鉄血の旗の元に《完結》   作:kiakia

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 今回のお話の前半部分はいつもとは違い、別のダイス作品の鉄血編のお話がモデル(つまりこのお話も某所におけるダイスによって作られました)となっており、またその作品をまとめ上げ、某所で掲載されていた二次創作『アズールレーン外伝 Red Axis : Fafner in the Iron-Blood』様の影響を受けつつ、再構成された三次創作となっております。ご了承下さいませ。


番外編二十話 この身に流れるは鉄の血なり

 

 

 

 

         みず      おもい 

     ――血は海水よりも濃く、 絆 は鉄より堅い――

 

 

 

 

 

 

 暗く閉じ切った窓からは夕焼けの茜色の光すら差し込む事はなく、暖炉の火が僅かに揺れると微かな鳥の鳴き声、そして卑猥な水音が部屋中に木霊していた。

 

 むせかえるような男女の匂い、そしてベッドの上で絡み合う二つの影。メガネをかけ、豊満な肉体を惜しげもなく曝け出した知的な雰囲気と妖艶な気配を漂わせる美女は、愛する夫から与えられる快楽に身を震わせていた。

 

 

 その愛する夫はと言えば見た目は小学生といっても通じるであろう少年であり、美女を抱きしめながら少年が腰を振る度に美女は艶めかしい声を上げ続ける。

 

 快楽に溺れるのはまさにこの事だろう。主導権は少年が全てを握っているようであり、その実ただ美女……鉄血のkansenグナイゼナウが彼の欲望を全て受け入れているというだけに過ぎない。少年がキスを求めれば舌を差し出し、少年が甘えたいと口にすれば乳を揉ませてやり、彼が果てたいといえば迎え入れる。

 

 

「グナイ…はぁ…グナイ…!!」

 

 

 

 少年は何かに縋るかのように美女の名を呼び続け、彼女の胸を鷲掴みにする。豊満な乳房は彼の手に収まりきらず指の間からは柔らかな肉が溢れ出すほどだ。だがその表情は恐怖や怯えに罪悪感などを全てミキサーで混ぜ合わせたような混沌とした物であり、そんな表情の少年を見て妻であるグナイゼナウは優しくその頭を胸に抱きしめ耳元で囁くのだ。

 

 

「大丈夫ですよ指揮官。私はここにいますから、絶対私達は貴方を一人ぼっちになんてさせません」

 

 

 そう呟いて乳房を少年の口元に近づけると彼は赤ん坊のようにそれに吸い付き母性を求めるように乳房を貪り始める。その姿はまるで子が親を犯しながら母性を求めるかのような背徳感を見るものに与えるが、こうして愛する妻達の肉体に溺れ、甘えている時だけが少年は過去の心の傷を癒す事ができるのだ。乳に甘えつつ卑猥な水音が何度も、何度も鳴り響く。

 

 

「んっ……ふぅ……」

 

 

 グナイゼナウはその刺激を受けて体をビクビクと痙攣させるも、決して嫌そうな顔ではなく、むしろもっとして欲しい。普段とは違い彼を独占したいという感情を露わにし、少年が望むがままグナイゼナウは彼と共に溺れ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です指揮官……どうぞ」

 

「ありがとうグナイ」

 

 やがて行為を終えた二人はリビングにて白黒テレビを眺めながら彼女が入れたミルクティーを飲む。泥水を飲み続けたトラウマから今も鉄血出身者としては珍しくコーヒーが苦手な指揮官はグナイゼナウが入れてくれたミルクティーをー口に含むとホッとしたのか穏やかな笑みを浮かべた。

 

 ソファーに座り身を寄せ合う二人の姿は仲睦まじい夫婦そのものであるが、身につけているものは互いに下着だけであり、グナイゼナウの黒色のブラジャーに包まれた乳房が今にもこぼれ落ちそうだ。彼女はそんな指揮官の頭を優しく撫でると指揮官もまた彼女の乳房に身を委ねつつ、テレビの放送内容を確認する。

 

 そこには現在キール基地にて式典が行われている様子が生放送されており、恐らく植民地の防衛任務に従事している面々を除いたほぼ全ての鉄血軍人が将校やkansenを問わず、そこに集まっているのではないかと思われるほどの人数が集まっていた。

 

 軍楽隊の勇壮な音楽をBGMに画面を確認すれば、その式典の警備のあまりの厳重さに指揮官はなんとも言えない表情になる。鉄血が誇る実力者たるkansen達に厳しい訓練を突破した普段は貴族や公王関係者を護衛している近衛兵達が惜しげもなく総動員されたこの会場はまさに鉄壁の防衛網が構築されており、例えセイレーンの大艦隊が攻めてきたとしても耐えられるのではないかと思わせるほどだ。

 

 

「レーベにティーレ、シャルン達もあそこにいるんだよね……」

 

 

 指揮官は寂しそうに呟く。彼は3年程前にグナイゼナウだけでなく、その姉であるシャルン・ホルストや駆逐艦Z1とZ2も含めた四人にプロポーズを行い一つの『家族』としての日々を過ごしている。しかし、指揮官は鉄血軍人であれば誰もが参加するであろう式典に参加する事はなく、こうして妻の一人であるグナイゼナウと共に快楽に溺れながら自宅で過ごしている。

 

 それが敬愛するビスマルクなりの優しさである事は指揮官も理解しているが、それでもトラウマを乗り越える事が出来ずに妻達やビスマルクに迷惑をかけてしまったという事実が彼の心を蝕んでいく。しかし、そんな暗い表情を浮かべてグナイゼナウの胸に顔を埋めていた指揮官に対し、彼女は聖母のような優しい笑顔と共に無言で彼の唇を奪った。

 

 突然の事に驚き目を見開く指揮官であったが、グナイゼナウは彼の頭を抱きかかえたままその口内へと舌を差し込み、唾液を流し込む。それはまるで母乳を与えるかのような愛情深いものであり、彼女の体温と鼓動を感じ取った指揮官は思わず瞳に涙を溜める。

 

 

「グナイ…うぅ…」

 

 

「泣かないで下さい指揮官……甘えたい時は幾らでも甘えさせてあげますから、ね?」

 

 

 

 情けなかった。ただひたすらに自分が情けなく感じ、そして同時に彼女の愛の深さに感謝していた。一度は精神が壊れて廃人と化した彼を妻達はその度にこうして優しく抱きしめて甘えさせてくれる。その温もりに指揮官は救われ、そして感謝の念を抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官は過去にビスマルクが善意で行った式典にて、自身を捨てた母親と遭遇してしまい、精神の均衡が崩れて心が完全に壊れかけた事がある。

 

 

 指揮官としての責務は勿論、食事どころか排泄すらまともに行えず、言葉を発する事もできないほどに衰弱した彼をレーベ達は甲斐甲斐しく世話を焼きながら彼の為に尽くしてくれたのだ。

 

 

『俺、改造したいんだ。資源が不足してるのは分かるけど、そうすれば少しは艦隊も楽になるはずだろ?それに指揮官が帰ってきた時に少しでも楽ができれば良いだろ?だからほら、サインしてくれよ!』

 

 

 Z1レーベレ・ヒトマースは陰努力を重ねて、改造実験や共同訓練に参加する事で兵装の強化を行い、指揮官がいつ帰ってきても大丈夫だ!と言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 

 

『指揮官は私達姉妹の指揮官に相応しい人物よ、その眼帯もきっと似合うはずだ……ふふっこれで二人お揃いの眼帯か。悪くないわね』

 

 

 スペアの安物の眼帯を身につけていた指揮官にシャルンホルストは自身とお揃いの眼帯を差し出しつつ、姉妹以外の誰にも見せた事のない片目の凄惨な傷を見せつけ、決してコンプレックスである傷は恥では無いと教えた。

 

 

『えぇ、指揮官は何か趣味を見つけるべきです。という事で色々と貴方に興味が湧きそうなものを集めてきました。時間は幾らでもあります、ひとまずは癒されるためにペットでも飼ってみては?』

 

 

 Z2ゲオルク・ティーレはボードゲームやボトルシップにパズルや音楽などを進めて余りにも仕事一筋だった指揮官に趣味を与えようと寄り添ってくれた。その結果指揮官は彼女の妹であるZ23のお下がりである哲学書に興味が湧き、黄色いカナリアをペットに飼い始めたのであった。

 

 彼女達は一度は心が壊れた指揮官に無条件の愛情と親愛を向けてくれ、彼もまた彼女達の愛情に応えたいと思えた。だが、それでも指揮官の脳裏には恐怖のトラウマが刻み込まれてしまった。親に捨てられ、親を見捨てた自分はいつかまた誰かに見放されてしまうのではないか?彼女達は善意で支えてくれているというのに、そんな恩知らずな事を考えてしまう自分自身が酷く醜く思えて仕方がなかった。

 

 

 怖かったのだ、少年アードラー・プロイセンは。家族を失い、家族に捨てられ、結果論ではあるが家族を目の前で見捨てる形になってしまった自分は誰かの優しさに触れる度に罪悪感と自己嫌悪に襲われ、彼女達が歩み寄ってくれているというのに、決して一歩下がってしまうような距離を取ってしまった。

 

 ある日、そんな指揮官はグナイゼナウの部屋に招かれた。少しずつ精神は回復すれど自己嫌悪と罪悪感により不眠症となっていた指揮官は廊下で倒れてしまい、彼女が慌てて部屋に運び込む。しかし、彼女の部屋で午後の穏やかな陽光が差し込むなか目を覚ました指揮官は、水を差し出してくれたグナイゼナウに思わずこう告げてしまった。

 

 

「ありがとう、お母さ……ん……っ!?」

 

 

 

 それは記憶の扉の鍵を開いた瞬間。かつて風邪をひいた時、母親もこうして水を差し出して頭を撫で、父親や兄弟達も心配そうに顔を出して手を握ってくれていた。

 

 一つ思い出すたびに芋づる式に最早戻ることの事のない幸せだった『家族』との時間を思い出してしまい、彼は水の入ったコップを握りしめたまま涙を流し始める。

 

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさ……」

 

 

 

 謝罪の言葉を口にしながら震えながら懺悔をするかのように泣き続ける指揮官に、グナイゼナウは優しく抱きしめた。深い後悔と悲しみが過去の記憶と共に溢れ出てしまい、慟哭と嗚咽を繰り返す指揮官の背中を彼女は優しく擦りながら彼が泣き止むまで背中を撫で続けた。

 

 指揮官は孤独になる事により自身の心を守ろうとしていた。厳しい模範的な鉄血軍人として振る舞い、職務以外の全てをかなぐり捨ててビスマルクに盲信する理由の一つは、ある意味では自己防衛の為の手段の一つと言えるだろう。

 

 

 

「なんで……なんで皆…私に……僕に優しくしてくれるんだよ…!」

 

 

 

 声を震わせながら涙を流す指揮官は叫ぶ。それは鉄血軍人アードラー・プロイセンとしてではなく、全てを失い孤独への道を歩もうとしていた少年だけがグナイゼナウの目の前に存在していた。

 

 

 

「僕は……何もしてないのに……母さんを捨てた男なのに……どうして優しくしてくれるんだ……誰も僕の事なんか知らないはずなのに、何でこんなに優しくしてくれるんだ……やめてよ……もう期待も…失うのも…全部怖いんだ……!お願いだから一人にしてよぉ!!」

 

 

 叫び散らし、子供の様に……いや、11歳の少年はまるで迷子になった幼子の様になって泣きじゃくる。決壊したダムの水のように止めどなく溢れる感情の奔流を抑えきれず、少年の瞳からは大粒の雫が零れ落ちていく。

 

 この国は罪のない少年を痛めつけた。そんな彼にいまさら手を差し伸べて我々を盲信しろなんて都合のいいことは言えない。いや、言わずとも自ら思い込んで歯車のひとつとして喜んで働き喜んで死ぬだろう。

 

 寧ろ少年はそれを望んでおり、同時に心の奥底では孤独を選ぶ事により、もう二度と家族を失うというトラウマを味わいたくないと逃げようと、そして軍人として死のうとしていた事にグナイゼナウは気がついてしまう。

 

 

「家族を失うという気持ちを簡単にわかるとは言えませんが、私も怖いです。姉さんや鉄血の仲間を失ったらと考えると……自分が自分でなくなってしまいそうです」

 

 泣きじゃくる少年を抱きしめながら、グナイゼナウは言葉を選びつつ、ゆっくりと彼の心に語りかける様に口を開く。

 

 

「ですが指揮官、家族を失った悲しみを癒せるのも、家族だけです」

 

 しかし、グナイゼナウは。いや、シャルンホルストも。Z1も、Z2も指揮官が鉄血の歯車として心を失い、死んでいく事が嫌だったのだ。それは優しさともエゴと言えるかもしれない。この願いは彼女達のわがままだ、しかし皆はこう望んでいたのだ。

 

 

 

 ──彼にわがままになってほしいと。

 

 

 私と、私たちと一緒に生き、私たちと一緒に悲しんで、私たちと一緒に笑ってほしい。そのかわり、絶対に一人にはさせないから。家族を失い、心が壊れ、そして孤独を望みつつも一人ぼっちに怯える哀しい存在に寄り添う為に、彼女達は歩み寄る。

 

 

「指揮官、私は貴方の事を何も知りません。でも、きっとこれから知っていく事はできると思います。ですから指揮官、どうか一人で抱え込まないでください。辛い時は泣いてもいいんです、苦しいなら吐き出しても良いんです。逃げたいと思う時はいつでも逃げ出して下さい……その為に、私は、私達は貴方を支えます」

 

 

「何を……言って……」

 

「私達と、家族になりませんか?」

 

 

 

 それが、グナイゼナウの口から発せられた言葉。

 

 

 濡れた眼帯越しに、涙でぐしゃぐしゃに歪んだ視界の中で少年は目の前の女性を見つめる。ふざけるなと怒る事も、自分にはそんな資格が無いと拒絶する事も出来た。しかし、二人の間に流れたものは沈黙であり、彼は躊躇いがちにグナイゼナウの背中に腕を回す。

 

 それは、彼女の提案を受け入れた事を意味していた。

少年は涙を拭いながら嗚咽混じりにぎゅっと抱きしめる。それは彼が初めて見せた、本当の弱さだったのかもしれない。

 

 

「こういうことを言うのは卑怯かもしれませんが、指揮官が一人で苦しんでいるのを見るのは私たちも辛いのです……だったらともに分かち合う方がいい、私はそう思います。そしてみんなもそう思ってます。ですから、あとは指揮官が認めてくだされば……」

 

 

 指揮官は涙をぬぐい、グナイゼナウの目を見て頷いた。言葉は出なかったが、全て伝わった。

 

 

「……そう、ですか。ありがとうございます」

 

 

 ふう、と安堵の息を漏らすグナイゼナウ。そして違いますね、これからもよろしくお願いしますと微笑んだ。

指揮官の双眸から再び涙が流れ出した。それははじめて意識した、喜びの涙だった。

 

 

 穏やかな午後、全てを失った鉄血の孤児はようやく、心の奥底から渇望していた『家族』を受け入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白黒テレビのブラウン管に映っている青年、レッドアクシズの『英雄』ヴァイスクレー・ヘルブストが鉄血の陣営代表であるビスマルクから胸元に勲章を授与される様子を、グナイゼナウと指揮官は再びソファーで座りながら眺めていた。

 

 

 正確にはグナイゼナウは下着姿のままテレビを見ており、指揮官も同じ格好でテレビを眺めているのだが、彼女の膝枕に頭を置き、同時に片方だけ露出させた彼女の乳房を時折弄りつつ母性を求めながらグナイゼナウと触れ合い、グナイゼナウの柔らかさと温もりを感じつつ少年はテレビに視線を向ける。

 

 

「驚きですね……勲章が授与されると聞いてましたが、まさか騎士十字章だなんて……」

 

 

 グナイゼナウは柔肌に触れる指揮官を好きにさせつつ少しだけ驚いた表情で画面を見ながら呟く。打ち合わせをしていなかったのか『英雄』はその勲章を見た瞬間、一瞬目を大きく見開き、それでも即座に平静を装った後で静かに礼をする。万雷の拍手が鳴り響き、鉄血海軍の象徴たるビスマルクも笑顔で彼の手を握りしめる。

 

 この鉄血公国にて軍人が叙勲される勲章にはいくつか種類が存在するが、その中でも代表的な勲章が鉄十字章だ。装飾を最小限に抑えたシンプルな鉄十字の意匠はまさに質実剛健を表しており、豪奢な装飾を施している他国の勲章との違いは一目瞭然だろう。

 

 

 

 鉄十字章の階級はこのように区分けされており。

 

 1、大鉄十字章

 

 2、騎士十字章

 

 3、一級十字章

 

 4、二級十字章

 

 

 

 今回ヴァイスクレー・ヘルブストが授与された騎士十字章はその中でも特に格式の高いものであり、本来であれば鉄血公国の重鎮しか授与されない代物だ。

 

 大鉄十字章は事実上、公王陛下や宰相閣下に元帥といった政治的な立場を要求される勲章である事から、事実上軍人としての最高位の勲章は騎士十字章となっており、それをアズールレーンとの戦争が始まって以来初、しかも最年少で授与された彼は間違いなく快挙と言えるだろう。

 

 『史実』であっても大戦争によって約30万人が授与された一級十字章とは違い、この騎士十字章が授与されたのはトップエースや高級士官、それも陸軍や空軍が中心であり海軍の授与者は戦艦ロイヤルオークを沈めてみせた潜水艦U-47の艦長など極小数だ。

 

 更にまともな陸戦が起きず、セイレーンとの戦いによって戦争の体系がガラリと変わって戦乙女たるkansen達が戦場を支配するこの世界では尚更騎士十字章の扱いは高まっており、どれ程までに『英雄』がレッドアクシズと祖国に貢献してきたかがよくわかるだろう。

 

 

 そう、この放送を見ている国内外の人々は誰もがヘルブスト指揮官を『英雄』として認めざる得ないのだ。彼に感謝の気持ちを持つサディア帝国であっても、彼に憎悪の感情を抱くロイヤル王国であっても彼の功績を以下に鉄血公国が、そして胸元に同時に輝くレジオンドヌール勲章によってヴィシア聖座が高く評価しているかを知らしめる事が出来たのだから。

 

「わざわざ二級と一級を同時に授与した挙句、最後に騎士十字を渡すだなんてビスマルクもよくやります。これで会場のボルテージも最高潮でしょうね」

 

「……」

 

「ティルピッツでも一級ですし本当に……指揮官?どうしました?」

 

「……ううん」

 

 

 ヴァイスクレー・ヘルブストが勲章を授与されてから数分が経過した頃だろうか、グナイゼナウの言葉に反応せず、ただ黙ってテレビを眺めるだけの少年は『英雄』を眺めながらボソりと呟いた。

 

 

「多分、あの人はこれからどんどん出世してビスマルク様を支えていくんだろうなって……同時に沢山表彰されて、部下のkansen達にもその恩恵がね……ごめん、グナイ」

 

 

 少年はグナイゼナウに謝罪する。彼は既に二級十字章をあの授与式にてビスマルクから手渡されているが、その後に起きた事故によって廃人状態となってしまった。

 

 故にビスマルクはトラウマを負ってしまった指揮官を気にして今回の授与式から遠ざけたのだが、それはある意味ではお前にはもう勲章は授与しない。授与式なども行わないと示す優しさと残酷さの現れでもあった。

 

 いわばプロイセン指揮官は遊撃艦隊のトップという地位と『家族』である妻達と絶対に離れる事はないという保証を得た代わりに、二度と『英雄』として表彰される事もなく、出世コースからも外れた存在となってしまったのだ。

 

 それは恩人であるビスマルクに尽くす為に海軍の門を叩いた指揮官にとってはあまりにも酷な現実だった。地位や名誉に彼は興味はないが、地位と名誉の重要性を少年は理解している。地位と名誉さえあればビスマルクを更に支える事も出来、何よりも愛する妻達により豊かな生活を約束させる事もできたのだ。

 

 給料を貯めて借りた4人で住むこの借家ではなく、もっと広い屋敷に住む事やクリスマスプレゼントに手作りの歪なアクセサリーではなく、豪華なダイヤモンドの指輪を送る事もできた。しかし、最早出世を望めない彼は妻達に今以上の生活を与える事が出来ないと嘆息する。

 

 彼は、あの時精神が壊れる事が無ければ、優れた指揮能力を誇るアードラー・プロイセンという指揮官は『英雄』となり得た未来もあっただろう。騎士十字章は無理としても一級十字章を授与され、プロパガンダ放送にも顔を出し、パレードで国民に笑顔を振りまく事もあったかもしれない。

 

 

「……大丈夫ですよ、指揮官。私達は皆、貴方の妻です。どんな形でも側に居てくれればそれで良いんです。だからそんな悲しそうな顔をしないで下さい」

 

「グナイ……」

 

 

 グナイゼナウは彼が今も過去のトラウマとその罪悪感に苦しむ事を察すると、優しく微笑んでその手を握りしめる。この小さな手は自分達の全てを背負おうとしてちるのだと感じると、愛する夫への愛おしさがどこまでも溢れ出してしまう。

 

 指揮官は廃人から回復し、少年らしい心を少しずつ取り戻しつつあるが、それでも過去を思い出せば未だに情緒不安定になってしまう。突発的にあのトラウマを思い出して過呼吸寸前に陥る事も少なくはなく、自身のせいで自分と同じく出世コースから外れてしまった妻達に罪悪感の表情を浮かべてしまう。

 

 心の傷は癒える事はない。妻に幼児退行しながら甘える夜を過ごす理由も母性に飢えているだけではなく、あの悪夢がフラッシュバックして眠れない日もあるからだ。

 

 しかし、そんな彼をグナイゼナウ達はいつも抱きしめてくれた。時には頭を撫で、時には何も言わずにずっと傍に寄り添ってくれる。ごめんと言いながら謝罪して怯えながら泣く時は、ただ黙って背中をさすり続けてくれ、寂しさ故に甘えたいと口にすれば快楽を貪るように身体を重ねてくれる。

 

 肌を重ね、温もりを感じ、柔らかな乳房に包まれて甘えていると恐怖が消え去り、穏やかな気持ちになれる。まるで赤子のように眠る事が出来るのだ。

 

 そう、まるで過去の心の傷から逃げるように妻達と身体を重ねる事で安心を得ているのだ。

 

 

「指揮官……いいんですよ。今は辛いかもしれませんが……いつか、きっと乗り越えられますから」

 

「うん……ありがとう」

 

 

 グナイゼナウの言葉に指揮官は感謝する。もし、彼女が今日式典の護衛に参加してしまい、彼が一人で部屋で過ごす事になっていれば、恐らくまたあの夢を見てうなされていたに違いない。

 

 

 そして、ビスマルクにも感謝する必要があるだろう。わざわざ家族の一人を式典の際に残しておいた方がいいと提案したのは他ならぬビスマルクなのだから。

 

 

 ビスマルクはあの事故以来、軍内のメンタルケアを徹底的に行うようになった。彼やビスマルクが知らない事であるが、もし仮に別の『枝』のロイヤルの様にメンタルケアを疎かにしていれば、兵士の暴走や自身の存在意義について悩み、その結果多くの戦友を危険に晒す結果になったかもしれない。

 

 

 1940年代というPTSDについての知識も認識も多くの人々にない時代に、これ程までに心理的外傷についての配慮を示した軍隊は鉄血公国以外に存在しないだろう。その結果ローンやオーディンといった特別計画艦達は一度もメンタル面では止む事はなく、快適に祖国で過ごす事ができるのであった。

 

 

 画面内で今も演説を行うビスマルクは正に指揮官にとっては恩人である以上に、信仰にも似た感情を抱く対象だった。最初は命を救ってくれたから、そして孤独に生きる幼い心を守る為の新たなる道標の為の尊敬であったが、今ではどこまでも自分達鉄血軍人の事を愛し、信じてくれているビスマルクに絶対的な信頼を預けていた。

 

 

(ビスマルク様……僕は戦います。こんなにも大切な家族達と出会える機会を与えてくれたあなたの為に、そして本当の意味であなたが心から笑えて個人の幸せを得られる未来を作る為に)

 

 

 

 孤独だった少年は何度も傷ついた。

 

 

 精神を病み、眼球を失い、祖国の歯車となる事で恩人の期待に応えようと努力した。

 

 

 その結果彼の心には大きな傷が残ってしまい、その凄惨な過去が指揮官に深い影を落としていた。しかし、そんな指揮官を支え、癒してくれる妻達が居た。彼はもう二度と彼女達に心配をかけまいと必死で立ち直ろうとしていた。

 

 

(僕も……そろそろ、前に進まないと……)

 

 

 逃げる事は決して罪ではないとグナイゼナウ達は言ってくれた。辛いときは胸に甘えてもいいと彼女達はただ抱きしめてくれた。振り返らずに前を向いて歩けば良いと励ましてくれた。

 

 

 だからこそ指揮官は前を向く。何度も『逃げて』、何度でも『溺れて』それでも愛する『家族』が支えてくれる。だから指揮官は立ち上がれるのだ。

 

 

 

「グナイゼナウ……」

 

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 

「愛してるよ」

 

 

 ソファーに押し倒す様に抱きしめながらの会する夫の言葉に、一瞬だけきょとんと呆けた表情を浮かべるもすぐに微笑んでグナイゼナウは答える。

 

 

「私もですよ、あなた」

 

 

 夫婦の会話は短く、それでいて深く互いの想いを伝えるには十分過ぎる言葉であった。

 

 

 

 こうして指揮官は今日も肉欲に溺れていく、小鳥の囀りと白黒テレビから漏れる光に照らされながら、愛する妻と肌を重ねて快楽に身を委ねるのであった。

 

 

 

 少年はもう、一人ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビスマルクさんが用意した厳重な警備の元、大したトラブルもなく、どうにか式典を終わらせた俺はほっと一息を吐く……余裕もなかった。何せどちらかと言えば国外向けのプロパガンダである叙勲式の後は、国内向けである立食会に参加しつつ記者や貴族、親子以上に年も離れた高級士官の人々に次々と話しかけられてその対応に追われる羽目になったのだ。

 

 『英雄』としての仮面を被りつつ、にこやかな笑顔で握手に応じ、取材に応じて、時にはジョークを交えながらの談笑を行い、時にはダンスを踊り……とまぁ、とにかく忙しかった。サディア帝国での祝勝会の経験が無ければ間違いなく醜態を晒していだろう、ヴェネトさん達には改めて今度再会した時に感謝しなければ。リットリオのアホについては別だが。

 

 それ故に『英雄』としての仮面にヒビが入り、精神的にもそろそろ限界を迎えつつある事に気がついた俺は何処かで警備の仕事をしているはずのシュペー達と再会する為に、出来る限り目立たない様に彼女達を探そうと広い会場を練り歩いていたのだが運の悪い事に彼女達は海上警備の担当になったと何度か顔を合わせた事もあるZ2ゲオルク・ティーレさんに指摘されてしまう。

 

(ビスマルクさんにはいつ抜け出してもいいとは言われてたけど、主役がさっさと帰るなんて許されるはずないよな……はぁ……)

 

 

 内心ため息をつきつつも、指揮官としての仕事を全うするしかないかと諦めかけた時、俺の視界に見覚えのある姿が入る。その瞬間モノクルを付けた小柄な女性がこっちをガン見している事すら忘れて、俺は反射的にその人物に向かって駆け出していた。

 

「ちょ、ちょっとすいません!」

 

 周りに退いてくれと声をかけ、同時に人混みに数回敢えて身を委ねる事で記者達の視線から身を隠した後、内心では冷や汗を流しながらも、なんとか目の前の人物に話し掛ける。

 

 俺の声に反応して振り向いた人物はやはりというか、なんというか……俺のよく知る人物であり、俺の表情を見るなり驚いた様な表情を浮かべていた。

 

 亜麻色の長い髪と、黒い瞳を持つ小柄な少女はドレス姿でこちらを振り返る。彼女と会うのはもう半年ぶりくらいだろうか?次に再会する日はいつになるだろうか?と心配していたが、どうやらそれは無駄だったらしい。

 

 

「お前……」

 

「久しぶり……って訳でもないかな?」

 

 

 

 

 

 ──ヴァイス兄さん。

 

 

 

 

 2年ほど前に愛する人とサディア帝国に移り住んでいたはずの俺の妹が……ツィトローネの登場に思わず目を丸くして絶句する中、妹はクスクスと笑いながら悪戯っ娘の様に微笑むのであった。

 

 





 鉄十字章

 史実のドイツ軍に用いられた勲章。主に4つの区分けがされており帝政が崩壊したドイツ第三帝国においても形を少し変えたが存続した。


1、大鉄十字章
2、騎士十字章
3、一級十字章
4、二級十字章

 第一次世界大戦にてアドルフ・ヒトラーは司令部の伝令部門として活躍した事により一級十字章を獲得しておりそれを生涯身につけていたそうな。騎士十字章の授与者は史実では歴史的にも少なく設立から第二次世界大戦を合計しても『英雄』である7000人程であり、更にkansenの出現によって戦争が大きく変わったこの世界では騎士十字章の価値も更に高まると予想されている。

 今作ではプロイセン指揮官は二級十字章を、ティルピッツは一級十字章、そしてビスマルクとヘルブスト指揮官は事実上の最高位である騎士十字章を授与されており、指揮官はある意味ではビスマルクと同格(実際にはビスマルクは騎士十字章の更なる上である剣柏葉を国内の改革の成功の結果宰相より授与されているが)勲章を最年少で授与され、レジオンドヌール勲章と共に身につける事になるのであった。


・アードラー・プロイセン

 一度は精神が完全に壊れてしまった少年指揮官は今もトラウマを乗り越えられてはいませんが、大切な家族である四人に囲まれて生きる意味と戦う理由が出来ました。やたらと胸に吸い付くなど夜は妻達に甘える描写がそれまでありましたが、それにも少なからず理由があるのでした。

 ちなみに今作で登場する指揮官の中で北方連合指揮官と中アイリスの指揮官も妻である女性に甘えた経験があるのですが、北方連合指揮官は軍人家系な上にソユーズに英雄になれと言われて精神的な重圧のせい。自由アイリス指揮官はルピニャートが求めた理由もありますが、メルセルケビール海戦の結果本格的にヴィシア聖座との交戦により、最早後戻りができない事への不安をかき消す様にルピニャートを求めるなど、本作でのSEXは快楽に溺れるだけでなく、甘える事によって一種の精神的な逃避という側面があるという裏設定も。

 それでも三人の指揮官は愛する妻達の為に、時に不安を妻の女体で溺れる事でかき消しつつ、戦い続けるでしょう。はたして皆に童貞と断言されているヘルブスト指揮官がそんな彼らに並ぶのはいつの事やら。

・メンタルケア

 最新イベントにてロイヤルの特別計画艦であるモナークが冷遇されている現状や仲間達への想いが故に、焦った結果単独行動をとってしまい、ネプチューンもロイヤルの特別計画艦は余り出撃されずに引き篭もっていると描写されていましたが、それは陛下が重鎮ばかりにかまけて特別計画艦である彼女達を冷遇し、モナークが暴走に至る程にメンタルケアを疎かにしていたというよりも。

 軍人のメンタル面でのケアは第二次世界大戦どころかベトナム戦争の後に帰還兵の社会復帰なども兼ねてPTSDの理解などが深まっていったという史実の流れもあり、1940年代と思われるあの世界ではヴェスタルや明石といった医療に従事する面々を除けばその理解も乏しいと思われますし、時代背景的には仕方なかったと言えるでしょう。

 今作ではCWの描写などからローン達も含めた特別計画的艦のメンタル面でのケアは鉄血公国は先進的とも言える心の治療を積極的に行っているという設定となっていますが、それはあの『事故』が原因となる事に。結果的に他の指揮官やローンやグローセといった特別計画艦の『心』をビスマルクは救う事になるのでした。


・ツィトローネ
 久々に登場したサディア帝国に嫁いだ指揮官の妹。前回までのヤルタ会談が歴史に影響を与えるお話であるのなら、指揮官の妹の登場はこれまでの指揮官と艦隊メンバーの関係に焦点を当てたお話に。ちなみに指揮官の妹の登場もダイスで決まっており。

指揮官の勲章

dice1d10=8 (8)
1~3. 二級鉄十字勲章
4~6.1~3+後日一級前提で、らしい
7~9.騎士章もついてきたわ←確定
10.柏葉付き……!?

指揮官は動揺せずに授与式を乗り越えられるか?
dice1d10=1 (1)
1~6.できらぁ!←確定
7~9.とはいえやはりそういうのは慣れてないので少し硬くなってる…
10.トラブル発生!?

そして立食会での出来事

dice1d10=10 (10)
1~3.あなたが表に出るのも少なかったからか記者達がこぞって来ている…
4~6.…まあ、そういう身なりのいい方々にも声かけられたりしますよね
7~9.あなたはトラブルを避けている…
10/*おおっと*←ファンブル


*おおっと*
dice1d10=7 (7)
1~3.何故か、寒気がした
4~6.モノクルを付けた女性があなたを見ている事に気がついた
7~9.ん、んん?あの姿って…?←知人と出会う
10.*おおっと*

その知人とは?

dice1d4=2 (2)
1.家族
2.妹←サディア以来となる妹
3.リットリオ
4.総旗艦殿


 と妹との出会いは実はファンブルによるものでした。果たして妹の登場によって『英雄』はどう彼女に向き合っていくのか?そして指揮官の妹を見た艦隊メンバーの反応とは?


 コメント、感想、評価をお待ちしております……

指揮官の後世の評価はどうなる?

  • 戦争を終わらせた立役者
  • サディアを救った救国の英雄
  • ロイヤル最大の敵
  • 女の子に手を出しまくりの色を好む英雄
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