵抗もあるというのに彼女はただ妹の幸せを祈り、そして俺に懇願するように言葉を紡ぐ。その姿はかつて妹をサディア人の恋人に頼むと口にした俺の姿と重なって見え、俺も彼女に頭を下げる。
「妹さんの命は鉄血軍人として、一人の男として絶対に守ります。だから、安心して下さい」
「……あぁ。ガスコーニュを頼むぞ……それとアイツは……少し寂しがり屋だからな。毎日アイツとよく話してやってくれ。じゃあな……」
そう言いながら立ち上がると話は終わりだと言わんばかりに扉に向かって立ち去ろうとするが……
「ジャンお姉ちゃん……!」
次の瞬間ドアが勢いよく開かれる。美しい青髪に琥珀色の瞳をもつ美少女は感極まった様子でジャン・バールさんに抱きついた。
「……いつから聞いていたんだ?」
ガスコーニュは感極まって涙を流していたが、そんな彼女の頭を撫でながらジャン・バールさんは呟く。涙で服が濡れていくがそんな事は全く気にせず、どこか柔和な表情を浮かべるジャン・バールさんは優しい声でガスコーニュに語りかける。
その声音からは先ほどまでの刺々しい雰囲気は一切感じられず、ガスコーニュへの愛情が感じられる。それは姉妹愛というよりも母性に近い物を感じさせ、彼女が言葉に出さなくとも妹をどう思っているのかを察する事ができた。
「ごめん、なさい……主(メートル)とお話ししよう思ってたらジャンお姉ちゃんが部屋に入っていくのを見て……」
「ちっ……最初からか……言っておくがガスコーニュ。オレは上からの決定をコイツに伝えただけだ、特に何もしちゃいないぞ」
「それでも…ありがとう、お姉ちゃん」
ぎゅっと抱きしめるガスコーニュに嘆息しつつジャン・バールさんは少し小柄な妹の背中をトントンと優しく叩く。姉妹でしか伝わらないであろう絆を感じる二人の姿を眺めつつ、俺は改めて思う。
この子を守りたいと。ジャン・バールさんや皆から愛されている精神が少しだけ幼い女の子を。俺の事を好きだと言ってくれたガスコーニュを再びジャン・バールさんの元に返さなければならないという使命を胸に刻みつける。そう、鉄血軍人としてではなく、一人の男として。
「大丈夫だよ、ガスコーニュ」
「えっ?」
「必ず君を守るよ。君の家族も、友人も、全て俺が守る。俺の全てを賭けて、約束する」
「うん……!」
全幅の信頼をよせて笑みを見せるガスコーニュに思わずドキリと心臓が高鳴ってしまう。この子は俺が守らなければならない、いや守りたい。心の底から湧き上がる衝動に突き動かされるようにガスコーニュの小さな身体を抱き寄せ……ようとすると、腹に強烈な衝撃を受けて後ろに倒れ込む。
「がはぁ!?」
「……次にオレの目の前で妹に指一本触れてみろ。あのピュリファイアーへの仕打ち以上の地獄を神に誓って見せてやる。妹を泣かせたら殺すという言葉だけは決して忘れるなよクソ野郎……!」
腹部に走る激痛に悶絶しながら起き上がろうとすると、ガスコーニュが泣きそうな表情でこちらを見つめるが、大丈夫だと伝えるように手を振る。そしてそのまま立ち去るジャン・バールさんの後ろ姿を見送りながら俺は思う。
今の一撃は間違いなく手加減されていた。しかし、もし仮にガスコーニュを泣かせるような事があれば本当に彼女は俺を殺すだろう。それほどまでに彼女の妹に対する想いは強い理由は、もしかすると自身が姉の枢機卿に裏切られた過去のトラウマを妹には味合わせたくないという願いがあるのかもしれない。
「はぁ……俺もまだまだだな……」
そんな事を考えながら立ち上がって服についた埃を払うと、ガスコーニュが心配そうに駆け寄ってくる。その表情は先ほどの感極まった様子とは異なり、不安そうに瞳が揺れていた。
「主(メートル)、怪我はない?ごめんなさい、私のせいで……」
「気にしないでくれ。それよりさっきの話だけど、何か困ったことがあったら遠慮なく俺を頼って欲しい。まだ、君の想いに答えを出せていないこんなダメな男だけどな……必ず、答えを君に伝えるから」
そう言うとガスコーニュは小さく微笑む。それは普段の彼女らしい無邪気で明るい笑顔だったが、どこか大人びており、年相応の少女とは思えない色香を放っていた。そしてガスコーニュはそっと俺の手を握る。その小さな手の温もりは何故か過去に妹の手を握った時の記憶を呼び覚ます。
「……それじゃ…その、向こうでも暫くよろしくお願いします、主(メートル)。あとジャンお姉ちゃんを嫌いにならないでね?本当は優しいお姉ちゃんなんだから……」
「あぁ、わかってる。それと俺も一つ頼み事があるんだ」
「なに?」
「……多分、君のお姉ちゃんは、ちょっとだけ寂しがり屋だから鉄血に滞在してる時でもさ、定期的に手紙を書いてあげてくれないかな?鉄血で過ごした日々だとか、オブザーバーに命じられた時の正直な気持ちとかね」
「……はい!」
何処までも不器用な人で、中々素直になる事も出来ないが……妹を深く愛しているあの人も、ガスコーニュからの手紙を受け取れば少しは喜んでくれると思うから。
願わくばこの戦争が終わった後、ガスコーニュとジャン・バールさんが……そして難しいかもしれないがリシュリュー枢機卿の三人でゆっくりと雑談が出来る未来を勝ち取る為に、俺はこの戦争を終わらせたいと強く願うのであった。
こうして、数日後。ヴィシアでの日々は終わりを迎える。シュペーとガスコーニュという二人の女の子に告白され、多くの出会いと喜びに、ちょっとだけ血の気が物理的に飛び交った一ヶ月の日々はあっという間に過ぎ去り、護教騎士団の皆に見送られて出港する船の中、ヒッパーは静かに口を開く。
「どうだった訳?ヴィシアは」
そんなの、答えは一つだ。
「最高だよ。本当に最高の国だった」
そう答えるとヒッパーは満足げに笑い、ガスコーニュも嬉しそうにシュペーとハイタッチを交わし、グラーフも壁に寄りかかりながら静かに皆を見守っている。
今、この平和な時間がずっと続けばいいのに。そう思いつつ、俺達は長いようで短いヴィシアへの任務を終わらせて、帰路につくのであった。
三国同盟──史実通りの締結──
ヴィシア聖座と鉄血公国はそれまで様々な問題を抱えており、レッドアクシズにお互い席を置きながらも両国の関係はセイレーン研究に積極的な鉄血とロイヤルへの復讐を望むヴィシアの方針の違いなどもあって冷ややかなものであった。しかし、イオニア海海戦を発端とした一連の騒動により、両国とサディア帝国は急速に接近を始め、1941年2月に実施された鏡面海域攻略作戦ではヴィシア・鉄血連合軍が肩を並べて背中を任せ合い、共闘する姿が見られ、その攻略作戦にはかの有名なヴィシアの『怪物』だけではなく『救国の艦隊』も参加する事で人類種の敵を撃破することに成功したのだ。
そして、ヤルタ会談が控える中でアズールレーンへの牽制の為にレッドアクシズの関係強化の為に正式な同盟を結ぼうと鉄血公国の陣営代表たるビスマルクは両国に提案する。果たして世界に新たな秩序を生み出す提案に我らは参加するべきなのだろうか?
①協定に調印する
資金-50
国民不満度-3.0
鉄血公国との関係+100
サディア帝国との関係+100
ヴィシア聖座との関係+100
ロイヤル王国との関係-100
研究修正+4.0%
生産効率+8.0%
サディア帝国・ヴィシア聖座が「鉄血式生体艤装」「鉄血式セイレーン基礎研究」の設計図を入手。
政策方針が2ポイント介入主義に傾く
鉄血公国、サディア帝国、ヴィシア聖座との間に「軍事同盟」「技術協定」「貿易協定」が締結される。
イベント「マルタ島への共同投資」が発動する。
イベント「セイレーン技術──ユニオンの反応──」が発動する。
イベント「ヤルタ会談前夜」が発動する。
②時期尚早ではないのか?
国民不満度+3.0
鉄血公国との関係-20
サディア帝国との関係-20
ヴィシア聖座との関係-20
ロイヤル王国との関係+20
イベント「ヤルタ会談前夜」が発動する。
情報部より報告
内容
鉄血の動向
同国政府の連絡によると
「三国同盟──史実通りの締結──」
において
「協定に調印する」
を選択したとの事です。
鉄血公国の反応
「大変結構!!」
ヴィシア聖座の反応
「不埒な異端者に裁きを!」
サディア帝国の反応
「メリットしかないのであれば受け入れるしかあるまいて」
ロイヤル王国の反応
「有象無象の群れでは獅子には勝てんよ」
その他国家の反応
「これは全てを変えるだろう」
鉄血艦隊が帰路に着く中、ジャン・バールの寝室には一人の青年と部屋の主が度数の高いラム酒を片手に静かに酒を飲んでいた。それは何処までも静寂で、まるで世界の終わりを告げられたかのような感覚を抱かせる程に静かな時間であった。
「お前、鉄血の指揮官に嘘を付いたな?」
青年は普段の冷酷なまでの表情を少し緩ませ、アルコールで赤く染めながらジャン・バールに尋ねる。そんな彼に対して彼女は何を……と口にする前にラム酒を瓶ごと煽りながら青年は追求する。
「ガスコーニュの事だ。上層部を焚きつけて本来ロイヤルの連中と奴らが話し合う直前に派遣されるはずだったガスコーニュを『救国の艦隊』の連中に押し付けた黒幕はお前なんだろ?」
ジャン・バールは相棒からの追求に否定の言葉を口にしようとするが一瞬で辞めて無言で同じように酒を喉に流し込む。ラム酒の香りが鼻から抜け、喉が焼けるような熱さを感じる。ゆっくりと息を吐き出すと、観念したように口を開く。
「それがどうした?」
「……いいのか?鉄血の指揮官に懐いてるとはいえ感情を会得したばかりのガスコーニュを派遣すれば鉄血の思想に染まる可能性も、ガスコーニュが帰りたくないと言い出す可能性だって存在するはずだろうに」
「良いも悪いも関係ない」
指揮官は目の前の女がガスコーニュを愛している事を理解しており、世間一般的な表現をするのであればシスコンと呼んでも過言ではない性格だと知っていた。なんせガスコーニュが誕生してからと言うもの、定期通信ではガスコーニュのプライベートの様子を頼みもしてないと言うのに、心なしか嬉しそうに話す姿を何度も見ているだ。
だからこそ、そんなジャン・バールが下手をすれば二度とガスコーニュがこの国に帰ってこない可能性のある選択肢を取った事に少しだけ驚きを隠せなかった。しかし、ジャン・バールはアルコールの勢いに任せ、吐き捨てるように口を開く。
「アイツの人生はアイツが決めるべきだ。仮にアイツが鉄血に嫁ぎたいなら……覚悟を決めるしかあるまい。会談が始まるまであと三ヶ月がある。それまでガスコーニュがアイツへの想いが変わらなければ……そしてガスコーニュをヴァイスクレー・ヘルブストが本当に愛するのであれば……オレは……」
ラム酒を飲み干し、机の上に空になった瓶を置くとジャン・バールは立ち上がって窓の外を見つめる。その瞳がどこか哀愁が漂っており、普段の彼女の姿からは想像も出来ない姿だった。
そんな相棒の姿に青年は何も言わずに黙ってグラスを傾けると、部屋の中に再び静寂が訪れる。否定も肯定もせず、ただ家族を案じて家族に選択を委ねようとするジャン・バールの姿を見て指揮官はボソリと呟く。
「家族を大切にな」
ジャン・バールは何も言わず新たなラム酒の瓶の蓋を開け、自分のグラスに注ぐ。そして指揮官のグラスにも注ぐとそのまま互いが眠りに着くまで月明かりが照らす部屋にはラム酒の匂いが充満するのであった。
・レジオンドヌール勲章
実在するナポレオンが活躍した1802に制定されたフランスに於ける最高の栄誉とも言われる最高位の勲章。一般的には軍人に授与されるがスポーツ選手や政治家や芸術家などフランスに尽くした人間に授与されており外国人に授与される事も少なくはない。
グランクロワ、(大十字、1等)
グラントフィシエ(大将校、2等)
コマンドゥール(司令官、3等)
オフィシエ(将校、4等)
シュヴァリエ(騎士、5等)
となっており最下級のシュヴァリエでさえ多くの国民から尊敬を得られる事は確実であり、身につけていればパリの一等地で最高のサービスを受けられるとも言われている。本作で鉄血指揮官が授与されたのは4等級であるオフィシエだが、それはシュヴァリエの数十倍以上授与される事も難しい為に、外国人への勲章としては以下に破格であるか理解した指揮官は思わずビビってしまう事に(有名どころではかの有名な映画監督黒澤明もオフィシエの勲章を授与されていた)
その目的は講和会議に参加する為に指揮官の箔をつける為であるとジャン・バールからは語られているが、裏ではガスコーニュが仮に彼と婚約した場合に於いてもスムーズに物事を進める為でもあった。なお今作ではWW1に於けるセイレーン大戦以降、初の外国人授与者として鉄血の指揮官はヴィシアの歴史に名が刻まれる事が何気に確定してしまうのだった。
・裏話
原作ダイスにおいてもこの辺りの流れはヴィシア滞在最後の夜として描かれており。
dice1d10=9 (9)
1~8.ガスコーニュ?どうしたんだ
9~10.…あれ、ジャン・バールさん?
本来はガスコーニュの可能性が高い中低確率でジャン・バールが覚悟を決めて指揮官の元による顔を合わせ。
dice1d10=6 (6)
1~3.…お前の負担にはなるかもしれんが、ガスコーニュのやつと継続的にやり取りをしてほしい、というのは可能か?
4~6.…いっそのこと、今から同行させたらどうだと上から言われてな
7~9.+……アイツを泣かせたら殺す、これは陣営代表としてじゃなくて姉としてだ
本来、ロイヤルとの会談まで別れる事になっていたガスコーニュが鉄血に使者として向かう事が確定し。
dice1d10=10 (10)
1~3.…まあ、受けるしかないだろう…
4~6.因みにこの件についてガスコーニュは?
7~9.大事にエスコートさせていただきます
10.*おおっと*
*おおっと*
dice1d3=1 (1)
1.ガスコーニュ様が見てた
2.…下手にガスコーニュになんかあったらこっちのせいになるから拒否できない?
3.向こうにいる間にガスコーニュに手を出したら…すぞ…
ガスコーニュが指揮官とジャン・バールの会話を聞いていた事から姉妹はお互いに絆を深めつつ、指揮官はジャン・バールから妹を託されつつも手を出せば殺すと威圧される事になるのでした。
次回はヴィシア編ラストとなるお話であり、そしてビスマルクの過去話に。何故ビスマルクがここまで自身を犠牲にするのか?そしてビスマルクが過去に起こしたとある指揮官を傷つける事に繋がった、消せない罪についてが明らかに。ガスコーニュが鉄血に同行して賑やかになる鉄血艦隊の裏でいよいよヤルタ会談、そしてロイヤルとの交渉までのタイムリミットが迫ります。
コメント、感想、評価をお待ちしております。
指揮官の後世の評価はどうなる?
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戦争を終わらせた立役者
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サディアを救った救国の英雄
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ロイヤル最大の敵
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女の子に手を出しまくりの色を好む英雄